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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B |
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管理番号 | 1024819 |
異議申立番号 | 異議1997-75355 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1997-11-13 |
確定日 | 1999-07-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2610767号「セラミック成形体の乾燥方法およびそれに用いる装置」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2610767号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
(1)手続の経緯 特許第2610767号に係る発明についての出願は、平成5年3月22日に出願され、平成9年2月13日に設定登録され、その後、特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年5月7日に訂正請求がなされたものである。 (2)訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa)乃至c)のとおりである。 a)特許請求の範囲を 「【請求項1】水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥装置中で乾燥する方法であって、水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの過程において、前記セラミック成形体の上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱するとともに、前記乾燥装置中に外気を導入したり装置内の空気を排出したりすることにより、前記乾燥装置内の風速をlm/s未満とすることを特徴とするセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項2】前記乾燥装置内の風速を、被乾燥物の表面から5cm離れた位置でのものとした請求項1記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項3】前記乾燥装置中に導入する外気の温度Tsを、装置内部の温度をToとしたとき、To≧Ts≧To-45℃とした請求項1または2記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項4】前記水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了した後は、高温、低湿度の風による乾燥でセラミック成形体の乾燥を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項5】水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥する装置であって、前記セラミック成形体に上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱する加熱手段と、装置内に外部から空気を導入させる外気導入手段と、装置内の前記セラミック成形体から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出する空気排出手段とを備え、前記加熱手段と外気導入手段と空気排出手段とを制御して、装置内の風速をlm/s未満に制御可能であることを特徴とするセラミック成形体の乾燥装置。 【請求項6】前記外気導入手段が上方にある請求項5記載のセラミック成形体の乾燥装置。」 と訂正する。 b)発明の詳細な説明中の段落【0008】を 「【課題を解決するための手段】本発明のセラミック成形体の乾燥方法は、水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥装置中で乾燥する方法であって、水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの過程において、前記セラミック成形体の上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱するとともに、前記乾燥装置中に外気を導入したり装置内の空気を排出したりすることにより、前記乾燥装置内の風速をlm/s未満とすることを特徴とするものである。」 と訂正する。 c)発明の詳細な説明中の段落【0009】を 「また、本発明のセラミック成形体の乾燥装置は、水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥する装置であって、前記セラミック成形体に上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱する加熱手段と、装置内に外部から空気を導入させる外気導入手段と、装置内の前記セラミック成形体から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出する空気排出手段とを備え、前記加熱手段と外気導入手段と空気排出手段とを制御して、装置内の風速をlm/s未満に制御可能であることを特徴とするものである。」 と訂正する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記a)の訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当し、新規事項の追加に該当しない。 