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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03B
審判 全部申し立て 発明同一  C03B
管理番号 1024503
異議申立番号 異議1998-72705  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-06-03 
確定日 2000-09-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第2683727号「高純度溶融シリカガラスの非多孔質体を作成する方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2683727号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2683727号の請求項1〜5に係る発明は、平成3年8月9日(優先権主張1990年8月16日 米国)に特許出願され、平成9年8月15日にその特許の設定登録がなされ、その後、信越石英株式会社及び石井陽一より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年7月5日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年3月31日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正明細書の請求項1〜4に係る発明
訂正明細書の請求項1〜4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】高純度溶融シリカガラスの非多孔質体を作成する方法において、
(a)酸化または炎加水分解および熱分解によってSiO2に変換できる、ハロゲン化物を含まない、気化可能なケイ素含有化合物を含んだガス流を作り、
(b)前記ガス流を燃焼バーナの炎内を通して溶融したSiO2の無定形粒子を形成し、
(c)支持体上に前記無定形粒子を沈積させ、
(d)前記沈積に続いて前記無定形粒子の沈積をコンソリデートさせて非多孔質体となす各工程から成り、前記ハロゲン化物を含まない、気化可能なケイ素含有化合物としてへキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよびデカメチルシクロペンタシロキサンから成る群より選択されたポリメチルシクロシロキサンが用いられ、前記無定形粒子の沈積の前記非多孔質体へのコンソリデーションが、塩素およびヘリウムを含有した雰囲気内で行われることを特徴とする高純度溶融シリカガラス非多孔質体の作成方法。
【請求項2】P2O5および/または周期率表のIA,IB,IIA,IIB,IIIA,IIIB,IVA,IVB,VA族および希土類から選択された少なくとも1つの金属酸化物をドープした高純度シリカの非多孔質体を作成する方法において、
(a)酸化または炎加水分解および熱分解によってSiO2に変換できる、ハロゲン化物を含まない、気化可能なケイ素含有化合物と、酸化または炎加水分解によってP2O5および/または周期率表のIA,IB,IIA,IIB,IIIA,IIIB,IVA,IVB,VA族および希土類から選択された少なくとも1つの金属酸化物に変換できる気化可能な化合物とを含んだガス流を作り、
(b)前記ガス流を燃焼バーナの炎内を通して、P2O5および/または周期率表のIA,IB,IIA,IIB,IIIA,IIIB,IVA,IVB,VA族および希土類から選択された少なくとも1つの金属酸化物をドープした溶融したSiO2の無定形粒子を形成し、
(c)支持体上に前記無定形粒子を沈積させ、
(d)前記沈積に続いて前記無定形粒子の沈積をコンソリデートさせて非多孔質体となす各工程から成り、前記ハロゲン化物を含まない、気化可能なケイ素含有化合物としてへキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよびデカメチルシクロペンタシロキサンから成る群より選択されたポリメチルシクロシロキサンが用いられ、前記無定形粒子の沈積の前記非多孔質体へのコンソリデーシヨンが塩素およびヘリウムを含有した雰囲気内で行われることを特徴とする高純度シリカの非多孔質体の作成方法。
【請求項3】前記ポリメチルシクロシロキサンがオクタメチルシクロテトラシロキサンであり、該オクタメチルシクロテトラシロキサンを含有する前記ガス流が、104℃〜150℃の温度で作成され搬送されることを特徴とする請求項1または2の方法。
【請求項4】前記金属酸化物がTiO2であり、また、酸化または炎加水分解によってTiO2に変換できる前記気化可能な化合物がイソプロピルチタネートおよび/またはチタンエトキシドであることを特徴とする請求項2または3の方法。」
(以下、それぞれを「訂正発明1」〜「訂正発明4」という。また、まとめて「本件訂正発明」ということもある。なお、請求項5は削除する旨の訂正請求がなされている。)
イ.訂正の内容
訂正請求は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次の(a)〜(e)のとおりである。
