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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C03C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C03C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C03C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C03C |
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管理番号 | 1024506 |
異議申立番号 | 異議1998-76179 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-10-08 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-12-25 |
確定日 | 2000-09-20 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2770224号「光リソグラフィ-用石英ガラス、それを含む光学部材、それを用いた露光装置、並びにその製造方法」の請求項1ないし16に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2770224号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 特許出願 平成 8年 1月 8日 (優先権主張日:平成 7年 1月 6日、日本 同 :平成 7年 1月13日、日本) 設定登録 平成10年 4月17日 (特許第2770224号) 特許公報発行 平成10年 6月25日 特許異議の申立て1 平成10年12月25日 (申立人1:信越石英株式会社) 特許異議の申立て2 平成10年12月25日 (申立人2:渡辺みつ子) 取消理由通知 平成11年 9月29日 意見書,訂正請求書 平成11年12月20日 手続補正指令(方式) 平成12年 1月25日 手続補正書(方式) 平成12年 3月16日 審尋(申立人1及び2宛) 平成12年 3月24日 回答書(申立人1及び2) 平成12年 6月 6日 II.訂正の要旨 平成11年12月20日付けの訂正請求書における訂正の要旨は次のとおりである。 1.訂正事項a 特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に「構造決定温度」(特許公報1欄3〜4行)とあるのを『構造決定温度すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」』に訂正する。 III.訂正の適否に対する判断 上記訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されていた「構造決定温度」が「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」であることを明示したものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。 そして特許明細書の段落【0016】には『ここでいう「構造決定温度」とは、石英ガラスの構造安定性を表すパラメータとして導入されたファクターであり、以下に詳細に説明する。室温での石英ガラスの密度揺らぎ、すなわち構造安定性は、高温で融液状態にある石英ガラスの密度、構造が冷却過程においてガラス転移点付近で凍結されたときの密度、構造によって決定される。すなわち、密度、構造が凍結されたときの温度に相当する熱力学的密度、構造が室温下でも保存されるのである。その密度、構造が凍結されたときの温度を、本発明では「構造決定温度」と定義する。』(特許公報6欄19〜28行)と記載されていたから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 したがって、上記訂正は特許法第120条の4第2項ただし書き第2号に掲げる事項を目的とし、また、同条第3項で準用する同法第126条第2項及び第3項の規定にそれぞれ適合するものであるから、当該訂正を認める。 IV.特許異議の申立てについての判断 1.本件発明 上記訂正明細書に記載された特許請求の範囲の請求項1〜16の記載は次のとおりである。 【請求項1】 400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光リソグラフィー用石英ガラスであって、構造決定温度すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上であることを特徴とする石英ガラス。 【請求項2】 フッ素濃度が300ppm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の石英ガラス。 【請求項3】 ArFエキシマレーザに対する散乱損失量が0.2%/cm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の石英ガラス。 【請求項4】 前記石英ガラスの散乱損失特性が中央対称性を有することを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項5】 厚さ10mmの前記石英ガラスにおけるArFエキシマレーザに対する内部吸収率が0.2%/cm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項6】 厚さ10mmの前記石英ガラスにおけるArFエキシマレーザに対する内部透過率が99.6%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項7】 KrFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度400mJ/cm2で1×106パルス照射した後の、厚さ10mmの前記石英ガラスにおける波長248nmの光に対する内部透過率が99.5%を超えることを特徴とする、請求項1〜6のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項8】 ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の、厚さ10mmの前記石英ガラスにおける波長193nmの光に対する内部透過率が99.5%を超えることを特徴とする、請求項1〜7のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項9】 複屈折量が2nm/cm以下であることを特徴とする、請求項1〜8のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項10】 前記石英ガラスの偏光特性及び複屈折特性が中央対称性を有することを特徴とする、請求項1〜9のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項11】 請求項1〜10のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含むことを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材。 【請求項12】 請求項1〜10のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置。 【請求項13】 OH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とする、構造決定温度が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスの製造方法。 【請求項14】 ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめてOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを得る工程を更に含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。 【請求項15】 ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめてOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを得る工程と、該石英ガラスインゴットを少なくとも1373Kの温度から1073K以下の温度までの間50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットを予備アニーリングする工程とを更に含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。 【請求項16】 前記火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比が0.4以上であることを特徴とする、請求項14又は15に記載の方法。 (以下、「本件発明1」〜「本件発明16」という。) 2.申立理由の概要 2.1 申立人1の申立理由の概要 申立人1は、証拠として 甲第1号証 :特開平5- 58667号公報 甲第2号証 :特開平6-199531号公報 甲第4号証 :特願平7-4077号の願書に添付した明細書及び図面 甲第6号証 :特公平6- 27013号公報 甲第7号証 :特開平6-199532号公報 甲第8号証 :特開平2- 64645号公報 甲第9号証 :特開平7-247132号公報 甲第10号証:特開平7-291644号公報 甲第12号証:シリカガラス研究会著「昭和63年度 シリカガラスデー タブック」社団法人ニューガラスフォーラム、1990年 発行、51,54頁 (以下、順に「引用例1」〜「引用例12」という。) を提出し、 (1)本件特許の請求項1,3,11及び12に係る発明は、引用例1に記載された発明であるから、該発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである、 (2)本件特許の請求項1,11及び12に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (3)本件特許の請求項3に係る発明は、引用例11及び12の記載を参照すると、引用例1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (4)本件特許の請求項4に係る発明は、引用例1,2及び6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (5)本件特許の請求項5,7及び8に係る発明は、引用例1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (6)本件特許の請求項6に係る発明は、引用例9及び10の記載を参照すると、甲第1〜3及び5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (7)本件特許の請求項9に係る発明は、引用例1〜3及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (8)本件特許の請求項10に係る発明は、引用例1,2及び6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (9)本件特許の請求項13及び14に係る発明は、引用例1,2及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (10)本件特許の請求項15に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (11)本件特許の請求項16に係る発明は、引用例1,2及び8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (12)本件特許明細書には記載不備が存在するから、本件特許の請求項1〜16に係る発明の特許は、明細書の記載が特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである、 ので、特許を取り消すべきものである旨を主張している。 2.2 申立人2の申立理由の概要 申立人2は、証拠として 甲第1号証 :特開平5-58667号公報 (申立人1の甲第1号証に同じ) 甲第3号証 :特開平6-287022号公報 甲第4号証 :特開平4-195101号公報 甲第5号証 :特開平2-102139号公報 甲第6号証 :特開平3-101282号公報 甲第7号証 :特開平4- 72685号公報 甲第8号証 :作花済夫外2名著「ガラスハンドブック」株式会社朝倉書 店、昭和50年9月30日発行、549,606-607 ,869-871頁 甲第9号証 :特開平6-166527号公報 甲第10号証:特開平2- 64645号公報 参考資料1 :泉谷徹郎著「光学ガラス」共立出版株式会社、昭和59年 11月1日発行、1-2,15-19頁 ,p.8-18 参考資料3 :葛生伸著「石英ガラスの世界」株式会社工業調査会、19 95年10月23日発行、85〜101頁 (以下、順に、「引用例1」、「引用例13」〜「引用例24」という。) を提出し、 (1)本件特許の請求項1,11及び12に係る発明は、引用例22及び23の記載を参照すると、引用例1,13及び14に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (2)本件特許の請求項2に係る発明は、引用例1,13〜15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (3)本件特許の請求項3に係る発明は、引用例1,13及び14に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (4)本件特許の請求項4に係る発明は、引用例1,13,14及び16に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (5)本件特許の請求項5〜8に係る発明は、引用例1,13,14,17及び18に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (6)本件特許の請求項9及び10に係る発明は、引用例1,13,14及び19に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (7)本件特許の請求項13及び14に係る発明は、引用例1,13,14及び20に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 (8)本件特許の請求項16に係る発明は、引用例1,13,14,20及び21に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、 ので、特許を取り消すべきものである旨の主張をしている。 3.各引用例の記載 3.1 引用例1 上記引用例1には、「光学部材」に関し、 (1-1)「【請求項1】肉厚が30mm以上の合成シリカガラスからなる光学部材において、OH基を100〜1000(wt・ppm)含有させると共に、仮想温度を800〜1000℃で且つ均質性Δnを1×10-5以下に設定した事を特徴とする光学部材」(2頁左欄2〜6行) (1-2)「【産業上の利用分野】本発明は、主として紫外線レーザを利用した各種装置に組込まれる光学部材に係り、特にレンズ、プリズム、エタロン板若しくはこれらの部材の最終仕上げ加工前の半製品として機能し得る光学部材に関する。」