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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1024005
異議申立番号 異議1999-74522  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-04-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-01 
確定日 2000-07-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2900928号「発光ダイオード」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2900928号の特許を維持する。 
理由 (1)手続きの経緯
本件特許第2900928号に係る出願は、平成3年11月25日に出願された特願平3年336011号の一部を特許法第44条第1項の規定により、平成9年10月20日に特許出願されたものであって、平成11年3月19日にその設定登録がなされ、その後、ルナライト株式会社、アジレント・テクノロジー株式会社、シャープ株式会社及び西島一より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年5月9日に訂正請求がなされたものである。

(2)訂正請求の適否についての判断
i)訂正請求の内容
訂正請求の内容は、特許請求の範囲の請求項1、
「メタル上の発光素子(11)と、この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて、前記記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出すと共に、前記発光素子は、サファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え、この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており、一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることを特徴とする発光ダイオード。」
を、
「メタル上の発光素子(11)と、この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて、前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くすると共に、前記発光素子は、サファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え、この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており、一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることを特徴とする発光ダイオード。」
と訂正するものである。

ii)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正は、請求項1に係る発明を、「発光ダイオードの視感度を良くする」と限定し、さらに、明らかな誤記を訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正に該当し、新規事項の追加や、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものには該当しない。

iii)独立特許要件の検討
(引用例)
取消理由通知に引用した、本件出願前公知である実願昭48-135849号(実開昭50-79379号)のマイクロフィルム(以下、引用例という。)には、
「半導体発光素子と該半導体発光素子を離間して覆う透明覆蓋体とを具え、該透明覆蓋体の前記半導体発光素子に対向する側の表面に蛍光材料層を有することを特徴とする半導体発光装置。」(実用新案登録請求の範囲)、
「本考案は蛍光材料を用いて可視光発光を得る半導体発光装置に関するものである。・・・例えば比較的安価な材料である砒化ガリウムを用いた発光ダイオードの発光波長は赤外線領域にあるため、高い発光効率を示すにもかかわらず、そのままでは表示素子として用いることはできない。そのため、係る赤外線発光ダイオードの表面に可視光変換蛍光材料を塗布した半導体発光装置が製作されている。」(明細書第1頁第9行〜第20行)、
「第1図においてTO-5型の金属ステム1にはガラス2によってリード3が固着されている。このステム1には半導体発光素子4が導電的に接着されており、一方、半導体発光素子の他方の電極とり一ド3の1つとがリード線5により電気的に接続されている。」(明細書第3頁第14行〜第19行)、
「このステム1には本考案による透明覆蓋体6が固着される。この透明覆蓋体6の内面には半導体発光素子4からの輻射線を可視光に変換する蛍光材料を分散させた結合剤が塗布されて、蛍光材料層7が設けられている。透明覆蓋体6はガラス或はエボキシ樹脂等の材料で構成されるものであり、気密封止用のキャップの役割を兼ねてステム1に固着されるのが好ましい。」(明細書第3頁第19行〜第4頁第6行)、
「係る本考案の半導体発光装置は、半導体発光素子4から輻射された赤外線或は紫外線が蛍光材料層7にて可視光に変換されて、ランダムな方向に輻射されるため大面積で均一な強度の発光が可能であり、しかも使用する蛍光材料は比較的少量でよいため安価である。本考案の他の実施例の半導体発光装置を第2図に示す。この実施例はモールド型の半導体発光装置に本考案を適用したときの例である。」(明細書第4頁第7行〜第15行)、
「本考案の半導体発光装置は上記実施例に示される構造及び材料に限定されることなく、例えばGaN等を用いた近紫外線発光素子を用い、蛍光材料として通常の紫外線-可視光変換蛍光材料を使用することもできることは言うまでもない。」(明細書第6頁第8行〜第12行)と記載されている。

(対比)
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、訂正発明という。)と、引用例に記載された発明(以下、引用発明という。)とを対比すると、両者は、
「メタル上の発光素子と、この発光素子全体を包囲する樹脂モールドと、発光素子からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された層を有する発光ダイオードにおいて、前記蛍光染料又は蛍光顔料は、発光素子からの光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出すと共に、前記発光素子は、窒化ガリウム系化合物半導体を備えている発光ダイオード。」
である点で一致しており、
ア)訂正発明では、樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料が添加されているのに対し、引用発明では、モールドとは別に蛍光材料層がある点、
イ)蛍光染料又は蛍光顔料が、訂正発明では、可視光により励起されて、発光ダイオードの視感度を良くするのに対し、引用発明では近紫外線により励起され、視感度については何ら記載がない点、
ウ)窒化ガリウム系化合物半導体が、訂正発明では、サファイア基板上にn型およびp型に積層されてなるのに対し、引用発明では、積層構造に関する記載はない点、
エ)発光素子が、訂正発明では、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており、一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であるのに対し、引用発明ではこのような構成を有していない点、
オ)発光素子が、訂正発明では、「青色の可視光を発光する」のに対し、引用発明では、近紫外線を発光するとは記載されているが、可視光を発光するとは記載されていない点、
で相違している。