(a)特許請求の範囲の請求項1及び2に、「前記沈積と同時にまたはそれに続いて」とあるのを「前記沈積に続いて」と、また、「ポリメチルシロキサン」とあるのを「ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよびデカメチルシクロペンタシロキサンから成る群より選択されたポリメチルシクロシロキサン」と、それぞれ訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項3に、「ポリメチルシロキサン」とあるのを「ポリメチルシクロシロキサン」と訂正する。
(c)請求項5を削除する。
(d)発明の詳細な説明の段落番号【0001】に「多孔質体」とあるのを「非多孔質体」と訂正する。
(e)発明の詳細な説明の段落番号【0018】に「トリメチル」とあるのを「トリメチルボレート」と訂正する。
ウ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正(a)は、訂正前の請求項1および2に係る発明について、無定形粒子の沈積のコンソリデートを沈積と同時にまたはそれに続いて行うとされていたのを、沈積に続いて行うとし、また、原料化合物であるポリメチルシロキサンを、発明の詳細な説明に記載される特定のポリメチルシクロシロキサン類に限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正(b)は、訂正前の請求項3に係る発明について、引用される請求項1及び2に整合させるためポリメチルシロキサンをポリメチルシクロシロキサンと訂正するもので、請求項1及び2の訂正により生じる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正(c)は、訂正前の請求項5を削除するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正(d)、(e)は、発明の詳細な説明全体の記載から見て誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正(a)〜(e)は、いずれも新規事項を追加するものではなく、また実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
エ.独立特許要件の判断
(i)当審が通知した取消理由の概要
(a)特許法第36条違反について
請求項1、2、5の構成(d)において、「前記沈積と同時にまたはそれに続いて前記無定形粒子の沈積をコンソリデートさせ」とあるが、沈積と同時にコンソリデートを行う場合に「塩素およびヘリウムを含有した雰囲気内で行われる」のか否かが明確でないので、請求項1、2、5に係る発明についての特許は、特許法第36条第5項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきである。
(b)特許法第29条第1項違反について
請求項1に係る発明は、特開平1-138145号公報(引用例1)に記載された発明であり、また、Kirk-Othmer「ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL TECHNOLOGY(THIRD EDITION)」、第20巻、第930、931頁(引用例5)の記載を参酌すると、請求項3に係る発明は、引用例1に記載された発明であるから、本件の請求項1及び3に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきである。
(c)特許法第29条第2項違反について
請求項1〜5に係る発明は、引用例1、特開平2-145448号公報(引用例2)、特開昭59-131537号公報(引用例3)、特開昭60-54937号公報(引用例4)に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきである。
(d)特許法第29条の2違反について
請求項1〜5に係る発明は、特願平2-504742号(特表平4-505149号公報)の願書に最初に添付された明細書(引用例6)に記載された発明と同一であるから、請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定の違反してなされたものであり、取り消されるべきである。
(ii)各引用例の記載事項
(a)引用例1(特開平1-138145号公報)
引用例1には、「1.シラン化合物から直接火炎法で合成シリカ微粒子を作り、これを回転している担体上にその1回転中に合成シリカ微粒子を1〜300μmの厚さで堆積させると同時に溶融ガラス化することを特徴とする合成石英ガラス部材の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)、および、「3.シラン化合物が1)式RnSiX4-n(Rは水素原子または脂肪族一価炭化水素基、Xはハロゲン原子、アルコキシ基、nは0〜3の整数)、2)式R1nSi(OR2)4-n(R1、R2は同一または異種の脂肪族一価炭化水素基、nは0〜3の整数)、3)式SixRyOz(Rは前記と同じ、xは2以上の正の整数、yは2x+2を、zは2xをそれぞれ超えない0でない正の整数)のいずれかで示されるものである特許請求の範囲第1項記載の合成石英ガラス部材の製造方法。」(特許請求の範囲第3項)が記載されている。