(2頁左欄12〜16行)、 (1-3)「そして本出願人は特に、略360nm以下の高出力紫外光を作用させた場合に所望の耐レーザ性を得る為には前記光学部材を高純度合成シリカガラス材で形成するとともに、該シリカガラスをOH基を少なくとも50、好ましくは100(wt・ppm)以上含有させた光学部材を提供してきた。(特開平3-5338号他)」(2頁左欄33〜38行)、 (1-4)「従って前記OH基含有量はエキシマレーザのように使用光が短波長化してエネルギー密度が増大するに比例して増加させる必要があり、例えば250nm以下のレーザビームにおいてはOH基濃度を100(wt・ppm)以上含有させる必要がある。」(2頁右欄1行〜5行)、 (1-5)「即ち、本発明は前記知見より、肉厚が30mm以上の合成シリカガラスからなる光学部材においても、仮想温度を800〜1000℃で均質性をΔnを1×10-5以下に設定した点を特徴とし、これによりレーザ照射による劣化及び球面収差のいずれもが低減し得る。」(2頁右欄37〜42行)、 (1-6)「そして前記仮想温度を800〜1000℃に設定するには後記実施例に示すようにアニール条件を選択する事により容易に実現し得る。しかしながら、仮想温度を800℃以下に設定することは、実際には長時間(2ヵ月程度)の加熱が必要であり工業的には不利である。」(2頁右欄42〜48行)、 (1-7)「仮想温度が800〜1000℃になると、シリカガラス中のプレカーサが少なくなる」(3頁左欄1〜2行)、 (1-8)「次に前記仮想温度が800〜1000℃に設定するにはOH基含有量が100(wt・ppm)以上存在する事が前提となる。けだしOH基含有量を100(wt・ppm)以上に設定する事は、前記したように耐レーザ性の面でも好ましいのみならず、OH基含有量が100(wt・ppm)以下では仮想温度を1000℃以下に設定するのが困難になる。又OH基含有量を1000(wt・ppm)以上含有させる事は製造上問題となりやすい。」(3頁左欄6〜14行)、 (1-9)「そこで本発明の第2の特徴とする所は、OH基を100〜1000(wt・ppm)含有させた点にある。更に、前記ガラス体においても耐レーザ性を得るためには略250nm以下の短紫外域における高出力レーザ特にKrFエキシマレーザの照射における耐レーザ性を得るには特開平3-88742号に示すようにH2ガス分子の含有量を1×1016molecules/cm3以上に設定する必要がある。」(3頁左欄15〜22行)、 (1-10)「該高純度の四塩化ケイ素原料を用いて、火炎加水分解法(ダイレクト法)で、OH基を500(wt・ppm)含有した。」(3頁左欄27〜29行)、 (1-11)「レーザ照射前後でH2含有量が1×1017から5×1016(molecules/cm3)へと低減したが、耐レーザ性の欠陥発生限界である1×1016(molecules/cm3)を満足している。」(3頁右欄12〜15行)、 (1-12)「次に前記各試験片の仮想温度の設定は、The American Physical Society, Vol.28, No.6, pp3266〜3271, September,1983 に記載されているようにレーザラマン分光法を用いる。先ずその測定方法を簡単に説明するに、先ず比較サンプルとしてOH基500(wt・ppm)程度の合成シリカガラスの小片(5cm角、長さ20mm)を用意し、この小片を例えば1200℃で2時間加熱した後水中急冷したサンプル1、1000℃で20時間加熱した後水中急冷したサンプル2、900℃で120時間加熱した後水中急冷したサンプル3を生成し、800℃で1200時間加熱した後水中急冷したサンプル4を生成しこれらのサンプルを夫々ラマン分光光度計で150〜650cm-1の範囲を測定し、下記の3つのピーク面積を測定する。 150〜650cm-1(W1、ピーク面積AW1)、 470〜520cm-1(D1、ピーク面積AD1) 580〜640cm-1(D2、ピーク面積AD2) 次にこれらの3つのピーク面積からD2のピーク面積の比(I)を求める。 I={AD2/(AW1ーAD1ーAD2)} この(I)と仮想温度との関係をグラフに示し、標準線(検量線)として仮想温度が分らないサンプルの(I)から仮想温度を推測する。」(3頁右欄29行〜4頁左欄2行)、 との記載がある。 3.2 引用例2 上記引用例2には、「光学用合成石英ガラス」に関し、 (2-1)「【請求項1】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解した合成石英ガラスにおいて、酸水素火炎の酸素と水素の比が化学量論的必要量より過剰の水素の存在下で合成し、かつ、OH基を1000ppm以上含有してなる光学用合成石英ガラス。」(2頁1欄2〜6行)、 (2-2)「四塩化珪素を酸水素火炎中で加水分解することにより直接堆積ガラス化する石英ガラスの合成方法において、火炎中の水素の量を化学量論的必要量よりも過剰にし、かつ、ガラス中のOH基濃度を重量濃度で1000ppm以上含有する石英ガラスを用いることによってKrFエキシマレーザーおよびArFエキシマレーザーを長時間照射しても石英ガラスに吸収帯の生成が無く、エキシマレーザーに対する透過率の低下が生じない安定した光学用合成石英ガラスを得ることができた。」(5頁7欄31行〜同頁8欄33行)、 との記載がある。 3.3 引用例3 上記引用例3は、「ステッバー用石英ガラスについて」と題する報文であって、これの195頁右欄下から7行〜196頁左欄5行の「6. ステッパー用投影レンズに必要な石英ガラス」の欄には、ステッパー用の結像光学系に使用される石英ガラスに要求される品質として、透過率(10mm)は99.9%以上なら安心レベルであること、蛍光は250〜500nm付近で強い蛍光が出ないこと、ソラリゼーションは0.1%以下(10mmt)であること、内部均質性は1×10-6以下であること、及び歪み(複屈折)は1nm/cm未満であるが必要があることが示されている。 3.4 引用例4 上記引用例4は、本件特許に係る出願の優先権主張の基礎となった出願の1つである「特願平7-4077号」の願書に添付された明細書及び図面であって、その段落【0021】、【0022】、【0038】〜【0042】等では「仮想温度」という用語が使用されているが、「構造決定温度」との記載はないことが認められる。 3.5 引用例5 上記引用例5は、「193nmでのフォトリソグラフィー」と題する報文であって、これの2990頁左欄1〜25行には、紫外域用の溶融シリカは、193nmレーザ光を照射するとドライ溶融シリカ(OH基含有量約10ppm以下)はウエット溶融シリカ(OH基約300〜1200ppm)より急速に劣化したこと、ウエット溶融シリカの193nmでの吸光係数は、Beerの法則におけるベースをeとして、試料の中央部で「〜0.005cm-1」であったことが、示されている。 3.6 引用例6 上記引用例6には、「紫外線レーザ用合成シリカガラス光学体及びその製造方法」に関し、 (6-1)「本発明は、屈折率分布の変動要因たる仮想温度差を極力0に近づけて、光学部材における屈折率の高均一性を得るのではなく、逆に前記仮想温度差を実質的に0にすることが不可能である為に、前記変動要因の温度差の発生を許容しつつ該温度差に対応させてOH基濃度分布状態を各々適切に規制する事により、前記各々の分布状態に起因して発生する屈折率変動を互いに打消し、結果として少なくとも一の断面方向における屈折率分布の変動幅を2×10-6以下に抑制した点にある。」(3頁5欄17〜25行)、との記載があるほか、 (6-2)第1図(A),(B)には、仮想温度/OH濃度の分布が中央対称である図が示されている。 3.7 引用例7 上記引用例7には、「エキシマレーザー用石英ガラス部材の製造方法」に関し、 (7-1)「本発明において、石英ガラス成形部材のアニール処理は、上記石英ガラス成形部材の歪を除去するために行われ、石英ガラス成形部材を、石英ガラスの歪点よりも高い温度まで加熱し、その後、該成形部材を徐冷して行われる。合成石英ガラスの歪点は約1025℃であるが、1100℃〜1250℃まで加熱することが好ましい。エキシマレーザー用の光学材料として用いるには、歪は5nm/cm以下に抑える必要があるが、上記温度から徐冷することによって、歪はほぼ完全に除去することができる。徐冷はできるだけゆっくり行うことが好ましい。加えて、アニール処理は石英ガラス中の屈折率分布の均一化にも貢献している。」(4頁5欄6〜17行) (7-2)「石英ガラスの屈折率は、仮想温度(Fictive Temperature)により決定されるので、アニール処理の際の仮想温度の設定が重要である。つまり、均一な屈折率分布を得るためには、処理する石英ガラス成形部材全体の仮想温度を均一にしなければならない。このため、一旦徐冷点以上の温度に石英ガラスを加熱したのち、一定時間の間その温度に保持して、ガラス内部の温度分布を均一にし、その後できるだけゆっくりと降温する。これは、石英ガラス中の任意の位置で、できるだけ温度差が生じないようにするためである。もし、この降温スピードを速くした場合、石英ガラス中の任意の位置で温度差が生じ、その結果、異なる仮想温度が設定され、均一な屈折率分布が得られない。」(4頁5欄18〜30行)、 (7-3)「上記加熱せん断処理を施した透明石英ガラス部分を切り出し、カーボンヒーター仕様の加熱炉によって成形し、外径240mm、長さ90mmの円柱状の成形体を得た。この時の成形温度は約1700℃で、窒素ガス雰囲気中で行った。引き続き得られた成形体をアニール処理した。熱処理条件は、1100℃まで昇温したのち、0.1℃/min.で600℃まで降温した。熱処理は大気中の雰囲気で行った。得られたガラス体の複屈折は2nm/cm以下であり、屈折率分布も実質上均一であり、屈折率の最大値と最小値の差は1×10-6以下であった。」(4頁6欄42行〜5頁7欄2行)、 との記載がある。 3.8 引用例8 上記引用例8には、「紫外域用有水合成石英ガラス及びその製造方法」に関し、 (8-1)「この発明は合成石英ガラス、特に紫外領域で使用される精密光学系の窓、ミラー、プリズム等の光学用部品、超LSI用フォトマスク基板等に使用される有水合成石英ガラスおよびその製造方法に関する。」(1頁右下欄15〜19行)、 (8-2)「ついで、第3図に示すベルヌイ炉の頂部に第4図示す石英ガラス製バーナーをセットし、バーナー各部より第1表に示す量の各種ガスを供給した。・・(中略)・・その際、中心管、2重管、及び3重管のガス量は固定し、その他のガス量によって、O2/H2比を所望の値になるように変化し、なおかつ炉内温度を1400±10℃に制御した。得られたガラスのエキシマレーザー(KrF、20Hz)照射による赤色蛍光の「しきい値」と200nmにおける透過率のデータ-を、H2/O2比に対して整理した結果を第2図に示す。H2/O2比を2.2〜2.3にすると、スパッタリングやプラズマエッチングに対して変質して赤色蛍光を発することは無く、エキシマレーザーKrF(248nm)に対し200mJ/cm2のエネルギー密度にまで耐える。」(5頁右上欄3行〜同頁左下欄7行)、 との記載がある。 3.9 引用例9 上記引用例9には、「石英ガラスの製造方法」に関し、 (9-1)「【請求項1】OH基を500ppm以上含有する石英ガラス母材を、保持温度まで昇温して一定時間保持し、その後徐々に降温する熱処理を行う石英ガラスの製造方法において、前記保持温度を石英ガラスの歪点以上、昇華点以下の範囲で複数回上下させることを特徴とする石英ガラスの製造方法。」(2頁1欄2〜7行)、 (9-2)「〔実施例1〕試料を表2の温度条件により熱処理した。干渉計により屈折率分布を測定したところ、△n(PV値)は初期値6.3×10-6から1×10-6以下の0.7×10-6となった。また、母材の合成時の生じた屈折率分布の極値は3個であったが上記条件で回転熱処理したところ中央部のみの1個に減少し、さらに石英ガラスのインゴットの合成時の回転軸からオフセットして切り出されたための中央非対称な屈折率分布は中央対称な屈折率分布に補正された。極値が1個で中央対称な屈折率分布ではパワー補正の効果が大きくなるためRMS値(パワー成分補正後)も良化した。透過率の測定は、精密に調整された分光光度計を用い、高精度に研磨された10mm厚のテストピースの193nm内部透過率を測定したところ、熱処理後も99.9%が維持されていた。」(5頁7欄36〜49行)、 との記載がある。 3.10 引用例10 上記引用例10には、「石英ガラス部材及びその評価方法」に関し、 (10-1)「【請求項1】400nm以下の特定波長領域の高出力パルスレーザーの光学系に使用される石英ガラス部材において、前記レーザーの光を照射する前の190nm〜400nmの波長領域での内部透過率が99.9%以上であり、且つ前記レーザーを照射したときの照射パルス数に対する215nmの吸収係数の変化量が、前記レーザーの繰り返し周波数に関わらず一定であることを特徴とする石英ガラス部材。」(2頁1欄2〜8行)、 (10-2)「したがって、本発明は、レーザーの光を照射する前の190nm〜400nmの波長領域での内部透過率が99.9%以上であり、且つレーザーを照射したときの照射パルス数に対する215nmの吸収係数の変化量が、レーザーの繰り返し周波数に関わらず一定であるか、またはレーザーの繰り返し周波数の増加に伴って減少する石英ガラス部材を、400nm以下の特定波長領域の高出力パルスレーザーの光学系に使用することを提案するものである。」(3頁3欄25〜32行)、 との記載がある。 3.11 引用例11 上記引用例11の255頁左欄下から8行〜右欄20行の「3.分析及び散乱損失の評価」の欄には、全散乱損失、レーリー散乱損失係数及びブリリアン散乱損失係数を表す式が示されている。 3.12 引用例12 上記引用例12には、51頁の式(1)にSellmelerの分散式が、また52頁の表1にSellmeler分散式(1)のパラメータの具体的数値が、それぞれ記載されている。 3.13 引用例13 上記引用例13の973頁右欄には、レーリー散乱係数αSCを求める式が示されている。 3.14 引用例14 上記引用例14には、「光学用合成石英ガラス」に関し、 (14-1)「【産業上の利用分野】本発明は、合成石英ガラス、特に、紫外領域、例えば、エキシマレーザーなどに使用される光学用部品、超LSI用フォトマスク基板、レチクル、及び超LSIステッパー用光学材料等に使用される合成石英ガラス、その製造方法、並びに紫外線照射による吸収帯、及び650nmの赤色発光を防止する方法に関する。」(2頁左欄30〜36行)、 (14-2)「これは、石英ガラス中のSi-OHの濃度を高くすることによって達成できる。Si-OHの濃度が高いと、石英ガラスをある温度に保ったとき準平衡に近づく時間を短縮でき、このため石英ガラス中のSi?O?Si結合角の緩和が促進され、結果として歪んだ結合の分布割合を少なくすることができ、ガラス作成時における前駆体の生成が防止される。また、たとえ合成時に前駆体が生成したとしても歪んだ結合を少なくすることにより、熱処理においても周辺の構造の緩和も容易になり前駆体が容易に除去される。 すなわち、石英ガラス中のOH基を濃度を上げ、Si?OHの濃度を高くすることによって石英ガラス中のこの歪んだ結合の濃度が減少し、歪んだ構造に基づくE'センターの生成が防止されるので、エキシマレーザーを石英ガラスに照射しても、吸収帯の生成が無く、エキシマレーザーに対する透過率の低下が生じない安定した光学用合成石英ガラスを得ることができるのである。」