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審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B05C
審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B05C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B05C
管理番号 1026071
審判番号 審判1995-7981  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-07-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 1995-04-11 
確定日 2000-06-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第1854595号「リップコ―タ型塗工装置」の特許無効審判事件についてされた平成8年8月23日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成8年(行ケ)第222号平成11年6月3日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1854595号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第1854595号発明(以下「本件発明」という。)は、昭和63年12月23日に出願され、出願公告(特公平5-60991号)後の平成6年7月7日に設定登録されたものである。
(2)これに対して、請求人は、平成7年4月11日付けで審判請求書を提出し、「本件発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。」旨主張し、証拠方法として甲第1号証(特公昭56-12467号公報)を提出した。
(3)被請求人は、平成7年6月26日付けで答弁書及び訂正請求書を提出し、「1)本件審判請求に関し請求人が利害関係を有することを立証することを要求する。2)訂正後の発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。」旨主張した。
(4)請求人は、平成8年1月18日付けで第1回弁駁書を提出し、「1)本件審判請求に関し請求人は利害関係を有している。2)訂正後の発明は、甲第1号証に記載された発明である。」旨主張し、証拠方法として甲第2乃至4号証を提出した。
(5)当審では、平成8年2月9日付けで、「訂正後の発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、上記訂正は、特許法第134条第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合しない。」旨の訂正拒絶理由を通知した。
(6)これに対して、被請求人は、平成8年3月27日付けで意見書及び手続補正書を提出した。
(7)請求人は、平成8年6月25日付けで第2回弁駁書を提出し、証拠方法として甲第5乃至10号証を提出した。

2.当事者適格
本件審判請求については、請求人と被請求人との間で当事者適格が争われている。すなわち、被請求人は、「本件審判請求に関し請求人が利害関係を有することの具体的事由が見当たらないので、請求人不適格ある。」旨答弁書で主張している。
そこで、まずこの点について検討する。
請求人が第1回弁駁書において提出した甲第2号証(「INVEX COATER」と題するカタログ),甲第3号証(「コンバーテック」の12月号),及び甲第4号証(特開平3-38271号公報)によれば、請求人井上金属工業株式会社が「ウルトラダイコーター」などのリップコータ型塗工装置の製造元であることは明らかであり、請求人は本件発明の特許の存否に利害関係を有していると言える。
したがって、「本件審判請求は請求人不適格である。」旨の被請求人の主張は採用しない。

3.訂正の適否についての判断
(1)訂正及び補正の内容
被請求人が、平成7年6月26日付け訂正請求書により求めた訂正の内容、及び平成8年3月27日付け手続補正書により求めた補正の内容は、以下の訂正事項1)及び2)、及び補正事項3)及び4)のとおりである。
1)本件発明の明細書の特許請求の範囲において、「ノズルヘッドのドクターエッジ下方部に」とあるのを、「ドクターエッジ下方部におけるノズルヘッドに」と訂正する。
2)本件発明の明細書第3頁第12〜13行(本件発明の公告公報である特公平5-60991号公報第2欄第19〜20行)において、「ノズルヘッドのドクターエッジ下方部に」とあるのを、「ドクターエッジ下方部におけるノズルヘッドに」と訂正する。
3)訂正明細書の特許請求の範囲において、「スリットをノズルヘッドの幅方向に設け」とあるのを、「、前記ノズルヘッドが上下に分離しないように連結部が前記ノズルヘッドの幅方向に沿って残るようにしつつスリットを前記ノズルヘッドの幅方向に設け」と補正する。
4)訂正明細書の第2頁第8〜9行(本件発明の公告公報である特公平5-60991号公報第2欄第20〜21行)において、「スリットをノズルヘッドの幅方向に設け」とあるのを、「、前記ノズルヘッドが上下に分離しないように連結部が前記ノズルヘッドの幅方向に沿って残るようにしつつスリットを前記ノズルヘッドの幅方向に設け」と補正する。
(2)訂正請求に対する補正の適否について