(当審の判断)
上記相違点について検討する。

a)相違点イ及び相違点オについて
訂正発明では、青色の可視光を発光する発光ダイオードの視感度を良くすることを目的とし、蛍光染料又は蛍光顔料が、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出すものであるのに対し、引用発明では、赤外線又は近紫外線等の非可視光を可視光に変換する蛍光材料を使用するものであり、可視光の視感度を良くする、という技術的課題は記載されていない。
また、他に、発光素子からの青色の可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出す蛍光染料又は蛍光顔料を用いて、発光ダイオードの視感度を良くすることが公知であることを示す証拠はないから、引用発明に基づいて、上記相違点イ及びオに関する構成要件を想到することが、当業者にとって容易とはいえない。

b)相違点エについて
一般の発光ダイオードにおいて、電極を金線によりワイヤボンドして接続することは周知の技術といえる。
しかしながら、金の分光反射率が、青色の可視光においてきわめて低く、青色可視光を吸収することを考慮すれば、訂正発明の如く青色の可視光を発光する発光ダイオードにおいて、単に、周知技術を適用して、その電極を金線によりワイヤボンドして接続することが、容易に想到し得ることということはできない。
訂正発明においては、発光素子全体を包囲する樹脂モールド中に、青色可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出す染料又は蛍光顔料を添加するという、青色可視光の吸収を防止する手段を講じることにより、電極を金線によりワイヤボンドして接続することが可能になったものと認められる。
よって、相違点エに係る構成要件は、訂正発明の他の構成要件(相違点ア、相違点イ及び相違点オに係る構成要件)と関連した構成要件であり、これらとの関連において、電極を金線によりワイヤボンドして接続することが公知であるとの証拠はないから、引用発明に基づいて、相違点ア、相違点イ、相違点オ及び相違点エに関する構成要件を想到することが、当業者にとって容易とはいえない。

よって、訂正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(結論)
したがって、訂正明細書の請求項1に係る発明は、独立特許要件を満足するものである。

iv)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

(3)特許異議申立について
(本件発明)
本件特許第2900928号の請求項1に係る発明は、訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。

(特許異議申立人の主張の概要)
特許異議申立人ルナライト株式会社は、甲第1号証として特開昭57-1275号公報、甲第2号証として実公昭54-41660号公報、甲第3号証として実願昭48-135849号(実開昭50-79379号)のマイクロフィルム、甲第4号証として特開昭62-189770号公報及び甲第5号証として「エレクトロニクス」1991年3月号を提示して、本件発明は甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件明細書には、本件発明を実施する上での必須事項が開示されていないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない旨、主張している。
同じく特許異議申立人アジレント・テクノロジー株式会社は、甲第1号証として実公昭54-41660号公報、甲第2号証として「応用物理」第60巻第2号第163〜166頁(1991年)、甲第3号証として特開平1-260707号公報、甲第4号証として実願昭48-135849号(実開昭50-79379号)のマイクロフィルム、甲第5号証として「蛍光体ハンドブック」第1版第233〜240頁(昭和62年)、甲第6号証として特開昭61-56474号公報、甲第7号証として実願昭54-13734号(実開昭55-115069号)のマイクロフィルム、甲第8号証として実願昭57-139910号(実開昭59-44059号)のマイクロフィルム、甲第9号証として「半導体ハンドブック」(第2版)第173〜176頁(昭和52年)及び甲第10号証として「金属学ハンドブック」第13版第142〜143頁(昭和45年)を提示して、本件発明は甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨、主張している。
同じく特許異議申立人シャープ株式会社は、甲第1号証として実願平1-84443号(実開平3-24692号)のマイクロフィルム、参考資料1として、《電子科学シリーズ》42「固体発光素子とその応用」中村哲郎・内丸清著1976年11月1日発行第4章固体発光素子、参考資料2として、「化合物半導体デバイスハンドブック」昭和61年9月20日発行514〜516頁、参考資料3として、「発光ダイオードとその応用」昭和63年4月14日発行66〜69頁LEDランプの製作プロセス、参考資料4として、「物理定数表」昭和44年10月10日発行第118頁5.5.2金属の光学定数5.5.2.1金属の屈折率、消衰係数、反射率、を提示して、本件発明は甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨、主張している。
同じく特許異議申立人西島一は、甲第1号証として特開昭49-134288号公報、甲第2号証として特開昭61-56474号公報、甲第3号証として「応用物理」第60巻第2号第163〜166頁(1991年)、甲第4号証として特開平1-179471号公報、甲第5号証として特開平3-152897号公報、甲第6号証として実願昭48-135849号(実開昭50-79379号)のマイクロフィルム、甲第7号証として実開昭54-41660号公報、甲第8号証として特開昭51-3884号公報、甲第9号証として特開昭54-97388号公報、甲第10号証として特開平5-152609号公報及び甲第11号証として本件出願経過における平成10年11月27日付の意見書を提示して、本件発明は甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件発明は甲第10号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、本件明細書には記載不備があり、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない旨、主張している。