(4頁右欄末行〜5頁左欄17行)、 (14-3)「【効果】水素過剰の雰囲気で合成し、かつOH濃度が約1000ppm以上含有した合成石英ガラスを使用することにより、エキシマレーザー照射により生じる220nmの吸収帯の生成を防止することができ、また、水素熱処理することにより、220nmの吸収帯の防止効果を高め、かつ、260nmの吸収帯に起因する650nmの赤色の発光が生じない石英ガラスを得ることができ、KrFエキシマレーザーおよびArFエキシマレーザーを長時間照射しても石英ガラスに吸収帯の生成が無く、エキシマレーザーに対する透過率の低下が生じない安定した光学用合成石英ガラスを得ることができる。」(6頁右欄6〜16行)、 との記載がある。 3.15 引用例15 上記引用例15には、「紫外線透過用光学ガラス及びその成形物品」に関し、 (15-1)「フッ素をドープした合成石英ガラスよりなることを特徴とする紫外線透過用光学ガラス及びその成形物品」(1頁左下欄5〜7行)、 (15-2)「本発明のフッ素をドープした石英ガラスよりなる紫外線透過用光学ガラスは、既に詳記したように高エネルギ紫外域を含め実質的に欠陥吸収がなく長期信頼性に富み、そして容易に成形加工してフォトマスク、レンズ、セルなど有用な光学ガラス物品の製造に用いることができる。」(5頁右上欄18行〜同頁左下欄3行)、 との記載がある。 3.16 引用例16 上記引用例16には、「光透過体用石英ガラス母材、主として該母材を製造する為の石英ガラス素塊、及び前記母材を用いて形成した光透過体」に関し、 (16-1)「仮想温度分布差が生じたまま室温状態にまで冷却すると、組成上理想的に均一なガラス素塊を用いて前記加熱-徐冷処理を行ったとしても、該処理により形成されたガラス母材の屈折率分布は前記仮想温度分布に依存してしまう為に、ガラス塊の中心部より周縁部の屈折率の方が大きい、軸対称で且つ上に凹型の曲線状の屈折率分布が生じてしまう。」(2頁右下欄5〜12行)、 (16-2)「本発明は、かかる従来技術の欠点に鑑み、前記加熱-徐冷処理により生じる仮想温度分布の変動幅を許容しつつ前記屈折率分布の均一性の向上を図った石英ガラス母材と該母材を製造する為の石英ガラス素塊を提供することを目的とする。」(3頁左上欄15〜19行)、 (16-3)「本発明の他の目的は、短波長レーザ光(193〜308nm)特に高出力のエキシマレーザ光を利用した各種装置に用いるレーザ光用透過体として好適な光透過体を提供する事にある」(3頁左上欄20行〜同頁右上欄3行)、 (16-4)「前記OH基濃度分布曲線と仮想温度分布曲線は、同様に極小点が母材中心域にあり、周縁部に移行するに従いなめらかに大きい値を示す軸対称の曲線であることが好ましい」(3頁右下欄10〜13行)、 との記載がある。 3.17 引用例17 上記引用例17には、「レーザ光用光学系部材」に関し、 (17-1)「本発明者は更に一歩進めて、耐レーザ性を保証し得る水素ドーピング量、言い換えれば水素濃度範囲を明確化した。即ち本発明の第1の特徴とする所は、前記加熱処理後若しくは加熱処理と同時に行うドーピング処理にて脱ガス化を防止若しくは脱ガス化した光学系部材中に水素ガスを吸蔵させ、該水素ガスを少なくとも5×1016(molecules/cm3)濃度以上、又ArFのように少なくとも200nm以下に短波長化されたレーザ光においては、前記光学系部材中に含有させた水素ガスを5×1016乃至5×1019(molecules/cm3)の範囲に設定したことにある」(2頁右下欄6〜17行)、 (17-2)「前記光学系部材の耐レーザ性は、出発母材に含有されるOH基濃度にも影響される事は特願昭62-323882号、及び特願平1-134562号に既に開示されているが、かかる技術と前記請求項1及び2に記載した発明と組合せる事により、一層耐レーザ性が一層向上することは容易に理解される。請求項3に記載した発明はかかる点に着目したものであり、その特徴とする所は、少なくとも100ppm以上好ましくは略300ppm以上含有する高純度合成石英ガラス材を出発母材として前記レーザ光学系部材を形成したものである」(4頁左上欄1〜12行)、 (17-3)「以上記載の如く本発明によれば、長時間にわたってエキシマレーザ光を照射した場合においても透過率の低下や屈折率分布の変動が生じる事なく耐レーザ性が一層向上し得るレーザ光用光学系部材を得る事が出来、これにより本発明のレーザ光学系部材は、リソグラフィー装置その他の高集積回路製造装置のみならず、レーザ核融合装置その他の高出力エキシマレーザーに使用されるレーザ光学系母材にも十分適用可能である」(6頁左下欄2〜10行)、 との記載がある。 3.18 引用例18 上記引用例18には、「紫外線レーザー用光学部材」に関し、 (18-1)「本発明は、略360nm以下の高出力紫外光、より具体的にはKrF若しくはArFエキシマレーザ光、YAG4倍高調波(250nm)レーザ光その他の高出力紫外線レーザ光を利用した各種装置に組み込まれるレンズ、プリズム、フィル夕、ウインドウ、ミラー、エタロン板若しくはこれらの部材の最終仕上げ加工前の半製品として機能し得る紫外線レーザ用光学部材に関する。」(第1頁右欄10〜17行)、との記載があるほか、 (18-2)6頁の表1には、「5.8eV(略215nmに相当)における初期内部透過率(%)」が99.9以上である実施例が記載されている。 3.19 引用例19 上記引用例19には、 (19-1)「光学ガラスの微視的欠点にはレ-リー散乱と呼ばれる光散乱と歪がある。光散乱はガラスが固化するときに溶融中の熱ゆらぎが凍結されることによりおこるとの考えと、この熱ゆらぎによっておこされた焼鈍できない微視的な歪みによっておこるとの考えがあり、」(549頁7〜10行)、 (19-2)「光学ガラスの歪みは等方性を害する欠点として、とくに偏光を用いる光学系用や大型レンズ用には入念な焼鈍で除去しなければならない。前者の場合は1nm/cm以下を要し、」(549頁23〜26行)、 との記載がある。 3.20 引用例20 上記引用例20には、「石英ガラスの製造方法」に関し、 (20-1)「本発明は、石英ガラスの製造方法に関するものであり、特に均質性△n=1×10-6以下の高均質性が要求される合成石英ガラス部材を必要とする分野、例えば光リソグラフィー、高精度分光器、レーザー等の精密光学機器に有用とされる高均質な光学用合成石英ガラスの製造法に関するものである。」(2頁左欄15〜20行)、 (20-2)「以下、実施例により、本発明を詳しく説明する。試料には、同一の石英ガラスを色々な初期条件で熱処理(アニール)した様々な△nパターンの約φ100〜150×t40の円柱形状のものを用い、本発明の石英ガラスの製造方法により再熱処理した。 本発明の製造方法により再熱処理を行ったとき均質性の挙動を実施例1〜4に、また、それに対応した径方向の均質性(屈折率分布)の変化を図2〜5に示す。」(3頁右欄22〜31行)、 (20-3)「大気中、保持温度1050℃10h保持1℃/h降温500℃放冷で、以下の品質の試料をイニシャルとして用いた。再熱処理前の品質:均質性△n=4×10-6、歪量=0.4nm/cm」(3頁右欄34〜38行)、 (20-4)「これを、大気中、保持温度1050℃10h保持10℃/h降温500℃放冷の条件で再熱処理を行うことで、以下の品質に良化または調整することができた。 再熱処理後の品質:△n=5×10-6、歪量=0.7nm/cm」(4頁左欄8〜12行)、 との記載がある。 3.21 引用例21 上記引用例21は、上記引用例8と同じであり、上記「(8-1)」及び「(8-2)」に記載のとおりのことが記載されている。 3.22 引用例22 上記引用例22には、 (22-1)「保持温度が転移点付近では、温度が低下するにつれて平衡に達するのに長時間要するようになり、常温では無限大に近い時間を要する。各温度における平衡値は過冷却液体の容積-温度曲線の延長にある。ガラスを一定速度で冷却した場合、ガラス構造の緩和時間が長くなるために.構造は温度の変化に追従することができず、ある一定温度で凍結してしまう。したがって、常温ではガラス構造は時間とともに変化することはない。」(2頁5〜10行)、 (22-2)「図1.1において過冷却液体がガラスに移る場合、温度降下とともにガラスの粘性は増大し、そのため緩和時間(τ=η/G)も長くなる。つまり、温度変化に対し原子の移動や分子の回転を含む内部構造の配置調整を行う時間が不足して、ある温度においてガラス構造は凍結してしまう。凍結後は原子の振動のみが可能で、結晶に似た挙動を示す。この温度がTgで、その緩和時間は100secのorderである。Tgの近辺では、一定温度に保持すれば、ガラス構造は平衡構造に向かって徐々に変化していく。一つの温度にはこれに対応する一つの平衡構造があり、逆に一つの平衡構造にはこれに対応する温度があると考えて、この構造に対応する温度のことを、仮想温度(fictive temperature)あるいは構造温度という。」(15頁7〜16行)、 との記載がある。 3.23 引用例23 上記引用例23の10頁のFig.2には、溶融シリカの温度と平衡密度に達するまでの時間との関係のグラフが記載されている。 3.24 引用例24 上記引用例24は、本件特許にかかる出願の出願前ではあるが、本件特許にかかる出願の優先権主張日以降に頒布されたものであるので、直ちに公知文献となるものではないが、これの97頁下から3〜1行には、「複屈折の大きさは、nxとnyの差の絶対値(|nx-ny|)で表します。ガラスの分野では、この差を歪み量と称して、[nm/cm]の単位で表します。」との記載がある。 4. 対比・判断 4.1 本件発明について 本件特許の発明者らは、「内部透過率が規定された従来の石英ガラスからなる光学部材においては、スペック的にはある程度の解像度が保証されているにもかかわらず、像のコントラストが悪く、十分に鮮明な像が得られるには至っていないことを見出し」(特許公報5欄12行〜6欄8行)、「光リソグラフィー技術等に使用される石英ガラス(光学部材)の透過損失のうち、像のコントラストを低下させる要因について研究した結果、透過損失の主な原因は石英ガラスにおける光吸収のみならず光散乱も原因であり、かかる光散乱に基づく光の損失量(散乱損失量)はOH基を一定量以上含有する石英ガラスにおいて構造決定温度を一定水準以下に低下させることによって十分に抑制されること」(同公報5欄25〜32行)及び「投影レンズの光学的性能は屈折率の均一性(Δn)やレンズ面精度、光学薄膜特性がほぼ均一の場合、透過損失量が結像性能に極めて影響が大きいこと、また、さらに重要なことに、その透過損失を光吸収と光散乱に分離して精密に評価しないとその光学性能を正確に予測できないこと」(同公報11欄6〜11行)を見出して本件特許発明を完成させるに至ったものであり、本件発明1〜16は、『構造決定温度すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上』とする点を共通の構成要件とすることにより、「ArFエキシマレーザに対する散乱損失量が0.2%/cm以下であるという、従来は達成することができなかった低散乱損失量の石英ガラスを得ることができ、それによって散乱光に起因するフレアやゴーストによるコントラストの低下が十分に抑制される。」(同公報7欄20〜24行)という効果を奏するものである。 4.2 申立人1の申立理由について 4.2.1 申立理由(1)について 上記引用例1に記載されている合成シリカガラスからなる光学部材は、上記「(1-2)」に「主として紫外線レーザーを利用した各種装置に組み込まれる光学部材に係り、特にレンズ、プリズム、エタロン板若しくはこれらの部材の最終仕上げ加工前の半製品として機能し得る光学部材に関する。」と記載されていることから、周知の紫外線レーザーを利用する光リソグラフィー用のものを包含するものであり、しかも、その紫外線レーザー光の波長は、上記「(1-3)」及び「(1-4)」の記載によれば、「略360nm以下」ものが使用されている。 また、「合成シリカガラス」は「石英ガラス」に該当する。 してみれば、上記引用例1には、 『略360nm以下の波長域の光と共に使用される光リソグラフィー用石英ガラスであって、仮想温度が800〜1000℃でかつOH基濃度が100〜1000ppmであることを特徴とする石英ガラス。』 の発明が記載されていると云える。 そこで、本件発明1と上記引用例1に記載の発明とを対比すると、両者は、共に、 「400nm以下の波長域の光と共に使用される光リソグラフィー用石英ガラスであって、OH基を含有することを特徴とする石英ガラス。」 である点では一致するが、 (i)本件発明1では『構造決定温度すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下』と限定しているのに対し、引用例1に記載の発明では「仮想温度が800〜1000℃」(1073〜1273Kに該当)と限定している点、 (ii)OH基濃度が、本件発明では「1000ppm以上」であるのに対し、引用例1に記載の発明では「100〜1000ppm」と記載されている点、 で、相違している。 そこで、まず、上記相違点(ii)について検討する。 本件発明と引用例1に記載の発明とでは、文言上、石英ガラス中のOH基濃度は一応「1000ppm」の一点において重複・一致していることが認められる。 そこで、引用例1に記載の発明がOH基濃度を「100〜1000ppm」と限定した技術的意義を、引用例1の記載に基いて検討する。 引用例1には、「OH基含有量を100(wt・ppm)以上に設定する事は、前記したように耐レーザ性の面でも好ましいのみならず、OH基含有量が100(wt・ppm)以下では仮想温度を1000℃以下に設定するのが困難になる。又OH基含有量を1000(wt・ppm)以上含有させる事は製造上問題となりやすい。」(上記「(1-8)」参照)と記載した上で、かかる記載に続けて「そこで本発明の第2の特徴とする所は、OH基を100〜1000(wt・ppm)含有させた点にある。」(上記「(1-9)」参照)と記載していることが認められる。 すなわち、引用例1に記載の発明は、OH濃度が1000ppm以上では問題点が存在することを認識した上で、OH基濃度を「100〜1000ppm」と限定しているものであることは明らかである。 してみると、引用例1に記載の発明ではOH基濃度が「1000ppm」は実質的に問題点が存在する点であるから、引用例1に記載の発明におけるOH基濃度が「100〜1000ppm」である点は実質的に「100ppm以上、1000ppm未満」を表しているものとせざるを得ない。 そうすると、本件発明と引用例1に記載の発明とは、少なくともOH基濃度について相違していることになるから、相違点(i)について検討するまでもなく、本件発明1と引用例1に記載の発明とは別異のものである。 また、本件発明3は本件発明1又は2に係る発明について更に限定を加えた発明であり、本件発明11及び12は本件発明1〜10のうちのいずれかに係る発明について更に限定を加えた発明であるから、本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明3,11及び12は引用例1に記載された発明とは別異のものである。 4.2.2 申立理由(2)について 上記「4.2.1」で述べたように、本件発明1と引用例1に記載の発明とでは少なくともOH基含有量において相違している。 