また、上記b)及びc)の訂正は、上記a)の訂正に伴ってなされたものであり、明りょうでない記載の釈明に相当する。 そして、上記いずれの訂正も実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 ウ.独立特許要件の判断 訂正明細書の請求項1乃至6に係る発明(以下、「本件発明」という。)に対して、当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭62-158003号公報)には、セラミックグリーンシートの製造方法に関するものであって、第1頁右下欄第5〜19行目には、「たとえばドクターブレード法では、第3図に示すように・・・キャリアフィルム4上に塗布されたセラミック原料スラリ6を乾燥室8に送って乾燥させ、乾燥室8にて乾燥されたセラミック原料スラリ6をセラミックグリーンシート9としてキャリアフィルム4から剥離する。」、第2頁左上欄第7行目〜右上欄第12行目には、「上記ドクターブレード法により・・・キャリアフィルム4に塗布されて乾燥室8に入ったセラミック原料スラリ6には、第4図に示すように、その上から直接、熱風が矢印で示すように供給されて熱風乾燥される。・・・熱風の風速を大きくすると、・・・セラミックグリーンシート9にひび割れが生じる、・・・セラミック原料スラリ6は表面が先に乾燥されるため、内部の溶媒が蒸発しにくくなり、突発的に溶媒蒸気が吹き出してセラミックグリーンシート9にピンホールが発生する。・・・カーリングする、といった多くの問題が生じる。従って、熱風の風速は極力抑えることが好ましい」、第2頁左下欄第19行目〜右下欄第6行目には、「キャリアフィルム4上に塗布されたセラミック原料スラリ6に・・・第1図に示すように、セラミック原料スラリ6の上面から5mm〜10mmの間隔をおいて配置されたろ紙等の蒸気透過性のフィルム11の上から熱風を供給し、この熱風の熱によりセラミック原料スラリ6を乾燥させるようにする。」、第2頁左下欄第9〜15行目には、「本発明によれば、乾燥させるセラミック原料スラリの上方に温度がほぼ一定の濃度の高い溶媒雰囲気が形成されるので、・・・ひび割れ、ピンホールおよびカーリングのない良質のセラミックグリーンシートを得ることができる。」、第3頁左上欄第4〜8行目には、「熱風の温度60℃で、風速を0.3m/secとしたとき、・・・ひび割れやピンホールの発生はなかった。」、第3頁左上欄第12〜18行目には、「上記実施例において、第2図に示すように、キャリアフィルム4の下にヒータHを配置し、このヒータHに電源Eを接続して上記キャリアフィルム4の下側からもセラミック原料スラリ6が加熱されるようにしてもよい。このようにすれば、セラミック原料スラリ6の乾燥時間がより短縮される。」とそれぞれ記載されている。 また、同刊行物2(特開平1-264974号公報)には、セラミックグリーンシートの製造方法に関するものであって、第2頁右下欄第16行目〜第3頁右上欄第10行目には、「第1図に示すようにスラリ-2を・・・キャリアフィルム5上に一定の厚みに塗工し、乾燥炉8で溶剤を蒸発させてグリーンシート1を製造する、・・・乾燥炉は入口で常温23℃、出口で120℃に設定した。・・・温風吹出口からの風量を・・・中央部の風速が0.35m/secで最大、端部が0.25m/secで最小になり、・・・割れの発生がなくなり、歩留り100%でグリーンシートを得られた。」、第3頁左下欄第12行目〜右下欄第3行目には、「第3図は・・・乾燥炉8内にはグリーンシートを搬送するコンベアベルト6の下部にヒーター11を内部に設けた加熱板10を固定した。」とそれぞれ記載されている。 さらに、同刊行物3(特開平2-45107号公報)には、セラミックグリーンシ一トの製造方法およびキャスティング装置に関するものであって、第1頁右下欄第14行目〜第2頁左上欄第10行目には、「第2図(a)に・・・混合スラリー2をバイナーシート3上に流し込み、・・・乾燥ボックス4に入る。乾燥ボックス4は3個の乾燥ボックス部に分かれており、第1乾燥ボックス部41は、・・・ここにおいて混合スラリー2は所定の温度で乾燥され、ついで第2乾燥ボックス部42、第3乾燥ボックス部43でさらに乾燥されてグリーンシート6が作成される。乾燥ボックス部の温度は第1、第2、第3と順次上げることもできる。」、第2頁右下第15行目〜第3頁左上欄第5行目には、「第1図(a)は・・・第1乾燥ボックス部には乾燥した空気9を送風する送風ブロワー71、72、73と、それぞれに対応して蒸発した溶剤を含む空気を排出する排気ブロワー81、82、83が備えられている。・・・各送風口毎に風速を調整し得るように構成される。」、第3頁左上欄第9行目〜右上欄第11行目には、「この装置を用い、・・・検討した結果を第4図に示す。・・・あまりに急激な乾燥は割れ発生率を高める。・・・送風ブロワー71と排気ブロワー81の間の点の風速を、0.5m/s、送風ブロワー72と排気ブロワー82の間の点の風速を0.9m/s・・・とした。」とそれぞれ記載されている。 (対比・判断) 本件発明と上記刊行物1乃至3に記載の発明とを対比すると、上記各刊行物に記載の発明は、本件発明を特定する事項である、「セラミック成形体の(又は、「セラミック成形体に」)上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱する」という事項を備えておらず、当該事項により本件発明は、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を、キレが入らないように早く乾燥することができるという顕著な効果を奏するものである。 確かに、上記刊行物1〜3には、風速を1m/s未満にすることの開示があり、上記刊行物1及び2には、ヒータで加熱することの開示があるが、これらのものは乾燥対象が薄く均一な厚さのグリーンシートであって、主たる乾燥手段が温風乾燥によるものである。従って、ヒータ加熱は単に補助的な役割を有するに過ぎず、しかも、輻射エネルギーを利用した加熱については何等示唆するところがない。 