(甲各号証の記載内容)
特許異議申立人ルナライト株式会社の提示した甲第1号証には、
「以下その一実施例を第4図を用いて説明するとステムのi側リード64の頂面の構造を凹型反射面とし、その一部n側リード24に面した部分が開いた形とし、また、このi側リード64の頂の凹みの底面と同一面に平坦なn側リード74の頂面があるように構成する。」(公報第2頁右上欄第4行〜第9行)、
「第4図に示す形で、銀をメッキしたステムを用い、GaN発光素子チップをボンディングして光の指向性のよい青色発光ダイオードランプを作ることができた。」(公報第2頁左下欄第2行〜第5行)と記載されている。
同じく甲第2号証には、
「トランジスタ、ヘッダなどのへッダ1にGaAsPN接合発光素子ペレット2をマウントし、端子ピン3、3と所定のリード接続を行う。樹脂モールド用の透明樹脂に赤外光を可視光に変換する蛍光体を適当量添加し、均一に混入した樹脂をへッダ1上に置いたペレット2に滴下し、レンズ状に硬化させ、図に示す如くペレット2全体を直接覆う樹脂層4を形成する。端子ピン3、3間に順方向電圧を印加し、電流を流すと、発光素子ペレット2から赤外光が放射される。この時放射された赤外光は樹脂層4内にに一様に分布する蛍光体に吸収され可視光に変換される。」(公報第2頁第3欄第17行〜第28行)、
「電流によって赤外光を放射する赤外発光素子ペレットをヘッドにマウントし、前記赤外発光素子ペレットを覆うように、赤外光を可視光に変換する蛍光体を均一に混入した樹脂モールド用の透明樹脂をヘッド上に滴下して形成した凸形樹脂レンズを設け、上記赤外発光素子ペレットから放射される赤外光を上記樹脂レンズ中の蛍光体に吸収せしめ、上記樹脂レンズを介して可視光を発生することを特徴とする発光半導体装置。」(実用新案登録請求の範囲)と記載され、図面に、一対の電極のうち、化合物半導体からなる発光素子2のヘッド1に対向する面の反対側に位置する面側にある電極が、ワイヤにより、端子ピン3にリード接続されていることが示されている。
同じく甲第3号証は、取消理由通知に引用した引用例であるから、上記(2)iii)(引用例)に示した発明が記載されている。
同じく甲第4号証には、
「本発明の接合型半導体発光素子に用いる発光材料としては、III-V族化合物であるGaAs、GaP、AIGaAs、InP、InGaAsP、InGaP、InAlP、GaAsP、GaN、 InAsP、InAsSb等、II-IV族化合物半導体であるZnSe、ZnS、ZnO、CdSe、CdTe等、IV-VI族化合物半導体であるPbTa、PbSnTa、PbSnSe等、更にIV-IV族化合物半導体であるSiC等があり、それぞれの材料の長所を活かして適用することが可能である。」(公報第4頁左下欄第5行〜第13行)、
「上記により明らかなように、本発明の接合型半導体発光素子は、平板部に対して垂直方向に延在するpn接合を有する柱状突起の頂上面に露出するpn接合を含む発光部の少なくとも一部分を覆う蛍光層を該頂上面に設けたことにより、発光部からの発光の波長を他の波長に変換することができ、たとえば発光を可視光に変換する蛍光体からなる蛍光層を設けた場合には発光を視覚化できるので、アレイ構造とすることにより精密なディスプレイ装置等を提供することができ、実用上極めて有用なものである。」(公報第4頁左下欄第15行〜右下欄第5行)と記載されている。
同じく甲第5号証には、
青色LEDに関し、第65頁の第3図(a)に、サファイア基板上にAlNのバッファ層を介してn型GaNを積層し、その上の一部に電子線照射処理したMgドープのp型GaNを積層し、その同一面側に一対の電極を接続し、その一方の電極はp型GaN上に、他方の電極は表面を露出させたn型GaNの部分に接続することが示されている。
また、特許異議申立人アジレント・テクノロジー株式会社の提示した甲第1号証は、特許異議申立人ルナライト株式会社の提示した甲第2号証であるから、上記の発明が記載されている。
同じく甲第2号証には、
「LEDの作製方法について示す。サファイヤ基板上にAlN緩衝層を堆積の後、n型GaNを約3μm育成していったん成長炉から取り出し、表面の一部にSiO2マスクを堆積する。GaNはSiO2上に堆積せず、露出したGaN表面にのみ選択的に成長するため、n層の電極はプロセス終了後、マスクであるSiO2をはく離することにより、ウエハー上部から容易に取ることができる。次に、ウエハーを成長炉に戻し、GaN:Mgを約0.5μm育成したのち、表面から電子線照射処理する。」(第165頁左欄第24行〜右欄第3行)、
「n層の電極は、Al、p層の電極は金(Au)によりオーム性接触を形成する。」(第165頁右欄第9行〜第10行)、
「電子線照射処理したpn接合型LEDは強い発光を示す。またpn接合型LEDからは、主に二つの発光ピークが観測される。一つはピークエネルギー約3.35eVの紫外発光(ただし、この発光は電流の増加とともに低エネルギー側へシフトする。)およびピークエネルギー約2.9eVの青色発光である。」(第165頁右欄第22行〜第27行)と記載されている。
同じく甲第3号証には、
「加色混合の三原色のうちの二色のそれぞれに発色する積層配置された二つのLEDと、加色混合の三原色の残る一色の染料を表面から浸透させた染料浸透性かつ高透光性の透明ガラス体の封止体と、から構成したことを特徴とする白色発光装置」(特許請求の範囲請求項3)と記載されており、第4図には、LED42a、42bがメタルステム上にマウントされていることが示されており、第5図には、LED41a、41bがステム上に直接マウントされていることが示されている。
同じく甲第4号証は、特許異議申立人ルナライト株式会社の提示した甲第3号証及び取消理由通知に引用した引用例であるから、上記(2)iii)(引用例)に示した発明が記載されている。
同じく甲第5号証には、
「(f)Y3Al5O12:Ce3+(YAG:Ce3+)
(1)発光特性 発光スペクトルを図3・2・66に示す。発光ピークは室温で約540nmにあるが、高温では長波長側へ移動する。この蛍光体は、254nmや365nmの紫外線ではほとんど励起されず、436nmの可視水銀ラインによって強く励起される。」(第237頁右欄第4行〜第10行)と記載されている。
同じく甲第6号証には、
「GaNは、青色発光素子の半導体材料として有望視されているが、大きな単結晶がなかなか実現できず、通常、電気的に絶縁性のサファイア基板上に気相法でエピタキシャル成長させたものが用いられる。」(公報第1頁右欄第4行〜第8行)、
「GaN結晶は化学的に安定性の高い物質で、薬品による化学的なエッチングが困難であるため、通常は、第1図示のように、n型GaN層2の側面にインジウム電極部6を設け、他方の電極部7との間を針状細線8により、金属ステム9に電気的に接続する方策が用いられる。」(公報第2頁左上欄第9行〜第15行)と記載されており、第3図には、GaN発光素子として、金属ステム9上のサファイア基板1の上に形成された窒化ガリウム半導体からなる発光素子の金属ステム9に対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極4及び11が設けられ、それぞれ金属細線5でワイヤボンドされ、一方の電極11は、n型窒化ガリウム半導体2の表面を露出させた部分に接続された電極であることが示されている。
同じく甲第7号証には、
