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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B21B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B21B 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 B21B 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 B21B |
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管理番号 | 1024260 |
異議申立番号 | 異議1999-70872 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-02-19 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-03-10 |
確定日 | 2000-07-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2796465号「クロスロール圧延機」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2796465号の特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第2796465号の請求項1に係る発明についての出願は、平成3年1月29日に出願された特願平3-26777号の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された発明に基づいて国内優先権を主張して平成4年1月28日に出願され、平成10年6月26日にその発明について特許の設定登録がされ、その後、その特許について、異議申立人 株式会社日立製作所により特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年1月25日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正請求について 2-1.訂正事項 本件訂正請求は、本件出願の願書に添付された明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は下記(1)〜(8)に示すとおりである。 (1)訂正事項a 訂正前の請求項1の記載のうち、 「ロールクロス方向支持部材」を「上下クロスヘッド」に訂正する。 (2)訂正事項b 訂正前の請求項1の記載のうち、 「当該ロールクロス方向支持部材と当該各ワークロールチョックとの間に」を「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に」に訂正する。 (3)訂正事項c 訂正前の【0008】欄の記載のうち、 「ロールクロス方向支持部材」を「上下クロスヘッド」に訂正する。 (4)訂正事項d 訂正前の【0008】欄の記載のうち、 「当該ロールクロス方向支持部材と当該各ワークロールチョックとの間に」を「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に」に訂正する。 (4)訂正事項e 訂正前の【0009】欄の記載のうち、 「ロールクロス方向支持部材」を「基準側クロスヘッド」に訂正する。 (5)訂正事項f 訂正前の【0010】欄の記載のうち、 「ストリップSの入側の上クロスヘッド」を「ストリップSの入側(反基準側)の上クロスヘッド」に訂正する。 (6)訂正事項g 訂正前の【0012】欄の記載のうち、 「上下ワークロールチョック53、54が出側の上下クロスヘッド」を「上下ワークロールチョック53、54がストリップSの出側(基準側)の上下クロスヘッド」に訂正する。 (7)訂正事項h 訂正前の【0014】欄の記載のうち、 「従って、作業側」を「従って、水平力の総和が(T-FM)となるストリップSの入側(反基準側)における作業側」に訂正する。 (8)訂正事項k 訂正前の【0017】欄の記載のうち、 「ロールクロス方向支持部材」を「基準側クロスヘッド」に訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項及び拡張変更の適否 (1)訂正事項aについて 訂正事項aは、「ロールクロス方向支持部材」を、訂正前の【0004】欄の「ロールクロス方向支持部材たる上下クロスヘッド」との記載に基づき、「上下クロスヘッド」と明確化したものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当し、また、訂正前の明細書の記載によって裏付けられているといえる。 (2)訂正事項b 訂正事項bは、押圧手段を設ける場所を「当該ロールクロス方向支持部材と当該各ワークロールチョックとの間に」から「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に」と限定したものである。 ここで、訂正前の明細書中には、その【0012】欄、【0014】欄に、それぞれ「同時に油圧シリンダ1により上下ワークロールチョック53,54の入側の側面をライナ2を介して押圧する。その結果、股裂き力FM に抗して上下ワークロールチョック53,54が出側の上下クロスヘッド59,60に密着し、上下ワークロールチョック53,54および上下ワークロール51,52のロールクロス方向への振れが防止されてストリップSの板厚精度の向上が得られた。」、「一方、上下ワークロールチョック53,54の振れはこの水平力の総和(T+FM およびT-FM )が負の値となったときに発生するので、(T-FM )において、股裂き力FM がストリップ張力Tよりも大きい箇所に前記振れが発生する。従って、作業側の上クロスヘッド59及び駆動側の下クロスヘッド60に内装された油圧シリンダ1の押圧力Pを前記水平力に加えると、(T-FM +P)となり、この水平力の総和(T-FM +P)が正の値になると、オフセット量Xが0であっても上下ワークロールチョック53,54のロールクロス方向への振れを防止することができる。」と記載されている。 これらの記載及び関連する図1,2,4,5の開示から以下のことが理解できる。 すなわち、上下ワークロールチョック53,54の振れは、ロールチョックに加わる水平力の総和(ストリップによる張力T、股裂き力FM 、及びオフセットのあるときはオフセット分力Fの和、ストリップの入り側から出側に向かう方向を正とする)が、ロールクロス時の股裂き力の増加によって負の値となる上クロスヘッド59の作業側で、又下クロスヘッド60の駆動側で、それぞれ上ワークロールチョック53が基準側(ストリップの出側)上クロスヘッド59から離れることによって、下ワークロールチョック54が基準側(ストリップの出側)下クロスヘッド60から離れることによって、発生し得るものである。