さらに、上記引用例1には、石英ガラス中のOH基濃度を所定数値範囲とするのみでなく、「仮想温度を800〜1000℃でかつ均一性Δnを1×10-5以下」(上記「(1-1)」参照)とすることにより、「レーザ照射による劣化及び球面収差のいずれもが低減し得る」(上記[(1-5)」参照)ことが示されてはいるが、光散乱に基づく光の損失量(散乱損失量)を示唆する記載はない。 一方、上記引用例2には、四塩化硅素を酸水素炎中で加水分解することにより合成されたエキシマレーザー用石英ガラスにおいて、OH基含有量を「1000ppm以上」となすと透過率の低下が生じないこと示されてはいるが、石英ガラスの散乱損失量を低下させることを示唆する記載はない。 してみると、引用例1にはOH基濃度を「1000ppm以上」となすことの問題点が示されているおり、しかも、上記引用例1及び2には石英ガラスの散乱損失量を低下させることを示唆する記載がない以上、散乱損失量を低減させる目的でOH基濃度を「1000ppm以上」となすと共に構造決定温度を「1200K以下」となすことが当業者にとり容易であるとすることはできない。 したがって、本件発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 また、本件発明11は請求項1〜10のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む「光学部材」の発明であり、本件発明12は請求項1〜10のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む光学部材を備える「露光装置」の発明であるから、少なくとも本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明11及び12は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 4.2.3 申立理由(3)について 本件発明3は、本件発明1又は2において、ArFエキシマレーザに対する散乱損失量を限定した発明である。 一方、上記引用例3にはステッパー用石英ガラスに必要な透過率が、上記引用例11には、一般的な全散乱損失、レーリー散乱損失係数、及びブリリアン散乱係数を表す式が、また、上記引用例12にはSellmelerの分散式及びその式における各パラメータの具体的数値が、それぞれ示されているにすぎないから、上記「4.2.2」で本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明3は、引用例11及び12の記載を参照しても、引用例1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 4.2.4 申立理由(4)について 本件発明4は、本件発明1〜3のいずれかにおいて「散乱損失特性が中央対称性を有する」ものに限定した発明である。 一方、上記引用例6には、合成石英ガラスの仮想温度の分布及びOH濃度の分布を中央対称(軸対称)とすることにより屈折率変動を互いに打ち消し、結果として屈折率分布が均一になるようになしたものが示されてはいるが、散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、上記「4.2.2」で本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明4は、引用例1,2及び6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 4.2.5 申立理由(5)について 本件発明5は、本件発明1〜4のいずれかにおいて、ArFエキシマレーザに対する内部吸収率について限定を加えた発明であり、また、本件発明7は、本件発明1〜6のいずれかにおいて、所定エネルギーのKrFエキシマレーザを所定パルス照射した後の内部透過率を限定した発明であり、さらに、本件発明8は、本件発明1〜7のいずれかにおいて、所定エネルギーのArFエキシマレーザを所定パルス照射した後の内部透過率を限定した発明である。 一方、上記引用例3にはステッパー用石英ガラスに必要な透過率が示されてはいるが、散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、上記「4.2.2」で本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明5、7及び8は、引用例1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 4.2.6 申立理由(6)について 本件発明6は、本件発明1〜5のいずれかにおいて、ArFエキシマレーザに対する内部透過率について限定を加えた発明である。 一方、上記引用例3にはステッパー用石英ガラスに必要な透過率が示され、上記引用例5にはウエット溶融シリカ(OH基300〜1200ppm)の193nmでの吸光係数が示され、上記引用例9には熱処理後の193nmにおける内部透過率が99.5%の石英ガラスが示され、上記引用例10には400nm以下のレーザー光を照射する前の内部透過率が99.9%以上の石英ガラスが示されてはいるが、引用例3,5,9及び10には散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、上記「4.2.2」で本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明6は、引用例9及び10の記載を参照しても、引用例1〜3及び5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 4.2.7 申立理由(7)について 本件発明9は、本件発明1〜8のいずれかにおいて、複屈折量について限定した発明である。 一方、上記引用例3にはステッパー用石英ガラスに必要な透過率が示され、上記引用例7には、石英ガラス成形部材をエキシマレーザー用の光学部材として用いるには「歪みは5nm/cm以下」に抑える必要があること(上記「(7-1)」参照)、及び、屈折率分布を均一にするためには処理する石英ガラス成形部材全体の仮想温度を均一にする必要があり(上記「(7-2)」参照)、実施例では「複屈折は2nm/cm以下」のものが得られたこと(上記「(7-3)」参照)が、それぞれ示されているが、引用例3及び7のいずれにも散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、上記「4.2.2」で本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明9は引用例1〜3及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 4.2.8 申立理由(8)について 本件発明10は、本件発明1〜9のいずれかにおいて、「偏光特性および及び複屈折特性が中央対称性を有する」ものに限定した発明である。 一方、引用例6には、合成石英ガラスの仮想温度の分布及びOH濃度の分布を中央対称とすることにより屈折率変動を互いに打ち消し、結果として屈折率分布が均一になるようになしたものが示されているが、散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、上記「4.2.2」で本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明10は引用例1,2及び6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 4.2.9 申立理由(9)について 本件発明13は、所定の工程を経て製造される「構造決定温度が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上の石英ガラスの製造方法」の発明であり、また、本件発明14は本件発明13をさらに限定した発明である。 一方、上記引用例7には、石英ガラス成形部材をエキシマレーザー用の光学部材として用いるには「歪みは5nm/cm以下」に抑える必要があること(上記「(7-1)」参照)、及び、屈折率分布を均一にするためには処理する石英ガラス成形部材全体の仮想温度を均一にする必要があり(上記「(7-2)」参照)、実施例では「複屈折は2nm/cm以下」のものが得られたこと(上記「(7-3)」参照)が示されているが、散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、上記「4.2.2」で本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明13及び14は、引用例1,2及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 4.2.10 申立理由(10)について 本件発明15は、本件発明13において、石英ガラスインゴットを得る工程と該インゴットを予備アニールする工程とをさらに含む発明である。 しかしながら、本件発明13が上記引用例1,2及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないことは既に上記「4.2.9」で述べたとおりであるから、本件発明15は、少なくとも上記引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 4.2.11 申立理由(11)について 本件発明16は、本件発明14又は15において、火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比を限定した発明である。 一方、上記引用例8には、ベルヌイ炉を用いて石英ガラスを製造するに際し、バーナに供給するH2/O2を2.2〜2.3とするとKrFエキシマレーザに対し200mJ/cm2のエネルギー密度に耐えることが示されているが、散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、上記「4.2.2」で本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明16は、引用例1,2及び8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 4.2.12 申立理由(12)について 申立人1の申立理由(12)の具体的理由は、以下の(a)〜(c)のとおりである。 (a)本件特許の請求項1に規定されている構造決定温度は、その発明の属する分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 すなわち、本件特許では構造決定温度という独自の用語を新設しているが、その決定方法は詳らかでない。本件特許明細書の【0019】には、構造決定温度をラマン線の606cm-1の強度と800cm-1の強度比からもとめたとしているものの、その強度比自体のデータがない上に、換算式の記載がないために、第3者がこれを追試して構造決定温度を測定することができない。この構造決定温度は、請求項1以外にも全ての請求項に引用され構成要件となっているので、明細書の記載不備のゆえに当業者が実施することができない。 したがって、本件特許は明細書の記載が特許法第36条第4項の規定に違反するものに対してなされたものである。 (b)請求項10には、本件石英ガラスの偏光特性および複屈折特性が中央対称性を有することを規定しているが、この偏光特性が何を意味するか明確でない。 発明の詳細な説明にも偏光特性とは何であるかの説明は皆無である。 したがって、請求項10及びこれを引用する請求項11及び12は特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。 (c)請求項1から16を通じて、その構成は単にステッパー用石英ガラスとして望まれる物性を掲記したのみであり、いかにすればそのような物性のガラスが得られるかは何ら具体的に示されていない。 ゆえに当業者がこれを実施しようとしても追試することができないので、本件特許は特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものである。 そこで先ず上記(a)の点について検討する。 本件特許明細書には、 (i)「ここでいう「構造決定温度」とは、石英ガラスの構造安定性を表すパラメータとして導入されたファクターであり、以下に詳細に説明する。室温での石英ガラスの密度揺らぎ、すなわち構造安定性は、高温で融液状態にある石英ガラスの密度、構造が冷却過程においてガラス転移点付近で凍結されたときの密度、構造によって決定される。すなわち、密度、構造が凍結されたときの温度に相当する熱力学的密度、構造が室温下でも保存されるのである。その密度、構造が凍結されたときの温度を、本発明では「構造決定温度」と定義する。」(段落【0016】、特許公報6欄19〜28行)、 (ii)「構造決定温度は以下のように求めることができる。まず、図1に示すような管状炉中で複数の石英ガラス試験片を空気中で1073K〜1700Kの範囲の複数の温度でそれぞれ、その温度における構造緩和時間(その温度において石英ガラスの構造が緩和されるに要する時間)以上の期間保持することによって、各試験片の構造をその保持温度における構造に到達させる。これにより、各試験片は保持温度での熱平衡状態にある構造を有することになる。図1中・・(中略)・・である。」(段落【0017】、同公報6欄29〜39行)、 (iii)「次に、各試験片を水ではなく、液体窒素に0.2秒以内に投入して急冷を実施する。水への投入では急冷が十分ではなく、そのため冷却過程で構造緩和が生じ、保持温度での構造を固定できない。さらに、水と石英ガラスとの反応による悪影響も考えられる。本発明では、各試験片を液体窒素へ投入することにより、水の場合より超急冷を達成することができ、この操作により、各試験片の構造を保持温度の構造に固定することが可能になった。そのようにしてはじめて、構造決定温度を保持温度と一致させることができる。」(段落【0018】、同公報6欄40〜49行)、 (iv)「このようにして作製した、いろいろな構造決定温度(ここでは保持温度に等しい)をもつ試験片についてラマン散乱測定を行い、606cm-1線強度を800cm-1線強度に対する比として求めて、606cm-1線強度に対する構造決定温度を変数にしたグラフを作成して、これを検量線とする。この検量線に基づいて、構造決定温度が未知である試験片の構造決定温度をその606cm-1線強度測定値から逆算することができる。本発明では、構造決定温度が未知の石英ガラスについて、以上のようにして求めた温度をその石英ガラスの構造決定温度とした。」(段落【0019】、同公報6欄50行〜7欄9行)、 との記載があり、構造決定温度の定義(上記(i)参照)とともに、どのようにして構造決定温度と保持温度とを一致させるか(上記(ii)及び(iii)参照)及びこの構造決定温度と保持温度とを一致させた試料からどのようにして検量線を作製し、どのように構造決定温度が未知の試料の構造決定温度を求めるか(上記(iv)参照)が明確に示されている。 上記(i)〜(iv)には、何ら技術常識に反する記載はないし、かかる記載に基いて当業者であれば容易に追試をすることが可能であると認められるから、本件特許明細書の実施例ないしは比較例における各試料の具体的なラマン線のスペクトル強度が示されていないからといって、直ちに構造決定温度の決定方法が不明であるとか、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとすることはできない。 次に、上記(b)の点について検討する。 