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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 B01D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B01D |
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管理番号 | 1024310 |
異議申立番号 | 異議1999-74489 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1991-11-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-11-30 |
確定日 | 2000-07-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2899348号「多孔性中空糸」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2899348号の特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第2899348号は、平成2年3月14日に特許出願され、平成11年3月12日にその特許の設定登録がなされ、その後、ダイセル化学工業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年4月28日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正事項 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1中に「疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、・・・」とあるのを、「高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して製造された、疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、・・・」と訂正する。 訂正事項b 明細書第3頁第19行〜第20行(特許公報第2頁第3欄第19〜20行)に、「疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、・・・」とあるのを、「高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して製造された、疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、・・・」と訂正する。 訂正事項c 明細書第17頁第1行(同特許公報第4頁第8欄第46行)以下の実施例5を削除する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。訂正事項b、cは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。そして、上記訂正a〜cは、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 ウ.訂正明細書の請求項1に係る発明 訂正明細書の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次に記載のとおりのものである。 「高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して製造された、疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、該多孔性中空糸は内表面にスリット状微細孔を開孔率10〜50%の割合で有する、厚さ0.5〜5μmの緻密層と、該緻密層に一体に連続して形成された網状組織とからなる多孔構造であり、かつ外表面は該網状組織の一部が開孔してできた最大孔径0.5〜5μmの孔を有し、25℃における純水透過速度が10001/m2・hr・kg/cm2以上であることを特徴とする多孔性中空糸。」 エ.独立特許要件の判断 (刊行物1、2に記載の発明) 本件発明に対して、当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭63-97202号公報)および刊行物2(特開昭62-117812号公報)にはそれぞれ、次の発明が記載されている。 刊行物1; (1)特許請求の範囲の請求項1及び請求項3には、下記のことが記載される。 「(1)膜の両表面に平均孔径が500Å以上の細孔を有し、主たる膜素材がポリエーテルスルホン系樹脂であってかつ全量の1〜30重量%が親水性高分子を含有し、透水性が1000ml/hr・mmHg.m2以上であることを特徴とするポリエーテルスルホン系樹脂半透膜。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)ポリエーテルスルホン系樹脂と親水性高分子とを溶媒に混和溶解した溶液に、凝固剤、および添加剤を加えた系を製膜原液として用いることを特徴とするポリエーテルスルホン系樹脂半透膜の製造方法。」 (2)3頁右上欄5〜9行には、「かかる製膜原液は、通常、高温で均一溶解状態を示し、降温することで、ポリエーテルスルホン樹脂の凝集、相離を起こし、かつ凝固時に膜表面での分子間凝集力を抑制して、高開孔度の多孔質膜を形成する。」と記載され、3頁左下欄末行〜3頁右下欄3行には、「また凝固剤(IV)は、温度降下によって相分離を起こさせるため、溶解を高温で行うことになり、例えばジメチルスルホキシドを溶媒(III)に用いると系の腐食性が問題となることがある。」と記載される。 (3)3頁右下欄17行〜4頁左上欄3行には、「注入液は、製膜原液に対して凝固性の高いものより、低いものを用いた方が紡糸安定性は良いが、凝固浴温度・相分離温度・口金温度との相関で中空糸膜内壁の平滑性が変化するので、適宜最良組成を決めれば良い。通常、紡糸原液に用いられた溶媒と水やアルコールなどの凝固剤との混合溶液が用いられるが、・・・」と記載される。 (4)4頁左上欄11〜12行には、乾湿式紡糸時における乾燥条件について、「乾式長は0.1〜20cmであり、特に1〜10cmが紡糸安定性も良く、さらに望ましい。」と記載される。 (5)4頁の実施例1には、膜内表面の平均孔径が0.2μ、膜外表面の平均孔径が2μである半透膜の例が、同実施例2には、膜内表面の平均孔径がそれぞれ3.0,1.0,0.5μ、膜外表面の平均孔径がそれぞれ0.3、0.1、0.1μである半透膜の例が、記載される。 刊行物2; (1)特許請求の範囲第1項には、「高分子化合物の膜からなり、膜全体が60%以上の空孔率を有しかつ内表面に厚さ1μ以下で孔径0.01〜3μの細孔を備えた平滑な壁膜とこの壁膜を支持する網目状組織とにより構成され、前記網目状組織が内側から外表面に向かって密になる構造を有し、前記外表面が孔径0.01〜3μの細孔を有することを特徴とする組織的に二層構造よりなる中空繊維。」が記載される。 (2)3頁右上欄7行〜18行には、「内表面側が粗で外表面側が密な網目構造を示す非対称的構造の中空繊維は本発明によれば次のように製造される。すなわち、高分子化合物を溶剤に溶解させた紡糸原液を環状紡糸口から吐出すると共に環状紡糸口の中央から芯液を吐出させ、次いで凝固浴中で凝固させる中空繊維の製造方法において、-10〜+40℃でゲル化する紡糸原液をゲル化温度より高い温度にて吐出させ、かつ芯液として紡糸原液と凝固液との両者に対し溶解性が小さいかまたは殆んど溶解性のない液体を使用することにより製造される。」と記載される。 (3)5頁の実施例2には、「ポリスルホン(P-1800,UCC社製)15重量部およびポリビニルピロリドン(平均分子量40000)30重量部をN-メチル-2-ピロリドン55重量部に60℃で溶解させ、濾過脱泡して紡糸原液を作成した。この紡糸原液は21℃でゲル化する。この紡糸原液を55℃で環状紡糸口から吐出させると共に、環状紡糸口の中央からn-トリデカンを芯液として吐出させ、次いで空間中を0.03秒間走らせた後、・・・凝固浴に導入して凝固せしめ、・・・・溶剤などを除去した。得られた中空繊維は内径400μ、膜厚50μを有し、・・・空孔率(ポリスルホンの比重を1.25とする)は86%であった。透水量は4.1l/m2.hr.mmHgであり、・・・」と記載される。 (対比・判断) 先ず、本件発明が刊行物1に記載の発明であるか否かについて比較検討する。 本件発明は、訂正された請求項1の構成を採ることにより、透水性、分画性、耐汚染性に優れ、しかも親水性であるため、長期間の使用に適しており、経済的である、という効果を奏するものである。 刊行物1に記載される発明において、「透水性が1000ml/hr・mmHg.m2以上である」ことは、「純水透過速度が7601/m2・hr・kg/cm2以上である」ことに相当するから、刊行物1には、本件発明でいう「疎水性高分子に対して親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、純水透過速度が10001/m2・hr・kg/cm2以上である多孔性中空糸」が記載されているといえる。しかしながら、刊行物1の上記(2)の記載から判断して、刊行物1記載の発明は「低温側で相分離現象を起こす原液を使用して多孔性中空糸を製造するもの」であり、本件発明のように「高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して多孔性中空糸を製造するもの」ではない。また、刊行物1の半透膜糸(多孔性中空糸)の製造に関する全ての記載をみても、本件発明の「内表面にスリット状微細孔を開孔率10〜50%の割合で有する、厚さ0.5〜5μmの緻密層と、該緻密層に一体に連続して形成された網状組織とからなる多孔構造であり、かつ外表面は該網状組織の一部が開孔してできた最大孔径0.5〜5μmの孔を有する多孔性中空糸」が製造されているとは断定できない。 よって、本件発明は刊行物1に記載の発明であるとはいえない。 つぎに、本件発明が刊行物2に記載の発明であるか否かについて比較検討する。 