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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1024867
異議申立番号 異議1998-75795  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-30 
確定日 2000-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2759050号「突発性難聴治療用医薬組成物」の請求項ないし9、11ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2759050号の請求項1ないし9、11ないし12に係る特許を維持する。 
理由 [I]手続の経緯
特許第2759050号の発明についての出願は、平成6年1月27日に特許出願がなされ、平成10年3月13日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、五島香里より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年12月6日に訂正請求がなされたものである。
[II]訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者は、以下のa〜cの訂正を請求する。
訂正a
特許請求の範囲の請求項1及び11において、「突発性難聴」を「原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴」に訂正する。
訂正b
請求項10の「インターフェロンが天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の治療用医薬組成物。」を「天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンを有効成分とする、突発性難聴に対する治療用医薬組成物。」に訂正する。
訂正c
請求項13の「インターフェロンが天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンである、請求項12記載の製造方法。」を「天然あるいは組み換えアルファーインターフェロン単独、あるいは他の1種もしくはそれ以上の薬剤とともに、薬学的に許容しうる媒体と天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンとを混合することからなる、突発性難聴の治療用医薬の製造方法。」に訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正aは、請求項1〜9及び11,12について、「突発性難聴」を、明細書の段落番号【0001】の「突然発症する内耳性難聴のうち、原因不明のものを突発性難聴と呼んでおり」なる記載、及び「突発性難聴とは原因不明の急性感音難聴を主症状とする一つの症候群であり」なる記載に基づいて、「原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものあり、新規事項の追加に該当しない。
また、上記訂正b及びcは、請求項1〜9及び11、12が訂正されたことに伴い、これらの請求項を引用する請求項10及び13は訂正されていないことを明らかにするために、その記載形式を独立形式としたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
そして、上記いずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ.独立特許要件
上記訂正aにより訂正された請求項1〜9,11,12に係る発明は、後記[III]で示した内容から明らかなように、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
[III]特許異議の申立てについて
ア.本件発明
本件発明は、明細書の特許請求の範囲に記載された、以下のとおりのものである。
【請求項1】インターフェロンを有効成分とする、原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴に対する治療用医薬組成物。
【請求項2】インターフェロンが単独、あるいは他の薬剤との合剤である、請求項1記載の治療用医薬組成物。
【請求項3】インターフェロンを有効成分とする、突発性難聴治療効果促進のための請求項1または2記載の治療用医薬組成物。
【請求項4】インターフェロンを有効成分とし、且つ他の薬剤との併用に供するものである、請求項1〜3のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項5】インターフェロンを単独に含有し、且つ他の薬剤との併用に供するものである、請求項4記載の治療用医薬組成物。