これを防ぐために、上クロスヘッド59の作業側で反基準側(ストリップの入側)上クロスヘッド59と上ワークロールチョック53との間に、上ワークロールチョック53を上記水平力が正の値となるように、すなわちロールクロス方向に、上ワークロールチョック53を基準側(ストリップの出側)上クロスヘッド59に押しつける方向に押圧する手段である油圧シリンダ1を設ける、又、下クロスヘッド60の駆動側で反基準側(ストリップの入側)下クロスヘッド60と下ワークロールチョック54との間に、下ワークロールチョック54を上記水平力が正の値となるように、すなわちロールクロス方向に、下ワークロールチョック54を基準側(ストリップの出側)下クロスヘッド60に押しつける方向に押圧する手段である油圧シリンダ1を設けるものである。 したがって、上記訂正前の明細書中の記載は「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧手段を設けた」ことに相当するから、訂正事項bについては、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正前の明細書の記載によって裏付けられているといえる。 (3)訂正事項c〜kについて 訂正事項c〜kは、上記請求項についての訂正事項a,bを受けて、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正前の明細書の記載によって裏付けられているといえる。 (4)結言 従って、上記訂正事項bについては、特許請求の範囲の減縮を目的とし、訂正事項a、c〜kは明りょうでない記載の釈明を目的ととする訂正にあたり、さらに、これらの訂正事項は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、加えて、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.独立特許要件 2-3-1.本件訂正発明 訂正明細書の請求項1に係る発明は、当該請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下、「訂正発明」という。) 【請求項1】 上下クロスヘッドにより各ワークロールチョックを介して上ワークロールの軸心と下ワークロールの軸心とを互いに交差する状態に配置して成るクロスロール圧延機において、ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧手段を設けたことを特徴とするクロスロール圧延機。 2-3-2.当審の通知した取消理由の概要 当審の通知した取消理由の概要は次のとおりである。 <記載要件> A.訂正前の請求項1の記載において、「ロールクロス方向支持部材」と「ロールクロス方向に押圧する押圧手段」とは、共に「ロールクロス方向」なる用語が用いられており、両者の「方向」は同一方向を意味するが、ロールがクロスした状態における上流側にある両者の設置されたワークロール端において、両者の力の作用方向が逆方向を向くことによって、「ワークロールチョック及びワークロールのロールクロス方向への振れを防止」(訂正前の【0007】欄)するという効果が奏されるから、上記両者の記載では、両者の力の作用方向が同じ場合を含み、その場合には上記効果は生じ得ないことになる。よって、上記記載は特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものではないから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第5項第2号の規定を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 <特許要件> 本件出願は、平成3年1月29日に出願された特願平3-26777号(以下「先の出願2」という)の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された発明に基づいて国内優先権を主張している。 しかし、訂正前の請求項1に係る発明は、ワークロールの軸心とバックアップロールの軸心とを圧延方向にオフセットしない場合を含む圧延機に関する発明、及び、上下ワークロールのみをクロスする圧延機に関する発明(本件訂正前の明細書の【特許請求の範囲】【0008】【0013】【0016】【0017】の各欄及び図2を参照)を含むものであり、それらの発明は、上記先の出願2の上記明細書または図面に記載された発明ではないから、本件出願は特許法第42条の2第2項の規定の適用を受けることができない。 それゆえ、それらの発明を含む訂正前の請求項1に係る発明については、先の出願2の時に特許出願されたものとみなすことはできない。 よって、訂正前の請求項1に係る発明については、本件出願の出願日はその現実の出願日である平成4年1月28日であるものとして扱う。 すると、訂正前の請求項1に係る発明は、次のA〜Cに示す理由及び以下に示す証拠方法により特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項又は同法第29条の2の規定に該当し、その特許は取り消されるべきものである。 A.訂正前の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明と同一又はそれらに基づいて容易に発明できたものである。 B.訂正前の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物2に記載された発明と同一又はそれらに基づいて容易に発明できたものである。 C.訂正前の請求項1に係る発明は、本願出願前に出願され本願出願後に公開された引用出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明(以下、「先願発明」という。)と同一である。 (証拠方法) 刊行物1:特公昭60-54121号公報 (甲第1号証参照) 刊行物2:特公昭63-17001号公報 (甲第2号証参照) 引用出願:特願平 4-20956号(特願平 3-066007 号(平成3年3月29日出願、以下「先の出願1」とい う)の願書に最初に添付した明細書または図面に記載さ れた発明に基づいて国内優先権を主張し、特開平 5- 50110号公報として平成5年3月2日に公開され たもの。甲第5号証参照) 2-3-3.取消理由について <記載要件> 2-3-3-1.記載要件Aについて 訂正前の請求項1の記載における「ロールクロス方向支持部材」が、訂正後の請求項1の記載において「上下クロスヘッド」と訂正されていることから、「ロールクロス方向」についてその方向は明確になった。よって、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものではないとすることはできない。 <特許要件> 2-3-3-2.訂正発明の特徴点 訂正発明は、発明の構成に欠くことができない事項として「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧手段を設けた」点を有することを特徴とするものである。 そして、上記「2-2.訂正の目的の適否、新規事項及び拡張変更の適否 (2)訂正事項b」に述べたように、訂正後の明細書中の【0012】欄、【0014】欄の記載から、 訂正発明の上記構成は、 ロールクロス圧延中に、ワークロールチョックに発生する股裂き力によって、ワークロールチョックが基準側(ストリップの出側、下流側)クロスヘッドから離れるのを防ぐために、当該ワークロールチョックの反基準側(ストリップの入側、上流側)クロスヘッドと当該ワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧部材を設けてクロスヘッドと別に作動させ当該ワークロールチョックを基準側(ストリップの出側、下流側)クロスヘッドに当接させるようにしたこと を実質的にその内容とするものであり、 当該構成を採ることによって、ワークロールチョックを基準側クロスヘッドに当接させ、ロールクロス時に発生する股裂き力によるワークロールチョックのロールクロス方向への振れを防止し、その結果としてクロス角θを一定に保つという効果 を奏するものである。 2-3-3-3.特許要件A(刊行物1)について (1)刊行物1に記載の技術手段 刊行物1の3欄11行〜17行及び22行〜29行、3欄31行〜4欄1行、4欄21行〜4欄32行、第3図を参照すると、 刊行物1には、 「チョック位置設定機構3b、3c、4b、4c」 「上下補強ロールチョック3a、4a」 「上下作業ロールチョック位置設定機構5a、5b、6a、6b」「上下作業ロールチョック1a、2a」 を有するクロスロール圧延機の圧延方法において、 「上下補強ロールチョック3a、4a」が「上下作業ロールチョック1a、2a」を抱き込む形状となっていることから、補強ロールと作業ロールのそれぞれの軸がほぼ並行を保つようになっている上下それぞれの補強ロールと作業ロールからなる上下のペアロールの「上下補強ロールチョック3a、4a」を、「チョック位置設定機構3b、3c、4b、4c」により圧延方向に移動させて、板材通板前に、上下ペアロール群のそれぞれの軸のなす交叉角を所定角だけ交叉させておき、板材通板後の圧延条件の変化に対応して「上下作業ロールチョック位置設定機構5a、5b、6a、6b」によって上下作業ロール軸のみを圧延に適した角度に微小角修正のため「圧延方向に移動させ、あるいは、所定位置に保持する」ことで板幅方向の厚み分布を修正することが記載されている。 (2)対比・判断 訂正発明と刊行物1に記載の技術手段とを対比するに、刊行物1に記載の技術手段における「チョック位置設定機構3b、3c、4b、4c」及び「上下補強ロールチョック3a、4a」、「上下作業ロールチョック1a、2a」は、それぞれ訂正発明における「上下クロスヘッド」、「(上下)ワークロールチョック」に相当することから、 「上下クロスヘッドにより各ワークロールチョックを介して上ワークロールの軸心と下ワークロールの軸心とを互いに交差する状態に配置して成るクロスロール圧延機」の点で両者は一致し、 前者が、「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧手段を設けた」ものであるのに対して、 後者は、基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間及び反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に「上下作業ロールチョック(ワークロールチョック)位置設定機構5a、5b、6a、6b」を設けた点で両者は相違する。 ここで上記相違点について検討するに、「2-3-3-2.訂正発明の特徴点」で述べたように、訂正発明における押圧部材はクロスヘッドとは別に股裂き力に抗して作動してワークロールチョックを基準側クロスヘッドに当接させるものであるのに対し、刊行物1に記載の技術手段における「上下作業ロールチョック(ワークロールチョック)位置設定機構5a、5b、6a、6b」は、通板前のクロス角の設定後に、板材通板後の圧延条件の変化に対応して上下作業ロール軸を微小角修正のため圧延方向に移動させ所定位置に保持する、すなわち当該所定位置で「上下作業ロールチョック位置設定機構5a、5b、6a、6b」を位置的に固定してそれ以上移動させないものである。そして、当該所定位置にあってもロールクロスに要する股裂き力は加わり続けるため、「上下作業ロールチョック1a、2a」は「チョック位置設定機構3b、3c、4b、4c」及び「上下補強ロールチョック3a、4a」から離れる傾向にあり続けることになるから、クロス角が変化するおそれが常にあることになる。すなわち、「上下作業ロールチョック(ワークロールチョック)位置設定機構5a、5b、6a、6b」は「上下作業ロールチョック1a、2a」のいわば詳細位置設定機構にすぎず、股裂き力に抗して作動してワークロールチョックを基準側クロスヘッドに当接させるものではない。したがって、両者はその有する機能及びその機能を奏する構成において実質的に相違するものであり、また刊行物1の記載から技術常識を参酌したとしてもその点を想到することは容易ではない。 (3)結言 したがって、訂正発明は、刊行物1に記載のものと同一であるとはいえず、また刊行物1に記載のものから容易に発明をすることができたものでもない。 2-3-3-4.特許要件B(刊行物2)について (1)刊行物2に記載の技術手段 刊行物2の3欄40行〜4欄16行、第1図を参照すると、 刊行物2には、 「ジャッキ13a〜13d、13a’〜13d’」 「上下(補強)ロール用ロールチョック7、7’」 「上下(作業)ロール用ロールチョック6、6’」 を有する4段圧延機のロールクロス機構において、 「上ロール2、3(上作業ロール、上補強ロール)」と「下ロール2’、3’(下作業ロール、下補強ロール)」とを「ジャッキ13a〜13d、13a’〜13d’」によりクロスさせるときに、「ジャッキ13a〜13d、13a’〜13d’」はロールをクロスさせるだけでなく、 「(イ)上ロール2、3、下ロール2’、3’を所定の位置に保持する。」 「(ロ)圧延中に上ロール2、3、下ロール2’、3’に、圧延材進行方向に正又は負で発生する水平力を支承する。」 ということが記載されている。 (2)対比・判断 訂正発明と刊行物2に記載の技術手段とを対比するに、刊行物2に記載の技術手段における「ジャッキ13a〜13d、13a’〜13d’」及び「上下(補強)ロール用ロールチョック7、7’」、 「上下(作業)ロール用ロールチョック6、6’」は、それぞれ 訂正発明における「上下クロスヘッド」、「(上下)ワークロールチョック」に相当することから、 「上下クロスヘッドにより各ワークロールチョックを介して上ワークロールの軸心と下ワークロールの軸心とを互いに交差する状態に配置して成るクロスロール圧延機」の点で両者は一致し、 前者が、「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧手段を設けた」ものであるのに対して、 後者は、当該押圧手段に対応する部材が存在しない点で両者は相違する。 