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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1024607
異議申立番号 異議1999-74856  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-07-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-24 
確定日 2000-08-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2909196号「エチレン系共重合体およびその製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2909196号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 [本件手続の経緯]
本件特許第2909196号は、平成2年11月21日に出願され、平成11年4月2日に設定登録され、その後、三井化学株式会社より特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年7月11日に訂正請求がなされ、さらに訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成12年8月1日に意見書並びに訂正請求書及び訂正明細書を補正する旨の手続補正書が提出されたものである。
[訂正の適否についての判断]
(1)訂正請求の補正について
(a)本件補正は、訂正請求書に添付した全文訂正明細書(以下、「補正前の訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の第1項に、「製造された」を追加、補正し、特許請求の範囲の第1項を次のとおりのものとする。
「【請求項1】ハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いて製造された、エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体。
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(口)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフィンの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること」
(a)の補正は、補正前の訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の「・・・とからなる触媒を用いて、・・・共重合体。」という不明りょうな記載を、「・・・とからなる触媒を用いて製造された、・・・共重合体。」という明りょうな記載とするものであり、単に適切で明りょうな記載とする補正である。
したがって、この訂正請求に対する補正は、訂正請求の要旨を変更するものではなく、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第131条第2項の規定に適合する。
(2)補正後の訂正請求書による訂正事項
補正後の訂正請求書による訂正事項は下記のとおりである。
(A)特許請求の範囲第1項を以下のように訂正する。
「【請求項1】ハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いて製造された、エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体。
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフインの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること」
(B)特許請求の範囲第3項を以下のように訂正する。
「エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフインの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であることを充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体成分45〜90重量部とポリオレフィン系樹脂55〜10重量部からなる組成物を硬化剤と共に動的に熱処理することにより該エチレン系共重合体成分を部分架橋することにより得られる熱可塑性エラストマー。」
(C)明細書第6ページ第11行〜7ページ13行(特許第2909196号公報第2ページ第右欄16行〜40行)を以下のように訂正する。「[1]ハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いて製造された、エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体。
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフィンの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること
[2]バナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いてエチレンとα-オレフィンとを共重合することによってエチレン系共重合体を製造するにあたり、前記バナジウム触媒成分としてハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理することによって得られる固体触媒を用いることを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載のエチレン系共重合体の製造方法。および
[3]エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフィンの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること」
