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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  G01N
管理番号 1024792
異議申立番号 異議1998-70041  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-11-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-01-09 
確定日 1999-07-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2628571号「オリゴヌクレオチドの分析装置」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2628571号の特許請求の範囲第1項ないし第34項に記載された発明についての特許を維持する。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第2,628,571号の発明は、昭和60年1月16日(優先権主張、1984年1月16日、米国)の特許出願の分割出願として、平成6年3月28日に出願されたものである。そして、平成9年4月18日にその発明について特許の設定登録がされた。
その後、本件特許について申立人山本富士男および申立人アメルシャム・ファルマシア・バイオテック・アクチボラグから特許異議の申立があり、取消理由が通知され、それに対する意見書および訂正請求書が平成10年9月28日に提出された。そして、2度目の取消理由および訂正拒絶理由が通知され、それに対する意見書および前記訂正請求書の補正書が平成11年6月8日に提出された。
II 訂正の適否の検討
1.訂正事項
前記平成11年6月8日付で補正された訂正請求書による訂正事項
▲1▼ 訂正事項a
本件特許明細書の請求項1および請求項13の記載事項「該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドをその発色団または蛍光発色剤で検出する検出手段、ここで、該検出手段はオリゴヌクレオチドの一塩基の長さによる差異を識別し、検出し得る;」を、
「該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを、該分離手段が作動する間にその発色団または蛍光発色剤で検出し、それによって、オリゴヌクレオチドの一塩基の長さによる差異を識別し検出し得る、検出手段」
に訂正する。
そして、本件特許明細書の請求項24の記載事項「該分離された、個々の標識されたフラグメントを該発色団の電磁吸収もしくは蛍光発色剤の電磁放射によって検出する検出手段」を、
「該分離された、個々の標識されたフラグメントを、該分離手段が作動する間に該発色団の光吸収もしくは蛍光発色剤の蛍光によって検出する検出手段」
に訂正する。
▲2▼ 訂正事項b
本件特許明細書の請求項3および請求項15の記載事項「動電力源」を、
「電源」
に訂正する。
▲3▼ 訂正事項c
本件特許明細書の請求項24の記載事項「該オリゴヌクレオチドに相補的な複数のフラグメントのソースと;ここで、個々のフラグメントはオリゴヌクレオチド配列決定反応で生じる;個々のフラグメントは互いに識別し得る複数の発色団あるいは蛍光発色剤の一つで標識されている; 該標識されたフラグメントの部分を一塩基による差異で分離し得る分離手段」を、
「該オリゴヌクレオチドに相補的な複数のフラグメントの部分を一塩基による差異で分離する分離手段であって、ここで個々のフラグメントは、オリゴヌクレオチド配列決定反応で生じ、かつ互いに識別し得る複数の発色団あるいは蛍光発色剤の一つで5’末端あるいはその近傍が標識されている、分離手段」
に訂正する。
▲4▼ 訂正事項d
特許明細書段落番号【0010】の記載事項「動電力源」を
「電源」
に訂正する。
▲5▼ 訂正事項e
本件特許明細書の請求項1および請求項13の記載事項「標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離し得る、分離手段」を、
「標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離する、分離手段」
に訂正する。
2.訂正の目的
上記訂正事項a、訂正事項cおよび訂正事項eは、特許請求の範囲の減縮を目的としている。
そして、訂正事項bおよび訂正事項dは、明りょうでない記載の釈明を目的にしている。
3.明細書の記載事項の範囲内
上記訂正事項は、いずれも本件特許明細書の記載事項の範囲内である。
4.拡張・変更
上記訂正事項は、特許請求の範囲を拡張するものでなく、また、変更するものでもない。
5.独立特許要件
5.1 本件訂正発明
本件訂正発明は、前記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜12の発明(以下訂正第1発明という)、請求項13〜23の発明(以下訂正第2発明という)および請求項24〜34の発明(以下訂正第3発明という)である。これらの各発明は、請求項1、請求項13および請求項24の記載事項を要旨とするものである。本件訂正発明は、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項a、訂正事項cまたは訂正事項eを含んでいる。
訂正明細書の請求項1、請求項13および請求項24は次のとおりである。
【請求項1】(訂正第1発明)
オリゴヌクレオチドを分析する装置であって、該装置は:
それぞれが、発色団あるいは蛍光発色剤で5’末端を標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離する、分離手段;および、
該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを、該分離手段が作動する間にその発色団または蛍光発色剤で検出し、それによって、オリゴヌクレオチドの一塩基の長さによる差異を識別し検出し得る、検出手段;
を有する装置。
【請求項13】(訂正第2発明)
オリゴヌクオチドを分析する装置であって、該装置は:
標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離する、分離手段;ここで、それぞれのオリゴヌクレオチドは、プライマー延伸反応を妨げないように発色団あるいは蛍光発色剤で5’末端あるいはその近傍が標識されたプライマーの延伸反応で得られたものである;
および、
該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを、該分離手段が作動する間にその発色団または蛍光発色剤で検出し、それによって、ヌクレオチド一塩基の長さによる差異を識別し検出し得る、検出手段;
を有する装置。
【請求項24】(訂正第3発明)
オリゴヌクレオチドの配列の一部を決定する装置であって、該装置は、
該オリゴヌクレオチドに相補的な複数のフラグメントの部分を一塩基による差異で分離する分離手段であって、ここで個々のフラグメントは、オリゴヌクレオチド配列決定反応で生じ、かつ互いに識別し得る複数の発色団あるいは蛍光発色剤の一つで5’末端あるいはその近傍が標識されている、分離手段と;
該分離された、個々の標識されたフラグメントを、該分離手段が作動する間に該発色団の光吸収もしくは蛍光発色剤の蛍光によって検出する検出手段と;
そして
該オリゴヌクレオチドの該一部を有する核酸成分の順序を決定するために、該検出されたフラグメントに関する情報をリアルタイムに集める手段と、
該検出されたフラグメントを解析する手段と、を備える装置。
5.2 取消理由通知
取消理由通知には、下記の刊行物1〜7が引用されている。
刊行物1:
和田昭允「DNA技術の独創的な発展を求めての基盤作り」日本の科学と技術 5-6特集バイオテクノロジーII 第24巻、口絵11頁、84頁-91頁(1983)、財団法人日本科学技術振興財団 科学技術館発行
刊行物2:
土屋政幸ら、生物物理第20回年会講演予稿集(1982)2-E-19
刊行物3:
Hilbert Eshaghpour et al” Specific Chemical labeling of DNA fragments”,Nucleic Acid Research, Vol.7,No.6 1485頁〜 1495 頁(1979年)
刊行物4:
S.A.Douglass et al ”Methods and Instrumentation for Fluorescence Quantitation of Proteins and DNA’s in Electrophoresis Gels at the 1 ng Level ”,Electrophoreisis,155-165頁(1978)
刊行物5:
伏見譲、応用物理Vol.51、No.12、1400頁(1982)
刊行物6:
J.G.J.BAUMAN et al”A new method for fluorcecence microscopical localization of specific DNA scquences by in situ hybridization of fluorochrome-1abe11ed RNA”Exp.CcllRes.128、485-490頁(1980)。
刊行物7:
GORAN AKUSJARVI et al” Nucleotide sequence at the junction between the codingregion of the adenovirus 2hexonmessenger RNA and its 1eader sequence” Proc.Natl.Acad.Sci.USA Vol.75,No.12,5822-5826頁(1978)
5.3 引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1は、科学技術雑誌に掲載された、「DNA技術の独創的な発展を求めての基盤作り」という表題の記事である。
刊行物1には、下記事項が記載されている。
(1a) プロジェクトの目的
「 このプロジェクトでは、DNAの塩基配列を再現性よく解読・解析する自動システムの開発を目的とする。
DNA塩基配列の分析には、大きく分けて、マクサム-ギルバート法とサンガー法とあり、これらの開発以来5年間ですでに世界の研究者によって200万字が解読されていると考えられている。しかし、ヒトのDNAはこの1500倍の30億字を持っており、他の生物、特に有用微生物、有用遺伝子、あるいは癌などの病原遺伝子などの解読を考えるなら、その対象は無限にあるといえる。ここに、自動解読システムを開発する必要性が出てくる。・・・