本件特許明細書には「偏光特性」の具体的内容については何も説明されてはいないが、光学の技術分野においては「偏光特性」そのものの技術的意味ないしは具体的な「偏光特性」の測定方法は周知のものであるし、本件特許明細書の記載を以ってしては「偏光特性」の測定ができないとする何らの根拠も存在しないから、本件特許明細書に「偏光特性」の具体的内容が何も記載されていないからといって、本件発明10〜12は特許を受けようとする発明が明確でないとすることはできない。 次に(c)の点について検討する。 本件特許明細書の段落【0066】〜【0072】には、本件特許で用いる石英ガラス製造装置(【図9】参照)、この石英ガラス製造装置のバーナーの構造(【図10】参照)、アニール炉の構造(【図11】参照)だけでなく、バーナー各部の寸法(段落【0068】参照)、各ガスの流量、インゴットの成長速度や大きさ(【表1】参照)、具体的なアニール条件及び各種物性の測定値(【表2】及び【表3】参照)等も明示されており、これらの記載からして当業者であれば容易に追試できるものと認められるし、他に追試できないとする具体的な証拠もないから、申立人1の上記(c)の主張は理由がなく、採用できない。 4.3 申立人2の申立理由について 4.3.1 申立理由(1)について 上記「4.2.1」で述べたように、本件発明1と引用例1に記載の発明とでは少なくともOH基含有量において相違している。 さらに、上記引用例1には、石英ガラス中のOH基濃度を所定数値範囲とするのみでなく、「仮想温度を800〜1000℃でかつ均一性Δnを1×10-5以下」(上記「(1-1)」参照)とすることにより、「レーザ照射による劣化及び球面収差のいずれもが低減し得る」(上記[(1-5)」参照)ことが示されてはいるが、光散乱に基づく光の損失量(散乱損失量)を示唆する記載はない。 一方、上記引用例13にはレーリー散乱係数αSCを求める式が、引用例14には、石英ガラス中のOH濃度を「1000ppm以上」とするとエキシマレーザーによる吸収帯の出現や650nmの赤色発光を防止することができることが、上記引用例22には仮想温度ないしは構造温度に関する定義が、また、上記引用例23には溶融シリカの温度と平衡密度に達するまでの時間との関係が、それぞれ示されているが、上記引用例13,14,22及び23のいずれにも石英ガラスの散乱損失量を低下させることを示唆する記載はない。 してみると、引用例1にはOH基濃度を「1000ppm以上」となすことの問題点が示されているおり、しかも、上記引用例13,14,22及び23のいずれにも石英ガラスの散乱損失量を低下させることを示唆する記載がない以上、散乱損失量を低減させる目的でOH基濃度を「1000ppm以上」となすと共に構造決定温度を「1200K以下」となすことが当業者にとり容易であるとすることはできない。 したがって、本件発明1は、引用例22及び23の記載を参照しても、引用例1,13及び14に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 また、本件発明11は請求項1〜10のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む「光学部材」の発明であり、本件発明12は請求項1〜10のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む光学部材を備える「露光装置」の発明であるから、少なくとも本件発明1について述べたと同様の理由で、本件発明11及び12は、引用例22及び23の記載を参照しても、引用例1,13及び14に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 4.3.2 申立理由(2)について 本件発明2は、本件発明1についてフッ素濃度を限定した発明である。 一方、上記引用例15には、合成石英ガラス中にフッ素を含有させると光エネルギ紫外領域においても実質的に欠陥吸収がなくなることが示されているが、散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、本件発明2は、上記「4.3.1」で本件発明1について述べたと同様の理由で、引用例22及び23の記載を参照しても、引用例1及び13〜15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 4.3.3 申立理由(3)について 本件発明3は、本件発明1又は2において、ArFエキシマレーザに対する散乱損失量を限定した発明である。 したがって、本件発明3は、上記「4.3.1」で本件発明1について述べたと同様の理由で、引用例22及び23の記載を参照しても、引用例1,13及び14に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 4.3.4 申立理由(4)について 本件発明4は、本件発明1〜3のいずれかにおいて「散乱損失特性が中央対称性を有する」ものに限定した発明である。 一方、上記引用例16には、合成石英ガラスの仮想温度の分布及びOH濃度の分布を中央対称(軸対称)とすることにより屈折率変動を互いに打ち消し、結果として屈折率分布が均一になるようになしたものが示されてはいるが、散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、本件発明4は、上記「4.3.1」で本件発明1について述べたと同様の理由で、引用例22及び23の記載を参照しても、引用例1,13,14及び16に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 4.3.5 申立理由(5)について 本件発明5は、本件発明1〜4のいずれかにおいて、ArFエキシマレーザに対する内部吸収率について限定を加えた発明であり、また、本件発明6は、本件発明1〜5のいずれかにおいて、ArFエキシマレーザに対する内部透過率について限定を加えた発明であり、本件発明7は、所定エネルギーのKrFエキシマレーザを所定パルス照射した後の内部透過率を限定した発明であり、さらに、本件発明8は、本件発明1〜7において、所定エネルギーのArFエキシマレーザを所定パルス数の射した後の内部透過率を限定した発明である。 一方、上記引用例17にはレーザー光学系部材中に所定濃度の水素ガスとOH基を含有させると、エキシマレーザー光を照射した場合においても透過率の低下や屈折率分布の変動が生じないことが示され、さらに、上記引用例18には内部透過率が99.7%以上の紫外線レーザー用光学部材が示されてはいるが、引用例17及び18には散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、本件発明5〜8は、上記「4.3.1」で本件発明1について述べたと同様の理由で、引用例22及び23の記載を参照しても、引用例1,13,14,17及び18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 4.3.6 申立理由(6)について 本件発明9は、本件発明1〜8のいずれかにおいて、複屈折量について限定した発明であり、また、本件発明10は、本件発明1〜9のいずれかにおいて、「偏光特性および及び複屈折特性が中央対称性を有する」ものに限定した発明である。 一方、上記引用例19には、光学ガラスの微視的欠点にレーリー散乱と呼ばれる光散乱と歪みがあり、歪みは1nm/cm以下にする必要があることが、さらに、上記引用例24には、複屈折の大きさと歪みとの関係が、それぞれ示されているが、引用例19及び24のいずれにも散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、本件発明9及び10は上記「4.3.1」で本件発明1について述べたと同様の理由で、引用例22〜24の記載を参照しても、引用例1,13,14及び19に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 4.3.7 申立理由(7)について 本件発明13は、所定の工程を経て製造される「構造決定温度が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上の石英ガラスの製造方法」の発明であり、また、本件発明14は本件発明13をさらに限定した発明である。 一方、上記引用例20には、同一の石英ガラスを種々の熱処理条件下で熱処理したものを所定の条件で再熱処理することにより歪み量が0.4〜0.7nm/cmのものが得られたことが、さらに、上記引用例24には複屈折の大きさと歪みとの関係が、それぞれ示されているが、引用例20及び24のいずれにも散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、本件発明13及び14は、上記「4.3.1」で本件発明1について述べたと同様の理由で、引用例22〜24の記載を参照しても、引用例1,13,14及び20に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 4.3.8 申立理由(8)について 本件発明16は、本件発明14又は15において、火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比を限定した発明である。 一方、上記21には、ベルヌイ炉を用いて石英ガラスを製造するに際し、バーナに供給するH2/O2を2.2〜2.3とするとKrFエキシマレーザに対し200mJ/cm2のエネルギー密度に耐えることが、さらに、上記引用例24には複屈折の大きさと歪みとの関係が、それぞれ示されているが、引用例20及び24のいずれにも散乱損失量を低減させることを示唆する記載はないから、本件発明16は、上記「4.3.1」で本件発明1について述べたと同様の理由で、引用例22〜24の記載を参照しても、引用例1,13,14,20及び21に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。 V.むすび 以上のとおりであるから、申立人1及び2の特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜16に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 光リソグラフィー用石英ガラス、それを含む光学部材、それを用いた露光装置、並びにその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光リソグラフィー用石英ガラスであって、構造決定温度すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上であることを特徴とする石英ガラス。 【請求項2】 フッ素濃度が300ppm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の石英ガラス。 【請求項3】 ArFエキシマレーザに対する散乱損失量が0.2%/cm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の石英ガラス。 【請求項4】 前記石英ガラスの散乱損失特性が中央対称性を有することを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項5】 厚さ10mmの前記石英ガラスにおけるArFエキシマレーザに対する内部吸収率が0.2%/cm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項6】 厚さ10mmの前記石英ガラスにおけるArFエキシマレーザに対する内部透過率が99.6%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項7】 KrFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度400mJ/cm2で1×106パルス照射した後の、厚さ10mmの前記石英ガラスにおける波長248nmの光に対する内部透過率が99.5%を超えることを特徴とする、請求項1〜6のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項8】 ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の、厚さ10mmの前記石英ガラスにおける波長193nmの光に対する内部透過率が99.5%を超えることを特徴とする、請求項1〜7のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項9】 複屈折量が2nm/cm以下であることを特徴とする、請求項1〜8のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項10】 前記石英ガラスの偏光特性及び複屈折特性が中央対称性を有することを特徴とする、請求項1〜9のうちのいずれかに記載の石英ガラス。 【請求項11】 請求項1〜10のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含むことを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材。 【請求項12】 請求項1〜10のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置。 【請求項13】 OH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とする、構造決定温度が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスの製造方法。 【請求項14】 ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめてOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを得る工程を更に含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。 【請求項15】 ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめてOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを得る工程と、 該石英ガラスインゴットを少なくとも1373Kの温度から1073K以下の温度までの間50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットを予備アニーリングする工程と を更に含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。 【請求項16】 前記火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比が0.4以上であることを特徴とする、請求項14又は15に記載の方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、光リソグラフィー用石英ガラス、それを含む光学部材、それを用いた露光装置、並びにその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、光リソグラフィー技術において400nm以下、好ましくは300nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラス、レンズやミラー等の光学部材、及び露光装置、並びにその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 近年において、VLSIは、ますます高集積化、高機能化され、論理VLSIの分野ではチップ上により大きなシステムが盛り込まれるシステムオンチップ化が進行している。