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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06K
管理番号 1024648
異議申立番号 異議1998-76201  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-02-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-12-24 
確定日 2000-09-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第2771313号「ICカードおよびICカードシステム」の請求項1乃至4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2771313号の請求項1乃至4に係る特許を取り消す。 
理由 理由
1.手続きの経緯
本件特許第2771313号の各請求項に係る各発明は、平成2年6月6日に出願されたものであって、平成10年4月17日に設定登録され、その後、特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年6月17日に訂正請求がなされ、訂正拒絶理由通知がなされ、その訂正拒絶理由通知に対して手続補正書が提出されたものである。
2.訂正請求書についての補正の適否について
特許権者は、訂正請求書についての補正において、
『「【請求項1】リーダライタとの間で調歩同期方式によるデータ通信を行なうようにしたICカードにおいて、データ用クロックの伝送のための外部端子を設け、調歩同期方式、クロツク同期方式のいずれかに切換える切換手段を備え、調歩同期方式とクロツク同期方式のいずれか一方に切換えてデータ通信を可能としたことを特徴とするICカード。」を「【請求項1】 リーダライタとの間で調歩同期方式によるデータ通信を行なうようにしたICカードにおいて、クロツク同期方式のデータ用クロツクの伝送のための外部端子を設け、調歩同期方式、クロツク同期方式のいずれかに切換える切換手段を備え、該切換手段は、少なくとも初期設定時に調歩同期方式に切り換え、初期設定後調歩同期方式とクロツク同期方式のいずれか一方に切換えてデータ通信を可能としたことを特徴とするICカード。」と補正』しているが、本件訂正請求書の要旨においては、『「【請求項1】リーダライタとの間で調歩同期方式によるデータ通信を行なうようにしたICカードにおいて、データ用クロックの伝送のための外部端子を設け、調歩同期方式、クロツク同期方式のいずれかに切換える切換手段を備え、調歩同期方式とクロツク同期方式のいずれか一方に切換えてデータ通信を可能としたことを特徴とするICカード。」を「【請求項1】 リーダライタとの間で調歩同期方式によるデータ通信を行なうようにしたICカードにおいて、クロツク同期方式のデータ用クロツクの伝送のための外部端子を設け、調歩同期方式、クロツク同期方式のいずれかに切換える切換手段を備え、調歩同期方式とクロツク同期方式のいずれか一方に切換えてデータ通信を可能としたことを特徴とするICカード。」と訂正する。』とするものであって、上記補正における「該切換手段は、少なくとも初期設定時に調歩同期方式に切り換え、初期設定後」との要件の追加は、上記訂正請求書の要旨を変更するものである。
したがって、その他の補正について検討するまでもなく、上記訂正請求書についての補正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合せず、したがって、当該補正は認められない。
3.訂正の適否について
(訂正明細書の各請求項に係る各発明について)
本件訂正明細書の各請求項に係る各発明は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】リーダライタとの間で調歩同期方式によるデータ通信を行なうようにしたICカードにおいて、クロック同期方式のデータ用クロックの伝送のための外部端子を設け、調歩同期方式、クロック同期方式のいずれかに切換える切換手段を備え、調歩同期方式とクロック同期方式のいずれか一方に切換えてデータ通信を可能としたことを特徴とするICカード。
【請求項2】請求項(1)において、データ入力用の第1の外部端子と、データ出力用の第2の外部端子とを有することを特徴とするICカード。
【請求項3】請求項(1)記載のICカードとリ一ドライタとからなり、調歩同期方式によるデータ通信とクロック同期方式によるデータ通信とを可能としたICカードシステムにおいて、該クロック同期方式による該ICカード、該リードライタ間でのデータ通信に際し、データとデータ用クロックとの送信方向が一致することを特徴とするICカードシステム。」
(なお、訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲には、訂正請求書記載の請求項1に対して(1)、請求項2に対して(2)、請求項3に対して(3)と記載しているが、紛らわしいので訂正請求書の記載どおりとした。)
