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審決分類 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1024263
異議申立番号 異議1998-74960  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-02-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-10-07 
確定日 2000-08-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2739161号「加熱耐性を有するO/W型乳化脂組成物及び該組成物を含有した加熱殺菌処理済食品」の請求項1乃至3に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2739161号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許2739161号は、昭和63年8月5日に特許出願され、平成10年1月23日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、荻上豊規及び河嶋慶太より本件請求項1乃至3に係る発明について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成11年3月12日に訂正請求がなされたが、この訂正請求に対し平成11年8月9日付け及び平成12年3月3日付け訂正拒絶理由通知がなされ、平成11年12月13日付け手続補正書及び平成12年4月28日付け特許異議意見書がそれぞれ提出された。その後、本件特許に係る発明について新たな取消理由が発見されたので、平成12年6月20日付けで訂正拒絶理由通知を兼ねた取消理由通知がなされたところ、平成11年3月12日付け訂正請求書、平成11年12月13日付け手続補正書及び平成12年2月18日付け手続補正書(方式)が取り下げられ、平成12年7月3日付けで再度訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項
平成12年7月3日付けの訂正請求は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として、本件特許明細書を次のとおり訂正するものである。
(i)「特許請求の範囲」の欄
特許請求の範囲の減縮と明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおり訂正請求されている。
訂正事項a:請求項1を削除する。
訂正事項b:請求項2を減縮すると共に「ポリグリセリンの平均重合度6分子以下」を明りょうでない記載の釈明を目的として「ポリグリセリンの平均重合度が6以下」とし、また項番を繰り上げて次のとおりとする。
「1.乳清蛋白質を0.1〜5.0重量%及び油脂を20〜60重量%含有するO/W型エマルジョンであって、乳化剤としてポリグリセリンの平均重合度が6以下で、平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種と、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる少なくとも1種を含有する、加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物。」
訂正事項c:請求項3を項番を繰り上げて次のとおりとする。
「2.請求項1記載のO/W型乳化脂組成物を含有してなるpH2〜9の加熱殺菌処理済食品。」
(ii)「発明の詳細な説明」の欄
誤記の訂正と明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおり訂正請求されている。
訂正事項d:明細書第5頁第1行乃至第2行目(特許公報第3欄第39行乃至第40行目)の「乳清蛋白質を0.1〜5.0重量%含有する」を、「乳清蛋白質を0.1〜5.0重量%及び油脂を20〜60重量%含有する」と訂正する。
訂正事項e:明細書第5頁3行目〔特許公報第3欄第40行乃至第41行目)の「ポリグリセリン脂肪酸エステル」を「ポリグリセリンの平均重合度が6以下で、平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル」と訂正する。
訂正事項f:明細書第5頁第6行乃至第7行目(特許公報第3欄第44行目)の「O/W型乳化脂組成物」を「加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物」と訂正する。
訂正事項g:明細書第6頁第4行目(特許公報第4欄第9行目)の「特に制限されないが」を削除する。
訂正事項h:明細書第6頁第5行乃至第8行目(特許公報第4欄第10行乃至第11行目)の「平均エステル化度が1〜5のものが好ましく」を「平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるものであり」と訂正する。
訂正事項i:明細書第6頁第6行目(特許公報第4欄第11行目の「例えばて」を「例えば」と訂正する。
訂正事項j:明細書第7頁第16行乃至第17行目(特許公報第4欄第37行乃至第88行目)の「油脂の総量が60〜2.0重量%の範囲が好ましい。」を「油脂の総量が60〜20重量%の範囲である。」と訂正する。
訂正事項k:明細書第10頁第4行目(特許公報第6欄第8行目)の「実施例2〜6」を「実施例2〜5」と訂正する。
訂正事項l:明細書第11頁(特許公報第7欄及び第8欄)の第1表中の「実施例6」と同表中の下から4列目の「デカグリセリンモノステアレート」の列を削除する。
訂正事項m:明細書第12頁(特許公報第7欄及び第8欄)の第2表中の「実施例6」を削除する。
訂正事項n:明細書第13頁第1行目(特許公報第9欄第1行目)の「実施例7」を「実施例6」と訂正する。
