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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1027662
異議申立番号 異議1998-73740  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1989-04-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-07-24 
確定日 2000-10-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第2708160号「フェライトの製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2708160号の特許を取り消す。 
理由 I.手続きの経緯

本件特許第2708160号発明は、昭和62年10月20日に特許出願され、平成9年10月17日にその特許権の設定登録がなされ、その後、大和田百合子、市浦洋子及び小林数夫より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成11年3月8日に訂正請求がなされ、その訂正請求に対して訂正拒絶理由が通知されたものである。

II.訂正の適否についての判断

1.訂正の内容

訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の
「所要のフェライトを構成する各元素を所定の比率で含有する原料粉末を仮焼する工程と、この仮焼により得られた焼成物を微粉砕する工程と、この微粉砕工程により得られた粉末を所要の形状に成形した後、焼成する工程とを有するフェライトの製造方法において、前記微粉砕工程を直径0.5mm〜3mmのジルコニアボールを用いて行うことを特徴とするフェライトの製造方法。」という記載を、
「所要のフェライトを構成する各元素を所定の比率で含有する原料粉末を仮焼する工程と、この仮焼により得られた焼成物を微粉砕する工程と、この微粉砕工程により得られた粉末を所要の形状に成形した後、950℃〜1200℃の範囲の温度で焼成する工程とを有するフェライトの製造方法において、前記微粉砕工程を直径1mm〜3mmのジルコニアボールを用いて行い、密度4.5g/cm3以上のフェライト焼結体を得ることを特徴とするフェライトの製造方法。」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書第4頁第3〜7行の、
「この微粉砕工程により得られた粉末を所要の形状に成形した後、焼成する工程とを有するフェライトの製造方法において、前記微粉砕工程を直径0.5mm〜3mmのジルコニアボールを用いて行う」という記載を、
「この微粉砕工程により得られた粉末を所要の形状に成形した後、950℃〜1200℃の範囲の温度で焼成する工程とを有するフェライトの製造方法において、前記微粉砕工程を直径1mm〜3mmのジルコニアボールを用いて行い、密度4.5g/cm3以上のフェライト焼結体を得る」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書第4頁第13〜14行の
「0.5〜3mmのボール」という記載を、
「1mm〜3mmのボール」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書第5頁第3〜5行の
「使用するジルコニアボールの直径は0.5mm〜3mmが適しており、この直径が0.5mm未満であると粉砕効率が低下し、」という記載を、
「使用するジルコニアボールの直径は1mm〜3mmが適しており、この直径が1mm未満であると粉砕効率が低下し、」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書第9頁第1〜2行の
「直径0.5mm〜3mmのジルコニアボールを用いたボールミル粉砕」という記載を、
「直径1mm〜3mmのジルコニアボールを用いたボールミル粉砕」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書第2頁第3行の「粉末治金」を、「粉末冶金」と訂正する。
(7)訂正事項g
明細書第6頁第18行の、
「(Mn054,Zn046)Fe2O4」という記載を、
「(Mn0.54,Zn0.46)Fe2O4」と訂正する。

2.独立特許要件について

2-1.訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の特許請求の範囲に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「所要のフェライトを構成する各元素を所定の比率で含有する原料粉末を仮焼する工程と、この仮焼により得られた焼成物を微粉砕する工程と、この微粉砕工程により得られた粉末を所要の形状に成形した後、950℃〜1200℃の範囲の温度で焼成する工程とを有するフェライトの製造方法において、前記微粉砕工程を直径1mm〜3mmのジルコニアボールを用いて行い、密度4.5g/cm3以上のフェライト焼結体を得ることを特徴とするフェライトの製造方法。」
(以下、「訂正発明」という。)

2-2.当審が通知した訂正拒絶理由の概要

訂正発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

刊行物1:社団法人粉体粉末冶金協会編「磁性材料」日刊工業新聞社(昭和45年7月1日)第47頁、第77〜79頁
刊行物2:化学装置、第26巻第10号(1984年10月1日)、第91〜96頁
刊行物3:「材料」(別冊)、第36巻第400号(昭和62年1月)、第29〜33頁
刊行物4:特開昭58-15079号公報
刊行物5:日本化学陶業株式会社のカタログ「粉砕及び分散用YTZボール」(1985年2月)第1〜4葉
刊行物6:D.A.STANLEY他“Attrition Milling of Ceramic Oxides,”CERAMIC BULLETIN,Vol.53,No.11,(1974年)、第813〜815頁
刊行物7:野田稲吉編「標準応用化学講座24 無機材料化学-I」コロナ社(昭和56年11月20日)、第156、157、196、197頁
刊行物8:株式会社富士リサーチ・センター作成「市場調査資料 粉砕機・分級機市場総合調査資料」国立国会図書館昭和60年7月9日受入、第18、19、27、41、48、68、69、87〜90、101〜104頁
刊行物9:特開昭61-101257号公報
刊行物10:特開昭58-188102号公報

2-3.引用刊行物の記載事項

(1)刊行物1
(1-1) 第47頁「4・1・1 この章でとり上げる問題の範囲」の項参照
フェライトが、素原料配合→混合→濾過→乾燥→仮成形→仮焼→粉砕→濾過・乾燥→潤滑剤・成形剤添加→造粒→成形→焼成→仕上の各工程を経て製造されること。
(1-2) 第77頁第1〜11行
「仮焼は通常混合を終わった素原料を成形して、トンネル炉で行なわれる。このときの成形は最終焼成の際のように厳密である必要はない。仮焼後ふたたび粉砕する必要があるところから、成形の必要はないとして、粉末のまま仮焼を行なう方式もある。成形することによって空間の占有率がいちじるしく上がることと、焼成気圏の効果が安定するという利益があると考えられている。いずれがすぐれているかを断定するのは困難であるが、現状は成形して仮焼する場合のほうが多い。」
(1-3) 第78頁第2〜20行
「粉砕は多くの場合に、粗粉砕と微粉砕の過程を必要とする。…(中略)…微粉砕にはボールミル、振動ミル、ハンマーミル、アトマイザーなどが用いられている。粗粉砕はそれほど問題はないが、微粉砕は後の焼成に大きな影響があるので、粉砕後の管理が重要である。…(中略)…仮焼後の微粉砕には、維持費が安く、操作が簡単なので、ボールミルがもっともひろく用いられているが、微粉が得られるとか粉砕効率がきわめて高いとかで、最近は新しい型の粉砕機が用いられてきている。」