(引用刊行物)
これに対し、当審が通知した訂正拒絶理由で引用した「ICカードの技術動向 沖電気研究開発、第146号、Vol.57、NO.2、平成2年(1990)4月」(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第1号証。以下、刊行物1という。)には、ISO/IEC 7816-3に関連した記載として、第9頁の図4にはICカードと外部機器との通信手順が示され、また、「基本コマンドとは、外部機器がカードに対して発行するコマンドのうちで、情報の書込み、読み出し、消去などのような、アプリケーションに依存しないコマンドである。」(第9頁第21〜24行)と記載されている。
「INTERNATIONAL STANDARD ISO/IEC 7816-3 First edition 1989-09-15」は、Identification cards-Integrated circuit(s) cards with contactsのPart3 Electronic signals and transmission protocolsに関する文献である(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第2号証。以下、刊行物2という。)ところ、このISO/IEC 7816-3を基に、技術的内容及び規格表の様式を変更することなく作成したものとしてJIS規格が制定されており、「日本工業規格 外部端子付き I Cカード-電気信号及び伝送プロトコル JIS X 6304-1993(ISO/IEC 7816-3)1989(ISO/IEC 7816-31989/Amid1.1992)」としてその内容が平成5年11月30日日本規格協会より文献(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第3号証。以下、刊行物3という。)として発行されている。そこで、上記刊行物2の記載を、上記刊行物3を参照してみてみると、上記刊行物2には、「外部端子付きICカード(以下,ICカードという。)のパラメータ及び国際流通用ICカードの使用方法を規定した一連の規格の一つである。ICカードは、カード内部の集積回路(IC)と外部機器との間の情報交換を行うIDカードである。」(Introduction)、「1.適用範囲 この規格は、電力、信号構成、及びICカードと端末などの接続装置との間の情報交換を規定する。また、信号の速度、電圧値、電流値、パリティ規約、動作手順、伝送機構及びICカードによる通信を規定する。」(第1頁)、「3.用語の定義・・・(1)接続装置(Interface device) ICカードが動作中に、電気的に接続されている端末、通信装置又は機器。・・・」(第1頁)「4.端子の電気的特性 4.1端子の機能・・・CLK クロック信号又はタイミング信号の入力(ICカードによる任意選択用途)。・・・」(第2頁)、「4.2.3 I/O端子 I/O端子は、データ交換の入力(受信モード)又は出力(送信モード)として使用する。」(第3頁)、「5.ICカードの動作手順 この動作手順は、すべてのICカードに適用する。接続装置とICカードとの間の交信は、次の手順で行う。(1)接続装置による端子の接続及び活性化。(2)ICカードのリセット。(3)ICカードによる初期応答動作。(4)初期応答動作後に行うICカードと接続装置との間の情報交換。(5)接続装置による端子の非活性化。」(第4頁)、「6.初期応答 伝送方式は、次の2種類とする。(1)Asynchronous transmission この伝送方式では、I/O端子上を、Asynchronous半二重モードでキャラクタが伝送される。各キャラクタは、8ビットからなる情報ビットで構成される(6.1.2参照)。(2)同期式伝送 この伝送方式では、I/O端子上を、CLK端子のクロック信号に同期したビット列が半二重モードで伝送される。」(第7頁)、「6.1.4.2 初期応答情報内で後続するキャラクタの構造、開始キャラクタTS以降には、次の順序でキャラクタが続く。(1)構成表示キャラクタ T0 (2)接続情報キャラクタ TA1,TB1,TC1,TD1(任意選択)・・・」(第11頁)、「6.1.4.3 接続情報バイト及びプロトコル形式T・・・T=0は、8.で規定するAsynchronous半二重キャラクタ伝送プロトコルとする。T=1は、9.で規定するAsynchronous半二重ブロック伝送プロトコルとする。T=2及びT=3は、将来の全二重伝送用で留保する。T=4は、拡張Asynchronous半二重キャラクタ伝送プロトコル用に留保する。T=5からT=13は、将来の使用に備え留保する。T=14は、ISOで標準化しない伝送プロトコル用に使用する。T=15は、将来の拡張に備え留保する。」(第12〜13頁)、「6.2 同期伝送の初期応答動作 6.2.1 クロック周波数及びビット伝送率 I/Oライン上のビット伝送率と接続装置によって供給されるCLK端子のクロック周波数との間の関係は、線形とする。・・・クロック周波数の値は、伝送すべきビット伝送率を決定する。」(第15頁)、「・・・。