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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1024300
異議申立番号 異議1999-71856  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-05-10 
確定日 2000-08-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2826560号「排煙処理方法」の特許請求の範囲第1項の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2826560号の特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許2826560号は、平成8年6月3日に特願昭62-3039号(出願日昭和62年1月9日)の分割出願として出願され、平成10年9月18日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、三菱重工業株式会社、住友重機械工業株式会社及び千代田化工建設株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成11年11月22日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正事項
この訂正請求は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的として、本件特許明細書及び図面を次のとおり訂正するものである。
(i)特許請求の範囲の項
訂正事項1:特許請求の範囲の減縮を目的として、
「1.ボイラ等の排ガス流路に設けた該排ガス中に含まれるばい塵を除去する電気集塵器と、該電気集塵器の下流側の硫黄酸化物を除去する排煙脱硫装置と、前記電気集塵器の上流側の熱回収用の熱交換器と、前記排煙脱硫装置の下流側の再加熱用の熱交換器を有する排煙処理装置を用いる排煙処理方法において、熱媒体循環式の前記両方の熱交換器を用いて熱媒体により前記電気集塵器の上流側で排ガスの熱回収をして前記排煙脱硫装置の下流側の排ガスを再加熱することで、前記電気集塵器入口の排ガス温度を120℃以下、電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下であって、電気集塵器以降の機器及び煙道の腐食を防止する濃度に低減させ、さらに前記排煙脱硫装置では硫黄酸化物を除去し、排煙脱硫装置出口のばい塵濃度を所定濃度以下とすることを特徴とする排煙処理方法。
2.前記電気集塵器の上流側の排ガス流路に設けられた熱回収用の熱交換器と前記排煙脱硫装置の下流側の排ガス流路に設けられた再加熱用の熱交換器の間にはポンプで熱媒体を強制的に循環させることを特徴とする第1項記載の排煙処理方法。」と訂正する。
(ii)発明の詳細な説明の項
訂正事項2:特許請求の範囲の減縮に伴う明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の段落【0012】の記載を、
「【0012】【課題を解決するための手段】本発明の上記課題は、次の構成によって達成される。すなわち、ボイラ等の排ガス流路に設けた該排ガス中に含まれるばい塵を除去する電気集塵器と、該電気集塵器の下流側の硫黄酸化物を除去する排煙脱硫装置と、前記電気集塵器の上流側の熱回収用の熱交換器と、前記排煙脱硫装置の下流側の再加熱用の熱交換器を有する排煙処理装置を用いる排煙処理方法において、熱媒体循環式の前記両方の熱交換器を用いて熱媒体により前記電気集塵器の上流側で排ガスの熱回収をして前記排煙脱硫装置の下流側の排ガスを再加熱することで、前記電気集塵器入口の排ガス温度を120℃以下、電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下であって、電気集塵器以降の機器及び煙道の腐食を防止する濃度に低減させ、さらに前記排煙脱硫装置では硫黄酸化物を除去し、排煙脱硫装置出口のばい塵濃度を所定濃度以下とする排煙処理方法である。」と訂正する。
(iii)図面の簡単な説明の項
訂正事項3:誤記の訂正を目的として、【図2】の欄を、「【図2】機器などの腐食を生じさせないEP出口の排ガス中のばい塵濃度とEP入口排ガス温度との関係を示す図」と訂正する。
(iv)図面
訂正事項4:誤記の訂正を目的として、「図2」を「図3」に、「図3」を「図2」にそれぞれの図面番号を差し替える。
訂正事項5:明りょうでない記載の釈明を目的として、図4を訂正し、図4の横軸の目盛り5に相当する箇所に「5」の数値を挿入する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮に該当し、訂正事項2及び訂正事項5は、明りょうでない記載の釈明に該当する。また訂正事項3及び4は誤記の訂正に該当し、しかも、これら訂正事項は、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
2-3.独立特許要件の判断
(本件訂正発明)
本件訂正明細書の特許請求の範囲第1項に記載の発明(以下、「訂正発明」という)は、平成11年11月22日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の上記2-1.(i)に示す特許請求の範囲第1項に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(引用刊行物)
当審が平成11年9月3日付けの取消理由通知において引用した刊行物1及び2には、それぞれ次の事項が記載されている。
引用例1:特開昭56-144325号公報
(イ)「ボイラの燃焼部から排出されて空気予熱器を経由した排ガスを導入する前段ガス・ガスヒータと、この前段ガス・ガスヒータで冷却された排ガスを導入する集塵器と、この集塵器を経由した排ガスを導入する後段ガス・ガスヒータと、この後段ガス・ガスヒータで冷却された排ガスを導入する湿式脱硫装置と、この脱硫装置で脱硫された排ガスを上記後段ガス・ガスヒータに導いて再加熱したのち更に上記前段ガス・ガスヒータに導いて再加熱してから排出する再加熱排出系が配設されたことを特徴とする、排ガス冷却脱硫再加熱装置」(第1頁左欄特許請求の範囲の項)