(2)刊行物2
(2-1) 第91頁左欄下から第5行〜同頁右欄下から第6行
「最近超微粒子が脚光を浴びている面から、機械的に超微粒子を目指す湿式微粒分散機としてサンドグラインダーを紹介する。…(中略)…開発当初は、染料、ペイント、インキ等が主体で限られていた感があったが、その後の用途は広がりを見せ、現在各種の用途に応じた機種も加わって酸化鉄、フェライト、各種セラミックス…(中略)…等、新しい特殊分野に意欲的に伸びている。」
(2-2) 第91頁右欄下から第5行〜第92頁左欄第12行
「1.原理とその構造 図1(a)のように、ベッセル内部にあらかじめ容積の60〜80%のメディア(オタワサンド、ガラスビーズ、アルミナボール、スチールボール等)とディスクが取付けられた攪拌シャフトが内装されており、…(中略)…メディア間に相対速度があれば剪断応力が働いてメディア層間に粒子が捕捉され、分裂、破壊し、分散・粉砕されながら液が上昇し、ベッセル上部の分離機構(スクリーンまたはスリット)で、メディアと処理液が分離され処理液のみが外側へ流出し、ホッパーで再度濾過して二次側ポンプで吸上げストックタンクへ送込まれる。」
(2-3) 第92頁左欄第17〜20行
「特徴 ・短時間で微粒分散・微粒粉砕(0.1〜1μm)ができる。・メディアは処理液の用途に応じて選定ができる。」
(2-4) 第95頁右欄第1行〜第96頁左欄第9行
「3-2.メディアの選定 メディアはサンドグラインダーの性能を大きく変える因子であり、一般的には硬度が高く、比重が大きく、球形である方がよい。そして、分散系溶媒には、化学的作用もなく摩耗の少ない材質を選定することが必要である。今日では、ガラスビーズの使用が一番多くなっている。メディアの種類を表3に示す。メディアの粒径は0.7〜3mmくらいまでが主体となっているが、ガラスビーズの粒径を変えた摩耗について実施例を示すと図7のようになる…(中略)…この図から、ガラスビーズの粒径の小さいほど摩耗の少ないことがわかり、製品にガラスビーズ成分の混入を極端に嫌う場合は、粒径の小さいビーズを使用した方がよいと考える。」
(2-5) 第95頁表3参照
メディアとして、ジルコニアボール(粒子径:1.5〜2.0mm、組成:ZrO296%、SiO20.5%、MgO3%)を使用すること。