「GaPを基板として上記したような混晶を形成させるには、第2図に示すようにN型GaP基板(11)上に気相成長法により、GaPから徐々にGaAsが多く含有されるようになってついにGaAs0.15P0.85となる層(12)を形成し、次いでGaAsとGaPとの割合のかわらないGaAs0.15P0.85層(13)を成長させる。次に徐々に含有割合が変化し、GaAsが増えてGaAs0.35P0.65にまでなる層(14)を形成し、次いでGaAsとGaPの割合のかわらないGaAs0.35P0.65層(15)を成長させる。」(明細書第3頁第6行〜第15行)、
「このように形成されたのち主面からたとえばエッチングによって一部を除去し(図の点線部分)、主面(16)、(17)から亜鉛を拡散させてP型GaAsP領域(18)と(19)とを互に連続しないように形成する。さらにN型オーミック電極(20)とP型オーミック電極(21)とを真空蒸着法と写真食刻法とによって形成する。」(明細書第3頁第20行〜第4頁第6行)と記載されている。
同じく甲第8号証には、
「段部(10)の表面にオーミック電極(11)を設けてある。(13)(14)は金線又はアルミニウム線等からなる金属細線で、金属細線(13)は第2の発光ダイオード(7)の表面のオーミック電極(12)と一方の端の基板(2)とを配線し、金属細線(14)は後部(10)のオーミック電極(11)と第1の発光ダイオード(1)のオーミック電極(5)と他方の端の基板(2)とを配線している。」(明細書第3頁第18行〜第4頁第5行)と記載されている。
同じく甲第9号証には、
「1・1・5 配線用金属材料 表4・1の電気伝導度からみると、金属単体で使用できるのは、Al、Au等で、その他の金属はAl、Auと組み合わせて用いられる。」(第175頁左欄第4行〜6行)と記載されている。
同じく甲第10号証には、
第143頁の8・11図に、金の光の吸収係数と波長の関係について、可視光領域において、波長が長くなるほど吸収が小さくなることが開示されている。
また、特許異議申立人シャープ株式会社の提示した甲第1号証には、
「ディスプレイ板にルミネッセンス層が設けられており、その背面に紫外線を出すLEDが配置されていることを特徴とするディスプレイ装置。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)、
「ルミネッセンス層2は、紫外線が照射されることによって蛍光あるいは燐光を発光する発光部となる。」(明細書第4頁第14行〜第16行)、
「紫外線を発光するLED4としては、放出された波長域が400nm以下のものを使用する。たとえば、周期律表III-IV族化合物であるGaNやZnSを半導体材料とするものを使用するとよい。」(明細書第5頁第6行〜第10行)と記載されており、
参考資料1には、「ボンディングには直径25〜30ミクロンのAu線の熱圧接が多く用いられます」(第87頁第17行〜第18行)と記載されており、第75頁図4.9「赤外→可視変換蛍光体を用いた発光ダイオードの構造例」に、電極をワイヤボンディングにより行うことが示されており、参考資料2には、第514頁の図-5「ランプ用発光ダイオードパッケージ」に、樹脂モールド中に配置された発光素子への電気的接続手段として、Au細線を用いることが示されており、参考資料3には、第67頁図4・1「LEDの製作プロセス」のボンディングの図に、Auワイヤを用いることが示されており、参考資料4には、第118頁5.5.2金属の光学定数5.5.2.1金属の屈折率、消衰係数、反射率の項に、金Auの反射率は、波長400nmで36.0%、波長420nmで36.2%、波長440nmで36.2%、波長460nmで35.8%、波長480nmで36.4%、波長500nmで41.5%、波長520nmで60.0%、波長540nmで71.0%、波長580nmで82.7%、波長620nmで88.9%、波長660nmで91.0%、波長700nmで93.0%であることが示されている。
また、特許異議申立人西島一の提示した甲第1号証には、
「実施例1 鏡面研磨したサファイア単結晶・・・これを基板1として・・・基板1上に最初に成長したGaN層2は、キャリア濃度1×1018cm-3のn型導電性を示し、引き続きその上に成長したGaN層3は、キャリア濃度7×1017cm-3のp型導電性を示すことがわかった。・・・第1図に示したように、このウェファーを超音波カッターで1×lmm2の大きさに切り出し、中央部に0.6mmφの金マスクをかけてメサエッチし、n層側にはSn合金4をつけ、p層側にはAu線5をボンディングして抵抗性電極とし、ステム6上に組立ててダイオードにした。・・・順方向に10〜30mA電流を流したときの発光スペクトルを第2図に示した。発光強度は電流密度に比例し、青色発光の外部量子効率は約3%であった。」(公報第2頁左下欄第6行〜右下欄第17行)と記載されている。
同じく甲第2号証及び甲第3号証は、特許異議申立人アジレント・テクノロジー株式会社の提示した甲第6号証及び甲第2号証であるから、上記の発明が記載されている。
同じく甲第4号証には、
「第1図に示すように、p-n接合を挟むp型部とn型部に銀ペーストの電極4をつけ、p型側を正n型側を負にして70ボルトの順バイアス電圧をかけると、p型からn型に2ミリアンペアの電流が流れた。・・・2ミリアンペアの電流を通電中に実体顕微鏡でp-n接合素子を観察したところ、p-n接合部に沿ってその近くのn型側に青白い発光が観察された。・・・数ミリアンペア流せば肉眼でも発光を検知し得られる。・・・2000オングストロームの紫外域から青色にかけても発光することが確認された。・・・実施例1のp-n接合部、またはn側表面に、銀ドープ硫化亜鉛、銅ドープ硫化亜鉛、ユーロピウムドープイットリウムオキシサルファイドの蛍光体をそれぞれ塗布し、p-n接合に順方向の電流を流したところ、それぞれ青色、緑色、赤色の発光が得られた。」(公報第2頁右下欄第2行〜第3頁右上欄第1行)と記載されている。
同じく甲第5号証には、
「有機エレクトロルミネッセンス材料部が青色発光をするものであり、蛍光材料部がその発光を吸収し青緑色から赤色までの可視光を発光するものである請求項1のエレクトロルミネッセンス素子。」(特許請求の範囲請求項3)と記載されている。
同じく甲第6号証は、特許異議申立人ルナライト株式会社の提示した甲第3号証、特許異議申立人アジレント・テクノロジー株式会社の提示した甲第4号証及び取消理由通知に引用した引用例であるから、上記(2)iii)(引用例)に示した発明が記載されている。
同じく甲第7号証は、特許異議申立人ルナライト株式会社の提示した甲第2号証及び特許異議申立人アジレント・テクノロジー株式会社の提示した甲第1号証であるから、上記の発明が記載されている。
同じく甲第8号証には、
第1図に、従来の発光ダイオードの概略斜視図として、半導体層の電極に接続するリード線として直径25μm程度の金線を使用することや、樹脂モールドで包囲することが示されている。
同じく甲第9号証には、
第2図に、GaAs赤外LEDの組立状態を示す縦断面図として、半導体層の電極に接続するリード線として直径25μm程度の金線を使用することや、樹脂モールドで包囲することが示されている。
同じく甲第10号証は、本件特許に係る出願の原出願の公開公報であるから、本件特許明細書と同内容の記載があり、
同じく甲第11号証は、本件出願経過における平成10年11月27日付の意見書であり、本件発明の特徴と引用例との差違が記載されている。