(ロ)「第2図は本発明の第1実施例としての排ガス冷却脱硫再加熱装置を示す系統図であって、石炭焚ボイラ11の燃焼部から排出された排ガス2を導入する脱硝装置12と、この脱硝装置12からさらに空気予熱器13を経由した排ガスを導入する前段ガス・ガスヒータ15-1とが設けられている。」(第2頁上段右欄第8行乃至第14行)
(ハ)「また本発明の装置では、湿式脱硫装置16で脱硫された排ガスを、後段ガス・ガスヒータ15-2で再加熱してから、さらに前段ガス・ガスヒータ15-1で再加熱して、大気中へ排出しうるようにした再加熱排出系が設けられている。すなわち、処理前の排ガス2は、脱硝装置12を経由した後、空気予熱器13で130〜150℃にまで冷却され、さらに前段ガス・ガスヒータ15-1で90〜120℃まで冷却されてから、集塵器14を経由し、ついで後段ガス・ガスヒータ15-2で80〜100℃まで冷却される。」(第2頁下段左欄第2行乃至第13行)
(ニ)「ボイラ11の燃焼部を出た処理前ガス2は、10〜20ppmのSO3ガスを含んでいるが、各温度におけるSO3濃度は露点温度より決まるから、処理前ガス中のSO3濃度は、135℃で10〜20ppm、130℃で2〜8ppm、110℃で0.2〜0.8ppmである。そして、その余剰分は硫酸ミストになり、あるものはダストに吸着される。」(第2頁下段右欄第7行乃至第14行)
(ホ)「もし、第1図に示す従来の装置のまま空気予熱器13の出口温度を135〜150℃程度にまで上げるとすると、SO3はガスのまま集塵器14を通過してしまい、ガス・ガスヒータ15で温度が下がることによりミストとなるが、ダスト量が少ないため、ダストに吸着されずにミストのまま脱硫装置16へ到達する量が多くなる。」(第2頁下段右欄第20行乃至第3頁上段左欄第7行)
(ヘ)「さらに本発明の装置では、集塵器14の性能面でも大きな効果がある。すなわち、第3図に示すように、電気集塵器14内におけるガス温度とダスト移動速度との関係をみると、集塵能力はダスト移動速度に比例するものであるから、従来の装置のように、120〜140℃で集塵するよりも、本装置のように前段ガス・ガスヒータ15-1で排ガスの温度を下げて90〜120℃で集塵した方が有利なことがわかる。第4図は本発明の第2実施例としての排ガス冷却脱硫再加熱装置を示す系統図であって、この実施例では、前段ガス・ガスヒータ15-1が、熱媒循環用配管5-1とポンプ18-1とで連結された未処理ガス側熱媒加熱器・・・とから成る熱媒循環型ガス・ガスヒータとして構成され、」(第3頁上段右欄第3行乃至第18行)
(ト)「この熱媒は・・・未処理ガスにより加熱され、ポンプ18-1、18-2により強制循環されて、・・・処理ガスに放熱する。」(第3頁下段左欄第6行乃至第9行)
引用例2:「川崎重工技法第89号」1985年7月、第63頁乃至第72頁
(イ)「石炭火力環境対策技術の中で重要な開発課題の一つとして、煙突出口での低ばいじん化があり、石炭火力においても、石炭火力並の排出ばいじん濃度の達成が要求されてきつつある。」(第63頁左欄第6行乃至第8行)
(ロ)「煙突出口ばいじん濃度が10mg/Nm3といった高性能脱じんシステムが要求される場合には、リークの無いノンリーク型が有利になる。・・・ノンリーク型ガスガスヒータとしては媒体循環式とヒートパイプ式がある。前者は・・・熱媒体をポンプで循環させることによって熱交換を行なわせる方式であり、」(第63頁右欄第5行乃至第13行)
(ハ)第64頁右欄には「図2煙突出口ばいじん濃度の比較」として、脱硫装置入口ばいじん濃度(mg/Nm3)と煙突出口ばいじん濃度(mg/Nm3)の関係が図示。
(当審の判断)
引用例1には、石炭焚ボイラなどの排ガスを脱硫処理する「排煙処理方法」に関し、上記(ハ)の記載に徴すれば、「処理前の排ガス2を空気予熱器13で130〜150℃まで冷却し、さらに前段ガス・ガスヒータ15-1で90〜120℃まで冷却してから、集塵器14を経由し後段ガス・ガスヒータ15-2で80〜100℃まで冷却する」ことが記載されているから、引用例1には、「ボイラ等の排ガス流路に設けた該排ガス中に含まれるばい塵を除去する電気集塵器と、該電気集塵器の下流側の硫黄酸化物を除去する排煙脱硫装置と、熱回収用の熱交換器と、前記排煙脱硫装置の下流側の再加熱用の熱交換器を有する排煙処理装置を用いる排煙処理方法において、熱媒体循環式の前記両方の熱交換器を用いて熱媒体により前記電気集塵器の上流側で排ガスの熱回収をして前記排煙脱硫装置の下流側の排ガスを再加熱することで、前記電気集塵器入口の排ガス温度を90〜120℃にする排煙処理方法」の発明(以下、「引用例1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明と上記引用例1発明とを対比すると、本件訂正発明は、「電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下であって、電気集塵器以降の機器及び煙道の腐食を防止する濃度に低減させ、」る点で上記引用例1発明と相違していると云える。
次に、この相違点について検討すると、上記引用例1には、ばい塵とSO3濃度との関係については、上記(ニ)及び(ホ)にみられる如く、その問題点が指摘されているだけであり、電気集塵器出口のばい塵濃度を規制することにより機器等の腐食を防止する具体的な手段については何ら示唆されていない。
また、引用例2にも、媒体循環式ノンリーク型ガスガスヒータの「煙突出口ばいじん濃度の比較」のグラフが示されているだけで、電気集塵器入口の排ガス温度と電気集塵器出口のばい塵濃度との関係については何ら示唆されていない。
してみると、本件訂正発明は、上記引用例1に記載された発明であるとすることはできないし、また、上記引用例1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
そして、訂正された特許請求の範囲の記載には不明瞭であるとする程の記載不備はないし、また発明の詳細な説明の記載にも当業者が本件訂正発明を容易に実施することができないとする程の記載不備も見当たらない。