を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体成分45〜90重量部とポリオレフィン系樹脂55〜10重量部からなる組成物を硬化剤と共に動的に熱処理することにより該エチレン系共重合体成分を部分架橋することにより得られる熱可塑性エラストマー。
を開発することにより上記の課題を解決した。」
[訂正の目的の適否]
訂正事項(A)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項(B)は、訂正事項(A)の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載が不明瞭であることの釈明を目的とするものである。
訂正事項(C)は、訂正事項(A)の訂正に伴って、明細書の記載が不明瞭であることの釈明を目的とするものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書きに規定する要件を満たすものである。
[訂正の範囲の適否、拡張・変更の存否]
上記訂正事項の(A)については、特許請求の範囲の第1項に記載された「エチレン-α-オレフィンランダム共重合体」について限定のなかった製造方法を、実施例において使用した触媒を用いた製造方法に限定するものである。
上記訂正事項の(B)の補正は、該特許請求の範囲第3項は異議申立にもまた取消理由通知にも対象とされていないのものではあるが、上記訂正事項の(A)で請求項1に記載の発明を減縮したため「特許請求の範囲第1項記載のエチレン系共重合体成分」とあったのを、訂正前の請求項1にあった表現をそのまま入れて訂正したものである。
上記訂正事項の(C)の補正は、特許請求の範囲の訂正に伴い明細書の記載を整合させる補正である。
以上(A)、(B)、(C)の補正は何れも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものでもない。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第2項および第3項に規定する要件を満たすものである。
(4)独立特許要件の判断
補正後の訂正請求書による訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された事項により特定された発明(以下、「訂正後の本件発明1」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】ハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いて製造された、エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体。
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフインの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること」
(引用文献等)
本件特許異議申立事件において、提示された引用文献等は、次のとおりである。
甲第1号証:特開昭62一121709号公報
甲第2号証:甲第1号証の実施例1〜4の実験報告書
甲第3号証:高分子データハンドブック[応用編]高分子学会編、培風館、昭和61年1月30日発行、第301ページ
(引用文献等の記載事実)
甲第1号証:
「エチレンおよび炭素原子数3〜20のα-オレフィンからの低結晶性エチレン系ランダム共重合体であって、(a)エチレン成分の含有率が35〜85重量%の範囲にあり、そしてα-オレフィン成分の含有率が15〜65重量%の範囲にあり、
(b)135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.5〜10dl/gの範囲にあり、
(c)ゲルパーミエーシヨンクロマトグラフィーで求めた分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下であり、
(d)X-線回折法で求めた結晶化が30%以下であり、
(e)下記式(I)
B≡POE/2PO・PE (I)
〔式中、PE は共重合体中のエチレン成分の含有モル分率を示し、POはα-オレフィン成分の含有モル分率を示し、POE は全dyad連鎖のα-オレフィン・エチレン連鎖のモル分率を示す〕で表わされるB値が、下記式(II)
1.0 5 ≦ B ≦ 2 (II)を満足する範囲にあり、
(f)13C-NMRスペクトル中には、共重合体主鎖中の隣接した2個の3級炭素原子間のメチレン連鎖に基づくαβおよびβγのシグナルが観測されない、そして
(g)沸騰酢酸メチル可溶部が2重量%以下である、ことを特徴とする低結晶性エチレン系ランダム共重合体。」(特許請求の範囲の請求項1)
「実施例1〜8で得られたエチレン・1-ブテンランダム共重合体、エチレン・1-ヘキセンランダム共重合体、エチレン・1-メチルペンテン-1-ランダム共重合体の結晶化度(%)および彼断点伸び(%)」(第14頁の(続)第1表)が示され、結晶化度(%)が低く、被断点伸び(%)が大きいという特徴が開示されている。
甲第2号証:
甲第1号証の実施例1〜4を追試し、得られたエチレン・1-ブテンランダム共重合体のHLNMFRおよびシヨアーAを測定した結果である同号証の第1表には、これらの測定結果と、実施例1〜4に記載された極限粘度〔η〕およびB値(ランダム性指数η)の値が転記されている。また、1-ブテンの共重合割合については、実施例1〜4に記載されたエチレン含量から算出した1-ブテンの重量%含有量とそれから換算したモル%共重合割合が記載されている。
甲第3号証;
「熱可塑性エラストマーの物性は、オレフィン系の熱可塑性エラストマーの硬さ[60〜95(ショア-A)」(表5.3)であると記載されてい。
【対比・判断】