【請求項6】インターフェロンと他の薬剤とを含むキットの形態にある請求項1〜5のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項7】他の薬剤がステロイドを含むものである、請求項1〜6のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項8】インターフェロンと薬学的に許容される媒体を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項9】インターフェロンが天然物から誘導されるか、又は組み換えDNA技術により調製されるものである、請求項1〜8のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項10】天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンを有効成分とする、突発性難聴に対する治療用医薬組成物。
【請求項11】インターフェロン単独、あるいは他の1種もしくはそれ以上の薬剤とともに、薬学的に許容しうる媒体とインターフェロンとを混合することからなる、原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴の治療用医薬の製造方法。
【請求項12】インターフェロンが天然物から誘導されるか、又は組み換えDNA技術により調製されるものである、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】天然あるいは組み換えアルファーインターフェロン単独、あるいは他の1種もしくはそれ以上の薬剤とともに、薬学的に許容しうる媒体と天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンとを混合することからなる、突発性難聴の治療用医薬の製造方法。
イ.申立ての理由の概要
これに対し、特許異議申立人五島香里は、証拠として
甲第1号証:「現代病理学体系」第22巻A[感覚器1]平行聴覚器 p166-180,1991年9月25日、中山書店発行
甲第2号証:Munch.med.Wschr.124(1982)Nr.42,911-914
甲第3号証:Fiblaferonの使用説明書、1990年6月発行
甲第4号証:ROTE LISTE 1991,50 023
甲第5号証:米国特許第5698232号
甲第6号証:米国特許第5698232号の審査過程において提出された1996年8月8日付応答書を提示し、本件特許の請求項1〜9,11,12に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と主張している。
ウ.判断
そこで、この主張について、以下、検討する。
本件請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、インターフェロンを、原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴の治療に適用し、その治療効果を見いだしたことを特徴とするものである。
これに対し、甲第2号証には、インターフェロンの臨床研究が進められており、内耳のウイルス感染に起因する難聴に対してインターフェロンが日常的な治療として用いられるであろうことが期待されている、との記載があるにとどまり、実際にその治療に適用した結果、難聴に改善がみられたことは記載されていない。
また、甲第3,4号証にも、インターフェロンの適用疾患の一つとして、聴力低下や難聴を伴うウイルス性内耳感染症が記載されているものの、インターフェロンを用いて同感染症を治療した結果、聴力低下や難聴が改善するか否か、は、何ら記載されていない。
一方、甲第1号証には、突発性難聴の病因として、ウイルス感染が考えられるという学説が紹介されているが、この学説は、甲第2〜4号証にいうウイルス性内耳感染症の原因ウイルスと突発性難聴の原因ウイルスが同じである等、同感染症と突発性難聴が同様に治療できることを確認するものではなく、そもそも、原因不明の突発性難聴の原因がウイルスであると確認するに至ったものでも、抗ウイルス作用をもつ薬剤が突発性難聴に奏功することを明らかにするものでもない。
結局、甲第1〜4号証の記載からは、インターフェロンがウイルス感染に由来する難聴を改善することも、ウイルス感染に由来する難聴と突発性難聴が同様に抗ウイルス作用をもつ薬剤で治療し得ることも、明らかでないといわざるを得ず、かかる甲第1〜4号証の記載に基づく限り、当業者といえども、インターフェロンが、突発性難聴の中でも原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴に奏功し、聴力の回復をもたらすとまでいえたものではない。
したがって本件発明は、甲第1〜4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件請求項2〜9に係る発明は、本件発明のインターフェロンそれ自体やその使用態様を限定する発明であるから、本件発明についての理由と同様の理由により、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに、本件請求項11,12に係る発明は、本件発明の医薬の製造方法の発明であるから、本件発明についての理由と同様の理由により、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許異議申立人の主張は採用できない。
なお、出願時公知の刊行物ではない甲第5,6号証の内容をみても、以上の判断を左右するものは見いだせない。
