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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1024523
異議申立番号 異議1999-72661  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-07-13 
確定日 2000-09-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第2846232号「ALCの製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2846232号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2846232号に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成5年12月28日 特許出願
平成10月10月30日 特許権の設定の登録
平成11年1月13日 特許掲載公報の発行
平成11年7月13日 特許異議の申立て
平成11年10月21日付 取消理由の通知
平成12年1月17日 意見書及び訂正請求書の提出
平成12年1月31日付 申立人への審尋
平成12年4月17日 回答書の提出
II.訂正の適否
1.訂正事項
訂正請求書による訂正事項は以下のとおりである。
訂正事項a
明細書の発明の名称「改良ポルトランドセメントおよびALCの製造方 法」を「ALCの製造方法」と訂正する。
訂正事項b
明細書の特許請求の範囲の請求項1、2を削除する。
訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2記載の改良ポルトランドセメント」とあるのを、「3CaO・SiO2 含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントのセメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上〜1.500以下であり、かつ粉末度がブレーン比表面積で3000cm2 /g〜10000cm2 /gである改良ポルトランドセメント」と訂正するとともに、「請求項3」の請求項番号を2つ繰り上げて「請求項1」にする。
訂正事項d
明細書の【0001】(特許掲載公報第2欄第7〜8行)及び【0006】(同公報第3欄第34〜35行)に「改良ポルトランドセメントと、これを用いたALCの製造方法」とあるのを、「改良ポルトランドセメントを用いたALCの製造方法」とそれぞれ訂正する。
訂正事項e
明細書の【0007】(同公報第3欄第38〜39行)に「請求項1記載の改良ポルトランドセメント」とあるのを、「ALCの製造方法」と訂正する。
訂正事項f
明細書の【0007】(同公報第3欄第40〜41行)に「ポルトランドセメントであり、セメントの粒度が」とあるのを、「ポルトランドセメントのセメントの粒度が」と訂正する。
訂正事項g
明細書の【0007】(同公報第3欄第42〜44行)の「l.100以上であることを前記課題の解決手段とした。請求項2記載の改良ポルトランドセメントでは、セメントのn値が」を削除する。
訂正事項h
明細書の【0007】(同公報第3欄第46〜48行)の「ことを前記課題の解決手段とした。請求項3記載のALCの製造方法では、前記」を削除する。
訂正事項i
明細書の【0010】(同公報第4欄第25〜30行)に「における請求項1記載の改良ポルトランドセメントによれば、セメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上であることから、該改良ポルトランドセメントを含有してなるスラリーの初期における粘度が低いものとなるとともに、中期における硬化速度が早くなり、かつ」とあるのを、「のALCの製造方法に用いられる改良ポルトランドセメントでは、」と訂正する。
訂正事項j
明細書の【0011】(同公報第4欄第38〜39行)に「請求項2記載の改良ポルトランドセメントによれば」とあるのを、「また、前記改良ポトランドセメントでは」と訂正する。
訂正事項k
明細書の【0011】(同公報第4欄第40行))に「1.500以下となるので」とあるのを、「1.500以下であるので」と訂正する。
訂正事項1
明細書の【0012】(同公報第4欄第38〜39行)に「請求項3記載のALCの製造方法によれば、請求項1又は2記載」とあるのを、「このALCの製造方法によれば、前述」と訂正する。
訂正事項m
明細書の【0014】(同公報第5欄第15行)に「本発明品である改良」とあるのを、「前記改良」と訂正する。
訂正事項n
明細書の【0015】(同公報第5欄第25〜26行)に「本発明における請求項1記載の改良ポルトランドセメントは、」とあるのを、「本発明のALCの製造方法に用いられる改良ポルトランドセメントは、」と訂正する。