これに伴い、その基板となるシリコン等のウエハ上において、微細加工化及び高集積化が要求されている。シリコン等のウエハ上に集積回路の微細パターンを露光・転写する光リソグラフィー技術においては、ステッパと呼ばれる露光装置が用いられている。 【0003】 VLSIの中でDRAMを例に挙げれば、LSIからVLSIへと展開されて1K→256K→1M→4M→16M→64Mと容量が増大してゆくにつれ、それぞれ10μm→2μm→1μm→0.8μm→0.5μm→0.3μmといった微細な加工線幅に対応できるステッパが要求される。 このため、ステッパの投影レンズには、高い解像度と深い焦点深度が要求されている。この解像度と焦点深度は、露光に使う光の波長とレンズのN.A.(開口数)によって決まる。 【0004】 細かいパターンほど回折光の角度が大きくなり、レンズのN.A.が大きくなければ回折光を取り込めなくなる。また、露光波長λが短いほど同じパターンでの回折光の角度は小さくなり、従ってN.A.は小さくてよいことになる。 解像度と焦点深度は、次式のように表される。 解像度=k1・λ/N.A. 焦点深度=k2・λ/N.A.2 (但し、k1、k2は比例定数である) 解像度を向上させるためには、N.A.を大きくするか、λを短くするかのどちらかであるが、上式からも明らかなように、λを短くするほうが深度の点で有利である。このような観点から、光源の波長は、g線(g-line)(436nm)からi線(i-line)(365nm)へ、さらにKrF(248nm)やArF(193nm)エキシマレーザビームヘと短波長化が進められている。 【0005】 また、ステッパに搭載される光学系は、多数のレンズ等の光学部材の組み合わせにより構成されており、たとえレンズ一枚当たりの透過損失が小さくとも、それが使用レンズ枚数分だけ積算されてしまい、照射面での光量の低下につながるため、光学部材に対して高透過率化が要求されている。 そのため、400nmよりも短い波長帯域の光を使用するステッパにおいては、短波長化及び光学部材の組み合わせによる透過損失を考慮した特殊な製法の光学ガラスを用いる。さらに300nm以下の光を使用するステッパにおいては、合成石英ガラスやCaF2(蛍石)等のフッ化物単結晶を用いることが提案されている。 【0006】 内部透過率の具体的な測定方法としては、例えばJOGIS17-1982光学ガラスの内部透過率の測定方法がある。ここで、内部透過率は次の式によって求める。 【0007】 【数1】 ![]() 【0008】 上式中、τは厚さ10mmのときのガラスの内部透過率であり、dは試料の厚みの差であり、T1,T2はそれぞれ試料厚さが3mm,10mmのガラスの反射損失を含む分光透過率である。 【0009】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、本発明者らは、このようにして内部透過率が規定された従来の石英ガラスからなる光学部材においては、スペック的にはある程度の解像度が保証されているにもかかわらず、像のコントラストが悪く、充分に鮮明な像が得られるには至っていないことを見出した。 【0010】 ここでコントラストとは、次式にて定義される。 【0011】 【数2】 ![]() 【0012】 上式中、Imaxはウエハ面上の光強度の最大値であり、Iminはウエハ面上の光強度の最小値である。 本発明は、上述のような従来技術の欠点を解決し、コントラストが良好で、充分に微細且つ鮮明な露光・転写パターンを実現できる光リソグラフィー用石英ガラス及び光学部材を提供することを目的とする。 【0013】 【課題を解決するための手段】 そこで、本発明者らは、光リソグラフィー技術等に使用される石英ガラス(光学部材)の透過損失のうち、像のコントラストを低下させる原因について研究した結果、透過損失の主な原因は石英ガラスにおける光吸収のみならず光散乱も原因であり、かかる光散乱に基づく光の損失量(散乱損失量)はOH基を一定量以上含有する石英ガラスにおいて構造決定温度を一定水準以下に低下させることによって充分に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0014】 本発明の石英ガラスは、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光リソグラフィー用石英ガラスであって、構造決定温度が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上であることを特徴とするものである。 また、本発明の光学部材は、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材であって、前記本発明の石英ガラスを含むことを特徴とするものである。 【0015】 さらに、本発明の露光装置は、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置であって、前記本発明の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とするものである。 さらにまた、本発明の石英ガラスの製造方法は、OH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とし、構造決定温度が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスを製造可能な方法である。 【0016】 ここでいう「構造決定温度」とは、石英ガラスの構造安定性を表すパラメータとして導入されたファクターであり、以下に詳細に説明する。 室温での石英ガラスの密度揺らぎ、すなわち構造安定性は、高温で融液状態にある石英ガラスの密度、構造が冷却過程においてガラス転移点付近で凍結されたときの密度、構造によって決定される。すなわち、密度、構造が凍結されたときの温度に相当する熱力学的密度、構造が室温下でも保存されるのである。その密度、構造が凍結されたときの温度を、本発明では「構造決定温度」と定義する。 【0017】 構造決定温度は以下のように求めることができる。まず、図1に示すような管状炉中で複数の石英ガラス試験片を空気中で1073K〜1700Kの範囲の複数の温度でそれぞれ、その温度における構造緩和時間(その温度において石英ガラスの構造が緩和されるに要する時間)以上の期間保持することによって、各試験片の構造をその保持温度における構造に到達させる。これにより、各試験片は保持温度での熱平衡状態にある構造を有することになる。図1中、101は試験片、102は石英ガラス管、103はヒーター、104は熱電対、105はビーカー、106は液体窒素である。 【0018】 次に、各試験片を水ではなく、液体窒素に0.2秒以内に投入して急冷を実施する水への投入では急冷が十分ではなく、そのため冷却過程で構造緩和が生じ、保持温度での構造を固定できない。さらに、水と石英ガラスとの反応による悪影響も考えられる。本発明では、各試験片を液体窒素へ投入することにより、水の場合より超急冷を達成することができ、この操作により、各試験片の構造を保持温度の構造に固定することが可能になった。そのようにしてはじめて、構造決定温度を保持温度と一致させることができる。 【0019】 このようにして作製した、いろいろな構造決定温度(ここでは保持温度に等しい)をもつ試験片についてラマン散乱測定を行い、606cm-1線強度を800cm-1線強度に対する比として求めて、606cm-1線強度に対する構造決定温度を変数にしたグラフを作成して、これを検量線とする。この検量線に基づいて、構造決定温度が未知である試験片の構造決定温度をその606cm-1線強度測定値から逆算することができる。本発明では、構造決定温度が未知の石英ガラスについて、以上のようにして求めた温度をその石英ガラスの構造決定温度とした。 【0020】 【発明の実施の形態】 先ず、本発明の石英ガラスについて説明する。 本発明の石英ガラスは、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光リソグラフィー用石英ガラスであって、構造決定温度が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上、好ましくは1000〜1300ppm、であることを特徴とするものである。 【0021】 このようにOH基濃度が1000ppm以上としかつ構造決定温度を1200K以下にすることで、ArFエキシマレーザに対する散乱損失量が0.2%/cm以下であるという、従来は達成することができなかった低散乱損失量の石英ガラスを得ることができ、それによって散乱光に起因するフレアやゴーストによるコントラストの低下が充分に抑制される。 【0022】 一般的に、物質中に入射した光エネルギーは散乱現象を生ずる。散乱現象は、レーリー散乱、ブリリアン散乱等の弾性散乱やラマン散乱等の非弾性散乱に大別できる。特に、光学部材中の散乱強度が高いと、その散乱光はフレアやゴーストとなり像のコントラストを低下させ、光学性能を低下させる原因となる。 もっとも、光散乱は、光吸収による光学部材の形状や屈折率の変化による解像力の低下に比べて、その影響が充分に小さく、実用上は無視できる値であると考えられていた。実際、可視域の光を用いる光学機器においては、透過損失の主な原因は光吸収であり、その光吸収を一定以下に設定することにより、所望の解像度を満たし、像のコントラストの良好なものが得られる。 【0023】 しかしながら、本発明者らは、入射光の波長が短波長化するにしたがって光散乱は無視できなくなり、特に光リソグラフィー用の投影レンズなどの従来の光学部材においては、散乱光によるフレアやゴーストにより鮮明な像が得られなくなることを見い出したのである。 構造安定性のパラメータである構造決定温度が1200K以下である石英ガラス、すなわち理想に近い構造を持つ石英ガラス、に1000ppm以上のOH基が導入された石英ガラスにおいてArFエキシマレーザに対する散乱損失が著しく抑制される機構は必ずしも明確でないが、本発明者らは以下のように考える。なお、本発明の石英ガラスの構造決定温度は、たとえば光ファイバの構造決定温度である約1450Kと比較して非常に低い。 【0024】 構造決定温度が高い石英ガラスは構造的には不安定であると考えられる。すなわち、石英ガラスネットワーク中の≡Si-O-Si≡結合角はガラスであるがゆえにある分布を持っており、この結合角分布の中には構造的に不安定なものが含まれている。この結合角分布は石英ガラス中の酸素原子と硅素原子とで作られる四面体どうしが架橋しており、従って歪んだ状態の四面体が存在していることに起因していると考えられる。このような歪んだ結合部分は、紫外線の照射により容易に切断され、有害なE’センターやNBOHCなどの欠陥を発生させてしまうものと考えられる。これに対して、構造決定温度が低い石英ガラスにおいては、かかる歪んだ結合部分が非常に少ないと考えられる。 【0025】 そして、上記範囲内のOH基を含有する石英ガラスは、それ以外の石英ガラスに比較して構造的に安定しており、構造決定温度がより低下する傾向にある。 その詳細な理由は以下の通りである。前述のように、石英ガラスネットワーク中の≡Si-O-Si≡結合角はガラスであるがゆえにある分布を持っており、構造的に不安定な歪んだ結合部分が含まれている。しかしながら、上記範囲内のOH基が含有されると不安定な結合角をとってまで架橋する必要が無くなるため、四面体が最安定構造に近づくことができる。従って、上記範囲内のOH基を含有する石英ガラスは、それ以外の石英ガラスに比較して構造的に安定しており、また、構造決定温度がより低下する傾向にある。 【0026】 従って、OH基濃度が1000ppm以上でかつ構造決定温度が1200K以下である本発明の石英ガラスにおいては、それらの相乗効果によって、ArFエキシマレーザに対する散乱損失量が0.2%/cm以下であるということが達成される。 本発明の石英ガラスにおいては、フッ素濃度が300ppm以上であることが好ましい。フッ素濃度が300ppm以上であると、同一のアニール条件下で構造決定温度がより低下する傾向にあるからである。 【0027】 さらに、光散乱と光吸収のトータル量すなわち透過損失量は、レチクルやウエハ上の光量に影響し、照度低下によるスループットの低下などに影響を及ぼす。特に、光リソグラフィー光学系は、解像度を極限まで高めているため、各種波面収差の補正のためレンズ枚数が多く、光路長が長い。そのため微小な透過損失量(散乱損失量+吸収損失量)も影響する。例えば、1mの光路長では、透過損失量が0.2%/cmの場合でも、全透過損失量は、約18%にも及ぶ。 【0028】 従って、本発明の石英ガラスにおいては、厚さ10mmの前記石英ガラスにおけるArFエキシマレーザに対する内部吸収率が0.2%/cm以下であることが好ましい。かかる光吸収が解像度を低下させる原因であることは下記の通りである。すなわち、光吸収とは、光学部材に入射した光子エネルギーによる電子遷移に起因する現象である。光学部材において光吸収が起こると、そのエネルギーは主に熱エネルギーに変換され、光学部材が膨張したり、屈折率や面状態が変化し、結果として高解像度が得られなくなる。さらに、光吸収は、電子状態の変化を伴い、その緩和過程で入射光より長い波長の光が蛍光として放出される。その蛍光の波長が露光波長と近く、その強度が高ければ、像のコントラストを著しく低下させる。したがって、コントラストが良好で微細且つ鮮明な像を得るためには、散乱損失量とともに、吸収損失量についても規定することが望ましい。 【0029】 また、石英ガラスの耐紫外線性を悪化させる要因として、≡Si-Si≡、≡Si-O-O-Si≡、溶存酸素分子等が知られている。これらの前駆体は、エキシマレーザなどの紫外線照射によって容易にE’センターやNBOHCなどの構造欠陥に変換されてしまい、透過率の低下の原因となる。本発明の石英ガラスにおいては、そのような化学量論比からのずれに起因する不完全構造が存在しないことが好ましい。例えば、上記範囲内のOH基が含有されると、酸素欠乏型欠陥吸収帯(7.6、5.0eV吸収帯)を実質的に含まない傾向にある。また、本発明の石英ガラスが5×1016molecules/cm3以上の水素分子を含有する場合には、ArFエキシマレーザをワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1x106パルス照射したとき、酸素過剰型欠陥吸収帯(4.8eV吸収帯)が実質的に生成しない。これらの欠陥が存在しないことにより、真空紫外・紫外・可視・赤外分光光度計による透過率測定では、g線(436nm)〜i線(365nm)及びKrFエキシマレーザビーム(248nm)の波長の光に対しては内部透過率(厚さ10mmの石英ガラス)が99.9%以上、ArFエキシマレーザビーム(193nm)の波長の光に対しては内部透過率(厚さ10mmの石英ガラス)が99.6%以上の高透過率が達成されるようになる。また、KrFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度400mJ/cm2で1×106パルス照射した後の、厚さ10mmの前記石英ガラスにおける波長248nmの光に対する内部透過率が99.5%を超え、他方、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の厚さ10mmの前記石英ガラスにおける波長193nmの光に対する内部透過率が99.5%を超えることとなる。 