訂正事項o:明細書第13頁下から2行目(特許公報第9欄第20行目)の「実施例8」を「実施例7」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、請求項の削除であるから特許請求の範囲の減縮に該当し、訂正事項b及びcも特許請求の範囲の減縮と明りょうでない記載の釈明に該当する。また、上記訂正事項d乃至訂正事項oは特許請求の範囲の減縮に伴う明りょうでない記載の釈明又は誤記の訂正に該当するものであり、しかも、いずれの訂正事項も特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)独立特許要件の判断
(本件訂正発明)
本件訂正明細書の請求項1及び2に係る発明(以下、「訂正発明1及び2」という)は、平成12年7月3日付けの訂正請求の上記2.(1)(i)に示す請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(引用刊行物)
当審が平成10年12月24日付け取消理由通知及び平成11年8月9日付け訂正拒絶理由通知において引用した刊行物1乃至13には、それぞれ次の事項が記載されている。
引用例1:特開昭60-54635号公報
(イ)「(1)油相と水相とを酸性物質の存在下に乳化してpHが3.5乃至5.0の酸性ホィッピングクリームを製造するにあたり、乳化剤としてレシチン及び蔗糖脂肪酸エステルと、さらに構成脂肪酸が飽和酸及び不飽和酸からそれぞれ成る2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとを併用することを特徴とする酸性ホィッピングクリームの製造法。」(第1頁左欄特許請求の範囲の項)
(ロ)「(8)水相中に乳清蛋白を用いる特許請求の範囲第(1)項乃至第(7)項のいずれかに記載の方法」(第1頁右欄特許請求の範囲の項)
(ハ)「本発明は、酸性下においても乳化状態が安定であり、かつ、起泡性と保型性に優れた酸性ホィッピングクリームの製造法に関する。」(第1頁右欄第15行乃至第17行)
(ニ)「本発明は、乳化剤として・・・さらに構成脂肪酸が飽和酸及び不飽和酸からそれぞれ成る2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとを併用する必要がある。これらの乳化剤を単独使用しても本発明の目的を達成することができないことは、前記実験結果において示したとおりであって、前掲乳化剤中起泡力において最も良好であったのはMS-500(ヘキサグリセリンモノステアレート)とQ18B(ジグリセリンモノステアレート)であるが、両者は何れも戻り現象を呈し、殊に後者は著しい。」(第3頁上段右欄第14行乃至下段左欄第4行)
引用例2:特開昭58-209947号公報
(イ)「本発明は、クリーム状の酸性水中油型乳化脂の製造法、詳しくは、長期間安定性が良く、使用に簡便な起泡性を兼ね備え、・・・酸性水中油型乳化脂の製造法に関するものである。」(第1頁左欄第20行乃至右欄第5行)
(ロ)「上昇融点30〜38℃のラウリン系油脂を少なくとも40重量%含有する油脂15〜50重量%、主たる乳化剤としてポリグリセロール脂肪酸エステルを油脂分に対して0.5〜4.0重量%、安定剤として天然高分子多糖類又は/及びセルロース誘導体を0.01〜1.0重量%、有機酸又は/及び酸性呈味成分、無脂乳固形分、糖類及び澱粉類からなる群より選ばれた1種又は2種以上の物質、及び水を含有する、pH3.5〜5.5で蛋白質含量0〜6.0重量%及び炭水化物含量1.0〜35.0重量%の水中油型乳化脂を調製し、これを超高温加熱滅菌処理することを特徴とする酸性水中油型乳化脂の製造法」(第1頁左欄特許請求の範囲の項)
(ハ)「本発明の如く、酸性域にあり、かつ超高温加熱滅菌を施す水中油型乳化脂の場合、一般には蛋白の凝集、乳化剤の凝集・効力の低下が促進される。・・・本発明ではこの乳化剤のダメージを抑える為にポリグリセロール脂肪酸エステルを単独使用することが好ましいが、例えば予備乳化混合時の作業性改善等の目的によりレシチン、モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル等を使用することはできるが、」(第2頁下段左欄第4行乃至第19行)
引用例3:「ニューフードインダストリー」(株)食品資材研究会発行、1985年第27巻第3号、第69頁乃至第78頁
「WPC」の機能特性について記載されている。
引用例4:「周知・慣用技術集(食品)II合成クリーム製造技術」特許庁発行、昭和55年1月30日、第33頁乃至第52頁
「合成クリーム製造技術」に関し、次の記載がある。
(イ)「(i)乳化を安定させる効果を有する乳化剤
各種蛋白質、例:乳蛋白(カゼイン、乳清蛋白)、大豆蛋白、卵白」(第38頁乳化剤の種類の項)
「合成クリームに用いる乳化剤として、・・・モノグリ系、プロピレングリコール系、ソルビタン系の乳化剤、ショ糖脂肪酸エステル及び天然物(ガム質、レシチン等)を任意の配合割合で適宜組合せる。」(第39頁合成クリーム用乳化剤の配合の項)
引用例5:月刊誌「フードケミカル」(株)食品化学新聞社発行1987年6月号、昭和62年6月1日、第43頁乃至第49頁
(イ)「WPCとは乳清たん白濃縮物・・・のことであり、ラクトアルブミンともいわれ、ホエーから製造される。」(第43頁左欄第2行乃至第4行)
(ロ)「WPCにより水と油を乳化した液は、加熱すると油を抱いてゲル化し、油の分離がない。」(第46頁左欄第5行乃至第7行)
引用例6:特開昭52-25058号公報
(イ)「本発明はカスタード・プリン等の卵と牛乳を主成分とする食品類の素材として、十分に牛乳に代替しうる濃縮牛乳状組成物の製造方法に関するものである。」(第1頁右欄第2行乃至第5行)
(ロ)「油脂6.0〜15.0%(全体に対する重量%、以下同じ)、乳化剤0.1〜1.0%、非脂肪固形物16.0〜40.0%、および水45.0〜77.5%とから水中油型エマルジョンを調製し、それを均質化して濃縮牛乳状組成物を製造する方法において、非脂肪固形物として脱脂粉乳と・・・からなる群から選ばれた1種または2種以上のナトリウム塩とを使用・・・する濃縮牛乳状組成物の製造方法。」(第1頁左欄特許請求の範囲の項)