(3)刊行物3
(3-1) 第29頁左欄第1行〜同頁右欄第3行
「1.緒言 よりすぐれた機能を有するセラミックを作製するためには、均一な粒径を備えた微粉末の調整が不可欠とされている。微粉末の合成にはCVD法や共沈法などの新しいプロセスの開発も積極的に検討されてきているが、工業的に多量に調整するという目的のためには生産性、価格、ならびに品質管理などの兼合いで従来から利用されてきた種々の機械的な粉砕法が有力視されてくる。しかし、粒子径が数μmまでの粉砕は機械的手段によって容易に行えるが、限界粒子径も数μmにとどまり、それより細かい粒子に粉砕するには、今後の研究に待つべき点が多いと考えられる。…(中略)…先に、筆者らは、大量にサブミクロン粒子を得る目的で、ボールミルの粉砕ボール径を小さくしてBaTiO3粉末の微粉砕の検討を行った結果、ボール径が数mmφのボールを用いると、短時間でサブミクロン粉砕が可能となり、ボール径が2mmφのところで粉砕効果は極大値をしめすことを報告した。本報ではボール径を2mmφおよび5mmφの小球ボールを用い、ボールの比重を変えて粉砕速度に与える影響を検討した。さらに固形分濃度を変えて、ボール比重による粉砕効果について調べたので、以下それらの結果を報告する。」
(3-2) 第29頁右欄第11〜20行
「2・2 粉砕 内容積2.5lの樹脂製ポットを用い、実験用小形ボールミルで湿式粉砕を行った。粉砕用には、硬質ガラス、TiO2、Al2O3、ZrSiO4、PSZ、スチールの6種類の材質のボールを用いた。…(中略)…径は2mmφおよび5mmφの2種類とした。…(中略)…BaTiO3の予備粉砕物375g、純水…(中略)…をポットに投入した。」
(3-3) 第30頁左欄第14行〜同頁右欄第10行
「4・1 ボールの比重による粉砕効果 PSZ2mmφボールを用いて粉砕したチタン酸バリウムの粒径をコールターカウンターで測定した結果をFig.1に示す。Fig.1から、6時間粉砕すると、平均粒径(D50)は0.92μmとなり、サブミクロン粉砕されていることがわかる。粉砕時間を96時間まで延長すると、粒度分布はその一部分しか測定できないところまで粉砕が進みD50も順次小さくなっていく。しかし、192時間粉砕するとさらに微粉砕は進むものと考えられるが、その粒度分布は6〜12時間粉砕品と同様の大きな粒子を含んでいる分布曲線が得られ、D50も0.85μmと大きな値となった。…(中略)…Fig.2に出発原料と12、48および、192時間粉砕した粒子のSEM写真を示す。SEM写真より粉砕時間を延長するといずれもサブミクロン粉砕されており、時間とともに粒子は微粉砕されていることがわかる。これらの結果から、コールターカウンターで測定した192時間粉砕品は粒度測定時の分散が十分にできないほど凝集し、見掛け上D50値は大きくなっているものと思われる。」
(3-4) 第30頁右欄第10〜24行
「先に、アルミナボール径を30mmφから0.7mmφまで変えて、予備粉砕したBaTiO3粉末をボールミル粉砕した場合、ボール径が2mmφのところで粉砕速度が極大となり、サブミクロン粒子を短時間で得ることができ、その際の粉砕速度について次の実験式を提案した。
ln(SS)=-0.247lnr3-0.783/r+0.429lnt+1.570 (1)
ここでSSは比表面積(m2/g)、rはボールの半径(mm)、tは時間(hr)である。SSの時間的変化は、同一のボール径を用いた場合、式(1)より
ln(SS)∝0.429lnt (2)
となり、SSの変化はt0.429で表される。比重の異なるボールについてもSSはt0.429に比例するものと考えて、データ解析する。」
(3-5) 第30頁右欄第25行〜第31頁右欄第10行
「2mmφの硬質ガラス、TiO2、Al2O3、ZrSiO4、PSZ、スチールのそれぞれのボールをポット内容積の60%投入した場合の粉砕時間によるSSの変化をFig.3に示し、5mmφのボールについてはFig.4に示す。これらより粉砕効果はボール比重の影響を大きく受けており、ボール比重が大きいほど粉砕効果は大きい。いずれの材質のボールを用いた場合でも、粉砕時間が約48時間までの比較的短い場合に、SSはt0.429にほぼ直線的な比例関係で表されるが、それ以後は直線から外れ、ある一定の値に飽和する傾向がみられる。この傾向は粉砕時間を延長すると、粒子はどこまでも微細化するものではなく、ある一定の値(粉砕限界)に近づくことを教えている。…(中略)…またFig.3とFig.4の比較から、ボールの大きさによる粉砕効果は、いずれのボール材質においても5mmφよりも2mmφのほうが大きいことがわかる。この傾向は先に報告したように、Al2O3のボール径を変えて粉砕効果を調べた結果とよく一致している。Fig.3およびFig.4で、比例関係が得られる部分について、粉砕速度式を求めて、TableIに示す。各式のこう配をa、切片をbとする。」
(3-6) 第31頁「Fig.3」及び「Fig.4」参照
硬質ガラス、TiO2、Al2O3、ZrSiO4、PSZ、スチールをボールとして使用したとき、2mmφのボールも5mmφのボールも、この材料の順に粉砕効率が高いこと。
2mmφのボールの方が5mmφのボールよりも粉砕効率が高いこと。
(3-7) 第31頁右欄下から第4行〜第32頁左欄第3行
「各種ボールの比重が粉砕速度に与える影響を比較するため、ボールの比重とTableIに示した式(直線)のこう配aの関係をFig.5に示す。これより、ボール径2mmφおよび5mmφともにそれぞれ直線関係を示し、ボールの比重が大きくなると粉砕速度式のこう配が大きくなり、微粉砕が進行することがわかる。」

(4)刊行物4
(4-1) 第1頁左下欄第12〜15行
「本発明は、粉砕機用部材に関し、更に詳しくは、乾式又は湿式で粒子を微粉砕する粉砕機において使用される内張材、メディア等の粉砕機用部材に関する。」
(4-2) 第1頁右下欄第1行〜第2頁左上欄第12行
「現在、粉砕機としては、ボールミル、サンドミル、アトライター、振動ミル…(中略)…等の各種のものが広く使用されている。これ等の粉砕機は、ボール、ロール等の粉砕媒体(メディア)を使用して主として摩擦、及び衝撃圧壊力により粉砕を行なう装置、及び粒子を高速運動させて、その衝撃及び圧壊力により粉砕を行なう装置に大別される。従来これ等の粉砕機の内張材、メディア等の摩耗しやすい部材には、粉砕すべき対象物の種類に応じて、天然石、磁器、アルミナ、ガラス、ゴム、プラスチック、スチール、めのう等が使用されているが、これ等の材料は一般に摩耗し易いので、被砕物中に摩耗粉が混入することが多く、この混入摩耗粉の分離が困難なる為、工程の簡略化及び製品純度の点で大きな障害となっている。…(中略)…最新の技術分野、例えばセラミックス、電子材料、コーティング材料、粉体材料等の各分野においては、微粉砕工程で混入する被砕物中の微量成分及びその微構造が、被砕物の物性、品質管理、信頼性等に大な影響を及ぼすことが明らかとなった。」
(4-3) 第2頁左上欄第13行〜同頁右上欄第9行
「本発明者は、上記の如き現況に鑑み、粉砕機において摩耗され難い部材を得るべく種々研究を重ねた結果、Y2O3を特定量含むジルコニア質焼結体がその要求を満足させることを見出し、遂に本発明を完成するにいたったものである。即ち、本発明は、Y2O3を2.0〜4.5モル%含有するジルコニア質焼結体からなり、該焼結体の結晶相は正方晶系ジルコニアを10%以上含み、焼結体の平均結晶粒径が4μm以下で且つそのかさ密度が5.8g/cm3以上であることを特徴とするジルコニア質焼結体からなる粉砕機用部材を提供するものである。」
(4-4) 第5頁右下欄第14行〜第6頁左上欄第11行
「実施例4 実施例1のNo.2と同様の一次結晶粉体を使用して成形原料を調製し、回転式造粒機により直径6mmの球に成形した後、1600℃で2時間焼成してメディアとする。得られたメディアの結晶粒径は0.8μm、かさ密度6.01g/cm3、正方晶含有量は58%である。該メディア5kgを容量4.9lのアトライタ…(中略)…にチャージし、更に水1.3l及びけい砂1.3Kgを投入して、アジテータの回転数200rpmで4時間粉砕を行なう。この場合メディアの損耗率は、0.01%/hrであり、被砕物の平均粒径は、1.5μmであった。」
(4-5) 第6頁左上欄第14行〜同頁右上欄第10行
「比較例6 直径6mmの市販ムライト製メディアを使用する以外は、実施例4と同様にしてけい砂の粉砕を行なう。メディアの損耗率は0.58%/hrであり、被砕物の平均粒径は、2.3μmであった。
比較例7 直径6mmの市販アルミナ製メディア(Al2O3純度92%)を使用する以外は、実施例4と同様にしてけい砂の粉砕を行なう。メディアの損耗率は、0.11%/hrであり、被砕物の平均粒径は1.8μmであった。」

