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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B |
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管理番号 | 1024261 |
異議申立番号 | 異議1999-70911 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1990-06-08 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-03-10 |
確定日 | 2000-07-24 |
異議申立件数 | 4 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2805813号「スパッタリングターゲット及びその製造方法」請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2805813号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第2805813号は、平成1年4月17日に特許出願され(優先権主張昭和63年8月9日)、平成10年7月24日にその特許の設定登録がなされ、その後、西田良幸、住友金属鉱山株式会社、安藤重信、およびルシリエ キャラより特許異議の申立てがなされ、平成11年6月23日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月27日に訂正請求(後日取下げ)がなされ、訂正拒絶理由通知がなされ、訂正請求書(後日取下げ)の補正がなされた後、再度平成12年6月1日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年6月8日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正事項 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1「正三価以上の原子価を有する元素を含有する焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」を「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する焼結密度5.6g/cm3以上、比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」と訂正する。 訂正事項b 特許請求の範囲の請求項3「酸素濃度雰囲気下で焼結することを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の」を「酸素濃度雰囲気下で、1300℃を超える温度で焼結することを特徴とする、正三価以上の原子価を有する元素を含有する焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛凝結体からなる透明導電性薄膜用」と訂正し、これを訂正後の請求項2とする。 訂正事項c 特許請求の範囲の訂正前の請求項2を削除する。 訂正事項d 明細書第8頁第14〜16行(特許公報第3頁第5欄第4〜6行)「また酸化亜鉛の真密度は5.8g/cm3であるが、本発明の、高温焼結した低抵抗焼結体の密度は5g/cm3以上である。」を、「また酸化亜鉛の真密度は5.8g/cm3であるが、本発明の、高温焼結した低抵抗焼結体の密度は5g/cm3以上である。特に、添加元素としてアルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種を用い、例えば、不活性雰囲気中て1300℃を越える温度で焼結することにより、比抵抗0.005Ω・cm以下、焼結体密度5.6 g/cm3以上の酸化亜鉛焼結体が得られる。」と訂正する。 訂正事項e 明細書第4頁第19行(特許公報第2頁第3欄第37行)「周期率表IIIA族」を「周期律表IIIA族」と訂正する。また、明細書第11頁第7〜8行(特許公報第3頁第6欄第21〜22行)「次のスパッタリング条件薄膜を生成した」を「次のスパッタリング条件で薄膜を生成した」と訂正する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aについては、特許明細書の特許請求の範囲に記載された「正三価以上の原子価を有する元素を含有する焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」をより下位概念である「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する焼結密度5.6g/cm3以上、比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」に限定しようとするものである。当該「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する焼結密度5.6g/cm3以上、比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」は特許明細書の表1及び表2に記載されている。 