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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1024472
異議申立番号 異議1999-70904  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1989-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-03-10 
確定日 2000-08-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第2803088号「膜分離装置及びその運転方法」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2803088号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2803088号発明は、昭和63年5月18日に特許出願され、平成10年7月17日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、その後、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月23日付けで訂正請求がなされたが、この訂正請求に対し訂正拒絶理由通知がなされ、平成12年4月21日付けで手続補正書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正請求に対する補正の適否
平成12年4月21日付け手続補正書の補正の内容は、特許請求の範囲の減縮と明りょうでない記載の釈明を目的として、平成11年8月23日付け訂正請求書の訂正事項に、特許請求の範囲の補正とそれに伴う訂正明細書の補正に係る訂正事項を追加するものである。
しかしながら、上記補正は、訂正請求書に新たな訂正事項を付加するものであるから訂正請求書の要旨を変更するものであり、特許法第120条の4第3項で準用する同法第131条第2項の規定に違反するものであるから、上記手続補正は認めることができない。
(2)特許請求の範囲に係る訂正事項
特許権者が求める上記手続補正は認めることができないから、平成11年8月23日付け訂正請求書において求める訂正事項は、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるところ、特許請求の範囲に係る訂正事項は、次のとおりである。
「(1)容器内に設置された平膜モジュールと、該平膜モジュールの処理水取り出し側を吸引する吸引手段とを備えた膜分離装置において、該吸引手段は、間欠的に吸引作動するよう装置的に制御されたものであることを特徴とする膜分離装置。
(2)容器内に設置された平膜モジュールと、該平膜モジュールの処理水取り出し側を吸引する吸引手段とを備えた膜分離装置を運転する方法において、該膜分離装置の膜分離処理が継続して行われているときに該吸引手段を間欠的に吸引作動させることを特徴とする膜分離装置の運転方法。」を
「(1)容器内に浸漬された平膜モジュールと、該平膜モジュールの処理水取り出し側を吸引する吸引手段とを備えた浸漬膜分離装置において、該吸引手段は、間欠的に吸引作動するよう装置的に制御されたものであることを特徴とする浸漬膜分離装置。
(2)容器内に浸漬された平膜モジュールと、該平膜モジュールの処理水取り出し側を吸引する吸引手段とを備えた浸漬膜分離装置を運転する方法において、該浸漬膜分離装置の膜分離処理が継続して行われているときに該吸引手段を間欠的に吸引作動させることを特徴とする浸漬膜分離装置の運転方法。」と訂正する。
(3)独立特許要件について
(3-1)本件訂正発明
本件訂正発明は、上記(2)に示す訂正明細書の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、それぞれ「本件訂正発明1、2」という)。
(3-2)引用例
当審が平成12年2月9日付け訂正拒絶理由通知において引用した引用例1乃至5には、それぞれ次の事項が記載されている。
引用例1:特開昭61-129094号公報
(イ)「散気装置からの酸素を含む気体に曝気させつつ好気性菌により汚水を浄化する曝気槽中に膜装置を設けて、その膜面に上記散気装置からの気・液混合流を接触させて膜面の濃度分極作用と汚れを除去できるようになし、膜体透過側を負圧とするかまたは膜内の液を加圧するための手段を設けたことを特徴とする膜処理装置。」(第1頁左欄特許請求の範囲の項)
(ロ)「本発明は好気性微生物による汚水浄化処理、例えば排水や下水の活性汚泥処理を効率よく行い得る膜処理装置に関するものである。」(第1頁左欄第13行乃至第15行)
(ハ)「4は膜装置3の透過水側を減圧し、移送するための真空引きポンプであり、これにより透過水を膜装置3から取出すことができる。膜装置3の透過水側を減圧する代りに、曝気槽を密閉型として大気圧以上に加圧して膜間差圧を得ることもできる。これらの減圧、加圧を併用することもできる。」(第2頁上段右欄第17行乃至下段左欄第3行)
(ニ)「上記膜装置3には、内径10mm以上の管状膜を複数本並べた、いわゆるパラレル型流路の膜モジュール、あるいは任意の巾の平膜型(例えば、スパイラル型、プリーツ型)あるいは平板型の膜エレメントを上記鉛直通路を確保するように組立てた膜モジュールを使用できる。」(第2頁下段左欄第4行乃至第9行)