(ハ)「また乳化剤としては例えばレシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、・・・グリセリン脂肪酸エステル、・・・等の1種又は2種以上を選択使用することができ、好ましくは、・・・蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤とグリセリン脂肪酸エステルとを併用すれば長期保存中に・・・オイルアップ現象がほとんど発生しないところの、良質の濃縮牛乳状組成物を得ることができる。」(第4頁上段左欄第20行乃至右欄第13行)
引用例7:「SYグリスター技術資料集」阪本薬品工業(株)発行、昭和60年3月発行の技術資料No.9、第1頁乃至第5頁
「SYグリスター」のコーヒーフレッシュ用乳化剤としての性能について、「SYグリスターをコーヒーフレッシュ用乳化剤として用いた場合、特にMSW-750(またはレシチンとの併用)では、殺菌工程時の安定性の向上または、(酸味の強い)コーヒーに入れた場合のオイルオフやフェザーリング現象防止に優れた効果が期待される。」(第5頁あとがきの項)と記載されている。
引用例8:「ポリグリセリンエステル」阪本薬品工業(株)発行、昭和61年5月2日発行、第78頁乃至第95頁及び第105頁乃至第107頁
(イ)第78頁の表6・2・1に「SYグリスターの一般的性質(代表例)」が記載されている。
(ロ)ポリグリセリンエステルの「コーヒーホワイトナーへの応用」に関し、「ポリグリセリンエステルとショ糖モノステアレートを併用すると、さらに粘度の低いエマルジョンが得られる。この性質は、高蛋白質含有量で、かつ、粘度の低いエマルジョンを調製するのに活用できる。・・・ポリグリセリンエステルのコーヒーホワイトナーへの応用例としては、レシチン、サイクロデキストリン、ガム質、酵素修飾蛋白質、ショ糖エステルなどと併用するなど、多くの特許が出願されている。」(第107頁)
引用例9:特公昭56-54136号公報
(イ)「本発明は改良された調整高油分クリーム、殊に当業界内で俗に「ボテ」と称される可塑化現象の発生を防止した油脂含量の高いクリーム状組成物の製造法に関するものである。」(第1頁第1欄第19行乃至第22行)
(ロ)「以上記述の如く、・・・組成中の界面活性剤が親油性活性剤としてのレシチンと親水性活性剤としての・・・蔗糖脂肪酸エステル・・・以外にポリグリセロール脂肪酸エステルとを併用し、しかもそれら活性剤の含量が油脂に対し一定の範囲内にない限り、目的とする可塑化を防止し、しかも他の諸点でも実用価値を有するような合成クリームは得られないということである。」(第3頁第6欄第35行乃至第4頁第7欄第2行)
(ハ)「特にコーヒーホワイトナーの場合は殊に風味が重視されるところから、活性剤の添加量は可及的少い方が好ましい。トッピングクリームの場合はレシチン及びポリグリセロール脂肪酸エステルの使用量は風味より物性中心に考慮すれば良く、」(第5頁第9欄第37行乃至第42行)
(ニ)「油脂28〜60重量%と牛乳、脱脂乳もしくは水又はそれらの混合物72〜40重量%及び乳化剤とからクリーム状組成物を得る公知の調整高油分クリーム状組成物の製造方法において、乳化剤としてレシチンとポリグリセロール脂肪酸エステル、を夫々油脂分に対し0.1〜3.0重量%を併用すること及び乳化後の組成物の殺菌手段として直接加熱方式を用いることを特徴とする調整高油分クリーム状組成物の製造方法」(第6頁第12欄特許請求の範囲の項)
引用例10:特公昭58-47151号公報
「下記(イ)の原料油脂25〜55重量%、無脂乳固形分1〜10重量%、残部水からなる水中油滴型乳化液に、さらに・・・下記の(ロ)乳化剤及び(ハ)リン酸塩を水中油滴型乳化液に対してそれぞれ0.1〜2重量%および0.05〜0.5重量%添加含有せしめてなるクリームよう組成物。(イ)原料油脂・・・(ロ)乳化剤グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、大豆リン脂質の1種または2種以上(ハ)リン酸塩・・・ポリリン酸ナトリウムの1種または2種以上」(第1頁特許請求の範囲の項)
引用例11:「シュガーエステル物語」第一工業製薬(株)発行、昭和59年、第183頁乃至第188頁
「液状コーヒーホワイトナーにおける乳化剤の役割は、O/W型エマルジョン調製のための乳化作用のみならず、高温殺菌、冷却というヒートショックによっても乳化破壊されず、製品化後も長時間安定な乳化作用を有していることが最低必要であり、」(第184頁)
引用例12:特開昭52-64455号公報
(イ)「油脂6.0〜15.0%(全体に対する重量%、以下同じ)、乳化剤0.1〜1.0%、・・・ナトリウム塩0.1〜2.0%、非脂肪固形物16.0〜40.0%、および水42.0〜78.0%とを混合撹拌し、しかる後均質化して、・・・ナトリウム分、カルシウム分、リン分を含有する水中油型エマルジョンを得ることを特徴とする濃縮牛乳状組成物の製造方法。」(第1頁左欄特許請求の範囲の項)
引用例13:特公昭57-29134号公報
(イ)「本発明はプリン様食品の製造に適した水中油型エマルジョン及びこのエマルジョンによるプリン様食品の製造法に関する。」(第1頁第2欄第2行乃至第4行)
(ロ)「水で稀釈して融点45℃以下の食用油脂1〜12%(重量基準、以下同じ)、脱脂乳固形4〜20%、残量水から成る均密な混合物を形成するように計算量の油脂と脱脂乳固形と水との濃縮混合物を、該濃縮混合物に対し0〜0.1%未満の非イオン性乳化剤を用いて油滴の大きさが約2.0μ以下の水中油型エマルジョンにまで乳化することを特徴とするプリン様食品製造用エマルジョンの製造法。」(第1頁第1欄特許請求の範囲の項)
(ハ)「乳化剤としては可食性の非イオン性のものであればどれでも使用できるが、殊にレシチンと蔗糖脂肪酸エステルの組み合わせは前者による歯切れの良さと後者の持つ粘着性とが相互的に作用して最も好ましいプリン様食品を与える。」(第5頁第10欄第5行乃至第10行)
(対比・判断)
(i)本件訂正発明1について
引用例1には、乳清蛋白を用いた「酸性ホィッピングクリームの製造法」に関し、その乳化剤として「レシチン及び蔗糖脂肪酸エステルと、さらに構成脂肪酸が飽和酸及び不飽和酸からそれぞれ成る2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとを併用する酸性ホィッピングクリームの製造法」が記載されているが、この方法は、上記引用例1(ニ)の記載から明らかな如く、「不飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル」を必須とし、この不飽和酸が存在しなければ所望の目的を達成することができないと明記されている。