そうすると、本件発明が上記各刊行物に記載のものから容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、本件発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 エ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 (3)特許異議の申立てについての判断 ア.申立ての概要 申立人雨山範子は、証拠として甲第1号証(特開昭62-158003号公報)、甲第2号証(特開平1-264974号公報)及び甲第3号証(特開平2-45107号公報)を提出し、本件発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件発明についての特許を取り消すべき旨主張している。 イ.判断 本件発明は、上記(2)ウ.の項で述べたように、取消理由通知で示した刊行物に記載された発明であるとも、これらから容易に推考しうるものでもない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セラミック成形体の乾燥方法およびそれに用いる装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥装置中で乾燥する方法であって、水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの過程において、前記セラミック成形体の上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱するとともに、前記乾燥装置中に外気を導入したり装置内の空気を排出したりすることにより、前記乾燥装置内の風速を1m/s未満とすることを特徴とするセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項2】前記乾燥装置内の風速を、被乾燥物の表面から5cm離れた位置でのものとした請求項1記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項3】前記乾燥装置中に導入する外気の温度Tsを、装置内部の温度をToとしたとき、To≧Ts≧To-45℃とした請求項1または2記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項4】前記水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了した後は、高温、低湿度の風による乾燥でセラミック成形体の乾燥を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項5】水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥する装置であって、前記セラミック成形体に上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱する加熱手段と、装置内に外部から空気を導入させる外気導入手段と、装置内の前記セラミック成形体から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出する空気排出手段とを備え、前記加熱手段と外気導入手段と空気排出手段とを制御して、装置内の風速を1m/s未満に制御可能であることを特徴とするセラミック成形体の乾燥装置。 【請求項6】前記外気導入手段が上方にある請求項5記載のセラミック成形体の乾燥装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は水分を含むセラミック成形体の乾燥方法およびそれに用いる装置に関し、特にひだ部を有する懸垂碍子などの肉厚セラミック成形体の乾燥に好適な乾燥方法およびそれに用いる装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来、水分を含むセラミック成形体特に懸垂碍子などのひだ部を有する複雑形状の肉厚セラミック成形体の乾燥は、乾燥の初期段階で発生し易いキレを防止するため、初期段階では低温・加湿状態でゆっくりと緩慢に乾燥を行い、セラミック成形体の収縮が終了した(含有水分量9〜10wt%)後高温での乾燥に切り替えて、全体の乾燥を行っていた。すなわち、雰囲気温度45〜50℃の加湿した加熱装置の中に乾燥すべき複雑形状の肉厚セラミック成形体例えば図2に示す形状の懸垂碍子を入れ、以下の表1に示すスケジュールで温風乾燥を行い、初期含有水分量16.0〜22.0wt%の肉厚セラミック成形体を、含有水分量1.0wt%以下まで乾燥を行うのが一般的であった。 【0003】図2において、懸垂碍子の形状として、径D=200〜500mm、高さH=100〜150mm、厚さT=20〜50mmのものが一般的であり、磁器の組成の一例としてSiO2:66.33wt%、Al2O3:23.32wt%、K2O+Na2O:2.82wt%、焼結温度:1220℃、磁器抗折強度:1470kg/cm2程度のものが使用されている。 【0004】 【表1】 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来の乾燥方法では、複雑な温度、湿度および風量の制御を行っており複雑形状肉厚セラミック成形体の乾燥を好適に実施できるものの、乾燥終了時(含有水分量がlwt%以下)までに非常に長い時間を要する問題があった。ここで、乾燥時間を短縮するために乾燥時間0〜14hrで、上記表1に示した雰囲気温度以上に温度を上げたり、湿度を表1以下にしたり、風量を表1以上に強くするなどの方法で乾燥条件をきつくすることも考えられる。しかしながら、このように乾燥条件をきつくすると、被乾燥物のひだ部などに亀裂が生じてしまうため、従来の肉厚セラミック成形体の乾燥方法では、乾燥時間を短縮することが困難な問題があった。 