• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
管理番号 1024289
異議申立番号 異議1999-73273  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-02 
確定日 2000-08-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2864414号「紫外光用合成石英ガラス光学体の改質方法及び紫外光用合成石英ガラス光学体」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2864414号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許2864414号は、平成5年8月26日に特許出願され、平成10年12月18日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、信越石英株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成12年2月8日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正事項
この訂正請求は、特許請求の範囲をその減縮を目的として、次のとおり訂正するものである。
「【請求項1】歪、脈理がなく、屈折率の均質性が2×10‐6以下である高純度合成石英ガラスを500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより、170nm〜200nmの真空紫外領域の吸収を消去し、該吸収以外の光学的性質を維持することを特徴とする紫外光用合成石英ガラス光学体の改質方法。
【請求項2】歪、脈理がなく、屈折率の均質性が2×10‐6以下である高純度合成石英ガラス体により構成され、500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより、波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上としたことを特徴とする紫外光用合成石英ガラス光学体。」を
「【請求項1】歪、脈理がなく、屈折率の均質性が2×10‐6以下である高純度合成石英ガラスを500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより、170nm〜200nmの真空紫外領域の吸収を消去して波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上とし、該吸収以外の光学的性質を維持することを特徴とするArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体の改質方法。
【請求項2】歪、脈理がなく、屈折率の均質性が2×10‐6以下である高純度合成石英ガラス体により構成され、500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより、波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上としたことを特徴とするArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体。」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、しかも、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
2-3.独立特許要件の判断
(本件訂正発明)
本件訂正明細書の請求項1及び2に係る発明(以下、「訂正発明1及び2」という)は、平成12年2月8日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の上記2-1.に示す請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(引用刊行物)
当審が平成11年11月25日付けの取消理由通知において引用した刊行物1乃至6には、それぞれ次の事項が記載されている。
引用例1:特開平1-197335号公報
(イ)「本発明は、レーザステッパ装置、・・・のレーザ光学系母材の製造方法に係り、特に高出力の且つ短波長域のレーザ光に対し耐久性と高品質性を保証し得るレーザ光学系母材の製造方法に関する。」(第1頁左欄19行乃至右欄第4行)
(ロ)「1)略400nm以下の特定波長域のレーザ光に使用されるレーザ光学系母材の製造方法において、レーザ光学系の母材となるべき高純度石英ガラス塊を形成した後、該石英ガラス塊を酸化性又は還元性のいずれか一又は複数の選択された雰囲気中で加熱処理する事により、前記石英ガラス塊組織中に存在する酸素欠陥の実質的な除去を図る事を特徴とするレーザ光学系母材の製造方法
2)前記加熱処理温度が少なくとも500乃至1500℃の間の任意に選択された処理温度である特許請求の範囲第1項記載のレーザ光学系母材の製造方法」(第1頁左欄特許請求の範囲の項)
(ハ)「エキシマレーザのような高出力パルス光が長時間照射されると時間経過とともに、石英ガラスレンズがダメージを受け・・・透過率の低下、絶対屈折率の上昇、屈折率分布の変動が起こり、最終的にクラックが発生するという問題が派生する。特に、エキシマレーザを用いたリソグラフィー用の石英ガラスレンズに対しては、屈折率分布の△nが1×10-6以下が好ましいとされており、」(第2頁下段左欄第3行乃至第13行)