(5)刊行物5
(5-1) 第2葉第4〜12行
「YTZボールは高強度・高靱性ジルコニアセラミックスの高い比重と、すぐれた耐摩耗性をもつ高効率の粉砕・分散用ボールです。ハイテク時代を迎えて、ファインセラミックスをはじめとする高機能材料は、品質と信頼性をより向上するために、その原料粉体を不純物の混入がなく、しかも高精度に粉砕・分散処理することが望まれています。YTZボールはこの要望に応えて、粉砕用ボールで長年の実績をもつ弊社が、世界に先駆けて商品化した高性能ボールです。すでにニューセラミックス・エレクトロニクスの分野で、高品質の保持と生産性の向上にすぐれた評価を得ています。」
(5-2) 第2葉第13〜20行
「特長 YTZボールは微細でち密なジルコニア多結晶体からなる耐摩耗性のすぐれた、粉砕・分散用ボールです。
●ボールからの不純物の混入が極めて少なく、製品の品質向上に役立ちます。
…(中略)…
●比重が高く、粉砕効率にすぐれるため、処理時間が大幅に短縮でき、生産性の向上が計れます。…(中略)…
●高機能材料粉体のサブミクロン粉砕・分散に適します。」
(5-3) 第2葉の「特性」の項
YTZボールが、組成95%ZrO2であり、からずり摩耗率が4ppm/hrという特性を有すること。
(5-4) 第2葉の「サイズ」の項
「サイズ φ1 φ2 φ3 φ5 φ10 φ15 φ20 φ25mm」
(5-5) 第2葉の「用途」の項
「用途 ●磁性材料・圧電体・誘電体粉体の粉砕・分散用」

(6)刊行物6
(6-1) 第813頁右欄第1〜13行
「アトリションミリングは、セラミック粉末を0.1〜0.01μmの粒径範囲にするのに潜在的に有用な方法であることが明らかにされた。技術、装置及びロータースピード、粉砕媒体及びエネルギー消費のような操作変数が記述されている。シリカ、ドロマイト、バリウムフェライト及びジルコニアに関する代表的な粉砕性能のデータが提示されている。アトリションミルで粉砕されたジルコニアの焼結は、比較的低い焼結温度で高い密度が得られることを示した。
(6-2) 第813頁左欄第1〜15行
「アトリッションミルは、鉱物の表面汚染を除去することによって鉱物表面を浮選に適した状態にするために発展された。固体を球状砂粉砕媒体を使用して2μm以下に粉砕するための方法が特許された。…(中略)…この中で記述される研究において、5インチアトリションミルがサブミクロンの酸化物粉末(これは、低エネルギー製造ポテンシャルと焼結されたセラミックの特性改善を提供する。)を製造するのに使用された。このような微細粒の物質は、その短い拡散路と高い表面曲率のために高い焼結速度を有し、そして、もし小さな粒子が焼結の間保持され得るならば、セラミック体は一般的に大きな粒子から構成されるものよりも高い強度を有する。」
(6-3) 第813頁左欄第28〜33行
「材料と装置 材料としては、-14〜+28meshの球状サンド粉砕媒体、シリカフラワー、-20〜+30meshのジルコニア粉砕球、-325meshのカルシア安定化ジルコニア粉及び天然高純度ドロマイトを使用した。バリウムフェライト粉末は、試薬級酸化物を1400℃で反応焼成することによって製造された。
(6-4)第814頁左欄Fig.2
ジルコニア粉末を球状ジルコニアを粉砕媒体として使用してアトリションミルで粉砕すると、当初0.60μm超の粒径のものが、2時間で約0.15μm、8時間で約0.10μmとなること。

(7)刊行物7
(7-1) 第156頁下から第5行〜第157頁第11行
「(4)粒径および粒径分布 粉粒体は粗大結晶に比較すると、多くは、欠陥濃度が高く、格子の乱れも著しい。しかし結晶性が全く同じ場合でも、粉粒体は微細なほど、つぎの理由で固相反応を増大させる。
(i)表面エネルギーの増大(化学反応活性)
(ii)反応面積の増大
(iii)反応生成物層の厚さの相対的な減少(拡散を容易にする)
…(中略)…ヤンダー式(3・143)、およびGinstlingの式(3・144)にそれぞれ半径r0 の項が入っていることからも理解される。…(中略)…反応のかなり初期の、反応率αが小さいうちは、ヤンダー式、Ginstlingの式いずれも、(1-α)1/3、(1-α)2/3等を展開して近似をとれば、…(中略)… α=K′′′・√t/r0 (3・146)となり、反応率がおおよそ0.2ぐらいまでは、α∝1/r0とすることができる。」
(7-2)第157頁下から第5〜2行
「(5)メカノケミカル効果 物質に種々の形で加えられた機械的エネルギーが、物質内に保有され、その物理化学的特性、特に化学反応に影響する現象の学問をメカノケミストリー(mechanochemistry)という。粉粒体固相反応は、機械的な摩砕混合により著しく反応性を増大させる」