解析のプロセスは、DNA分子鎖の特異的切断、電気泳動、及び泳動パターンの読み取りと解析に分かれているので、プロジェクトの分担もこれに沿ってなされている。」
(1b) DNAシーケンサ試作1号機
特に、刊行物1の口絵11頁には、DNAシーケンサ試作1号機の実物写真(写真1・3及び4)が掲載されている。
この試作1号機について、「マクサム・ギルバート法による塩基配列決定の際の化学的切断処理の自動化を目的とし、グアニン(G)の切断処理の自動化を実現した」と説明されている。
(1c)高分解能電気泳動膜の開発
「 前項のロボットで調製したDNAフラグメントは、口絵11頁写真のように電気泳動膜上に展開して分離し解読する。」(刊行物1、87頁左欄)
口絵11頁の写真2は、人の操作(GACT)とこの自動化装置(gact)によるDNA切断結果の比較として、ゲル電気泳動によるDNA断片の分離状態を示している。
(1d)電気泳動分析システム
「 32Pで標識したDNAフラグメントを高分解能電気泳動膜上に泳動させた後、X線フィルムに感光させる。・・・。1枚のフィルムから50から100、場合によって200もの塩基を目視で判別するのは容易ではない。そこでこの塩基の読み取り作業を機械的に処理するための装置-DNA塩基配列自動読み取り装置を試作した。この装置は光学系、駆動系、データ伝送系から構成されている。オートラジオグラフを装置上面のガラス板上に置き、読み始めの点を指示してやれば、後はコンピュータの判断によって光学端子がフィルム上を自動的に操作し、次々に映像データを光学的に読みとってゆく。」(刊行物1、87頁右欄)
(1f)蛍光標識
「 一方、DNAの標識法を32Pから蛍光に代えて、いかに高感度でDNAフラグメントを識別できるかについての研究を行っている。一般に放射能標識は特定の区域内でしか用いることができず、かつ操作が煩雑であるという欠点を持っている。それに反し、蛍光標識はバックグランドの影響を低減させれば潜在的に放射能標識を上回る感度を持っており、実時間検出やその自動化が可能である。現に化学処理を施したDNAフラグメントの末端のアデニンを目標に蛍光標識を行い、それをポリアクリルアミドゲルで電気泳動させ、移動してくるDNAにHe-Cdレーザ光を照射し、標識から発する蛍光を測定する装置を試作している。この方法を用いれば、4種類の塩基に各々異なった波長の蛍光を標織し、レーザ光の波長を変えて分析すれば即座に塩基の種類が識別できる。これはオートラジオグラフに取って代わる新しいDNA識別法として注目されている。
(2)刊行物2
刊行物2には、化学的あるいは酵素的方法でDNA断片を蛍光標識し、電気泳動によってDNA断片を分離し、レーザー励起によって移動バンドを検出し、得られたデータをマイクロコンピューターで解析して、分析結果を自動的にプリントアウトする方法が記載されている。
(3)刊行物3
刊行物3は、「DNAフラグメントの特異的化学的標識化」という表題の学術論文である。刊行物3には以下の事項が記載されている。
(3a) 用途
「 このDNAフラグメントの化学的標識法は、溶液中でのタンパク質-DNAの特異的相互作用の研究などに用いうる。」(刊行物3、ABSTRACT6行〜7行)
(3b) 3’末端が標識されたDNA断片
フルオレセイン及びエオシン蛍光標識で3’末端が標識されたDNA断片を電気泳動し蛍光検出することが記載されている。(刊行物3、1488頁25行〜1490頁16行)
(3c)蛍光測定
(イ)蛍光測定が蛍光分光光度計により行われること、
(ロ)蛍光標識がフルオレセインの場合、490nmで励起し、蛍光発光は520nmで測定し、蛍光標識がエオシンの場合、520nmで励起し、蛍光発光は540nmで測定すること、
(ハ)電気泳動媒体としてポリアクリルアミドゲルが使用されること、
(ニ)ゲルに100〜120ボルトの電圧を印加すること、
により電気泳動させることが記載されている。(1489頁下2行〜1490頁16行)
(4)刊行物4
刊行物4には、電気泳動ゲル内における蛍光標識DNA断片の光度測定的検出が記載されている。
(5)刊行物5
刊行物5には、ギルバート(Girbert)のDNA配列決定法(化学的分解法)に対し、放射線検出に代え、分光学的手段を適用することが記載されている。
(6)刊行物6
刊行物6には、蛍光色素標識RNAの特異的DNA配列へのハイブリダイゼーションに関連して、2種の異なった蛍光色素標識を同時に検出し、且つ区別することが記載されている。
刊行物6の方法では、赤色ローダミン蛍光および青色4′,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)蛍光を、励起波長の変化により、交互に観察している(489頁、左欄19-26行)。
(7)刊行物7
刊行物7には、2重鎖DNAフラグメントを制限酵素で開裂させれば、より短いプライマーを得ることができることが記載されている。
5.4 本件発明の概要
本件発明は、オリゴヌクレオチドを分析する装置に関するものであり、本件特許公報には次のように説明されている。
5.4.1 【従来の技術】
(1)配列分析法の開発【0002】
DNA(デオキシリボ核酸)およびRNA(リボ核酸)の信頼しうる配列分析法の開発は、組換DNA技術および遺伝子工学の成功に対する1つの鍵となっている。近代分子生物学の他の技術と共に使用すれば、核酸配列を決定することによって動物、植物およびウイルスのゲノムを所定の化学構造を有する個々の遺伝子に分解しかつ分析することを可能にする。生物学的分子の機能はその構造により決定されるので、遺伝子の構造の決定は遺伝情報のこの基本単位を有用な方法で最終的に処理するのに重要である。遺伝子を単離しかつ特性化することができれば、これらは原蛋白質が有するものとは異なる性質を有する遺伝子生成物(すなわち蛋白質)の産生を可能にするように改変することができ、その構造における所望の変化をもたらすことができる。天然もしくは合成の遺伝子が組み込まれる微生物を化学「工場」として使用し、たとえばインタフェロン、成長ホルモンおよびインシュリンのような微量なヒト蛋白質を多量に産生させることができる。植物に遺伝情報を与えて、これらを過酷な環境条件で生存させ、あるいはそれ自身の栄養素を生産することができる。
(2) クローン化【0003】
近代の核酸配列決定法の開発によって、各種の技術が並行的に開発されている。その1つは、DNAの小型乃至中型ストランドを細菌プラスミド、バクテリオファージ、あるいは小動物のウイルスにクローン化させる簡単かつ確実な方法の出現であった。これは、化学分析するのに充分な量で純粋なDNAを産生することを可能にした。
(3)ゲル電気泳動法
他の開発は、オリゴヌクレオチドをその寸法に応じて高度に解離、分離するためのゲル電気泳動法の完成であった。
(4)精製されたDNA断片を生成する方法
しかしながら、開発の鍵となる概念は、一連の寸法群のクローン化され、かつ精製されたDNA断片を生成する方法の導入である。これら断片はその種々な長さの集合として、もとのDNA分子を構成するヌクレオチドの配列を決定するのに必要とされる情報を含んでいる。これら断片群を生成させるための2つの異なる方法が広範に使用されており、その1つはサンガーにより開発されたもの〔エフ・サンガー、エス・ニックレンおよびエー・アール・クールソン、プロシーディング・ナショナル・アカデミー・サイエンス・USA、第74巻 第5463頁(1977)およびエー・ジェー・エッチ・スミス、メソッヅ・イン・エンザイモロジー、第65巻 第56-580頁(1980)〕であり、もう1つはマキサムおよびギルバートにより開発されたもの〔エー・エム・マキサムおよびダブリュー・ギルバート、メソッズ・イン・エンザイモロジー、第65巻 第499-559頁(1980)〕である。
(5) サンガー法 : ジデオキシチェーンターミネーション法【0004】
サンガーにより開発された方法をジデオキシチェーンターミネーション法と呼ぶ。この方法の最も一般的に使用される変法においては、DNA断片をたとえばM13のような一本鎖DNAファージにクローン化する。これらのファージDNAは、DNAポリメラーゼIのクレノー断片による相補的ストランドのプライム合成に対する鋳型として使用することができる。このプライマーは合成オリゴヌクレオチドまたは制限断片のいずれかであって、クローン化挿入体の3’末端近くでM13ベクターの領域に特異的にハイブリド化する原組換DNAから単離される。4種の配列決定反応のそれぞれにおいて、プライム合成は4種の可能なデオキシヌクレオチドのうちの1種のジデオキシ誘導体を充分量存在させて行なわれ、その結果、鎖の成長はこれらの「死端部」ヌクレオチドを組み込むことによりランダムに終了される。デオキシ型に対するジデオキシ型の相対濃度は、ゲル電気泳動により分離されうる全ての可能な鎖長に対応する長さが生ずるように調整される。4種のプライム合成反応のそれぞれから得られる生成物を、ポリアクリルアミドゲルの個々のトラック(レーン)で電気泳動により分離する。成長した鎖中に組み込まれた放射能標識を使用して、各電気泳動トラックにおけるDNAパターンのオートラジオグラフを作成する。クローン化DNAにおけるデオキシヌクレオチドの配列を、4つのレーンにおけるバンドパターンを解析して決定する。
(7)マキサム・ギルバート法【0005】
マキサムおよびギルバートにより開発された方法は、精製DNAを化学処理して、サンガー法により得られるものと同様な一連の寸法群のDNA断片を生成させる。3’末端もしくは5’末端のいずれかが放射性リン酸で標識された一本鎖もしくは二重鎖DNAをこの方法により配列決定することができる。4種の反応群において、4種のヌクレオチド塩基のうち1種もしくは2種につき化学処理により開裂を引き起こさせる。開裂は3段階の過程を含む。すなわち、塩基の修飾、修飾された塩基の糖成分からの除去、およびこの糖成分におけるストランド切断である。反応条件は、末端標識された断片の大部分がゲル電気泳動により分離しうるサイズ(典型的には1〜400個のヌクレオチド)となるように調整される。電気泳動、オートラジオグラフおよびパターン解析が、サンガー法とほぼ同様に行なわれる。(化学処理によって、2つのDNA断片が必らず生ずるが、末端標識を有する断片のみがオートラジオグラフで検出される)。
(8)従来技術の問題点【0006】
