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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C30B 審判 全部申し立て 特29条の2 C30B |
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管理番号 | 1024500 |
異議申立番号 | 異議1998-73558 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1991-11-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-07-21 |
確定日 | 2000-07-24 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第2706165号「半導体結晶材料の成長」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2706165号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第2706165号に係る発明についての出願は、平成1年3月6日に特許出願され、平成9年10月9日にその発明についての特許の設定登録がなされ、その後、異議申立人小野和広、森謙一より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、特許異議意見書が提出され、異議申立人宛て審尋書が通知され、回答書が提出されたものである。 2.本件発明 特許第2706165号の請求項1〜10に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載されたとおりのものである(以下、「本件発明1〜10」という。)。 3.申立人小野和広の特許異議申立について (1)申立て理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証(特願昭62-83348号(特開昭63-248793号))、甲第2号証(特開昭61-222984号公報)、甲第3号証(特開昭60-33295号公報)を提出し、 (a)本件請求項1〜10に記載の発明は、本件の先願に係る甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであること (b)本件請求項1〜10に記載の発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができないものであること (c)本件請求項1〜10に記載の発明は、甲第2、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであること を理由として、本件請求項1〜10の発明に係る特許は取り消されるべきものであることを主張している。 (2)甲各号証の記載事項 甲第1〜3号証には、以下のとおりの事項が記載されている。 (a)甲第1号証 ア.「容器内にて原料を加熱して溶融し、その融液の片側から固液界面を形成して結晶を成長させる結晶の育成方法において、上記固液界面に隣接する融液部分では対流を起こさせ、他の融液部分の少なくとも一部では対流を抑制し、それにより不純物又は組成の均一性の良い結晶を成長させる均一結晶の育成方法。」(第1頁特許請求の範囲請求項1) イ.「第4A図は本発明の第1の実施例を説明する結晶育成装置の主要部の構成図である。…(中略)…第4A図においては、互いの磁界を打ち消すように励磁したコイル11aと11bが固液界面8を中間に挟んで相対向するように配置されている。…(中略)…o、r、zは二つのコイルの中間点であるoを原点とする座標軸を表わす。第4D図の装置においては、スイッチ16の接続の仕方により相対向する二つのコイル11aと11bに同時に、あるいは別々に電流を流すことが可能であり、互いに逆向きに回る電流を流すことによって互いの磁界を打ち消す方向に励磁することができる。相対向するコイル11aおよび11bの巻数および電流値が同じである場合には、原点oにおいては互いの磁界が完全に打ち消しあって磁界は零であり、原点oから離れた所では磁界が存在する。…(中略)…このように設計されたコイル11aと11bに例えば同一の大きさの電流を逆回りに流すことにより、固液界面8に隣接する融液部分3.1の領域においては対流を抑制せず、固液界面8から離れた融液部分3.2の領域においては対流を抑制するのに十分な磁界を印加することができる。…(中略)…例えば1000エルステッドの場合には、コイルの半径R=50cm、巻数2000回のコイルを間隔G=50cmで相対向させ、それぞれに250Aの電流を逆回りに流すと固液界面から深さ3cmの位置に臨界グラスホフ数に対応する1000エルステッドの等磁界強度線ができる。これにより、融液の初期深さが15cmの場合には固液界面に隣接する約20%の融液部分3.1が対流の発生領域となり、残りの80%の融液部分3.2が対流の抑制領域となる。これらの二つの融液部分の割合は、上記相対向するコイルの構造寸法あるいは電流値により制御可能であることは言うまでもない。」