(ニ)「前記石英ガラス塊を加熱処理して多数種類のレーザ光学系母材を形成し、該夫々の母材を用いて製作した試験片に、・・・同一波長域(248nm)の短波長エキシマレーザ光を照射させ、その蛍光特性、透過率、屈折率変化、及びクラック発生の有無について調査してみた所、前記試験片中に、短波長域レーザー光に使用されるレーザー光学系の蛍光発生を低減させ、屈折率、透過率等の安定性を向上させることが出来、特に300nm以下の高出力レーザ用の光学系母材として極めて好ましい結果が得られた。」(第3頁上段左欄第11行乃至右欄第2行)
(ホ)「前記好ましい結果が得られた母材は加熱処理前の母材に比していずれも石英ガラス組織(SiO2)中に存在する酸素欠陥、具体的には・・・酸素欠損型欠陥、あるいは・・・酸素過剰型欠陥が実質的に除去されている事が確認された。」(第3頁上段右欄第6行乃至第11行)
(ヘ)「プラズマ法で合成された石英ガラス塊には、酸素過剰型欠陥が存在し、耐エキシマレーザ性は好ましい結果が得られなかったが、その後この石英ガラス塊を還元性雰囲気にて熱処理し、酸素欠陥濃度を検出限界以下まで実質的な除去を図る事により耐エキシマレーザ性を大幅に改善させることが出来た。しかし、酸化性雰囲気にて熱処理したサンプルは、酸素欠陥濃度が増大し耐エキシマレーザ性が大幅に悪化することが明らかとなった(実験例1)〜4))。」(第4頁下段左欄第8行乃至第18行)
(ト)「次に、スート再溶融法で合成された石英ガラス塊には、酸素欠損型欠陥が存在し、耐エキシマレーザ性は好ましい結果が得られなかったが、その後この石英ガラス塊を酸化性雰囲気にて熱処理し、酸素欠陥濃度を実質的に除去させる事により耐エキシマレーザ性を大幅に改善させることが出来た。しかし、還元性雰囲気にて熱処理したサンプルは逆に酸素欠陥濃度が増大し耐エキシマレーザ性が悪化することが明らかとなった(実験例5)〜7))。」(第4頁下段左欄第19行乃至右欄第8行)
引用例2:特開平5-97452号公報
「このようにして得られた脈理フリーの合成石英ガラス部材は・・・紫外線用のレンズ素材として有用とされる。」(第3頁第4欄第37行乃至第41行)
引用例3:特開平4-130031号公報
(イ)「本発明は、合成石英ガラスのこのArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmおよび280nmにおける発光帯の生成および260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止することを目的とするものである。」(第3頁下段右欄第15行乃至第19行)
(ロ)「四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解する石英ガラスの合成方法において、溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下となるように酸水素火炎の酸素と水素の比が化学量論的必要量より過剰の水素の存在下で合成し、・・・この合成石英ガラスを非還元性の雰囲気中において、200〜1200℃で熱処理することを特徴とする合成石英ガラスの製法」(第1頁左欄特許請求の範囲の項)
(ハ)「したがって、220nmの吸収帯および280nmに発光を生じさせないための・・・の許容濃度は・・・好ましくは、内部透過率が99.9%(吸光度0.0004)となる条件として1×1017個/cm3 以下が望ましい。」(第5頁上段右欄第19行乃至下段左欄第4行)
引用例4:「セラミックス」22(1987)No.12、第1047頁乃至第1050頁
(イ)「最近、VLSIのより高集積化のためエキシマレーザーを利用したリソグラフィーが熱心に研究され始めた。エキシマレーザーは従来使用されてきた光源と比較して極めて大パワーであり、発振波長もKrFレーザーで248nm、ArFでは193nmと短波長である。このような大パワーの短波長紫外光の光学系を構成するレンズ素材として光励起されやすい非架橋酸素が存在しないシリカガラスに関心が集まっている。」(第1047頁右欄下から第8行乃至第1048頁左欄第1行)
(ロ)「ただし、5eVの吸収を与える欠陥種はVoだけでなく他の酸素欠乏欠陥も関与していることがArFレーザー光(193nm)照射の実験から示唆されている。」(第1049頁左欄第4行乃至第8行)
(ハ)「モデルから予想されるとおり高温で酸化処理をするとVo濃度は減少する。」(第1049頁右欄第9行乃至第11行)
引用例5:「分光研究」第41巻第2号(1992)第81頁乃至第92頁
「2.2.1水素雰囲気下で作成したシリカガラス中の構造欠陥」の項に、「逆に酸素でアニールすると5.14eV吸収帯が減少し、真空紫外域吸収端近傍の吸収が吸収端のブルーシフトという形で減少することが認められた。」(第86頁右欄第8行乃至第10行)と記載されている。
引用例6:「NEW GLASS」Vol.6、No.2、第191頁乃至第196頁
「6.ステッパー用投影レンズに必要な石英ガラス」の項に、「ステッパー用の結像光学系に石英ガラスが使われる事を想定した場合、以下の様な品質が要求される。
透過率(10mm)≧99.9%・・・安心レベル」(第195頁右欄)と記載されている。
(対比・判断)
(i)本件訂正発明1について
