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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F |
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管理番号 | 1024849 |
異議申立番号 | 異議1999-70318 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1991-10-18 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-02-01 |
確定日 | 1999-08-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2781245号「エチレン系重合体組成物の製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2781245号の特許を維持する。 |
理由 |
I.本件発明 本件特許第2781245号は、平成2年2月13日に出願された特願平2ー32093号の出願に係り、平成10年5月15日に設定登録されたものであり、その発明は、設定登録時の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により構成される次のとおりのものである。 「重合工程(a):シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含む遷移金属化合物[A]および有機アルミニウムオキシ化合物[B]からなるオレフィン重合用触媒[I] を用いて、エチレンと他のα-オレフィンとを共重合して、密度が0.91g/cm3以下でありかつ極限粘度[η]が0.5〜6dl/gであるエチレン系共重合体[I]を形成する工程、 および 重合工程(b):チタン、マグネシウムおよびハロゲンを必須成分とするチタン触媒成分[C]と、有機アルミニウム化合物[D]および/または有機アルミニウムオキシ化合物[E]とからなるオレフィン重合用触媒[II]を用いて、エチレンまたはエチレンと他のα-オレフィンとを重合もしくは共重合して、上記エチレン共重合体[I]よりも密度が高く、かつ極限粘度が0.5〜6dl/gであるエチレン系重合体[II]を形成する工程 からなる多段工程を、重合工程(a)を行なった後、得られたエチレン系共重合体[I]の存在下に重合工程(b)を行なうか、もしくは重合工程(b)を行なった後、得られたエチレン系重合体[II]の存在下に重合工程(a)を行なって、上記両工程における重合量をエチレン系共重合体[I]100重量部に対しエチレン系重合体[II]が10〜1000重量部の割合となるように行なうことを特徴とする、密度が0.87〜0.93g/cm3であり、かつ極限粘度[η]が0.5〜6dl/gであるエチレン系重合体組成物の製造方法。」 II.特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人ダウ・ケミカル日本株式会社は、下記甲第1〜5号証を提示し、本件発明は、甲第1〜4号証の記載に基づいて、または、甲第1〜5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明し得るものであるから、本件は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は取り消されるべきである旨、主張している。 記 甲第1号証:特開昭56-10506号公報 甲第2号証:特開昭57-126809号公報 甲第3号証:特開昭53ー92887号公報 甲第4号証:特開昭62ー121709号公報 甲第5号証:米国特許第4659685号明細書 III.