(A)特許法第29条第1項第3号について
特許異議申立人西島一は、本件出願は適法な分割出願ではないから、出願日の遡及は認められず、本件発明は、原出願の公開公報に記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである旨、主張している。
特許異議申立人西島一の主張する、本件出願が適法な分割出願ではない理由は以下の4点である。
(a)原出願の出願当初の明細書又は図面には、視感度が悪い420〜440nm付近に発光ピークがある紫色に近い色(又は370nmの紫外)を、視感度が良い480nm付近に発光ピークがある青色(又は数々の波長の光)に変換することを主旨とする発明しか記載されていないのに、平成10年11月27日付の手続補正書と意見書により、視感度が良い450nm付近に発光ピークがある青色を、550nmの緑色(又は長波長の光)に変換して、金線の表面における反射率を向上させることを主旨とする発明にすり替わった。
(b)本件発明の「蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出す」という事項は、原出願の出願当初明細書に記載されておらず、自明な事項でもない。
(c)本件発明の、「一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極である」という事項は、原出願の出願当初明細書に記載されておらず、自明な事項でもない。
(d)本件発明の、「メタル上の発光素子」という事項は、原出願の出願当初明細書に記載されておらず、自明な事項でもない。

上記各理由について検討する。
(a)理由aについて
本件の訂正された特許明細書(以下、単に特許明細書という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載事項を精査するも、「視感度が良い450nm付近に発光ピークがある青色を、550nmの緑色(又は長波長の光)に変換して、金線の表面における反射率を向上させる」旨の記載は見当たらず、本件特許発明が、これを主旨とするものとは認められないので、特許異議申立人の主張は採用できない。