引用例1には、石英ガラス組織中に存在する酸素欠陥を除去した耐久性と高品質性を有する「合成石英ガラスの製造方法」に関し、具体的には、上記(ロ)の記載に徴すれば、「高純度石英ガラス塊を形成した後、500乃至1500℃の処理温度の範囲で該石英ガラス塊を酸化性又は還元性のいずれか一又は複数の選択された雰囲気中で加熱処理する事により、前記石英ガラス塊組織中に存在する酸素欠陥の実質的な除去を図る合成石英ガラスの製造方法」が記載されている。また上記(ハ)には、エキシマレーザ光を使用する場合には、屈折率分布の△nが1×10-6以下の光学材料が好ましいと記載されているから、これら記載を総合すると、引用例1には、「屈折率の均質性が1×10‐6以下である高純度合成石英ガラスを500乃至1500℃の温度及び酸化性雰囲気中で所定時間熱処理することにより耐久性と高品質の光学的性質を維持することを特徴とするエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体の改質方法。」が記載されていると云える。
しかしながら、引用例1の「合成石英ガラス光学体の改質方法」は、上記(ヘ)及び(ト)の記載に徴すれば、酸素過剰型欠陥が存在する石英ガラス(プラズマ法で合成した石英ガラス)の場合には還元性雰囲気で熱処理し、また酸素欠損型欠陥が存在する石英ガラス(スート再溶融法で合成した石英ガラス)の場合には酸化性雰囲気で熱処理するというものであるから、そこには、酸化性雰囲気中の酸素分圧を規制するという技術思想については何ら記載されておらず、「波長193nmの光に対する10mm内部透過率が99.9%以上のArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体」についても記載又は示唆するところがない。また、引用例1の「実験結果一覧表」(第5頁)には、「O25%」の酸化性雰囲気で熱処理した例(試料番号6)が開示されているが、この例の場合でも耐エキシマレーザ性の「透過率」は「△平均的」と示されているだけであり、「波長193nmの光に対する10mm内部透過率が99.9%以上のArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体」を示唆するものではない。
してみると、引用例1には、本件訂正発明1の「酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理する」点や、「波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上とする」点については一切記載されていないから、本件訂正発明1は、上記引用例1に記載された発明であるとすることはできないし、上記引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
次に、引用例2乃至6について検討すると、これら証拠にも、高純度合成石英ガラスの熱処理雰囲気中の酸素分圧を規制するという技術思想については記載されておらず、またその熱処理により「波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上とするArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体」についても一切記載されていないから、本件訂正発明1は、上記引用例1乃至6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(ii)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、「ArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体」に係り、その構成が本件訂正発明1と同様、酸素分圧や内部透過率の点を主要部とするものであるから、上記(i)で述べたと同様の理由により、上記引用例1に記載された発明とすることはできないし、また上記引用例1乃至6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
そして、本件特許明細書には、当業者が本件訂正発明を容易に実施することができないとする程の記載不備も見当たらない。
したがって、本件訂正発明1及び2は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
2-4.むすび
以上のとおり、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについて
(異議申立ての理由)
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第6号証を提出して、本件発明の特許は次の(1)及び(2)の理由により、取り消されるべきものであると主張している。
(1)本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第1号証乃至甲第6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項により特許を受けることができない。
(2)本件特許明細書には、当業者が容易に実施することができる程度に本件発明1及び2の目的、構成及び効果が記載されていないから、本件特許明細書は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
(証拠の記載内容)
甲第1号証:上記引用例1と同じである。
甲第2号証:上記引用例2と同じである。
甲第3号証:上記引用例3と同じである。
甲第4号証:上記引用例4と同じである。
甲第5号証:上記引用例5と同じである。
甲第6号証:上記引用例6と同じである。
(当審の判断)
(i)上記(1)の主張について
この主張については、上記2-3.で述べたとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