ここで上記相違点について検討するに、「2-3-3-2.訂正発明の特徴点」で述べたように、訂正発明における押圧部材はクロスヘッドとは別に股裂き力に抗して作動してワークロールチョックを基準側クロスヘッドに当接させるものであるのに対し、刊行物2に記載の技術手段においては、「上下(補強)ロール用ロールチョック7、7’」及び「ジャッキ13a〜13d、13a’〜13d’」がクロスヘッドとして作用するが、「ジャッキ13a〜13d、13a’〜13d’」は上記(イ)(ロ)の機能も有するものであって、(イ)については、「上ロール2、3(上作業ロール、上補強ロール)」と「下ロール2’、3’(下作業ロール、下補強ロール)」とを所要クロス角度にクロスさせてその位置で「ジャッキ13a〜13d、13a’〜13d’」を位置的に固定してそれ以上移動させないということであり、(ロ)については、当該位置にあれば「上ロール2、3」「下ロール2’、3’」したがって「上下(補強)ロール用ロールチョック7、7’」「上下(作業)ロール用ロールチョック6、6’」には、圧延材からの力とロールクロスに要する股裂き力の和が水平力として加わり続け、ロールチョックはこれを支承しているという状態にあるというものである。 そして、当該状態にあっては、股裂き力によって「上下(作業)ロール用ロールチョック6、6’」は「上下(補強)ロール用ロールチョック7、7’」及び「ジャッキ13a〜13d、13a’〜13d’」から離れる傾向にあることから、クロス角が変化するおそれが常にあることになるが、刊行物2に記載の技術手段においては、股裂き力に抗する押圧部材としてワークロールチョックを基準側クロスヘッドへ押圧してワークロールチョックのロールクロス方向への振れを防止しクロス角の変化を防止する機能を有する部材が存在しない。したがって、両者は、その有する機能において実質的に相違するものであり、また刊行物2の記載から技術常識を参酌したとしてもその点を想到することは容易ではない。 (3)結言 したがって、訂正発明は、刊行物2に記載のものと同一であるとはいえず、また刊行物2に記載のものから容易に発明をすることができたものでもない。 2-3-3-5.特許要件C(先願発明)について (1)先願発明 オフセットしない圧延機に関して、引用出願の願書に最初に添付した明細書または図面(以下、「先願明細書」という)の【0058】欄、【0061】欄、【0094】欄、【0113】欄、図1、図2(上記先の出願1のそれぞれ【0034】欄、【0035】欄、【0058】欄、【0076】欄、図1、図2に対応する)を参照すると、 先願発明は、 「プロジェクトブロック30」に設けられた「油圧ジャッキ10、11」 「作業ロール7」の「ロールチョック16」 を有するロールクロス圧延機において、 「プロジェクトブロック30」に設けられた「油圧ジャッキ10、11」により、上下の「ロールチョック16」を介して上下の「作業ロール7」をクロスさせるものであって、 (イ)「ロール軸受けのガタによるクロスポイントの狂いについてであるが、ガタの最も大きい箇所はロールのメタルチョックとスタンド20又はプロジェクトブロック30間のスキマである。クロスする作業ロール7は、クロス機構の中にガタを小さくする機構を設けることが出来る。」(先願明細書【0094】欄) (ロ)「図1及び図2において、圧延材9を圧延する作業ロール7の軸心は上下で互いに反対方向にθだけクロスしてし得るように油圧ジャッキ10,11で両側から押圧されながら、通常の圧延中はその位置が保持される。作業ロール7のクロス角の設定方法について説明すると、片側の油圧ジャッキ10にはロッド12を介して、センサ13によりジャッキのストローク即ち作業ロール7のチョック16の位置が検出される様に構成されている。他方の油圧ジャッキ11は減圧弁15を経て必要な押付力で作業ロール7のチョック16を押圧している。切換弁14を開閉して、チョックの位置を適切なクロス角に設定すると、この切換弁14を閉め切りとして、クロス位置を保持することができる。」(先願明細書【0113】欄) というものである。 (2)対比・判断 先願明細書の記載における「プロジェクトブロック30」に設けられた「油圧ジャッキ10、11」、「作業ロール7」の「ロールチョック16」は、それぞれ訂正発明における「上下クロスヘッド」、「(上下)ワークロールチョック」に相当するから、 訂正発明と先願発明とは、 「上下クロスヘッドにより各ワークロールチョックを介して上ワークロールの軸心と下ワークロールの軸心とを互いに交差する状態に配置して成るクロスロール圧延機」の点で両者は一致し、 前者が、「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧手段を設けた」ものであるのに対して、 後者は、「クロス機構の中にガタを小さくする機構を設ける」という点で両者は一応相違する。 ここで上記一応の相違点について検討するに、訂正発明における押圧部材は「2-3-3-2.訂正発明の特徴点」で述べたように、クロスヘッドとは別に股裂き力に抗して作動してワークロールチョックを基準側クロスヘッドに当接させるものである。 しかるに、先願発明においては、「プロジェクトブロック30」に設けられた「油圧ジャッキ10、11」がクロスヘッドとして作用するものであるが、まず、上記(イ)の点については、「ロールチョック16」と「プロジェクトブロック30」「油圧ジャッキ10、11」との間のスキマに起因するロール軸受けのガタによるクロスポイントの狂いを、クロス機構の中にガタを小さくする機構を設けることで解決できるとするものであるが、「クロス機構の中にガタを小さくする機構を設ける」というだけでは、当該機構の具体的構成について不明であり、それが「ロールチョック16」の一方側の「プロジェクトブロック30」「油圧ジャッキ10、11」と「ロールチョック16」との間に、当該「ロールチョック16」を反対側の「プロジェクトブロック30」「油圧ジャッキ10、11」に向けて(ロールクロス方向に)押圧する押圧手段を設けたことまでも開示するものではない。 次に、上記(ロ)の点については、油圧機構の開閉によって、クロス角を設定して保持するというものであるが、当該所定クロス角位置にあってもロールクロスに要する股裂き力は加わり続けるため、「ロールチョック16」は「プロジェクトブロック30」「油圧ジャッキ10、11」から離れる傾向にあり続けることから、クロス角が変化するおそれが常にあることになるが、先願明細書には「プロジェクトブロック30」に設けられた「油圧ジャッキ10、11」が股裂き力に抗して「ロールチョック16」を所定位置に保持する点については何ら記載されていない。 