【0006】また、従来肉厚セラミック成形体に遠赤外線乾燥が試みられているが、製品周辺の風速管理及び湿度管理がされていないので、表面が偏乾燥し、乾燥キレの原因となるため、乾燥キレの発生しにくい薄い皿やシャモット煉瓦のような気孔の多いセラミック成形体の一部に用いられる程度で、懸垂碍子のような無吸湿で電気的強度を必要とする、複雑形状の肉厚セラミック成形体には適用されていなかった。 【0007】本発明の目的は上述した課題を解決し、従来の乾燥方法と比較して乾燥時間を大幅に短縮可能なセラミック成形体の乾燥方法およびそれに用いる装置を提供しようとするものである。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明のセラミック成形体の乾燥方法は、水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥装置中で乾燥する方法であって、水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの過程において、前記セラミック成形体の上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱するとともに、前記乾燥装置中に外気を導入したり装置内の空気を排出したりすることにより、前記乾燥装置内の風速を1m/s未満とすることを特徴とするものである。 【0009】また、本発明のセラミック成形体の乾燥装置は、水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥する装置であって、前記セラミック成形体に上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱する加熱手段と、装置内に外部から空気を導入させる外気導入手段と、装置内の前記セラミック成形体から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出する空気排出手段とを備え、前記加熱手段と外気導入手段と空気排出手段とを制御して、装置内の風速を1m/s未満に制御可能であることを特徴とするものである。 【0010】 【作用】上述した構成において、水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの間、従来の乾燥方法では考えられなかった除湿を行うこと、すなわち装置中に外気を導入して装置内の空気を排出することにより、装置内の風速を1m/s未満とすることにより、セラミック成形体表面に湿度の高い層を形成できるため、セラミック成形体の内外水分勾配をゆるやかにすることができる。そのため、装置内の雰囲気湿度をさげても成形体のキレはおこらない。また、装置内の雰囲気湿度の低下により、成形体からの平衡蒸気圧が上昇し、乾燥速度を促進することができる。 【0011】 【実施例】図1は本発明のセラミック成形体の乾燥方法を実施するのに好適なセラミック成形体の乾燥装置の一例の構成を示す図である。図1において、乾燥装置1は、被焼成物であるセラミック成形体2を棚板3に載置した状態でセラミック成形体2に輻射エネルギーを放射できるように、セラミック成形体2の上部および下部に設けた遠赤外線ヒータ4-1、4-2と、セラミック成形体2上部に外部から空気を導入するだめの外気導入口5と、セラミック成形体2上部の空気を外部に排出するための空気排出口6とから構成されている。 【0012】また、本例では、遠赤外線ヒータ4-1、4-2を燃焼エアーにより加熱する構成として、その排ガスを管路11を介して外部に排気する際の熱により、装置内に供給する空気を加熱できるよう外気導入口5に空気を供給する管路12を構成している。このように燃焼エアーで遠赤外線ヒータ4-1、4-2を加熱する構成とすると、その後に温風乾燥を行う場合、その燃焼エアーからなる温風を利用することができ熱効率上好ましい。 【0013】上述した構成のセラミック成形体の乾燥装置により本発明の乾燥方法を実施するには、被焼成物であるセラミック成形体2をセットした後、遠赤外線ヒータ4-1、4-2の輻射エネルギーによりセラミック成形体2を加熱すると同時に、外気導入口5から空気を装置内に導入するとともに空気排出口6から装置内のセラミック成形体2から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出し、しかもその際に装置内の風速を1m/s未満となるように外気の導入量および装置内の空気の排出量を制御することにより行うことができる。 【0014】以下、実際の例について説明する。 実施例1 図1に示した構造の乾燥装置を用い、実際に初期含有水分量16.0〜22.0wt%の懸垂碍子(JIS規格No.C3810の記号SU-120CN用の成形体)を、以下の表2に示す装置内風速になるよう外気の導入量および空気の排出量を制御するとともに、表2に示す装置内温度を維持できるよう遠赤外線ヒータで加熱した。各例とも乾燥時間は全体で6時間とし、そのうち3時間経過時点で水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了した。 【0015】そして、実施例試験No.1の例を100%としたときのエネルギーコストを求めるとともに、6時間経過後のセラミック成形体の含有水分量を測定し、さらに乾燥後のセラミック成形体のキレの有無を検査した。結果を表2に示す。なお、実施例試験No.1〜3および比較例試験No.1は6時間の乾燥中すべて同じ条件で乾燥を行い、実施例試験No.4は収縮終了時の前後で乾燥条件を変化させ、実施例試験No.5、6は収縮終了後は温風乾燥により乾燥を行った。また、湿度の測定はセラミック成形体の表面から10cm離れた位置で測定するとともに、温度の測定はセラミック成形体の表面から5cm離れた位置で測定した。 【0016】 【表2】 【0017】表2の結果から、本発明の乾燥方法を実施した実施例試験No.1〜6は、装置内風速が本発明範囲外の比較例試料No.1と比較して、乾燥後のセラミック成形体にキレが発生しないで十分な乾燥ができることがわがった。