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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A45D |
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管理番号 | 1024354 |
異議申立番号 | 異議2000-72397 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-03-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-06-12 |
確定日 | 2000-09-11 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2988935号「育毛キャップ」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2988935号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
〔1〕手続きの経緯 本件特許第2988935号(以下「本件特許」という。)は、平成11年2月25日の出願であって、平成11年10月8日に特許権の設定登録がされ、その後、板倉昭夫により、請求項1ないし請求項8に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。 〔2〕特許異議申立てについての判断 1.本件特許発明について 本件特許の請求項1ないし請求項8に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものと認める。 「請求項1 鉢状に形成され可撓性を有するキャップ本体と、このキャップ本体の内面に内方に向かって突出して形成された多数の突起と、前記キャップ本体の開口縁部に環状に設けられ、内部に空気を送入しうる空洞を有する周縁シール部であって、この空洞に空気を送入することによって内方へ向かって膨出し頭部側面に密着してシールする周縁シール部と、前記キャップ本体内部に対して流体を出し入れするため前記キャップ本体に設けられたポートとを備えたことを特徴とする育毛キャップ。 請求項2 前記周縁シール部の内径は、前記空洞に空気が送入されていない自然状態において、前記頭部側面との間に間隙を確保しうるように頭部側面の外径より大きく形成されていることを特徴とする請求項1記載の育毛キャップ。 請求項3 前記周縁シール部は、頭部とキャップ本体との間に形成される空間につき密閉状態が必要な場合にのみ頭部との間をシールし、それ以外は開放とするよう作動することを特徴とする請求項2記載の育毛キャップ。 請求項4 前記周縁シール部には、この周縁シール部の外周に嵌合するリング状部材が設けられていることを特徴とする請求項2記載の育毛キャップ。 請求項5 前記周縁シール部に形成された空気を送入する前記空洞は、環状に上下2段に形成されていることを特徴とする請求項1記載の育毛キャップ。 請求項6 前記突起は、前記ポートの周囲に設けられる内側突起と、該内側突起の外側に設けられる外側突起からなり、該内側突起は真空加圧時に頭部を押圧するがそれ以外の時は頭部より離れるよう設け、該外側突起は真空加圧時以外の時も頭部に当接するよう設けることを特徴とする請求項1記載の育毛キャップ。 請求項7 前記キャップ本体の下部にキャップ本体のせり上がりを防止するための顎ベルトを設けたことを特徴とする請求項1記載の育毛キャップ。 請求項8 前記キャップ本体の外側には、このキャップ本体を覆うキャップカバーが設けられていることを特徴とする請求項1記載の育毛キャップ。」 2.特許異議申立ての理由について 特許異議申立人は、「本件の請求項1〜8に係る特許発明は、甲第1号証〜甲第3号証の各号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易になし得た発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反する。したがって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。」旨、主張し、以下の証拠方法を提出している。 甲第1号証:特開平9-28448号公報 甲第2号証:実願昭61-108390号(実開昭63-16032号)のマイクロフィルム 甲第3号証:特開平1-146551号公報 参考資料1:特開昭55-90606号公報 3.甲号各証記載の発明について 甲第1号証には、育毛・発毛用真空含浸方法およびその方法に用いる真空含浸装置に関して以下のことが記載されている。 