甲第1号証には、訂正後の本件発明1と共通する技術である「エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体」に係る発明が記載され、その構成要件において、α-オレフィンの共重合割合が15〜65重量%(この値はα-オレフィンが1-ブテンの場合は18.1〜48.1モル%に相当し、訂正後の本件発明1の要件(ハ)と重複する)、B値が1.05〜2.0(B値は、その定義の趣旨から、訂正後の本件発明1の「13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標η」に相当する。したがって、訂正後の本件発明1の要件(ニ)と重複)が記載されており、これらの点で両者は一致するが、訂正後の本件発明1は、さらに、特定の触媒を用いて製造されたこと、及び(イ)HLMFRが0.5以下であること(ロ)ショアーAが90以下であること、を要件としているのに対し、甲第1号証には上記特定の触媒を用いて製造されたこと、及びこれらの要件についての記載がない点で相違しているものと認める。
そこで、これらの相違点について、検討する。
まず、触媒の点では、甲第1号証のものは、その明細書の発明の詳細な説明および実施例にみられるように、実質的にジルコニウム触媒とメチルアルミノオキサンとからなるいわゆるメタロセン系触媒による特定の低結晶エチレン系ランダム共重合体を開示するものであり、訂正後の本件発明1の特定のハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒用いて製造するものとは、明確に相違するものである。
ところで、特許異議申立人は、甲第1号証の実施例1〜4を追試し、その実験報告書として甲第2号証を提示し、これらの点を補強し、訂正後の本件発明1と甲第1号証に記載された共重合体は同一である旨主張している。
しかしながら、新たに追試試験をしているにもかかわらず訂正後の本件発明1のパラメータ(イ)HLMFRが0.5以下である条件を満足する実験を行っていない。
特許異議申立人は、甲第1号証の実施例1〜4の極限粘度〔η〕とHLMFRの関係式を導き、〔η〕=4.6がHLMFR=0.5に相当するものであると推測しているが、わざわざ実験報告書を作成しているにもかかわらず実測値を示していないし、また一般的にはポリマーにおける流動特性は高分子量領域、すなわち高粘度になるに従って直線関係が成立することは難しく、甲第1号証の請求範囲に記載された〔η〕の値0.5〜10dl/gの全範囲において、上記の推測を行うことは妥当ではない。とりわけ、甲第1号証の実施例では〔η〕は1.30〜4.10dl/gの例しか示されておらず、5dl/gの高粘度領域の実施例は示されていない。
また特許異議申立人の甲第1号証の実施例を追試した該実験報告書である甲第2号証においては、ランダム性指標を本特許の試験法に基づいて忠実に再現しておらず、すべてのパラメータの追試を行っていない。
したがって、甲第2号証は、信憑性の乏しく、直ちに採用することはできず、少なくとも要件(イ)は有意差のある格別の相違点といえる。
また、甲第3号証に記載された熱可塑性エラストマーは、オレフィン系エラストマーであって、ポリエチレン、ポリプロピレンのハードセグメントとブチルゴムまたはエチレン-プロピレンゴムの組成物からなるエラストマーのショアーAを開示するものであり、訂正後の本件発明1の共重合体単独のショアーAを示すものではなく、訂正後の本件発明1とは関連性を有するものではない。
以上、信憑性の乏しい甲第2号証の実験報告書及び訂正後の本件発明1とは関連性を有するものではない甲第3号証を考慮したとしても、明確に異なる触媒で製造する訂正後の本件発明1と甲第1号証に記載された共重合体が一致しているとはいえない。
したがって、訂正後の本件発明1に係る特許は特許法第29条第1項第3号に違反して特許されたものではない。
また、訂正後の本件発明1で特定した触媒を開示も示唆してもいない甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が訂正後の本件発明1を容易に発明することはできるものとすることはできず、したがって、訂正後の本件発明1に係る特許は特許法第29条第2項に違反して特許されたものではない。
他に、訂正後の本件発明1について、独立して特許を受けることができないとする理由は発見できない。
以上のとおりであるから、訂正後の本件発明1は、出願の際独立して特許を受けることができるものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する改正前の同法第126条第3項に規定する要件を満たすものである。
【結び】
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。
[特許異議申立についての判断]
【申立の理由の概要】
特許異議申立人三井化学株式会社の申立の理由の概要は次のとおりである。
(1)本件特許の訂正前の請求項1に係る本件発明は、その出願前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
(2)本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
【判断】
前記訂正の適否における独立特許要件の判断に示したとおり、本件特許の請求項1に係る発明(補正後の訂正請求書による訂正後の特許請求の範囲の第1項に係る発明)は、甲第1号証に記載された発明とも、また甲第1号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
【結び】
したがって、特許異議申立人の主張および挙証によっては、本件の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エチレン系共重合体およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いて製造された、エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフインランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体。