してみると、本件訂正発明1は、「不飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル」を用いない点で引用例1に記載の発明と相違する。また上記引用例1には、その余の記載に照らしても、「不飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル」を用いないで所望の目的を達成することができるとする根拠が見当たらないから、本件訂正発明1は、上記引用例1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
引用例2には、「酸性水中油型乳化脂の製造法」が記載されているが、その乳化脂は本件訂正発明1とその含有成分が別異のものである。また、乳化剤についても、上記(ハ)の記載の「本発明ではこの乳化剤のダメージを抑える為にポリグリセロール脂肪酸エステルを単独使用することが好ましいが、例えば予備乳化混合時の作業性改善等の目的によりレシチン、モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル等を使用することはできる」によれば、引用例2に記載の「水中油型乳化脂」は、基本的にはポリグリセロール脂肪酸エステルの単独使用を示唆するものであり、本件訂正発明1の如く、「加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物」を得るための「特定の乳化剤の併用」を示唆するものではない。
引用例3乃至5には、「WPCの機能特性」に関する一般的な記載や「合成クリーム用乳化剤」に関する記載がみられるが、そこには、本件訂正発明1の「加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物」について示唆するところがない。また乳化剤についても、一般的な乳化剤が多数列挙され「適宜組合せる」と示唆されているだけで、「乳清蛋白質0.1〜5.0重量%」と「特定の乳化剤の併用」とにより高温加熱しても優れた乳化安定性を示すような具体的な例示もない。
引用例6には、「濃縮牛乳状組成物の製造方法」が記載されているが、この「濃縮牛乳状組成物」は「油脂6.0〜15.0重量%」であり、また「非脂肪固形物16.0〜40.0重量%」であるから、本件訂正発明1とその含有成分が別異のものである。また乳化剤についても、2種以上の併用を示唆しているが、その効用は「オイルアップ現象の防止」であり、本件訂正発明1の「加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物」の高温加熱後の乳化安定性ではない。
引用例7には、「SYグリスターの性能」に関し、「コーヒーフレッシュ用乳化剤」として使用した場合、MSW-750又はレシチンと併用すれば殺菌工程時の安定性が向上することが記載されているが、そこには乳清蛋白質との組合せに関する記載や効能について何ら記載がなく、また本件訂正発明1の解決すべき課題である「広範なpH下にて加熱を受けても優れた乳化安定性を保つ加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物」についても何ら示唆されていない。
引用例8には、「SYグリスター」の一般的性質が記載されているだけである。
引用例9には、「調整高油分クリーム状組成物の製造法」に関し、「レシチンとポリグリセロール脂肪酸エステルとを併用」することが記載されているが、その目的は「合成クリームの可塑化発生防止」のためであり、本件訂正発明1の目的と別異のものである。
引用例10には、「クリームよう組成物」が記載されているが、これは本件訂正発明1と含有成分が別異のものである。また引用例10には、特定の乳化剤を併用した具体例が記載されているが、これら具体例は「乳清蛋白質0.1〜5.0重量%」との組合せを示唆するものではなく、また高温加熱後の乳化安定性について示唆するものでもない。
引用例11には、「コーヒーホワイトナー」に関する一般的記載があるだけであり、引用例12には、「濃縮牛乳状組成物の製造方法」に関し、上記引用例6のところで述べたと同様の記載があるだけである。
引用例13には、「プリン様食品の製造に適した水中油型エマルジョン」が記載されているが、このエマルジョンの油脂量は「略1〜12%の限界内にあることが好適であるように思われる。」(引用例13第3頁第5欄第20行乃至第22行)との記載から明らかな如く、本件訂正発明1の「油脂20〜60重量%」の範囲外である。また、乳化剤についても、上記引用例13には、上記(ハ)の記載によれば、「レシチンと蔗糖脂肪酸エステルの組合せ」が最も好ましいと記載されているだけで、本件訂正発明1の「ポリグリセリンの平均重合度が6以下で、平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種」との組合せについて示唆するところがない。
以上のとおり、上記引用例1乃至13には、本件訂正発明1の解決すべき課題である「pH2〜9の領域において、高温殺菌処理を施しても蛋白質に由来する凝集、沈殿物の発生又は油脂分の分離がない優れた乳化安定性を保つ加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物」について、及び「乳清蛋白質と特定の乳化剤の併用」を主な解決手段とする「O/W型乳化脂組成物」について記載又は示唆するところがないから、本件訂正発明1は、上記引用例1乃至13に記載された発明であるとすることはできないし、また上記引用例1乃至13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
(ii)訂正発明2について
本件訂正発明2は、請求項1を引用した記載形式であるから、上記(i)の理由と同様、上記引用例1乃至13に記載された発明であるとすることはできないし、また上記引用例1乃至13に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