[IV]むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜9、11,12に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、請求項1〜9、11,12に係る特許について、他に取消理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
突発性難聴治療用医薬組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 インターフェロンを有効成分とする、原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴に対する治療用医薬組成物。
【請求項2】 インターフェロンが単独、あるいは他の薬剤との合剤である、請求項1記載の治療用医薬組成物。
【請求項3】 インターフェロンを有効成分とする、突発性難聴治療効果促進のための請求項1または2記載の治療用医薬組成物。
【請求項4】 インターフェロンを有効成分とし、且つ他の薬剤との併用に供するものである、請求項1〜3のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項5】 インターフェロンを単独に含有し、且つ他の薬剤との併用に供するものである、請求項4記載の治療用医薬組成物。
【請求項6】 インターフェロンと他の薬剤とを含むキットの形態にある請求項1〜5のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項7】 他の薬剤がステロイドを含むものである、請求項1〜6のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項8】 インターフェロンと薬学的に許容される媒体を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項9】 インターフェロンが天然物から誘導されるか、又は組み換えDNA技術により調製されるものである、請求項1〜8のいずれかに記載の治療用医薬組成物。
【請求項10】 天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンを有効成分とする、突発性難聴に対する治療用医薬組成物。
【請求項11】 インターフェロン単独、あるいは他の1種もしくはそれ以上の薬剤とともに、薬学的に許容しうる媒体とインターフェロンとを混合することからなる、原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴の治療用医薬の製造方法。
【請求項12】 インターフェロンが天然物から誘導されるか、又は組み換えDNA技術により調製されるものである、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】 天然あるいは組み換えアルファーインターフェロン単独、あるいは他の1種もしくはそれ以上の薬剤とともに、薬学的に許容しうる媒体と天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンとを混合することからなる、突発性難聴の治療用医薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ヒト患者の突発性難聴の治療用医薬組成物に関する。
【従来の技術】
突然発症する内耳性難聴のうち、原因不明のものを突発性難聴と呼んでおり、たとえば文献1には次のように記載されている。
『昭和48年の厚生省特定疾患突発性難聴調査研究班は、診断基準の一つとして「発症の日時を明記できる」ことを挙げ、さらに「明らかな原因があるものは除外」している。すなわち突発性難聴とは原因不明の急性感音難聴を主症状とする一つの症候群であり、その発生機序、病態についてはいまだに仮説のみの状態にある。発生機序については内耳循環障害説、ウイルス感染説、内耳窓破裂説が主であるが、これは突発性難聴の実験モデル作成が不可能なこと、剖検例が極めて少なくかつ陳旧性が多いことに起因している。』(文献1)。
現在、突発性難聴の治療は主として内耳の循環改善を目的としてステロイド剤、循環改善剤、ビタミン剤の組み合わせにより行われているが、上述の如く成因、病態が未だに明らかになっていない為、症状の改善に決定的なものとはなっていない(文献1、2、3)。とりわけ高度突発性難聴は、早期に治療を開始しても実用聴力として満足のいく聴力回復が望みにくいのが現状である。
【0002】
1962年にSchuknechtらが突発性難聴の患者の側頭骨病理所見から突発性難聴の成因としてウイルス感染説を提唱するに到った(文献4、5)。その後、主として突発性難聴患者における血清ウイルス抗体価の上昇を根拠としたウイルス感染説を支持する報告が数多くなされている(文献6、7)。しかし治療面から見ると、突発性難聴の治療に抗ウイルス剤を用いた例はほとんど無く、また治療効果も上がっていない。たとえば文献7では、突発性難聴の治療に抗ウイルス剤を使用することは本症の治療率を上昇する可能性があり得ると考え、従来の治療に抗ウイルス剤(Acyclovir)を併用した治療方法を行っている。しかしステロイド及びAcyclovir投与群、Acyclovir投与群、ステロイド投与群の間で改善度に有意差は認められていない。このような状況のもと、ウイルス感染を考慮した積極的治療はほとんどなされていないのが現状である。
【0003】