(b)引用例2(特開平2-145448号公報)
引用例2には、「石英ガラス微粒子を主成分とする光ファイバ用多孔質体を、少なくとも塩素と不活性ガスとを含む雰囲気中で、かつ前記光ファイバ用多孔質体が完全にガラス化しない温度にて加熱して脱水処理を施した後、前記脱水処理温度より低く、かつ少なくとも塩素と不活性ガスとフッ化物ガスとを含む雰囲気中に晒して前記光ファイバ用多孔質体内にフッ素をドープし、しかる後少なくとも塩素と不活性ガスとを含む雰囲気中で加熱して透明ガラス化することを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。」(特許請求の範囲)が記載されている。そして、実施例において不活性ガスとしてヘリウムを用いられている。
(c)引用例3(特開昭59-131537号公報)
引用例3には、「気化された複数の化合物を酸化して粒子状酸化物スートを生成し、このスートを捕捉しかつ焼結によって融合固化して、単一の物品を形成するようになされた気相酸化法によるガラスまたはセラミックの製造方法において、前記複数の化合物のうちの少なくとも1つは、元素周期表のIa,Ib,IIa,IIb,IIIa,IIIb,IVa,IVb族および希土類元素の中から選ばれた1つの金属のβ‐ジケトン錯化合物であることを特徴とする、気相酸化法によるガラスまたはセラミックの製造方法。」(特許請求の範囲第1項)が記載されている。
(d)引用例4(特開昭60-54937号公報)
引用例4には、「ガラス原料ガスを火炎中で加水分解して成るスートをターゲットの先端に吹き付け、堆積させて前記ターゲットの軸方向に多孔質プリフォームを形成する工程と、前記多孔質プリフォームを所定の温度で塩素系ガスを流しつつ脱水処理する工程と、該脱水処理した多孔質プリフォームをヘリウムガス中で溶解焼結し、透明なガラス体のプリフォームロッドを作成する工程とを合むプリフォームロッドの製造方法であって、前記脱水処理工程において,その処理温度を段階的に上昇させ、該温度上昇に対応させてヘリウムガス雰囲気中で前記塩素系ガスの流量を減少させることを特徴とするプリフォームロッドの製造方法。」(特許請求の範囲)が記載されている。
(e)引用例5(Kirk-Othmer「ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL TECHNOLOGY(THIRD EDITION)」、第20巻、第930、934頁)
引用例5には、オクタメチルシクロテトラシロキサンの沸点が175.8℃であることが示されている。
(f)引用例6(特願平2-504742号(特表平4-505149号公報))
「【請求項1】火炎中でのシリカ前駆物質の気相酸化と、フューム粉末、多孔質シリカスート及び完全緻密体のうち少なくとも一つとしてシリカを燃焼生成物の流れから堆積によって集めることによる、合成シリカ製品の製造方法であって、当該堆積生成物中のシリカの60%以上が、
(A)1又は2種以上の、下記一般式、すなわち、
R3SiO(SiR2O)nSiR3 (この式で、nはゼロを含めた任意の整数であり、Rは次に掲げる(i)〜(v)のうちの一つ又は二つ以上である
(i)1又は2種以上の、一般式CmH2m+1のアルキル基又は置換誘導体、
(ii)1又は2種以上の、芳香族フェニル基C6H5- 又は置換芳香族基、
(iii)ヒドロキシル基HO- 、
(iv)ビニル基H2C=CH- 、
(v)水素基H- )
の直鎖の揮発性ケイ素化合物、
及び/又は、
(B)1又は2種以上の、下記一般式、すなわち、
SinOn(R)2n(この式で、nは2より大きい整数であり、Rは上記の(i)〜(v)で定義された化学基のうちの一つ又は二つ以上である)
の環式の揮発性ケイ素化合物、
の酸化により得られ、あるいはそれらの混合物であることを特徴とする、上記の方法。」(特許請求の範囲請求項1)、
「【請求項5】 当該シリカ前駆物質が一般式SinOn(CH3)2n(式中のnは4又は5に等しい)のシクロシロキサンであることを特徴とする、請求の範囲第1項から第4項までのいずれか一項に記載の方法。」(特許請求の範囲請求項5)、
「【請求項7】 当該気相酸化に対してドーピング添加を行って当該合成シリカ製品の性質を改変することを特徴とする、請求の範囲第1項から第6項までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】 当該ドーピング添加がアルミニウム、チタン、ホウ素及びフッ素からなる群より選ばれる酸化可能又は加水分解可能な化合物の蒸気を含むことを特徴とする、請求の範囲第7項記載の方法。」(特許請求の範囲請求項7、8)が、記載されている。
また、実施例として、例1では、オクタメチルシクロテトラシロキサンを原料として用い、基材上にシリカスートを凝集させ、これを減圧下で焼結して、高純度の合成ガラス質シリカガラスの透明な管を製造することが記載されている。
(iii)対比・判断
(a)特許法第36条違反について
請求項1、2の構成(d)における「前記沈積と同時にまたはそれに続いて」は、「前記沈積に続いて」とする訂正により沈積と同時にコンソリデートを行う場合は削除され、また、請求項5は削除されたので、特許法第36条第5項の規定についての取消理由は解消された。
(b)特許法第29条第1項違反について