(iii)特許明細書の記載について
平成12年6月20日付けで通知した取消理由は上記訂正により解消されたと云える。
したがって、本件訂正発明1及び2は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(4)むすび
以上のとおり、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについて
3-1.特許異議申立人荻上豊規について
(異議申立ての理由)
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第4号証及び参考資料を提出して、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証乃至甲3号証の何れかに記載された発明であるか、又はこの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また請求項2に係る発明は、上記甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であるか、又はこの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。請求項3に係る発明も、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に違反してなされたものであり、取り消されるべきものであると主張している。
(証拠の記載内容)
甲第1号証:特公昭61-19227号公報
(イ)「上昇融点15〜45℃の油脂25〜55重量%、乳固形分を含有する水溶液75〜45重量%、クエン酸モノグリセリド0.05〜4重量%およびグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチンからなる群より選ばれた少くとも1種以上の乳化剤0.05〜4重量%とを混合乳化し均質化後加熱殺菌して得られるクリーム状起泡性油脂組成物。」(第1頁第1欄特許請求の範囲)
(ロ)「実施例3
実施例1と同様の油脂混合物100重量部を70℃に加熱後、該油脂にクエン酸モノグリセリド(理研ビタミン製、ポエムK-37)1.2重量部、ポリグリエステル(理研ビタミン製、ポエムJ-4581)0.8重量部、大豆レシチン0.4重量部を添加し、撹拌して均一に溶解、分散させて油脂組成物を得る。次に該油脂組成物45重量%と乳固形分6%の脱脂乳55重量%とを混合し、以下実施例2と同様の操作によりクリーム状起泡性油脂組成物を得た。得られたクリーム状起泡性油脂組成物は実施例2と同様の結果を示し良好であった。」(第5頁第10欄第10行乃至第22行)
甲第2号証:「ジャーナル・オブ・フード・サイエンス(Journal of Food Science)」第45巻、1980年、第1237頁乃至第1242頁
(イ)「乳化物の製造
乳清蛋白質分散液(蒸留水中全乳清蛋白質1〜8%(w/w))を種々の量のココナッツ油と混合し、50℃に加温した。次いで、混合物(60g)をポリトロンPT20(キネマティカ社、スイス)により最高速度(19、500rpm)で乳化した。」(第1237頁右欄第20行乃至第25行)
(ロ)「乳化物の安定性及び粘度に及ぼすpHの影響を、PH3〜9の範囲の間で測定した。図3に示す結果は、安定性がpH5で最小となり、pHを5から3又は9への変更が安定性を増加したことを示している。」(第1239頁左欄第13行乃至第17行)
(ハ)「安定性に及ぼす乳化剤の影響を調査した。乳清蛋白質分散液(6%、PH7.0)及びココナッツ油(20%)の混合物に3種の乳化剤、即ち、ショ糖エステル(HLB=15)、モノステアレート(HLB=4)及び大豆レシチンを添加した。」(第1239頁左欄第26行乃至第30行)
(ニ)「ここで用いた条件下では、乳化剤の添加は、表3に示されるように、むしろエマルジョンの安定性を低下させた。」(第1239頁左欄第32行乃至第34行)
(ホ)「乳化直後90℃で10分間の乳化物(6%蛋白質、20%油脂)の加熱は、蛋白質のゲル化及び沈殿のような物理的変化を惹起しなかった。」(第1239頁左欄第35行乃至第38行)
(ヘ)「乳清蛋白質により製造された乳化物のクリーム状安定性は、乳清蛋白質分散液の濃度、pH、及び乳化剤の存在により影響される脂肪球表面に吸着された蛋白質の量及び性質に依存することが結論される。」(第1241頁右欄下から第6行乃至末行)
甲第3号証:特開昭57-146551号公報
(イ)「(1)油脂35〜50重量%、乳性水溶液65〜50重量%及び乳化剤を混合乳化して合成クリームを製造するに当り、乳化剤としてジグリセロール脂肪酸エステル又は(及び)トリグリセロール脂肪酸エステル0.3〜2重量%(対油脂)及びレシチン0.3〜2重量%(同)を使用することを特徴とする起泡性の合成クリームの製法。」(第1頁左欄特許請求の範囲)
(ロ)「本発明において乳性水溶液としては、牛乳、脱脂乳のほかに、乳固形を2〜10重量%含む水溶液が用いられる。乳固形とは脱脂粉乳、全脂粉乳、ナトリウムカゼイネート、ホエー蛋白、粉末バターミルクなどである。」(第2頁下段右欄第17行乃至第3頁上段左欄第1行)
(ハ)「本発明で使用する一方の乳化剤はジグリセロール脂肪酸エステル又はトリグリセロール脂肪酸エステルである。ジグリセロール脂肪酸エステルはグリセリン(グリセロール)を縮合して主として2分子縮合体を生成せしめ、これと脂肪酸をエステル化したものであり、ジグリセロールモノ脂肪酸エステルを主成分として含有するものである。」(第3頁上段左欄第10行乃至第17行)
甲第4号証:米国特許第4400405号明細書
(イ)「MSNFの内容は、脱脂乳、濃縮脱脂乳及び無脂肪乾燥乳、即ち無脂肪乾燥乳に水を単に添加したものである。本発明を実施し得ると思われる他の蛋白質源は、MSNFの一部の置換として一般的な甘性乳清、中和された酸性乳清、改質乳清、乳橋蛋白質濃縮物、カゼイン、改質カゼイン、ナトリウムカゼイン、カルシウムカゼイン等の乳由来の固形分を含む。」(第5欄第49行乃至第58行)
(ロ)「蛋白質成分は、一般的に新規デザートの重量で約3〜7%、望ましくは5%である。」(第5欄第61行乃至第63行)
(ハ)「製品は、第1に脂肪を取り込む機能を有する原料なしで製造することができる。」(第2欄第33行乃至第35行)