甲第1〜5号証の記載事項 (III-1)甲第1号証には、「遷移金属触媒当たりのエチレン重合体収量が…………………である遷移金属触媒を用いて、 (a)工程:エチレンまたはエチレンと他のα-オレフィンとを重合もしくは共重合して、………………極限粘度[η]が0.3〜3の(i)エチレン重合体もしくは共重合体を形成する工程及び (b)工程:エチレンと他のα-オレフィンとを共重合して、………………、且つまた上記(i)エチレン重合体もしくは共重合体の極限粘度[η]の少なくとも1.5倍以上で且つ1〜12の極限粘度を有する(ii)エチレン共重合体を形成する工程から成る多段工程を、(a)工程後その生成物の存在下に(b)工程を行うか、もしくは(b)工程後その生成物の存在下に(a)工程を行う順序で行い、上記両工程における重合量を、重量比で、該(i)エチレン重合体もしくは共重合体:該(ii)エチレン共重合体=30〜60未満:40を越え〜70以下の割合となるように行うことを特徴とする極限粘度1〜6で且つα-オレフィン含有量0.2〜20重量%の非エラストマー性のエチレン重合体組成物の製法。」(特許請求の範囲第1項)の発明について記載され、発明の詳細な説明には、遷移金属としてチタン触媒を使用する場合有機アルミニウム化合物を併用することが好適な態様であり(3頁右上欄〜左下欄)、該有機アルミニウム化合物としてはAl-O結合を有する化合物も使用されること(4頁右上欄)、また、発明の詳細な説明の実施例の表1には、実施例1〜14について、1段目重合器流出エチレン重合体の物性の一としての密度及び生成エチレン重合体組成物の物性の一としての密度がそれぞれ具体的な数値をもって記載されている。 (III-2)甲第2号証には、「(1)密度0.910g/cm3以上0.940g/cm3以下、極限粘度数「η]が0.7dl/g以上4.0dl/g以下、……………分子量分別により低分子量成分と高分子量成分の2区分に分割したときの(高分子量成分の短鎖分岐度)/(低分子量成分の短鎖分岐度)が0.6以上であるエチレンと炭素数3以上18以下のαオレフィンとの共重合体。 …………………………………………… (3)低分子量成分の極限粘度数が0.3dl/g以上1.5dl/g以下で……………、高分子量成分の極限粘度数が1.2dl/g以上6.0dl/g以下で………………共重合体。 (4)低分子量成分の密度が0.910g/cm3以上0.955g/cm3以下、高分子量成分の密度が0.895g/cm3以上0.935g/cm3以下である………………共重合体。 (5)低分子量成分と高分子量成分の割合が低分子量成分30重量%以上90重量%以下、高分子量成分70重量%以下10重量%以上である…………………共重合体。 ……………………」(特許請求の範囲)の発明について記載され、発明の詳細な説明には、重合触媒として、担体上に担持された遷移金属化合物が使用され、またそれと共に有機アルミニウム化合物も使用されることが記載され(11頁右上欄〜左下欄)、また、「本発明のエチレン-αオレフイン共重合体を得る好適な方法は、上記触媒系を用いて二段重合、もしくは多段重合方式と呼ばれる方法である。この方法は例えば所望の特性値を有する高分子量成分が得られる重合条件で一定時間重合させた後、引き続いて同一触媒を用いたまま、所望の特性値を有する低分子量成分が得られるように重合条件だけを変更して、所望の割合になる時間まで重合することにより製造する方法である。この場合、高分子量成分と低分子量成分の重合順序はいずれでもよい。」ことも記載されている。 (III-3)甲第3号証には、「(1)密度0.900ないし0.940g/cm3、極限粘度[η]0.8ないし4.0、…………………エチレンと少割合の炭素数5ないし18のα-オレフィンとの共重合体。」(特許請求の範囲第1項)の発明について記載され、発明の詳細な説明の実施例1の<触媒調製>には、無水塩化マグネシウム、ジエチルアルミニウムクロリド及び四塩化チタンから触媒を得たことが記載されている。 (III-4)甲第4号証には、「(A)共役π電子を有する基を配位子としたジルコニウムハイドライド化合物、および(B)アルミノオキサンから成る触媒の存在下に、エチレンと炭素原子数3〜20のα-オレフィンを共重合せしめることを特徴とするエチレンおよび炭素原子数3〜20のα-オレフィンからの低結晶性エチレン系ランダム共重合体の製造法。」(特許請求の範囲第2項)の発明について記載され、ジルコニウムハイドライド化合物(A)としてはシクロアルカジエニル基を有する化合物も記載されている。 (III-5)甲第5号証には、(1)少なくとも一つのチタン化合物と(2)少なくとも一つの有機金属化合物を含む触媒組成(クレーム1)の発明についての記載があり、具体的な重合工程の説明に 300mlの1-オクテン及び380psig(2620kPa)まで加圧されたエチレンが供給された1ガロン(3.785L)の反応器に、トルエンに溶解された有機金属化合物とポリメチルアルミノキサンを添加した。