(ホ)「第3図Aは本発明において使用する膜装置の別例を示し、一対の透過水集水管35、35に第3図Bにも示すように平板型膜(平膜33、33間に透過水路用スペーサ36を介在させたもの)を連通し、これをユニットとしてホルダーにより一定の間隔で並設してある。」(第2頁下段右欄第12行乃至第17行)
引用例2:「用水と廃水」第29巻第10号 産業用水調査会発行、昭和62年10月1日、第921頁乃至第928頁
(イ)「この実験は、・・・。具体的には、活性汚泥曝気槽内に直接中空糸膜を浸漬し低圧で吸引することにより処理水を得る生物処理と固液分離を一体化した排水処理システムを構成し、連続または間欠吸引方式で処理実験を行うことにより、安定した処理水質と透過水量の得られる運転条件について検討を行なったものである。」(第926頁右欄下から第7行乃至第927頁左欄第3行)
(ロ)「図9に実験装置の概要を示す。Typelは容量0.5lの曝気槽カラム上部側壁より中空糸膜を挿入し、Type2は容量1.2lの曝気槽カラムの上部より中空糸膜を直接釣り下げて浸漬してある。・・・吸引ポンプにより中空糸内を吸引することにより膜の外側から内側に向けて透過水を得る。・・・間欠吸引の場合、10分間隔で吸引(1回の吸引時間は最大限5分)を開始し所定量の処理水を得、その吸引量に応じて吸引開始5分後から基質が流入する。」(第927頁左欄4.1実験装置および方法の項)
(ハ)「しかしその後の透水速度の減少は、連続吸引の場合と違い緩やかであった。これは、間欠吸引で周期的に圧力を開放するためと考えられ、間欠吸引方式が膜モジュールの急激な目詰まりを防ぐ有望な方法であることがわかる。そこで装置をType2のように改良して実験(Run4)を行なった。その結果を図12に示す。・・・実験期間80日を通じて吸引圧が低く安定し、したがって膜モジュールが上述のような目詰まりを起こすことなく安定した透水量が得られた。また、COD除去率95%以上、TOC除去率97%以上で、図12からもわかるように良好な処理水質であり、間欠吸引により本システムの安定な運転が可能であった。」(第927頁右欄最下行乃至第928頁左欄下から6行)
引用例3:「環境技術」Vol.16、NO.12、1987年,第785頁乃至第792頁
「バッキ槽の中に中空糸MF膜を挿入し、吸引ろ過により透過水を得る。連続吸引方式では目詰まりがひどい。間欠吸引方式では目詰まりを起こすことなく、安定して処理水が得られている。」(第790頁左欄i)膜分離型し尿処理と小型パイロット試験例の項)
引用例4:(社)日本水質汚濁研究協会「第21回水質汚濁学会講演集」昭和62年3月10日、第39頁及び第40頁
「しかしその後の透水速度の減少は、連続吸引の場合と違い緩やかであった。これは、間欠吸引で周期的に圧力を開放するためと考えられ、間欠吸引方式が膜モジュールの急激な目詰まりを防ぐ有望な方法であることがわかる。」(第40頁3.2間欠吸引方式の項)
引用例5:(社)日本発酵工学会「昭和61年度日本発酵工学会大会講演要旨集」昭和61年11月、第146頁
「高Fluxを維持する目的では、断続的に逆洗を行う方法がよく用いられるが、この方法では加圧空気などの設備が必要となる。そこで、本研究では、単に加圧ポンプを断続的に停止しながら運転する方法を検討した。・・・無停止運転の場合に比べ、非常に大きなFluxが維持されていることが明らかである。」(第146頁3.実験結果および考察の項)
(3-3)当審の判断
本件訂正発明1について
引用例1には、汚水等の処理のための「膜処理装置」に関し、「汚水を浄化する曝気槽中に膜装置を設けて、膜体透過側を負圧とするかまたは膜内の液を加圧するための手段を設けたことを特徴とする膜処理装置。」(上記(イ)参照)が記載されている。
そして、この膜処理装置の「膜装置」は、上記(ニ)及び(ホ)の記載から、「平膜型(例えば、スパイラル型、プリーツ型)あるいは平板型の膜エレメント」であり、さらに上記(ハ)の記載から、「膜体透過側を負圧とするための手段」は「真空引きポンプ」であるから、上記引用例1には、「汚水を浄化する曝気槽中に平膜型膜エレメントを設けて、膜体透過側を負圧とする真空引きポンプを設けたことを特徴とする膜処理装置。」の発明(以下「引用例1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「膜処理装置」は「浸漬膜分離装置」であることが明らかであり、その「平膜型膜エレメント」(「平膜モジュール」に相当)も曝気槽内に浸漬されている。さらに引用例1発明の「真空引きポンプ」も処理水取り出し側を吸引する吸引手段であるから、両者は、「容器内に浸漬された平膜モジュールと、該平膜モジュールの処理水取り出し側を吸引する吸引手段とを備えた浸漬膜分離装置」の点で軌を一にし、吸引手段を間欠的に吸引作動させるか否かの点で相違するのみである。
次に、この相違点について検討するに、膜分離技術の分野では、膜分離モジュールとしての平膜型モジュールや中空糸膜モジュールは周知の手段であり、しかも、その膜の目詰まり防止のために、吸引ポンプの間欠的な吸引作動も例えば上記引用例2乃至5にみられる如く、中空糸膜モジュールの場合に有効であることが既に周知の事項であるから、一方の平膜型モジュールにこの周知の間欠的な吸引作動手段を設けることは当業者であれば容易に想到することができると云うべきである。
そして、その効果も、中空糸膜モジュールの場合の効果と比べ程度の差はあるとしても当業者が予想することができない程のものではない。