刊行物2の特許請求の範囲第1項には、「高分子化合物の膜からなり、膜全体が60%以上の空孔率を有しかつ内表面に厚さ1μ以下で孔径0.01〜3μの細孔を備えた平滑な壁膜とこの壁膜を支持する網目状組織とにより構成され、前記網目状組織が内側から外表面に向かって密になる構造を有し、前記外表面が孔径0.01〜3μの細孔を有することを特徴とする組織的に二層構造よりなる中空繊維。」が記載される。また、刊行物2の実施例2には、ポリスルホン(P-1800,UCC社製)15重量部およびポリビニルピロリドン(平均分子量40000)30重量部をN-メチル-2-ピロリドン55重量部に60℃で溶解させ、濾過脱泡して紡糸原液を使用して、透水量が4.1l/m2.hr.mmHgである多孔性中空繊維を製造する例が記載されている。 本件発明と刊行物2に記載の発明とを対比すると、後者において、「透水量が4.1l/m2.hr.mmHgである」ことは、「純水透過速度が31161/m2・hr・kg/cm2である」ことに相当するから、両者は、「疎水性高分子に対して親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、純水透過速度が10001/m2・hr・kg/cm2以上である多孔性中空糸」である点で一致する。しかしながら、刊行物2の上記(2)の記載から判断して、刊行物2記載の発明は「低温側で相分離現象を起こす原液を使用して多孔性中空糸を製造するもの」であり、本件発明のように「高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して多孔性中空糸を製造するもの」ではない。また、刊行物2の多孔性中空糸の製造に関する全ての記載をみても、本件発明の「内表面にスリット状微細孔を開孔率10〜50%の割合で有する緻密層を有し、かつ外表面は網状組織の一部が開孔してできた最大孔径0.5〜5μmの孔を有する多孔性中空糸」が製造されているとは断定できない。 よって、本件発明は刊行物2に記載の発明であるとはいえない。 したがって、本件発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものとはいえない。 オ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 ア.申立ての理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証(上記刊行物1)、甲第2号証(上記刊行物2)および甲第3号証(特開昭58-114702号公報)を提出して、次の理由により本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべきと主張している。 (1)本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条の規定に違反している。 (2)本件請求項1に係る発明の特許は、甲第1〜甲第3号証に記載の発明を基に、特許法第29条第2項の規定に違反している。 イ.本件発明 訂正明細書の請求項1に係る発明、即ち本件発明は、前記2.項ウに記載のとおりのものである。 ウ.対比・判断 申立人の主張(1)について; 申立人の主張(1)は、次のとおりである。 即ち、特許明細書の請求項1には、「疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した」と記載されるが、一部実施例の数値と矛盾を生じ、実際には4%と10%の例しか存在せず、特許請求の範囲には、実施例に記載の数値と比べると広い数値が記載され、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。 しかしながら、訂正明細書6頁8行〜11行には、「疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有する。親水性高分子の含有量が10%を越えると、疎水性高分子の持つ特性を親水性高分子が阻害してしまう可能性があり、また0.5%未満では親水効果を得ることができない。」と記載され、親水性高分子の使用する上限、下限の範囲の意義が明確に記載されている。 さらに、該訂正明細書の実施例1には、ポリスルホン樹脂19重量部、ポリビニルピロリドン1.9重量部を含有する紡糸原液を使用して、ポリスルホンに対するポリビニルピロリドン量が4.2%である中空糸を製造する例が記載されている。同様にして、実施例2〜4には、表-1にPVP含有率が1.6〜7.8%である例が記載されている。そして、実施例1の記載、その記載を受けた実施例2〜4の記載から判断して、実施例2〜4の「PVP含有率」は、「ポリスルホンに対するポリビニルピロリドン量」を意味するものと認められる。 したがって、申立人の主張(1)は妥当なものではない。 申立人の主張(2)について; (甲各号証) 甲第1、2号証; 前記2.項ウに記載のとおり。 甲第3号証; 特許請求の範囲第1項には、 「内表面に平均巾500Å以下のスリット状微細隙を有し、外表面に平均孔径1000〜5000Åの微孔を開孔率10〜50%の割合で有し、膜内部が微細多孔構造であり、かつ80Å以上の物質を実質的に透過させず、透水速度が1.5m3/m2・hr・kg/cm2以上を示すポリスルホン中空繊維膜。」