参考資料:乳業技術講座編集委員会編「乳業技術講座第1巻 牛乳」(株)朝倉書店発行、昭和39年、第3頁乃至第5頁
「牛乳の組成」に関する記載がある。
(当審の判断)
甲第1号証又は甲第3号証には、トッピング用クリームに関する「クリーム状起泡性油脂組成物」又はホイップトクリームに関する「起泡性に優れた合成クリームの製法」がそれぞれ記載されているが、これらクリームはいずれも製造時に加熱殺菌されるだけで、製造後に二次加熱されるような「加熱殺菌処理済食品用」とは云えないから、上記甲第1号証及び甲第3号証には、本件訂正発明1の解決すべき課題である「pH2〜9の領域において、高温殺菌処理を施しても蛋白質に由来する凝集、沈殿物の発生又は油脂分の分離がない優れた乳化安定性を保つ加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物」について、及び「0.1〜5.0重量%の乳清蛋白質と特定の乳化剤の併用」を主な解決手段とする「O/W型乳化脂組成物」について記載又は示唆するところがない。
してみると、本件訂正発明1は、上記甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であるとすることはできないし、また上記甲第1号証又は甲第3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
次に、甲第2号証及び甲第4号証について検討すると、甲第2号証は、上記(ニ)の記載に徴すれば、複数の乳化剤の使用がエマルジョンの安定性の低下をもたらす旨示唆するだけのものであり、また上記甲第4号証も、油脂を使用しない低カロリー食品に関するだけのものであるから、本件訂正発明1は、これら証拠を考慮しても、上記甲第1号証乃至甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
3-2.特許異議申立人河嶋慶太について
(異議申立ての理由)
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第13号証を提出して、本件請求項1乃至3に係る発明は、上記甲第1号証又は甲第1号証乃至甲第13号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであり、取り消されるべきものであると主張している。
(証拠の記載内容)
甲第1号証乃至甲第13号証は、上記2.(3)で示した引用例1乃至13とそれぞれ同一である。
(当審の判断)
この主張については、上記2.(3)で述べたとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
なお、特許異議申立人は、回答書において、参考資料1乃至8を提出しているから、これら証拠を検討したが、これら証拠も上記結論に影響を及ぼすものではない。

4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
加熱耐性を有するO/W型乳化脂組成物及び該組成物を含有した加熱殺菌処理済食品
(57)【特許請求の範囲】
1.乳清蛋白質を0.1〜5,0重量%及び油脂を20〜60重量%含有するO/W型エマルジョンであって、乳化剤としてポリグリセリンの平均重合度が6以下で、平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種と、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる少なくとも1種を含有する、加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物。
2.請求項1記載のO/W型乳化脂組成物を含有してなるpH2〜9の加熱殺菌処理済食品。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、広範なpH下にて加熱を受けても極めて優れた乳化安定性を保つ加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物及びこれらを含有してなる加熱殺菌処理済デザート類、調理食品、飲料等の食品に関する。更に詳しくは、pH2〜9の領域において、高温殺菌処理を施しても蛋白質に由来する凝集、沈澱物の発生、又は含有される油脂分が分離することがなく、極めて優れた乳化安定性を保つ加熱殺菌処理済食品用のO/W型乳化脂組成物及び該組成物を用いた各種デザート類、調理食品、飲料のごとき加熱殺菌処理済食品に関するものである。
本発明で云う加熱殺菌処理済食品とは、その加工工程においてタンク内での混合後に加熱殺菌してなる食品や、プレート式、その他連続プロセス及び容器充▲填▼後における殺菌を施された食品を云う。
〔従来技術〕
生クリーム、練乳、牛乳及びその他のO/W型乳化脂組成物の液性を低pHにしたり、水素イオン濃度や各種イオン強度を変えると、例外なく乳化が不安定で、かつ加熱すると凝固を起こしたり油相分離を生じやすい。このため特公昭60-12930号等に開示されているように、加熱処理に際し多量のアニオン性コロイド物質、例えばカルボキシメチルセルロース、ペクチン、グアガム、アルギン酸、プロピレングリコールエステル、キサンタンガムによる脂肪球の安定化や多量の緩衝塩による安定化がなされたり、また事前にこのような目的で調整された組成物が利用されている。しかしながら、これらにおいても、特に低pHで加熱を受けると、例外なく乳化破壊が起こり使用できなかった。
〔発明が解決しようとする問題点〕
前叙の通り、広範囲なpH下にて加熱を受けても、優れた乳化安定性を示すO/W型乳化脂組成物を得ることは極めて難しく、一般の組成物をもって殺菌条件を緩慢にしたり、あるいは加熱処理時にアニオン性コロイド等の添加、デンプン等の糊料による安定化、また多量の重合リン酸塩等の緩衝塩等による安定化の方法が多重に組み合わされるか、事前に前掲の糊料や緩衝塩により安定化されたクリームが使用されていた。
しかしながら、これらの方法をもってなんとか加熱殺菌後の安定性を得ても、糊料等による特有の粘っこさや、しつこさが出たり、また緩衝塩による塩味や苦味の他、特有の緩衝作用からせっかくの素材の味もシャープに出せず、さらに食品としての安全性にも問題なしとしない。