(ii)上記(2)の主張について
この主張の主な根拠は、本件発明の加熱処理が密閉容器内で行われると断定したところにあるが、この点については、特許明細書の記載と特許異議意見書における権利者の釈明により、本件発明の加熱処理が密閉容器内で行われるものではないことが明らかとなったから、特許異議申立人の上記主張も採用することができない。

4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
紫外光用合成石英ガラス光学体の改質方法及び紫外光用合成石英ガラス光学体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪、脈理がなく、屈折率の均質性が2×10-6以下である高純度合成石英ガラスを500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより170nm〜200nmの真空紫外領域の吸収を消去して波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上とし、該吸収以外の光学的性質を維持することを特徴とするArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体の改質方法。
【請求項2】
歪,脈理がなく、屈折率の均質性が2×10-6以下である高純度合成石英ガラス体により構成され、500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上としたことを特徴とするArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
リソグラフィーに代表される紫外線光学系に使用される合成石英ガラス光学体及びその改質方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、シリコン等のウエハ上に集積回路の微細パターンを露光・転写する光リソグラフィー技術においては、ステッパーと呼ばれる露光装置が用いられている。このステッパーの光源は、近年の LSIの高集積化にともなって g線( 436nm)からi線( 365nm)、さらには KrF( 248nm)や ArF( 193nm)エキシマレーザーへと短波長化が進められている。
【0003】
一般に、ステッパーの照明系あるいは投影レンズとして用いられる光学ガラスは、i線よりも短い波長領域では光透過率が低下するため、従来の光学ガラスにかえて合成石英ガラスや CaF2(蛍石)等のフッ化物単結晶を用いることが提案されている。ステッパーに搭載される光学系は多数のレンズの組み合わせにより構成されており、たとえレンズ一枚当たりの透過率低下量が小さくとも、それが使用レンズ枚数分だけ積算されてしまい、照射面での光量の低下につながるため、光学素材に対して高透過率化が要求されている。また、使用波長が短くなるほど、屈折率分布のほんの小さなムラ(屈折率の不均質)によってでも結像性能が極端に悪くなる。
【0004】
このように、紫外線リソグラフィー用の光学体として用いられる石英ガラスには、紫外線の高透過性と屈折率の高均質性が要求されている。
しかし、通常市販されている合成石英ガラスは、初期透過率,均質性,耐紫外線性を始めとする品質が不十分であり、前述したような精密光学機器に使用する事はできなかった。このため、これまでに均質化のための二次処理(特公平 3-17775,特開昭 64-28240)や、加圧水素ガス中での熱処理による均質性及び耐レーザー性の向上(特開平3-109233)等が提案されている。
【0005】
ところが、通常行われている加熱,加圧等による二次処理では、紫外領域、特に 200nm以下で透過率の低下があるため、 ArFエキシマレーザー光( 193nm)用の光学材料としては不適当であった。
また、従来の熱処理方法と異なる方法で 200nm以下の波長における透過率を上昇させようという試みもいくつか行われている。特開平 5-147957では二次処理時に直流電圧を印加することにより一旦生じた透過率低下を回復させる方法が、また、特開平 5-152648では一旦生じた透過率低下を低パワーの紫外光を照射することで回復させる方法が提案されている。これらの方法を用いても、そこで生じている吸収の根本原因にまで迫っていないため、均質性等の光学的性質を満たしたとしても 193nmでの透過率は 99.9%以上にはならず、 ArFエキシマレーザー光(193nm)用の光学材料としては不適当であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
石英ガラスを光学体、特にステッパー等の精密光学機器に用いる場合、前述のように非常に高い均質性が要求されている。先にも述べたように、直接法やスート再熔融法等により得られた石英ガラス塊を高均質化するため、これまでに加熱・加圧等による様々な二次処理方法が公知となっている。しかしながら、これらいずれの公知資料においても雰囲気ガス種(水素,アルゴン,ヘリウム,窒素等)を規定するのみで、そのガス中に含まれている混合物(不純物ガス)の影響を考えておらず、高均質性が得られたとしても ArFエキシマレーザー光(193nm)用の光学材料としては透過率の面で十分なものとは言えなかった。また、極端な例として、グレードの異なるガス種を用いて同じ処理方法を行ったとしても、そのガス中に存在するわずかな不純物(表記成分以外のガス)の影響により全く別の特性を持っているものもあった。
【0007】
【課題を解決する為の手段】