訂正事項o
明細書の【0015】(同公報第5欄第27行)に「n値が1.100以上」とあるのを、「n値が1.100以上〜1.500以下」と訂正する。
訂正事項P
明細書の【0015】(同公報第6欄第4〜7行)に「請求項2記載の改良ポルトランドセメントは、セメントの粒度調整によりセメントのn値が1.100以上〜1.500以下の範囲内であるので、」とあるのを、「また、前記改良ポルトランドセメントは、」と訂正する。
訂正事頂q
明細書の【0016】(同公報第6欄第10〜11行)に「請求項3記載のALCの製造方法は、請求項1又は2記載」とあるのを、「そして、本発明のALCの製造方法は、前述」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、及び新規事項あるいは特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項bは、請求項1及び請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、上記訂正事項cは、請求項1及び請求項2の削除に伴い、それらを引用する形式で記載されていた請求項3を独立形式で記載すると共に、ポルトランドセメントを請求項2に記載されたポルトランドセメントのみに限定して請求項1に繰り上げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面において記載された事項の範囲内であり、しかも、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
さらに、上記訂正事項a及びd〜qは、上記b及びcの訂正に伴なって発明の詳細な説明の記載部分に生じた不整合な記載を訂正して、特許請求の範囲の記載との整合を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであり、願書に添付した明細書又は図面において記載された事項の範囲内であり、しかも、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
3.独立特許要件
次に、訂正明細書の請求項1に係る発明(以下「訂正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて検討する。
(1)訂正後の発明
訂正後の発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】3CaO・SiO2 含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントのセメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上〜1.500以下であり、かつ粉末度がブレーン比表面積で3000cm2 /g〜10000cm2 /gである改良ポルトランドセメントと、ケイ酸質原料粉末および石灰質原料粉末とからなる配合物に水を加え、さらに発泡剤を添加してスラリーを作製し、次いでこのスラリーを型枠に注入して発泡させ所定時間経過後に半可塑性状態で所望寸法に切断し、その後オートクレーブに入れて高温高圧で水蒸気養生することを特徴とするALCの製造方法。」
(2)当審が通知した取消理由の概要
理由1)本件請求項1、2に係る発明は、下記刊行物3及び4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである。

刊行物3:第8回セメント化学国際会議(8th International Congress on the Chemis try of Cement)1986年9月22〜27日 論文集第310〜 315頁
刊行物4:「粉体と工業」1990年5月号 33〜39頁
理由2)本件請求項1乃至3に係る発明は、下記刊行物1乃至8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである。

刊行物1:「化学辞典(普及版)」森北出版株式会社、1985年1月26 日発行、第1218頁
刊行物2:「セメントの実際知識」東洋経済新聞社、昭和55年11月10
日第6刷発行、第47〜53頁
刊行物3:第8回セメント化学国際会議(8th International Congress on the Chemis try of Cement)1986年9月22〜27日 論文第310〜3 15頁
刊行物4:「粉体と工業」1990年5月号 33〜39頁
刊行物5:「粉体と工業」1985年6月号 45〜53頁
刊行物6: 「セラミックス工学ハンドブック」技報堂出版株式会社、19 89年4月10日発行、第1110〜1111頁