したがって、本件訂正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
2-4.むすび
以上のとおり、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについて
3-1.特許異議申立人三菱重工業株式会社について
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証及び甲第2号証を提出して、本件発明の特許は、次の(1)及び(2)の理由により、取り消されるべきものであると主張している。
(1)本件発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項により特許を受けることができない。
(2)本件特許明細書は、次の(i)及び(ii)の点で記載不備であるから、特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満たしていない。
(i)請求項1の「所定濃度以下とする」の記載が定量的な記載ではないから、本件発明の構成が不明瞭である。
(ii)本件発明の「電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下に低減する」ための具体的な手段(方法)が記載されていないから、本件特許明細書には当業者が容易に実施することができる程度に本件発明の目的、構成及び効果が記載されていない。
(証拠の記載内容)
甲第1号証:上記引用例1と同じである。
甲第2号証:特開昭61-111125号公報
(イ)「排ガスを乾式集じん器及び湿式排ガス処理装置に導いて該排ガス中に含まれるばいじんを除去し、該排ガス中に含まれる硫黄酸化物を湿式排ガス処理装置にて除去し、ガス・ガスヒータにより湿式排ガス処理装置を経た該排ガスを再加熱し、さらに、湿式排ガス処理装置よりの排水を該排ガスにスプレイする事により排水を処理するにあたり、エアヒータ出口よりのボイラ排ガスに湿式排ガス処理装置よりの排水をスプレイし、該排ガス温度を5〜15℃下げて、ガス・ガスヒータに導びき、該排ガス温度を更に30〜50℃下げた後、該排ガスを乾式集じん器に導き、該排ガス中のばいじんを除去して該排ガスを湿式排ガス処理装置に導き、該排ガス中の硫黄酸化物を除去した後、該ガス・ガスヒータに導き、該排ガス温度を30〜50℃上げて、該排ガスを煙突に導びく事を特徴とする排煙処理法」(第1頁右欄第4行乃至第2頁上段左欄第1行)
(ロ)「本発明方法において使用されるガス・ガスヒータとしては、多管式熱媒強制循環式(排ガスがリークしないタイプ)及び蓄熱型回転再成式などが挙げられる。」(第3頁下段左欄第5行乃至第8行)
(ハ)「実施例2(本発明)
第1図のフローに従い、表ー3の通りのガスバランスにより、煙突出口NOx35ppm、SOx30ppm、ばいじん10mg/Nm3を達成した。」(第4頁下段左欄第1行乃至第4行)
(当審の判断)
上記(1)の主張について
甲第1号証については、上記2-3.で述べたとおりである。
また、甲第2号証について検討すると、この証拠に記載の「排煙処理法」は、「湿式排ガス処理装置よりの排水を該排ガスにスプレイする事により排水を処理する」ものであるから、本件訂正発明とその基本的な構成の点で大きく相違するものであり、また、この証拠にも、電気集塵器入口の排ガス温度と電気集塵器出口のばい塵濃度との関係については何ら示唆されていないから、本件訂正発明は、上記甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないし、また上記甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
したがって、特許異議申立人の上記(1)の主張は採用することができない。
上記(2)の主張について
上記(2)(i)の主張については、この「所定濃度以下」の記載は、可能な限り少なくするという、いわば本件発明の目的とも云うべき程度の内容であり、これが定量的に特定されていなくとも本件訂正発明の構成が不明瞭であるとは云えない。
また、上記(2)(ii)の主張についても、本件特許明細書や図2には、電気集塵器出口のばい塵濃度と電気集塵器入口ガス温度との関係が記載されており、これら記載によれば「電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下に低減する」ことも当業者であれば容易になしうると云える。
したがって、特許異議申立人の上記(2)の主張も採用することができない。
3-2.特許異議申立人住友重機械工業株式会社について
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第3号証を提出して、本件発明の特許は、次の(1)及び(2)の理由により、取り消されるべきものであると主張している。
(1)本件発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項により特許を受けることができない。
(2)本件特許明細書は、次の(i)及び(ii)の点で記載不備であるから、特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満たしていない。
(i)本件発明の目的が「SO3による低温腐食の防止」にあるのであれば、「電気集塵器入口の排ガス温度を120℃以上に、電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以上」にそれぞれ低減する必要があると思われるが、本件発明の構成ではそのように限定されていないから、本件発明の目的、構成及び効果が不明瞭である。
(ii)本件発明は、「SO3による低温腐食の防止」を効果としているが、その特許請求の範囲の構成によれば、この効果を奏することができないから、特許請求の範囲には本件発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない。
(証拠の記載内容)
甲第1号証:特開昭61-111125号公報
特許異議申立人三菱重工業株式会社の上記甲第2号証と同じである。