ヘッダは、32ビットの固定長とし、必す(須)な8ビットのフィールド(H1及びH2)で始まる。・・・。1番目のフィールドH1は、プロトコル形式を示し、その値に対応するプロトコル形式は、次のとおりである。・・・。 '01'〜'TE'……ISO/IEC JTC1/SC17によって、各々一つの値に、一つのプロトコル形式が割り当てられる。」(第15頁)、「7. プロトコル形式選択(PTS) ・・・。初期応答で、プロトコルとして複数プロトコルが示されたとき、・・・、初期応答終了後に使用されるプロトコル形式・・・を選択しなければならない。ただし、ICカードに複数のプロトコル形式を処理する能力があり、それらのプロトコル形式のうちの一つがT=0として示されるとき、プロトコル形式T=0を第1提示プロトコルとしてTD1で表示する。PTSが実行されないときには、プロトコル形式T=0が初期応答直後から開始されるものと見なす。」(第15〜16頁)、「8. プロトコル形式T=0:Asynchronous半二重キャラクタ伝送プロトコル ここでは、Asynchronous半二重キャラクタ伝送プロトコルの伝送制御又はICカードに固有な制御のために、接続装置が発行するコマンドの構造及び処理を規定する。プロトコル形式選択による変更がない限り、このプロトコルでは初期応答によって示されたパラメータを用いる。・・・。ICカードと接続装置との間のデータ伝送には、ICカードへの入力データ伝送、及びICカードからの出力データ伝送の二つが必要となる。データ伝送の方向は、コマンドごとに定められている。」(第16〜17頁)、「9. プロトコル形式T=1:Asynchronous半二重ブロック伝送プロトコル この伝送プロトコルは、初期応等情報の中でTD1バイトにプロトコル形式T=1として定義される(6.1.4.3参照)。ここでは、Asynchronous半二重ブロック伝送プロトコルでの伝送制御及びICカード固有の制御に関するコマンドの構造及び処理を定義する。これらのコマンドは、接続装置又はICカードから発行される。」(第19頁)と記載されている。
(上記記載において、・・・は文章省略を示す。)
「図解マイコンの基礎知識 第1版第7刷、p.142、株式会社オーム社 昭和57年9月30日発行」の文献(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第4号証。以下、刊行物4という。)には、「データの送受信を正確に行わせるためには、送受間で同期(synchronous)をとる必要があり、そのため同期式と非同期式がある。非同期式(asynchronous)には調歩式と定調歩式があり、調歩式(start‐stop system)は送信する各文字の前後にスタート符号とストップ符号を付け、それによって送信側と受信側をとる方式であり、低中速度回線に用いられている。定調歩式(stepped start-stop system)は、スタート信号が定間隔に起こるような同期である。」(第142頁第8〜14行)と記載されている。
「自動車用16ビットワンチップマイコン 三菱電機技報Vol.63,NO.11,pp.66‐70 平成1年(1989)11月25日発行」の文献(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第5号証。以下、刊行物5という。)には、第67頁の表1に、CPUの中にシリアルI/OとしてUARTとクロック同期型の2種類が内蔵されていることが示されており、かつ第68頁左欄第4〜5行に「シリアルI/Oは2本あり、それぞれ非同期型(UART)、クロック同期型の選択が可能である。」、第68頁左欄第5行〜右欄第2行に、「非同期型のデータフォーマットは7ビット、8ビット、9ビットの3とおりある。1ストップビット/2ストップビットの選択、パリティビットの有無の選択、奇数パリティ/偶数パリティの選択が可能である。」と記載されており、さらに、第70頁の図9には、ワンチップCPUに、シリアルI/O(SIO)のデータ送信端子(TXD0、TXD1)とデータ受信端子(RXD0、RXD1)が別々に独立して存在することが記載されている。
「DMAコントローラ内蔵高性能16ビットワンチップマイコン 三菱電機技報 Vo.63,NO.11,pp.71‐76 平成1年(1989)11月25日発行」の文献(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第6号証。以下、刊行物6という。)には、CPUにシリアルI/Oとして非同期型とクロック同期型の2種類が内蔵されていて、非同期型(UART)、クロック同期型のどちらかを選択できることが示されている(第71頁の表1、及び第72頁左欄6〜7行)。