しかるに、生活の多様化から、低pHでの高温加熱に耐性を持つO/W型乳化脂組成物が強く待望されている。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明者らはかかる実情に鑑み、O/W型乳化脂組成物の前記の問題点を解決し、広範囲なpH下で高温加熱されても乳化安定性の高いO/W型乳化脂組成物を開発すべく鋭意研究検討を行った結果、乳化安定剤として乳清蛋白と特定の乳化剤を併用することにより所期の目的を満たす加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物が得られることを見い出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の第1は、乳清蛋白質を0.1〜5.0重量%及び油脂を20〜60重量%含有するO/W型エマルジョンであって、乳化剤としてポリグリセリンの平均重合度が6以下で、平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種と、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる少なくとも1種を含有する、加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物を、
本発明の第2は、前記のO/W型乳化脂組成物を含有してなるpH2〜9の加熱殺菌処理済食品をそれぞれ内容とするものである。
本発明で使用する乳清蛋白質とは、チーズホエー濃縮物、酸ホエー濃縮物、共に一般的にはWPC(whey protein concentrate)と呼ばれるものであり、蛋白質の他若干の脂肪、ミネラル等を含有するものであるが、ホエーをUF膜処理等により回収した未変性状態の蛋白質を含むものであれば問題はない。加えて、これらを酵素的加水分解した物も含む。また、乳清蛋白質の使用量は特に限定されるものではないが、0.1〜5.0重量%が適当である。0.1重量%未満では効果が顕著ではなく、5.0重量%を越えると増粘等の副次作用が出やすくなる。
また本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンの平均重合度が6以下で、平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるものであり、例えばテトラグリセリンモノステアレート、テトラグリセリンペンタステアレート、テトラグリセリンモノパルミテート、ヘキサグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリンセスキステアレート、ヘキサグリセリンペンタステアレート等が含まれる。
本発明に使用される有機酸モノグリセライドとしては、乳酸、クエン酸、酢酸等の有機酸又は脂肪酸とグリセリンをそれぞれ1分子以上含むエステルである。
本発明に使用されるレシチンとしては、大豆レシチン、卵黄レシチン、またはそれらのリゾタイプのレシチンが含まれる。
本発明は乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種(A)と、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる少なくとも1種(B)が使用されるが、その総量は組成物中0.15〜3.0重量%の範囲である。乳化剤の総量が0.15重量%未満では、低pHでの安定性が極めて低下し、油分離が激しく、一方、3.0重量%を越えても特に効果の増大も期待できず、むしろ風味上等の食味性において問題が出ることが多い。前記(A)、(B)各乳化剤の有効量はそれぞれ0.01重量%以上であればよく、特に限定されない。
本発明に使用される油脂としては、乳脂、トウモロコシ油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油、ラード、牛脂等、食用動植物油脂なら特に制限はなく、その硬化、エステル交換及び分別等の加工処理された油脂についても可能である。また本発明で安定な乳化物を得るためには、油脂の総量が60〜20重量%の範囲である。
また、本発明の加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物は、蛋白質、乳化剤、無脂固形分などの配合材料を水に加温溶解した後、油脂と乳化し、バルブ式ホモゲナイザー等により均質化後、殺菌処理充▲填▼を行い製品とするが、殺菌は通常の各種殺菌機、滅菌機を使用し、80〜150℃で行うことができる。
本発明の乳化脂組成物は単独で、或いは他の成分と混合されてデザート類、調理食品、飲料等に用いられる。
〔作用・効果〕
本発明の加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物は、特定の蛋白質と乳化剤の配合により、広範囲なpHにおいて高温加熱しても極めて優れた乳化安定性を示し、油分離等の変化が全く生じない。このような極めて安定な特性を持つため、高温または低pHでの殺菌を容易に行うことができ、また、糊感や苦味が全く生じないため、加熱殺菌処理を伴うデザート類、調理食品及び飲料等の今まで乳化脂組成物の使い難い食品分野に極めて容易に使用でき、極めて有用である。尚、用途として具体的にデザート類、調理食品及び飲料を例示したが、本発明組成物の用途はこれらに限られるものではない。
〔実施例〕
次に本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。尚、以下において、「%」は「重量%」を意味する。
実施例1
第1表に示す各種材料を水に溶解させ、65℃に昇温した。水相に溶解しにくいヘキサグリセリンペンタステアレート、トリグリセリンモノステアレート、レシチンはあらかじめ調合油に溶解した。この混合液をプロペラ式撹拌機にて65℃10分間予備乳化した。この乳化液を2段式バルブホモゲナイザーにて1段目320kg/cm2、2段目180kg/cm2の条件にて処理し、120℃で8秒間殺菌処理し、加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物を得た。