甲第2号証:実願昭56-186207号(実開昭58-93641号)のマイクロフィルム
(イ)「本考案は石炭、石炭と油、・・・を燃焼させるボイラ等から排出されるガス中のばいじん、亜硫酸ガス、窒素酸化物を除去する排ガス処理装置に関する。」(第1頁第14行乃至第17行)
(ロ)「従って、燃焼排ガス温度を低下させる限界値は約140℃であり、そのため、燃料排ガスを集じん装置5前で100〜120℃まで低減するには、別の熱交換器で吸熱する必要がある。そこで本考案は、空気予熱器4出口の排ガス温度を、煙突8入口ガスとの熱交換で降下させ、排ガス中の無水硫酸を硫酸液滴化せしめ大量のばいじんへ吸着後集じん装置5で捕集することにより、腐食雰囲気の低いボイラ排ガス処理装置を提供することを目的としてなされたものでその要旨は、・・・熱交換器を設けたことを特徴とするガス処理装置にある。」(第6頁第8行乃至第7頁第7行)
(ハ)「そして、本考案によれば大部分の硫酸液滴をもばいじんに吸着させて補集し得ると共に集じん装置5入口排ガス温度の低下は集じん効率の向上をももたらす効果を得ることができる。次に本考案を第2図に示す1実施例に基づいて具体的に説明する。火炉1出口には煙道2が取付けられ、脱硝装置3を介して、空気予熱器4が設けられている。空気予熱器4出口にガス冷却器9があり、排ガスはガス冷却器9で冷却後集じん装置5へ送気される。集じん装置5出口には、ガス再加熱装置6と脱硫装置7が設けられ、脱硫装置7で増湿冷却された排ガスは再びガス再加熱装置6で再加熱され、ガス加熱器10でさらに加熱後煙突8から大気に放出される。ガス冷却器9とガス加熱器10は水又は他の流体を熱媒体とする熱交換器で、ガス冷却器9ではポンプ12で送られた冷媒でガスを冷却し加熱された媒体は熱媒となり配管11を介しガス加熱器10に送られる。ガス加熱器10では熱媒でガスを加熱し媒体は冷媒となり再びガス冷却器9に戻る。このように媒体を使用して熱移動を行わせしめる熱交換器であるので、煙道2の複雑な引廻しが不要である。」(第7頁第8行乃至第8頁第13行)
(ニ)「一方、第2図の方式では、・・・5〜10ppmの残留無水硫酸はさらにガス冷却器9で約120℃まで冷却されることによりほとんど全量が硫酸液滴となり約20g/Nm3のばいじんに吸着して集じん装置5で捕集されガス冷却器9出口の残留無水硫酸は約1ppmまで減少する。」(第9頁第18行乃至第10頁第3行)
(ホ)「従って、本考案の排ガス処理装置では集じん装置5入口排ガスの熱量の一部をガス再加熱装置6低温部出口へ移す熱交換器を設けることにより熱損失を生じることなく、空気予熱器4出口の排ガス中の無水硫酸をほゞ全量凝縮させ硫酸液滴としてばいじんに吸着後集じん装置5で捕集出来るので、さらに低温となる部分の機器の硫酸腐食を防止することが可能となる。さらに集じん装置5入口ガス温度を低減することはばいじん捕集効率を向上させるのに有効である。」(第10頁第19行乃至第11頁第9行)
甲第3号証:特開昭56-126426号公報
流量調節器により熱媒体量を調節して温度制御する技術に関する証拠であり、特許請求の範囲が限定された場合を想定して提出されたもの。
(当審の判断)
上記(1)の主張について
甲第1号証は、特許異議申立人三菱重工業株式会社の上記甲第2号証と同じであるから、上記「3-1.(当審の判断)(i)」で述べたとおりである。
また、甲第2号証について検討すると、この証拠には、ガス冷却器9で電気集塵器入口の排ガス温度を「120℃まで冷却」(上記(ニ)参照)することが唯一記載されているだけであり、それより低温の「120℃以下」まで冷却させることについては何ら示唆するところがない。加えて、この証拠にも、電気集塵器入口の排ガス温度と電気集塵器出口のばい塵濃度との関係については何ら示唆されていないから、本件訂正発明は、上記甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないし、また上記甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
したがって、特許異議申立人の上記(1)の主張は採用することができない。
上記(2)の主張について
この(2)の主張の根拠となった本件明細書の記載不備は、上記訂正により解消されたと云えるから、特許異議申立人の上記(2)の主張も採用することができない。
3-3.特許異議申立人千代田化工建設株式会社について
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第3号証を提出して、本件発明の特許は、次の(1)及び(2)の理由により、取り消されるべきものであると主張している。
(1)本件の分割出願は、その発明が原出願の出願当初の明細書又は図面に記載された発明ではないから、適法になされたものではない。
そうであるならば、本件出願の出願日は遡及しないから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項により特許を受けることができない。
さらに、本件発明は、上記甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができない。
(2)本件特許明細書には、「SO3による低温腐食が防止できる温度にEP入口ガス温度を低下させる」や「SO3低温腐食も防止することができる」と記載されているが、本件発明の構成によれば、この効果を奏することができないから、本件特許明細書は、その特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とが一致しておらず、特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満たしていない。
(証拠の記載内容)
甲第1号証:特開昭63-171622号公報(原出願の公開公報)
甲第2号証:上記引用例1と同じである。
甲第3号証:上記引用例2と同じである。
(当審の判断)
上記(1)の主張について
原出願の当初の明細書及び図面(甲第1号証)には、次のような事項が記載されている。
(イ)「上記目的は、EP入口に熱交換器を設け、かつ該熱交換器出口(EP入口)ガス温度を、該熱交換器下流側(EP以降)の煙道および機器の低温腐食が防止できる温度に制御する手段を設けることによって達成される。」(甲第1号証第3頁上段左欄第3行乃至第7行)