ところで抗ウイルス作用を示す生理活性タンパクとして、インターフェロン(以下、IFNと略す)が知られている。IFNはウイルス感染をはじめとするさまざまな要因で産生される物質で、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、免疫調整作用などの生物活性を有するサイトカインの1つである。IFNの抗ウイスル作用の全貌は未だ解明されていないが、ウイルスを直接攻撃せず細胞に作用し、2-5oligoadenylate synthetase(以下、2-5ASと略す)を活性化することによりウイルスのmRNAを破壊し、抗ウイルス作用を発揮することが知られている(文献10〜12)。しかし、生体内で、あらゆるウイルス感染に対して抗ウイルス効果を発揮するかどうかは未だ明らかにされていない。
これらIFNを突発性難聴の治療に適用した例は未だ報告されていない。突発性難聴ではないが、難聴を諸症状のうちの一つとする帯状水痘ウイルス感染症の患者にIFN(Hu IFN-α)を適用した例がある(文献13)。治療の結果、他の症状(咽頭痛、右耳痛、発熱、意識障害等)の改善は見られた。しかし難聴は改善せず、発症後2か月の時点でも不変であったという報告がなされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、突発性難聴の新しい治療薬を提供することを目的とする。即ち本発明の課題は、従来にない優れた効果を有する治療剤として、IFNを有効成分とする突発性難聴治療剤を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、突発性難聴の患者に対し、抗ウイルス剤としてIFNを単独あるいは従来の治療に用いられた薬剤との併用により使用したところ、全例に何らかの効果が認められ、今までに見られない良好な結果が得られ、本発明を完成するに到った。
すなわち本発明は、IFNを有効成分とする、突発性難聴に対する治療用医薬組成物に関する。
本発明の治療用医薬組成物に含有されるIFNは、天然の原料(たとえば白血球、繊維芽細胞、リンパ球など)、あるいは天然由来の原料(たとえばセルラインなど)から誘導されたIFNでも、組み換えDNA技術により調製されたIFNでもよい。IFNのcDNAのクローニング、あるいはそのcDNAの直接発現、とりわけ大腸菌での発現の詳細については多くの発表がなされている。従って、例えば組み換えIFNの調製は、例えば、Nature 295(1982),503-508(Grayら)、Nature 284(1980),316-320、Nature 290(1981),20-26(Goeddelら)、Nucleic Acids Res.8(1980),4057-4074i(ヨーロッパ特許No.174 143も同様)により知られた方法によって実施できる。
IFNは、たとえばα、β、γ-IFNのいずれでもよい。さらに、IFN-αIあるいはIFN-α2(IFN-α2A,IFN-α2B,IFN-α2Cなど)、またはIFN-αII(IFN-αIIあるいはω-IFNとも呼ばれる)などのサブタイプ、天然もしくは人為的アレル変異体、あるいは転移、欠失、挿入、修飾などを含むIFN分子(たとえばペグ化されたIFN)これらのIFNから得られうるハイブリッド、あるいはコンセンサスIFN分子などの多数のタイプのIFNがあり、これらのいずれもが本発明において有効に使用できる。
【0006】
本発明の治療用医薬組成物は、薬効成分としてIFN単独であってもよいし、他の薬剤との合剤であってもよい。また、IFNを薬効成分とする薬剤を、他の薬剤との併用に供してもよい。ここで言う「他の薬剤」とは、既知の突発性難聴治療剤、すなわちステロイド剤(例えばベタメサゾン、プレドニゾロン等)、循環改善、血管拡張剤(例えばATP、カリクレイン製剤、プロスタグランジン、低分子デキストラン等)、ビタミン剤(例えばビタミンB12等)などを含む。このように、IFNを薬効成分とする薬剤を他の薬剤と併用することにより、突発性難聴の治療効果を促進することもできる。本発明の治療用医薬組成物は、IFN及び他の薬剤を含むキットの形態であってもよい。
IFNを含有する本発明の治療用医薬組成物は、突発性難聴を治療するのに好ましい投与経路に適した薬学的に許容される媒体を含ませてもよい。例えば注射液の場合、滅菌等張塩水、防腐剤、緩衝剤などを含んでいてもよい。また、徐放性の治療用組成物とすることも可能である。
投与量は、1日量100単位〜2,000万単位程度を効果が認められるまで使用することが可能であるが、1日量50万単位〜1,000万単位を2週間程度投与するのが好ましい。
用法としては筋肉注射による投与が好ましいが、経口投与、坐薬としての投与、皮下注射、静脈注射、局所注入、脳室内投与、腹腔内投与なども考えられる。
【0007】
【実施例】
以下、本発明の一例として実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例
(1)方法
IFN一α〔IFN ALFA-2A(genetlcal recombination)〕300万単位を連日10日間、筋肉注射により投与した。
この際、循環改善・血管拡張剤(低分子デキストラン、ATP)、ビタミン剤(ビタミンB12)、ニコチン酸に加え、ステロイド(ベタメサゾン)漸減療法を併用した。詳細を表1に示す。
【0008】
【表1】

【0009】
(2)対象