【0030】 また本発明の石英ガラスにおいては、構造決定温度分布が部材内で中央対称性を有する方が、散乱損失特性(散乱強度)も中央対称性を有することになるため望ましい。これは、レンズ調整時、フレアやゴーストの原因となるレンズ部品を特定し易くし、光学調整が容易となる。さらに、結像面上でのコントラストのバラツキを抑えることができる。さらに、本発明の石英ガラスにおいては、複屈折量が2nm/cm以下であることが好ましく、偏光特性及び複屈折特性が中央対称性を有することが好ましい。 【0031】 本発明の石英ガラスにおいては、塩素濃度が50ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。塩素濃度が50PPmを超えると、石英ガラス中のOH基濃度を1000PPm以上に維持することが困難となる傾向にあるからである。 さらに、含有金属不純物(Mg,Ca,Ti,Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Co,Mn,Na,K)濃度がそれぞれ50ppb以下、より好ましくは20ppb以下という高純度の石英ガラスを用いることが好ましい。これにより、前述の構造欠陥が減って理想に近い構造となり、さらに金属不純物による屈折率変化、面変化、透過率劣化がより少なくなり、耐紫外線性が向上する傾向にある。 【0032】 次に、本発明の光学部材並びに露光装置について説明する。本発明の光学部材は、構造決定温度が1200K以下でかつOH基濃度が1000ppm以上である前記本発明の石英ガラスを含むものである。かかる本発明の光学部材は、上記石英ガラスを含むこと以外は特に制限されず、400nm以下の波長帯域の光と共に使用されるレンズ、プリズムなどの光学部材である。また、本発明の光学部材はブランクも包含する。さらに、上記本発明の石英ガラスを本発明の光学部材に加工する方法も特に制限されず、通常の切削法、研磨法等が適宜採用される。 【0033】 本発明の光学部材は、前述のようにArFエキシマレーザビームのような短波長の光に対する散乱損失量が非常に小さい石英ガラスを備えているため、従来の光学部材に比べて散乱光の発生が抑制され、高い解像力を奏する。従って、本発明の石英ガラスは、特にArFステッパーの投影系レンズのような0.25μm以下という高い解像力が要求される光学部材に好適に適用される。また、本発明の石英ガラスは、ステッパーの投影系レンズのみならず照明系レンズ等にも有用である。 【0034】 本発明の露光装置は、かかる本発明の石英ガラスを含む光学部材を備え、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用するものであり、上記石英ガラスを投影系レンズ、照明系レンズなどとして含むこと、及び400nm以下の波長帯域の光を発する光源を備えること以外は特に制限されない。本発明の露光装置は、前述のようにArFエキシマレーザビームのような短波長の光に対する散乱損失量が非常に小さい石英ガラス製の光学部材を備えているため、従来の露光装置に比べてフレアやゴーストによる像のコントラストの低下が充分に防止され、高解像力が達成される。 【0035】 本発明者らは、上記の光学部材を使用する場合について光学シミュレーションや結像性能評価実験を行なったところ、フレアやゴーストの影響が実質上なく、光量の低下についても性能上問題ない露光装置(光リソグラフィー装置)を提供できることを見い出した。そしてこの知見をもとに、本発明の光学部材を用いて構成された光学系において、線幅0.25μm以下の微細かつ鮮明な露光・転写パターンを得た。 【0036】 このように、本発明者らは、光リソグラフィー技術において微細かつ鮮明な露光・転写パターンを得ることのできる光学部材の特性について鋭意研究し、その結果、投影レンズの光学性能は屈折率の均質性(Δn)やレンズ面精度、光学薄膜特性がほぼ同一の場合、透過損失量が結像性能に極めて影響が大きいこと、また、さらに重要なことに、その透過損失を光吸収と光散乱に分離して精密に評価しないとその光学性能を正確に予測できないことを見い出した。なぜならば、光吸収はレンズ内発熱に起因する結像性能の悪化に、一方光散乱はフレアやゴーストに起因するコントラストの悪化と異なる現象を生ずる。 【0037】 ここで、光学部材における光散乱について詳細に述べる。 光学単結晶、例えば単結晶蛍石(CaF2)は、完全結晶体とみなされるため、全ての原子やイオンが5オングストローム前後の距離で規則正しく配列していて、その密度は一様であると考えられる。光の伝搬に関するハイゲンス・フレネルの原理からも、光の波面が分子(=散乱因子)にあたって無数の2次球面波を出しても、光が直進する方向の散乱光以外は干渉して打ち消しあってしまう。そのため、光学単結晶の散乱損失は、液体や非平衡状態であるガラス、プラスチックと比較して非常に小さくなり、内部に構造欠陥や微粒子等が実用上存在しない場合は、その散乱損失量は無視し得ると考えられる。 【0038】 しかし、ガラスは製法上溶融物を急冷するため溶融時の原子配列がある程度凍結されるため、巨視的性質は固体であるが、微視的には液体の構造をもつ。そのため、液体同様分子の分布は結晶のような規則性をもたず、熱運動をすることによる統計熱力学的なゆらぎを持つため、光散乱があると考えられている。このような光散乱はレーリー散乱と呼ばれているものである。 【0039】 レーリー散乱は、散乱強度が波長λの4乗に反比例する。このため、短波長域で使用される光学機器においては、光学部材のレーリー散乱が光学性能に影響を及ぼす。特に、光リソグラフィー用投影レンズ等のように超微細な解像度が要求される光学機器では、透過損失や散乱光によるフレアやゴーストが問題となる。 ガラスの散乱損失量は、次式により算出することができる。 【0040】 【数3】 ![]() 【0041】 上式中、sは散乱損失係数(/cm)、Pはポッケルス係数:0.27、Tsは構造決定温度(K)、βTは等温圧縮率:7×10-12cm/dyn、ρは密度:2.201(g/cm3)、λは波長(cm)、kはボルツマン定数:1.38×10-16(erg/K)、nは屈折率である。 例えば、石英ガラスの計算を試みると、与えた物性値、波長λ=193.4nm、屈折率n=1.5603、構造決定温度Ts=1273K、での散乱損失係数はs=0.001861/cm、すなわち散乱損失量は0.1861%/cmと算出される。この様に、実際に測定される透過損失量に対し、より大きな数値が予測され、193.4nmの透過損失の原因については光吸収よりも散乱損失が主因であることを本発明者らは見出した。 【0042】 尚、ブリリアン散乱分を補正し、レーリー散乱係数の算出にはβTの項を以下の様に補正する。 【0043】 【数4】 ![]() 【0044】 上式中、v∞は高周波音速:5.92(cm/s)である。計算した結果、散乱損失量は0.1516%/cmとなる。 これより、散乱損失の理論計算値をレーリー散乱損失+ブリリアン散乱損失と定義する。尚、ブリリアン散乱損失の算出には、式(3)を使用し、βTを式(4)中に示した(v∞2)-1に入れ替えTsを室温(298K)にすることで算出できる。ブリリアン散乱はレーリー散乱に対して理論上約1/20程度と見積もられる。 【0045】 しかしながら、このようにして求めた散乱損失量は、他の散乱因子や非弾性散乱等を考慮していないため実際より低く見積もられている可能性がある。さらに、ここに示した数値は、理論式からの算出であること、使用している物性値の信頼性の問題などがあるためあくまでも推測でしかない。 そのため、実際には散乱損失量の計測が必要となる。 【0046】 ここで、散乱損失量の測定装置について詳細に説明する。 測定装置は▲1▼積分球を使用した全散乱量を測定する積分球方式(図2)及び▲2▼角度分布測定に用いられるゴニオフォトメトリー方式(図3)、▲3▼楕円鏡を用いた楕円鏡方式(図4)がある。 光源及び光学系は各方式ほぼ共通である。可視光に関しては、He-Neレーザ(632.8nm)、Ar+イオンレーザ(488nm等)等を光源として用いた実測定が用いられる。また、ArFエキシマレーザ(193.4nm)実波長に関しては、D2ランプやArFエキシマレーザを光源として用いた実測定や、Hgランプ輝線を使用して193.4nmの散乱損失量を計算式により内挿する方法が用いられる。 【0047】 サンプル形状は円柱もしくは角柱が望ましく、光入出射面は平行平面にし、他の面も表面粗さを望ましくは、RMSで5オングストローム以下にし、表面清浄度を高めておく必要がある。これは表面散乱、表面吸収の影響を防ぐためである。 本発明における光散乱、光吸収とは光学部材の内部散乱及び内部吸収を意味する。 【0048】 次に、各方式毎の検出部の説明を記す。 図2の積分球を用いる方式は、積分球内の光路部分にサンプル(被検物)を保持する。その際サンプル長は積分球内光路長より、やや長くすることが好ましい。これは、表面散乱光の積分球内への入射を防ぐためである。 また、表面反射や表面散乱光を測定系から遮断するには、平行平面部に数分のくさびを付けるか、セッティング時に光軸に対して数度傾ければ良い。また、0点校正には、サンプルなしの時の信号強度を、検量線には透過率が精密に保証されているNDフィルター等を用いる。光検出素子には、各測定波長で高感度で安定性の良いフォトダイオードやフォトマル等を使用する。 【0049】 図3はゴニオフォトメトリー方式を用い、基本的には散乱光の角度依存性を測定する装置である。この装置の構成を用いて散乱光の絶対値測定を行うには、可視光ではベンゼン等散乱損失係数のわかっている物質との相対値から算出する。紫外光では光吸収の影響の少ない稀ガス等が望ましい。 例えば、光軸に対してθ90度の相対散乱強度比較(R90比:光軸90度方向の強度)より、全散乱量は16π/3×R90で見積もることができる。この場合、散乱の角度依存性は、完全レーリー散乱であると仮定している。 【0050】 散乱光の検出部への伝送には、光ファイバーの入射部を、光軸に対してθ90度方向に設置し、検出部にはフォトダイオードアレイを用いた分光器を使用することで簡易にR90相対値を測定することができる。また、散乱光のスペクトルを確認することもできる。 図4の楕円鏡方式は主に表面散乱の測定に用いられる。この装置は、散乱測定においても相対強度を測定するには優れた構成であるが、絶対値を算出するためには複雑な補正式が必要となる等の欠点がある。 【0051】 そこで、本発明者らは、積分球方式及びゴニオフォトメトリー方式で測定した散乱実測値を用い、散乱損失による光リソグラフィー装置の光学性能例えば解像度及びコントラストヘの影響を検討した。これらの結果をもとに、光学シミュレーションや結像性能評価実験を行なった。 図5に、結像評価実験により求めた、光リソグラフィー装置の光学系における総散乱損失量とコントラストとの関係を示す。この様に両者には非常に良い相関関係が得られた。 【0052】 ここで、散乱損失量の規格値0.2%/cmは、次式により算出した数値である。 【0053】 【数5】 ![]() 【0054】 上式中、S0=必要なコントラストを得るために許容される総散乱損失量の最大値(%)、L=光学系総光路長(cm)であり、総散乱損失量=総散乱損失強度÷入射光強度×100(%)である。 すなわち、ステッパの結像性能には、吸収損失だけでなく、散乱損失も顕著に影響していることが結像評価実験により確認され、散乱損失量が0.2%/cm以下であれば、フレアやゴーストの影響が実質上なく、光量の低下についても性能上問題ないレベルであり、結像性能に影響しないことが解った。 【0055】 さらに、193.4nmの光に対する散乱損失量が0.2%/cm以下ならば、散乱損失量は波長λ4に反比例し屈折率n8に比例するため、193.4nmより長波長域の光に対しては波長が長くなるにしたがって散乱損失量は小さくなり、本発明にかかる規格は満たされる。このことは、式(3)からも、実験結果からも確認した。 【0056】 逆に、可視域、例えばHe-Neレーザ(632.8nm)、Ar+イオンレーザ(488nm等)等の波長での散乱損失量から、波長λ4反比例則及び屈折率n8比例則を用いて、193.4nmの散乱損失量を計算し、本発明にかかる規格である散乱損失量0.2%/cm以下を満たすか否かの判別も可能である。 種々の光リソグラフィー用石英ガラスの散乱損失量の実測値と、構造決定温度Tsを1273Kに想定して式(3)を用いて算出した散乱損失量の理論計算値とを比較した結果を図6に示す。この様に理論計算値に対して実測値が高い値を示し、さらに大きなバラツキを示す。193.4nmでは、このバラツキにより、従来より使用されてきた光リソグラフィー用石英ガラスであっても、本発明における散乱損失量の規格0.2%/cmを越えてしまうことがわかった。これに対して、後述する実施例から明らかなように、本発明の石英ガラスは、193.4nmの光に対してさえ0.2%/cm以下という散乱損失量を達成するものである。 【0057】 また、本発明者らは、構造決定温度Tsと散乱損失との関係を確認した。結果を図7に示す。ここでも実測値は、理論値よりやや高めとなった。これは、レーリー散乱で見積もれる以外の光散乱(例えば光学ガラスのような粒子状もしくはコロイド状の散乱因子の影響、非弾性散乱等の影響)、及び理論計算に用いた物性値の信頼性欠如に起因すると考えられる。 【0058】 また、本発明者らは、石英ガラス中のOH基、F濃度の変化やHIP処理による屈折率変化と、散乱損失との関係を確認し、その結果を図8に示す。この様に、実測値は、理論計算値よりやや高く測定された。また、散乱損失量は屈折率依存性をもつことが解った。さらに、本発明にかかる規格である散乱損失量0.2%/cm以下を満たすには、少なくとも193.4nmの光に対する屈折率が1.56未満であることが望ましいことが判明した。 【0059】 次に、本発明の石英ガラスの製造方法について説明する。 本発明の石英ガラスの製造方法においては、OH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持する。保持温度が1350Kを超える場合は、石英ガラスの表面が変質し、また、構造決定温度を1200K以下にするのに非常に長時間を要するようになる。他方、保持温度が1200K未満の場合は所定期間内に構造決定温度を1200K以下に下げることができず、またアニールが不充分となって歪がとれない。 【0060】 また、保持時間は、保持温度における構造緩和時間以上の期間であることが好ましく、特に好ましくは1〜24時間である。例えば、1300K以上の構造決定温度を有しかつOH基を1000ppm程度含有する石英ガラスでは、1273Kにおける構造緩和時間は280秒とされている。なお、昇温速度は得られる石英ガラスの物性に影響しないが、150K/hr以下程度が好ましい。 【0061】 次に、本発明の石英ガラスの製造方法においては、上記石英ガラスインゴットを、1000K以下、好ましくは873K以下、特に好ましくは473K以下、の温度(徐冷終了温度)まで50K/hr以下、好ましくは20K/hr以下の降温速度(徐冷速度)で降温することによって該インゴットをアニーリングする。徐冷終了温度が1000Kを超えている場合や、徐冷速度が50K/hrを超える場合は、構造決定温度を1200K以下に下げることができず、さらに歪も充分に除去されない。 【0062】 そして、上記徐冷終了温度に到達した後は特に制限されないが、通常は室温まで自然放冷される。本発明にかかる上記アニーリング工程における雰囲気は特に制限されず、空気でよい。