a)「ヘルメット形のキャップ本体の開口端部に弾性体からなる伸縮バンドを取り付けるとともに、前記キャップ本体の所定位置に排気口、注入口および吸気口を形成してなるヘヤキャップ」(請求項2) b)「本発明は、育毛・発毛用真空含浸方法およびその方法に用いる真空含浸装置に関するものである。」(段落【0001】) c)「図2に示すように、頭皮4を真空状態に保持することで、毛孔Hの空気を外部に吸い出す。即ち、頭皮を吸い上げて毛穴を開いた状態に保つ。 次いで、頭皮4の表面の空間に育毛剤を供給して霧状に拡散させた後、この真空状態を開放すると、図3に示すように、毛孔Hに空気が流入し、このとき、育毛剤がこの流入空気とともに毛孔Hの奥まで浸透する。」(段落【0012】) d)「キャップ本体12の頂部には、ジョイント14が形成されており、このジョイント14の軸方向に、吸引口15、注入口16および脱気口17がそれぞれ形成されている。・・・キャップ本体12の開口端部に固定される伸縮バンド13は、縦方向および横方向の肉厚が比較的幅広にとられており、大きな弾性力をもって頭部に締め付けられる。伸縮バンド13の外周部には、気密性を高めるために金属バンド23を締め付けることも可能である。 ヘヤキャップ2の構成材料については、例えばキャップ本体12およびジョイント14にはシリコン、ゴムを用いることができ、また、伸縮バンド13にはウレタン等を用いることができる。」(段落【0014】、【0015】) e)「次に、前記真空含浸装置の使用方法を説明する。 1)まず、被施術者の頭部を研磨剤入りのシャンプーを塗布してマッサージし、頭皮の皮脂肪を洗い落とす。研磨剤を入れるのは、頭皮表面の毛穴に詰まった脂肪分を効率よく剥すためである。洗浄後は、タオルなどで頭皮の水分を拭き取っておく。 2)次に、被施術者の頭部にヘヤキャップ2を取り付けて頭皮を密閉状態に保つ。このとき、額から後頭部にかけて伸縮バンド13を巻いてキャップ内の密閉室Rの気密性を高める。なお、伸縮バンド13による締め付けが不十分な場合は、伸縮バンド13の上から補強用の金属バンド23で締め付けるとよい。」(段落【0017】) 甲第2号証には、マサージ器に関して以下のことが記載されている。 a)「この考案は頭部へ物理的な刺激を与え、血行および増毛を促進するマッサージ器に関する。」(第1頁第10、11行) b)「膨縮嚢の内側へ複数個の突起を設け、前記膨縮嚢の外側をヘルメットで被つたことを特徴とするものである。」(第2頁第3〜5行) c)「膨縮嚢2はゴム製で、椀状に形成され、・・・また椀状のプラスチック若しくはゴムシート30には多数のプラスチック若しくはゴム製の突起3、3、3…が植設され、プラスチック若しくはゴムシート30は膨縮嚢2の内側へ当接若しくは粘着されている。なお、突起3、3、3…は膨縮嚢2の内側へ直接、植設されていてもよい。・・・つまり第1図示のように膨縮嚢2の内側へは突起3、3、3…が設けられるとともに外側がヘルメット4で被われている。なお、図中6は締め付け用のバンドである。」(第2頁第9行〜第3頁第10行) d)「流体給排装置1内の流体を圧縮すると、これと連通している膨縮嚢2若しくは膨縮嚢2’へ当該流体が送られ、膨縮嚢2若しくは2’が膨脹する。・・・膨縮嚢2は内側への膨らみ、突起3、3、3…が頭を押圧する。続いて流体給排装置1内へ流体を戻せば、膨縮嚢2、2’は収縮し、突起3、3、3…による頭への押圧が解かれる。この膨縮嚢2、2’への流体の給・排を繰り返せば、膨縮嚢2、2’は膨縮を繰返し、突起3、3、3…によるマッサージが行われる。」(第5頁第9行〜第6頁第2行) 甲第3号証には、頭皮活性化育毛システムおよび装置に関し以下の事項が記載されている。 a)「(1)頭部との間で気密が可能な掩蔽状の中空体の内部を任意のサイクルで吸引減圧およびブレークを繰返しながら、上記気密化を助けるために頭皮面に塗布された脂質可溶性の高い特殊シャンプーにより皮膚とその付属器官から固着貯留物等を除去し、頭部を洗浄乾燥後、育毛剤等を塗布し、上記中空体の内部を任意のサイクルで加圧およびブレークを繰返し、頭皮のマッサージと薬液滲透を助けて頭皮活性化を促すことを特徴とする頭皮活性化育毛システム。 (2)頭部を掩蔽する半球状のキャプケースと、該キャップケースの開口端部と頭部との隙間を気密状態に保つ気密手段と、・・・頭皮活性化育毛装置。」(特許請求の範囲) b)「本発明は、頭皮を活性化させて、例えば毛髪の発育等を促進し、脱毛を防止するシステムおよびそのための装置に関するものである。」(第1頁右下欄第3〜5行) c)「5はゴム材料からなる気密用チューブであって、上記キャップケース1の下側開口縁部の内側に沿って環状に取付けられている。該気密用チューブ5とキャップケース1の内面とは接着剤やビス止め等により気密状態に接合されている。」(第2頁左下欄第17行〜右下欄第1行) d)「エアーポンプ4により吸引された空気の全部又は一部は送気ホース7を通って気密用チューブ5内に送られ、気密用チューブ5を膨張させる。気密用チューブが膨張すると、これと接触している頭皮面を圧迫する。」