この乳化脂組成物を50%クエン酸溶液でpH4に調整し、90℃で20分間加熱しても、第2表に示す如く、蛋白質の凝集や沈澱、油分離は全く認められず、粘度は300センチポイズであった。またこの乳化脂組成物を3ケ月放置後も同様な物性を示した。
実施例2〜5、比較例1〜3
第1表に示す乳化剤配合において、更にクェン酸等の酸を添加してpH2に調整した他は実施例1と同様の操作によりO/W型乳化脂組成物を作製し、同様の試験を行った。その結果を第2表に示す。
本発明のO/W型乳化脂組成物はpH2という低いpHで高温加熱してもほとんど乳化性の変化がなく、良好な状態であった。また比較例1〜3では、90℃で20分間加熱すると、O/W型乳化脂組成物が凝固したり激しい油分離が起こり、乳化安定性が非常に低下した。
これらの結果から、本発明の乳化脂組成物は低pHでの加熱殺菌処理に対して乳化安定性が極めて高いことが明らかである。


実施例6
第3表に示す組成にて、実施例1で得られたO/W型乳化脂組成物を含有する加熱殺菌処理済デザート食品(pH4.0)を作製し、85℃で30分間加熱殺菌処理機にて加熱し、冷却して固化させた。このデザート食品は、極めて食感がシャープで、蛋白質の凝集、分離がなく美味であった。

実施例7
第4表に示す組成にて実施例2で得られたO/W型乳化脂組成物を含有する調味食品を作製し、卓上ミキサーにて撹拌後、110℃で20分間殺菌したところ、油分離が全くなく、粘度250cpsの良好な物を得た。

 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正の要旨は、本件特許第2739161号発明の明細書を平成12年7月3日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおり、すなわち、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的として、本件特許明細書を次のとおり訂正するものである。
(i)「特許請求の範囲」の欄
訂正事項a:請求項1を削除する。
訂正事項b:請求項2を減縮すると共に「ポリグリセリンの平均重合度6分子以下」を明りょうでない記載の釈明を目的として「ポリグリセリンの平均重合度が6以下」とし、また項番を繰り上げて次のとおりとする。
「1.乳清蛋白質を0.1〜5.0重量%及び油脂を20〜60重量%含有するO/W型エマルジョンであって、乳化剤としてポリグリセリンの平均重合度が6以下で、平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種と、ショ糖脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる少なくとも1種を含有する、加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物。」
訂正事項c:請求項3を項番を繰り上げて次のとおりとする。
「2.請求項1記載のO/W型乳化脂組成物を含有してなるpH2〜9の加熱殺菌処理済食品。」
(ii)「発明の詳細な説明」の欄
訂正事項d:明細書第5頁第1行乃至第2行目(特許公報第3欄第39行乃至第40行目)の「乳清蛋白質を0.1〜5.0重量%含有する」を、「乳清蛋白質を0.1〜5.0重量%及び油脂を20〜60重量%含有する」と訂正する。
訂正事項e:明細書第5頁3行目〔特許公報第3欄第40行乃至第41行目)の「ポリグリセリン脂肪酸エステル」を「ポリグリセリンの平均重合度が6以下で、平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステル」と訂正する。
訂正事項f:明細書第5頁第6行乃至第7行目(特許公報第3欄第44行目)の「O/W型乳化脂組成物」を「加熱殺菌処理済食品用O/W型乳化脂組成物と訂正する。
訂正事項g:明細書第6頁第4行目(特許公報第4欄第9行目)の「特に制限されないが」を削除する。
訂正事項h:明細書第6頁第5行乃至第8行目(特許公報第4欄第10行乃至第11行目)の「平均エステル化度が1〜5のものが好ましく」を「平均エステル化度が1〜5の飽和酸からなるものであり」と訂正する。
訂正事項i:明細書第6頁第6行目(特許公報第4欄第11行目の「例えばて」を「例えば」と訂正する。
訂正事項j:明細書第7頁第16行乃至第17行目(特許公報第4欄第37行乃至第88行目)の「油脂の総量が60〜2.0重量%の範囲が好ましい。」を「油脂の総量が60〜20重量%の範囲である。」と訂正する。
訂正事項k:明細書第10頁第4行目(特許公報第6欄第8行目)の「実施例2〜6」を「実施例2〜5」と訂正する。
訂正事項l明細書第11頁(特許公報第7欄及び第8欄)の第1表中の「実施例6」と同表中の下から4列目の「デカグリセリンモノステアレート」の列を削除する。
訂正事項m:明細書第12頁(特許公報第7欄及び第8欄)の第2表中の「実施例6」を削除する。
訂正事項n:明細書第13頁第1行目(特許公報第9欄第1行目)の「実施例7」を「実施例6」と訂正する。
訂正事項o:明細書第13頁下から2行目(特許公報第9欄第20行目)の「実施例8」を「実施例7」と訂正する。
異議決定日 2000-07-24 
出願番号 特願昭63-196380
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B01J)
P 1 651・ 531- YA (B01J)
P 1 651・ 121- YA (B01J)
P 1 651・ 532- YA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 直人  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 山田 充
新居田 知生
登録日 1998-01-23 
登録番号 特許第2739161号(P2739161)
権利者 鐘淵化学工業株式会社
発明の名称 加熱耐性を有するO/W型乳化脂組成物及び該組成物を含有した加熱殺菌処理済食品  
代理人 伊丹 健次  
代理人 伊丹 健次  

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