これらのDNA配列決定法は、広範に使用され、かつそれぞれ幾つかの変法を有する。それぞれの場合、1回の反応群から得られる配列の長さは、主として電気泳動に使用したポリアクリルアミドゲルの分離能により制限される。典型的には、1回のゲルトラックから200〜400個の塩基を解読することができる。これら両方法ではうまくいくが重大な欠点を有する。これは主として電気泳動に伴なう問題である。1つの問題は、ゲルにおけるDNAバンドの位置を決定するため標識として放射性標識を使用する必要があることである。燐-32の短い半減期、すなわち放射性標識剤の不安定性を考慮せねばならず、また放射能廃棄および取り扱いの問題を考慮せねばならない。より重要なことは、オートラジオグラフィーの性質(放射性ゲルバンドのフイルム像はバンド自身よりも幅広いものである)および4種の異なるゲルトラックの間のバンド位置の比較(これはバンド移動の点で均一に挙動したり、しなかったりする)によって、観察されるバンドの分離、すなわちゲルから解読しうる配列の長さが制限される。さらに、トラック毎の不規則性はオートラジオグラフの自動読みとりを困難にし、現在では、これらの不規則性の補正はコンピュータによるよりも肉眼の方が良好である。オートラジオグラフは、人為的に「解読」する必要性があるため時間がかかり、面倒かつ誤差の多いものである。さらに、実際に電気泳動を行ないながらゲルパターンを解読することは不可能であり、隣接するバンドを分離するには解離が不充分である際にも電気泳動を終了することができず、或る基準化した時間で電気泳動を終了させ、かつ配列解読を開始する前に放射能写真が現像されるのを待たねばならない。
5.4.2 【発明が解決しようとする課題】【0007】
本発明は、DNA配列決定法における電気泳動工程に伴なうこれらおよびその他の問題を解決し、かつ当業界に著しい進歩をもたらすものと信じられる。
5.4.3 【課題を解決するための手段】【0008】
(1)オリゴヌクレオチドを分析する装置
本発明は、オリゴヌクレオチドを分析する装置に関し、該装置は、個々のオリゴヌクレオチドが発色団あるいは蛍光発色剤で標識されたプライマーの延伸反応で得られた、標識された複数のオリゴヌクレオチドのソースと、該発色団あるいは蛍光発色剤で標識された複数のオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離し得る、分離手段と、および、該分離され標識されたオリゴヌクレオチドをその発色団または蛍光発色剤で検出する検出手段とを有する、装置に関する。
(2) サンガー法に使用するための標識プライマーの設計【0020】
サンガーのジデオキシチェーンターミネーション法に基づく方法を含め、DNA配列決定の従来法においては、単一の放射性標識、すなわち燐-32を使用して全てのバンドをゲル上で同定する。この方法は、4種の合成反応で生じた断片群を別々のゲルトラックにかけることを必要とし、異なるトラックにおけるバンド移動度を比較することに伴なう問題が生ずる。この問題は、本発明において、それぞれ異なる最大吸収もしくは螢光を有する4種の発色剤もしくは螢光発色剤の群を使用することにより解決される。これら標識のそれぞれを、プライマーへ化学結合させて断片ストランドの合成を開始させるのに使用する。次いで、それぞれ標識されたプライマーをジデオキシヌクレオチドの1種と組み合せ、これを使用してDNAポリメラーゼのクレノー断片によるプライム合成反応に使用する。
(3)プライマーの特性【0021】
プライマーは次の特性を持たねばならない:
1 ポリメラーゼでチェーンを延長させるため遊離の3’ヒドロキシル基を持たねばならない。
2 クローン化挿入体の3’の特有の領域に相補的でなければならない。
3 ハイブリドして独特の安定な二本鎖を形成するのに充分な長さでなければならない。
4 発色団または螢光発色剤はハイブリド化を妨げたり、あるいはポリメラーゼによる3’末端延長を妨げてはならない。
(4)上記条件1〜3のプライマー【0022】
上記条件1、2および3は、M13ベクターを用いるサンガー型配列決定に一般的に使用される数種の合成オリゴヌクレオチドプライマーにより満たされる。この種のプライマーの1つは12mer5´TCA CGA CGT TGT3´であり、ここでA、C、GおよびTはDNAの4種の異なるヌクレオチド成分を示し、Aはアデノシン、Cはシトシン、Gはグアノシン、Tはチミジンを示す。
(5)上記条件4のプライマー【0023】
発色性もしくは螢光性標識の結合については本出願人による1983年12月20日付け出願の米国特許出願第565010号に記載されており、その開示を参考のためここに引用する。使用する方法は、オリゴヌクレオチドプライマーの合成における最後の付加として5’末端に脂肪族アミノ基を導入することである。この反応性アミノ基は次いで広範な種類のアミノ反応性発色剤および(または)螢光発生剤と容易に結合することができる。この方法は、上記条件4による標識プライマーにつき好適である。
(6)標識されたプライマー【0026】
これらの染料はM13プライマーに結合しており、この結合物を20%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動にかける。標識されたプライマーは、ゲルにおけるその吸収と螢光とにより検出することができる。4種の標識プライマーは全て同一の電気泳動移動度を有する。染料結合されたプライマーは、DNAに特異的にハイブリドする能力を保持するが、これは配列決定反応に一般に使用される誘導体化していないオリゴヌクレオチドと置換できることにより示される。
(7)従来技術との対比【0035】
図5は、従来の方法による配列決定法、並びに本発明の改良法による配列決定法を示す。ここでは、好適態様として、4種の標識を使用する場合について、説明する。 図5-IIに示されるように、放射能標識されたDNAを使用する方法は、標識としては1種類しか使用しないので、ポリアクリルアミドゲル電気泳動において、1本のレーン(トラック)では、どれがA、G、C、およびTであるかの区別がつかないため、それぞれ、A、G、C、およびTに対応する4つのトラック(レーン)が必要である。
(8)本発明の効果【0036】
他方、本発明においては、4種類のそれぞれ識別可能な標識を使用するので、どこに、A、G、C、およびTが存在するかがわかるので、1本のゲルを使用すれば足りる(図5-III)。
(9) チェーンターミネーション法の工程 【0040】
チェーンターミネーション法では、以下の工程が使用され得る:
1 DNAプライマーを4種の発色団あるいは螢光物質で標識する(該標識はそのスペクトル特性で相互に識別可能である)工程;
2 それぞれの4種の標識されたDNAプライマーを、それぞれ、A、G、C、およびTのジデオキシトリヌクレオチドを用いるプライマー延伸反応にかける工程;
3 A、G、C、およびTのそれぞれの反応液の一部をとり、混合する工程;
4 A、G、C、およびT反応の混合液を、単一のゲルカラムにかけ、DNAを分離する工程;および、
5 分離されたDNAを発色、あるいは螢光で検出する工程;である。
(10)検出 【0041】
この方法では、発色、あるいは螢光で視覚的に検出できる。従って、図5-IIに示すように、ゲルカラムの下から順に発色を識別していけば、DNA配列が決定される。また、螢光物質を使用する場合は、吸光あるいは励起の最大値を検出することで、DNA配列が決定される。図5-IVは、例えば、4種の励起光をあててこれをモニターし、検出された順に並べることにより、配列がACGTGC・・・と決定される。
(11)本発明の実施例 【0045】
図6は1回に1種の染料を使用するDNA配列決定装置のブロック図を示している。アルゴンイオンレーザー100からのビーム(4880Å)をビーム操作器104によってポリアクリルアミドゲル管(試料)102に通す。このビームにより励起された螢光をF-ナンバーの小さいレンズ106により集め、これを適当な組み合せの光学フィルタ108および110に通過させて散乱励起光を除去し、光電子増信管(PMT)112を用いて検出する。シグナルはチャート記録紙で容易に検出される。DNA配列決定反応は、フルオレセイン標識したオリゴヌクレオチドプライマーを用いて行なわれる。チャート紙におけるピークは、配列決定反応で合成されかつ電気泳動によりゲル管で分離された種々異なる長さを有するフルオレセイン標識されたDNAの断片に相当する。各ピークは10-15〜10-16モルの程度のフルオレセインを含有し、これは放射性同位元素の検出を用いる同等な配列決定用ゲルにおいて1バンド当りに得られるDNA量にほぼ等しい。これは、螢光標識が配列決定反応においてオリゴヌクレオチドプライマーから除去されずあるいは分解されないことを証明する。さらに、これは検出感度が、この手段によりDNA配列分析を行なうのに充分であることを示している。
5.5 訂正第1発明についての検討
ここで、訂正第1発明と、刊行物1に記載の試作された「標識から発する蛍光を測定する装置」(前記(lf)参照)を検出手段として使用する、オリゴヌクレオチドを分析する装置の発明とを対比する。
5.5.1 刊行物1の装置との対応関係
刊行物1記載のオリゴヌクレオチドを分析する装置は、化学処理を施したDNAフラグメントの末端のアデニンを目標に蛍光標識を行い、それをポリアクリルアミドゲルで電気泳動させるものであり (前記(1f)参照)、「標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離する、分離手段」を有するものであり、ここで、それぞれのオリゴヌクレオチドは「蛍光発色剤で標識された」ものである;
刊行物1に記載の、試作された標識から発する蛍光を測定する装置(前記(1f)参照)は、「分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを、該分離手段が作動する間にその発色団または蛍光発色剤で検出し、それによって、オリゴヌクレオチドの一塩基の長さによる差異を識別し検出し得る、検出手段」である。
5.5.2 一致点
したがって、訂正第1発明と刊行物1発明とは、次の点で一致しているといえる。
(一致点)
「 オリゴヌクレオチドを分析する装置であって、該装置は:
それぞれが、発色団あるいは蛍光発色剤で標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離する、分離手段;および、
該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを、該分離手段が作動する間にその発色団または蛍光発色剤で検出し、それによって、オリゴヌクレオチドの一塩基の長さによる差異を識別し検出し得る、検出手段;
を有する装置」である点。
5.5.3 相違点
そして、訂正第1発明と刊行物1発明とは、次の点で相違する。
(相違点)