(第3頁左上欄第1〜6行) なお、参考資料1には、髪型の崩れ防止キャップに関し、以下の事項が記載されている。 a)「このキャップ本体(1)の内側面に多数の内部が空胴部(5)となっている突起部(4)を設けるのであるが、突起部の長さは、前頭部に当る部分(a)をやや長く(最も長いところは5cm〜7cm)、前頭部に近い側頭部(b)では4cm〜6cm、側頭部から後頭部(c)にかけては2cm〜3cm程度の長さが適当である」(第2頁左上欄第1〜7行) 4.対比・判断 まず、本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、 「鉢状に形成され可撓性を有するキャップ本体と、前記キャップ本体内部に対して流体を出し入れするため前記キャップ本体に設けられたポートとを備えたことを特徴とする育毛キャップ。」 である点で一致し、以下の点で相違するものと認める。 1)本件請求項1に係る発明が、「キャップ本体の内面に内方に向かって突出して形成された多数の突起」を具備しているのに対して、甲第1号証に記載された発明は、該構成を具備していない点、 2)本件請求項1に係る発明が、「キャップ本体の開口縁部に環状に設けられ、内部に空気を送入しうる空洞を有する周縁シール部であって、この空洞に空気を送入することによって内方へ向かって膨出し頭部側面に密着してシールする周縁シール部」を具備しているのに対して、甲第1号証に記載された発明は、伸縮バンド13を具備している点、 そこで、上記相違点1)について検討する。 甲第2号証には、膨縮嚢2に複数の突起3を形成したことは記載されているが、この膨縮嚢2は突起3が設けられた内側のシートの外側を加圧して膨らませて使用するものであるから、本件請求項1に係る発明の内面側の流体を出す(負圧とする)ことにより使用する「キャップ本体」とは構成上相違があり、膨縮嚢2を「キャップ本体」に相当するものと認めることはできない。 したがって、甲第2号証に記載された発明は、本件請求項1に係る発明の「キャップ本体の内面に内方に向かって突出して形成された多数の突起」なる構成を具備するものとは認められない。 なお、この点は、甲第3号証、参考資料1にも記載も示唆もされていない。 次に、上記相違点2)について検討する。 甲第3号証には、キャップケース1の開口縁部に環状に設けられ、内部に空気を送入しうる空洞を有する空気用チューブ5であって、この空洞に空気を送入することによって内方へ向かって膨出し頭部側面に密着してシールする周縁空気用チューブ5が記載されている。 そして、甲第3号証に記載された発明は、育毛キャップに関する技術であり、甲第1号証に記載された発明と共通の技術分野に属するものであり、また、育毛キャップと頭部とを密閉させるために空気用チューブ5を設けたものであるから、甲第3号証に記載された発明を、甲第1号証に記載された「伸縮バンド13」に適用して、「伸縮バンド13」を「キャップ本体の開口縁部に環状に設けられ、内部に空気を送入しうる空洞を有する周縁シール部であって、この空洞に空気を送入することによって内方へ向かって膨出し頭部側面に密着してシールする周縁シール部」に置き換えることは、当業者が適宜成し得るものと認める。 したがって、本件請求項1に係る発明は、上記相違点1)に係る構成を有することにより、「真空引きをした際に突起が頭皮を押圧して刺激しマッサージ効果を上げることができる。」なる格別の効果を奏するものと認める。 ゆえに、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとすることはできない。 また、本件請求項2ないし請求項8に係る発明は、本件請求項1に係る発明をさらに限定するものであるから、本件請求項1に係る発明と同様に、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとすることはできない。 〔3〕まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する申立ての理由及び提出した証拠方法によっては、本件請求項1ないし請求項8に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-08-21 |
出願番号 | 特願平11-48475 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A45D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 増沢 誠一 |
特許庁審判長 |
佐藤 洋 |
特許庁審判官 |
大里 一幸 長崎 洋一 |
登録日 | 1999-10-08 |
登録番号 | 特許第2988935号(P2988935) |
権利者 | 保知 宏 |
発明の名称 | 育毛キャップ |
代理人 | 浅野 勝美 |