刊行物7: 「セメントの実際知識」東洋経済新聞社、昭和55年11月1 0日第6刷発行、第163〜166頁
刊行物8: 「セメント技術年報X」昭和31年(1956)第156〜1 63頁
(3)各刊行物に記載された発明
刊行物1:
「ポルトランドセメント」の項には、
「日本工業規格では、JISR5210に定められており、(1)普通ポルトランドセメント、(2)早強ポルトランドセメント、(3)中庸熱ポルトランドセメント」の3種類があるo(1)は一般にもっとも多く用いられており、・・・(中略)・・・、3CaO・SiO2 48%、・・・の組成を持っている。粒度はブレーン比表面積で3000〜3500cm2 /gである。(2)は(1)より3CaO・SiO2 の量を若干増し微粉砕して早く硬化するようにしたもので、比表面積は4000〜5000cm2 /gである。(3)はケイ酸含有量を増し、アルミナを少なくして2CaO・SiO2 を増し、3CaO・Al2O3を制限し、発熱量を少なくしたものでダムなどのマスコンクリート用に用いられる。」(第1218頁右欄第4〜19行)
と記載されている。
刊行物2:
ポルトランドセメントに関し、「市販されているポルトランドセメントの種類別の代表的試料について上に述べた試験方法で品質試験をした結果を示せば表3.3のとおりである。」(第47頁下から第10〜9行)と記載されるとともに、「市販ポルトランドセメントの品質試験結果」と題する表3.3が記載されており(第51頁)、該表には、普通ポルトランドセメントの比表面積が「3,270cm2 /g」で、けい酸三石灰が「51%」であること、及び早強ポルトランドセメントの比表面積が「4,290cm2 /g」で、けい酸三石灰が「65%」であることが示されている。
刊行物3:
「セメントペーストとコンクリート水要求量に対する狭いセメント粒径の影響」(第310頁第3〜4行)と題し、
「ポルトランドセメントは通常、クリンカと石膏とを開回路あるいは閉回路で運転されるボールミルで微粉砕して製造される。それらのミルでは、特徴的な粒度分布を持ったセメントが製造される。粒子サイズ分布を表わす適当な方法は、Rosin-Rammler分布関数を用いる方法であり、この分布関数によって、一般的に、粉砕された脆性材料の粉体において、ある直線的な関係が与えられる。
ln ln(100/R)=n(lnx-lnx。)
この粒度分布は、傾きnとx。により記述することができる。nが一定の場合、xoが小さい程、粒径の小さなセメントとなる。また、nが大きくなると粒度分布の範囲が狭くなる。」(第311頁左欄第2〜16行)、
「2.セメントの性質に対する狭い粒度分布の影響 2.1運転データ 第2表には、高効率分級機を装着した300kWのミルでのセメント製造のデータが示されている。・・・(第1図のグラフと第2表の記載を省略)・・・セメントIAは、開回路ミルで製造されるセメントの典型的なものである。
一方、IBとICとは、閉回路ミルで製造されたセメントであり、それぞれセメントIAと同じ比表面積または28日コンクリート強度を有している。閉回路ミルでは、粒度分布径が狭く(1.07と比較して、n=1.23〜1.28)単位生産量当りの電力消費量も、一般的な見解と一致して、低いセメントが得られる。」(第311頁左欄下から第5行〜右欄下から第20行)
と記載され、該第2表には、セメントIA、IB、IC及びIDのn値が、それぞれ「1.07」、「1.25」、「1.28」及び「1.23」であること、セメントIA、IB、IC及びIDのSSA(m2 /kg)(すなわち、比表面積 10cm2 /g)が、それぞれ「346」、「346」、「310」及び「375」であること、及びポルトランドセメントのクリンカの中の「C3 S(すなわち、3CaO・SiO2 )が52.3%である」ことが示されている。
刊行物4:
「マイクロトラック粒度分析計を核とした自動粒度計測システムの内、特にセメント製造プロセスを例に取った乾式測定システム」(第33頁左欄第6〜9行)に関し、「8.実際の計測例」の項には、「マイクロトラックを使用したセメントサンプルの計測例を表-3、表-4および第9図に示す。」(第37頁右欄下から第5〜4行)と記載され、「ポルトランドセメントサンプルA」についてのマイクロトラックによる測定データが表-3として記載されている。(第38頁)
刊行物5:
「粉砕・分級プロセスにおける粒度測定技法と応用」 と題し、「3-4-1 粒度分布」の項には、
「ボールミルなどによる粉砕製品は、Rosin-Rammler分布((2)式)に従うことが多い。
R(x)=exp(-kxn)…………………………………(2)
ここで、R:残分
x:粒径
k,n:粒度分布定数
-lnRとxを両軸として両対数紙にプロット(RR線図;図-6)することにより、直線の傾きからnの値が求められる。nの値が大きいほど粒度分布はシャープになる。セメントの場合、開回路ボールミルではn=0.9〜1.0程度であるが、高精度分級器機を用いた閉回路ボールミルではn=1.5以上になることもある。」(第50頁右欄下から第4行〜第51頁左欄第9行)