訂正第1発明では、発色団あるいは蛍光発色剤で5’末端を標識されたオリゴヌクレオチドを使用するものであるのに対し、刊行物1発明では、化学処理を施したオリゴヌクレオチドの末端の塩基(アデニン)を目標に蛍光標識するものである点。
5.5.4 相違点についての検討
そこで、この相違点について以下検討する。
(1)相違点の意味とそれに基づく効果
刊行物1発明では、塩基(アデニン)を目標に標識するものであり、訂正第1発明では塩基(アデニン)を目標に標識するものでない。
そして、刊行物1発明では、化学処理したオリゴヌクレオチドを使用するものであり、すなわち、マキサムギルバート法によるものである。そうすると、この塩基(アデニン)が存在するオリゴヌクレオチドの末端が5’末端の方なのか、3’末端の方なのか不明である。
これに対して、本件発明の5’末端の標識について、オリゴヌクレオチドプライマーの合成における最後の付加として5’末端に脂肪族アミノ基を導入することが説明されている(明細書段落番号【0023】参照)。この反応性アミノ基は次いで広範な種類のアミノ反応性発色剤および(または)螢光発生剤と容易に結合することができ、この方法は、標識プライマーにつき好適であるとされている。
また、特許権者の主張によれば、刊行物1発明の標識は、「一塩基の長さの差を分離・検出することは達成されていない」ものであり、[プライマー延伸反応に不適切」なものである(平成10年9月28日付意見書5頁21行〜6頁2行参照)。
そしてまた、特許権者の主張によれば、本件発明は、従来達成しなかった一塩基の長さによる差異を識別し、検出しえるという顕著な効果を奏するものである(平成10年9月28日付意見書2頁23行〜27行参照)。
(2)他の引用刊行物の関連記載事項
つぎに、この相違点の構成について他の引用刊行物の関連記載事項を検討する。
刊行物2には、サンガー法(チェインターミネーター法)が記載されており、プライマー伸長反応が記載されている。
そして、DNAフラクションに標識(ラベル)することが記載されているが、この標識(ラベル)は、放射能標識(32P)であり、発色団あるいは蛍光発色剤ではない。
また、この標識(ラベル、32P)は、合成される相補鎖を標識するものであり(前記(2c)参照)、プライマーを標識するものではない。
刊行物3には、DNA断片の3’末端を蛍光標識で標識することは記載されているが、5’末端を蛍光標識で標識することは記載されていない。
刊行物3には、プライマー伸長反応を使用する方法で蛍光標識することは記載されていない。
刊行物4〜刊行物7にも、発色団あるいは蛍光発色剤で5’末端を標識されたオリゴヌクレオチドを使用することは記載されていない。
(3)相違点についての検討の結果
以上検討したように、この相違点の構成は、刊行物2〜刊行物7にも記載されていない。
したがって、訂正第1発明は、刊行物1〜刊行物7に記載された発明ということはできない。そして、刊行物1〜刊行物7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということもできない。
(4)備考
なお、特許権者は、本件発明の「分離手段」自体に「一塩基による差異で分離し得る」能力があるかのように主張して、この点で刊行物1の装置と異なるかのように主張している(平成10年9月28日付意見書3頁23行〜29行参照)。本件特許明細書で開示する分離手段は、ゲル電気泳動装置であり、オリゴヌクレオチドを分析する装置では従来から使用されている分離手段であるにすぎない。そうすると、本件発明の「分離手段」と刊行物1発明の「分離手段」とが異なるということはできない。したがって、このような特許権者の主張は妥当ではない。
5.6 訂正第2発明〜訂正第3発明についての検討
訂正第2発明および訂正第3発明について刊行物1発明との対比すると、これらの発明についても、前記5.5.3に記載した相違点と同様な刊行物1発明との相違点を有する。
したがって、訂正第2発明および訂正第3発明は、刊行物1〜刊行物7に記載された発明ということはできない。そして、刊行物1〜刊行物7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということもできない。
5.7 独立特許要件の検討結果
以上検討したように、訂正第1発明〜訂正第3発明は、刊行物1〜刊行物7に記載された発明ということはできない。そして、刊行物1〜刊行物7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということもできない。
6.訂正適否の検討結果
以上検討したとおり、本件訂正は、特許法120条の4、2項および3項の規定に適合する。
III 申立理由についての検討
1.本件発明
本件発明は、前記訂正請求書の手続補正書(平成11年6月8日付)に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜12の発明(以下本件第1発明という)、請求項13〜23の発明(以下本件第2発明という)および請求項24〜34の発明(以下本件第3発明という)である。これらの各発明は、同特許請求の範囲の請求項1、請求項13および請求項24の記載事項を要旨とするものである。
これら請求項1、請求項13および請求項24は前記5.1に記載したとおりである。
2.申立の概要
(A)特許異議申立人山本富士男の申立
特許異議申立人山本富士男は次のように主張している。
本件第1〜3発明は、刊行物1および刊行物3の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(B)特許異議申立人アメルシャム・ファルマシア・バイオテック・アクチボラグの申立
特許異議申立人アメルシャム・ファルマシア・バイオテック・アクチボラグは、次の主張をしている。
主張(Bl)同一性、容易性
本件第1〜3発明は、刊行物1〜刊行物7の発明と同一であるか、あるいは、刊行物1〜刊行物7の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
主張(B2)要旨変更、容易性
刊行物8:特開昭60-220860号公報(本件の原出願の公開公報)
本件特許は、平成8年1月31日提出の手続補正書において下記の事項で明細書の要旨を変更する補正がなされているから、旧特許法(昭和45年法)40条の規定により当該手続補正書の提出日である平成8年1月31日に出願されたものとみなされる。
刊行物8には、オリゴヌクレオチドの分析装置もしくは配列決定装置が記載されている。
そして、本件第1〜3発明は、刊行物8の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
補正事項
▲1▼ 「5’末端およびその近傍」
▲2▼ 「電気泳動媒体を有するゾーン」
▲3▼ 「動電力源」
▲4▼ 「電磁吸収」および「電磁放射」
▲5▼ 「ジデオキシチェーンターミネイションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)」
▲6▼ 「ソース」
▲7▼ 「検出されたフラグメントに関する情報をリアルタイムに集める手段」
主張(B3)明細書の記載不備
本件特許の請求項には、明細書の発明の詳細な説明の項に記載されていないか説明されていない下記の事項が含まれている。
▲1▼「電気泳動媒体を有するゾーン」または「ゾーン」(請求項2、3、12、14、15、23、25、2 6、 34)
▲2▼[動電力源](請求項3、14、26)
▲8▼「ソース」(請求項12、23、24、34)
▲4▼「ジデオキシチェーンターミネイションDNA配列決定プロトコール」(請求項9、20、31)
▲5▼「ジデオキシチェーンターミネイションDNA配列決定反応の1セット(A.C.G.T)」(請求項10、11、21、22、32、33)
▲6▼「近傍」(請求項13)
▲7▼「電磁吸収」および「電磁放射」(請求項24)
▲8▼「検出されたフラグメントに関する情報をリアルタイムに集める手段」(請求項24)
3.前記申立(A)および前記主張(Bl)について
本件第1〜3発明が、刊行物1〜7に記載の発明と同一であるということができないこと、およびこれらに記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものでないことは、前記5.5〜5.6で検討したとおりである。
したがって、前記申立(A)および前記主張(Bl)は、いずれも妥当でない。
4.主張(B2)について
4.1 「5’末端およびその近傍」について
本件の原出願明細書には、サンガー法に使用するプライマーとして、4つの条件を記載する。そして、プライマーの5’末端に反応性アミノ基を導入するものが、条件4を満たすことが記載されている(原出願の公開公報特開昭60-220860号4頁右下欄〜5頁左上欄参照)。
プライマーの5’末端に反応性アミノ基が導入され、ここに発光標識が付されたオリゴヌクレオチドは、5’末端が標識されたオリゴヌクレオチドとして例示されているものであるが、これ以外のものが示唆されていないというものではない。プライマーの5’末端近傍に標識が導入されたものもサンガー法に使用するプライマーとしての4つの条件を満たすことは当業者に明らかである。
4.2 「電気泳動媒体を有するゾーン」について
本件の原出願明細書には、「電気泳動ゲルを含む帯域」が記載されている(原出願の公開公報特開昭60-220860号4頁右上欄参照)。この「電気泳動ゲルを含む帯域」はすなわち「電気泳動媒体を有するゾーン」である。
4.3 「動電力源」について
本件の原出願明細書には、「カラム10に高電圧をかけて、ゲル中に標識DNA断片を電気泳動させる」ことが記載されている(原出願の公開公報特開昭60-220860号4頁右上欄参照)。前記補正書における「動電力源」は、原明細書におけるカラム10に高電圧をかける「電源」を意味するもので、その意味では原明細書に開示されているということができる。
なお、この「動電力源」は、本件訂正により「電源」と訂正された(前記訂正事項b参照)。
4.4 「電磁吸収」および「電磁放射」について
本件の原出願明細書には、「光吸収」および「蛍光」が記載されている(原出願の公開公報特開昭60-220860号6頁右上欄7行〜13行参照)。前記補正書における「電磁吸収」および「電磁放射」は、原明細書における「光吸収」および「蛍光」を意味するもので、その意味では原明細書に開示されているということができる。
なお、この「電磁吸収」および「電磁放射」は、本件訂正によりそれぞれ「光吸収」および「蛍光」に訂正された(前記訂正事項a参照)。
4.5 「ジデオキシチェーンターミネイションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)」について