(b)理由bについて
特許異議申立人の主張は、上記記載は、蛍光染料又は蛍光顔料が、発光素子からの「波長を限定しない可視光」により励起されることを意味している、との前提に立つものであるが、請求項1には、「前記発光素子は、サファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え」と記載されており、「発光素子からの可視光」は、「青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備えた発光素子からの可視光」であることは明らかであり、「波長を特定しない可視光」ではないから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(c)理由cについて
原出願の明細書の実施例では、エッチングにより、n型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させ、その部分にオーミック電極を付けているが、オーミック電極は、n型窒化ガリウム系化合物半導体の表面の露出部分に付ければよいのであって、露出させる手段はエッチングに限らずどのような手段でもよいことは自明であるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(d)理由dについて
請求項1の記載中「メタル上の発光素子」のメタルは、メタルステムを指していることは、明細書全体の記載からみて明らかであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

以上のとおり、本件出願が適法な分割出願ではないという理由は、いずれも採用できないから、本件出願は適法な分割出願であり、原出願の公開公報は公知文献とはならないので、本件発明は、原出願の公開公報に記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである旨、の主張は採用できない。

(B)特許法第36条について
特許異議申立人ルナライト株式会社及び特許異議申立人西島一は、本件明細書には記載不備があり、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない旨、主張している。
特許異議申立人ルナライト株式会社の主張は、本件明細書の「さらに樹脂モールド4には420〜440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されている。」の記載では、蛍光染料の具体的構成が不明であるというものであるが、蛍光染料は発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出すものであればよく、例えば、特許異議申立人アジレント・テクノロジー株式会社の提示した甲第5号証である「蛍光体ハンドブック」第1版第233〜240頁(昭和62年)に記載されている、Y3Al5O12:Ce3+(YAG:Ce3+)等の公知の蛍光染料を用いればよいことは明らかであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

また、特許異議申立人西島一は、記載不備に関して次の3点を指摘している。
(a)本件発明の「メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており」という事項は、発明の必須要件を記載したものではなく、それによる効果も認められない。
(b)本件発明の「一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極である」という事項は、発明の必須要件を記載したものではなく、それによる効果も認められない。
(c)本件発明の「一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極である」という事項は、「エッチング」という本件発明の必須要件を欠落している。