したがって、先願明細書中には、股裂き力に抗する押圧部材としてワークロールチョックを基準側クロスヘッドへ押圧してワークロールチョックのロールクロス方向への振れを防止しクロス角の変化を防止する機能を有する部材についての明示は存在せず、また、「クロス機構の中にガタを小さくする機構を設ける」とは記載されているが、当該機構の具体的構成については記載がない。 してみれば、上記一応の相違点は両発明の構成上の実質的な相違であって、しかも当該相違点は課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。 (3)結言 したがって、訂正発明は、先願発明と同一であるとはいえない。 2-3-4.独立特許要件の結言 以上より、訂正後の本件明細書の記載は記載要件を満足し、また、訂正発明は刊行物1、2に記載された発明と同一であるとも、それらから容易に発明することができたものとすることもできず、さらに先願発明と同一であるとすることもできないから、取消理由によっては、訂正発明は、出願の際独立して特許を受けることができないとすることはできない。 また「3.特許異議の申立について」で後述するように、特許異議の申立の理由によっても、訂正発明が、出願の際独立して特許を受けることができない発明であるとすることはできない。 よって、訂正発明は出願の際独立して特許を受けることができない発明とはいえない。 2-4.訂正の適否についての結言 以上のとおりであるから、上記訂正は特許法第120条の4第2項ただし書及び同条第3項において準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立について 3-1.本件発明 訂正が認められることから、本件発明は、上記「2-3-1.本件訂正発明」で摘示したとおりの、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。 なお、請求項1に係る発明を、以下、「本件発明」という。 3-2.異議申立の理由の概要/証拠方法 異議申立人株式会社日立製作所は、証拠方法として下記甲第1〜5号証を提出するとともに、以下の<記載要件><特許要件>の点を主張している。 <記載要件> 本件明細書及び図面の記載は、次のA〜Dの点で特許法第36条第4〜6項に規定する要件を満足しておらず、本件発明に係る特許は同法第114条第2項により取り消すべきものである。 A.訂正前の請求項1において、「ロールクロス方向支持部材により各ワークロールチョックを介して…交差する状態に配置」という記載があるが、ロールクロス方向支持部材は、交差する状態に配置する具体的な手段ではなく、前記支持部材によって、交差状態には配置できず、交差させるために必要な手段が不明瞭である。また、交差させる手段について、発明の詳細な説明に記載されていないから、当業者が実施できうる程度に明確且つ充分に記載されているとはいえない。 B.訂正前の請求項1において、「上ワークロールの軸心と下ワークロールの軸心とを互いに交差する状態に配置して成るクロスロール圧延機」と記載されているが、各々の軸心の圧延方向等に対する規定が無く、その構成が不明瞭である。 C.訂正前の請求項1において、「ロールクロス方向に押圧する押圧手段」と記載されているが、ロールクロス方向とは何を示すのか不明瞭である。反圧延方向及び圧延方向であるのか、圧延方向のみであるのかが不明であり、その構成が不明瞭である。 D.訂正前の【0004】欄、【0010】欄において、「…所定のオフセット量Xで圧延方向にそれぞれオフセットした状態に配置されている。」、「…前述した従来例…重複する説明を省略する。」と記載されているが、オフセットとは何を示すのか不明瞭である。 <特許要件> 本件発明は、次のA〜Gに示す理由及び以下に示す証拠方法により、特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項又は同法第29条の2の規定に該当し、その特許は取り消されるべきものである。 A.本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一又はそれらに基づいて容易に発明できたものである。 B.本件発明は、甲第2号証に記載された発明と同一又はそれらに基づいて容易に発明できたものである。 C.本件発明は、甲第5号証に記載された発明と同一である。 D.本件発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものである。 E.本件発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものである。 F.本件発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものである。 G.本件発明は、甲第1、2、4号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものである。 (証拠方法) 甲第1号証:特公昭60- 54121号公報(刊行物1参照) 甲第2号証:特公昭63- 17001号公報(刊行物2参照) 甲第3号証:特開昭54- 43858号公報 甲第4号証:特開昭61-140307号公報 甲第5号証:特願平 4- 20956号(特願平3-660 07号(平成3年3月29日出願、以下「先の出願1」 という)の願書に最初に添付した明細書または図面に 記載された発明に基づいて国内優先権を主張し、特開 平05-050110号公報として平成5年3月2日 に公開されたもの。引用出願参照) 3-3.異議申立の理由の検討 <記載要件> 3-3-1.記載要件A及びCについて 記載要件A及びCにおける指摘は、「ロールクロス方向支持部材」では、ロールを交差する状態に配置する具体的な手段とはいえず、「ロールクロス方向」の指示する方向についても不明であるということであるが、この点は上記「2-3-3-1.記載要件1について」で述べたように、請求項1及び発明の詳細な説明において「ロールクロス方向支持部材」が「上下クロスヘッド」と訂正されたことによって、当該「上下クロスヘッド」がロールを交差する状態に配置する具体的な手段であり、ロールクロス方向も他に用いられない表現となり一義的に明確になったものであるから、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものではないとすることはできず、また、交差させる手段について発明の詳細な説明に記載が無く当業者が実施できうる程度に明確且つ充分に記載されていないとすることもできない。 3-3-2.記載要件Bについて 請求項1における「上ワークロールの軸心と下ワークロールの軸心とを互いに交差する状態に配置して成るクロスロール圧延機」なる記載において、各々の軸心の圧延方向等に対する規定は明示されてはいないが、それらの規定はクロスロール圧延機において当業者にとって自明の事項であるから、当該規定のないことのみをもって特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないとすることはできない。 