本件の原出願明細書には、「4種の配列決定反応のそれぞれにおいて、プライム合成は4種の可能なデオキシヌクレオチドの1種のジデオキシ同族体を充分量で存在させて行われ、その結果成長連鎖はこれらの「死端部」ヌクレオチドの組み込みにより任意に末端化される」こと、さらに、「4種のプライム合成反応のそれぞれから得られる生成物を、次いで電気泳動によりポリアクリルアミドゲルの個々の飛跡で分離する」ことが記載されている(原出願の公開公報特開昭60-220860号3頁右上欄10〜14行、17行〜20行参照)。
前記補正書における「ジデオキシチェーンターミネイションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)」は、原明細書のこれらの記載事項で支持されているということができる。
4.6 「ソース」について
前記補正書の記載事項「ソース」は、電気泳動ゲルに供給されるオリゴヌクレオチド、すなわち供給源のことであることはあきらかである。
本件の原出願明細書には、「配列決定反応の1部を組み合わせて、第2図に示した5%ポリアクリルアミドカラム10にその上方の貯槽12から充填する」(原出願の公開公報特開昭60-220860号6頁右上欄5行〜7行参照)ことが記載されている。
4.7 「検出されたフラグメントに関する情報をリアルタイムに集める手段]について
本件の原出願明細書には、アルゴンイオンレーザー100からのビーム(4880Å)をビーム操作器104によってポリアクリルアミドゲル管(試料)102を通す。・・・光電子増培管(PMT)112を用いて検出する。信号はチャート記録紙で容易に検出される」ことが記載されている(原出願の公開公報特開昭60-220860号7頁右上欄5行〜14行参照)。
この原明細書の記載事項は、「検出されたフラグメントに関する情報をリアルタイムに集める手段」を支持しているということができる。
4.8 主張(B2)の検討結果
以上検討したように、平成8年1月31日提出の手続補正書による補正が明細書の要旨を変更するものであるということはできない。
したがって、主張(B2)は、その前提とするところが誤っている。
5.主張(B3)について
前記主張(B3)の事項▲1▼〜▲8▼は、その用語自体が発明の詳細な説明に説明されてなくても、前記4.でも言及したように、当業者にその意味が明らかであり、本件明細書は記載不備ということはできない。
6.申立理由についての検討結果
以上検討したように、前記申立(A)および申立(B)は、いずれも理由がない。
IV むすび
前記IIで述べたとおり、本件訂正は、特許法120条の4、2項および3項の規定に適合する。
前記IIIで述べたとおり、特許異議申立の理由によっては、本件第1〜3発明に係る特許を取り消すことができない。
また、他に、本件第1〜3発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
オリゴヌクレオチドの分析装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】オリゴヌクレオチドを分析する装置であって、該装置は:
それぞれが、発色団あるいは蛍光発色剤で5’末端を標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離する、分離手段;および、
該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを、該分離手段が作動する間にその発色団または蛍光発色剤で検出し、それによって、オリゴヌクレオチドの一塩基の長さによる差異を識別し検出し得る、検出手段;
を有する装置。
【請求項2】前記標識された才リゴヌクレオチドを分離する手段が電気泳動媒体を有するゾーン;および、
該標識されたオリゴヌクレオチドを該ゾーンに導入する手段;とを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】前記標識されたオリゴヌクレオチドを該ゾーンに導入する手段が、電源を有する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】記分離手段が、少なくとも1つの塩基の差により標識された複数のオリゴヌクレオチドを分離し得る分離手段である、請求項1ないし3いずれかの項に記載の装置。
【請求項5】前記分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを検出する手段が、個々のオリゴヌクレオチドを標識するのに用いられた発色団あるいは蛍光発色剤のスペクトル特性を測定する光学的手段を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】前記光学的手段が、吸光光度計、あるいは蛍光光度計である、請求項5に記載の装置。
【請求項7】個々の標識されたオリゴヌクレオチドが、アミノ基を介して、発色団あるいは蛍光発色剤と結合している、請求項1に記載の装置。
【請求項8】個々の標識されたオリゴヌクレオチドが、発色団あるいは蛍光発色剤で標識されているプライマーを用いるプライマー延伸反応により得られる、請求項1に記載の装置。
【請求項9】前記プライマー延伸反応が、ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定プロトコールの一要素である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)を行うに当たり、該セットに使用される該標識されたプライマーの少なくとも一つが該セットに使用される他の標識されたプライマーからそのスペクトル特性により識別される、請求項9に記載の装置。
【請求項11】ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)を行うに当たり、個々の標識されたプライマーが該セットに使用される他の標識されたプライマーからそのスペクトル特性により識別される、請求項9に記載の装置。
【請求項12】前記標識されたオリゴヌクレオチドのソースがゾーンの一端にあり、検出手段が該ゾーンの他端に近接して配置される、請求項2に記載の装置。
【請求項13】オリゴヌクオチドを分析する装置であって、該装置は:
標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離する、分離手段;
ここで、それぞれのオリゴヌクレオチドは、プライマー延伸反応を妨げないように発色団あるいは蛍光発色剤で5’末端あるいはその近傍が標識されたプライマーの延伸反応で得られたものである;
および、
該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを、該分離手段が作動する間にその発色団または蛍光発色剤で検出し、それによって、ヌクレオチド一塩基の長さによる差異を識別し検出し得る、検出手段;
を有する装置。
【請求項14】前記標識されたオリゴヌクレオチドを分離する手段が電気泳動媒体を有するゾーン;および
該標識されたオリゴヌクレオチドを該ゾーンに導入する手段;とを有する、請求項13に記載の装置。
【請求項15】前記標識されたオリゴヌクレオチドを該ゾーンに導入する手段が、電源を有する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】前記分離手段が、少なくとも1つの塩基の差により標識された複数のオリゴヌクレオチドを分離し得る分離手段である、請求項13ないし15のいずれかの項に記載の装置。
【請求項17】前記分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを検出する手段が、個々のオリゴヌクレオチドを標識するのに用いられた発色団あるいは蛍光発色剤のスペクトル特性を測定する光学的手段を含む、請求項13に記載の装置。
【請求項18】前記光学的手段が、吸光光度計、あるいは蛍光光度計である、請求項17に記載の装置。
【請求項19】個々の標識されたオリゴヌクレオチドが、アミノ基を介して、発色団あるいは蛍光発色剤と結合している、請求項13に記載の装置。
【請求項20】前記プライマー延伸反応が、ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定プロトコールの一要素である、請求項19に記載の装置。
【請求項21】ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)を行うに当たり、該セットに使用される該標識されたプライマーの少なくとも一つが該セットに使用される他の標識されたプライマーからそのスペクトル特性により識別される、請求項20に記載の装置。
【請求項22】ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)を行うに当たり、個々の標識されたプライマーが該セットに使用される他の標識されたプライマーからそのスペクトル特性により識別される、請求項21に記載の装置。
【請求項23】前記標識されたオリゴヌクレオチドのソースがゾーンの一端にあり、検出手段が該ゾーンの他端に近接して配置される、請求項14に記載の装置。
【請求項24】オリゴヌクレオチドの配列の一部を決定する装置であって、該装 置は、該オリゴヌクレオチドに相補的な複数のフラグメントの部分を一塩基による差異で分離する分離手段であって、ここで個々のフラグメントは、オリゴヌク レオチド配列決定反応で生じ、かつ互いに識別し得る複数の発色団あるいは蛍光 発色剤の一つで5’末端あるいはその近傍が標識されている、分離手段と;
該分離された、個々の標識されたフラグメントを、該分離手段が作動する間に該 発色団の光吸収もしくは蛍光発色剤の蛍光によって検出する検出手段と;
そして
該オリゴヌクレオチドの該一部を有する核酸成分の順序を決定するために、該検出されたフラグメントに関する情報をリアルタイムに集める手段と、該検出されたフラグメントを解析する手段と、
を備える装置。
【請求項25】前記標識されたフラグメントを分離する手段が電気泳動媒体を有するゾーン;および
該標識されたフラグメントを該ゾーンに導入する手段;とを有する、請求項24に記載の装置。
【請求項26】前記標識されたフラグメントを該ゾーンに導入する手段が、電源を有する、請求項25に記載の装置。
【請求項27】前記分離された、標識されたフラグメントを検出する手段が、個々のフラグメントを標識するのに用いられた発色団あるいは蛍光発色剤のスペクトル特性を測定する光学的手段を含む、請求項24に記載の装置。
【請求項28】前記光学的手段が、吸光光度計、あるいは蛍光光度計である、請求項27に記載の装置。