上記3点について検討する。
(a)(b)について
特許法第36条第5項第2号には、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載した項に区分してあること」と規定されており、これは、発明の詳細な説明に開示した「発明」のうち、出願人自らの判断で特許を受けようとする発明について、発明を明確に把握できるように記載すべきことを規定したものであり、請求項に記載されている構成要件のすべてが顕著な作用効果を奏することを求められてはいない。
そして、上記(a)(b)の構成要件は、それ自体明確な構成要件であり、また請求項に記載されている発明を不明確にするものでもない。
よって、上記(a)(b)の構成要件が顕著な作用効果を奏するか否かには関係なく、上記記載に不備があるとすることはできない。

(c)について
本件発明が「エッチング」するものに限定されないことは、上記(A)(c)に示したとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件明細書に記載不備があるとの特許異議申立人の主張は採用できない。

(C)特許法第29条第2項について

(対比)
本件の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)と、引用例に記載された発明(以下、引用発明という。)とを対比すると、両者は、
「メタル上の発光素子と、この発光素子全体を包囲する樹脂モールドと、発光素子からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された層を有する発光ダイオードにおいて、前記蛍光染料又は蛍光顔料は、発光素子からの光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出すと共に、前記発光素子は、窒化ガリウム系化合物半導体を備えている発光ダイオード。」
である点で一致しており、
ア)本件発明では、樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料が添加されているのに対し、引用発明では、モールドとは別に蛍光材料層がある点、
イ)蛍光染料又は蛍光顔料が、本件発明では、可視光により励起されて、発光ダイオードの視感度を良くするのに対し、引用発明では近紫外線により励起され、視感度については何ら記載がない点、
ウ)窒化ガリウム系化合物半導体が、本件発明では、サファイア基板上にn型およびp型に積層されてなるのに対し、引用発明では、積層構造に関する記載はない点、
エ)発光素子が、本件発明では、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており、一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であるのに対し、引用発明ではこのような構成を有していない点、
オ)発光素子が、本件発明では、「青色の可視光を発光する」のに対し、引用発明では、近紫外線を発光するとは記載されているが、可視光を発光するとは記載されていない点、
で相違している。

(当審の判断)
上記相違点について検討する。

a)相違点イ及び相違点オについて
本件発明では、青色の可視光を発光する発光ダイオードの視感度を良くすることを目的とし、蛍光染料又は蛍光顔料が、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出すものであるのに対し、引用発明では、赤外線又は近紫外線等の非可視光を可視光に変換する蛍光材料を使用するものであり、可視光の視感度を良くする、という技術的課題は記載されていない。
また、その他の各特許異議申立人の提示した甲各号証にも、発光素子からの青色の可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出す蛍光染料又は蛍光顔料を用いて、発光ダイオードの視感度を良くすることが公知であることを示す証拠はない。
すなわち、発光素子からの青色の可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出す蛍光染料又は蛍光顔料を用いることが明示されているのは、特許異議申立人西島一の提示した甲第5号証のみであるが、この発光素子はエレクトロルミネッセンス素子であって、発光ダイオードとは発光原理や構造が異なり、また、青色ないし赤色の発光を得、さらに白色発光素子として使用できるEL素子を開発することが目的であって、青色の可視光を発光する発光素子の視感度を良くすることを目的とするものでもない。
よって、引用発明及びその他の各特許異議申立人の提示した甲各号証に基づいて、上記相違点イ及びオに関する構成要件を想到することが、当業者にとって容易とはいえない。

b)相違点エについて
一般の発光ダイオードにおいて、電極を金線によりワイヤボンドして接続することは周知の技術といえる。
しかしながら、金の分光反射率が、青色の可視光においてきわめて低く、青色可視光を吸収することを考慮すれば、本件発明の如く青色の可視光を発光する発光ダイオードにおいて、単に、周知技術を適用して、その電極を金線によりワイヤボンドして接続することが、容易に想到し得ることということはできない。
本件発明においては、発光素子全体を包囲する樹脂モールド中に、青色可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出す染料又は蛍光顔料を添加するという、青色可視光の吸収を防止する手段を講じることにより、電極を金線によりワイヤボンドして接続することが可能になったものと認められる。
よって、相違点エに係る構成要件は、本件発明の他の構成要件(相違点ア、相違点イ及び相違点オに係る構成要件)と関連した構成要件であり、これらとの関連において、電極を金線によりワイヤボンドして接続することが公知であるとの証拠は、その他の各特許異議申立人の提示した甲各号証にもないから、引用発明及びその他の各特許異議申立人の提示した甲各号証に基づいて、相違点ア、相違点イ、相違点オ及び相違点エに関する構成要件を想到することが、当業者にとって容易とはいえない。