3-3-3.記載要件Dについて バックアップロールの軸心とワークロールの軸心とが圧延方向にずれているオフセット圧延機の存在は周知であり、本件明細書【0004】欄及び図3の開示から本件明細書に記載された「オフセット」がオフセット圧延機の「オフセット」を意味することは明らかだから、「オフセット」について明示の説明がないことをもって当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明が記載されていないとすることはできない。 <特許要件> 3-3-4.特許要件A、B、Cについて 上記「2-3-3-3.」〜「2-3-3-5.」に記載した理由により、本件発明は、甲第1、2号証に記載された発明と同一であるとも、それらから容易に発明することができたものとすることもできず、さらに甲第5号証に記載された発明と同一であるとすることもできない。 3-3-5.特許要件D、Eについて (1)甲第3号証に記載の技術手段 甲第3号証の1頁左下欄4行〜右下欄2行、3頁左上欄3行〜15行、3頁右上欄11行〜14行、第3図、第4図を参照すると、 刊行物3には、「作業ロールチョック26,28」を、「弾性体30」すなわち「油圧封入室32」「シリンダ31、33」「油室34」「供給圧油36」「仕切弁35」等からなる油圧機構で圧延方向に押圧するようにして作業ロールを圧延方向前後に移動できる構造とし、圧延材の押込力、張力の変動を吸収するようにした圧延機 が記載されている。 (2)判断 異議申立人は、甲第3号証に記載の油圧機構によれば「作業ロールチョック26,28」の振れを防止できるから、これを周知のクロスロール圧延機に適用して、又は、甲第1,2号証に記載されたクロスロール圧延機に適用して、本件発明を成すことは容易である旨主張する。 しかし、上記油圧機構は通常の4段圧延機における圧延材の押込力、張力の変動を吸収するためのものであって、クロスロール圧延機における股裂き力によるロールチョックの振れを防止するものではないから、これを周知又は甲第1,2号証に記載のクロスロール圧延機へ適用すべき技術的必然性を欠くものであり、適用が容易であるとは到底いえない。 それゆえ、上記異議申立人の主張はこれを採用できない。 (3)結言 したがって、訂正発明は、刊行物3に記載のもの及び周知あるいは甲第1,2号証に記載のものから容易に発明をすることができたものではない。 3-3-6.特許要件F、Gについて (1)甲第4号証に記載の技術手段 甲第4号証の2頁右上欄13行〜右下欄19行、3頁左上欄4行〜12行、第1図、第2図を参照すると、 甲第4号証には、「流体圧ピストン11,12」により「上下ワークロール1,2」「上下ワークロールチョック3、4」を「上下バックアップロール7,8」「上下バックアップロールチョック9,10」に対して、圧延材進行方向と平行な方向にオフセットすることによって、圧延条件に応じて最適な圧延ができ、リバース圧延の場合にも「上下ワークロール1,2」ががた付くことがなく、中間ロールの傾きに伴う「上下ワークロール1,2」の横ずれを防止できる「中間ロール13」をクロスロールとする圧延機が記載されている。 (2)判断 異議申立人は、甲第4号証に記載の「中間ロール13」をクロスロールとする圧延機における「流体圧ピストン11,12」によれば、「上下ワークロールチョック3、4」の振れを防止できるから、これを周知のワークロールをクロスする圧延機に適用して、又は、甲第1,2号証に記載されたワークロールをクロスする圧延機に適用して、本件発明を成すことは容易である旨主張する。 しかし、上記「流体圧ピストン11,12」は、ワークロールの圧延材進行方向と平行な方向へのオフセット機構であって、クロスロール圧延機における股裂き力によるロールチョックの振れを防止するものではないから、これを周知又は甲第1,2号証に記載のワークロールをクロスする圧延機へ適用すべき技術的必然性を欠くものであり、適用が容易であるとは到底いえない。 それゆえ、上記異議申立人の主張はこれを採用できない。 (3)結言 したがって、訂正発明は、刊行物4に記載のもの及び周知あるいは甲第1,2号証に記載のものから容易に発明をすることができたものではない。 3-4.異議申立の理由の検討についての結言 以上より、本件発明の特許が取り消されるべきであるとする異議申立人の主張はいずれも採用し得ない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論の通り決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 クロスロール圧延機 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 上下クロスヘッドにより各ワークロールチョックを介して上ワークロールの軸心と下ワークロールの軸心とを互いに交差する状態に配置して成るクロスロール圧延機において、ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧手段を設けたことを特徴とするクロスロール圧延機。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は鋼板等の圧延に供されるクロスロール圧延機に関する。 【0002】 【従来の技術】 近年、圧延製品(圧延鋼板等)の寸法、特に板幅方向の厚みに対する要求精度は非常に高くなってきている。そのため、圧延荷重によるロール撓みをキャンセルするべく、ワークロールにイニシャルクラウン(通常、2次曲線の凸カーブ形状)を設けた、いわゆるクラウンロールを用いることが従来より行われている。ところが、圧延材の硬度、板幅、板厚、板幅等が異なる場合には、その撓み具合が変化するため、単のクラウンロールによって良好な圧延を行うことはできなかった。すなわち、形状の異なる多数のクラウンロールを用意した上で、圧延機を一旦停止させてクラウンロールの組替えを行う必要があった。この場合、圧延機の稼働率が低下するため、製造コストの上昇を招くという欠点があった。一方、圧延作業を連続的に行うと、ワークロール表面の摩耗と熱膨張とが相俟侯ってクラウン形状が著しく変化する。これらの外乱に対してロールクラウンを運転中に制御する手段が要望されていた。 【0003】 ロールクラウンの制御方法としては、周知のものとして、ワークロールベンダが実用化されており、ある程度の効果を挙げている。ところが、この方法ではワークロールのネック部の強度上の制約からベンディングカに限界が生じ、十分な制御能力を得ることができなかった。そこで、ワークロールの軸心を水平面内で僅かに交差させて圧延することにより板幅方向の厚み分布を修正するクロスロール圧延機が提案されている。