が記載される。 (対比・判断) 本件発明と甲第1〜甲第3号証に記載の発明とを比較検討する。 甲第1、第2号証に記載のものは、既に述べたように、本件発明のように「高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して多孔性中空糸を製造するもの」ではなく、また、甲第1、第2号証の多孔性中空糸の製造に関する全ての記載をみても、本件発明の「内表面にスリット状微細孔を開孔率10〜50%の割合で有する緻密層を有し、かつ外表面は網状組織の一部が開孔してできた最大孔径0.5〜5μmの孔を有する多孔性中空糸」が製造されていると断定できるものではなく、そのことを示唆する記載もない。 甲第3号証に記載のポリスルホン中空繊維は、本件発明のように「疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有する」ものではなく、また、甲第3号証の多孔性中空繊維の製造に関する全ての記載をみても、本件発明の「内表面にスリット状微細孔を開孔率10〜50%の割合で有する、厚さ0.5〜5μmの緻密層を有し、かつ外表面は網状組織の一部が開孔してできた最大孔径0.5〜5μmの孔を有する多孔性中空糸」が製造されていると断定できるものではなく、そのことを示唆する記載もない。 したがって、本件発明は、甲第1〜甲第3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。 エ.むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、平成6年附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 多孔性中空糸 (57)【特許請求の範囲】 高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して製造された、疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であつて、該多孔性中空糸は内表面にスリット状微細孔を開孔率10〜50%の割合で有する、厚さ0,5〜5μmの緻密層と、該緻密層に一体に連続して形成された網状組織とからなる多孔構造であり、かつ外表面は該網状組織の一部が開孔してできた最大孔径0.5〜5μmの孔を有し、25℃における純水透過速度が10001/m2・hr・kg/cm2以上であることを特徴とする多孔性中空糸。 【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は多孔性中空糸、特に高い透水性と優れた分画性を有し、かつ親水性に優れた多孔性中空糸に関するものである。 (従来の技術) 近年、分離操作において選択透過性を有する中空糸を用いた技術の進展はめざましく、各種の分野において実用化されている。かかる中空糸の素材として、セルロース系、ポリアミド系、ポリアクリルニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリスルホン系等の樹脂が使用されている。中でもポリスルホン系樹脂は、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、耐酸化剤性等の物理的及び化学的性質に優れ、また製膜が容易な点から、各種用途において使用されている。 しかし、ポリスルホン系樹脂のような疎水性高分子からなる中空糸の欠点として、中空糸を乾燥させると透過速度が著しく減少することが挙げられる。この欠点を解決する方法として、例えば特開昭58-104940号公報や特開昭61-93801号公報には膜中に親水性のポリビニルピロリドンを含有させてポリスルホン膜を親水化させることが記載されている。また、特開昭61-238306号公報及び特開昭61-238834号公報にはポリスルホン樹脂、ポリビニルピロリドン、膨潤剤、溶媒より構成される紡糸原液を使用して、膜の両表面に平均孔径が500Å以上の細孔を有する透水性の高い親水化ポリスルホン膜が記載されている。 (発明が解決しようとする課題) しかしながら前者のポリスルホン膜は孔径0.001〜0.05μmの微少な細孔を有するスキン層をもつ膜であるため透水性が極めて低いという問題があつた。 また後者のポリスルホン膜は膜表面の微細孔が平均500Å以上であるため、透水性は高いが、分画性が大きく濾過によるFLUXの低下が大きいという問題があつた。 したがつて、本発明の目的は高い透水性と優れた分画性を有し、使用時におけるFLUXの低下が少ない親水性を有する多孔性中空糸を提供することにある。 (課題を解決するための手段) 本発明は、高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して製造された、疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であつて、該多孔性中空糸は内表面にスリット状微細孔を開孔率10〜50%の割合で有する、厚さ0.5〜5μmの緻密層と、該緻密層に一体に連続して形成された網状組織とからなる多孔構造であり、かつ外表面は該網状組織の一部が開孔してできた最大孔径0.5〜5μmの孔を有し、25℃における純水透過速度が10001/m2・hr・kg/cm2以上であることを特徴とする多孔性中空糸である。 