したがって、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項b、cも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項dについては、「正三価以上の原子価を有する元素」の具体例として「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素」を添加した場合に得られる酸化亜鉛焼結体の比抵抗及び焼結体密度を明確化したものであり、このような焼結体が得られることは、特許明細書の「特に不活性雰囲気又は真空中、・・・・、更に低抵抗で高密度な焼結体が得られる」(特許公報第2頁第4欄第46〜50行)の記載及び表1から明らかである。この訂正は「正三価以上の原子価を有する元素」の具体例として「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素」を添加し、「例えば、不活性雰囲気中で1300℃を越える温度で焼結する」ことにより得られる酸化亜鉛焼結体の比抵抗及び焼結体密度を明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項eは誤記の訂正を目的とする訂正である。 そして、上記訂正a〜eは、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 ウ.平成12年6月8日付けの訂正明細書の請求項1、2に係る発明 同訂正明細書の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1,2」という)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次に記載のとおりのものである。 「1)アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する焼結密度5.6g/cm3以上、比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体からなる透明導電性薄膜用スパッタリングターゲット。 2)正三価以上の原子価を有する元素を含有する酸化亜鉛を、少なくとも空気中の酸素濃度より低減させた酸素濃度雰囲気下で,1300℃を超える温度で焼結することを特徴とする、正三価以上の原子価を有する元素を含有する焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体からなる透明導電性薄膜用スパッタリングターゲットの製造方法。」 エ.独立特許要件の判断 平成12年6月1日付けの取消理由通知書において、「本件出願は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」と指摘した点については、平成12年6月8日付けの訂正請求によって取消理由が解消した。 次に、平成11年6月23日付けの取消理由通知について検討する。 (刊行物1〜3に記載の発明) 本件発明1に対して、当審が平成11年6月23日付けで通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭63-175304号公報)、刊行物2(特開昭62-122011号公報)および刊行物3(特開昭53-130710号公報)にはそれぞれ、次の発明が記載されている。 刊行物1; 「SiO2添加のZnO透明電極をスパッタ形成するためのスパッタターゲットの製造方法」(第1頁右欄第5〜6行)が記載されており、「シリコンアルコキシドを加水分解してシリコンヒドロゾルを生成する工程と、ZnO粉末に該シリコンヒドロゾルを添加し加熱撹拌して混合粉末を形成する工程と」(第2頁右上欄第4〜7行)を含ませることにより、「SiO2が極めて微細な微粒子となって、その分散が細かく均一性に優れており、その結果として焼成後における分散と均一性が良くなり且つ充填率が高くなるものと考えられる。」(第2頁右上欄第14〜18行)ことが記載されている。 そして、平均粒径が0.3μm程度のZnO粉末にシリコンヒドロゾルを添加して得た混合粉末を用い、約1300℃で焼成することにより、SiO2の分散及び均一性が良く且つ充填率が90%以上と高いスパッタターゲットが得られ、抵抗値が10‐3〜10‐4ΩcmであるSiO2添加のZnO透明電極を形成することが出来る、ことが記載されている(第2頁左下欄第4行〜右下欄第15行参照)。 刊行物2; 「酸化亜鉛を主成分とし酸化アルミニウムを混合したターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法により透明導電膜を製造する」(第2頁左上欄第13〜16行)ことが記載されており、「ターゲットはZnO粉末とAl2O3粉末とを混合し、粉砕、圧縮成形後、900〜1000℃程度で本焼結し、さらに高温で例えば1300℃程度で熱処理して低抵抗化したものを用いる。」(第2頁右下欄第17行〜第3頁左上欄第1行)ことが記載されている。さらに、「100℃以下でも10‐3〜10‐4Ω・cmのオーダーの低抵抗な透明導電膜が得られる」ことが記載されている(第3頁右上欄第16〜17行参照)。 刊行物3; (1)特許請求の範囲には、「高周波スパッタリングに用いるターゲットとして、酸化亜鉛にバナジウムと少なくとも一種以上の銅またはマンガンを含有させたことを特徴とする高周波スパッタリング用酸化亜鉛系磁器。」と記載される。 (2)第1頁左欄第17行〜右欄第4行には、「直流2極型はスパッタリング法の中でもっとも単純であるが、ターゲットとなる酸化亜鉛磁器の比抵抗を低くしないと、イオンに曝されるターゲットの表面には正電荷が蓄積されるため、スパッタリングが効率よく行えず、安定な放電が維持できなかった。また比抵抗の低いターゲットを用いるため、得られた膜の比抵抗も低くなる傾向がある。」と記載される。 (3)第2頁左上欄第9〜13行には、「従来はターゲットに高純度の酸化亜鉛の磁器を用いていたが、焼成前の成型品を1300℃以上の高温で焼成すると、焼結密度は理論密度の90%以上になるが、比抵抗は低くなり、高周波スパッタリング用のターゲットとしては不適当である。」