(ロ)「また、SO3濃度とばい塵濃度による腐食の関係を第5図に示したが、SO3露点腐食を支配する要因として、排ガス中のばい塵濃度がある。・・・したがって、EP出口ガス中のばい塵濃度を把握することによってEP以降の煙道および機器の腐食を防止することができる。」(同第3頁下段右欄第1行乃至第12行)
(ハ)「しかしながら、本発明によれば、例えば第3図の空気予熱器出口ガス温度とSO3濃度の関係から、Aのガス温度に対してSO3濃度Bが求められ、第4図のSO3濃度と露点温度の関係から、露点温度Cが求められるため、第2図に示すIIの特性を有するEPを選定すれば良いことになる。」(第3頁下段右欄第17行乃至第4頁上段左欄第3行)
(ニ)「また、他の方法は、第2図、第3図および第5図の関係が組み込まれた演算器23によって行うことができる。・・・第5図から前記SO3濃度における腐食が防止できるガス中のばい塵濃度が求められる。このばい塵濃度が低温腐食を防止できるEP出口ガスばい塵濃度となり、第2図のEP特性曲線IIから該ばい塵濃度にするためのEP入口ガス温度(設定値)が決定される。」(第4頁下段左欄第9行乃至第19行)
(ホ)甲第1号証には、本件図面の第2図乃至第5図と同じ図面が記載されている。
これら記載と図面を参酌すれば、原出願の当初の明細書及び図面には、本件発明が記載されていることは明らかであるから、本件の分割出願が不適法であるという特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
また、上記甲第2号証及び甲第3号証についても、これら証拠は上記引用例1及び2とそれぞれ同じであり、上記2-3.で述べたとおりであるから、特許異議申立人の上記(1)の主張はいずれも採用することができない。
なお、特許異議申立人は、回答書において、参考資料1乃至4を提出しているから、これら証拠についても検討すると、参考資料1(特開昭59-225351号公報)は、電気集塵装置の下流側の脱硫装置用熱交換器、脱硫装置、煙突の腐食を防止するという技術的課題を解決するために、脱硫装置用熱交換器入口のSO3ガス濃度と電気集塵装置出口の排ガスのダスト量を制御する排煙処理法に関するものであるから、この証拠に記載の排煙処理方法は、本件訂正発明とその解決すべき課題や解決手段の点で相違するものである。参考資料2(特開昭58-153017号公報)は、除塵処理後の排ガス中のダストと排ガス中のSO3ガス濃度を検知し該濃度比が4以上となるように集塵装置出口ダスト濃度を制御する排煙処理方法に関するものであり、この証拠にも、電気集塵器入口の排ガス温度を120℃以下にすることやこの排ガス温度と電気集塵器出口のばい塵濃度との関係については何ら示唆されていない。参考資料3(特開昭58-120020号公報)には、空気予熱器出口ガス温度を下げてガス中のSO3をフライアッシュに吸着させて除去するという一般的な事項が記載されているだけであり、また参考資料4(特開昭60-84131号公報)にも、排煙の平均温度を100〜120℃にまで下げることが記載されているだけであるから、これら証拠にも、電気集塵器入口の排ガス温度と電気集塵器出口のばい塵濃度との関係については何ら示唆されていない。
してみると、これら証拠も、上記結論に何ら影響を及ぼすものではないと云うべきである。
上記(2)の主張について
この(2)の主張の根拠となった本件特許明細書の記載不備は、上記訂正により解消されたと云えるから、特許異議申立人の上記(2)の主張も採用することができない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
排煙処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ボイラ等の排ガス流路に設けた該排ガス中に含まれるばい塵を除去する電気集塵器と、該電気集塵器の下流側の硫黄酸化物を除去する排煙脱硫装置と、前記電気集塵器の上流側の熱回収用の熱交換器と、前記排煙脱硫装置の下流側の再加熱用の熱交換器を有する排煙処理装置を用いる排煙処理方法において、
熱媒体循環式の前記両方の熱交換器を用いて熱媒体により前記電気集塵器の上流側で排ガスの熱回収をして前記排煙脱硫装置の下流側の排ガスを再加熱することで、前記電気集塵器入口の排ガス温度を120℃以下、電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下であって、電気集塵器以降の機器及び煙道の腐食を防止する濃度に低減させ、さらに前記排煙脱硫装置では硫黄酸化物を除去し、排煙脱硫装置出口のばい塵濃度を所定濃度以下とすることを特徴とする排煙処理方法。
【請求項2】 前記電気集塵器の上流側の排ガス流路に設けられた熱回収用の熱交換器と前記排煙脱硫装置の下流側の排ガス流路に設けられた再加熱用の熱交換器の間にはポンプで熱媒体を強制的に循環させることを特徴とする請求項1記載の排煙処理方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、排煙処理方法に係り、特にボイラ等の燃焼装置から排出されるばい塵、硫黄酸化物(以下、SOxと略す)を除去するに好適な排煙処理方法に関する。
本発明は、排煙処理装置に係り、特にボイラ等の燃焼装置から排出されるばい塵装置から排出されるばい塵、硫黄酸化物(以下、SOxと略す)を除去するに好適な排煙処理装置と方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
湿式排煙脱硫装置(以下、脱硫装置という)では、排ガス中のSOxを除去するために、排ガスと吸収液との気液接触が行われるが、吸収塔(以下、脱硫装置と称することがある)出口ガス温度が、例えば約50℃と飽和温度以下まで低下するため、吸収塔出口ガスは煙突からの白煙防止および拡散に適した温度まで再加熱されたのち、煙突から排出されている。この再加熱装置としては、脱硫装置入口ガスの熱を再利用する熱交換器を用いるのが一般的である。
【0003】