と記載されている。
刊行物6:
ケイ酸カルシウム製品に関し、「4.1 ALC」の項には、「原料は次のような重量比で用いる。珪石(石英)50〜70%、生石灰(CaO)5〜20%、ポルトランドセメント10〜40%、セッコウ(CaSO4・2H2 O)2〜10%、金属アルミニウム0.1%以下。以上の原料は、セメントと同じような粉末度に調整し、水を加えてスラリー状態にする。十分に混合された原料スラリーは、防錆処理を行った鉄筋が組み込まれたモールドに注入される。原料スラリーは、生石灰が消化してCa(OH)2 に、またセメントが水和を開始するのと調和を保ちながら、金属アルミニウムが発生する水素ガスの発泡で、軽量な凝固体(グリーンボデー)が形成される。・・・次に脱型したグリーンボデーは、オートクレーブ内で約180℃の飽和水蒸気圧で5〜10時間処理され、」(第1110頁左欄下から第2行〜第1111頁左欄第14行)と記載されている。
刊行物7:
「(5)ALC」に関し、「原料および製造方法 石灰またはセメントと、けい酸質原料を混合したスラリーに気泡を混合してつくられる。石灰には工業用石灰をもちい、セメントにはポルトランドセメントおよび混合セメントを使用する。ALCは、補強材あらかじめセットした型わく中に原料スラリーを投入し、半硬化状態でピアノ線により所定の厚さに切断し、オートクレーブ中で180℃、10気圧で養生して製造する。」(第163頁下から第3行〜第165頁第3行)と記載されるとともに、その工程を示す図が、「図6.15 ALCの製造工程例」(第165頁)として記載されている。
刊行物8:
「(26)試製セメントの粒子組成と強サ」と題して、セメントの粒子組成と強度との関係を、様々な粒子組成のセメントを試作して調べた結果が報告されており、第163頁の要約には「同一クリンカとセッコウを用い、試験ボールミルを使用して粒度分布法則R(x)(式の記載を省略)にしたがった種々の粒子組成を有するセメント粉末を試製した。これらの試製セメントを用い、粉末度、モルタル強サを試験し、さらにセッコウの量を変えたセメントのモルタル強サ、ならびにセメントの水和熱、セメントペーストの熱てんびんによる加熱減量などを試験した。」と記載され、
「粒子組成の異なるセメントの凝結時間およびモルタルフロー値は2表に示しているとおりで、nの等しいセメントではブレーン比表面積の増加に比例し始発、凝結はすみやかとなり、比表面積の等しいセメントではnの大きいものほど遅れる傾向を示した。これは微粒子の少ないための影響と思われる。」(158頁の左欄最下行から右欄の5行)、
「以上のことから初期の強サの発現に対しては微粒部分が有効であり、長期強サの発現に対しては、とくに中間粒子量が有効であり、・・・したがってブレーン比表面積の等しいセメントでは、nの大きいものほど初期の強サが大で、かつ長期の強サ発現にすぐれているといえる。」(160頁の左欄4〜9行目)、
「(2)粉末度とモルタル強サ ブレーン比表面積のひとしいセメントではnが大きいと凝結時間は遅れ、モルタルフロー値は大となる。・・・モルタル圧縮強サはブレーン比表面積のひとしいセメントでは材齢1日ではnによる差はほとんどないが、材齢3日においてはnの大きいセメントほど強サの増進がいちじるしく、nが0.9のセメントにくらべて1.2のものは強サ2ない3割大であった。・・・nを大きくし、また適度にブレーン比表面積を大きくすると初期、長期とも強サ発現にすぐれるセメントをうることができる。」(第163頁左欄〜右欄)
と記載されている。
(4)対比・判断
本件明細書あるいは刊行物7にも記載されているように、「ポルトランドセメントと、ケイ酸質原料粉末および石灰質原料粉末とからなる配合物に水を加え、さらに発泡剤を添加してスラリーを作製し、次いでこのスラリーを型枠に注入して発泡させ所定時間経過後に半可塑性状態(半硬化状態)で所望寸法に切断し、その後オートクレーブに入れて高温高圧で水蒸気養生する、ALCの製造方法。」は、本件出願前に既に周知である。