と記載される。 (対比・判断) 本件発明1と刊行物1〜3に記載の発明とを比較検討する。 本件発明1の透明導電性薄膜用スパッタリングターゲットは、アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する焼結密度5.6g/cm3以上、比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体からなるものであるが、該酸化亜鉛焼結体は、訂正明細書の記載によれば、アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を酸化亜鉛に添加し、例えば、不活性雰囲気中で1300℃を越える温度で焼結することにより得られる。 そして、本件発明1のスパッタリングターゲットを用いることにより、極めて低抵抗で透明性に優れた透明導電膜を、安定的に製造可能とし、かつ、高速成膜を可能とすることができる。 これに対して、刊行物1のスパッタリングターゲットは、Si元素を含有する酸化亜鉛焼結体からなるもので、本件発明1の「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有するもの」とは相違する。また、刊行物1には、「平均粒径が0.3μm程度のZnO粉末にシリコンヒドロゾルを添加して得た混合粉末を用い、約1300℃で焼成することにより、SiO2の分散及び均一性が良く且つ充填率が90%以上と高いスパッタターゲットが得られ、抵抗値が10‐3〜10‐4ΩcmであるSiO2添加のZnO透明電極を形成することが出来る。」旨記載される(第2頁左下欄第4行〜右下欄第15行参照)が、この記載を以て、本件発明1のような「焼結密度5.6g/cm3以上で、かつ比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」が形成されていると断定できるものではない。 つぎに、刊行物2は、本件発明1と同様、アルミニウム元素を含有するスパッタリングターゲットに関するものではあるが、本件発明1のような「焼結密度5.6g/cm3以上で、かつ比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体からなるもの」である記載は、何等ない。刊行物2には、「ターゲットはZnO粉末とAl2O3粉末とを混合し、粉砕、圧縮成形後、900〜1000℃程度で本焼成し、さらに高温で例えば1300℃程度で熱処理して低抵抗化したものを用いる。」旨記載される(第2頁右下欄第17行〜第3頁左上欄第1行)が、この記載を以て、本件発明1のような「焼結密度5.6g/cm3以上で、かつ比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」が形成されていると断定できるものではない。 刊行物3のスパッタリングターゲットは、バナジウムと少なくとの一種以上の銅またはマンガンを含有する酸化亜鉛焼結体からなるもので、本件発明1の「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有するもの」とは相違する。また、刊行物3には、第2頁左上欄第9〜13行に「従来はターゲットに高純度の酸化亜鉛の磁器を用いていたが、焼成前の成型品を1300℃以上の高温で焼成すると、焼結密度は理論密度の90%以上になるが、比抵抗は低くなり、・・・・」と記載されるが、この記載を以て、本件発明1のような「焼結密度5.6g/cm3以上で、かつ比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」が形成されていると断定できるものではない。 よって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。 また、本件発明2は、正三価以上の原子価を有する元素を含有する酸化亜鉛を、少なくとも空気中の酸素濃度より低減させた酸素濃度雰囲気下で,1300℃を超える温度で焼結することを特徴とする、正三価以上の原子価を有する元素を含有する焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体からなる透明導電性薄膜用スパッタリングターゲットの製造方法であるが、刊行物1ないし3はいずれも、本件発明2の「少なくとも空気中の酸素濃度より低減させた酸素濃度雰囲気下で,1300℃を超える温度で焼結する」構成を開示するものではない。また、刊行物1ないし3はいずれも、本件発明2の「焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」の構成を開示するものでもない。 よって、本件発明2は、刊行物1〜3に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。 したがって、本件発明1,2は特許出願の際独立して特許を受けることができないものとはいえない。 オ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 ア.申立ての理由の概要 申立人・安藤重信は、証拠として甲第1号証(上記刊行物1)、甲第2号証(上記刊行物2)、甲第3号証(上記刊行物3)および甲第4号証(特開昭54-145714号公報、以下「刊行物4」という)を提出して、次の理由により訂正前の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべきと主張している。 (1)同本件請求項1に係る発明は、刊行物1に記載の発明であるか、或いは刊行物1、3,4記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (2)同本件請求項1に係る発明は、刊行物2に記載の発明であるか、或いは刊行物2,1、3,4記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (3)同本件請求項2に係る発明は、刊行物1に記載の発明であるか、或いは刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (4)同本件請求項3に係る発明は、刊行物1,4記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 申立人・西田良幸は、証拠として甲第1号証(上記刊行物1)、甲第2号証(「Japanese Journal of Applied Physics Vol.24 No.10」 October、1985、p..L781〜L784)、以下「刊行物5」という)を提出して、次の理由により訂正前の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべきと主張している。 (5)同本件請求項1、2に係る発明は、刊行物1に記載の発明である。 (6)同本件請求項1〜3に係る発明は、刊行物1、5記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 申立人・ルシリエ キャラは、証拠として甲第1号証(上記刊行物2)、甲第2号証(上記刊行物4)、甲第3号証(特開昭59-136480号公報、以下「刊行物6」という)および甲第4号証(上記刊行物3)を提出して、次の理由により訂正前の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべきと主張している。 (7)同本件請求項1〜3に係る発明は、刊行物2〜4、6記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 さらに、申立人・住友金属鉱山株式会社は、証拠として甲第1号証(「薄膜化技術」共立出版株式会社、昭和58年4月25日 初版2刷発行、148〜157頁、以下「刊行物7」という)、甲第2号証(「応用物理」Vol.50、No.6、1981、応用物理学会発行、580〜591頁、以下「刊行物8」という)、甲第3号証(特開昭53-130709号公報、以下「刊行物9」という)、甲第4号証(上記刊行物3)、甲第5号証(上記刊行物2)、甲第6号証(上記刊行物1)、甲第7号証(上記刊行物4)、および甲第8号証(上記刊行物5)を提出して、次の理由により訂正前の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべきと主張している。 (8)同本件請求項1、2に係る発明は、刊行物1に記載の発明である。 (9)同本件請求項1〜3に係る発明は、刊行物1〜5,7〜9記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 イ.平成12年6月8日付けの訂正明細書の請求項1、2に係る発明、即ち本件発明1,2 本件発明1,2は、前記2.項ウに記載のとおりのものである。 ウ.対比・判断 (刊行物1〜9に記載の発明) 刊行物1〜3; 前記2.項エに記載のとおり。 刊行物4; (1)特許請求の範囲第1項に「酸化亜鉛に、3価の原子価をとる金属を少なくとも1種以上を0.01原子%以上10原子%以下含み、理論密度の90%以上の密度を有することを特徴とする焼結体セラミック発熱体」が記載され、同第3項に「酸化亜鉛が金属亜鉛に還元されない非酸化性雰囲気で焼結されてなることを特徴とする特許請求の範囲1・・・記載のセラミック発熱体」が記載される。 そして、2頁左下欄3〜6行には、「焼結雰囲気を二酸化チタンが還元されることのない非酸化性雰囲気と制限したのは、二酸化チタンが還元されると、焼結体がZnとなり、緻密で均質な酸化亜鉛焼結体が得られないためである。」と記載される。 (3)2頁右下欄5行〜16行に実施例1として「酸化亜鉛粉末に酸化アルミニウム粉末および酸化クロム粉末をlml%(lmol%の誤り)配合し、湿式ボールミルで20時間混合した。この粉末を乾燥後3%のカンファーを結合剤として添加し、3トン/cm2の圧力で10×60×2mmの短冊形に成形した。該焼結体を酸素を除去した窒素気流中で1350℃で焼結した。・・・焼結体の比抵抗はそれぞれ0.46Ω・cm、0.24Ω・cmで、理論密度の95%の密度を有していた。」ことが記載される。 刊行物5; 「RFマグネトロンスパッタリング法で作成されたIII族不純物元素添加酸化亜鉛薄膜」に関する論文であって、L781頁左欄下から8〜5行目およびL783頁右欄Tablelに、「酸化亜鉛にIII族の元素(B、Al、Ga、In)をドープした比抵抗1.9×10‐4〜8.1×10‐4・Ωcmの上記酸化亜鉛薄膜、が記載されている。 刊行物6; 陰極スパッタリング用ターゲットに関するもので、 (1)2頁左下欄4〜17行には、「・・・本発明は、磁気的に高められた陰極スパッタリングに用いようとすることができ、熱間圧造された酸化インジウム/酸化スズ混合物を基材とする酸化物-セラミック・ターゲットであって、このターゲットは理論的密度の少なくとも75%の密度を有し、化学量論的組成に比較して酸素含量が0.6〜0.1Ω.cmの比抵抗に相当する導電性を有する程度まで低下させてあることを特徴とする酸化物-セラミック・ターゲットを提供する。本発明のターゲットは、高密度と比較的高い導電性を併有することから直流電圧を用いるハイパワー・スパッタリングに極めて適している・・・」ことが記載される。 (2)4頁右上欄17行〜左下欄13行には、実施例1として、理論的密度の75%に相当する5.3g/cm3の密度および0.42Ω.cmの比抵抗を有するセラミック・プレートの例が記載される。 