図6は、従来技術による排煙処理装置の系統図である。この装置は、ボイラ1と、該ボイラ1の排ガスの熱を回収するための空気予熱器2と、排ガス中のばい塵を除去する電気集塵器(以下、EPと称する)3と、ばい塵が除かれた排ガスの熱を回収する熱交換器9と、排ガス中のSOxを除去する脱硫装置6と、脱硫された排ガスを熱交換器9で回収した熱で再加熱する熱交換器10とから構成される。熱交換器9と熱交換器10は熱媒体が通る連絡管11によって連結されている。熱交換器9としては、熱媒体をポンプで強制循環する方式、ヒートパイプを利用する方式などが用いられる。
【0004】
このような構成において、ボイラ1からの燃焼排ガスは、空気予熱器2によって約150℃まで熱回収された後、EP3に送られ、ばい塵の除去が行われる。ばい塵が除去された排ガスは、誘引送風機(IDF)4および脱硫ファン5で昇圧され、熱交換器9に送られ、約100℃まで冷却された後、脱硫装置6に導入される。脱硫装置6内ではアルカリ剤スラリからなる吸収液が噴霧され、気液接触により、冷却、脱硫、除塵が行われ、脱硫装置出口排ガスは約50℃の飽和温度まで冷却される。前記脱硫装置6の出口ガスは、前記熱交換器10に導入され、熱交換器9で回収した熱によって約100℃まで再加熱され、煙突7から排出される。
【0005】
最近、エネルギーの多様化に伴い、ボイラ燃料の重油から石炭への転換によるボイラ排ガス中のばい塵量の増加と、環境規制の強化に伴う煙突7入口のばい塵排出量低減の必要性から、排煙処理装置の除塵性能の高度化が要求されている。通常、石炭焚ボイラの場合、ボイラ出口ばい塵量約20g/m3Nに対し、排煙処理装置出口のばい塵量を0.02g/m3Nまで除塵することが要求され、99.9%以上の除塵性能が必要となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような高度な除塵性能を得るためには、排煙処理装置のEPの容量を増加させる方法あるいは脱硫装置での噴霧液量を増加させるなどの方法が必要であるが、いずれも、設備費、運転費が増加するという問題がある。
【0007】
また、EP性能は、ばい塵の電気抵抗に依存し、またばい塵の電気抵抗はガスの関係湿度により影響されることも知られているから、EP性能の向上は、排ガスの関係湿度を上げ、ばい塵の電気抵抗を低下させることにより図ることができる。ばい塵の電気抵抗を低下させるには、空気予熱器2の容量を大きくしてEP3の入口ガス温度を下げる方法、またはガス中に水を噴霧し、水分量を上げる方法が考えられる。
【0008】
しかしながら、前者の方法では、ボイラ出口ガス中には燃焼に伴い酸化されたSO3がSO2濃度の約2〜3%(SO2濃度1000ppmで20〜30ppm)存在するため、ガス温度を下げすぎると空気予熱器2の低温側エレメント温度の低下によりSO3が凝縮し、ばい塵とともにエレメントに固着し、腐食、閉塞を起こす問題がある。また、後者の方法では、水を完全に蒸発させないと、機器表面を濡らすことになり、腐食の原因となるため、実用化されていない。
【0009】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題を改善し、EPの除塵性能を向上させ、しかもSO3による低温腐食が防止できる、経済的な排煙処理方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の課題は、上記の従来技術の問題を改善し、EP出口のばい塵濃度を低減させても、後続の装置に腐食などの悪影響を与えない排煙処理方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の課題は、排煙処理装置の除塵性能の高度化の要求に合致するように、排煙処理装置出口のばい塵量を環境規制の強化にも対応した値に低減する排煙処理方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は、次の構成によって達成される。
すなわち、ボイラ等の排ガス流路に設けた該排ガス中に含まれるばい塵を除去する電気集塵器と、該電気集塵器の下流側の硫黄酸化物を除去する排煙脱硫装置と、前記電気集塵器の上流側の熱回収用の熱交換器と、前記排煙脱硫装置の下流側の再加熱用の熱交換器を有する排煙処理装置を用いる排煙処理方法において、熱媒体循環式の前記両方の熱交換器を用いて熱媒体により前記電気集塵器の上流側で排ガスの熱回収をして前記排煙脱硫装置の下流側の排ガスを再加熱することで、前記電気集塵器入口の排ガス温度を120℃以下、電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下であって、電気集塵以降の機器及び煙道の腐食を防止する濃度に低減させ、さらに前記排煙脱硫装置では硫黄酸化物を除去し、排煙脱硫装置出口のばい塵濃度を所定濃度以下とする排煙処理方法である。
【0013】
本発明は、例えばノンリーク型ガス-ガスヒータを用いるような、熱交換器の形式が媒体をポンプで強制循環する方式において適用される。この場合はポンプを複数台設け、運転台数を制御することによって行うことができる。
【0014】
ボイラ排ガス中のSO3は、空気予熱器内でばい塵に吸着され、約5ppm程度に低下するため、空気予熱器の出口では、硫酸露点温度が空気予熱器の入口に比べ低くなる。したがってEP入口に設けられた熱交換器のSO3露点腐食(低温腐食)に起因するガス温度の下限値を、前記の空気予熱器出口ガス温度より低くすることが可能であり、EP入口ガス温度を低下させ、EPの性能を向上させることができる。さらに、常にSO3露点腐食が防止できる下限温度以上で運転できるように前記熱交換器の熱交換量を制御することにより、前記EP以降の煙道および機器の腐食が防止できる。
【0015】
また、SO3濃度とばい塵濃度による腐食の関係を図5に示したが、SO3露点腐食を支配する要因として、排ガス中のばい塵濃度がある。SO3濃度に対してばい塵濃度が高い場合は、SO3がばい塵に吸着されて機器の付着面を乾いた状態に保ち、腐食を軽減することができるが、SO3濃度に対してばい塵濃度が低い場合は、ガス温度低下に伴いSO3が凝縮して硫酸となり、機器表面に付着し、腐食をおこす。したがって、EP出口ガス中のばい塵濃度を把握することによってEP以降の煙道および機器の腐食を防止することができる。
【0016】