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフィンの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること
【請求項2】 バナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いてエチレンとα-オレフィンとを共重合することによってエチレン系共重合体を製造するにあたり、前記バナジウム触媒成分としてハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ索で処理することによって得られる固体触媒を用いることを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載のエチレン系共重合体の製造方法。
【請求項3】 エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフィンの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であることを充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体成分45〜90重量部とポリオレフィン系樹脂55〜10重量部からなる組成物を硬化剤と共に動的に熱処理することにより該エチレン系共重合体成分を部分架橋することにより得られる熱可塑性エラストマー。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明はポリオレフィン樹脂とのブレンドからなるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物に用いた場合、高強度で流動性に優れ、かつ柔軟性、ゴム弾性に優れた熱可塑性エラストマーを与えるエチレン系共重合体に関する。また新規なバナジウム系触媒を用いて粉体性状が良好なエチレン系ランダム共重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは新規な高活性バナジウム触媒を用いて粉体性状が良好なエチレン系ランダム共重合体を製造する方法に関する。
〔従来の技術〕
ポリオレフィン樹脂とのブレンドからオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物に用いた場合に、優れた熱可塑性エラストマーを与えるエチレン系共重合体に関しては、すでに多くの提案がある。たとえば特開昭57-179207、特開昭59-215304、特開昭61-152753などに開示されたものがある。
また、エチレンとα-オレフインまたはエチレンとα-オレフインとジオレフィンとの共重合によってランダム性の優れたゴム状共重合体を製造する方法に関しては、すでに多くの提案がある。一般には、均一系バナジウム化合物と有機アルミニウムとを組み合わせた触媒が使用されている。最近ではチタン化合物あるいはチタン担持マグネシウム化合物と有機アルミニウム化合物とを組み合わせた触媒系を用いた製造法もいくつか提案されており、たとえば特開昭56-53112号公報、特開昭56-53113号公報、特開昭56-59813号公報などに開示されたものがある。
しかしながら、これらの従来技術は、いずれも以下の点で満足しうるものとはいいがたい。すなわち、均一系バナジウム化合物を触媒として製造したエチレンとα-オレフィンまたはエチレンとα-オレフィンとジオレフィンとからなるランダム性に優れたゴム状共重合体を用いた熱可塑性エラストマーは柔軟性、ゴム弾性に優れるものの強度、流動性が不足する。チタン化合物あるいはチタン担持マグネシウム化合物を触媒として製造した該ゴム状共重合体を用いた熱可塑性エラストマーは強度、流動性は優れるものの柔軟性に難がある。
さらに、上記エチレン系共重合体を製造するにあたり、均一系バナジウム化合物からなる触媒は、触媒の活性寿命が短いため、単位触媒当たりの重合体収率を充分に大きくすることができない。また、充分に大きな分子量を有する共重合体を得ることができない。チタン系化合物からなる触媒は重合時の失活は比較的少なく充分に大きな分子量を有する共重合体を得ることができるが、エチレンとα-オレフィンとの共重合においては、一般にそれぞれの単独重合体が生成しやすく、共重合体が得られたとしても、その結合形式が主にブロック的であり、ランダム性の良いゴム状共重合体は得られない。この点に関する改良技術はいくつか提案されているが、充分に満足できるものとは言い難い。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点が改良されて、ポリオレフィン樹脂とブレンドして従来技術では達成できなかった高流動性を維持し、なお加硫ゴムに匹敵しうる強度、柔軟性、ゴム弾性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を与えるエチレン系共重合体を提案することにある。さらに、上記エチレン系共重合体を効率よく製造する方法を提案することにある。
〔課題を解決するための手段〕
上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、特許請求の範囲第1項記載のエチレン系共重合体を用いることにより前記目的が達成される事を見いだし本発明に到達した。また、上記エチレン系共重合体を製造するにあたり、特定のバナジウム触媒成分と有機アルミニウム成分とからなる触媒を用いることによって前記課題が解決されることを見いだし本発明に到達した。
すなわち、本発明は、
[1]ハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いて製造された、エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体。
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフインの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること
[2] バナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いてエチレンとα-オレフィンとを共重合することによってエチレン系共重合体を製造するにあたり、前記バナジウム触媒成分としてハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ索で処理することによって得られる固体触媒を用いることを特徴とする、上記[1]に記載のエチレン系共重合体の製造方法。
[3] エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフィンの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること」
を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体成分45〜90重量部とポリオレフィン系樹脂55〜10重量部からなる組成物を硬化剤と共に動的に熱処理することにより該エチレン系共重合体成分を部分架橋することにより得られる熱可塑性エラストマー。
を開発することにより上記の課題を解決した。
本発明におけるエチレン系共重合体とは、HLMFRが0.5以下(JIS K-6758の230℃、21.6kg荷重の値を表す。)好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.1以下、ショアーAが90以下、好ましくは80以下、特に好ましくは70以下、α-オレフインの共重合割合が5〜60モル%、好ましくは10〜40モル%、13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上のものである。
エチレン共重合体のHLMFRを0.5以下にする理由は架橋に際してのゲル化効率をよくすること、ゴム弾性に有利な絡み合いを増やし、欠陥となる分子鎖末端を少なくすることで熱可塑性エラストマーのゴム弾性、強度を大きくするためである。
同じく、エチレン共重合体のショアーAを90以下、α-オレフィンの共重合割合を5〜60モル%、13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηを0.95以上にする理由は熱可塑性エラストマーとして充分なゴム弾性、柔軟性を得るためである。
また、本発明において用いられるハロゲン化バナジウム化合物の具体例としては四塩化バナジウム、四臭化バナジウム、三塩化バナジウム、三臭化バナジウム、三沃化バナジウム、オキシ三塩化バナジウムなどがあげられるが、なかでも三塩化バナジウムが好ましく用いられる。
ケトン化合物としては下記一般式(I)で示されるもの、

(式中、R1およびR2は炭素数が多くとも10個のアルキル基またはシクロアルキル基を示し、R1とR2は同一のものであってもよく、異なっても良い。)
またはシクロペンタノン、シクロヘキサノン等の環状ケトンが用いられる。なかでも好ましい例としてはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンおよびメチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
バナジウム化合物とケトン化合物との反応は、たとえばケトン化合物中でケトン化合物の沸点ないしそれ以下の温度で行なわれる。過翼のケトン化合物は減圧下に除去することによって反応物が得られる。
上記で得られた反応物を処理するために用いられるハロゲン化アルミニウムの具体例としては三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三沃化アルミニウムが挙げられ、ハロゲン化ホウ素の具体例としては三塩化ホウ素、三臭化ホウ素および三沃化ホウ素が挙げられる。ハロゲン化アルミニウムまたはハロゲン化ホウ素の使用量はバナジウム原子1モルあたり1〜30モルであり、好ましくは4〜20モルである。処理条件としては、処理温度を0〜100℃、好ましくは20〜60℃に選び、通常は溶媒の存在下で行なわれる。溶媒としては上記反応物を溶解するものが好ましく、ハロゲン化炭化水素が好ましく使用される。ハロゲン化アルミニウムまたはハロゲン化ホウ素による処理によって得られた沈澱物を処理溶媒として用いた溶媒で充分に洗浄後、減圧で乾燥することにより固体触媒か得られる。
上記のようにして得られた固体触媒と組み合わせて重合に用られる有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トルエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムが好ましい。
以上のようにして形成された触媒を用いて、エチレンとα-オレフィンとの共重合を行うことによって本発明の重合を達成することができる。エチレンと共重合する場合に使われるα-オレフィンとしては、炭素数が多くとも20個、好ましくは12個のα-オレフインであり、その代表例としては、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンチン-1およびオクテン-1が挙げられる。
さらに、必要に応じて用いられるジオレフィンとしては、ブタジエン、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジェンなどが挙げられる。この際、得られるエチレン系共重合体中に占める上記のα-オレフインの共重合割合は一般には5〜60モル%であり、10〜40モル%が好ましい。ジオレフインの共重合割合は多くとも10モル%であり、とりわけ5モル%以下が望ましい。
本発明の方法を実施するにあたり、重合方法としては、スラリー重合や溶液重合のような液相重合や気相重合などが可能である。スラリー重合法は、エチレンとα-オレフィン等を不活性溶媒または重合モノマー溶媒に溶解させて実施することができる。その際の不活性溶媒としては、イソブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、ケロシンなどの炭化水素溶媒が用いられる。共重合体の分子量は必要に応じて、水素を用いることにより、任意に調節できる。重合温度は-20〜120℃、好ましくは0〜60℃である。なお、本発明の重合を実施する際に、バナジウム系触媒の活性促進剤として公知のハロゲン化炭化水素を重合系に添加してもよい。好ましいハロゲン化炭化水素の具体例としてはCCl4,CHCl3,CH2Cl2,CH3CCl3,CFCl3およびCF2ClCCl3などが挙げられる。促進剤の使用量は助触媒1モルに対して0.02〜5モル、好ましくは0.05〜2モルである。