訂正発明1は、シリカ前駆体としてヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよびデカメチルシクロペンタシロキサンから成る群より選択されたポリメチルシクロシロキサンを用いるものであるが、引用例1における3種のシリカ前駆体の内、式RnSiX4-n 及び式R1nSi(OR2)4-n の化合物は、ポリメチルシクロシロキサン類を含まない。また、式SixRyOzの化合物は、「xは2以上の正の整数、yは2x+2を、zは2xをそれぞれ超えない0でない正の整数」と定義されるものであり、yが「2x+2」を越えない場合として「y=2x」であり、zが「2x」越えない場合として「z=x」である場合に、訂正発明1におけるポリメチルシクロシロキサンが包含されるが、引用例1において、「SixRyOz」の具体例として示されているのは、ヘキサメチルジシロキサンのみであって(第2頁右下欄第12行〜第3頁左上欄第2行参照)、この他に「SixRyOz」についての具体的な記載は引用例1にはない。
そうしてみると、引用例1には、ポリメチルシクロシロキサンについては具体的な構成及び効果について何らの開示もないとせざるを得ない。
したがって、訂正発明1は引用例1に記載された発明と同一であるとすることができない。
また、訂正発明3は、訂正発明1におけるポリメチルシクロシロキサンとしてオクタメチルシクロテトラシロキサンを選択するものであるから、同様に引用例1に記載された発明と同一であるとすることができない。
なお、引用例5は、オクタメチルシクロテトラシロキサンの沸点が175.8℃であることを示す文献にすぎない。
(c)特許法第29条第2項違反について
(c-1)訂正発明1、3について
引用例1におけるシリカ前駆体である式SixRyOzの化合物は、その定義からして種々の化合物を包含するものであるが、具体的に示されるのはヘキサメチルジシロキサンのみであり、また、ポリメチルシクロシロキサン類を選択することが引用例1に特に記載されるものではない。
そして、特許権者の提出した平成12年3月31日付け意見書によれば、直鎖構造のヘキサメチルジシロキサンに比べ、環状構造のオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンにおいてスートの沈積効率が向上することが示されており、このような効果は引用例1の記載から予想し得るものではない。また、化学構造の類似性からヘキサメチルシクロトリシロキサンにおいても同様の効果が期待できる。
そうしてみると、引用例1における式SixRyOzの化合物としてヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及びデカメチルシクロペンタシロキサンを選択することが当業者に容易に想到し得たとすることはできない。
また、訂正発明3は、訂正発明1におけるポリメチルシクロシロキサン類としてオクタメチルシクロテトラシロキサンを選択するものであるから、同様に引用例1の記載の記載から容易に想到できたとされるものではない。
さらに、引用例2、4は、無定形粒子の沈積を塩素とヘリウムガスの雰囲気下でコンソリデートさせて非多孔質体とすることが記載されるにすぎず、シリカ前駆体としてポリメチルシクロシロキサン類を開示するものではない。
したがって、訂正発明1、3は、引用例1、2、4の記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものではない。
(c-2)訂正発明2、4について
溶融シリカガラスの非多孔質体を作成する際に、原料としてシリカ前駆体と共に金属化合物を用い、金属酸化物をドープしたものを製造することが引用例3に記載されている。しかし、引用例3には、シリカ前駆体としてポリメチルシクロシロキサン類を使用することは記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正発明1に関する判断を勘案すれば、シリカ前駆体としてポリメチルシクロシロキサン類を使用する訂正発明2は、引用例1〜4の記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものではない。
また、訂正発明4は、訂正発明2における金属酸化物に変換できる気化可能な化合物として「イソプロピルチタネートおよび/またはチタンエトキシド」を選択するものであるから、同様に引用例1〜4の記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものではない。
(d)特許法第29条の2違反について
引用例6には、シリカ前駆体として式SinOn(R)2nで表される環式の揮発性ケイ素化合を用いることが記載されており、具体的には、実施例において本件訂正発明と同様にオクタメチルシクロテトラシロキサンが用いられている。
しかしながら、引用例6記載の発明においては、生成した無定形粒子の沈積であるスート体のコンソリデーションが減圧下で行われており、塩素およびヘリウムを含有した雰囲気内で行われる本件訂正発明と相違する。
したがって、訂正発明1〜4が引用例6記載の発明と同一であるとすることはできない。
なお、引用例6には、多孔質スート体を塩素を含有する脱水雰囲気中で加熱してから、ヘリウム雰囲気中で焼結することが従来技術として記載されている(公表公報第2頁左下欄下から2行〜右下欄第2行)が、この工程は2段階で行われており、塩素とヘリウムを含有する雰囲気中1段階で焼成を行う本件訂正発明と相違するので、この点を考慮しても、訂正発明1〜4が、引用例6記載の発明と同一であるとすることはできない。