10分後チタニウム成分とComponent G(トリエチルアルミニウムの25%ヘキサン溶液)を反応器に加え重合をさらに10分間行わせた。この後ポリマーを回収し、減圧下で乾燥して収量が決定された。」旨の記載があり(6欄下段)、表には実験例で使用された触媒成分が記載され、その中には例えば、ジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド、MgCl2、エチルアルミニウムジクロライド及びテトライソプロポキシチタンを反応させて得たComponent Fも記載されている。 IV.対比・検討 (1)本件発明と甲第1〜2号証記載の発明との対比 (1-1)甲第1号証記載の発明における(a)工程のモノマー(組成)及び得られたポリマー(i)の極限粘度[η]は、本件発明の(a)工程のモノマー及び得られたエチレン系共重合体[I]の極限粘度[η]にそれぞれ一致し、甲第1号証記載の発明における(b)工程のモノマー及び得られたポリマー(ii)の極限粘度[η]は、本件発明の(b)工程のモノマー及び得られたエチレン系重合体[II]の極限粘度[η]にそれぞれ一致し、また、甲第1号証記載の発明における組成物の密度、極限粘度[η]及び(a)工程で得られたポリマー(i)と(b)工程で得られたポリマー(ii)の割合は、本件発明の組成物の密度、極限粘度[η]及び(a)工程で得られたエチレン系共重合体[I]と(b)工程で得られたエチレン系重合体[II]の割合にそれぞれ一致する。 そして、両発明は、(イ)本件発明では(a)工程で使用する触媒の遷移金属化合物がシクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含むものであるのに対し、甲第1号証には使用する遷移金属化合物がそのような骨格を有する配位子を含むことについて何も記載されていない点、(ロ)本件発明では(b)工程で使用する触媒として前記[C]、[D]、「E」等からなるオレフィン重合用触媒[II]を用いるのに対し、甲第1号証記載の発明では(a)工程で使用した触媒をそのまま(b)工程で使用する点、(ハ)本件発明では(a)工程で得られエチレン系共重合体[I]の密度が0.91g/cm3以下であるのに対して、甲第1号証記載の発明ではポリマー(i)の密度についての概括的な記載はなく表1で0.944〜0.975g/cm3のものが具体的に記載されている点、(二)本件発明では(b)工程で得られたエチレン系重合体[II]の密度が(a)工程で得られたエチレン系共重合体[I]の密度よりも高いのに対し、甲第1号証記載の発明では(b)工程で得られるポリマー(ii)の密度は(a)工程で得られるポリマー(i)の密度よりも低い点(甲第1号証において、表1をみれば第1段目よりも最終生成物の密度が低いことから第2段目では第1段目よりも低い密度のものが得られていることが推察される。)で、相違している。 (1-2)甲第2号証記載の発明における高分子量成分の密度及び極限粘度[η]は本件発明のエチレン系共重合体[I]の密度及び極限粘度[η]とそれぞれ一致し、甲第2号証記載の発明における低分子量成分の極限粘度[η]は本件発明のエチレン系重合体の[II]の極限粘度[η」と一致し、また、甲第2号証記載の共重合体における高分子量成分と低分子量成分の割合、その密度及び極限粘度[η]はいずれも本件発明の組成物のエチレン系共重合体[I]とエチレン系重合体[II]の割合、密度及び極限粘度[η]にそれぞれ一致している。 そして、両発明は、(イ)本件発明では(a)工程で使用する触媒の遷移金属化合物がシクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含むものであるのに対し、甲第2号証には使用する遷移金属化合物がそのような骨格を有する配位子を含むことについて何も記載されていない点、(ロ)本件発明では(a)工程で触媒の一成分として有機アルミニウムオキシ化合物を使用するのに対し、甲第2号証記載の発明では有機アルミニウム化合物あるいは有機アルミニウムハライドを使用する点、(ハ)本件発明では(b)工程で使用する触媒が前記[C]、[D]、「E」等からなるオレフィン重合用触媒[I]を用いるのに対し、甲第2号証記載の発明では前段の工程で使用した触媒をそのまま後段の工程で使用する点、(ニ)本件発明ではエチレン系重合体[II]の密度がエチレン系共重合体[I]の密度より高いのに対し、甲第2号証にはそのような点が明記されていない点(なお、甲第2号証の表1及び表2によれば、低分子量成分の方が高分子量成分に較べて密度はおおむね高いことは認められ、甲第2号証記載の発明において低分子量成分を第1段目で重合した場合にはこの点は一致点となるが、その場合第1段目の生成物の密度は僅かに0.91g/cm3で一致することになるに過ぎない。)