また、乾燥も6時間で十分な乾燥を達成でき、上述した表1で記載した従来例に比べて大幅な時間短縮が達成できることがわかった。さらに、本発明例の中でも、収縮終了後に温風乾燥に切り替えると、エネルギーコストおよび含有水分量の点でより好ましいことがわかった。更に実施例試験No.3についてセラミック成形体の表面から外部に移行する水分の拡散速度を計算すると、1.9kg/m2・h以下であることもわかった。 【0018】実施例2 本発明例の中で、装置内に導入する外気の温度の影響を調べるため、装置内の雰囲気温度を90℃で一定とするとともに、外気の導入量を装置内風速が0.5m/sとなる条件で、以下の表3に示すように乾燥空気の導入温度を変えて実施例1と同様に遠赤外線ヒータによる乾燥を行い、6時間後の含有水分量を実施例1と同様に求めた。結果を表3に示す。表3の結果から、装置内に導入する外気の温度が低すぎると乾燥後のセラミック成形体にキレが生じ、装置内の温度と同等から45℃低い温度までの範囲で、本発明の乾燥方法を好適に実施することができることがわかる。 【0019】 【表3】 【0020】 【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、水分の減少に伴う寸法収縮が終了するまでの過程において、外気を導入して装置内の空気を排出するとともに、その際の装置内の風速を1m/s未満に制御することにより、キレのない乾燥品を、従来方法と比較して4〜4.5倍速く得ることが可能となる。また、エネルギーコストについても、特に収縮乾燥後温風乾燥に切り替えた例では、3〜4割エネルギーを削減することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明のセラミック成形体の乾燥方法を実施するのに好適なセラミック成形体の乾燥装置の一例の構成を示す図である。 【図2】従来の懸垂碍子の形状を示す図である。 1 乾燥装置、 2 セラミック成形体、 3 棚板、 4-1,4-2 遠 赤外線ヒータ、 5 外気導入口、 6 空気排出口 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 ▲1▼訂正事項a 明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6及び8に係る記載および平成7年1月10日の本件請求人提出に係る手続き補正書により補正された特許請求の範囲7に係る記載 「【請求項1】 イ)水分を含むセラミック成形体を乾燥装置中で乾燥する方法であって、 ロ)水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの過程において、 ハ)前記セラミック成形体に主として輻射エネルギーを放射して前記セラミック成形体を加熱するとともに、 ニ)前記乾燥装置中に外気を導入したり装置内の空気を排出したりすることにより、前記乾燥装置内の風速を1m/s未満とする ホ)ことを特徴とするセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項2】 へ)前記乾燥装置内の風速を、被乾燥物の表面から5cm離れた位置でのものとした請求項1記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項3】 ト)前記乾燥装置中に導入する外気の温度Tsを、装置内部の温度をToとしたとき、To≧Ts≧To-45℃とした請求項1または2記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項4】 チ)前記水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了した後は、高温、低湿度の風による乾燥でセラミック成形体の乾燥を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項5】 リ)前記セラミック成形体が粘土を含む磁器組成物である請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項6】 ヌ)前記セラミック成形体が、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物である請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項7】 ル)水分を含むセラミック成形体を乾燥する装置であって、 ヲ)前記セラミック成形体に主として輻射エネルギーを放射して前記セラミック成形体を加熱する加熱手段と、装置内に外部から空気を導入させる外気導入手段と、装置内の前記セラミック成形体から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出する空気排出手段とを備え、 ワ)前記加熱手段と外気導入手段と空気排出手段とを制御して、装置内の風速を1m/s未満に制御可能である カ)ことを特徴とするセラミック成形体の乾燥装置。 【請求項8】 ヨ)前記外気導入手段が上方にある請求項7記載のセラミック成形体の乾燥装 置。」 