特開平1一102690号公報(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第7号証。以下、刊行物7という。)には、第2頁右下欄第7行〜第3頁右上欄第13行に記載されたマイクロコンュータの性能概要の中で、1つのCPUの中でシリアル入出力とクロック同期型と非同期型を内蔵していることが示されている。また、第4図のポートコントロール(31)では、データ用の同期クロック入出力端子(CLK)が記載されている。さらに、クロック同期型と非同期型の切替方法が第5〜9図を基に具体的に記載されている。また、「P33,P34はシリアルデー夕入出力端子(TxD、RxD)としての機能が、それぞれ割り与えられている。」(第3頁右下欄第8〜9行)と記載されており、第4図には、ポートコントロール(31)では、データ送信用端子(TxD)とデータ受信用端子(RxD)は別々に独立して存在することが記載されている。さらに、第3頁左下欄第10〜17行には、第4図のCPUの機能ブロックのシリアル入出力にはクロック同期型と非同期型(UART)の2種類のシリアル入出力を内蔵していて、これらの機能はソフトウェアで選択することが記載されている。そして、第5図には、送受信モードレジスタを設け、伝送形式の設定にも使うことが記載されている。
「データ伝送 ウイリアム・R・ベネット及びジェームス・R・デーヴィ著、甘利省吾監訳、ラテイス株式会社、昭和57年9月1日改訂版第4刷発行」の文献(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第8号証。以下、刊行物8という。)には、第274〜276頁に記載の14一5項「同期の信頼度の改善」の説明の中で、図14一3に同期方式の場合のフレームシーケンスの検出の場合について示されており、この中でデータ信号とクロックの送信方向を同一方向とすることが記載されている。
「データ・ブックマイクロプロセッサ/周辺、発行 日本電気株式会社電子デバイスマーケティング本部、発行日:昭和62年4月1日」の文献(特許異議申立人松下忠司提出の甲第1号証。以下、刊行物9という。)には、調歩同期式とHDLC方式(クロック同期方式)とを切り換えられるNEC製マイクロプロセッサ「μPD7201A」が記載されている。
米国特許第4,873,427号特許明細書(特許異議申立人松下忠司提出の甲第2号証。以下、刊行物10という。)には、ICカードにおいて、クロック同期方式を用いる技術が記載されている。
「三菱電機技報 Vo l.63 No.11 1989 三菱電機技報社、発行日:1989年11月25日」の文献(特許異議申立人松下忠司提出の甲第5号証。以下、刊行物13という。)には、調歩同期式とクロック同期式とを選択可能なマイクロプロセッサが記載されている。
(対比・判断)
上記刊行物1は平成2年(1990)4月に発行されており、その刊行物1において言及されているISO/IEC 7816-3の技術内容である「電気信号と交換プロトコル」は、本件の特許出願日前に公知である。そして、ISO/IEC 7816-3の具体的技術内容については、1989-09-15にFirst editionの上記刊行物2に記載されている。また、このISO/IEC 7816-3を基に、技術的内容及び規格表の様式を変更することなく作成したものとしてJIS規格が制定されており、「日本工業規格 外部端子付き I Cカード-電気信号及び伝送プロトコル JIS X 6304-1993(ISO/IEC 7816-3)1989(ISO/IEC 7816-31989/Amid1.1992)としてその内容が平成5年11月30日日本規格協会より文献(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第3号証。以下、刊行物3という。)として発行されている。
そこで、ISO/IEC 7816-3の具体的技術内容からなる発明(以下、刊行物2記載の発明という。)を、上記刊行物3を参照して、本件の各請求項に係る各発明と対比検討する。
訂正明細書の請求項1に係る発明について
訂正明細書の請求項1に係る発明と刊行物2記載の発明とを対比検討すると、次のとおりである。
(a)訂正明細書の請求項1に係る発明は、リーダライタとICカードとの間でデータ通信を行なうとしているが、刊行物2記載の発明においても、(ICカードが動作中に電気的に接続されている端末、通信装置又は機器である)接続装置とICカードとの間の交信について記載されており、この交信をするに際し、接続装置(Interface device)がリーダライタを備えることはごく普通のことである、あるいは、少なくとも、当業者が容易になし得ることにすぎないから、訂正明細書の請求項1に係る発明において、リーダライタとICカードとの間でデータ通信を行なうとする点は、格別なものとはいえない。
(b)刊行物2記載の発明においては、接続装置とICカードとの間の交信に際し、非同期伝送方式及び同期伝送方式を用いることが記載されているところ、この非同期伝送方式が上記刊行物2の記載、特には、キャラクタ伝送の形から、開始ビットが定間隔で起きている定調歩式であるのか、あるいは、スタートビットとストップビットを有する調歩式であるのか明りょうではない。したがって、刊行物2記載の発明が非同期伝送方式を用いるとする点と本件訂正明細書の請求項1に係る発明が調歩同期方式を用いるとする点とが相違するといえるかもしれないが、調歩伝送方式については、本件の特許出願前に普通に知られた技術であるから、少なくとも、上記刊行物2記載の発明の非同期伝送方式として調歩伝送方式を用いるとすることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(c)刊行物2記載の発明においては、クロック信号又はタイミング信号を入力するCLK端子を設け、同期式伝送においてこの信号に同期してビット列を伝送するようにしており、同期式伝送においては、外部端子からの信号がクロック信号となり、また、タイミング信号となるものであるから、この外部端子を設けるとしている点は、訂正明細書の請求項1に係る発明において、クロック同期方式のデータ用クロックの伝送のための外部端子を設ける点に相当する。