特許権者は、特許異議意見書において、本件訂正発明1の間欠的な吸引作動による効果を負圧状態と膨張状態との相互関係から説明しているが、平膜型モジュールを吸引ポンプで吸引すれば負圧状態が発生しその差圧を利用して膜分離処理をしていることは周知の事項であり(要すれば特許異議申立人吉田邦子の甲第1号証「実願昭58-187205号」(実開昭60-95903号)のマイクロフィルム参照)、間欠的な吸引作動を行った場合でもそのメカニズムは当業者であれば容易に予想することができるものであるから、その効果も上述したとおり格別のものではない。
してみると、本件訂正発明1は、上記引用例1に記載の発明と例えば上記引用例2乃至5や「実願昭58-187205号」(実開昭60-95903号)に記載の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正発明2について検討するまでもなく、本件訂正請求は、認めることができない。
(4)むすび
以上のとおり、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
3.特許異議申立てについて
(1)本件発明
特許権者が求める上記訂正請求は認めることができないから、本件請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1及び2」という)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「(1)容器内に設置された平膜モジュールと、該平膜モジュールの処理水取り出し側を吸引する吸引手段とを備えた膜分離装置において、該吸引手段は、間欠的に吸引作動するよう装置的に制御されたものであることを特徴とする膜分離装置。
(2)容器内に設置された平膜モジュールと、該平膜モジュールの処理水取り出し側を吸引する吸引手段とを備えた膜分離装置を運転する方法において、該膜分離装置の膜分離処理が継続して行われているときに該吸引手段を間欠的に吸引作動させることを特徴とする膜分離装置の運転方法。」
(2)引用例
当審が平成11年6月2日付け取消理由通知において引用した引用例1乃至6は、次のとおりである。
引用例1:上記引用例1と同じ
引用例2:上記引用例2と同じ
引用例3:上記引用例3と同じ
引用例4:上記引用例4と同じ
引用例5:(社)化学工学協会「化学工学協会第20回秋季大会研究発表講演要集」1987年、第39頁
「クロスフロウフィルトレーションによる菌体分離-剪断応力の影響」と題して、平膜型のMF膜を用いた場合の結果が記載され、「菌体濃度一定の条件で濾口を繰り返し開閉した所、剪断応力が高い条件では平均のfluxが著しく増加した。」との記載がある。
引用例6:上記引用例5と同じ
(3)当審の判断
(i)本件発明1について
引用例1には、上記2.(3-3)で摘示したとおりの「汚水を浄化する曝気槽中に平膜型膜エレメントを設けて、膜体透過側を負圧とする真空引きポンプを設けたことを特徴とする膜処理装置。」の発明が記載されていると云える。
ところで、上記本件訂正発明1は、本件発明1の「設置された」を「浸漬された」に、また「膜分離装置」を「浸漬膜分離装置」にそれぞれ訂正したものであるから、本件発明1と上記引用例1発明とを対比しても、両者は、上記2.(3-3)で判断したと同様の点で相違するのみであると云える。
そして、この相違点については、上記2.(3-3)で述べたとおり、例えば上記引用例2乃至4及び6や「実願昭58-187205号」(実開昭60-95903号)に記載の周知事項に基づいて当業者が容易に想到することができる程度のことである。
したがって、本件発明1の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第114条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(ii)本件発明2について
本件発明2は、「膜分離装置の運転方法」に係るものであるが、引用例1発明と比べても、その差異は、本件発明1と同様、「吸引手段を間欠的に吸引作動させるか否か」の点のみである。
したがって、本件発明2の特許も特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第114条第2項の規定により取り消されるべきものである。
4.むすび
以上のとおり、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-06-26 
出願番号 特願昭63-121074
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (B01D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 由紀夫杉江 渉  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 山田 充
新居田 知生
登録日 1998-07-17 
登録番号 特許第2803088号(P2803088)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 膜分離装置及びその運転方法  
代理人 岸本 守一  
代理人 西村 公佑  
代理人 岸本 瑛之助  
代理人 清末 康子  
代理人 日比 紀彦  
代理人 重野 剛  
代理人 羽片 和夫  
代理人 渡辺 彰  
代理人 高木 千嘉  

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