本発明の中空糸には、内表面に中空糸の長さ方向に細長く存在するスリツト状の微細孔を有する、厚さ0.5〜5μmの緻密層が形成されている。かかるスリツト状微細孔の平均幅は、通常500Å以下であるが、高い分画性を有するために、特に100〜300Åが好適である。平均幅とは微細孔の短径の平均値であり、走査型電子顕微鏡写真により測定される。この微細孔の長さは通常スリツト幅の3倍以上、好ましくは10倍以上である。また中空糸内表面における微細孔の分布密度はできるだけ均一で、かつ高い方が好ましい。優れた分画性、耐圧性を付与させるためには、微細孔の幅もできるだけ均一であることが好ましい。このスリツト状微細孔の開孔率は通常10〜50%である。本発明でいう開孔率とは、内表面に開孔している微細孔の全孔面積の外表面積に対する.割合を百分率で示したものである。開孔率が10%未満であると透水性が低く、50%を越えると表面強度が小さくなつて中空糸の取扱が悪くなる。特に開孔率が10〜30%であると中空糸の透過性能と機械的強度のバランスがとれて好ましい。 また、本発明の中空糸は内表面に形成された緻密層に一体に網状組織の多孔構造が連続して形成され、かつ外表面は該網状組織の一部が開孔してできた最大孔径0.1〜5μmの孔を有している。かかる中空糸内部に形成された網状組織は、平均1〜5μmの多数の連続孔を有し、かつ10μm以上の巨大空洞は存在しない。このため、長期間の使用時における圧密化性が優れ、さらには強度も優れている。外表面の孔の形状や開孔率は特に制限はないが、通常円形、楕円形が好ましく、また開孔率は内表面と同程度の10〜50%が好ましい。外表面の孔径が5μm以上になると耐圧性の点で問題になるばかりではなく、外圧で濾過した場合に膜内部に残留物が堆積し易くなって透過速度の低下が早く、また薬洗や逆洗による膜の再生が十分行われないという傾向があり好ましくない。逆に最大孔径が0.1μmより小さくなると透水性が小さくなり好ましくない。 本発明の中空糸は内表面にスリツト状微細孔を有する緻密層と網状組織からなる多孔構造で構成されている。そして緻密層の厚みが0.5〜5μmと薄いため、例えば、135Åの粒子を90%以上阻止するにもかかわらず、25℃の純水透過速度が10001/m2・hr・kg/cm2以上と高い透水性を示す。また実際に水を濾過した場合、外圧濾過では、外表面でサブミクロンオーダー以上の粒子を捕捉し中空糸壁、または内表面の緻密層で溶解ポリマー等のサブミクロン以下の物質を補捉する。すなわち外表面及び中空糸壁がプレフイルター的な役割を果たすため、透過速度の低下が少なく高い透過速度を維持することができる。逆に内圧濾過では、内表面に緻密層を有しているためクロスフロー方式の濾過に有効であり、中空糸を透過した物質は中空糸壁で留まりにくいため汚染されにくい。 また本発明の中空糸は、緻密層と多孔構造が一体化しており、コーテイング法などで得られる複合中空糸のように緻密層のピンホールや緻密層と支持層との剥離の問題はまつたくない。 さらに、本発明の中空糸は疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有する。そのため、親水性に優れ、タンパク等の吸着が少なく、濾過による透過性能の低下が小さい。また、乾燥によつて実質的な透水性の低下や中空糸の寸法変化がなく、完全なドライ中空糸を作製することができる。これは、中空糸の取り扱い、モジュール化、モジュールの輸送等多数の面で有利であり、作業性や生産性を向上させることができる。 次に、本発明の多孔性中空糸の製造方法について説明する。 本発明の中空糸を製造するための紡糸原液は、疎水性高分子、親水性高分子、微孔形成剤及びこれらを溶解する極性溶媒から構成される。 疎水性高分子は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフツ化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ビニル等が挙げられる。中でもポリスルホンやポリエーテルスルホンは耐熱性、耐薬品性、耐酸化剤性、強度に優れ、しかも分子間凝集力が強いために紡糸が容易で好適である。 親水性高分子は、例えばポリビニルピロリドン、平均分子量20,000以上のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体等やこれらの変性ポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、疎水性高分子と溶媒中での相溶性が優れているものが望ましく、またポリビニルピロリドン等の水溶性高分子の場合は架橋等で容易に不溶化できるものが望ましい。親水性高分子の添加量は高分子量であるほど少なくてすむ。特に水溶性高分子の場合は中空糸中に残存しやすく、水洗、熱水処理中や中空糸を使用時に溶出も少なくなるため好ましい。これら親水性高分子の種類は、製造プロセス、使用する用途における適合性等を考慮にいれて選択することができる。 