訂正後の発明は、「3CaO・SiO2 含有量が45重最%〜70重量%のポルトランドセメントのセメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上〜1.500以下であり、かつ粉末度がブレーン比表面積で3000cm2 /g〜10000cm2 /gである改良ポルトランドセメント」を用いてALCの製造を行うことにより、明細書【0005】に記載の「スラリーの粘度を低くさせれば硬化時間が長くなり、早く硬化させれば切断可能な硬度を持続する時間が短くなる傾向があることから、粘度を低下させるため水比を大きくしても、硬化に長時間を要してしまい生産性が悪くなってしまう。また、単に早強性セメントを使用しても、硬化時間が早すぎ、切断可能な硬度を持続する時間も短くなって切断可能時間が短くなり、作業性が低下してしまう。」という、ALC(軽量気泡コンクリート)の製造方法における従来技術における課題を解決するものであって、明細書【0016】に記載の「得られたスラリーの初期の粘度が低く、しかもこのスラリーの、発砲後所定時間経過した後の硬度が十分高くなるとともに、その硬度が十分維持され、よってスラリーを型枠内に注入する際には水と原料との分離が生じることが防止され、かつ可塑性状態となりピアノ線での切断が可能となるまでの時間が短縮されるとともに、切断が可能な時間が長くなり、したがって生産性、作業性に優れたものとなる。また、特にピアノ線での切断が可能になるまでの時間が短縮されることから、スラリーを型枠に注入した後、脱型してオートクレーブに入れるまでの時間が短縮でき、よって、従来切断処理待ちの型枠を多く並べて置いていたのを、切断処理待ちの時間が少なくなることからスラリーを入れた型枠を置くための敷地を少なくすることができ、これにより工場等の敷地を今以上に有効に活用することができる」という作用効果を有するものである。
これに対し、ALCの製造方法についての記載がある刊行物6、7には、原料としてポルトランドセメントを用いる記載があるだけで、訂正後の発明の特徴である「3CaO・SiO2 含有量が45重量%〜70重量%のポルトランドセメントのセメントの粒度が調整されてセメントのn値が1.100以上〜1.500以下であり、かつ粉末度がブレーン比表面積で3000cm2 /g〜10000cm2 /gである改良ポルトランドセメント」を用いる点については記載も示唆もない。また、両刊行物には、上記した従来技術における課題を示唆する記載もない。
一方、刊行物1乃至5および刊行物8には、ポルトランドセメント自体について記載があるだけで、ALCの製造方法、ALCの製造方法における課題、あるいは訂正後の発明の作用効果については、何ら示唆する記載もない。
すなわち、刊行物1及び刊行物2には、通常のポルトランドセメントの組成や性状について記載されており、両刊行物の記載からは、訂正後の発明で特定する改良ポルトランドセメントの「3CaO・SiO2 含有量」及び「ブレーン比表面積」が、これらの刊行物に記載された「普通ポルトランドセメント」及び「早強ポルトランドセメント」と相違しないことが理解されるものの、訂正後の発明において特定しているn値については、何ら示唆する記載もなく、また、ALCに関する記載もない。
刊行物3は、閉回路ミルで製造された粒度分布径が狭い(n=1.23〜1.28)セメントIB及びICは、単位生産量当りの電力消費量が低いセメントが得られること、開回路でミルで製造された粒度分布が広い(n=1.07)セメントIAと同じ比表面積または28日コンクリート強度を有していることが記載されているが、該記載は通常のコンクリート製造に関する記載であり、ALC(軽量気泡コンクリート)に関する記載はなく、まして、訂正後の発明の課題である、半可塑性状態(半硬化状態)のスラリーの切断可能時間に関する課題について示唆する記載はない。
刊行物4には、マイクロトラック粒度分析計を用いた実際の計測例として、ポルトランドセメントを用いた場合の粒度分布の例が記載されているにすぎず、該記載の粒度分布が、ポルトランドセメントの通常の粒度分布であるとすることはできない。また、該刊行物には、ALCの原料として用いることを示唆する記載はない。
刊行物5には、粉砕・分級プロセスにおける粒度測定技法と応用に関する記載があり、セメントに関しては、「開回路ボールミルではn=0.9〜1.0程度であるが、高精度分級機を用いた閉回路ボールミルではn=1.5以上になることもあること」が記載されているにすぎず、ALCの原料として用いた際の作用効果、すなわち、ALCの原料として、n値が1.1以上のもの(粒度分布が狭いもの)が好ましいことを示唆するものではない。
刊行物8は、セメントのn値とモルタル強サとの関係に関し、「ブレーン比表面積のひとしいセメントではnが大きいと凝結時間は遅れ、モルタルフロー値は大となる。」こと、「モルタル圧縮強サはブレーン比表面積のひとしいセメントでは材齢1日ではnによる差はほとんどないが、材齢3日においてはnの大きいセメントほど強サの増進がいちじるしく、nが0.9のセメントにくらべて1.2のものは強サ2ない3割大であった。」こと、「nを大きくし、また適度にブレーン比表面積を大きくすると初期、長期とも強さ発現にすぐれるセメントをうることができる。」ことが記載されてはいるものの、これらの記載は、セッコウとセメントの混合物を用いた場合の記載であって、ALC(軽量気泡コンクリート)に関する記載はなく、まして、訂正後の発明の課題である、半可塑性状態(半硬化状態)のスラリーの切断可能時間に関する課題について示唆する記載はない。