さらにまた、例えばEP出口ばい塵濃度100mg/m3Nの条件でEPを設計する場合、従来技術のEP入口ガス温度150℃(A)の条件ではEPは図2のEP特性曲線のXの特性を有するEPを選定する必要があった。しかしながら、本発明によれば、例えば図3の空気予熱器出口ガス温度とSO3濃度の関係から、Aのガス温度に対してSO3濃度Bが求められ、図4のSO3濃度と露点温度の関係から、露点温度Cが求められるため、図2に示すYの特性を有するEPを選定すれば良いことになる。したがって、EPの設備費を大きく低減することができる。
【0017】
本発明を図3と図4に基づき、具体例で説明すると、次のようなことが言える。図3と図4のグラフにより空気予熱器2の出口ガスの具体例の露点温度を求めると、次のことが言える。
図3より
空気予熱器2出口ガス温度 空気予熱器2の出口ガスSO3濃度
150℃ → 4ppm
140℃ → 3ppm
130℃ → 2ppm
図4より
空気予熱器2の出口ガスSO3濃度 空気予熱器2の出口ガス露点温度
4ppm → 120℃
3ppm → 115℃
2ppm → 110℃
こうして得られた空気予熱器2の出口ガスの露点温度がEP3の入口側にある熱交換器8の出口ガスの露点温度となるように熱交換器8での交換熱量を決定すれば、熱交換器8より下流側の煙道及び該煙道に配置された機器の低温腐食が防止できる。
このときEP3の出口ばいじん量を図2により求めると、本発明の一つの実施の形態である特性曲線Yを有するEP3では
EP3の入口ガス温度 EP3の出口ばいじん量
120℃ → 100mg/m3N
115℃ → 90mg/m3N
110℃ → 80mg/m3N
なる値が得られる。
以上説明したように、本発明によれば、▲1▼EP3の入口ガス温度を120℃以下にすることと▲2▼EP3出口ばい塵濃度を100mg/m3以下にすることにより、排ガス温度低下によるEP3の集塵性能向上が図れると同時に熱交換器8の下流側煙道および機器の低温腐食の防止を可能にすることができる。
言い換えれば、本発明において、少なくともEP特性曲線Yを有するEPを用いる場合は、排ガス中のSO3によるEPの後流側の機器の腐食を防止するためにEPの出口ばい塵濃度を約100mg/m3N以下になるように調整するには、約100mg/m3N以下のEPの出口のばい塵濃度に応じてEP3の入口温度は図2から少なくとも120℃以下の適切な範囲内の温度に設定する必要がある。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施例に係る排煙処理装置の系統図である。図1において、図6と同一部分は同一符号を付し、説明を省略する。また、図1において、従来の装置(図6)と異なる点は、EP入口に熱交換器8と、該熱交換器8と熱交換器10を連結し熱媒体が循環する連絡管12と、前記熱交換器8での交換熱量を制御して熱交換器8出口ガス温度を低温腐食が防止できる温度に制御する手段、すなわち、空気予熱器2出口ガス温度を測定する温度検出器20およびEP3入口のガス温度を測定する温度検出器21と、前記温度検出器20、21の測定値から低温腐食が防止できる温度にするための交換熱量を演算する演算器23と、該演算器23からの信号によって熱媒体流量を調節する前記連絡管12に設けられた流量調節器24と設けたことである。
【0019】
このような構成において、ボイラ1からの排ガスは、空気予熱器2を経て熱交換器8に導入され、乾式EP3の集塵性能向上のために排ガス温度が下げられる。該熱交換器8出口ガス温度は、温度検出器20、21で測定された測定値から、熱交換器8下流側煙道および該煙道に配置された機器の低温腐食が防止される温度に演算器23によって演算され、さらに演算器23によって前記温度になるように熱交換器8で交換される熱量が決定され、流量調節器24により媒体圧力が調節される。
【0020】
前記演算器23による交換熱量の決定は、例えば次の二つの方法によって行うことができる。
まず、図3から、空気予熱器2出口ガス温度を温度検出器20で計測することによって、従来、連続的に高精度の測定が不可能であった空気予熱器2出口ガスSO3濃度を連続的に求めることができる。さらに図4から、図3で求めた空気予熱器2出口ガスSO3濃度の露点温度を求めることができる。該露点温度は熱交換器8出口の低温腐食を防止できる下限温度(設定値)となる。
【0021】
したがって図3および図4の関係が組み込まれた演算器23によって、前記熱交換器8の下限温度を先行信号とし、温度検出器21で測定された温度をフィードバック信号として、熱交換器8での交換熱量(熱媒体量)が求められる。
【0022】
また、他の方法は、図2、図3および図5の関係が組み込まれた演算器23によって行なうことができる。空気予熱器2出口ガス温度を温度検出器20で計測することにより、図3から空気予熱器出口ガスのSO3濃度が求められ、図5から前記SO3濃度における腐食が防止できるガス中のはい塵濃度が求められる。このばい塵濃度が低温腐食を防止できるEP出口ガスばい塵濃度となり、図2のEP特性曲線Yから該ばい塵濃度にするためのEP入口ガス温度(設定値)が決定される。したがって、図2、図3および図5の関係が組み込まれた演算器23は、該EP入口ガス温度を先行信号とし、温度検出器21で計測したEP入口ガス温度をフィードバック信号として熱交換器8の交換熱量を求めることができる。
【0023】
なお、上記実施例では空気予熱器出口ガスの露点温度を演算により求めたが、露点計を設置して同様に行なうことができるのはいうまでもない。
【0024】