熱可塑性エラストマーを得るためのエチレン-α-オレフィンランダム共重合体(a)成分とポリオレフィン樹脂(b)成分の混合比率は(a)成分45〜90重量部、(b)成分55〜10重量部((a)+(b)=100重量部)であり、(a)成分が45重量部未満では得られる熱可塑性エラストマーが硬くなりすぎてもはやエラストマーと言えず、一方90重量部を越えると柔軟性、ゴム弾性、強度は維持できるものの流動性が低下し過ぎ、成形性が悪化する。(a)成分が60重量部以上では流動性を改善するために、軟化剤を添加することが好ましい。
本発明の(b)成分を構成するポリオレフィン系樹脂としては、1種またはそれ以上のモノオレフィンの高圧法、中圧法または低圧法のいずれかによる重合から得られる結晶性の高分子量の固体生成物を包含する。満足すべきオレフィンの例は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘキセンおよびそれらの混合物であり、好ましくは、ポリプロピレン系樹脂である。
ポリプロピレン系樹脂とは、アイソタクチックホモポリプロピレンまたはエチレン、ブテン-1、ヘキセン-1等のα-オレフィンとプロピレンのランダムあるいはブロック共重合体であって結晶成分がポリプロピレンであるかまたはこれに他のポリオレフィンをブレンドしたものである。
この成分は熱可塑性エラストマーの耐熱性、機械的強度および流動性の向上に寄与するものであり、この目的のためにDSC(示差走査熱量計)で測定した融点(融解の最大ピーク温度)が155℃以上に存在するものが好ましい。軟化剤は本発明の熱可塑性エラストマ-の流動性、柔軟性を改善するために必要に応じて添加されるもので、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系、ポリブテン系等のオイルがあるが、本発明の目的にはパラフィン系、ナフテン系、ポリブテン系オイルが好ましい。
本発明で目的とする熱可塑性エラストマー組成物は(a),(b)各成分、必要に応じて軟化剤の存在下に架橋剤を添加し、動的に熱処理することにより得られる。
例えば、特公昭53-34210号公報にみられるようにゴム成分を架橋しておき、ポリオレフィン樹脂とブレンドする方法、特公昭53-21021号公報にみられるようにゴム成分とプラスチック成分を混合しつつ架橋する方法、特公昭52-37953号公報のようにゴム成分とプラスチック成分を混合機中で予め充分にブレンドしたのちに部分硬化する程度の架橋剤を添加し、更に混練を続ける方法等の技術が提案されている。以上のどの方法を用いても良好な性能の熱可塑性エラストマーを得ることができる。この際に使用する架橋剤として種々のものがあるが、得られたエラストマーの性質が、良好な圧縮永久歪が得られる、汚染性がない、耐熱性がよいなどの点で有機過酸化物による架橋が望ましい。
(a),(b)の各成分、必要に応じて軟化剤の存在下に有機過酸化物を添加し、動的に熱処理する場合には、(b)成分は有機過酸化物で架橋されない(分子切断を起こす)ポリプロピレン系樹脂が好ましい。ここで用いられる有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス-(tert-ブチルペルオキシ-イソプロピル)-ベンゼン、tert-ブチルクミルペルオキシド等を挙げることができる。
有機過酸化物の配合量は(a),(b),更にこれに軟化剤を加えた試料100重量部に対し、0.1〜2重量部、好ましくは0.5ないし1.0重量部である。配合量が0.1重量部未満であると(a)成分の架橋度が小さすぎる結果、本発明の熱可塑性エラストマーの耐熱性および圧縮永久歪や反発弾性等のゴム的性質が不十分となる。一方、2重量部を越える配合では、(b)成分の過度の分子切断により熱可塑性エラストマーの引張り破断強度、破断伸びが低下する。
有機過酸化物を動的に熱処理する際に、架橋助剤を用いることができる。ここで用いられる架橋助剤として例えば、イオウ、p-キノンジオキシム、p,p′-ジベンゾイルキノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、無水マレイン酸を挙げることができる。配合量としては有機過酸化物と等量ないし2倍量が好ましい。
本発明の熱可塑性エラストマーにおいては、性能を損なわない範囲で、タルク、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム等の無機充填剤を配合することができる。更に、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、帯電防止剤、難燃化剤等の添加剤を配合することができる。
溶融混練装置としては、解放型のミキシングロールや非解放型のバンバリーミキサー、押出機、ニーダー、連続ミキサー等従来より公知のものが使用できる。これらのうちでは、非解放型の装置を用いるのが好ましく、窒素等の不活性ガス雰囲気中で混練することが好ましい。また本発明のエチレン-α-オレフィンランダム共重合体ゴムは良好な粉体性状で得られるので二軸押出機等の連続型混練装置に直接フィードできるために製造コストを安価にできる利点を有する。
次に実施例及び比較例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例及び比較例において、共重合体中のプロピレン含量%(Fp)は日本電子製GSX400を用いて、Rayらの方法(Macromolecules,10,(4),773(1977))に基づき13C-NMRを測定することにより求めた。ハイロードメルトフローレート(以下「HLMFR」という)はJIS K-6758に従い、温度230℃および荷重21.6kgの条件で測定した。ショアーA硬度はASTM D676-49に従い測定した。ランダム性指標ηは次式により求めた。