(第3頁右下欄第9行〜第4頁右下欄第10行) ウ.容器内にて原料を加熱して溶融し、その融液から結晶を成長させる結晶の育成方法において、同一の大きさの電流を逆回りに流した2つのコイルによって該融液に磁界を印加することによって、固液界面に隣接する融液部分3.1においては対流を抑制せず、固液界面から離れた融液部分3.2においては対流を抑制すること。(第8頁第4A、F図) (b)甲第2号証 ア.「ルツボ内に収容した原料融液に直流磁界を引加してチョクラルスキー法により単結晶を引上げ製造する単結晶の製造方法において、前記ルツボの上下に対向配置され、ルツボ軸に対し等軸対称的且つ放射状のカスプ磁界を印加する同極対向磁石と、これらの磁石の少なくとも一方を上下方向に移動、或いは少なくとも一方の励磁電流を可変してルツボ内の原料融液の温度分布及び対流抑制を最適化する手段とを具備してなることを特徴とする単結晶の製造装置。」(第1頁特許請求の範囲第1項及び第4頁第1図) イ.「原料としてGaを4.5[kg]、Asを5[kg]ルツボ11内にチャージし、その上にAsの飛散を防ぐ酸化ボロンを配し、Ar雰囲気中70[atm]で、GaAsを合成した。その後、圧力を10[atm]に減じた。しかるのち、GaAs融液表面に前記第1図に示した磁界分布を得るべくカスプ磁界を形成し、引加磁場強度がGaAs融液表面(中心から10mm程度の位置)で2000[Oe]で単結晶の作成を開始した。この条件では、ルツボ内融液の深さが約100[mm]もあり、結晶と液面に常に同じ状態で磁界を引加するために、引上げ結晶の直径が、例えば75[mm]になった時点から上部磁石21を徐々に液面の降下速度、例えば毎時12[mm]で降下させた。…(中略)…引上げ軸と対称な水平磁界(カスプ磁界)を引加したことにより、GaAs融液表面において温度分布の均一な条件が得られ、低転位化の傾向を示したものと考えられる。」(第3頁左下欄第2行〜右下欄第6行) ウ.容器内にて原料を加熱して溶融し、その融液から結晶を成長させる結晶の育成方法において、該融液の表面層全域に結晶の回転軸に平行な磁界成分がほとんどない磁界を印加すること。(第4頁第1、2図) (c)甲第3号証 「引上装置を用いたCZ法は…(中略)…ルツボ4と種結晶8とを逆方向に回転させながらチェーン7を引上げることにより単結晶シリコン10を引上げるものである。」(第1頁右欄第11〜17行) (3)対比・判断 [理由(a)について] 本件明細書及び図面の「本発明の半導体結晶材料成長用は…(中略)…引上げ部材の回転軸の周りの回転対称な面を有し、且つ軸沿いの方向では成分が500ガウス未満であり、また面から離れた所では磁気値が500ガウスを越える磁界をメルト中に提供するための手段と、界面に隣接するメルトが500ガウス未満の磁界の軸方向成分の作用下に置かれ且つ界面から離れたメルトが500ガウスを越える磁界の作用下に置かれるように、結晶とメルトとの界面を前記面に置くための手段…(中略)…を備えていることを特徴とする。」(特許公報第3頁第5欄第36行〜第6欄第2行)及び半径方向、軸方向の各方向についてメルトの磁界強度が500ガウス未満となる磁界線の位置(【第3図】)よりみて、本件発明1〜10の、結晶の回転軸に平行な磁界成分が500ガウス未満であり強制対流が実質的に減衰されない「界面に隣接するメルト」とは、半径方向、軸方向の両方向について限定された界面に隣接する部位のメルトのことと認められる。 そこで、本件発明1〜10と甲第1号証の発明を対比すると、甲第1号証の発明は、第4A、F図の融液部分3.1の強制対流10.2の記載よりみて(「2.(2)(a)ウ」参照。)、強制対流が抑制されないメルトの部位を、結晶とメルトの界面の半径方向全面にわたる部位とするものであって、軸方向の限定はしても半径方向には何ら限定しないものであるから、本件発明1〜10のような「界面に隣接するメルト」を有するものとはいえない。 また、甲第1号証には「メルトと種結晶との温度勾配を維持する」ことは記載されておらず、甲第1号証の発明は「メルトと種結晶との温度勾配を維持する」ものであると断定できるものではない点においても、本件発明1〜10と相違する。この点について付言すれば、申立人は回答書において参考文献1(「電子工学ポケットブック第3版」(昭和49年11月30日発行)オーム社、第5-27頁)を提出して「メルトと種結晶との温度勾配を維持する」ことは通常なされることである旨を主張しているが、参考資料1に記載されているのは、「溶融液と成長した結晶との間の接触部での温度差…(中略)…を制御する」ことであって、「メルトと種結晶との温度勾配を維持する」ことが記載されているとはいえないから、申立人のこの主張は採用できない。 してみれば、本件発明1〜10は、これらの相違点に係る構成の点で、甲第1号証の発明と同一の発明ではない。 [理由(b)について] 甲第2号証の発明は、第1、2図の磁界分布の記載よりみて(「2.(2)(b)ウ」参照。)、結晶の回転軸に平行な磁界成分が500ガウス未満であり強制対流が抑制されないメルトの部位を、結晶とメルトの界面の半径方向全面にわたる部位とするものであるから、甲第1号証の発明と同様に、本件発明1〜10のような半径方向、軸方向の両方向について限定された「界面に隣接するメルト」を有するものとはいえない。 