以上のことについて鋭意研究を行った結果、その支配要因が雰囲気中に含まれる酸素の分圧(po2)によるものであることがわかった。
そこで、本発明は、加熱,加圧等により熱処理を行う際の雰囲気中(ガス種によらない)の酸素分圧の絶対値を、酸素分圧の対数(log p02)で-4以上-0.5以下と規定することにより、脈理・歪等がなく、光学的に均質で高透過率性を有する紫外光用石英ガラス光学体およびその改質方法を提供することとした。
【0008】
ここで、酸素分圧の対数を-4以上-0.5以下としたのは、-4以下であると還元が強すぎて酸素欠乏性欠陥が生成しやすくなり、-0.5以上であると酸素過剰欠陥が生成しやすくなるためである。
本発明の特徴としては、加圧,加熱等により均質化を行う際の酸素分圧を規定することにより、このような二次処理(熱処理)で生成する Si-Si 等の 200nm以下の波長帯に吸収を持つような構造欠陥の生成を抑え、その結果光学体の 200nm以下の紫外あるいは真空紫外光の透過率を精密光学機器で使用できるレベルまで引き上げたという点にある。特に 180nm近辺の吸収はSi-Siや SLPC(シリコンローンペアーセンター)等の還元種によるものと思われるため、最適な酸素分圧下において処理することにより消去することができる。この様に熱処理の酸素分圧を規定することにより、高均質性と高透過率性の両方を持ち合わせた石英ガラスは、未だ知られていない。
【0009】
本発明の第二の特徴としては、その処理時に使用するガス種を問わないという点にある。どの様なガス種を用いても、物理的な混合(Ar+O2,N2+O2 etc.)あるいは化学的な平衡反応(H2+ 1/2 O2←→ H2O,CO + 1/2 O2←→ CO2 etc.)によって、様々な酸素分圧を設定できるからである。
本発明の第三の特徴としては、公知技術による処理で 200nm以下の領域に吸収が生じたとしても、最適な酸素分圧を用いて処理することによりその吸収を消去することができる点にある。
【0010】
【作用】
石英ガラスの組成は一般的には SiO2と表示される。しかしながら、他の酸化物と同様に、合成時や二次処理時の雰囲気により Si と O の比率はノンストイキオメトリックに変化するため、SiO2-xあるいは SiO2+yと表したほうが正確になる。すなわち、この組成系に影響を与えるものとして酸素が考えられる。これら SiO2-x,SiO2+yの関係は次のようになる。
【0011】
【数1】

【0012】
この反応式における平衡定数をKとすると質量作用の法則より、
【0013】
【数2】

【0014】
気相と固相が混在している不均一系においては、化学平衡が成立している場合、固相成分の気相における分圧は一定温度で一定であるから(2)式は次のようになる。
【0015】
【数3】 Kp=p02 (3)
【0016】
式(3)から、この系における平衡定数は、酸素分圧にのみ依存していることがわかる。また、平衡定数Kはギブスの自由エネルギー G0との関係から、温度の関数でもある。
【0017】
【数4】
ΔG゜=-RTln Kp (4)
【0018】
したがって、(1)の反応式における平衡状態は、温度と酸素分圧にのみ依存することがわかる。すなわち温度と酸素分圧を固定することにより、同じ組成のものが再現されるわけである。
処理時の酸素分圧が小さすぎると(1)式の平衡が右にずれ、Si-Si 等の酸素欠乏欠陥が生成し、そのために吸収帯が発生する。また、処理時の酸素分圧が大きすぎると(1)式の平衡が左にずれ、Si-O-O-Si 等の酸素過剰欠陥が生成し、そのために吸収帯が発生する。すなわち、これら吸収帯を発生させることなく熱処理できる領域は、様々な温度,酸素分圧の条件で処理することにより決定できる。
【0019】
これにより、ステッパー等の精密光学機器に用いることのできる、ArF エキシマレーザー波長で 99.9%以上の高透過率を持ち、高均質である石英ガラスが得られる。
【0020】
【実施例1】
脈理,歪がなく、均質性の高い高純度合成石英ガラスを用意し、炉内に静置し密閉し為一旦、真空ポンプで排気をした後、N2ガスとO2ガスを 1000:1 の比で混合したガスを炉内に 1atm まで導入し、1400℃まで200℃/hrの割合で昇温した。理論的には炉内の酸素分圧(p02)は 10-3atm になるはずであるが、確認のため、イットリア安定化ジルコニアを用いた酸素センサーで起電圧を測定することにより正確な酸素分圧を求めたところ、その酸素分圧は 10-2.85atm(log p02=-2.85)であった。その際、酸素センサーの校正は、O2 1atm および大気で行った。この雰囲気,温度で 60hr 処理を行い、10℃/hr の降温速度で500℃まで冷却し、その後室温まで放冷してサンプルを取り出した。この際の雰囲気は処理時と同じ雰囲気に保った。取り出したサンプルに研磨を施し透過率を測定したところ、193nmでの 10mm内部透過率が 99.9%以上であった。また、他の光学的性質(歪,脈理,均質性)も損なわれていなかった。
【0021】
【実施例2】
脈理,歪がなく、均質性の高い高純度合成石英ガラスを用意し、炉内に静置し密閉した。一旦、真空ポンプで排気をした後、Arガスを炉内に 1atm まで導入し、1300℃まで200℃/hr の割合で昇温した。イットリア安定化ジルコニアを用いた酸素センサーで起電圧を測定することにより酸素分圧を求めたところ、その酸素分圧は 10-3.90atm(log p02=-3.90)であった。この雰囲気,温度で 60hr 処理を行い、10℃/hr の降温速度で 500℃まで冷却し、その後室温まで放冷してサンプルを取り出した。この際の雰囲気は処理時と同じ雰囲気に保った。取り出したサンプルに研磨を施し透過率を測定したところ、193nmでの 10mm内部透過率が 99.9%以上であった。また、他の光学的性質も損なわれていなかった。