なお、本件訂正明細書には、クロック同期方式のデータ用クロックの伝送をICカードを駆動するクロックとは別の外部端子を用いること、及び、クロック同期方式のデータ用クロックをICカードからリーダライタにも送っている実施例が記載されており、この実施例は、上記刊行物2記載の発明のような、データ用クロックとICカードを駆動するクロックとを同じ外部端子を用いて行なうものであって、データ用クロックは接続装置からICカードに伝送するだけであるとするものとは一応相違するが、クロック同期方式を用いてデータを送信するにあたり、同期用のクロック信号を専用の信号線を用いて送信すること(例えば、A装置からの出力データをB装置に送信する際に、同期用のクロック信号を専用の信号線を用いて送信すること、及び、B装置からの出力データをA装置に送信する際に、同期用クロック信号を専用の信号線を用いて送信すること)は、本件出願前周知の技術(必要ならば、例えば、「新・データ伝送システム」編者 副島俊雄、昭和57年8月31日初版、産業図書株式会社発行、第27〜28頁(特に図3.3(a))、第137〜第138頁の(12)〜(14)の記載参照。)であるから、上記刊行物2記載のICカードの外部端子(ISO7816-2)において、同期用のクロック信号を専用の信号線を用いて伝送する際の端子として、reserveされている端子C4あるいはC8を用い、かつ、接続装置とICカードの双方向にクロック同期方式のデータ用クロックを伝送するとすることは当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。
(d)刊行物2には、同一規格のICカードにおいて、調歩同期方式及びクロック同期方式のそれぞれの規格が記載されているものの、ICカードにおいて、調歩同期方式とクロック同期方式とを共に用いるようにする点については言及されていない。ただ、刊行物7に記載されているように、データの伝送制御の用途に向いているとして、クロック同期型と非同期型を内蔵し、それらクロック同期型と非同期型とを切り換える手段を設けたCPUが本件出願前に知られている(もちろん、上記刊行物7には、このCPUを用いたバーコードシステムについても記載されている)ことからすると、上記刊行物2記載の発明において、調歩同期方式とクロック同期方式のいずれかに切り換える切り換え手段を設け、調歩同期方式とクロック同期方式のいずれか一方に切り換えてデータ通信を行なうとすることは当業者が容易になし得ることにすぎない。
したがって、本件訂正明細書の請求項1に係る発明のICカードにおいて、調歩同期方式、クロック同期方式のいずれかに切り換える切り換え手段を設け、調歩同期方式とクロック同期方式のいずれか一方に切り換えてデータ通信を行なうとすることは、上記刊行物2記載に基づき、上記刊行物7を参照して、当業者が容易になし得ることにすぎない。
そして、クロック同期モードを適用した高速データ通信専用装置と通常のバンキングカードなどの調歩同期モードを用いたリーダライタの両方に一枚のカードで適用できる(本件の訂正明細書第12頁第4〜7行)といったことは、当業者が想到できる範囲内のことである。
なお、本件の訂正明細書には、初期設定時には調歩同期モードとし、所定時間経過後にモード切換えプログラムによって、調歩同期モードからクロック同期モードに自動的に切り換えること(訂正明細書第11頁第12〜19行。なお、モードの切り換えは、データ通信制御プログラムとリーダライタからのコマンドによって行われる(第10頁第18〜24行)と説明されているにもかかわらず、何の説明もないモード切換えプログラム(データ通信制御プログラムの一部であるのか、それともまったく別のものであるのか、どのような仕組みで自動的に切り換えるのか、あるいはリーダライタが備えているのか、ICカードに備えられたものであるのか、等)により、コマンドの入力がなくても、自動的にモードの切換えが行われるとしており、技術内容が明確でない。)が記載されているが、伝送技術に関していえば、例えば、確実に転送される必要がある制御情報などの送信に際しては、転送速度の遅いモードを用い、データの送信に際しては、転送速度の速いモードを用いるといったモード切換えは、本件出願前普通に知られている(必要ならば、例えば、特公昭63-2514号公報参照)ことであるから、伝送技術におけるモード切換えの考え方を複数モードを有するICカードに適用して、本件訂正明細書の上記のようなモード切換えを行えるようにするといったことは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