また、甲第2号証には「メルトと種結晶との温度勾配を維持する」ことは記載されておらず、甲第2号証の発明は「メルトと種結晶との温度勾配を維持する」ものであると断定できるものではない点においても、本件発明1〜10と相違する。 してみれば、本件発明1〜10は甲第2号証の発明とはいえない。 [理由(c)について] 「2.(3)(b)」で述べたとおり、甲第2号証の発明は、本件発明1〜10のような半径方向、軸方向の両方向について限定された「界面に隣接するメルト」及び「メルトと種結晶との温度勾配を維持する」点を有さない点において本件発明1〜10と相違する。 そこで、この相違点について甲第3号証の記載を検討すると、甲第3号証には、CZ法においてルツボと種結晶とを逆方向に回転させることが記載されているに過ぎず、結晶とメルトに印可する磁場の強度分布及びメルトと種結晶の温度勾配の維持については記載も示唆もされていない。 してみれば、これらの相違点に係る本件発明1〜10の構成の点は、甲第2、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4.申立人森謙一の特許異議申立について (1)申立て理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証(申立人小野和広の提出した甲第1号証に相当する。)、甲第2号証(特公平2-12920号公報)、甲第3号証(「理化学事典第4版」岩波書店(1987年10月12日発行)第554,565,1428頁)、甲第4号証(申立人小野和広の提出した甲第2号証に相当する。)を提出し、 (a)本件請求項1〜10に記載の発明は、甲第2、3号証の記載を考慮すれば、本件の先願に係る甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであること (b)本件請求項1〜10に記載の発明は、甲第4号証に記載された発明であるか、または、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号乃至第2項の規定により特許を受けることができないものであること を理由として、本件請求項1〜10の発明に係る特許は取り消されるべきものであることを主張している。 (2)甲各号証の記載事項 甲第1〜4号証には、以下のとおりの事項が記載されている。 (a)甲第1号証 「2.(2)(a)」参照。 (b)甲第2号証 「本発明は…(中略)…各融液流の各部において直行する軸対称的磁場を発生させて、融液対流を均一に抑制し、軸対称の温度分布を保持させ、それによって均一な円形断面、均一な結晶性を有し、かつるつぼからの汚染の少ない品質のすぐれた単結晶を製造し得る単結晶の引上方法を提供せんとするものである。」(第1頁第2欄第14〜22行) (c)甲第3号証 磁束密度B(G)と磁場強さH(Oe)、透磁率μとの間にB=μHの関係があり、μ=(4π)-1×107であること。 (d)甲第4号証 「2.(2)(b)」参照。 (3)対比・判断 [理由(a)について] 「3.(2)(b)、(c)」に摘記した事項よりみて、甲第2、3号証は、強制対流が実質的に減衰されないメルトの部位、メルトと種結晶との温度勾配の維持、について何ら言及するものではないから、本件発明1〜10は、「2.(3)(a)」に記載したのと同様の理由により、甲第2、3号証の記載を考慮しても、甲第1号証の発明と同一の発明ではない。 [理由(b)について] 本件発明1〜10は、「2.(3)(b)」に記載したのと同様の理由により、甲第4号証の発明とはいえない。また、甲第4号証の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件発明1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜10に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。 したがって、本件発明1〜10についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認められない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-06-29 |
出願番号 | 特願平1-503768 |
審決分類 |
P
1
651・
16-
Y
(C30B)
P 1 651・ 121- Y (C30B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 後谷 陽一 |
特許庁審判長 |
石井 勝徳 |
特許庁審判官 |
新居田 知生 能美 知康 |
登録日 | 1997-10-09 |
登録番号 | 特許第2706165号(P2706165) |
権利者 | イギリス国 |
発明の名称 | 半導体結晶材料の成長 |
代理人 | 中村 至 |
代理人 | 船山 武 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 坂井 淳 |
代理人 | 俵 湛美 |