このように、いずれの刊行物にも、訂正後の発明の、ALCの製造方法において、特定のポルトランドセメントを用いることについては、記載も示唆も一切無く、また、訂正後の発明が解決しようとする、半可塑性状態(半硬化状態)のスラリーの切断可能時間に関する課題について記載も示唆もされていないものであるから、刊行物1乃至5あるいは8に記載されたポルトランドセメントを、刊行物6、7に記載されたALCの製造方法に用いるポルトランドセメントとして用いる動機が存在しない。
そして、ALCは、その原料中に発泡剤を含有し、且つ半可塑状態(半硬化状態)で切断したのち、オートクレーブで養生するという、通常のコンクリートとは、その原料及び製造方法において大きく異なるものである以上、前述した訂正後の発明の作用効果については、これらの刊行物からは予期できないものである。
よって、訂正後の発明が、これらの刊行物に記載された発明であるとすることはできないばかりでなく、これらの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。 したがって、訂正後の発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものではない。
4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
本件発明は、前述の「II.訂正の適否 3.(1)訂正後の発明」において示したとおりのものと認める。
2.特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人は、下記の甲第1号証乃至甲第8号証を提出し、本件の訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから取り消すべきものであり、また、本件の訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから取り消すべきものである、旨主張している。

甲第1号証:「化学辞典(普及版)」森北出版株式会社、1985年1月2 6日発行、第1218頁(刊行物1と同一)
甲第2号証:「セメントの実際知識」東洋経済新聞社、昭和55年11月1 0日第6刷発行、第47〜53頁(刊行物2と同一)
甲第3号証:第8回セメント化学国際会議(8th International Congress on the Che mistry of Cement)1986年9月22〜27日 論文集第31 0〜315頁(刊行物3と同一)
甲第4号証:「粉体と工業」1990年5月号 33〜39頁(刊行物4と 同一)
甲第5号証:「粉体と工業」1985年6月号 45〜53頁(刊行物5と 同一)
甲第6号証: 「セラミックス工学ハンドブック」技報堂出版株式会社、1 989年4月10日発行、第1110〜1111頁(刊行物6 と同一)
甲第7号証: 「セメントの実際知識」東洋経済新聞社、昭和55年11月 10日第6刷発行、第163〜166頁(刊行物7と同一)
甲第8号証: 「セメント技術年報X」昭和31年(1956)第156〜 163頁(刊行物8と同一)
3.甲号各証に記載された発明
特許異議申立人が提出した甲第1号証乃至甲第8号証は、前記刊行物1乃至刊行物8と同一であって、前述の「II.訂正の適否 3.(3)刊行物記載の発明」において示したとおりの発明が記載されている。
4.対比・判断
本件の請求項1に係る発明は、前述の「II.訂正の適否 3.(4)対比・判断」で述べたように、甲第3、4号証に記載された発明であるとすることができないばかりでなく、甲第1〜8号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許異議申立の主張および提出された証拠方法によっては、取消すことはできない。
また、他に本件の請求項1に係る特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-08-21 
出願番号 特願平5-350347
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 五十棲 毅  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 唐戸 光雄
新居田 知生
登録日 1998-10-30 
登録番号 特許第2846232号(P2846232)
権利者 住友金属鉱山株式会社 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 改良ポルトランドセメントおよびALCの製造方法  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 渡邊 隆  

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