(8)刊行物8
(8-1) 第18、19、69、87〜89、101〜104頁
昭和58年において、ジルコニアボールが粉砕媒体として公知であること。
(8-2) 第68〜69頁
芹沢鉄工の粉砕機は、窯業、フェライト関係の販売実績が伸びていること(第68頁「(1)粉砕機販売実績推移」の項参照)。
芹沢鉄工が昭和58年に販売した55台の微粉砕機「タールミル」は、媒体として2mmφ前後のビーズを使って粉砕するボールミルタイプのものであること(第68頁「(2)粉砕機種類及び種類別実績(58年)」の項参照)。
芹沢鉄工の市場分野の割合は、窯業20%、フェライト25%であり、窯業及びフェライト関係で実績をもっていること(第68頁「(3)現在の市場分野及び有力顧客」の項参照)。
粉砕媒体としてはアルミナ、クロム合金、ジルコニア、ガラス他が使用されること(第69頁「(8)媒体「ビーズ」について」の項参照)
(8-3) 第101〜102頁
品川白煉瓦(株)は、ファインセラミック関係の特殊原料の粉砕用の1〜40mmサイズのジルコニアセラミックボールを生産しており、中では25mm、19mmあたりが主体であること。
(8-4) 第103〜104頁
東芝セラミック(株)は、粉砕用のジルコニアボールを生産しており、そのサイズは2mm〜12.5mmであり、中心は5〜6mmクラスであること。

(9)刊行物9
(9-1) 特許請求の範囲
「球形の粉砕メディアと原料とを粉砕容器に投入してこの粉砕容器を機械的に振動もしくは回転させて原料を粉砕するボールミル装置において、上記粉砕メディアの径が0.5mmφないし15mmφであることを特徴とするボールミル装置。」
(9-2) 第1頁左下欄第16行〜同頁右下欄第18行
「従来より、各種電子部品に使用されるセラミックスの主原料として一般に用いられている固相合成されたチタン酸バリウムと副原料との混合粉砕には、回転ボールミルあるいは振動ボールミルが使用されている。か丶る回転ボールミルあるいは振動ボールミルでは、数時間ないし数10時間の粉砕によって得られる微粉の平均粒径は2.3μmないし1.6μm程度であり、チタン酸バリウムをはじめにアトマイザで粉砕し、続いてボールミルの湿式粉砕で微粉砕すると粒子径は1.3μm前後で一定となり、さらに粉砕を続けても微細化は起らないことが認識されていた。…(中略)…ところで、近年、電子部品の小型化及び精密化に伴い、これ等の電子部品に使用されるセラミックス原料も原料粉末の粒径が電気的性能に悪影響を与えないようにより微小にサブミクロンもしくはサブサブミクロン粉砕されたものが要求されている。かかる要求に対処すべく、近年、サンドグラインダ及びアトリッションミルと呼ばれる微粉砕用の攪拌粉砕装置が開発され、窯業の分野にも普及しつ丶ある。」
(9-3) 第2頁左上欄第16行〜同頁右上欄第9行
「上記のようなサンドグラインダやアトリッションミルによれば原料を多回処理することによりサブミクロン粉砕することは可能であるが、粉砕効率が低いうえ、粉砕メディアの攪拌羽根やタンクへの衝突等による破壊により、原料と粉砕メディアとを分離するスリットあるいはフィルタを通過して原料内に粉砕メディアの破片が混入すること、およびタンク内面や攪拌棒、攪拌羽根の摩耗によるこれら部材からの原料汚染の問題があった。
(発明の目的)本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、汚染が少くサブミクロンもしくはサブサブミクロン粉砕を効率よく行うことのできるボールミル装置を提供することを目的としている。」
(9-4) 第2頁右上欄第10行〜同頁左下欄第10行
「(発明の構成)従来、粉砕限界によりサブミクロン粉砕が不可能とされていたボールミル装置について、本発明者等は…(中略)…小球の粉砕メディアを使用すればサブミクロン粉砕が容易であり、粉砕メディアの摩耗等による汚染も小さいことを見い出し、本発明をなすに至ったものである。すなわち、本発明はボールミル装置において、粉砕メディアの径を0.5mmφないし15mmφとしたことを基本的な特徴とするものである。
(発明の効果)本発明によれば、ボールミル装置の粉砕メディアの径を0.5mmφないし15mmφとすることにより、原料に対する汚染が少く、原料のサブミクロンもしくはサブサブミクロンの粉砕を効率よく行うことができる。」
(9-5) 第2頁左下欄第11行〜第3頁右上欄、第4頁右上欄第6行〜第5頁左上欄第14行、第7頁の第1図
チタン酸バリウムの仮焼粉末(平均粒径1.85μm)を各種の径のアルミナボールを用いて192時間ボールミルで湿式粉砕を行ったところ、次のような結果が得られたこと。
メディア径 30mm 20mm 15mm 10mm 5mm 2mm 1mm
平均粒子径(μm) 1.25 1.10 1.01 0.74 0.66 0.62 0.58
粉砕速度は2mmφのアルミナボールを用いたものがもっとも大きいこと。
アルミナボール径が0.4mmφとなるとサブミクロン粉砕ができないこと
(9-6) 第5頁右上欄第3行〜第6頁右上欄第10行参照
2mmφの部分安定化ジルコニア(PSZ)のボールを用いてチタン酸バリウムを粉砕したところ、このジルコニアはアルミナよりも粉砕速度が大きかったこと。
(9-10) 第6頁左下欄第1〜5行
「なお、上記した実験ではセラミックス原料としてチタン酸バリウムを使用した例について説明したが、その他の系のセラミックス原料についてこのボールミル装置を用いることにより、サブミクロン粉砕を行えることは勿論である。」