特許法第134条第5項において準用する同法第131条第2項本文は、「前項の規定により提出した請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない。」と規定しており、これによれば、訂正請求書の補正は、訂正請求書の要旨を変更しない範囲で許されるものというべきである。ところが、訂正事項1)及び2)と補正事項3)及び4)とは、全く異なる事項であるから、本件手続補正書により、補正事項3)及び4)を追加したことは、訂正請求に係る訂正を求める範囲を実質的に拡大変更するものであるから、本件訂正請求書の要旨を変更するものといわざるを得ない。
したがって、上記補正3)及び4)は、特許法第134条第5項において準用する同法第131条第2項の規定に違反するものであり、採用しない。
(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正1)は特許請求の範囲の減縮に、上記訂正2)は明瞭でない記載の釈明に、それぞれ該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)独立特許要件の判断
(訂正後の発明)
平成7年6月26日付けで提出された訂正明細書の請求項1に係る発明(以下「訂正後の発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「バッキングロールの下方にドクターエッジを有するノズルヘッドを配し、前記ノズルヘッドから塗工液を圧力をかけて噴射してウエブに塗工するリップコータ型塗工装置において、
ドクターエッジ下方部におけるノズルヘッドにスリットをノズルヘッドの幅方向に設け、調整ボルトをスリットと略直行するように、かつ、このスリットの長手方向に等間隔毎に複数本貫通させて、
調整ボルトの締付け具合を変化させることによりドクターエッジの刃先を上下動するようにした
ことを特徴とするリップコータ型塗工装置。」
(甲第1号証に記載された発明)
訂正後の発明に対し、当審が平成8年2月9日付けで通知した訂正拒絶理由において示した甲第1号証(特公昭56-12467号公報)には、
第2欄第21〜36行の「回転しつつウエブを支持及び走行させるバッキングロール1と摺接させるようにホルダー2に支持設したパイプ3の一部に設けた切欠部4にナイフエッヂ5を、バッキングロール1とで僅かの間隙を形成し、かつバッキングロール1に対する押し引きを調整できるようにして装着した塗工装置において、前記パイプ3の側面に蓋付き塗工液ダム6を装着し、・・・塗工液ダムを有するパイプ型ドクター塗工装置に係るものである。」なる記載、第3欄第7〜15行の「パイプ型ドクターにおけるパイプ3を支持したホルダー2を介して、ナイフエッヂ5の長手方向の均一な直線性を正確に補正して得られるように、ホルダー2よりパイプ3を押し引き、ねじ調整できるボルト10を、交互に長手方向に取付けてあり、ナイフエッヂ5をバッキングロール1に近ずけてボルト10の押し引き調整を行なうことにより、ナイフエッヂ5のバッキングロール1に対する押し引きを調整できるものである。」なる記載、第3欄第32〜37行の「塗工液ダム6における流路8の流出口8’’付近即ち、上蓋11の尖端部内側には塗工液が常に一定量ウエブ12と接するように、塗工液タマリ8’が形成されているので、バッキングロール1とナイフエッヂ5との間隙部に対し、一定圧力のもとで、塗工液を流出供給できるものである。」なる記載、及び、第2,3図の「パイプ3の両端がホルダー2に支持されている」記載、第1,3図の「パイプ3とホルダー2との間に間隙をパイプ3及びホルダー2の幅方向に設けている」記載、第1,3図の「ねじ調整できるボルト10をパイプ3とホルダー2との間の間隙と略直行するように、かつ、この間隙の長手方向に等間隔毎に複数本貫通させている」記載、等の記載内容からみて、
「バッキングロール1の下方にナイフエッヂ5を有する(ホルダー2,両端をホルダー2に支持されたパイプ3,及びパイプ3の側面に装着された蓋付き塗工液ダム6から成る)部材を配し、前記部材から塗工液を圧力をかけて噴射してウエブ12に塗工するパイプ型ドクター塗工装置において、
ナイフエッヂ5下方部における前記部材に間隙を前記部材の幅方向に設け、ボルト10を前記間隙と略直行するように、かつ、この間隙の長手方向に等間隔毎に複数本貫通させて、
ボルト10の締付け具合を変化させることによりナイフエッヂ5の刃先を上下動するようにした
パイプ型ドクター塗工装置。」
が記載されている。
(対比・判断)
訂正後の発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
甲第1号証に記載された発明の「バッキングロール1」,「ナイフエッヂ5」,「ウエブ12」,「ボルト10」,「パイプ型ドクター塗工装置」は、その機能からみて、それぞれ、訂正後の発明の「バッキングロール」,「ドクターエッジ」,「ウエブ」,「調整ボルト」,「リップコータ型塗工装置」に相当する。
また、訂正後の発明の「ノズルヘッド」については、訂正明細書に格別の定義がなされている訳ではないが、前記請求項1の記載、及び訂正明細書の第2頁第25〜26行(本件発明の公告公報である特公平5-60991号公報第3欄第22〜24行)の「(14)は塗工液を噴射するノズルヘッドであって、バッキングロール(12)の下方に配されている。」なる記載、同第2頁第27〜28行(同第3欄第25〜27行)の「(16)はノズルヘッド(14)のヘッド本体(16)であって、バッキングロール(12)と略同じ幅を有し、上部にドクターエッジ(18)が設けられている。」なる記載、同第3頁第27〜28行(同第4欄第25〜26行)の「(36)はドクターエッジ(18)の下方のヘッド本体(16)に設けられたスリットである。」なる記載、同第4頁第8〜18行(同第4欄第42行〜第5欄第13行)の「(40)は保持部材であって、ノズルヘッド(14)の中央下方に設けられている。保持部材(40)には、両ロッド型のエアーシリンダ(42)が上下方向に配されている。このエアシリンダ(42)はそのシリンダチューブの上端においてノズルヘッド(14)のヘッド本体(16)の下面に螺合されている。・・・この保持部材(40)のエアーシリンダ(42)が上下動によりノズルヘッド(14)の撓みが上下にそれぞれ20μm〜30μmの幅で調整ができる。」なる記載からみて、下記の1)乃至4)の機能を有する構造的に一体となった部材と言える。