本発明の中空糸はミクロ相分離によつて微孔が形成されるが、微孔形成剤はそのミクロ相分離を起こしやすくする目的で添加される。従来より、微孔形成剤としてメタノール、エタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、平均分子量400〜20,000の低分子量のポリエチレングリコール等のグリコール類、LiCl、ZnCl2等の無機塩類、水等多数用いられており、本発明においても上記微孔形成剤が使用できる。微孔形成剤の添加量は紡糸原液が均一透明を保つ範囲内に抑える必要があるが、微孔形成剤が孔の核となると推定されるために添加量はできるだけ多い方が望ましい。中でも分子量400〜20,000の低分子量のポリエチレングリコールは紡糸原液への添加量を多くすることができるため好適である。この低分子量のポリエチレングリコールは微細孔形成に優れ、かつ紡糸原液の増粘効果を有しているため紡糸の安定性を向上させる利点がある。 極性溶媒は、疎水性高分子、親水性高分子および微孔形成剤を溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。 これら4種類の組成はそれぞれ任意の割合で選択することができるが、本発明の中空糸を製造するためには、紡糸原液をある一定の温度以下で相分離を起こす(低温相分離型)、あるいはある一定温度以上で相分離を起こす(高温相分離型)ように調製することが好ましい。 本発明の中空糸は、上記の紡糸原液を使用し、公知の乾湿式法によつて製造される。紡糸原液とともにノズル中心部より吐出される内部凝固液は、水、水と極性溶媒の混合液、アルコール類、グリコール類等の単独、あるいはそれらの2種類以上の混合物などが使用される。この内部凝固液の組成を変えることにより内表面の微細孔の形状、平均孔径、開孔率および緻密層の厚み等の中空糸内表面近傍の構造が制御される。 内表面にスリツト状微細孔を形成させるためには、通常内部凝固液として水、または水と溶媒の混合液が使用される。かかる内部凝固液の濃度(溶媒/水)は0/100〜85/15が好ましい。溶媒/水の比率が40/60〜75/25であれば紡糸性と膜性能のバランスの点で特に好ましい。 ノズルより吐出された紡糸原液は、気中(ドライゾーン)を走行したのちに、水を主成分とする外部凝固液中に浸漬される。本発明ではこのドライゾーンの長さ、ドライゾーン中の雰囲気湿度や温度を変化させることにより、ドライゾーン中に存在する微量の水分量を調節して、外表面の孔構造の制御を行う。このドライゾーンの長さは紡糸安定性と中空糸性能のバランスの点で0.1〜200cm、通常1〜50cmが適当である。また、ドライゾーンの雰囲気は湿度が高いほど大きな孔が形成されやすく、開孔率も多くなる。 凝固液で製膜した中空糸は、次いで、溶媒や微孔形成剤を抽出するために水洗される。また、必要に応じて、微孔形成剤の抽出や中空糸の耐圧性を向上させるために、水を主成分とした浴中で湿熱処理される。親水性高分子として水溶性高分子を用いた場合は、中空糸中に過剰に残存する親水性高分子の抽出も水洗や湿熱処理で同時に行うことができる。ただし、この抽出効果は親水性高分子の種類や分子量によつて異なるために、場合によつては別の抽出操作を行ない、最終的に中空糸に残存させる親水性高分子量を調節することが好ましい。通常中空糸中に残存する親水性高分子が使用中に溶出することはほとんどないが医療用途等の特殊な用途によつては、親水性高分子を物理的または化学的に不溶化させて、親水性高分子の溶出を完全に防止しておくことが好ましい。この親水性高分子の定量は、重量法や元素分析等の適当な手段で容易に行うことができる。 上記の方法で得られた中空糸は、疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有する。親水性高分子の含有量が10%を越えると、疎水性高分子の持つ特性を親水性高分子が阻害してしまう可能性があり、また0.5%未満では親水効果を得ることができない。親水性高分子の含有量は、中空糸に親水性を与えることができる最小の量が好ましい。また、中空糸中の親水性高分子の分散状態には特に制限がないが、中空糸に親水性を与えるためにできるだけ均一に分散させることが好ましい。 (実施例) 以下実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、純水透過速度および分画性の測定は以下の方法で行つた。 (i)純水透過速度 25本の中空糸で有効長20cmの外圧濾過型のラボモジュールを作製し、25℃の純水を濾過圧1Kg/cm2で中空糸外部に供給し、一定時間後に中空糸を透過した純水の量を測定した。 (ii)分画性 測定液として135Åのコロイダルシリカ(触媒化成工業SI-30)の1%分散液を調製し、濾過圧0.5Kg/cm2、循環線速0.3m/secで外圧濾過を行い、採取した透過液と測定液の蒸発残漬の重量を測定し除去率を算出した。 実施例1 ポリスルホン樹脂(アモコ社製UDELP-1700)19重量部、平均分子量120万のポリビニルピロリドン(GAF社製K-90)1.9重量部、平均分子量600のポリエチレングリコール(三洋化成社製PEG#600)30.4重量部、ジメチルホルムアミド48.7重量部を120℃で6時間加熱溶解した。