η=(EP)/c(EP)bここで、(EP)cとは上記Rayらの方法に基づき、13C-NMRスペクトルから求めたエチレン-プロピレン連鎖のダイアド分率(EP)bとは13C-NMRから求めた共重合体中のエチレンモノマー分率Eおよびプロピレンモノマー分率Pを用いてBernoulli仮定(「共重合」第1巻反応解析1・2・2倍風館)を想定して次式によって計算した値である。
(EP)b=2×E×Pη=1は完全ランダム共重合体、η=0は完全ブロック共重合体であることを示す。従って、ηが1に近いほどランダム性が大きく、0に近いほどブロック性が大きい。
〔実施例〕
(実施例1)
(固体触媒の調製)
窒素置換した300mlの三ツ口フラスコに三塩化バナジウム5gとメチルエチルケトン100m1を仕込み、80°Cで2時間反応した。ついで過剰のメチルエチルケトンを減圧下で留去することによって反応物を得た。そこへ1,2-ジクロルエタン125m1を加え反応物を溶解した後に、三塩化アルミニウム5gを添加し70℃で2時間処理することにより沈澱物を得た。この沈澱物を1,2-ジクロルエタンで充分に洗浄することによって固体触媒を得た。
(エチレンとプロピレンとの共重合)
充分に窒素置換した1.51のオートクレーブにプロピレン350g、上記で得られた固体触媒8mgを仕込んだ後、トリイソブチルレアルミニウム2mmo1をエチレンで圧入することにより重合を開始した。重合は、エチレン濃度を18mo1%に保つように供給することにより、25℃で30分間継続した。ついで内容ガスを系外に放出することにより、重合を終結した。その結果、102gのゴム状共重合体が得られた。この共重合体のFp=41%、HLMFR=0.30(g/10min)、ショアーA=62、ランダム性指標η=0.9837、嵩比重=0.31g/ml、平均粒径は320μ、粒度分布は0.1〜0.5mmに95%であった。
(比較例1)
実施例1においてメタルエチルケトンを使用せず、三塩化バナジウム40mgを用いた他は実施例1と同様にエチレンの重合を行った。結果は表1に示す。
(実施例2)
実施例1において、エチレン濃度を29mo1%に保つ以外は、実施例1と同様にエチレンとプロピレンとの共重合を行った。その結果、ゴム状共重合体が96g得られた。この共重合体のFp=32%、HLMFR:0.11(g/10min)、シュアーA=68、ランダム性指標η=0.9741、平均粒径は310μ、粒度分布は0.1〜0.5mmに96%であった。
(実施例3)
実施例1において、エチレン濃度を10mo1%に保つ以外は、実施例1と同様にエチレンとプロピレンとの共重合を行った。その結果、ゴム状共重合体が167g得られた。この共重合体のFp=55%、HLMFR=0.12(g/10min)、ショアーA=64、ランダム性指標η=0.9855、平均粒径は320μ、粒度分布は0.1〜0.5mmに95%であった。
(実施例4〜7)
実施例1においてメチルエチルケトンの代わりに表1に示したケトン化合物を用い、調製条件を表1に示したように変える他は実施例1と同様に固体触媒を調製しエチレンとプロピレンとの共重合を行った。その結果は表1に示す。
(実施例8)
実施例1において、コモノマーとして、さらにエチリデンノルボルネンをプロピレンに対してl.4mol%添加した以外は、同様にして、エチレンとプロピレンとエチリデンノルボルネンとの共重合を行った。その結果、ゴム状共重合体が54g得られた。この共重合体は、Fp=40%、HLMFR=0.4(g/10min)であり、沃素価は10であった。
(実施例9)
(エチレンとブテン-1との共重合)
窒素置換した3.01のステンレス製オートクレーブに、実施例1で調製した固体触媒20mgおよび1kgのイソブタンを仕込み、内温を80℃に昇降した。ブテン-1を130g仕込み、エチレンをエチレン分圧が14kg/cm2になるまで圧入した。ついで、トリイソブチルアルミニウム4mmo1を窒素で圧入することにより、重合を開始した。重合は、エチレンを分圧が14kg/cm2に維持するように供給しながら、1時間継続した。得られたエチレン-ブテン-1共重合体は240gであり、HLMFR:0.5(g/10min)、密度=0.98g/mlであった。
さらに以下では、上記エチレン系共重合体を用いて熱可塑性エラストマーを製造した実施例を示した。なお、上記実施例に示されていない測定方法は次の通りである。メルトフローレート(以下「MFR」という)はJIS K-6758に従い、温度230℃および荷重21.6kgの条件で測定した。ハイロードメルトフローレート(以下「HLMFR」という)はJIS K-6758に従い、温度230℃および荷重2.16kgの条件で測定した。引張り破断強度、伸びはJIS K-6301に従い測定した。ゲル分率は試料を23℃のシクロヘキサン中に48時間浸し、不溶性成分量を決定することにより求めた。このとき、初期重量から、ゴム以外のシクロヘキサン可溶性成分、例えば、軟化剤、可塑剤、およびシクロヘキサンに可溶の樹脂成分の重量を差し引いた浸漬前および浸漬後の重量を使用する。
(実施例10)
(組成物の製造)
東洋精機製ラボブラストミル、バンバリーミキサー75cc用いて、ポリプロピレン(昭和電工製SSA510、MFR=0.5)、実施例1で述べたエチレン系共重合体、パラフィンオイル(出光興産製PW380)各20部,40部,40部を165℃で5分間、ローター回転数60rpmで予め均一に分散した後に、架橋剤(カヤヘキサAD:化薬ヌーリー製、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)-ヘキサン)および架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート)を各1.2部,2.4部加えて、145℃,80rpmにて7分間混練し、さらに180℃にて7分間溶融混練を続けた後にサンプルを取り出し、230℃でホットプレスすることにより、試験片を作成した。この組成物のMFR=0.09(g/10min)、HLMFR=737(g/10min)、ショアーA=72、引張り破断強度=82(kg/cm2)、伸び:260(%)、ゲル分率=24.9(%)であった。柔軟で強度、流動性に優れた熱可塑性エラストマーが製造できた。