図7は、本発明の他の実施例に係る排煙処理装置の系統図である。本発明における図1と異なる点は、熱交換器8の交換熱量の制御をEP出口ガスばい塵濃度とEP入口ガス温度の測定によって行うために、EP出口にばい塵温度計22とEP入口に温度検出器21とを設けたことである。このような構成において、演算器23による交換熱量の決定は、次のようにして行なわれる。まず、ばい塵濃度計22によってEP出口ガスのばい塵濃度が測定される。該ばい塵濃度におけるSO3露点腐食を防止できるSO3濃度が図5から求められ、さらに図4から該SO3濃度の露点温度が求められる。該露点温度が熱交換器8出口ガス温度の下限値(設定値)となる。したがって、該下限温度を先行信号とし、温度検出器21の測定値をフィードバック信号として、図4および図5の関係が組み込まれた演算器23は熱交換器8の熱交換量を求めることができ、連絡管12に設けた流量調節器24により前記熱交換量に相当する媒体圧力に調節される。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、SO3による低温腐食が防止できる温度にEP入口ガス温度を低下させることができるので、EPの性能を向上させることができるとともにSO3低温腐食も防止することができる。また熱交換器で回収した熱をガスの再加熱に使用し、さらにEPの設備費も低減することができるので経済的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る排煙処理装置の系統図
【図2】機器などの腐食を生じさせないEP出口の排ガス中のばい塵濃度とEP入口排ガス温度との関係を示す図
【図3】空気予熱器出口ガス温度とSO3濃度の関係を示す図
【図4】SO3濃度と露点温度の関係を示す図
【図5】SO3濃度とばい塵濃度による腐食の関係を示す図
【図6】従来技術による排煙処理装置の系統図
【図7】本発明の他の実施例による排煙処理装置の系統図
【符号の説明】
1 ボイラ 2 空気予熱器
3 電気集塵器 6 脱硫装置
7 煙突 8 熱交換器
9 熱交換器 10 熱交換器
11連絡管 12 連絡管
20温度検出器 21 温度検出器
22ばい塵濃度計 23 演算器
24流量調節器
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正の要旨は、本件特許第2826560号発明の明細書を平成11年11月22日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおり、すなわち、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的として、本件特許明細書及び図面を次のとおり訂正するものである。
(i)特許請求の範囲の項
訂正事項1:特許請求の範囲の減縮を目的として、
「1.ボイラ等の排ガス流路に設けた該排ガス中に含まれるばい塵を除去する電気集塵器と、該電気集塵器の下流側の硫黄酸化物を除去する排煙脱硫装置と、前記電気集塵器の上流側の熱回収用の熱交換器と、前記排煙脱硫装置の下流側の再加熱用の熱交換器を有する排煙処理装置を用いる排煙処理方法において、熱媒体循環式の前記両方の熱交換器を用いて熱媒体により前記電気集塵器の上流側で排ガスの熱回収をして前記排煙脱硫装置の下流側の排ガスを再加熱することで、前記電気集塵器入口の排ガス温度を120℃以下、電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下であって、電気集塵器以降の機器及び煙道の腐食を防止する濃度に低減させ、さらに前記排煙脱硫装置では硫黄酸化物を除去し、排煙脱硫装置出口のばい塵濃度を所定濃度以下とすることを特徴とする排煙処理方法。
2.前記電気集塵器の上流側の排ガス流路に設けられた熱回収用の熱交換器と前記排煙脱硫装置の下流側の排ガス流路に設けられた再加熱用の熱交換器の間にはポンプで熱媒体を強制的に循環させることを特徴とする第1項記載の排煙処理方法。」と訂正する。
(ii)発明の詳細な説明の項
訂正事項2:特許請求の範囲の減縮に伴う明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の段落【0012】の記載を、
「【0012】【課題を解決するための手段】本発明の上記課題は、次の構成によって達成される。すなわち、ボイラ等の排ガス流路に設けた該排ガス中に含まれるばい塵を除去する電気集塵器と、該電気集塵器の下流側の硫黄酸化物を除去する排煙脱硫装置と、前記電気集塵器の上流側の熱回収用の熱交換器と、前記排煙脱硫装置の下流側の再加熱用の熱交換器を有する排煙処理装置を用いる排煙処理方法において、熱媒体循環式の前記両方の熱交換器を用いて熱媒体により前記電気集塵器の上流側で排ガスの熱回収をして前記排煙脱硫装置の下流側の排ガスを再加熱することで、前記電気集塵器入口の排ガス温度を120℃以下、電気集塵器出口のばい塵濃度を100mg/m3N以下であって、電気集塵器以降の機器及び煙道の腐食を防止する濃度に低減させ、さらに前記排煙脱硫装置では硫黄酸化物を除去し、排煙脱硫装置出口のばい塵濃度を所定濃度以下とする排煙処理方法である。」と訂正する。
(iii)図面の簡単な説明の項
訂正事項3:誤記の訂正を目的として、【図2】の欄を、「【図2】機器などの腐食を生じさせないEP出口の排ガス中のばい塵濃度とEP入口排ガス温度との関係を示す図」と訂正する。
(iv)図面
訂正事項4:誤記の訂正を目的として、「図2」を「図3」に、「図3」を「図2」にそれぞれの図面番号を差し替える。
訂正事項5:明りょうでない記載の釈明を目的として、図4を訂正し、図4の横軸の目盛り5に相当する箇所に「5」の数値を挿入する。
異議決定日 2000-07-14 
出願番号 特願平8-140284
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B01D)
P 1 651・ 532- YA (B01D)
P 1 651・ 531- YA (B01D)
P 1 651・ 121- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 直人  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 新居田 知生
山田 充
登録日 1998-09-18 
登録番号 特許第2826560号(P2826560)
権利者 バブコック日立株式会社
発明の名称 排煙処理方法  
代理人 有原 幸一  
代理人 清水 千春  
代理人 松永 孝義  
代理人 羽片 和夫  
代理人 奥山 尚男  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松永 孝義  

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