オ.むすび
以上のとおりであるから、訂正発明1〜4は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項、同条第3項で準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
ア.申立ての理由の概要
(i)特許異議申立人信越石英株式会社(以下、「申立人1」という。)の主張
(a)訂正前の請求項1に係る発明は、特許法第36条第5項の規定を満たしていない特許出願についてされたものであり、特許は取り消されるべきである。(なお、申立人1は、特許法第36条第6項の規定を満たしていない旨を主張しているが、本件特許は平成3年の出願であるので上記のように読み替えた。)
(b)訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載される発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許は取り消されるべきである。
(c)訂正前の請求項1、3に係る発明は、本優先日前に出願され、本優先日後に出願公表された甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定の違反してなされたものであり、特許は取り消されるべきである。
(ii)特許異議申立人石井陽一(以下、「申立人2」という。)の主張
(a)訂正前の請求項1〜5に係る発明は、本件発明特許出願前の出願である甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定の違反してなされたものであり、特許は取り消されるべきである。
(b)訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲第2〜4号証に記載される発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許は取り消されるべきである。
イ.判断
前述のように、本件訂正は適法なものであるので、本件請求項1〜4にかかる発明は、訂正明細書の請求項1〜4に記載されたとおりのものである(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)。
(i)申立人1の主張について
(a)申立人1の特許法第36条第5項違反についての主張は、取消理由で挙げた内容と同一であり、訂正により解消された。
(b)申立人1の提出した甲第1号証は、取消理由で引用した引用例1と同一のものであるところ、上記「(iii)(b)」、「(iii)(c-1)」で述べたように、本件発明1、3は甲第1号証に記載される発明ではなく、また、甲第1号証に記載される発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものではない。
(c)申立人1の提出した甲第2号証は、取消理由で引用した引用例6と同一のものであるところ、上記「(iii)(d)」で述べたように、本件発明1、3は甲第2号証に記載される発明と同一ではない。
(ii)申立人2の主張について
(a)申立人2の提出した甲第1号証は、取消理由で引用した引用例6と同一のものであるところ、上記「(iii)(d)」で述べたように、本件発明1〜4は甲第1号証に記載される発明と同一ではない。
(b)申立人2の提出した甲第2〜4号証は、取消理由で引用した引用例1〜3と同一のものであるところ、上記「(iii)(c)」における引用例4は、実質的に引用例2と同じ内容であるので、「(iii)(c)」で述べた本件発明1〜4が引用例1〜4に記載される発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものではないということは、実質的に本件発明1〜4が引用例1〜3、すなわち甲第2〜4号証に記載される発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものではないとすることができる。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
異議決定日 2000-08-31 
出願番号 特願平3-223545
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03B)
P 1 651・ 161- YA (C03B)
P 1 651・ 534- YA (C03B)
P 1 651・ 113- YA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 唐戸 光雄
後藤 圭次
登録日 1997-08-15 
登録番号 特許第2683727号(P2683727)
権利者 コーニング インコーポレイテッド
発明の名称 高純度溶融シリカガラスの非多孔質体を作成する方法  
代理人 柳田 征史  
代理人 山元 俊仁  
代理人 服部 平八  
代理人 佐久間 剛  

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