刊行物7; 148頁17行〜150頁下から10行には、 「6.2酸化物薄膜の形成 A.ZnO圧電薄膜 ZnO結晶はすぐれた圧電半導体であるとともに、その電気光学定数も大きい特徴を示す。近年、ZnO結晶を薄膜化し、ZnOの圧電あるいは電気光学的な特徴を生かした、ZnO薄膜音響デバイス、音響光学デバイスおよび電気光学デバイスの研究が進められてきた。(中略) これらのデバイスの形成には、ZnO単結晶膜あるいはc軸配向多結晶膜が用いられる。この場合単結晶膜はたとえばCVD法で結晶基板上に形成されるが、これには800℃程度の高温を必要とする。一方、スパッタ法によると、100℃程度の低温でも単結晶膜あるいはc軸配向膜が得られるので、薄膜デバイスの形成にスパッタ法が広く用いられるようになってきた。(中略) a.形成法 ZnO薄膜の形成にもっとも広く用いられてきたスパッタ装置は、図6.2に示すような、平行平板型ダイオードスパッタ装置である。(中略)この場合グロー放電発生のための高圧電源が、直流の場合と高周波(13.56MHz)の場合とがある。直流の場合は、ターゲットの抵抗率が大きいとグロー放電が維持されないので、ターゲットとしてZnOを用いるときは、l0‐3Ωcm以下の還元されたZnO焼成体を用いる。高周波の場合は、ターゲットに焼結体を用いるがその抵抗率は、直流の場合のように特に低くする必要もない。(中略)なお、直流スパッタ用に抵抗率の低いZnOターゲットを得るには、この焼成されたターゲットをさらに1300℃程度の高温下で焼成する。」と記載される。 刊行物8; 「ZnO薄膜表面波フィルタ」に関するもので、 581頁左欄第32行〜同39行には、 「2.ZnO薄膜SAWフィルタの構造 Fig.1はZnO薄膜SAWフィルタの基本構造を示す。・・・ZnO圧電導膜の膜厚は表面波の波長以下にあり、この圧電導膜には、高抵抗でかつ均一な膜厚、結晶性が要求される。」と記載され、 582頁左欄第12行〜同第28行には、 「3.1ガラス基板 スパッタ法によってガラス基板上にZnO膜を形成すると、100℃程度の低温でもc軸配向膜が得られるので、薄膜デバイスの形成に、スパッタ法が広く用いられてきた。・・・ (i)薄膜形成速度・基板温度・膜厚 通常DCあるいはRF-ダイオードスパッタでは、1〜l0Paのアルゴン/酸素混合ガスをスパッタ放電に用いる。」と記載される。 刊行物9; (1)特許請求の範囲には、「高周波スパッタリングに用いるターゲットとして、酸化亜鉛にバナジウムを含有させたことを特徴とする高周波スパッタリング用酸化亜鉛系磁器。」と記載される。 (2)第1頁左欄下から5行〜右欄3行には、「直流2極型はスパッタリング法の中でもっとも単純であるが、ターゲットとなる酸化亜鉛磁器の比抵抗を低くしないと、イオンに曝されるターゲットの表面に正電荷が蓄積されるため、スパッタリングが効率よく行えず、安定な放電が維持できなかった。また比抵抗の低いターゲットを用いるため、得られた膜の比抵抗も低くなる傾向がある。」と記載される。 (3)第2頁左上欄第7〜11行には、「従来はターゲットに高純度の酸化亜鉛の磁器を用いていたが、焼成前の成型品を1300℃以上の高温で焼成すると、焼結密度は理論密度の90%以上になるが、比抵抗は低くなり、高周波スパッタリング用のターゲットとしては不適当である。」と記載される。 (対比・判断) [本件発明1について] 先ず、本件発明1が刊行物1或いは2に記載の発明であるか否かについて検討するに、前記2.項エにて記載した理由により、本件発明1が刊行物1或いは2に記載の発明であるとはいえない。 つぎに、本件発明1が刊行物1〜9に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。 前記2.項エにて記載した理由により、本件発明1が刊行物1〜3に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 また、刊行物9は、刊行物3と同様な発明が記載された文献である。 刊行物6は、酸化インジウム/酸化スズ混合物を基材とする酸化物-セラミック・スパッタリングターゲットに関するもので、本件発明1の「酸化亜鉛焼結体からなるもの」とは相違する。また、刊行物6には、本件発明1のような「焼結密度5.6g/cm3以上で、かつ比抵抗0.005Ω・cm以下である焼結体」についての具体的記載も何等ない。 刊行物7には、「ZnO薄膜の形成にもっとも広く用いられてきたスパッタ装置は、図6.2に示すような、平行平板型ダイオードスパッタ装置である。(中略)この場合グロー放電発生のための高圧電源が、直流の場合と高周波(13.56MHz)の場合とがある。直流の場合は、ターゲットの抵抗率が大きいとグロー放電が維持されないので、ターゲットとしてZnOを用いるときは、l0‐3Ωcm以下の還元されたZnO焼成体を用いる。」と記載されるが、刊行物7のものは添加元素を含有するものではないから、刊行物7のものは、本件発明1の「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する酸化亜鉛焼結体からなるもの」を使用するものとは明らかに相違し、また、焼結密度に関する記載もない。 また、刊行物4は「セラミック発熱体」に関するものであって、本件発明1の「透明導電性薄膜用スパッタリングターゲット」とは明らかに相違するものである。また、本件発明1の「焼結密度5.6g/cm3以上で、かつ比抵抗0.005Ω・cm以下である焼結体」についての記載を開示するものでもない。 刊行物5は「RFマグネトロンスパッタリング法で作成されたIII族不純物元素添加酸化亜鉛薄膜」に関するものであって、本件発明1の「透明導電性薄膜用スパッタリングターゲット」とは明らかに相違するものである。 