対象としたのは、1992年8月〜1993年11月の間に受診した突発性難聴の患者のうち、特に予後が悪いとされる高度突発性難聴に的を絞り、初診時平均聴力が5分法(250、500、1000、2000、4000Hzの5周波数の聴力の算術平均を測る方法)で70dB以上、発症1週間以内の患者(N=24、年齢:20〜78才、男:7名、女:17名、初診時平均聴力:86.6dB(5分法)、右12耳、左12耳、平均受診日:3.4日)のみとした(表2)。
【0010】
【表2】

【0011】
この際、患者には突発性難聴の説明およびIFN-αの使用、それに伴う副作用の説明などを十分に行い、同意の上でこの治療法を行った。ただし、この24名の患者のうち3名は糖尿病があったためステロイド療法は併用せず、IFN-αと循環改善剤、血管拡張剤のみを使用した。
対照群として、1988年1月〜1992年7月の間、ステロイド漸減療法を行った患者のうち初診時平均聴力が5分法で70dB以上、発症1週間以内の患者(N=45、年齢13〜89、男.26名、女:19名、初診時平均聴力:85.1dB(5分法)、右20耳、左25耳、平均受診日:3.8日)の治療成績を用いた。治療効果の判定には、表3に示す厚生省突発性難聴研究班の聴力回復判定基準により、4段階で分類した。
【0012】
【表3】

【0013】
(3)結果
図1に治療成績を示す。対照群は従来より報告されている他施設の成績(文献1、2、8、9)と大差無いものである。この両者の比較からも明らかなように、IFN-α投与群では、完全治癒が約半数の24名中12名で、不変の症例は1例もなかった。一方、対照群では、治癒が20%の45名中9名、不変が全体の1/3にあたる45名中15名有り、IFN-α投与群と大きな差が認められた。有効率は以下の通りであった。
有効率,IFN-α群100%、対照群・66.7%
(X2test X2=9.97,p<0.0016)。
さらに少なくともひとつ以上のスケールアウト(5つの周波数のうち少なくとも1つの周波数における聴力が、以下に示す表4のスケールアウト認定dB以上のもの)を含む平均聴力90dB以上のより高度の難聴症例に限って比較してみた
【0014】
【表4】

【0015】
以下の表5に示すようにIFN-α投与群では、24名中10名がこれに該当し、治癒:3名、著明回復6名:回復:1名であったのに対し、対照群では45名中14名が該当したが、治癒、著明回復の症例が1例もなく、回復:4名、不変:10名という結果であった。有効率は以下の通りであった。
有効率,IFN-α群:100%、対照群:28.5%
(Fisher’s Exact test,2-tail:p<0.0001)
また、糖尿病を有しステロイド療法を併用できなかった3名の患者の予後は各々、治癒、著明回復、回復であった。
また、IFN一α300万単位でも、副作用は見られなかった。
これらの治療成績の結果から、従来法で治療が困難であった、より高度の突発性難聴にもIFN一αは有効であることがわかった。
【0016】
【表5】

【0017】
(4)2-5AS活性の測定
前述の如く、IFNにはウイルス増殖抑制作用があり、2-5AS活性が抗ウイルス作用の指標となる(文献10〜12)。そこでIFN-α投与群に対し、外来初診時、およびIFN-α投与開始3日後に血液中の2-5AS活性の測定を行い、予後との間に何らかの関係がないか検討した。この際、2-5AS活性測定は、2-5ASにより合成される2-5Aの量をRadio Immuno Assay(2 antibody method)で測定することにより行った。測定には栄研科学社製の「2-5Akit」を用いた。
図2はIFN-α投与前後での2-5AS活性の変化と予後との関係を示すものである。2-5ASは100pmol/d1以上の値で抗ウイルス活性を持つ(SRL社「2´-5´オリゴアデニル酸合成酵素検査マニュアルコード5462)。図2で見る通りほとんどの症例ではIFN-α投与前では2-5ASの値が100pmol/d1以下で抗ウイルス作用がないと考えられる。一方、IFN-α投与3日後では100pmol/d1以上の値をとるものが多く、とくに治癒したものは1例を除き、ほぼ全例2-5AS活性の上昇が認められた(Paired-t test: t=6.14,p<0.0001)。
【0018】
図3ではIFN-α投与3日後の2-5AS活性値を予後に分けて示してみた。治癒した症例の91.7%(12例中11例)、著明回復した症例の70.0%(10例中7例)は2-5AS活性の上昇が認められるが、回復の症例では2例とも2-5AS活性の上昇が認められていないという結果になっている。これは、IFN-α投与3日後の2-5AS活性の上昇と予後とに相関があるといえる。(Flsher’s Exact test,2-tail:p=0.054)。
以上の如く、IFN-α投与3日目では75.0%(24例中18例)で2-5AS活性の上昇が見られていることから、これらの症例では外部から投与したIFN-αにより2-5AS活性の上昇が誘発され抗ウイルス状態が作り出されたと考えられる。しかも2-5AS活性が高かった症例の大半が従来の治療に比較して有意に予後良好であったことは、突発性難聴の成因にウイルスが何らかの形で関与していることを示唆している。
【0019】
〔引用文献〕
1.大橋正実:突発性難聴の病態と治療に関する臨床的解析.Audiol Jpn,30:124-140,1987.