また、本件の訂正明細書には、初期設定時からクロックモードを使用してもよいとする点(訂正明細書第11頁第23〜26行)や、リーダライタからの切換えコマンドによって、調歩同期モードからクロック同期モードあるいはこの逆に、モード切換えを行うようにしてもよいといった点(訂正明細書第11頁第26〜28行)が記載されているが、当業者が、用途用途に応じて、適宜なし得ることにすぎない
以上(a)〜(d)のとおりであるから、本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物2記載の発明に基づき、周知技術を参酌して、当業者が容易になし得るものにすぎない。
訂正明細書の請求項2に係る発明について
訂正明細書の請求項2に係る発明と刊行物2記載の発明とを対比検討すると、次のとおりである。
(e)訂正明細書の請求項2に係る発明は、訂正明細書の請求項1に係る発明を引用しているところ、訂正明細書の請求項1に係る構成については、前記したとおりである。
(f)刊行物2には、「T=2及びT=3は、将来の全二重伝送用に留保する。」と記載されており、データ入力用の第1の外部端子と、データ出力用の第2の外部端子を設けるとすることは、前記記載の示唆に基づき当業者が容易になし得ることにすぎない。また、上記刊行物5あるいは上記刊行物7に記載されているように、データ送信端子とデータ受信端子を別々に独立して設けるとすることは、ワンチップマイコンの構成においてごく普通に用いられている技術内容にすぎないから、本件訂正明細書の請求項2に係る発明のデータ入力用の第1の外部端子とデータ出力用の第2の外部端子を設けるとすることは、当業者が容易になし得ることでもある。
よって、本件訂正明細書の請求項2に係る発明は、刊行物2記載の発明に基づき当業者が容易になし得るものにすぎない。
訂正明細書の請求項3に係る発明について
訂正明細書の請求項3に係る発明と刊行物2記載の発明とを対比検討すると、次のとおりである。
(g)訂正明細書の請求項3に係る発明は、訂正明細書の請求項1に係る発明を引用しているところ、訂正明細書の請求項1に係る構成については、前記したとおりである。
(h)データとデータ用クロックとの送信方向を一致させるとすることは、データをデータ用クロックで同期させようとするのであるから当然のことというべきことである。このような点は、上記刊行物8にも記載されており、格別なことではない。
よって、本件訂正明細書の請求項3に係る発明は、上記刊行物2記載の発明に基づき、技術常識を参酌して、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(まとめ)
以上のとおり、本件訂正明細書の請求項1,2,3に係るそれぞれの発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同第126条第4項の規定に適合せず、よって、本件訂正は認められない。
4.特許異議申立てについて
(各請求項に係る各発明について)
本件特許第2771313号の各請求項に係る各発明は、特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】リーダライタとの間で調歩同期方式によるデータ通信を行うようにしたICカードにおいて、データ用クロックの伝送のための外部端子を設け、調歩同期方式、クロック同期方式のいずれかに切換える切換手段を備え、調歩同期方式とクロック同期方式のいずれか一方に切換えてデータ通信を可能としたことを特徴とするICカード。
【請求項2】請求項(1)において、クロック同期方式によるデータ通信のための第1の入出力装置と、該第1の入出力装置と調歩同期方式によるデータ通信のための第2の入出力装置との切換えを行なう手段とを設けたことを特徴とするICカード。
【請求項3】請求項(1)または(2)において、データ入力用の第1の外部端子と、 データ出力用の第2の外部端子とを有することを特徴とするICカード。
【請求項4】請求項(1)または(2)記載のICカードとリ一ドライタとからなり、 調歩同期方式によるデータ通信とクロック同期方式によるデータ通信とを可能としたICカードシステムにおいて、 該クロック同期方式による該ICカード、該リードライタ間でのデータ通信に際し、データとデータ用クロックとの送信方向が一致することを特徴とするICカードシステム。」
(引用刊行物)
これに対し、当審が通知した取消理由通知書において引用した刊行物には、前記「3.」の「(引用刊行物)」に示したとおりの記述がなされている。
(対比・判断)
上記刊行物1は平成2年(1990)4月に発行されており、その刊行物1において言及されているISO/IEC 7816-3の技術内容である「電気信号と交換プロトコル」は、本件の特許出願日前に公知である。そして、ISO/IEC 7816-3の具体的技術内容については、1989-09-15にFirst editionの上記刊行物2に記載されている。また、このISO/IEC 7816-3を基に、技術的内容及び規格表の様式を変更することなく作成したものとしてJIS規格が制定されており、「日本工業規格 外部端子付き I Cカード-電気信号及び伝送プロトコル JIS X 6304-1993(ISO/IEC 7816-3)1989(ISO/IEC 7816-31989/Amid1.1992)としてその内容が平成5年11月30日日本規格協会より文献(特許異議申立人日本電信電話株式会社提出の甲第3号証。以下、刊行物3という。)として発行されている。