さらに、刊行物8は、「ZnO薄膜表面波フィルタ」に関するものであって、本件発明1の「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する酸化亜鉛焼結体からなる透明導電性薄膜用スパッタリングターゲット」とは明らかに相違するものである。また、本件発明1の「焼結密度5.6g/cm3以上で、かつ比抵抗0.005Ω・cm以下である焼結体」についての記載を開示するものでもない。 したがって、本件発明1は、刊行物1〜9に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。 [本件発明2について] 本件発明2が刊行物1〜9に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。 前記2.項エにて記載した理由により、本件発明2が刊行物1〜3に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 刊行物9は、刊行物3と同様な発明が記載された文献である。 また、刊行物5〜8のいずれも、本件発明2の「少なくとも空気中の酸素濃度より低減させた酸素濃度雰囲気下で,1300℃を超える温度で焼結する」構成を開示するものではない。 刊行物4には、その特許請求の範囲第1項に「酸化亜鉛に、3価の原子価をとる金属を少なくとも1種以上を0.01原子%以上10原子%以下含み、理論密度の90%以上の密度を有することを特徴とする焼結体セラミック発熱体」が記載され、同第3項に「酸化亜鉛が金属亜鉛に還元されない非酸化性雰囲気で焼結されてなることを特徴とする特許請求の範囲1・・・記載のセラミック発熱体」が記載され、また、2頁右下欄5行〜16行に実施例1として「酸化亜鉛粉末に酸化アルミニウム粉末および酸化クロム粉末をlml%(lmol%の誤り)配合し、湿式ボールミルで20時間混合した。この粉末を乾燥後3%のカンファーを結合剤として添加し、3トン/cm2の圧力で10×60×2mmの短冊形に成形した。該焼結体を酸素を除去した窒素気流中で1350℃で焼結した。・・・焼結体の比抵抗はそれぞれ0.46Ω・cm、0.24Ω・cmで、理論密度の95%の密度を有していた。」ことが記載される。即ち、刊行物4には、本件発明2と同様「正三価以上の原子価を有する元素を含有する酸化亜鉛を、少なくとも空気中の酸素濃度より低減させた酸素濃度雰囲気下で,1300℃を超える温度で焼結する」ことが記載されているといえるが、刊行物4は「セラミック発熱体の製造」に関するものであって、本件発明2の「透明導電性薄膜用スパッタリングターゲットの製造」に関するものとは著しく技術分野を異にする。よって、刊行物4記載の発明を、刊行物1〜3および刊行物5〜9記載の発明と組み合わせて、本件発明2の構成となすことはできない。 したがって、本件発明2は刊行物1〜9に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 エ.むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1,2の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1,2の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、平成6年附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 スパッタリングターゲット及びその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 1)アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する焼結密度5.6g/cm3以上、比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体からなる透明導電性薄膜用スパッタリングターゲット。 2)正三価以上の原子価を有する元素を含有する酸化亜鉛を、少なくとも空気中の酸素濃度より低減させた酸素濃度雰囲気下で、1300℃を超える温度で焼結することを特徴とする、正三価以上の原子価を有する元素を含有する焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体からなる透明導電性薄膜用スパッタリングターゲットの製造方法。 【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、スパッタリング法により透明導電性薄膜を形成するのに用いる酸化亜鉛焼結体からなるスパッタリングターゲット及びその製造方法に関するものである。 [従来の技術] 近年、太陽電池やディスプレー機器の透明電極や、帯電防止用の導電性コーティングとして透明導電性金属酸化物薄膜の需要が高まっている。導電性金属酸化物の透明導電性薄膜は、主に金属酸化物のスパッタリングにより形成されているが、従来、添加物としてスズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、同じくアンチモンをドープした酸化スズの焼結体をスパッタリングすることにより生成されている。 しかしITOは、透明性が大であり、低抵抗の薄膜形成が可能である反面、インジウムが高価なため経済的に難点があり、さらに化学的にも不安定であるためにその適用範囲に制限があった。 一方アンチモンドープ酸化スズは安価で化学的にも比較的安定であるが、このものは高抵抗なため導電性薄膜用の材料としては必ずしも十分な材料とは言えなかった。 最近添加物としてアルミニウムをドープした酸化亜鉛をスパッタリングすることによりITO並に低抵抗で透明性に優れた透明導電性薄膜が得られることが報告されている(J.Appl.Phys.55(4),15 February 1988 p1029)。 