【0022】
【実施例3】
脈理,歪がなく、均質性の高い高純度合成石英ガラスを用意し、炉内に静置し密閉した。一旦、真空ポンプで排気をした後、空気を炉内に 1atm まで導入し、1500℃あるいは1100℃まで200℃/hr の割合で昇温した。イットリア安定化ジルコニアを用いた酸素センサーで起電圧を測定することにより酸素分圧を求めたところ、その酸素分圧は 10-0.67atm(log p02=-0.67)であった。この雰囲気,温度で 60hr 処理を行い、10℃/hr の降温速度で 500℃まで冷却し、その後室温まで放冷してサンプルを取り出した。この際の雰囲気は処理時と同じ雰囲気に保った。取り出したサンプルに研磨を施し透過率を測定したところ、双方とも 193nmでの 10mm内部透過率が 99.9%以上であった。また、他の光学的性質も損なわれていなかった。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、加圧,加熱等により均質化を行う際の酸素分圧を規定することにより、二次処理で生成する Si-Si 等の 200nm 以下の波長帯に吸収を持つような構造欠陥の生成を抑え、その結果 200nm 以下の紫外あるいは真空紫外領域の光の透過率を精密光学機器で使用できるレベルまで良化させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 石英ガラスを熱処理した後の透過率を示すグラフであり、Iは従来の処理方法により行ったもの、IIは本発明の実施例に基づいて行ったものである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正の要旨は、本件特許第2864414号発明の明細書を平成12年2月8日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおり、すなわち特許請求の範囲をその減縮を目的として、次のとおりに訂正するものである。
「【請求項1】歪、脈理がなく、屈折率の均質性が2×10-6以下である高純度合成石英ガラスを500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより、170nm〜200nmの真空紫外領域の吸収を消去し、該吸収以外の光学的性質を維持することを特徴とする紫外光用合成石英ガラス光学体の改質方法。
【請求項2】歪,脈理がなく、屈折率の均質性が2×10-6以下である高純度合成石英ガラス体により構成され、500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより、波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上としたことを特徴とする紫外光用合成石英ガラス光学体。」を
「【請求項1】歪、脈理がなく、屈折率の均質性が2×10-6以下である高純度合成石英ガラスを500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより、170nm〜200nmの真空紫外領域の吸収を消去して波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上とし、該吸収以外の光学的性質を維持することを特徴とするArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体の改質方法。
【請求項2】歪、脈理がなく、屈折率の均質性が2×10-6以下である高純度合成石英ガラス体により構成され、500℃以上の温度及び酸素分圧の対数が-4以上-0.5以下の雰囲気中で所定時間熱処理することにより、波長193nmの光に対する10mm内部透過率を99.9%以上としたことを特徴とするArFエキシマレーザー用合成石英ガラス光学体。」と訂正する。
異議決定日 2000-07-04 
出願番号 特願平5-211977
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03B)
P 1 651・ 113- YA (C03B)
P 1 651・ 531- YA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大工原 大二深草 祐一  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 新居田 知生
野田 直人
登録日 1998-12-18 
登録番号 特許第2864414号(P2864414)
権利者 株式会社ニコン
発明の名称 紫外光用合成石英ガラス光学体の改質方法及び紫外光用合成石英ガラス光学体  
代理人 古川 秀利  
代理人 福井 宏司  
代理人 望月 孜郎  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 池谷 豊  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 曾我 道照  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 長谷 正久  
代理人 曾我 道治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