【請求項29】個々のフラグメントが、アミノ基を介して、発色団あるいは蛍光発色剤と結合している、請求項24に記載の装置。
【請求項30】個々の標識されたフラグメントが、発色団あるいは蛍光発色剤で標識されているプライマーを用いるプライマー延伸反応により得られる、請求項24に記載の装置。
【請求項31】前記プライマー延伸反応が、ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定プロトコールの一要素である、請求項30に記載の装置。
【請求項32】ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)を行うに当たり、該セットに使用される該標識されたプライマーの少なくとも一つが該セットに使用される他の標識されたプライマーからそのスペクトル特性により識別される、請求項31に記載の装置。
【請求項33】ジデオキシチェーンターミネーションDNA配列決定反応の1セット(A、C、G、T)を行うに当たり、個々の標識されたプライマーが該セットに使用される他の標識されたプライマーからそのスペクトル特性により識別される、請求項31に記載の装置。
【請求項34】前記標識されたオリゴヌクレオチドのソースがゾーンの一端にあり、検出手段が該ゾーンの他端に近接して配置される、請求項25に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はDNA配列決定法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】DNA(デオキシリボ核酸)およびRNA(リボ核酸)の信頼しうる配列分析法の開発は、組換DNA技術および遺伝子工学の成功に対する1つの鍵となっている。近代分子生物学の他の技術と共に使用すれば、核酸配列を決定することによって動物、植物およびウイルスのゲノムを所定の化学構造を有する個々の遺伝子に分解しかつ分析することを可能にする。生物学的分子の機能はその構造により決定されるので、遺伝子の構造の決定は遺伝情報のこの基本単位を有用な方法で最終的に処理するのに重要である。遺伝子を単離しかつ特性化することができれば、これらは原蛋白質が有するものとは異なる性質を有する遺伝子生成物(すなわち蛋白質)の産生を可能にするように改変することができ、その構造における所望の変化をもたらすことができる。天然もしくは合成の遺伝子が組み込まれる微生物を化学「工場」として使用し、たとえばインタフェロン、成長ホルモンおよびインシュリンのような微量なヒト蛋白質を多量に産生させることができる。植物に遺伝情報を与えて、これらを過酷な環境条件で生存させ、あるいはそれ自身の栄養素を生産することができる。
【0003】近代の核酸配列決定法の開発によって、各種の技術が並行的に開発されている。その1つは、DNAの小型乃至中型ストランドを細菌プラスミド、バクテリオファージ、あるいは小動物のウイルスにクローン化させる簡単かつ確実な方法の出現であった。これは、化学分析するのに充分な量で純粋なDNAを産生することを可能にした。他の開発は、オリゴヌクレオチドをその寸法に応じて高度に解離、分離するためのゲル電気泳動法の完成であった。しかしながら、開発の鍵となる概念は、一連の寸法群のクローン化され、かつ精製されたDNA断片を生成する方法の導入である。これら断片はその種々な長さの集合として、もとのDNA分子を構成するヌクレオチドの配列を決定するのに必要とされる情報を含んでいる。これら断片群を生成させるための2つの異なる方法が広範に使用されており、その1つはサンガーにより開発されたもの〔エフ・サンガー、エス・ニックレンおよびエー・アール・クールソン、プロシーディング・ナショナル・アカデミー・サイエンス・USA、第74巻 第5463頁(1977)およびエー・ジェー・エッチ・スミス、メソッヅ・イン・エンザイモロジー、第65巻 第56-580頁(1980)〕であり、もう1つはマキサムおよびギルバートにより開発されたもの〔エー・エム・マキサムおよびダブリュー・ギルバート、メソッズ・イン・エンザイモロジー、第65巻 第499-559頁(1980)〕である。
【0004】サンガーにより開発された方法をジデオキシチェーンターミネーション法と呼ぶ。この方法の最も一般的に使用される変法においては、DNA断片をたとえばM13のような一本鎖DNAファージにクローン化する。これらのファ一ジDNAは、DNAポリメラーゼIのクレノー断片による相補的ストランドのプライム合成に対する鋳型として使用することができる。このプライマーは合成オリゴヌクレオチドまたは制限断片のいずれかであって、クローン化挿入体の3’末端近くでM13ベクターの領域に特異的にハイブリド化する原組換DNAから単離される。4種の配列決定反応のそれぞれにおいて、プライム合成は4種の可能なデオキシヌクレオチドのうちの1種のジデオキシ誘導体を充分量存在させて行なわれ、その結果、鎖の成長はこれらの「死端部」ヌクレオチドを組み込むことによりランダムに終了される。デオキシ型に対するジデオキシ型の相対濃度は、ゲル電気泳動により分離されうる全ての可能な鎖長に対応する長さが生ずるように調整される。4種のプライム合成反応のそれぞれから得られる生成物を、ポリアクリルアミドゲルの個々のトラック(レーン)で電気泳動により分離する。成長した鎖中に組み込まれた放射能標識を使用して、各電気泳動トラックにおけるDNAパターンのオートラジオグラフを作成する。クローン化DNAにおけるデオキシヌクレオチドの配列を、4つのレーンにおけるバンドパターンを解析して決定する。
【0005】マキサムおよびギルバードにより開発された方法は、精製DNAを化学処理して、サンガー法により得られるものと同様な一連の寸法群のDNA断片を生成させる。3’末端もしくは5’末端のいずれかが放射性リン酸で標識された一本鎖もしくは二重鎖DNAをこの方法により配列決定することができる。4種の反応群において、4種のヌクレオチド塩基のうち1種もしくは2種につき化学処理により開裂を引き起こさせる。開裂は3段階の過程を含む。すなわち、塩基の修飾、修飾された塩基の糖成分からの除去、およびこの糖成分におけるストランド切断である。反応条件は、末端標識された断片の大部分がゲル電気泳動により分離しうるサイズ(典型的には1〜400個のヌクレオチド)となるように調整される。電気泳動、オートラジオグラフおよびパターン解析が、サンガー法とほぼ同様に行なわれる。(化学処理によって、2つのDNA断片が必らず生ずるが、末端標識を有する断片のみがオートラジオグラフで検出される)。
【0006】これらのDNA配列決定法は、広範に使用され、かつそれぞれ幾つかの変法を有する。それぞれの場合、1回の反応群から得られる配列の長さは、主として電気泳動に使用したポリアクリルアミドゲルの分離能により制限される。典型的には、1回のゲルトラックから200〜400個の塩基を解読することができる。これら両方法ではうまくいくが重大な欠点を有する。これは主として電気泳動に伴なう問題である。1つの問題は、ゲルにおけるDNAバンドの位置を決定するため標識として放射性標識を使用する必要があることである。燐-32の短い半減期、すなわち放射性標識剤の不安定性を考慮せねばならず、また放射能廃棄および取り扱いの問題を考慮せねばならない。より重要なことは、オートラジオグラフィーの性質(放射性ゲルバンドのフイルム像はバンド自身よりも幅広いものである)および4種の異なるゲルトラックの間のバンド位置の比較(これはバンド移動の点で均一に挙動したり、しなかったりする)によって、観察されるバンドの分離、すなわちゲルから解読しうる配列の長さが制限される。さらに、トラック毎の不規則性はオートラジオグラフの自動読みとりを困難にし、現在では、これらの不規則性の補正はコンピュータによるよりも肉眼の方が良好である。オートラジオグラフは、人為的に「解読」する必要性があるため時間がかかり、面倒かつ誤差の多いものである。さらに、実際に電気泳動を行ないながらゲルパターンを解読することは不可能であり、隣接するバンドを分離するには解離が不充分である際にも電気泳動を終了することができず、或る基準化した時間で電気泳動を終了させ、かつ配列解読を開始する前に放射能写真が現像されるのを待たねばならない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、DNA配列決定法における電気泳動工程に伴なうこれらおよびその他の問題を解決し、かつ当業界に著しい進歩をもたらすものと信じられる。
【0008】
【課題を解決するための手段】要するに、本発明はDNA配列決定操作の際に生ずるDNA断片の新規な電気泳動分析法であって、4種の発色剤もしくは螢光発生剤の群を使用して、配列決定操作により生じたDNA断片を標識しかつゲルによる電気泳動で分離される際に断片の検出および特性化を可能にする。この検出は、標識バンドがゲル中を移動する際に、これらを監視しうる吸光もしくは螢光光度計を使用する。
【0009】さらに本願発明は、DNA断片の新規な分析装置(系)を含み、この装置(系)は、それぞれが、発色団あるいは蛍光発色剤で(3’末端からオリゴヌクレオチドが延伸し得るように)5’末端を標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離し得る、分離手段;および、該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドをその発色団または蛍光発色剤で検出する手段であって、該検出手段はヌクレオチド一塩基の長さによる差異を識別し、検出し得る検出手段とを有する装置である。また本願発明は、オリゴヌクレオチドを分析する装置であって、プライマー延伸反応を妨げないように発色団あるいは螢光発色剤で(3’末端からオリゴヌクレオチドが延伸し得るように)5’末端およびその近傍が標識されたプライマーの延伸反応で得られた、標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離し得る分離手段、および該分離された、標識されたオリゴヌクレオチドをその発色団または蛍光発色剤で検出する検出手段、ここで、該検出手段はヌクレオチド一塩基の長さによる差異を識別し、検出し得る検出手段とを有する、装置である。
【0010】好ましくは、前記標識され1たオリゴヌクレオチドを分離する手段が電気泳動媒体を有するゾーン、および、該標識されたオリゴヌクレオチドを該ゾーンに導入する手段とを有する。前記標識されたオリゴヌクレオチドを該ゾーンに導入する手段が、電源を有する。
【0011】好ましくは、前記標識された断片を検出する手段が、前記断片を分離する際にモニターする光学的手段を含む装置である。好ましい光学的手段は、吸光光度計、あるいは螢光光度計である。