1)塗工液を噴射する。
2)ドクターエッジを有する。
3)スリットを設けている。
4)保持部材に対して、エアシリンダによって構造的に一体となって上下動する。
これに対して、甲第1号証に記載された発明の「(ホルダー2,両端をホルダー2に支持されたパイプ3,及びパイプ3の側面に装着された蓋付き塗工液ダム6から成る)部材」が、前記の機能1)乃至3)を有し、構造的に一体となった部材であることは、既述したところである。
また、前記の機能4)を有することは、甲第1号証の公報第4欄第41行〜第5欄4行の「この移動プレート18には、ナイフエッヂ5をエアシリンダー19により昇降させるアーム20の回転支点21を支持する軸受け22を固定してあり、そして、このようにした機構の目的は、バッキングロール1に対し、ナイフエッヂ5の接点を垂直にするか、或いは幾らか角度をつけるかの塗工条件に適応させるためのもので、付加された装置である。」なる記載、及び第2,3図の記載内容からみて、明らかである。
したがって、甲第1号証に記載された発明の「(ホルダー2,両端をホルダー2に支持されたパイプ3,及びパイプ3の側面に装着された蓋付き塗工液ダム6から成る)部材」は、訂正後の発明の「ノズルヘッド」に相当するものと言える。
(被請求人は、答弁書において、「本件発明に言うノズルヘッドとは、塗工液を溜めてドクターエッジ18から塗工させるものであり、甲第1号証の発明においてはノズルヘッドはパイプ3と蓋11とに該当している。そして、このパイプ3と蓋11には、スリット36は設けられていない。また、甲第1号証の内容をどのように読んでも、本件発明のようにノズルヘッドにスリットが設けられている構造とはなっていない。」(第4頁第1〜6行)旨主張する。しかしながら、本件発明に言う「ノズルヘッド」とは、前述した機能1)乃至4)を有する構造的に一体となった部材である。したがって、被請求人が主張するように限定的に解釈する理由は何ら存在しない。)
してみると、訂正後の発明と甲第1号証に記載された発明とは、全ての点で一致し相違点は存在しない。
したがって、訂正後の発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正を認めない。

4.本件発明についての判断
(1)本件発明
本件発明は、特許された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「バッキングロールの下方にドクターエッジを有するノズルヘッドを配し、前記ノズルヘッドから塗工液を圧力をかけて噴射してウエブに塗工するリップコータ型塗工装置において、
ノズルヘッドのドクターエッジ下方部にスリットをノズルヘッドの幅方向に設け、調整ボルトをスリットと略直行するように、かつ、このスリットの長手方向に等間隔毎に複数本貫通させて、
調整ボルトの締付け具合を変化させることによりドクターエッジの刃先を上下動するようにした
ことを特徴とするリップコータ型塗工装置。」
(2)甲第1号証に記載された発明
請求人の提出した甲第1号証には、上記3.(4)独立特許要件の判断における(甲第1号証に記載された発明)の記載からみて、
「バッキングロール1の下方にナイフエッヂ5を有する(ホルダー2,両端をホルダー2に支持されたパイプ3,パイプ3の側面に装着された蓋付き塗工液ダム6から成る)部材を配し、前記部材から塗工液を圧力をかけて噴射してウエブ12に塗工するパイプ型ドクター塗工装置において、
前記部材のナイフエッヂ5下方部に間隙を前記部材の幅方向に設け、ボルト10を前記間隙と略直行するように、かつ、この間隙の長手方向に等間隔毎に複数本貫通させて、
ボルト10の締付け具合を変化させることによりナイフエッヂ5の刃先を上下動するようにした
パイプ型ドクター塗工装置。」
が記載されている。
(3)対比・判断
そこで、本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
本件発明と甲第1号証に記載された発明とは、上記3.(4)独立特許要件の判断における(対比・判断)で示した理由と同じ理由により、全ての点で一致し相違点は存在しない。
(4)むすび
以上のとおり、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1996-07-26 
結審通知日 1996-08-09 
審決日 1996-08-23 
出願番号 特願昭63-326927
審決分類 P 1 112・ 113- ZB (B05C)
P 1 112・ 856- ZB (B05C)
P 1 112・ 832- ZB (B05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 酒井 正己  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 蓑輪 安夫
清田 栄章
飯塚 直樹
藤田 豊比古
登録日 1994-07-07 
登録番号 特許第1854595号(P1854595)
発明の名称 リップコ―タ型塗工装置  
代理人 内田 敏彦  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 璋子  

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