酸化亜鉛は安価な上に化学的にも安定で、透明性、導電性にも優れていることからITO等に代替可能な優れた透明導電性材料である。 しかしこれまでのスパッタリングターゲット用添加物含有酸化亜鉛焼結体は、1300℃以下の温度で熱処理されたもので、このものの色相は白色であり、比抵抗が数キロΩ・cm以上の高抵抗のものであった。そのため、このような従来のターゲットを適用できるスパッタリング法が、絶縁物に使用される高周波スパッタリング法に限定され、導電体に適用できる工業的な直流スパッタリングには使用が困難であった。 このような高抵抗の焼結体を敢えて直流スパッタリングに使用した場合、投入可能な電力が著しく低い上に、放電が非常に不安定で連続運転において支障をきたしていた。 [問題点を解決する手段] 本発明者等は添加物ドープ酸化亜鉛に関して鋭意検討を重ねた結果、正三価以上の元素を含有する酸化亜鉛を比較的高い温度で焼結することにより、焼結体密度が高く、かつ比抵抗が1Ω・cm以下の極めて低抵抗焼結体が得られることを見出だし本発明を完成した。 本発明で導電性付与のためのドーパント(添加物)として用いる正三価以上の原子価を持つ元素(導電活性元素)としては、原子価状態として三価以上の状態が存在する元素であり、このような元素の例としては、例えば周期律表IIIA族のSc、Y、同IIIB族のB、Al、Ga、In、Tl、同IVA族のTi、Zr、Hf、Th、同IVB族のC、Si、Ge、Sn、Pb、同VA族のV、Nb、Ta、Pa、同V B族のAs、Sb、Bi、同VIA族のCr、Mo、W、U、同VIB族のSe、Te、Po、同VHA族のMn、Tc、Re、同VII1族のFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt及びランタノイド、アクチノイド系列の元素である。これらの導電活性元素の使用量は亜鉛に対して0.1atm.%から20atm.%、特に好ましくは0.5atm.%から5atm.%であり、この範囲の焼結体原料組成物を用いることにより、低抵抗な酸化亜鉛焼結体が得られる。 本発明の焼結体原料に使用する組成物は上記の組成を満足するものであればいかなる方法で作成されたものでも適用可能である。 例えば酸化亜鉛と導電活性元素の酸化物を単に混合する方法、又は亜鉛化合物と導電活性元素の化合物、例えばこれらの水酸化物、有機塩、無機塩等を混合したものを熱分解して、又は亜鉛と前記元素を前記した割合となるように含む混合溶液から、生成物を通常の方法で共沈させた後熱分解して酸化物とする方法等が考えられる。これらの方法で作成した酸化物粉末は上記した組成を満足していればその性状に特別の制限はないが、中でも一次粒径が1μm以下、粒度分布から求めた比表面積が2m2/g以上の高分散性の粉末が好ましい。このように粉末が微細で高分散性であればこれを用いて得た焼結体の焼結密度が向上し、焼結体の導電性がより一層向上する。 本発明の焼結体は、上記した方法で得た酸化物粉末を通常の方法、例えば、バインダーを添加するなどして目的とする形状に予備成形し、その成形体を高温で焼結することによって製造することが可能であるが、この際の焼結温度は1300℃を超える温度、特に1400℃以上で焼結することが好ましい。酸化亜鉛の融点は1800℃であるが、前記した導電活性元素を含有する酸化亜鉛は融点降下し、本来の酸化亜鉛の融点以下の温度で溶融するため、本発明での焼結温度は1700℃以下、特に1600℃以下が好ましい。 更にこの焼結温度が1400℃以上では焼結粒子の粒界が溶融し始め、焼結体の色調が青色又は緑色に着色する。しかし焼結粒子の粒界を完全に溶融させると、焼結体の比抵抗は低下するが、焼結体内部に、外部とは遮断された状態で気孔が残存することがあり、このような焼結体を用いてスパッタリングすると、スパッタリング中に気孔内部のガスが不規則に発生し得られる薄膜の均一性を損なう原因となる。従って常圧で焼結する場合、焼結粒子の溶融が余り進行した焼結体はスパッタリングターゲットとして好ましくない。ただし真空中で焼結したものは前記したような気孔による問題は生じない。又、1300℃以下の温度では、酸化亜鉛格子に導電活性元素が充分に固溶せず、なおかつ焼結が不十分であるために、低抵抗の焼結体が得られない。 そこで、本発明での焼結温度の最適値としては、1400℃から1500℃程度で、若干焼結粒子の粒界が溶融し始める前後の温度が好ましく、このような条件で焼結することにより、本発明で限定した性状を持つ焼結体が得られる。 本発明で、前記焼結温度における保持時間は、数時間から数十時間で良く、特に5時間から20時間程度で十分である。 また焼結雰囲気としては空気中でも上記のような高温で焼結すれば十分低抵抗な焼結体となるが、特に不活性雰囲気又は真空中、即ち、少なくとも空気中の酸素濃度より少ない酸素濃度雰囲気下で焼結すると、被焼結粒子近房及び焼結体内の焼結粒子粒界の吸蔵酸素が低減し、更に低抵抗で高密度な焼結体が得られる。 上記した焼結は、通常の抵抗加熱電気炉、赤外炉等を用いて行なう。 このようにして得られた酸化亜鉛焼結体の比抵抗は1Ω・cm以下で、多くは0.1Ω・cm以下である。また酸化亜鉛の真密度は5.8g/cm3であるが、本発明の、高温焼結した低抵抗焼結体の密度は5g/cm3以上である。特に、添加元素としてアルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種を用い例えば、不活性雰囲気中で1300℃を越える温度で焼結することにより、比抵抗0.005Ω・cm以下、焼結体密度5.6/cm3以上の酸化亜鉛焼結体が得られる。 [本発明の効果] 本発明の低抵抗な酸化亜鉛焼結体は透明導電膜形成用のスパッタリングターゲットとして極めて優れた性能を有している。