【0012】さらに、標識された断片が、発色団あるいは螢光発色剤で標識されているプライマーの延長反応により得られた断片であり、該標識された断片は、A、C、GおよびTの少なくとも1つ、あるいは少なくとも2つ、あるいは4つのすべて、の配列決定反応から生じたものであり、該標識のスペクトル特性によって他の断片から識別可能である装置である。
【0013】さらに、前記標識されたオリゴヌクレオチド断片のソースが、ゾーンの一端にあり、検出手段が該ゾーンの他端に近接して配置されている装置が好ましい。
【0014】また、本発明は、オリゴヌクレオチドの配列の一部を決定する装置であって、該装置は、オリゴヌクレオチドに相補的な複数のフラグメントであって、個々のフラグメントはオリゴヌクレオチド配列決定反応で生じ、互いに識別し得る複数の発色団あるいは蛍光発色剤の一つで標識されているフラグメントのソースと、該標識されたフラグメントの部分を一塩基による差異で分離し得る分離手段と、該分離された、個々の標識されたフラグメントを該発色団の電磁吸収もしくは蛍光発色剤の電磁放射によって検出する検出手段と、そして、該オリゴヌクレオチドの該一部を有する核酸成分の順序を決定するために、該検出されたフラグメントに関する情報をリアルタイムに集める手段と、該検出されたフラグメントを解析する手段とを備える装置である。
【0015】また、本発明は、発色性もしくは螢光性標識されたDNA断片(これら断片は種々異なって標識される)の原料と、電気泳動ゲルを含む領域と、標識DNA断片を前記領域へ導入する手段と、標識DNA断片がゲル中を移動して、これにより分離される際に前記標識DNA断片をモニターしまたは検出する光度測定手段とを含むものである。
【0016】本発明の目的は、DNAの新規な配列分析法を提供することである。
【0017】本発明の他の目的は、DNA断片の新規な分析装置(系)を提供することである。
【0018】特に、本発明の目的は、DNAの配列分析に対する改良方法を提供することである。
【0019】本発明のこれらおよびその他の目的および利点は、添付図面を参照して以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0020】
サンガー法に使用するための標識プライマーの設計
サンガーのジデオキシチェーンターミネーション法に基づく方法を含め、DNA配列決定の従来法においては、単一の放射性標識、すなわち燐-32を使用して全てのバンドをゲル上で同定する。この方法は、4種の合成反応で生じた断片群を別々のゲルトラックにかけることを必要とし、異なるトラックにおけるバンド移動度を比較することに伴なう問題が生ずる。この問題は、本発明において、それぞれ異なる最大吸収もしくは螢光を有する4種の発色剤もしくは螢光発色剤の群を使用することにより解決される。これら標識のそれぞれを、プライマーへ化学結合させて断片ストランドの合成を開始させるのに使用する。次いで、それぞれ標識されたプライマーをジデオキシヌクレオチドの1種と組み合せ、これを使用してDNAポリメラーゼのクレノー断片によるプライム合成反応に使用する。
【0021】プライマーは次の特性を持たねばならない:
(1)ポリメラーゼでチェーンを延長させるため遊離の3’ヒドロキシル基を持たねばならない。
(2)クローン化挿入体の3’の特有の領域に相補的でなければならない。
(3)ハイブリドして独特の安定な二本鎖を形成するのに充分な長さでなければならない。
(4)発色団または螢光発色剤はハイブリド化を妨げたり、あるいはポリメラーゼによる3’末端延長を妨げてはならない。
【0022】上記条件1、2および3は、M13ベクターを用いるサンガー型配列決定に一般的に使用される数種の合成オリゴヌクレオチドプライマーにより満たされる。この種のプライマーの1つは12mer 5’ TCA CGA CGT TGT 3’であり、ここでA、C、GおよびTはDNAの4種の異なるヌクレオチド成分を示し、Aはアデノシン、Cはシトシン、Gはグアノシン、Tはチミジンを示す。
【0023】発色性もしくは螢光性標識の結合については本出願人による1983年12月20日付け出願の米国特許出願第565010号に記載されており、その開示を参考のためここに引用する。使用する方法は、オリゴヌクレオチドプライマーの合成における最後の付加として5’末端に脂肪族アミノ基を導入することである。この反応性アミノ基は次いで広範な種類のアミノ反応性発色剤および(または)螢光発生剤と容易に結合することができる。この方法は、上記条件4による標識プライマーにつき好適である。
【0024】使用する4種の染料は、高い吸光係数および(または)比較的高い螢光量子収率を持たねばならない。さらに、充分に離れた最大吸収および(または)最大放出を持たねばならない。この種の4種のアミノ反応性染料の代表的なものは次の通りである:
【0025】
【表1】



【0026】これらの染料はM13プライマーに結合しており、この結合物を20%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動にかける。標識されたプライマーは、ゲルにおけるその吸収と螢光とにより検出することができる。4種の標識プライマーは全て同一の電気泳動移動度を有する。染料結合されたプライマーは、DNAに特異的にハイブリドする能力を保持するが、これは配列決定反応に一般に使用される誘導体化していないオリゴヌクレオチドと置換できることにより示される。
【0027】マキサム/ギルバート法と共に使用するDNA末端標識
マキサム/ギルバート法によるDNA配列決定においては、決定すべき配列を有するDNA断片の末端を標識せねばならない。これは、従来、放射性ヌクレオチドを用いて酵素的に行なわれている。本発明に開示する染料検出方法と組み合せてマキサム/ギルバート法を使用するためには、DNA断片を染料で標識せねばならない。これを行ないうる1つの方法を図1に示す。或る種の制限エンドヌクレアーゼは、いわゆるDNA開裂の生成物として知られている3’オーバーハングを生成する。これらの酵素は、「付着性末端」すなわち二本鎖DNAの末端における一本鎖DNAの短い延長部を生成する。この領域はDNAの相補的部分とアニールし、酵素リガーゼによって共有結合され二本鎖DNAとなる。このようにして、DNAストランドの一方が検出可能な成分に共有結合される。この成分は染料、アミノ基または保護アミノ基(これは化学反応の後に脱保護されて染料と反応させることができる)とすることができる。
【0028】配列決定反応
ジデオキシ配列決定反応はエー・ジェー・エッチ・スミスの標準法〔メソッズ・イン・エンチモロジー、第65巻、第56-580頁(1980)〕で行なわれるが、必要に応じ、規模を拡大して検出すべき各バンドにおいて充分なシグナル強度を与えることができる。反応はそれぞれ異なる反応につき異なる着色プライマーを使用して行なわれ、たとえば「A」反応についてはFITC、「C]反応についてはEITC、「G」反応についてはTMRITC、「T]反応についてはXRITCが使用される。配列決定反応には、放射標識したヌクレオチド三リン酸を必要としない。
【0029】マキサム/ギルバート配列決定反応は常法〔エス・エフ・ギル、アルドリッチヒミカ・アクタ、第16(3)巻 第59-61頁(1983)〕で行なわれるが、末端標識は1種もしくは4種の着色染料のいずれかとし、あるいは後に染料と反応しうる遊離もしくは保護アミノ基である。
【0030】ゲル電気泳動
配列決定反応の1部を組み合せて、図2に示した5%ポリアクリルアミドカラム10にその上方の貯槽12から充填する。混合物における4種の異なる反応物の相対量は、染料/DNA結合物のそれぞれからほぼ同じ螢光性もしくは吸収性シグナル強度を与えるように実験的に調整される。これにより、染料吸光係数と染料螢光収量と検出器感度などとにおける差を補償することができる。カラム10に高電圧をかけて、ゲル中に標識DNA断片を電気泳動させる。一ヌクレオチドだけ長さの異なる標識DNA断片が、このゲルマトリックスにおいて電気泳動により分離される。ゲルカラム10の底部あるいはその近傍において、DNAのバンドが互いに分離され、かつ検出器14を通過する(これについては、以下に詳細に説明する)。
【0031】検出器14はゲル中のDNAの螢光または発色バンドを検出してその色を決定し、したがってそれらに対応するヌクレオチドを検出する。この情報はDNA配列を与える。
【0032】検出
ポリアクリルアミドゲルの電気泳動を用いて、長さで分離された標識分子を検出しうる多くの異なる方法が存在する。以下、4種の代表的方式を説明する。すなわち、(i)種々異なる染料につき異なる波長の光により励起された螢光の検出、(ii)種々異なる染料につき同じ波長を有する光により励起された螢光の検出、(iii)ゲルからの分子の溶出および化学発光による検出、並びに(iv)の分子による光の吸収による検出。方式(i)および(ii)において、螢光検出器は次の要件を満たさねばならない。(a)励起光線は、バンドの幅よりも実質的に大きい幅をもってはならない。これは一般に0.1〜0.5mmの範囲である。このような幅狭い励起ビームを使用することによってバンドの最大分離を可能にする。(b)励起波長を変化させて種々異なる染料のそれぞれの最大吸収に適合させ、あるいは4種の螢光発生剤を励起するが螢光放出のいずれとも重ならないような単一の幅狭い高強度の光バンドとすることができる。(c)光学装置は、光検出器14に対する散乱および反射励起光の光束を最小にせねばならない。散乱および反射励起光を遮光する光学フィルタは、励起波長の変化に伴い変化される。(d)光検出器14はかなり低いノイズレベルを持たねばならず、かつ染料のエミッション範囲(上記の染料につき500〜600nm)にわたり良好なスペクトル反応と収量効率を持たねばならない。(e)放出された螢光を集光するための光学系は高い開孔度を持たねばならない。これは螢光信号を最大化させる。さらに、集光レンズの視野の深さは、カラムマトリックスの全幅を含まねばならない。