クロスロール圧延機は、両ワークロールの間隙が端部になるほど広い放物線状となり、凸状のロールクラウンをワークロールに形成したのと等価となる原理を応用したもので、板幅方向の厚みを修正するという目的を達成するための有効な手段であることが確認されている。 【0004】 図3には従来のクロスロール圧延機の要部を側面視により示してある。同図において、51は上ワークロール、52は下ワークロールであり、それらの両端部は上ワークロールチョック53および下ワークロールチョック54にそれぞれ軸着されている。両ワークロールチョック53,54は、ハウジング61内に設けられたロールクロス方向支持部材たる上下クロスヘッド59,60に昇降自在に支持されている。尚、上下クロスヘッド59,60はハウジング61の内側面に、ロールクロス方向(図中、矢印aで示す)に移動できるように、穿設されている。55は上バックアップロール、56は下バックアップロールであり、それらの両端部は上下クロスヘッド59,60に昇降自在に支持された上バックアップロールチョック57および下バックアップロールチョック58に軸着され、上ワークロール51と下ワークロール52とをそれぞれ支持している。上下ワークロール51,52と上下バックアップロール55,56とは各々の軸心C1,C2およびC3,C4が所定のオフセット量Xで圧延方向にそれぞれオフセットした状態に配置されている。 【0005】 このクロスロール圧延機では、圧延に際して上クロスヘッド59と下クロスヘッド60とを前述したロールクロス方向に同量移動させる。その結果、上ワークロール51の軸心C1および上バックアップロール55の軸心C3と、下ワークロール52の軸心C2および下バックアップロール56の軸心C4とが上下対称でロールクロス方向に所要のクロス角θとなるように回動する。そして、このクロス角θを調整することにより、ストリップSの板幅方向の板厚寸法差を小さくして精度を向上させるのである。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 上述したクロスロール圧延機によってストリップSを圧延する場合、図4および図5に示すように、上下ワークロール51,52にはオフセット分力F、ストリップ張力Tおよび股裂き力FMの3種類の水平力が作用し、これらの水平力の総和(F+T+FMおよびF+T-FM)が負の値となった場合にはワークロールチョックおよびワークロールがロールクロス方向に振れる。したがって、圧延時にはワークロールチョックおよびワークロールに振れが発生しないようにオフセット量Xを設定するが、ストリップ張力Tが小さく且つ股裂き力FMが大きいような圧延条件を考慮すると、オフセット量Xを多くすることによってオフセット分力Fを非常に大きくすることが必要となる。 【0007】 ところで、オフセット分力Fを大きくした場合、上下ワークロールチョック53,54にそれぞれ作用するチョック反力も当然に大きくなり、時としてそれが過大となることがある。特に、股裂き力FMが正の値として作用する側の上下ワークロールチョック53,54においては、水平力の総和(F+T+FM)すなわちチョック反力が恒常的に大きくなり、上下クロスヘッド59,60との間の摩擦抵抗が増大して圧延されるストリップSの板厚精度が低下する。本発明は上記状況に鑑みなされたもので、オフセット分力を大きくすることなくワークロールチョックおよびワークロールのロールクロス方向への振れを防止したクロスロール圧延機を提供することを目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】 そこで、本発明ではこの課題を解決するために、上下クロスヘッドにより各ワークロールチョックを介して上ワークロールの軸心と下ワークロールの軸心とを互いに交差する状態に配置して成るクロスロール圧延機において、ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に当該ワークロールチョックをロールクロス方向に押圧する押圧手段を設けたのである。 【0009】 【作用】 押圧手段でワークロールチョックを基準側クロスヘッドに押圧することによって股裂き力が相殺され、ワークロールチョックおよびワークロールのロールクロス方向への振れを防止される。 【0010】 【実施例】 以下、本発明の実施例を図面に基づき具体的に説明する。なお、実施例の説明にあたっては、前述した従来例における部材と同一の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1には本発明の第1実施例に係るクロスロール圧延機の要部を側面視により示してある。同図において、1は油圧シリンダであり、ストリップSの入側(反基準側)の上クロスヘッド59および下クロスヘッド60の上下ワークロールチョック53,54をそれぞれ支持する部分に穿設された穴に内装されている。これらの油圧シリンダ1のロッドにはライナ2が上記穴を摺動して上下ワークロールチョック53,54の各々の側面にそれぞれ当接するように装着されている。 【0011】 以下、本実施例のクロスロール圧延機の作用を述べる。圧延に際しては従来と同様に上クロスヘッド59と下クロスヘッド60とを前述したロールクロス方向に移動させる。そして、上ワークロール51と下ワークロール52とが上下対称でロールクロス方向に所要のクロス角θとなるように回動させ、このクロス角θを調整することにより、ストリップSの板幅方向の板厚寸法差を小さくして精度を向上させる。 【0012】 ところで本実施例においては、同時に油圧シリンダ1により上下ワークロールチョック53,54の入側の側面をライナ2を介して押圧する。その結果、股裂き力FMに抗して上下ワークロールチョック53,54がストリップSの出側(基準側)の上下クロスヘッド59,60に密着し、上下ワークロールチョック53,54および上下ワークロール51,52のロールクロス方向への振れが防止されてストリップSの板厚精度の向上が得られた。また、水平力の総和を正の値に保ちつつオフセット分力Fを小さくすることが可能となり、上下ワークロール51,52と上下バックアップロール55,56との間のスラストカも小さくすることができた。 【0013】 図2には本発明の第2実施例に係るクロスロール圧延機の要部を側面視により示してある。同図に示すように、本実施例は前述したクロスロール圧延機において上下ワークロール51,52と上下バックアップロール55,56との各々の軸心C1,C2およびC3,C4のオフセット量Xを圧延方向で0として配置したものである。 【0014】 本実施例によれば、オフセット量Xを0とするとオフセット分力Fも0となり、ストリップSの圧延の際に作用する水平力の総和は、例えば、同図において手前側を作業側とすると、この作業側の上部および駆動側の下部では(T-FM)となり、駆動側の上部および作業側の下部では(T+FM)となる。方、上下ワークロールチョック53,54の振ればこの水平力の総和(T+FMおよびT-FM)が負の値となったときに発生するので、(T-FM)において、股裂き力FMがストリップ張力Tよりも大きい箇所に前記振れが発生する。