そこで、ISO/IEC 7816-3の具体的技術内容からなる発明(以下、刊行物2記載の発明という。)を、上記刊行物3を参照して、本件の各請求項に係る各発明と対比検討する。
請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明(以下、本件第1発明という。)と刊行物2記載の発明とを対比検討すると、次のとおりである。
(a)本件第1発明は、リーダライタとICカードとの間でデータ通信を行なうとしているが、刊行物2記載の発明においても、(ICカードが動作中に電気的に接続されている端末、通信装置又は機器である)接続装置とICカードとの間の交信について記載されており、この交信をするに際し、接続装置(Interface device)がリーダライタを備えることはごく普通のことである、あるいは、少なくとも、当業者が容易になし得ることにすぎないから、本件第1発明において、リーダライタとICカードとの間でデータ通信を行なうとする点は、格別なものとはいえない。
(b)刊行物2記載の発明においては、接続装置とICカードとの間の交信に際し、非同期伝送方式及び同期伝送方式を用いることが記載されているところ、この非同期伝送方式が上記刊行物2の記載、特には、キャラクタ伝送の形から、開始ビットが定間隔で起きている定調歩式であるのか、あるいは、スタートビットとストップビットを有する調歩式であるのか明りょうではない。したがって、刊行物2記載の発明が非同期伝送方式を用いるとする点と本件第1発明が調歩同期方式を用いるとする点とが相違するといえるかもしれないが、調歩伝送方式については、本件の特許出願前に普通に知られた技術であるから、少なくとも、上記刊行物2記載の発明の非同期伝送方式として調歩伝送方式を用いるとすることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(c)刊行物2記載の発明においては、クロック信号又はタイミング信号を入力するCLK端子を設け、同期式伝送においてこの信号に同期してビット列を伝送するようにしており、同期式伝送においては、外部端子からの信号がクロック信号となり、また、タイミング信号となるものであるから、この外部端子を設けるとしている点は、本件第1発明において、データ用クロックの伝送のための外部端子を設ける点に相当する。
(d)刊行物2には、同一規格のICカードにおいて、調歩同期方式及びクロック同期方式のそれぞれの規格が記載されているものの、ICカードにおいて、調歩同期方式とクロック同期方式とを共に用いるようにする点については言及されていない。ただ、刊行物7に記載されているように、データの伝送制御の用途に向いているとして、クロック同期型と非同期型を内蔵し、それらクロック同期型と非同期型とを切り換える手段を設けたCPUが本件出願前に知られている(もちろん、上記刊行物7には、このCPUを用いたバーコードシステムについても記載されている)ことからすると、上記刊行物2記載の発明において、調歩同期方式とクロック同期方式のいずれかに切り換える切り換え手段を設け、調歩同期方式とクロック同期方式のいずれか一方に切り換えてデータ通信を行なうとすることは当業者が容易になし得ることにすぎない。
したがって、本件第1発明のICカードにおいて、調歩同期方式、クロック同期方式のいずれかに切り換える切り換え手段を設け、調歩同期方式とクロック同期方式のいずれか一方に切り換えてデータ通信を行なうとすることは、上記刊行物2記載に基づき、上記刊行物7を参照して、当業者が容易になし得ることにすぎない。
そして、クロック同期モードを適用した高速データ通信専用装置と通常のバンキングカードなどの調歩同期モードを用いたリーダライタの両方に一枚のカードで適用できる(本件明細書第26頁第6〜11行)といったことは、当業者が容易に想到できる範囲内のことである。
なお、本件明細書には、初期設定時には調歩同期モードとし、所定時間経過後にモード切換えプログラムによって、調歩同期モードからクロック同期モードに自動的に切り換えること(本件明細書第24頁第13〜第25頁第1行。なお、モードの切り換えは、データ通信制御プログラムとリーダライタからのコマンドによって行われる(第22頁第第19行〜第23頁第7行)と説明されているにもかかわらず、何の説明もないモード切換えプログラム(データ通信制御プログラムの一部であるのか、それともまったく別のものであるのか、どのような仕組みで自動的に切り換えるのか、あるいはリーダライタが備えているのか、ICカードに備えられたものであるのか、等)により、コマンドの入力がなくても、自動的にモードの切換えが行われるとしており、技術内容が明確でない。)が記載されているが、伝送技術に関していえば、例えば、確実に転送される必要がある制御情報などの送信に際しては、転送速度の遅いモードを用い、データの送信に際しては、転送速度の速いモードを用いるといったモード切換えは、本件出願前普通に知られている(必要ならば、例えば、特公昭63-2514号公報参照)ことであるから、伝送技術におけるモード切換えの考え方を複数モードを有するICカードに適用して、上記本件明細書の記載のようなモード切換えを行うようにするといったことは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