(10)刊行物10
(10-1) 特許請求の範囲第1〜3項
「(1)酸化亜鉛を主成分とする非直線抵抗体の製造方法において、原料粉末を分散、混合する工程において、原料粉末を直径の小さな多数の粉砕メディアと共に粉砕機に入れ、均質に分散させるようにしたことを特徴とする非直線抵抗体の製造方法。
(2)粉砕メディアが2mm〜8mmφのほぼ球状である特許請求の範囲第1項記載の非直線抵抗体の製造方法。
(3)粉砕メディアの主成分が酸化ジルコニウム(ZrO2)、ステアタイト、二酸化ケイ素(SiO2)のいずれかである特許請求の範囲第1項記載の非直線抵抗体の製造方法。」
(10-2) 第2頁左下欄第1表
分散粒子の大きさ(50%累積重量平均径)が、本発明の方法では0.5ミクロンであるのに対し、従来法では、1ミクロンであること。
(以下では、刊行物1〜10についての上記(1-1)〜(10-2)の摘記事項を、「摘記事項(1-1)〜(10-2)」という。)

2-4.対比、判断

(1)訂正発明と刊行物1に記載の発明との対比
(1-1)一致点
摘記事項(1-1)によれば、刊行物1には、フェライトを「素原料配合→混合→濾過→乾燥→仮成形→仮焼→粉砕→濾過・乾燥→潤滑剤・成形剤添加→造粒→成形→焼成」という工程によって製造することが記載されている。
そして、「素原料配合」とは、「所要のフェライトを構成する各元素を所定の比率で含有する原料粉末を調製する」工程であることは明らかである。
また、摘記事項(1-2)によれば、刊行物1には、原料混合物を粉末のまま仮焼するか、「仮成形」してから仮焼するかは選択できる事項であることが記載されている。
更に、摘記事項(1-3)によれば、刊行物1には、粉砕は粗粉砕と微粉砕の過程が必要であること及び微粉砕をボールミルで行うことが記載されている。
上記のことを勘案すると、訂正発明と刊行物1記載の発明との一致点は次のとおりである。
〈一致点〉
「所要のフェライトを構成する各元素を所定の比率で含有する原料粉末を仮焼する工程と、この仮焼により得られた焼成物を微粉砕する工程と、この微粉砕工程により得られた粉末を所要の形状に成形した後、焼成する工程とを有するフェライトの製造方法において、前記微粉砕工程をボールを用いて行うフェライトの製造方法。」
(1-2)訂正発明と刊行物1記載の発明との相違点
A.相違点1
訂正発明は、「微粉砕工程を直径1mm〜3mmのジルコニアボールを用いて行」う点を構成要件としているのに対し、刊行物1には、粉砕用のボールの材料については記載がない点。
B.相違点2
訂正発明は、「950℃〜1200℃の範囲の温度で焼成する」点を構成要件としているのに対し、刊行物1には、焼成温度については記載がない点。
C.相違点3
訂正発明は、得られるフェライト焼結体の密度を「密度4.5g/cm3以上」としているのに対し、刊行物1には、フェライト焼結体の密度については記載がない点。
(2)相違点についての検討
(2-1)相違点1について
<ボールの材料について>
刊行物4には、アルミナ、天然石等を粉砕メディアとして使用すると、これらの材料が摩耗し易いため、被砕物中に摩耗分が混入し、製品純度の点で大きな障害となること(摘記事項(4-2)参照)及びこのような障害をなくすために摩耗し難い材料であるジルコニア焼結体を粉砕媒体として使用すること(摘記事項(4-3)参照)がそれぞれ記載されている。
刊行物5には、ジルコニアボールが不純物の混入の少ない粉砕媒体であることが記載されている(摘記事項(5-1)、(5-2)参照)
刊行物3には、2mm及び5mmφの粉砕媒体においては、ボール比重が大きいほど粉砕効果は大きく、アルミナよりもジルコニアの方が粉砕効率が高いこと(摘記事項(3-5)、(3-6)参照)が記載されている。
更に、刊行物2、3、6、8、9、10には、ジルコニアボールが粉砕媒体として使用されることが記載されている。(摘記事項(2-5)、(3-2)、(3-3)、(3-5)、(3-6)、(6-3)、(6-4)、(8-1)〜(8-4)、(9-6)及び(10-1)参照)
そして、フェライトの製造工程においても、粉砕工程で不純物が混入することを避ける必要があることは当業者には自明のことであり、また、粉砕効果の高い粉砕媒体を選択することは当業者が当然に考慮することである。
してみれば、刊行物1記載のフェライトの製造工程においても、不純物の混入を避けること及び粉砕効率を高めることを目的として、不純物の混入が少ないこと及び粉砕効率が高いことが知られているジルコニアボールを微粉砕工程における粉砕媒体として使用することは当業者が容易に想到し得たことと認める。
<ボールの直径について>
刊行物5に記載されているように、1〜3mmφのジルコニアボールは磁性材料等の粉砕、分散用のメディアとして本件特許の出願前に市販されており、周知のものである(摘記事項(5-1)、(5-4)、(5-5)参照)。
刊行物6には、フェライト材料を粉砕するに際して-20〜+30mesh(Tyler mesh換算で約0.5〜0.8mm)のジルコニア球を使用したことが記載されている(摘記事項(6-3)参照)。
刊行物8には、フェライト材等用の粉砕機として2mmφ前後の粉砕用ボールを使用する微粉砕機が販売されていること及びビーズの種類としてはジルコニア等が使用されていることが記載されている(摘記事項(8-2)参照)。
上記刊行物5、6、8によれば、1〜3mmφ前後のジルコニアボールは粉砕媒体として通常に使用されているものであることが認められる。