を、 「【請求項1】 イ’)水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥装置中で乾燥する方法であって、 ロ)水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの過程において、 ハ’)前記セラミック成形体の上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱するとともに、 ニ)前記乾燥装置中に外気を導入したり装置内の空気を排出したりすることにより、前記乾燥装置内の風速を1m/s未満とする ホ)ことを特徴とするセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項2】 へ)前記乾燥装置内の風速を、被乾燥物の表面から5cm離れた位置でのものとした請求項1記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項3】 ト)前記乾燥装置中に導入する外気の温度Tsを、装置内部の温度をToとしたとき、To≧Ts≧To-45℃とした請求項1または2記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項4】 チ)前記水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了した後は、高温、低湿度の風による乾燥でセラミック成形体の乾燥を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミック成形体の乾燥方法。 【請求項5】 ル’)水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥する装置であって、 ヲ’)前記セラミック成形体に上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱する加熱手段と、装置内に外部から空気を導入させる外気導入手段と、装置内の前記セラミック成形体から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出する空気排出手段とを備え、 ワ)前記加熱手段と外気導入手段と空気排出手段とを制御して、装置内の風速を1m/s未満に制御可能である カ)ことを特徴とするセラミック成形体の乾燥装置。 【請求項6】 ヨ)前記外気導入手段が上方にある請求項5記載のセラミック成形体の乾燥装置。」 と訂正する。 ▲2▼訂正事項b 明細書【0008】項に係る記載 「【課題を解決するための手段】本発明のセラミック成形体の乾燥方法は、水分を含むセラミック成形体を乾燥装置中で乾燥する方法であって、水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの過程において、前記セラミック成形体に主として輻射エネルギーを放射して前記セラミック成形体を加熱するとともに、前記乾燥装置中に外気を導入したり装置内の空気を排出したりすることにより、前記乾燥装置内の風速を1m/s未満とすることを特徴とするものである。」 を、 「【課題を解決するための手段】本発明のセラミック成形体の乾燥方法は、水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥装置中で乾燥する方法であって、水分の減少に伴うセラミック成形体の寸法収縮が終了するまでの過程において、前記セラミック成形体の上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱するとともに、前記乾燥装置中に外気を導入したり装置内の空気を排出したりすることにより、前記乾燥装置内の風速を1m/s未満とすることを特徴とするものである。」 と訂正する。 ▲3▼訂正事項c 平成7年1月10日の本件請求人提出に係る手続き補正書により補正された明細書の【0009】項に係る記載 「また、本発明のセラミック成形体の乾燥装置は、水分を含むセラミック成形体を乾燥する装置であって、前記セラミック成形体に主として輻射エネルギーを放射して前記セラミック成形体を加熱する加熱手段と、装置内に外部から空気を導入させる外気導入手段と、装置内の前記セラミック成形体から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出する空気排出手段とを備え、前記加熱手段と外気導入手段と空気排出手段とを制御して、装置内の風速を1m/s未満に制御可能であることを特徴とするものである。」 を、 「また、本発明のセラミック成形体の乾燥装置は、水分を含み、最大肉厚部の厚みが20mm以上で、粘土を含む磁器組成物からなるセラミック成形体を乾燥する装置であって、前記セラミック成形体に上部及び下部から遠赤外線ヒータの輻射エネルギーを放射して、前記セラミック成形体を加熱する加熱手段と、装置内に外部から空気を導入させる外気導入手段と、装置内の前記セラミック成形体から蒸発した水分を含む空気を装置外に排出する空気排出手段とを備え、前記加熱手段と外気導入手段と空気排出手段とを制御して、装置内の風速を1m/s未満に制御可能であることを特徴とするものである。」 と訂正する。 |
異議決定日 | 1999-06-30 |
出願番号 | 特願平5-62101 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(H01B)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 板橋 一隆 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
柿澤 惠子 小林 信雄 |
登録日 | 1997-02-13 |
登録番号 | 特許第2610767号(P2610767) |
権利者 | 日本碍子株式会社 |
発明の名称 | セラミック成形体の乾燥方法およびそれに用いる装置 |
代理人 | 杉村 純子 |
代理人 | 高見 和明 |
代理人 | 冨田 典 |
代理人 | 杉村 純子 |
代理人 | 中谷 光夫 |
代理人 | 杉村 暁秀 |
代理人 | 青木 純雄 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 藤谷 史朗 |
代理人 | 徳永 博 |
代理人 | 杉村 暁秀 |
代理人 | 高見 和明 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 冨田 典 |
代理人 | 徳永 博 |
代理人 | 梅本 政夫 |
代理人 | 梅本 政夫 |