この紡糸原液は75℃以上と29℃以下で相分離をおこす原液であつた。この紡糸原液を45℃に保ち、2重環状ノズルより内部凝固液として同じ温度に保つたジメチルホルムアミド/水(70/30)を同時に吐出させ、長さ10cm、雰囲気温度55℃、雰囲気相対湿度85%のドライゾーンを通した後に、55℃の水に浸漬させて外径0.6mm、内径0.4mmの中空糸を得た。この中空糸を90℃で温水で2時間湿熱処理を行ない、洗浄したのちに、60℃で8時間乾燥させた。得られた中空糸の純水透過速度は、19001/m2・hr・kg/cm2、135Åのコロイダルシリカの除去率は95%であった。走査型電子顕微鏡写真から求めた内表面に設けられたスリツトの平均幅は250Å、開孔率は15%、緻密層の厚さは1.0μm、外表面の最大孔径は1.0μm、中空糸壁は平均孔1μmの網状多孔構造であつた。また、元素分析で中空糸中のポリビニルピロリドン量を測定したところ、ポリスルホンに対して4.2%であった。この中空糸に通水したのちに再乾燥して透水性を再度測定したところ透水性の変化はみられなかつた。この中空糸の走査型電子顕微鏡による写真を第1図〜第5図に示す。第1図は中空糸の外表面、第2図は内表面、第3図は外表面側の断面、第4図はほぼ中央部の断面及び第5図は内表面側の断面を示している。 実施例2〜4 実施例1と同一のポリスルホン樹脂、ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコールを使用して紡糸原液の組成や紡糸条件を変えて中空糸を作製し、得られた中空糸の純水透過速度及び135Aのコロイダルシリカの除去率を表-1に示す。 比較例1 ドライゾーンを0cm(湿式紡糸)とした以外は実施例1と同一条件で中空糸を製造した。この中空糸の純水透過速度は2501/m2・hr・kg/cm2であつた。また走査型電子顕微鏡写真を観察した結果、中空糸の外表面には孔径0.1μm以上の孔は存在しておらず、また中空糸の内表面と外表面の両方に緻密層が認められた。 実施例6 実施例1および比較例1で得られた中空糸を使用して、有効膜面積1m2の外圧濾過型モジュールを作製した。かかる2種類のモジュールを用いて水道水を濾過圧0.5kg/cm2で外圧全濾過を行ない透過速度が半減したときの濾過量を測定したところ、比較例1で得られた中空糸を収容したモジュールでは濾過量が30m3であつたのに対して、実施例1で得られた中空糸を収容したモジュールは65m3であつた。 (発明の効果) 本発明の多孔性中空糸は、特定の構造を有しているため透水性と、分画性、耐汚染性に優れ、しかも親水性であるため、長期間の使用に適しており、経済的である。そのため、工業用途や血液、腹水濾過等のメディカル用途等の幅広い分野に適用することができる。 【図面の簡単な説明】 第1図は実施例1で得られたポリスルホン中空糸の外表面の構造、第2図は内表面の構造、第3図は外表面側の断面構造、第4図はほぼ中央部の断面構造および第5図は内表面側の断面構造を示す、それぞれ5,000倍の走査型電子顕微鏡写真である。 |
訂正の要旨 |
訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1中に「疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、・・・」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して製造された、疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、・・・」と訂正する。 訂正事項b 明細書第3頁第19行〜第20行(特許公報第2頁第3欄第19〜20行)に、「疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、・・・」とあるのを、「高温側と低温側とで相分離現象を起こす原液を使用して製造された、疎水性高分子に対して0.5〜10%の親水性高分子を含有した多孔性中空糸であって、・・・」と訂正する。 訂正事項c 明細書第17頁第1行(同特許公報第4頁第8欄第46行)以下の実施例5を削除する。 訂正事項b、cは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。 |
異議決定日 | 2000-06-20 |
出願番号 | 特願平2-64576 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(B01D)
P 1 651・ 121- YA (B01D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉水 純子 |
特許庁審判長 |
石井 勝徳 |
特許庁審判官 |
唐戸 光雄 新居田 知生 |
登録日 | 1999-03-12 |
登録番号 | 特許第2899348号(P2899348) |
権利者 | 株式会社クラレ |
発明の名称 | 多孔性中空糸 |
代理人 | 持田 信二 |
代理人 | 溝部 孝彦 |
代理人 | 古谷 聡 |
代理人 | 古谷 馨 |