また、刊行物3には、フェライトの粉砕に関するものではないが、ボールミルの粉砕ボール径を数mm程度に小さくすると、短時間での粉砕が可能となり、サブミクロン粉砕も可能であること及びその粉砕効果は2mmφで極大を示すこと(摘記事項(3-1)参照)が記載されている。
更に、刊行物9には、フェライトの粉砕に関するものではないが、チタン酸バリウムの粉砕に際して、粉砕メディアの径を0.5mm〜15mmとすることにより、原料に対する汚染が少なく、原料を効率よくサブミクロンまで粉砕することができること(摘記事項(9-4)参照)、2mmφのジルコニアボールは2mmφのアルミナボールよりも粉砕速度が大きいこと(摘記事項(9-6)参照)及びこれは被粉砕材料がチタン酸バリウムに限るものではなく、他のセラミック原料についても言えること(摘記事項(9-10)参照)がそれぞれ記載されている。
上記刊行物3、9によると、粉体の粉砕効率はボール径によって影響を受けること及びボール径としては2mm程度のものを使用すると粉砕効率が高くなること及び小球の粉砕メディアを使用することにより摩耗等による汚染も小さくなることが知られていたとすることができる。
してみれば、フェライトの粉砕においても、その粉砕効率及び摩耗による汚染がボール径によって影響を受ける可能性があることは当業者が考慮に入れるところであって、刊行物1記載の発明においても、粉砕効率等の向上を目的として、試験を行なうことにより最適のボール径を設定することは当業者が容易になし得るものと認められ、そのボール径を1〜3mmとすることも当業者が容易になし得たことに過ぎないものと認める。
(2-2)相違点2について
フェライトの焼成は、その材料組成に応じて900℃を超える温度で行われることは、当業者の技術常識である。
上記の点については、次の各文献を参照のこと。
〈文献A〉柄澤忠義編「OHM文庫 フェライトとその応用」オーム社(昭和44年12月10日発行)第11〜13頁(本件特許の異議申立人市浦洋子が特許異議申立書に添付した参考資料3参照:その第13頁には、焼結温度はフェライトの種類によって900〜1500℃の範囲とすることが記載されている。)
〈文献B〉特開昭53-36690号公報(本件特許の異議申立人小林数夫の特許異議申立書添付の甲第1号証参照:文献Bには、焼成温度を900〜1450℃にすること(特許請求の範囲第5項参照)及びフェライトの焼成密度を高めることが記載されており、具体例として1100℃、1150℃の焼成温度で空孔率<0.1%のものを得たことが記載されている。)
〈文献C〉特公昭51-18640号公報(フェライトを高密度化すること及び具体例として、焼成を1000℃で行って、嵩比重4.63、4.75の焼結体を得たことが記載されている。)
〈文献D〉特開昭55-144469号公報(高密度のフェライト焼結体を得ること及び具体例として最高温度1145℃で焼結したことが記載されている。)
〈文献E〉特開昭54-145996号公報(フェライトを950〜1100℃で焼成すること及び具体例として、975℃の焼成によって密度が4.8g/cm3以上の焼結体が得られたこと。)
〈文献F〉特開昭49-109899号公報(高密度フェライトを製造すること及び具体例として1100℃での焼成で気孔の少ない緻密なフェライトを製造すること及び具体例として、密度が略4.5g/cm3の焼結体を得たことが記載されている。)
上記のとおりであるから、原料混合粉末の組成等に応じて焼成温度を設定することは格別のことではなく、その温度を従来においても採用されている900℃以上の温度である950〜1200℃とすることも格別のことではない。
(2-3)相違点3について
フェライトにおいては、高密度のものが望ましいことは当業者にとっては技術常識である(この点については、例えば、上記文献Fに、フェライト焼結体においては焼結体密度を上げることが望まれている旨の記載がある(第1頁左下欄第13行〜同頁右下欄第9行))。また、
その密度を4.5g/cm3以上とすることも、前記文献C、E、Fに記載されているように通常に行われていることである。
してみれば、刊行物1記載の発明においても、フェライト焼結体の密度を4.5g/cm3以上とすることは当業者が適宜に設定し得る設計的事項に過ぎない。
(2-4)特許異議意見書における特許権者の主張について
特許権者は、訂正発明は1mm〜3mmのジルコニアボールを粉砕媒体として採用することにより、低温焼結が可能となった旨主張している。
しかるに、被砕物の焼結性は、単に粉砕媒体として何を選択したかのみによって決まるのではなく、原料混合物の組成、粉砕時間、粉砕によって得られた被砕物の粒子径等によっても影響を受けることは明らかであるから、単に、1mm〜3mmのジルコニアボールを粉砕媒体として選択することのみによって、低温焼結が可能になるという効果が奏せられるとは認められないが、この点はさておくとして、原料混合物の組成によっては、975℃、1000℃、1100℃での焼成によって4.5g/cm3以上のフェライトが既に得られていることは、前述したとおりであるから(前記文献C、E、F参照)、このような材料について、粉砕手段として1mm〜3mmφのジルコニアボールを使用した場合においても、密度4.5g/cm3以上の焼結体を得るべく、焼成温度として、例えば1100℃、1100℃という温度を採用することは自体は何ら格別のことではない。
(3)まとめ
上記のとおりであるから、訂正発明は、本件特許の出願前に頒布された上記刊行物1〜6、8〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立として特許を受けることができないものである。

