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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B32B |
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管理番号 | 1027617 |
異議申立番号 | 異議2000-71593 |
総通号数 | 16 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-04-17 |
確定日 | 2000-10-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2965173号「繊維強化樹脂補強セメント系構造体」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2965173号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続の経緯・本件発明 本件特許第2965173号の請求項1〜2に係る発明は、平成3年5月13日に出願され、平成11年8月13日にその特許の設定登録がなされたものである。 その後、井原好明から、請求項1に係る発明の特許を取消すべき旨の特許異議の申立があった。 請求項1に係る発明は、特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。 「セメント系材料からなる構造体の外表面に、補強繊維基材を含む繊維強化樹脂層が接着によって形成されたセメント系構造体であって、前記補強繊維基材は、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群が、該補強繊維基材の少なくとも一部が前記他の繊維糸条群のみから形成されるように配列された繊維基材からなり、前記他の繊維糸条群は、繊維強化樹脂層として成形されたときに該繊維強化樹脂層の前記他の繊維糸条群部分が透明または半透明になる繊維糸条からなることを特徴とする繊維強化樹脂補強セメント系構造体。」 [2]特許異議申立の理由の概要 特許異議申立人は、甲第1号証として特開昭63-14945号公報(昭和63年1月22日発行)、甲第2号証として東レ株式会社技術資料「炭素繊維トレカ」(昭和53年10月付け)、甲第3号証として東レ炭素繊維トレカ品番#5301の詳細資料(発行日不詳)、甲第4号証として特開昭60-170886号公報(昭和60年9月4日発行)および甲第5号証として特開昭61-172999号公報(昭和61年8月4日発行)を提示して、請求項1に係る発明は、甲第1号証および甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされた旨の主張をしている。 [3]当審の判断 甲第1号証には次の記載がなされている。 1-1「高強度繊維を未硬化の合成樹脂により長尺帯状に成形してなる高強度繊維帯状プリプレグをコンクリート柱状体の外周面にほぼ周方向に沿って均一に巻き付けることを特徴とする高強度繊維プリプレグによるコンクリート柱状体の補強方法。」(特許請求の範囲) 1-2「この発明は、コンクリート柱状体の圧縮耐力を向上させることのできるコンクリート柱状体の補強方法に関するものである。」 (第1頁左下欄第13行〜第15行) 1-3「以下、この発明をその実施例によりさらに詳しく説明する。まず、第2図に示すように、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維などのような高強度繊維1を一方向(長手方向)に配向し、常温では硬化しない合成樹脂にて帯状のプリプレグ2を作成する。このプリプレグ2内の繊維1は、一方向の配向が最も効率的であるが、プリプレグ2が確実にまとまるように交叉方向の繊維を含んでもよい。」 (第2頁左下欄第10行〜第19行) 1-4「・・・プリプレグ2と鉄筋コンクリート柱状体3,4とは、接着剤により相互に接着した方が望ましいが、接着せずに巻き付けるだけでもよい。」(第2頁右下欄第7行〜第10行) 1-5「・・・巻き付けたのちのプリプレグ2は、110℃以下の温度に加熱することにより樹脂を硬化させてもよいが、特に硬化させなくてもよい。」(第3頁左上欄第14行〜第17行) 1-6「・・・上記実施例では高強度繊維として、炭素繊維を例示したが、それらと同等の他の繊維(たとえば、アラミド繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維等)を用いても勿論良い。」 (第3頁左下欄下から3行〜右下欄第2行) 1-7:円柱状の柱状体および四角柱状の柱状体に帯状プリプレグを巻着したところの斜視図(第1図(a)および(b)) 1-8:帯状プリプレグの斜視図(第2図) 甲第2号証には次の記載がなされている。 2-1「1.“トレカ”クロスは、高強度・高弾性率炭素繊維“トレカ”を使用した織物です。タテ糸、ヨコ糸には次の組合せがあります。・・・(3)タテ糸“トレカ”及びガラス繊維、ヨコ糸ガラス繊維・・・3.“トレカ”クロスは、従来のガラス繊維補強プラスチック(FRP)の弾性率・強度補強に効果があります。」(第1頁第2行〜第9行) 2-2:タテ糸“トレカ”及びガラス繊維、ヨコ糸ガラス繊維の例として品番5301のものがあること(第2頁下の表)。 甲第3号証には次の記載がなされている。 3-1:トレカの品番#5301の織物設計として、使用糸はタテT300-3000、ECG75 1/2、ヨコECE225 1/0であり、組織は4枚朱子であり、密度はタテ“トレカ”/ガラス:15/30(本/25mm)、ヨコ10(本/25mm)であり、寸法は幅100cm、長さ50又は100mm、厚さ0.26mmであり、重さは290g/m2 であり、縞状であること。 (1葉目) 甲第4号証には次の記載がなされている。 4-1「文字、図形等が表示された紙体を、繊維を含有した合成樹脂に封入して固化し、板状に形成したことを特徴とする表示板。」 (特許請求の範囲) 4-2「第2図、第3図は本発明の実施例を示したもので、表示文字5が印刷された紙体6の表裏内面にシート状に形成したガラス繊維7、7を密着させ、成形型内に不飽和ポリエステル樹脂を流し込んでこれらを一体的に固め、板状に形成した表示板1である。不飽和ポリエステル樹脂8内に封入されたガラス繊維7、7は該不飽和ポリエステル樹脂を含浸して透明となるので、表示文字5は表示板1の表面から透視できるのである。」 (第2頁左上欄第4行〜第13行) 4-3「・・・含有する繊維はガラス繊維に限定するものではなく、ナイロン、クレモナ等を用いることも可能で、合成樹脂はアクリル、エポキシ等を使用しても差し支えない。」(第2頁右上欄第17行〜末行) 4-4:表示板の構造を示す説明図およびその断面図(第2図、第3図) 甲第5号証には次の記載がなされている。 5-1「トンネル等のコンクリート構造物にクラック等が生じた場合、該クラック部分より幾分広い面積にわたりコンクリートをはつり、当該部分より下地吹付けを行い、この上に通電・発熱可能なメッシュ状等の炭素繊維を配し、該炭素繊維を覆うように仕上げ吹き付けを行うことを特徴とするトンネル等のコンクリート構造物の補修方法。」(特許請求の範囲) 5-2「(従来の技術と問題点)まづ、トンネルについて説明する。・・・また他の構造物でもクラックが発生した場合、その機能が損なわれたり、該クラック部分に雨水等が浸入して凍結すると、クラックが増大しコンクリート構造物としての機能が損なわれる欠点があった。」 (第1頁右下欄第18行〜第2頁左上欄第2行) 甲第1号証には、高強度繊維プリプレグによるコンクリート柱状体の補強方法の発明と共に、該方法により補強されたコンクリート柱状体の発明が記載されているといえる。ここでは、補強されたコンクリート柱状体の発明を甲第1号証記載の発明という。 請求項1に係る発明と甲第1号証記載の発明とを対比する。 これらの発明は、セメント系材料からなる構造体の外表面に、補強繊維基材を含む繊維強化樹脂層が接着によって形成された繊維強化樹脂補強セメント系構造体の発明である点で軌を一にするものであるが、請求項1に係る発明では、補強繊維基材は、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群が、補強繊維基材の少なくとも一部が、他の繊維糸条群のみから形成されるように配列された繊維基材からなり、他の繊維糸条群は、繊維強化樹脂層として成形されたときに該繊維強化樹脂層の他の繊維糸条群部分が透明または半透明になる繊維糸条からなることを規定しているのに対して、甲第1号証記載の発明は、そのようなことを明らかにしていない点で相違する(1-1〜1-8参照)。 そこでこの相違点について検討する。 甲第1号証記載の発明は、高強度繊維としてガラス繊維などを例示しているが、ガラス繊維などを用いた場合に、セメント構造体のひび割れ箇所、水漏れ箇所やFRPの剥離箇所などを容易にかつ正確に発見できることについて、具体的な指摘をしていない。 甲第2号証および甲第3号証記載の「トレカクロス」(トレカ織物)は、炭素繊維糸条群とガラス繊維糸条群が、補強繊維基材の少なくとも一部が、ガラス繊維糸条群のみから形成されるように配列された繊維基材からなり、ガラス繊維糸条群は、繊維強化樹脂層として成形されたときに該繊維強化樹脂層のガラス繊維糸条群部分が透明または半透明になるものと認められる。 しかしながら、甲第2号証および甲第3号証には、トレカクロスをセメント系材料からなる構造体の外表面に用いること示唆する記載はなされていないし、トレカクロスの縞の白い部分(他の繊維糸条群のみから形成される部分)を透して、トレカクロスを適用した対象物のひび割れ箇所やFRPの剥離箇所などを発見できる旨の記載はなされていない。 甲第4号証には、ガラス繊維などを含有する合成樹脂板が透明であることの記載はあるものの、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群が、補強繊維基材の少なくとも一部が、他の繊維糸条群のみから形成されるように配列された繊維基材からなり、他の繊維糸条群は、繊維強化樹脂層として成形されたときに該繊維強化樹脂層の他の繊維糸条群部分が透明または半透明になる繊維糸条からなるものを示唆していない。 甲第5号証は、従来技術の問題点として、トンネル以外の構造物でも、クラックが発生した場合、その機能が損なわれたり、該クラック部分に雨水等が浸入して凍結すると、クラックが増大しコンクリート構造物としての機能が損なわれる欠点があったことを指摘するものの、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群が、補強繊維基材の少なくとも一部が、他の繊維糸条群のみから形成されるように配列された繊維基材からなり、他の繊維糸条群は、繊維強化樹脂層として成形されたときに該繊維強化樹脂層の他の繊維糸条群部分が透明または半透明になる繊維糸条からなるものを示唆していない。 してみれば、甲2第号証〜甲第5号証を以てしても、セメントを補強する補強繊維基材として、炭素繊維糸条群と他の繊維糸条群が、補強繊維基材の少なくとも一部が、他の繊維糸条群のみから形成されるように配列された繊維基材からなり、他の繊維糸条群は、繊維強化樹脂層として成形されたときに該繊維強化樹脂層の他の繊維糸条群部分が透明または半透明になる繊維糸条からなるものを用いることは、当業者が容易にできることではない。 そして、請求項1に係る発明は、明細書記載の効果、即ち、炭素繊維糸状群を有するFRP層によるセメント系構造体の補強を達成しつつ、同時に、透明または半透明FRP部を介して長年の使用によるセメント系構造体のひび割れ箇所、水漏れ箇所や、補強剤たるFRPの剥離箇所などを容易にかつ正確に発見することができるという効果を奏したものと認められる。 従って、請求項1に係る発明が甲第1号証〜甲第5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認めることはできない。 [4]結び 以上のとおりであるから、特許異議申立人の提出した証拠及び主張によって請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する |
異議決定日 | 2000-09-14 |
出願番号 | 特願平3-135342 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(B32B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
石橋 和美 |
特許庁審判官 |
仁木 由美子 蔵野 雅昭 |
登録日 | 1999-08-13 |
登録番号 | 特許第2965173号(P2965173) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 繊維強化樹脂補強セメント系構造体 |