(結論)
よって、本件発明は、引用発明及びその他の各特許異議申立人の提示した甲各号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(むすび)
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
発光ダイオード
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 メタル上の発光素子(11)と、この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて、
前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くすると共に、
前記発光素子はサファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え、
この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており、一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることを特徴とする発光ダイオード。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は発光素子を樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオード(以下LEDという)に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、LEDは図1に示すような構造を有している。1はlmm角以下に切断された例えばGaAlAs、GaP等よりなる発光素子、2はメタルステム、3はメタルポスト、4は発光素子を包囲する樹脂モールドである。発光素子1の裏面電極はメタルステム2に銀ペースト等で接着され電気的に接続されており、発光素子1の表面電極は他端子であるメタルポスト3から伸ばされた金線によりその表面でワイヤボンドされ、さらに発光素子1は透明な樹脂モールド4でモールドされている。
【0003】
通常、樹脂モールド4は、発光素子の発光を空気中に効率よく放出する目的で、屈折率が高く、かつ透明度の高い樹脂が選択されるが、他に、その発光素子の発光色を変換する目的で、あるいは色を補正する目的で、その樹脂モールド4の中に着色剤として無機顔料、または有機顔料が混入される場合がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来、樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換するという技術はほとんど実用化されておらず、着色剤により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら、樹脂モールドに、波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると、LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまうからである。
【0005】
ところで、現在、LEDとして実用化されているのは、赤外、赤、黄色、緑色発光のLEDであり、青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。青色、紫外発光の発光素子はII-VI族のZnSe、IV-IV族のSiC、III-V族のGaN等の半導体材料を用いて研究が進められ、最近、その中でも一般式がGaXAl1-XN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体が、常温で、比較的優れた発光を示すことが発表され注目されている。また、窒化ガリウム系化合物半導体を用いて、初めてpn接合を実現したLEDが発表されている(応用物理、60巻、2号、p163〜p166、1991)。それによるとpn接合の窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDの発光波長は、主として430nm付近にあり、さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有している。その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし、そのLEDは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いという欠点がある。
【0006】
本発明はこのような事情を鑑みなされたもので、その目的とするところは、窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし、またその輝度を向上させることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の発光ダイオードは、発光素子11と、この発光素子11からの波長により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出す蛍光染料又は蛍光顔料5とを有する。さらに、本発明の発光ダイオードは、蛍光染料又は蛍光顔料5が、メタル上の発光素子11を包囲するよう配置されると共に、発光素子が、n型およびp型に積層されてなる青色の可視光を発光する窒化ガリウム系化合物半導体を備える。窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子11は、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続している。一方の電極は、n型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極である。
【0008】
【発明の実施の形態】
図2は本発明のLEDの構造を示す一実施例である。11はサファイア基板の上にGaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子、2および3は図1と同じくメタルステム、メタルポスト、4は発光素子を包囲する樹脂モールドである。発光素子11の裏面はサファイアの絶縁基板であり裏面から電極を取り出せないため、GaAlN層のn電極をメタルステム2と電気的に接続するため、GaAIN層をエッチングしてn型層の表面を露出させてオーミック電極を付け、金線によって電気的に接続する手法が取られている。また他の電極は図1と同様にメタルポスト3から伸ばした金線によりp型層の表面でワイヤボンドされている。さらに樹脂モールド4には420〜440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されている。
【0009】
【発明の効果】
本発明の発光ダイオードの蛍光染料、蛍光顔料は、可視光の光によって励起され、励起波長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を発光する蛍光顔料もあるが、それはエネルギー効率が非常に悪く微弱にしか発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり、しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合、その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料、蛍光顔料を添加することにより、最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。したがって青色LEDの色補正はいうにおよばず、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。さらに、可視光の光を長波長に変え、エネルギー効率がよい為、添加する蛍光染料、蛍光顔料が微量で済み、輝度の低下の点からも非常に好都合である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来の一LEDの構造を示す模式断面図
【図2】 本発明のLEDの一実施例の構造を示す模式断面図
【符号の説明】
11・・・発光素子 2・・・メタルステム
3・・・メタルポスト 4・・・樹脂モールド
5・・・蛍光染料
 
訂正の要旨 訂正事項
特許請求の範囲の請求項1、
「メタル上の発光素子(11)と、この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて、前記記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出すと共に、前記発光素子は、サファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびP型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え、この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており、一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることを特徴とする発光ダイオード。」
を、
「メタル上の発光素子(11)と、この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて、前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くすると共に、前記発光素子は、サファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびP型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え、この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は、メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており、一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であることを特徴とする発光ダイオード。」
と訂正する
異議決定日 2000-06-12 
出願番号 特願平9-306393
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
P 1 651・ 534- YA (H01L)
P 1 651・ 113- YA (H01L)
P 1 651・ 531- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 豊岡 静男
特許庁審判官 田部 元史
稲積 義登
登録日 1999-03-19 
登録番号 特許第2900928号(P2900928)
権利者 日亜化学工業株式会社
発明の名称 発光ダイオード  
代理人 弟子丸 健  
代理人 富岡 英次  
代理人 中村 稔  
代理人 木下 雅晴  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 吉田 和彦  
代理人 木村 高久  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 大塚 文昭  
代理人 小池 隆彌  
代理人 須田 洋之  
代理人 井野 砂里  

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