2-5.訂正の認否
従って、本件訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正を認めない。

III.特許異議申立についての判断

1.請求項1に係る発明
訂正を認めないことにより、本件特許の請求項1に係る発明は、特許査定時の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「所要のフェライトを構成する各元素を所定の比率で含有する原料粉末を仮焼する工程と、この仮焼により得られた焼成物を微粉砕する工程と、この微粉砕工程により得られた粉末を所要の形状に成形した後、焼成する工程とを有するフェライトの製造方法において、前記微粉砕工程を直径0.5mm〜3mmのジルコニアボールを用いて行うことを特徴とするフェライトの製造方法。」(以下、「本件発明」という。

2.当審が通知した取消理由の概要
本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物1〜8(訂正拒絶理由に引用した前記刊行物1〜8に同じ)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。

3.引用刊行物の記載事項
前記摘記事項(1-1)〜(8-4)参照

4.対比・判断
(1)訂正発明と刊行物1に記載の発明との対比
(1-1)一致点
摘記事項(1-1)によれば、刊行物1には、フェライトを「素原料配合→混合→濾過→乾燥→仮成形→仮焼→粉砕→濾過・乾燥→潤滑剤・成形剤添加→造粒→成形→焼成」という工程によって製造することが記載されている。
そして、「素原料配合」とは、「所要のフェライトを構成する各元素を所定の比率で含有する原料粉末を調製する」工程であることは明らかである。
また、摘記事項(1-2)によれば、刊行物1には、原料混合物を粉末のまま仮焼するか、「仮成形」してから仮焼するかは選択できる事項であることが記載されている。
更に、摘記事項(1-3)によれば、刊行物1には、粉砕は粗粉砕と微粉砕のか邸が必要であること及び微粉砕をボールミルで行うことが記載されている。
上記のことを勘案すると、訂正発明と刊行物1記載の発明との一致点は次のとおりである。
〈一致点〉
「所要のフェライトを構成する各元素を所定の比率で含有する原料粉末を仮焼する工程と、この仮焼により得られた焼成物を微粉砕する工程と、この微粉砕工程により得られた粉末を所要の形状に成形した後、焼成する工程とを有するフェライトの製造方法において、前記微粉砕工程をボールを用いて行うフェライトの製造方法。」
(1-2)本件発明と刊行物1記載の発明との相違点
〈相違点〉
本件発明は、「微粉砕工程を直径1mm〜3mmのジルコニアボールを用いて行」う点を構成要件としているのに対し、刊行物1には、粉砕用のボールの材料については記載がない点。
(2)相違点についての判断
<ボールの材料について>
刊行物4には、アルミナ、天然石等を粉砕メディアとして使用すると、これらの材料が摩耗し易いため、被砕物中に摩耗分が混入し、製品純度の点で大きな障害となること(摘記事項(4-2)参照)及びこのような障害をなくすために摩耗し難い材料であるジルコニア焼結体を粉砕媒体として使用すること(摘記事項(4-3)参照)がそれぞれ記載されている。
刊行物5には、ジルコニアボールが不純物の混入の少ない粉砕媒体であることが記載されている(摘記事項(5-1)、(5-2)参照)
刊行物3には、2mm及び5mmφの粉砕媒体においては、ボール比重が大きいほど粉砕効果は大きく、アルミナよりもジルコニアの方が粉砕効率が高いこと(摘記事項(3-5)、(3-6)参照)が記載されている。
更に、刊行物2、3、6、8には、ジルコニアボールが粉砕媒体として使用されることが記載されている。(摘記事項(2-5)、(3-2)、(3-3)、(3-5)、(3-6)、(6-3)、(6-4)、(8-1)〜(8-4)参照)
そして、フェライトの製造工程においても、粉砕工程で不純物が混入することを避ける必要があることは当業者には自明のことであり、また、粉砕効果の高い粉砕媒体を選択することは当業者が当然に考慮することである。
してみれば、刊行物1記載のフェライトの製造工程においても、不純物の混入を避けること及び粉砕効率を高めることを目的として、不純物の混入が少ないこと及び粉砕効率が高いことが知られているジルコニアボールを微粉砕工程における粉砕媒体として使用することは当業者が容易に想到し得たことと認める。
<ボールの直径について>
刊行物5に記載されているように、1〜3mmφのジルコニアボールは磁性材料等の粉砕、分散用のメディアとして本件特許の出願前に市販されており、周知のものである(摘記事項(5-1)、(5-4)、(5-5)参照)。
刊行物6には、フェライト材料を粉砕するに際して-20〜+30mesh(Tyler mesh換算で約0.5〜0.8mm)のジルコニア球を使用したことが記載されている(摘記事項(6-3))。
刊行物8には、フェライト材等用の粉砕機として2mmφ前後の粉砕用ボールを使用する微粉砕機が販売されていること及びビーズの種類としてはジルコニア等が使用されていることが記載されている。
上記刊行物5、6、8によれば、1〜3mmφ前後のジルコニアボールは粉砕媒体として通常に使用されているものであることが認められる。
また、刊行物3には、フェライトの粉砕に関するものではないが、ボールミルの粉砕ボール径を数mm程度に小さくすると、短時間での粉砕が可能となり、サブミクロン粉砕も可能であること、その粉砕効果は2mmφで極大を示すこと(摘記事項(3-1)参照)が記載されている。
上記刊行物3によると、粉体の粉砕効率はボール径によって影響を受けること及びボール径としては2mm程度のものを使用すると粉砕効率が高くなることが知られていたとすることができる。
してみれば、フェライトの粉砕においても、その粉砕効率がボール径によって影響を受ける可能性があることは当業者が考慮に入れるところであって、刊行物1記載の発明においても、粉砕効率等の向上を目的として、試験を行なうことにより最適のボール径を設定することは当業者が容易になし得るものと認められ、そのボール径を1〜3mmとすることも当業者が容易になし得たことに過ぎないものと認める。
してみれば、フェライトの粉砕においても、その粉砕効率がボール径に影響を受ける可能性があるであろうことは当業者が容易に想到し得るところであり、種々のボール径のものについて試験して最適のボール径を設定することは当業者が単なる試験を行なうことにより容易に決定することができたものと認められ、本件発明においてボール径を1〜3mmとすることも当業者が容易になし得たことに過ぎないものと認める。
(3)まとめ
上記のとおりであるから、本件発明は、本件特許の出願前に頒布された上記刊行物1〜6、8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

IV.むすび

したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-08-16 
出願番号 特願昭62-264659
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (C04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 唐戸 光雄
能美 知康
登録日 1997-10-17 
登録番号 特許第2708160号(P2708160)
権利者 株式会社東芝 日本重化学工業株式会社 一ノ瀬 昇
発明の名称 フェライトの製造方法  
代理人 須山 佐一  
代理人 須山 佐一  
代理人 須山 佐一  

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