また、圧力も特に制限されず、大気圧でよい。 更に、本発明の製造方法においては、上記のアニーリング工程に先立って、SiCl4、SiHCl3、SiF4のようなケイ素化合物を火炎(好ましくは酸素水素火炎)中で加水分解せしめてガラス微粒子(ガラススート)を得、そのガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめてOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを得る工程を更に含むことが好ましい。 【0063】 さらに、本発明の製造方法においては、上記の石英ガラスインゴットを少なくとも1373Kの温度から1073K以下の温度、好ましくは773K以下の温度、特に好ましくは室温、までの間50K/hr以下、好ましくは20K/hr以下、特に好ましくは10K/hr以下、の降温速度で降温することによって該インゴットを予備アニーリングする工程を更に含むことが好ましい。石英ガラスインゴットをかかる予備アニーリングすると、構造決定温度がより低下する傾向にある。 【0064】 このように、本発明にかかる石英ガラスインゴットは、上記のような直接法(direct method)すなわち酸水素火炎加水分解法(oxy-hydrogen flame hydrolysis)で製造することが好ましい。すなわち、合成石英ガラスに紫外線を照射したときに構造欠陥を発生させるような前駆体の例として≡Si-Si≡結合や≡si-O-O-Si≡結合等が知られており、いわゆるスート法(VAD法、OVD法)やプラズマ法で得られた石英ガラスにはそのような前駆体が存在する。一方、直接法で製造された合成石英ガラスには、そのような化学量論比からのずれに起因する、酸素欠乏性・過剰性の不完全構造が存在しないからである。さらに、直接法で製造された合成石英ガラスでは、含有金属不純物濃度が低い高純度が一般に達成される。 【0065】 このように塩化ケイ素を酸素水素火炎で加水分解し、生じた石英ガラス微粒子をターゲット上に堆積、溶融させて石英ガラスインゴットを形成するという、いわゆる直接法によって合成された石英ガラスは、合成直後の状態では構造決定温度が1300K以上である。 また、直接法においてOH基濃度が1000ppm以上である石英ガラスインゴットを得るためには、前記火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比(02/H2)を0.4以上、特に好ましくは0.42〜0.5にすることが好ましい。かかる比率(酸素水素ガス比率)が0.4未満の場合、得られた石英ガラスインゴット中に1000ppm以上のOH基が含有されない傾向にある。 また、本発明の製造方法においては、石英ガラスインゴットを切断して所定の寸法、好ましくは直径200〜400mm、厚さ40〜150mm、を有するブランクとした後に前記のアニーリングを施すと、前記アニーリングの効果がより効果的にかつ均一に達成される傾向にあるため好ましい。 【0066】 【実施例】 実施例1〜14及び比較例1〜10 図9に示す石英ガラス製造装置を用いて石英ガラスインゴットを製造した。すなわち、ケイ素化合物ボンベ401から供給された高純度四塩化ケイ素A(原料)(実施例1〜11、比較例1〜8)、又は四塩化ケイ素A及び四フツ化ケイ素B(原料)(実施例12〜14、比較例9〜10)をべ一キングシステム402において酸素ボンベ403から供給されたキャリアガスと混合し、水素ボンベ404から供給された水素ガスと、酸素ボンベ405から供給された酸素ガスと共に石英ガラス製バーナ406に供給した。そして、バーナ406にて表1に示す流量の酸素ガスおよび水素ガスを混合・燃焼させ、中心部から表1に示す流量の原料ガスをキャリアガス(酸素ガス)で希釈して噴出させて石英ガラス微粒子(SiO2微粒子)を得、耐火物407で包囲されたターゲット408上に石英ガラス微粒子を堆積、溶融させ、さらに表2に示す降温速度(予備アニール)で室温まで冷却し、表1に示す組成の石英ガラスインゴット409(長さ500mm)を得た。その際、インゴット409の上面(合成面)は火炎に覆われるようにし、ターゲット408を一定周期で回転及び揺動させつつ一定速度で降下させた。なお、この段階の石英ガラスの構造決定温度は1400Kであった。また、図9中の410はマスフローコントローラであり、表1中のRは酸素水素比率(O2/H2)である。 【0067】 なお、バーナ406は、図10に示すように5重管構造を有しており、501は原料及びキャリアガス噴出口、502は内側酸素ガス(OI)噴出口、503は内側水素ガス(HI)噴出口、504は外側酸素ガス(OO)噴出口、505は外側水素ガス(HO)噴出口である。また、各噴出口の寸法(mm)は以下の通りである。 【0068】 バーナA 内径 外径 501 6.0 9.0 502 12.0 15.0 503 17.0 20.0 504 3.5 6.0 505 59.0 63.0 バーナB 内径 外径 501 3.5 6.5 502 9.5 12.5 503 14.5 17.5 504 3.5 6.0 505 59.0 63.0 バーナC 内径 外径 501 2.0 5.0 502 8.5 11.5 503 14.5 17.5 504 3.5 6.0 505 59.0 63.0 次いで、得られたインゴットからArFエキシマレーザビーム照射用試験片(直径60、厚さ10mm、向かい合う2面を光学研磨してある)をそれぞれ作製した。これらを図11に示すような耐火断熱レンガ製のアニール炉の中に配置し、表2に示す昇温速度で室温から保持温度に加熱し、保持時間経過後、表2に示す徐冷速度で保持温度から徐冷終了温度に降温し、その後は室温まで自然放熱させた。なお、表2に示す冷却速度は、自然放熱開始後1時間における冷却速度である。また、図11中の601は試験片、602はアニール炉、603は石英ガラス板と耐火レンガ製脚部とからなる台、604は棒状SiC発熱体である。 【0069】 【表1】 ![]() 【0070】 【表2】 ![]() 【0071】 【表3】 ![]() 【0072】 これらの各試験片について構造決定温度(Ts)、OH基濃度、F濃度、水素分子濃度を測定した。結果を表3に示す。なお、構造決定温度は、予め作成しておいた検量線に基づいて、その606cm-1線強度測定値から逆算して求めた。また、水素分子濃度の測定はレーザラマン分光光度計により行った。すなわち、Ar+レーザビーム(出力800mW)を照射した時に発生する試料と直角方向のラマン散乱光のうち、800cm-1と4135cm-1との強度を測定し、その強度比をとることにより行なった。また、OH基濃度測定は赤外吸収分光法(1.38μmのOH基による吸収量を測定する)により行った。加えて、各試験片中の含有金属不純物(Mg,Ca,Ti,Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Co,Mn,Na,K)の定量分析を誘導結合プラズマ発光分光法によって行ったところ、濃度がそれぞれ20ppb以下であることがわかった。 【0073】 このようにして作製した各試験片について、ArFエキシマレーザ光に対する散乱損失量を測定した。得られた結果を表3に示す。表3から明らかなように、本発明の石英ガラス(実施例1〜14)は散乱損失量について所望の基準を満たすものであった。 また、図12から明らかなように、OH基濃度が1000ppm以上である場合は、構造決定温度を1200K以下とすることによって散乱損失量が顕著に低下した。 【0074】 また、実施例で得られた石英ガラスはいずれも、散乱損失特性、偏光特性及び複屈折特性が中央対称性を有するものであった。また、複屈折量は2nm/cm以下であった。 更に、実施例で得られた石英ガラスについて以下の諸特性を測定したところ、以下の結果であった。すなわち、厚さ10mmの前記石英ガラスにおけるArFエキシマレーザに対する内部吸収率は0.2%/cm以下であった。また、厚さ10mmの前記石英ガラスにおけるArFエキシマレーザに対する内部透過率は99.8%以上であった。さらに、KrFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度400mJ/cm2で1×106パルス照射した後の、厚さ10mmの前記石英ガラスにおける波長248nmの光に対する内部透過率は99.5%以上であった。さらにまた、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の、厚さ10mmの前記石英ガラスにおける波長193nmの光に対する内部透過率は99.5%以上であった。 【0075】 比較例11 保持温度を1123Kとした以外は実施例4と同様にして石英ガラス試験片を得たところ、保持されている間に構造が緩和されなかったために構造決定温度が1200K以下に下がらず、またアニーリングが充分でなかったために歪もとれなかった。 【0076】 比較例12 単に、レンズ素材特性Δn≦2×10-6、且つ 複屈折量≦2nm/cm、内部透過率99.6%以上の仕様を満たす石英ガラスでArFエキシマレーザステッパ用投影レンズを作製した。得られた解像度(L/S)は、設計L/Sの0.20μmに対して0.30μmであった。また、コントラストも悪く設計性能が得られなかった。この様な仕様による光学部材の選定だけでは、不十分であることがわかった。L/S悪化の原因は、吸収損失量もしくは散乱損失量が0.2%/cmを越えていたために光吸収によるレンズ内発熱及び光散乱によるフレアによる影響が著しいためと推測される。 【0077】 L/Sとは、line and spaceの略語で半導体製造の性能評価の指標として一般的に使用される数値である。 均質性の測定は、He-Neレーザ干渉計を用いたオイルオンプレート法、複屈折の測定は回転検光子法により行った。内部透過率は、通常の分光光度計にて測定した。 【0078】 実施例15 レンズ素材特性Δn≦2×10-6、且つ 複屈折量≦2nm/cm、且つ散乱損失量、吸収損失量ともに0.2%/cm以下である仕様を満たす本発明の石英ガラスでArFエキシマレーザステッパ用投影レンズを作製した。得られたL/Sは、設計L/Sの0.20μmに対して0.20μmであった。またコントラストも良好であった。この仕様により光学部材を選別することで、設計値に近い性能が得られた。 【0079】 均質性の測定は、He-Neレーザ干渉計を用いたオイルオンプレート法、複屈折の測定は位相変調法により行った。この際使用した石英ガラスは、193nmにおいて10mm内部透過率が99.6%を超えるものであった。 また、ArFエキシマレーザを100mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、193nmにおける10mm内部透過率は99.5%を超えていた。 【0080】 さらに、KrFエキシマレーザ特性を確認したところ400mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、248nmにおける10mm内部透過率が99.5%を超えることを確認した。 レンズ設計をKrFエキシマレーザ用にすることで、この光学部材を使用すれば、KrFエキシマレーザステッパにも使用可能である。 【0081】 この光学部材による投影レンズは、水素濃度5×1017個/cm3以上であり、中央部の方が周辺部より高い水素濃度を持つ。 この投影レンズは、256MBのVLSI製造ライン用に使用可能である。 【0082】 【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば、光散乱によるフレア、ゴーストの影響が低減されることにより、レンズ設計時の設計解像度に近い光学性能、すなわち高解像度が得られる石英ガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上記本発明の石英ガラスを含み、コントラストが良好な光学部材を提供することができる。さらに、スループットの向上にも効果がある。 【0083】 従って、本発明の石英ガラスを含む光学部材は、400nm以下の光を用いる、i-Line、ArF及びKrFエキシマレーザステッパ用投影レンズのいずれにも適用できる。そして、本発明により、光リソグラフィー装置の性能、すなわち解像度の向上及び安定化が可能になった。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明にかかる構造決定温度を測定する為の装置の一例の模式図である。 【図2】 散乱光の積分球方式測定装置の概念図である。 【図3】 散乱光のゴニオフォトメトリー方式測定装置の概念図である。 【図4】 散乱光の楕円鏡方式測定装置の概念図である。 【図5】 散乱損失量とコントラストとの関係を示すグラフである。 【図6】 波長と散乱損失との関係を示すグラフである。 【図7】 構造決定温度と散乱損失との関係を示すグラフである。 【図8】 屈折率と散乱損失との関係を示すグラフである。 【図9】 本発明にかかる石英ガラスインゴットを製造する為の装置の一例の模式図である。 【図10】 本発明にかかる石英ガラスインゴットを製造する為のバーナーの一例の底面図である。 【図11】 本発明にかかるアニール炉の一例の斜視図である。 【図12】 構造決定温度と散乱損失との関係を示すグラフである。 【符号の説明】 1…光源、2…光学系、3…光検出素子、4…測定サンプル、5…積分球、6…楕円鏡、101…試験片、102…石英ガラス管、103…ヒーター、104…熱電対、105…ビーカー、106…液体窒素、401…四塩化ケイ素ボンベ、402…べーキングシステム、403…酸素ボンベ、404…水素ボンベ、405…酸素ボンベ、406…バーナ、407…耐火物、408…ターゲット、409…インゴット、410…マスフローコントローラ、601…試験片、602…アニール炉、603…台、604…発熱体。 |
訂正の要旨 |
平成11年12月20日付けの訂正請求書における訂正の要旨は次のとおりである。 明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に「構造決定温度」(特許公報1欄3〜4行)とあるのを『構造決定温度すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」』に訂正する。 |
異議決定日 | 2000-08-23 |
出願番号 | 特願平8-808 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YA
(C03C)
P 1 651・ 113- YA (C03C) P 1 651・ 537- YA (C03C) P 1 651・ 121- YA (C03C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 前田 仁志 |
特許庁審判長 |
江藤 保子 |
特許庁審判官 |
新居田 知生 能美 知康 |
登録日 | 1998-04-17 |
登録番号 | 特許第2770224号(P2770224) |
権利者 | 株式会社ニコン |
発明の名称 | 光リソグラフィ-用石英ガラス、それを含む光学部材、 それを用いた露光装置、並びにその製造方法 |
代理人 | 鈴木 憲七 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 福井 宏司 |
代理人 | 池谷 豊 |
代理人 | 曾我 道照 |
代理人 | 望月 孜郎 |
代理人 | 渡辺 隆男 |
代理人 | 渡辺 隆男 |
代理人 | 古川 秀利 |
代理人 | 長谷 正久 |