、で相違している。 (2)本件発明の進歩性の有無についての検討 特許異議申立人は、甲第4号証に本件発明のオレフィン重合用触媒[I]が記載され、また甲第3号証に本件発明のオレフィン重合用触媒[II]が記載されているから、甲第1号証あるいは甲第2号証の2段重合法において第1段目に甲第4号証の触媒を使用し第2段目に甲第3号証の触媒を使用することは容易である、と主張している。 確かに、甲第4号証には本件発明の[A]と[B]からなるオレフィン重合用触媒[I]と同じ触媒が記載され、また、甲第3号証には本件発明の[C]、[D]、[E]等から成るオレフイン用触媒[II]と同じ触媒が記載されている。 しかし、甲第1号証及び甲第2号証には第1段目と第2段目の重合を異なる触媒を使用して行うことは何も記載されていないし、また、上記のように1段目あるいは2段目で得られるポリマーの密度が本件発明のものと必ずしも一致しているわけでもない。 そして、何故に甲第4号証の触媒を甲第1〜2号証の1段目の重合触媒に代えて用いる必要があるのか、それを根拠付ける記載はいずれの刊行物にも見出せないし、更にまた、第二段目では第1段目とは別の触媒を、しかもその触媒として甲第3号証記載の触媒を用いることが当業者が容易に想到されるとは到底いえるものではない。 よって、甲第1〜4号証に基づいて本件発明が当業者の容易に発明し得たとする特許異議申立人の主張は採用しない。 また、特許異議申立人は、甲第5号証には本件発明の(a)工程の[A]と[B]から成るオレフィン重合用触媒[I]と(b)工程の[C]、[D]、[E]等から成るオレフィン重合用触媒[II]に相当する触媒系を使用して2段階で重合することが記載されており、両触媒は相互に干渉しないものであるから、甲第1〜4号証の記載に更に甲第5号証の記載を併せみれば本件発明は容易に当業者が発明し得るものである、とも主張する。 しかし、甲第5号証記載の発明は、その特許請求の範囲にも示されているように触媒成分の組み合わせに特徴を有する触媒の発明であって、実施例においては、有機遷移金属化合物(これにはシクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含むものも記載されている。)とポリメチルアルミノキサンを加え、10分後に更にチタン成分(これにはMgCl2、エチルアルミニウムジクロライドおよびテトライソプロポキシチタンを反応させて得たComponent Fも記載されている。)とトリエチルアルミニウムを使用して重合することが記載されているが、前段と後段でそれぞれ異なる極限粘度や密度のものを生成させ最終的には組成物を形成させるという思想は何も記載されていない。 そうであれば、甲第5号証の記載を甲第1〜2号証の記載と併せ検討しても、甲第1〜2号証の2段階重合の触媒として甲第5号証の触媒を使用しようとする動機は特に見あたらない。これにさらに甲第3〜4号証の記載を併せみてもその点は同様である。 V.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人の提示した証拠によっては本件特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 1999-07-14 |
出願番号 | 特願平2-32093 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08F)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤本 保 |
特許庁審判長 |
柿崎 良男 |
特許庁審判官 |
柿澤 紀世雄 佐野 整博 |
登録日 | 1998-05-15 |
登録番号 | 特許第2781245号(P2781245) |
権利者 | 三井化学株式会社 |
発明の名称 | エチレン系重合体組成物の製造方法 |
代理人 | 佐藤 一雄 |
代理人 | 小野寺 捷洋 |
代理人 | 中村 行孝 |