【0033】2種の代表的な螢光検出装置(系)を図3および図4に示す。図3の装置は、単一波長の励起または複数波長の励起のいずれにも適する。単一波長の励起の場合、フィルタF4は各染料の放出波長ピークに集中する4種のバンドパスフィルタの1つである。このフィルタは、数秒毎に切替えて4種の螢光発生剤のそれぞれを連続してモニターすることができる。複数波長の励起の場合、光学素子F3(励起フィルタ)、DM(二色鏡)およびF4(遮光フィルタ)を一緒に切替える。この方法においては、励起光と観察されたエミッション光との両者を変化させる。図4の装置は、単一波長の励起の場合に良好な配置である。この装置は、可動部分を必要としないという利点を有し、4種の染料の全てからの螢光を同時かつ連続的にモニターすることができる。検出の第3の方法(上記ii1)は、ゲルの底部から標識分子を溶出させてこれらをたとえば1,2-ジオキシエタンジオンのような化学発光を励起させる薬剤と結合させ〔エス・ケー・ギル、アンドリッチヒミカ・アクタ、第16(3)巻 第59-61頁(1983);ジー・ジェー・メルビン、Liq-Chrom、第6(9)巻 第1603-1616頁(1983)〕かつこの混合物を4種の別々の波長で放出光を測定しうる検出器に直接流入させる方法である(この検出器は図4に示したものと同様であるが、励起光源を必要としない)。化学発光におけるバックグランド信号は螢光におけるよりもずっと低く、その結果、信号対ノイズの比率が高くなりかつ感度が増大する。最後に、吸光度の測定により測定を行なうことができる(上記iv)。この場合、可変波長のビームを、ゲルを通過させて、標識分子による光の吸収に基づくビーム強度の減少を測定する。4種の染料の最大吸収に相当する種々異なる波長の光吸収を測定することにより、どの染料分子が光路に存在したかを決定することができる。この種の測定の欠点は、吸収測定が螢光測定よりも本質的に低い感度を有することである。
【0034】上記検出装置をコンピュータ16と接続する。それぞれの検出の時間間隔で、コンピュータ16は4種の着色標識のそれぞれにつきその時点の測定シグナル強度に比例するシグナルを受ける。この情報は、どのヌクレオチドがその時点で観察窓において特定長さのDNA断片の末端となるかを示す。この時点の着色バンドの配列がDNA配列を与える。
【0035】以上の標識から検出、配列決定までの方法をまとめて図5を用いて説明する。図5は、従来の方法による配列決定法、並びに本発明の改良法による配列決定法を示す。ここでは、好適態様として、4種の標識を使用する場合について、説明する。 図5-Hに示されるように、放射能標識されたDNAを使用する方法は、標識としては1種類しか使用しないので、ポリアクリルアミドゲル電気泳動において、1本のレーン(トラック)では、どれがA、G、C、およびTであるかの区別がつかないため、それぞれ、A、G、C、およびTに対応する4つのトラック(レーン)が必要である。
【0036】他方、本発明においては、4種類のそれぞれ識別可能な標識を使用するので、どこに、A.G.C、およびTが存在するかがわかるので、1本のゲルを使用すれば足りる(図5-II)。
【0037】以下、4種の発色団あるいは螢光物質を用いて、DNAを決定する方法を説明するが、単なる例示であって、本発明を限定するものではない。
【0038】チェーンターミネーション法では、以下の工程が使用され得る:
(1)DNAプライマーを4種の発色団あるいは螢光物質で標識する(該標識はそのスペクトル特性で相互に識別可能である)工程;
(2)それぞれの4種の標識されたDNAプライマーを、それぞれ、A.G.C、およびTのジデオキシトリヌクレオチドを用いるプライマー延伸反応にかける工程:
(3)A、G、0、およびTのそれぞれの反応液の一部をとり、混合する工程;
(4)A、G、0、およびT反応の混合液を、単一のゲルカラムにかけ、DNAを分離する工程;および、
(5)分離されたDNAを発色、あるいは螢光で検出する工程;である。
【0039】この方法では、発色、あるいは螢光で視覚的に検出できる。従って、図5-IIに示すように、ゲルカラムの下から順に発色を識別していけば、DNA配列が決定される。また、螢光物質を使用する場合は、吸光あるいは励起の最大値を検出することで、DNA配列が決定される。図5-IVは、例えば、4種の励起光をあててこれをモニターし、検出された順に並べることにより、配列がACGTGC・・・と決定される。
【0040】化学分解法では、以下の工程が使用され得る:
(1)図1に示し5た方法で、DNAを4種の発色団あるいは螢光物質で標識する(該標識はそのスペクトル特性で相互に識別可能である)工程;
(2)それぞれの4種のラベルされたDNAを、それぞれ、A、G、C、およびTに選択的な反応に供する工程;
(3)A、G、C、およびTのそれぞれの反応液の一部をとり、混合する工程;
(4)A、G、C、およびT反応の混合液を、単一のゲルカラムにかけ、DNAを分離する工程;および、
(5)分離されたDNAを発色、あるいは螢光で検出する工程;である。
【0041】検出は、前記チェーンターミネーション法と全く同様にして、できる。
【0042】以下の例により本発明を説明する。
【0043】例
図6は1回に1種の染料を使用するDNA配列決定装置のブロック図を示している。アルゴンイオンレーザー100からのビーム(4880Å)をビーム操作器104によってポリアクリルアミドゲル管(試料)102に通す。このビームにより励起された螢光をF-ナンバーの小さいレンズ106により集め、これを適当な組み合せの光学フィルタ108および110に通過させて散乱励起光を除去し、光電子増信管(PMT) 112を用いて検出する。シグナルはチャート記録紙で容易に検出される。DNA配列決定反応は、フルオレセイン標識したオリゴヌクレオチドプライマーを用いて行なわれる。チャート紙におけるピークは、配列決定反応で合成されかつ電気泳動によりゲル管で分離された種々異なる長さを有するフルオレセイン標識されたDNAの断片に相当する。各ピークは10-15〜10-16モルの程度のフルオレセインを含有し、これは放射性同位元素の検出を用いる同等な配列決定用ゲルにおいて1バンド当りに得られるDNA量にほぼ等しい。これは、螢光標識が配列決定反応においてオリゴヌクレオチドプライマーから除去されずあるいは分解されないことを証明する。さらに、これは検出感度が、この手段によりDNA配列分析を行なうのに充分であることを示している。
【0044】以上、本発明を実施例により詳細に説明したが、本発明はこれらのみに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【図1】螢光標識でDNA断片を末端標識する1手段の説明図であって、PstIおよびT4 DNAリガーゼは組換DNA技術に一般的に使用される酵素である。
【図2】自動化DNA配列決定装置、すなわちゲル電気泳動装置のブロック図である。
【図3】検出装置における光学配置の略図であって、Pはランプ源、Llは対物レンズ、L2は集光レンズ、FlはUV遮光フィルタ、F2は熱遮断フィルタ、F3はバンドパス励起フィルタ、F4はロングパス放出フィルタ、DMは二色鏡、Cはポリアクリルアミドゲル、PMTは光電子増幅管である。
【図4】検出装置における他の光学配置の略図であって、Fl〜F4は種々異なる染料の最大放出に集中するバンドパスフィルタであり、Pl〜P4は光電子増幅管であり、励起光はフィルタFl〜F4のいずれをも透過しないような波長である。
【図5】図1に示した配列のDNA配列を決定するための従来法、および本発明の方法の比較図である。
【図6】本発明による好適DNA配列決定装置のブロック図である。
【符号の説明】
10:カラム
12:貯蔵
14:検出器
100:レーザー
112:光電子増培管
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許請求の範囲の減縮を目的として、下記訂正事項a、訂正事項cおよび訂正事項eについて訂正する。
そして、明りょうでない記載の釈明を目的として、下記訂正事項bおよび訂正事項dについて訂正する。
▲1▼ 訂正事項a
本件特許明細書の請求項1および請求項13の記載事項「該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドをその発色団または蛍光発色剤で検出する検出手段、ここで、該検出手段はオリゴヌクレオチドの一塩基の長さによる差異を識別し、検出し得る;」を、
「該それぞれの分離された、標識されたオリゴヌクレオチドを、該分離手段が作動する間にその発色団または蛍光発色剤で検出し、それによって、オリゴヌクレオチドの一塩基の長さによる差異を識別し検出し得る、検出手段」
に訂正する。
そして、本件特許明細書の請求項24の記載事項「該分離された、個々の標識されたフラグメントを該発色団の電磁吸収もしくは蛍光発色剤の電磁放射によって検出する検出手段」を、
「該分離された、個々の標識されたフラグメントを、該分離手段が作動する間に該発色団の光吸収もしくは蛍光発色剤の蛍光によって検出する検出手段」
に訂正する。
▲2▼ 訂正事項b
本件特許明細書の請求項3および請求項15の記載事項「動電力源」を、
「電源」
に訂正する。
▲3▼ 訂正事項c
本件特許明細書の請求項24の記載事項「該オリゴヌクレオチドに相補的な複数のフラグメントのソースと;ここで、個々のフラグメントはオリゴヌクレオチド配列決定反応で生じる;個々のフラグメントは互いに識別し得る複数の発色団あるいは蛍光発色剤の一つで標識されている; 該標識されたフラグメントの部分を一塩基による差異で分離し得る分離手段」を、
「該オリゴヌクレオチドに相補的な複数のフラグメントの部分を一塩基による差異で分離する分離手段であって、ここで個々のフラグメントは、オリゴヌクレオチド配列決定反応で生じ、かつ互いに識別し得る複数の発色団あるいは蛍光発色剤の一つで5’末端あるいはその近傍が標識されている、分離手段」
に訂正する。
▲4▼ 訂正事項d
特許明細書段落番号【0010】の記載事項「動電力源」を
「電源」
に訂正する。
▲5▼ 訂正事項e
本件特許明細書の請求項1および請求項13の記載事項「標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離し得る、分離手段」を、
「標識されたオリゴヌクレオチドをそのサイズにより高度に分離する、分離手段」
に訂正する。
異議決定日 1999-06-30 
出願番号 特願平6-57874
審決分類 P 1 651・ 856- YA (G01N)
P 1 651・ 121- YA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柏崎 康司吉田 禎治森 正幸嶋矢 督能美 知康  
特許庁審判長 市川 信郷
特許庁審判官 小柳 正之
新井 重雄
登録日 1997-04-18 
登録番号 特許第2628571号(P2628571)
権利者 カリフォルニア インスティテュート オヴ テクノロジー
発明の名称 オリゴヌクレオチドの分析装置  
代理人 山本 秀策  
代理人 青山 葆  
代理人 岩崎 光隆  
代理人 山本 秀策  

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