また、本件明細書には、初期設定時からクロックモードを使用してもよいとする点(本件明細書第25頁第13〜15行)や、リーダライタからの切換えコマンドによって、調歩同期モードからクロック同期モードあるいはこの逆に、モード切換えを行うようにしてもよいといった点(本件明細書第25頁第16〜19行)が記載されているが、当業者が、用途用途に応じて、適宜なし得ることにすぎない
以上(a)〜(d)のとおりであるから、本件第1発明は、刊行物2記載の発明に基づき、周知技術を参酌して、当業者が容易になし得るものにすぎない。
請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明(以下、本件第2発明という。)と刊行物2記載の発明とを対比検討すると、次のとおりである。
(e)本件第1発明については、前記したとおりである。
(f)請求項2記載の「クロック同期方式によるデータ通信のための第1の入出力装置」、「調歩同期方式によるデータ通信のための第2の入出力装置」及び「切り換え手段」とを設けることについて、明細書の発明の詳細な説明の欄に説明されていないという点はさておき、クロック同期方式によるデータ通信のための第1の入出力装置と調歩同期方式によるデータ通信のための第2の入出力装置とを設け、適宜の切り換え手段により切換えるとすることは、本件の特許出願前周知の技術(例えば、上記刊行物5,6参照)であって、刊行物2記載の発明のI/Oとしてこれら周知技術を用いるとすることは当業者が適宜なし得ることにすぎない。
よって、本件第2発明は、刊行物2記載の発明に基づき、周知技術を参酌して、当業者が適宜なし得るものにすぎない。
請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明(以下、本件第3発明という。)と刊行物2記載の発明とを対比検討すると、次のとおりである。
(g)本件第1発明または本件第2発明に係る構成については、前記したとおりである。
(h)刊行物2には、「T=2及びT=3は、将来の全二重伝送用に留保する。」と記載されており、データ入力用の第1の外部端子と、データ出力用の第2の外部端子を設けるとすることは、前期記載の示唆に基づき当業者が容易になし得ることにすぎない。また、上記刊行物5あるいは上記刊行物7に記載されているように、データ送信端子とデータ受信端子を別々に独立して設けるとすることは、ワンチップマイコンの構成においてごく普通に用いられている技術内容にすぎないから、本件第3発明のデータ入力用の第1の外部端子とデータ出力用の第2の外部端子を設けるとすることは、当業者が容易になし得ることでもある。
よって、本件第3発明は、刊行物2記載の発明に基づき、あるいは周知技術を参酌して、当業者が容易になし得るものにすぎない。
請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明(以下、本件第4発明という。)と刊行物2記載の発明とを対比検討すると、次のとおりである。
(i)本件第1発明または本件第2発明に係る構成については、前記したとおりである。
(j)データとデータ用クロックとの送信方向を一致させるとすることは、データをデータ用クロックで同期させようとするのであるから当然のことというべきことである。このような点は、上記刊行物8にも記載されており、格別なことではない。
よって、本件第4発明は、上記刊行物2記載の発明に基づき、技術常識を参酌して、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(まとめ)
以上のとおり、本件第1発明乃至本件第4発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-07-12 
出願番号 特願平2-146078
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (G06K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 川名 幹夫
特許庁審判官 吉見 信明
大橋 隆夫
登録日 1998-04-17 
登録番号 特許第2771313号(P2771313)
権利者 日立マクセル株式会社 日本放送協会
発明の名称 ICカードおよびICカードシステム  
代理人 武 顕次郎  
代理人 澤井 敬史  
代理人 武 顕次郎  

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