従って、水平力の総和が(T-FM)となるストリップSの入側(反基準側)における作業側の上クロスヘッド59及び駆動側の下クロスヘッド60に内装された油圧シリンダ1の押圧力Pを前記水平力に加えると、(T-FM+P)となり、この水平力の総和(T-FM+P)が正の値になると、オフセット量Xが0であっても上下ワークロールチョック53,54のロールクロス方向への振れを防止することができる。 【0015】 以上で本発明の具体的実施例の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施例に限るものではない。例えば、上記実施例では押圧手段として油圧シリンダ1を用いたが、圧縮コイルスプリング等を用いてもよいし、ライナ2に代えてころ等を用いてもよい。また、上下クロスヘッド59,60と上下バックアップロールチョック57,58とをそれぞれ一体型にしてロールクロス方向支持部材としてもよい。 【0016】 また、上述の実施例では、上下ワークロール51,52及び上下バックアップロール55,56がロールクロスしたクロスロール圧延機として説明したが、上下バックアップロール55,56はクロスせず、上下ワークロール51,52のみクロスしたクロスロール圧延機にも適用することができるものである。 【0017】 【発明の効果】 以上、実施例を挙げて詳細に説明したように本発明に係るクロスロール圧延機によれば、押圧手段により股裂き力を相殺するようにワークロールチョックを基準側クロスヘッドに押圧するようにしたので、圧延中のワークロールチョックの位置が安定してワークロールのロールクロス方向への振れが防止される一方、ワークロールとバックアップロールとのオフセット量を少なくしてオフセット分力を小さくすることも可能となる。その結果、圧延されるストリップの板厚精度の向上とワークロールとバックアップロール間のスラストカの発生防止とを図ることが可能になるという効果を奏する。更に、オフセット分力を0としても押圧手段の押圧力を加えた水平力の総和が負の値にならないように前記押圧力を調節することによって、圧延中のワークロールチョックの位置が安定してワークロールのロールクロス方向への振れを防止することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の第1実施例に係るクロスロール圧延機の要部を示す側面図である。 【図2】 本発明の第2実施例に係るクロスロール圧延機の要部を示す側面図である。 【図3】 従来のクロスロール圧延機の要部を示す側面図である。 【図4】 クロスロール圧延機のワークロールに作用する水平力を示す説明図である。 【図5】 クロスロール圧延機のワークロールに作用する水平力を示す説明図である。 【符号の説明】 1 油圧シリンダ 2 ライナ 51 上ワークロール 52 下ワークロール 53 上ワークロールチョック 54 下ワークロールチョック 55 上バックアップロール 56 下バックアップロール 59 上クロスヘッド 60 下クロスヘッド 61 ハウジング |
訂正の要旨 |
(訂正事項a) 訂正前の請求項1の記載のうち、 「ロールクロス方向支持部材」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「上下クロスヘッド」に訂正する。 (訂正事項b) 訂正前の請求項1の記載のうち、 「当該ロールクロス方向支持部材と当該ワークロールロールチョックとの間に」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に」に訂正する。 (訂正事項c) 訂正前の【0008】欄の記載のうち、 「ロールクロス方向支持部材」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「上下クロスヘッド」に訂正する。 (訂正事項d) 訂正前の【0008】欄の記載のうち、 「当該ロールクロス方向支持部材と当該ワークロールチョックとの間に」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「ロールクロス時に生じる股裂き力により、ワークロールチョックが基準側クロスヘッドから離れる傾向にあるワークロールチョックの反基準側クロスヘッドとワークロールチョックとの間に」に訂正する。 (訂正事項e) 訂正前の【0009】欄の記載のうち、 「ロールクロス方向支持部材」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「基準側クロスヘッド」に訂正する。 (訂正事項f) 訂正前の【0010】欄の記載のうち、 「ストリップSの入側の上クロスヘッド」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「ストリップSの入側(反基準側)の上クロスヘッド」に訂正する。 (訂正事項g) 訂正前の【0012】欄の記載のうち、 「上下ワークロールチョック53、54が出側の上下クロスヘッド」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「上下ワークロールチョック53、54がストリップSの出側(基準側)の上下クロスヘッド」に訂正する。 (訂正事項h) 訂正前の【0014】欄の記載のうち、 「従って、作業側」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「従って、水平力の総和が(T-FM)となるストリップSの入側(反基準側)における作業側」に訂正する。 (訂正事項k) 訂正前の【0017】欄の記載のうち、 「ロールクロス方向支持部材」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「基準側クロスヘッド」に訂正する。 |
異議決定日 | 2000-06-08 |
出願番号 | 特願平4-12882 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(B21B)
P 1 651・ 113- YA (B21B) P 1 651・ 531- YA (B21B) P 1 651・ 121- YA (B21B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 國方 康伸 |
特許庁審判長 |
影山 秀一 |
特許庁審判官 |
中村 朝幸 中澤 登 |
登録日 | 1998-06-26 |
登録番号 | 特許第2796465号(P2796465) |
権利者 | 三菱重工業株式会社 |
発明の名称 | クロスロール圧延機 |
代理人 | 光石 忠敬 |
代理人 | 作田 康夫 |
代理人 | 光石 忠敬 |
代理人 | 光石 俊郎 |
代理人 | 田中 康幸 |
代理人 | 光石 俊郎 |
代理人 | 田中 康幸 |