(実施例11)
エチレン系共重合体として実施例3で述べたものを用いた他は実施例10と同様に組成物を製造した。この組成物のMFR=1.37(g/10min)、HLMFR=1498(g/10min)、ショアーA=67、引張り破断強度=64(kg/cm2)、伸び=350(%)、ゲル分率=22.9(%)であった。高流動性で柔軟性に優れた熱可塑性エラストマーが製造できた。
〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明のエチレン系共重合体をポリオレフィン樹脂とのブレンドからなるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物に用いると、高強度で流動性に優れ、かつ柔軟性、ゴム弾性に優れた熱可塑性エラストマーが得られる。また、本発明のエチレン系共重合体の製造方法によれば、粉体性状の良いエチレン系ランダム共重合体を効率良く製造することができる。

【図面】

 
訂正の要旨 [訂正の要旨]
訂正請求書による訂正事項は次のとおりである。尚、訂正事項(A)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。訂正事項(B)、(C)は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(A)特許請求の範囲第1項を以下のように訂正する。
【請求項1】ハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いて製造された、エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体。
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(口)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフインの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること」
(B)特許請求の範囲第3項を以下のように訂正する。
「エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフインの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であることを充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体成分45〜90重量部とポリオレフィン系樹脂55〜10重量部からなる組成物を硬化剤と共に動的に熱処理することにより該エチレン系共重合体成分を部分架橋することにより得られる熱可塑性エラストマー。」
(C)明細書第6ページ第11行〜7ぺ一ジ13行(特許第2909196号公報第2ページ第右欄16行〜40行)を以下のように訂正する。
「[1]ハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理してなるバナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いて製造された、エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体。
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフィンの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること
[2]バナジウム触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒を用いてエチレンとα-オレフィンとを共重合することによってエチレン系共重合体を製造するにあたり、前記バナジウム触媒成分としてハロゲン化バナジウム化合物とケトン化合物との反応物をハロゲン化アルミニウムもしくはハロゲン化ホウ素で処理することによって得られる固体触媒を用いることを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載のエチレン系共重合体の製造方法。および
[3]エチレンと炭素原子数が3〜20の範囲にあるα-オレフィンとからなる線状構造を有するエチレン-α-オレフィンランダム共重合体であり、かつ下記(イ)〜(ニ)の要件
(イ)HLMFRが0.5以下であること
(ロ)ショアーAが90以下であること
(ハ)α-オレフィンの共重合割合が5〜60モル%であること
(ニ)13C-NMRスペクトルから計算したランダム性指標ηが0.95以上であること」
を充たすことによって特徴づけられるエチレン系共重合体成分45〜90重量部とポリオレフィン系樹脂55〜10重量部からなる組成物を硬化剤と共に動的に熱処理することにより該エチレン系共重合体成分を部分架橋することにより得られる熱可塑性エラストマー。
を開発することにより上記の課題を解決した。
異議決定日 2000-08-10 
出願番号 特願平2-319196
審決分類 P 1 652・ 121- YA (C08F)
P 1 652・ 113- YA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉原 進藤本 保  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 船岡 嘉彦
中島 次一
登録日 1999-04-02 
登録番号 特許第2909196号(P2909196)
権利者 昭和電工株式会社
発明の名称 エチレン系共重合体およびその製造方法  
代理人 菊地 精一  
代理人 中嶋 重光  
代理人 山口 和  
代理人 菊地 精一  

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