即ち、この物は非常に低抵抗であるため、スパッタリング法として高周波法だけでなく工業的な直流法にも適用可能である。更にこの物を用いたいずれのスパッタリング法においても放電状態が安定し、極めて低抵抗で透明性に優れた透明導電膜が安定的に製造可能であり、加えて当該酸化物焼結体は高密度であるため機械的強度が強く、さらに低抵抗であることとあわせて投入電力限界が向上し、高速成膜が可能である。 [実施例] 以下実施例で本発明を説明するが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。 実施例1 酸化亜鉛と表1に示した各種元素の酸化物を重量比で98:2となるように混合し、粉砕(平均粒径0.5μm)したものを、金型プレス成形によって成型し(100mmφ×10mm厚さ)、この成形体を電気炉を用いて空気中で各5時間焼結した。各焼結温度における各焼結体の比抵抗と焼結密度を表1に示す。尚、比較のため1100、1200℃で焼結した焼結体の比抵抗と焼結密度を併せて同表に示す。焼結体の比抵抗は1300℃以上の焼結温度での焼結で最低値に達し、焼結密度も1300℃以上の焼結温度での焼結で5g/cm3以上となった。また焼結体の色相は1400℃以上で黄色から深緑色に変色し、焼結粒子粒界の溶融が認められた。 アルミニウムを添加した酸化亜鉛焼結体(焼結温度1400℃)の焼結粒子の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(2000倍)を図-1に示す。又、同じく1100℃で焼結した焼結体の同写真を図一2に示す。尚、酸化亜鉛の焼結体は酸素が吸着するとその比抵抗にばらつきが生じるため、比抵抗の測定は全てArガス雰囲気中で行った。 比抵抗は四探針法で、又焼結密度は通常の方法で測定した。(以下同じ) 実施例2 酸化亜鉛と各種元素の酸化物をモル比で98:2となるようにした以外は実施例1と同様に粉砕混合成型し、実施例1と同様の装置でアルゴン雰囲気中で1300℃各5時間焼結した。焼結体の比抵抗と焼結密度を表1に示した。不活性雰囲気中で焼結することにより、焼結粒界の酸素濃度が低減し、焼結性が向上し、低抵抗で、高密度な焼結体が得られた。 実施例3 実施例1、2で得られた焼結体をスパッタリングターゲットとして用い、次のスパッタリング条件で薄膜を生成した。得られた透明導電膜の特性を表2に示した。 スパッタリング装置 平行電極DCマグネトロンスパッタ ターゲットサイズ 3インチ 投入電力 5W/cm2 スパッタ Ar スパッタ圧力 0.5Pa 基板 石英ガラス 基板温度 200℃ 【図面の簡単な説明】 図-1は、本発明で1400℃で焼結して得た焼結体の結晶粒子の構造を示す走査型電子顕微鏡写真(2000倍)、図-2は1100℃で焼結して得た焼結体の同写真である。 |
訂正の要旨 |
ア.訂正事項 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1「正三価以上の原子価を有する元素を含有する焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「アルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種の元素を含有する焼結密度5.6g/cm3以上、比抵抗0.005Ω・cm以下の酸化亜鉛焼結体」と訂正する。 訂正事項b 特許請求の範囲の請求項3「酸素濃度雰囲気下で焼結することを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「酸素濃度雰囲気下で、1300℃を超える温度で焼結することを特徴とする、正三価以上の原子価を有する元素を含有する焼結密度5g/cm3以上、比抵抗1Ω・cm以下の酸化亜鉛凝結体からなる透明導電性薄膜用」と訂正し、これを訂正後の請求項2とする。 訂正事項c 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の訂正前の請求項2を削除する。 訂正事項d 明細書第8頁第14〜16行(特許公報第3頁第5欄第4〜6行)「また酸化亜鉛の真密度は5.8g/cm3であるが、本発明の、高温焼結した低抵抗焼結体の密度は5g/cm3以上である。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「また酸化亜鉛の真密度は5.8g/cm3であるが、本発明の、高温焼結した低抵抗焼結体の密度は5g/cm3以上である。特に、添加元素としてアルミニウム、インジウム又はスズのいずれか1種を用い、例えば、不活性雰囲気中て1300℃を越える温度で焼結することにより、比抵抗0.005Ω・cm以下、焼結体密度5.6g/cm3以上の酸化亜鉛焼結体が得られる。」と訂正する。 訂正事項e 誤記の訂正を目的として、明細書第4頁第19行(特許公報第2頁第3欄第37行)「周期率表IIIA族」を「周期律表IIIA族」と訂正する。また、同目的で、明細書第11頁第7〜8行(特許公報第3頁第6欄第21〜22行)「次のスパッタリング条件薄膜を生成した」を「次のスパッタリング条件で薄膜を生成した」と訂正する。 |
異議決定日 | 2000-06-30 |
出願番号 | 特願平1-95318 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 米田 健志 |
特許庁審判長 |
石井 勝徳 |
特許庁審判官 |
唐戸 光雄 新居田 知生 |
登録日 | 1998-07-24 |
登録番号 | 特許第2805813号(P2805813) |
権利者 | 東ソー株式会社 |
発明の名称 | スパッタリングターゲット及びその製造方法 |
代理人 | 上田 章三 |
代理人 | 小田 治親 |