2.柳田則之,鈴木康之,村橋けい子,他:突発性難聴 SCALE OUT症例の予後と病態.耳鼻臨床,75:769-778,1982.
3.Mattox,D.E.and Lyles,C.A.:Idiopathic sudden sensorineural hearing loss.Am J Otol,10:242-247,1989
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5.Schuknecht,H.F and Donovan,E.D.:The pathology of idiopathic sudden sensorineural hearing loss.Arch Otorhinolaryngol,(Berlin)243:1-15,1986
6.本藤 良、倉田 毅、野村恭也、他:突発性難聴患者における単純ヘルペスウイルスの血清疫学的検討.耳鼻28:878-884,1982.
7.中西 弘、榎本雅夫、寒川高男:突発性難聴に対する抗ウイルス剤の点滴静注療法の検討.耳鼻臨床 81:4;515-524,1988.
8.大村正樹,山本悦夫,広野喜信,他:当科における突発性難聴の治療成績.AUDIOLOGY JAPAN32:329-330,1989.
9.松井和夫,野末道彦,関 敦郎,他:ソルメドロールによる突発性難聴の治療:耳鼻臨床84:1333-1338,1991.
10.Taylor,J.L.,Grossberg,S.E.:Recent progress in interferon research.Virus Research,15:126,1990.
11.今西二郎:サイトカイン療法-基礎病態からのアプローチ・インターフェロン(高久文麿編).89-106頁、南江堂,東京,1992
12.山崎修道.ウイルス感染症とインターフェロン.最新医学29:623-630,1974
13.小野寿之,竹中洋,他:帯状水痘ウイルスによる内耳傷害に対するインターフェロン髄腔内投与、耳喉57(8)621-628頁,1985.
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、IFN-α投与群および対照群での治療成績を示す。
【図2】
図2は、IFN-α投与前とIFN-α投与開始3日後の2-5AS活性の変化を示す。(2-5ASは100pmol/dl以上で抗ウイルス活性を持つ。)
【図3】
図3は、IFN-α投与開始3日後の2-5AS活性値を予後に分けて示す。
○は2-5AS活性100pmol/dl以上を、●は2-5AS活性100pmol/dl以下を表す。
 
訂正の要旨 特許請求の範囲の請求項1及び11において、「突発性難聴」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「原因不明の急性感音難聴を主症状とする内耳性難聴である突発性難聴」
と訂正する。
請求項10の「インターフェロンが天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の治療用医薬組成物。」を、
明りょうでない記載の釈明を目的として
「天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンを有効成分とする、突発性難聴に対する治療用医薬組成物。」
と訂正する。
請求項13の「インターフェロンが天然あるいは組み換えアルファ-インターフェロンである、請求項12記載の製造方法。」を
明りょうでない記載の釈明を目的として
「天然あるいは組み換えアルファーインターフェロン単独、あるいは他の1種もしくはそれ以上の薬剤とともに、薬学的に許容しうる媒体と天然あるいは組み換えアルファーインターフェロンとを混合することからなる、突発性難聴の治療用医薬の製造方法。」と訂正する。
異議決定日 1999-12-15 
出願番号 特願平6-7803
審決分類 P 1 652・ 121- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田村 聖子  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 内藤 伸一
宮本 和子
登録日 1998-03-13 
登録番号 特許第2759050号(P2759050)
権利者 住友製薬株式会社 財団法人田附興風会 武田薬品工業株式会社 エフ・ホフマン-ラ ロシユ アーゲー
発明の名称 突発性難聴治療用医薬組成物  
代理人 歌門 章二  
代理人 浅村 肇  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 歌門 章二  
代理人 浅村 皓  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  

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