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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1027833
異議申立番号 異議1999-74016  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-10-25 
確定日 2000-11-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第2887033号「精密位置決め装置」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2887033号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第2887033号(平成4年11月19日出願、平成11年2月12日設定登録。)の請求項1ないし4に係る発明は、それぞれ、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】搬送物体を非接触に案内する案内手段と、前記搬送物体の両側に駆動源が位置する駆動手段と、前記搬送物体の並進変位および重心まわりの回転変位を計測する計測手段と、前記搬送物体を所望の位置へ位置決め制御するための制御指令値を生成する制御手段と、前記搬送物体の並進変位情報に応じて前記駆動手段の各駆動源への制御指令値の分配率を決定する推力分配手段と、前記計測手段からの前記搬送物体の回転変位情報を用いて前記推力分配手段の分配率を補正する補正手段を有することを特徴とする精密位置決め装置。
【請求項2】前記案内手段は空気軸受を有することを特徴とする請求項1に記載の精密位置決め装置。
【請求項3】前記駆動手段の駆動源はリニアモータであることを特徴とする請求項1記載の精密位置決め装置。
【請求項4】前記計測手段は複数のレーザ測長器を有することを特徴とする請求項1に記載の精密位置決め装置。」
2.申立ての理由の概要
申立人「株式会社ニコン」は、証拠として甲第1号証(特開昭62-152633号公報)、甲第2号証(特開平3-273607号公報)、甲第3号証(特開昭61-13314号公報)、甲第4号証(特開昭61-120213号公報)を提出し、本件請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、その特許を取り消すべき旨主張している。
3.引用刊行物記載の発明
3-1.当審が通知した取消理由に引用された刊行物1(特開昭62-152633号公報、上記甲第1号証)には、
イ)「本発明は、一般的には、対象物の正確に直交するX,Y運動軸線に沿った直線運動およびX,Y軸線に直交するZ方向まわりのθ軸線に沿った回転運動を容易にするのに普通利用される気体軸受式X-Y-θステージ組立体の構造に用いる幾何学的形状に関する。……この場合、半導体ウェファの種々の区域を十字線パターンに従って順次に整合、露光することができる。」(第3頁左下欄第4〜16行)、
ロ)「Y軸線の運動制御を所定の要領でX-Y-θステージを回転させるように独立して制御できる平行に隔たったY,Y運動制御器に分けて行なう改良気体軸受多軸ステージ組立体が望まれている。こうすると、ウェファ・チャック上に置いた半導体ウェファを、X-Yステージとウェファ・チャック間にθ軸線ステージを使用することなくステップアンドリピート・カメラのベースに関して回転させて向きを決めることができる。」(第4頁左下欄第10〜19行)、
ハ)「本発明の別の目的は、Y軸線の運動制御をθ運動軸線に沿ってX-Y-θステージを回転位置決めする際に使用すべく独立して制御することのできる平行に隔たったY1,Y2運動制御器に振分ける改良した気体軸受式多軸ステージ組立体を提供することにある。本発明の別の目的は、θ運動軸線に沿ってX-Y-θステージの回転位置決めを制御する方法を提供することにある。」(第5頁右上欄第5〜13行)、
ニ)「第5図には……改良した気体軸受式多軸ステージ組立体70が示してあり、ここでは、モータ・エンコーダの代わりにリニアモータと測定スケールを用いている。……案内路気体軸受40は……内面78を押圧する軸線方向負荷式案内路気体軸受組立体44によって……基準内面76と並んだ状態に強制されている。……第1、第2のY軸線リニアモータ84,86の第1、第2の可動部分88,90は……空所92,94のそれぞれに装着してある。……X軸線リニアモータ98の可動部分100は……空所101内に装着してある。」(第8頁左上欄第2行〜同頁右上欄第2行)、
ホ)「第6図には……改良した気体軸受多軸ステージ組立体120が示してあり、ここでは、測定スケールの代りにレーザー干渉計を用いている。……干渉計134,136……がベース16上に装着してある。干渉計142……が中間ステージ要素24上に装着してある。」(第8頁左下欄第15行〜同頁右上欄第5行)、
ヘ)「この手順は、3つすべての駆動軸線を制御するために利用される三次元測定システム189の二次元測定準システム188の制御された位置の差値を更新して直交度エラー角をゼロまで減らすことによって完了する。気体軸受式多軸ステージ組立体10において、駆動軸線に沿ったこれらの位置はそれぞれ第1、第2のY軸線駆動組立体48,50によって制御され、気体軸受式多軸ステージ組立体70,120においては、駆動軸線に沿ったこれらの位置は……レーザ干渉計要素によって決定される。新しい差値、δY(新)=Y1-Y2は……コンピュータ55で計算される。……Y1,Y2はそれぞれ二次元測定準システム188の第1、第2の部分185,187の制御位置の値であり、……Lは二次元測定準システムの第1、第2の部分を分離している物理的な距離である。」(第9頁右下欄第7行〜第10頁左上欄第7行)、
ト)「これら従来技術の回転ステージは実際には最低限度で受け入れられていた。……さらに、従来技術の回転ステージは最低限度の回転真実性を持っているだけであり、X、Y運動軸線に沿った半導体ウェファの位置的なエラーを生じさせる。第10B図に示すように、改良多軸ステージ組立体180のX-Y-θステージ190の回転方向付けは中間ステージ要素186の二次元Y軸線測定準組立体188に関する差動制御によって行なわれ得る。したがって、従来技術のX-Y-θステージ組立体に典型的な中間回転ステージおよびそれに伴なうすべての問題が完全に排除され得る。」(第10頁左下欄第16行〜同頁右下欄第10行)、
チ)「第26図は制御回路の出力部の変更部分を示す。コンピュータ420は……速度エラー……を計算し、次いで、これらの値をそれぞれYレジスタ422、θレジスタ424,Xレジスタ426に記憶させる。3つのレジスタの出力信号は次のように3つの加算回路428,430,432の選定したものに送られる。Yレジスタ422からの出力信号は加算回路428,430の正の入力端子に送られる。θレジスタ424からの出力信号は加算回路428の正入力端子および加算回路430の負端子に送られる。そして、Xレジスタ426からの出力信号は加算回路428,430,432の正端子に送られる。加算回路428,430,432の出力信号は……それぞれY1モータ440、Y2モータ442およびX1モータ444を駆動し、ここで、Y1モータ440、Y2モータ442およびX1モータ444は改良気体軸受多軸ステージ組立体310または390のいずれかのための1組の駆動モータを包含する。」(第18頁右上欄第1行〜同頁左下欄第3行)
等の記載があり、これらの記載及び図面等を参照すると、刊行物1には、次のものが記載されていると認める。
“X-Y-θステージ190を気体軸受を介して案内する中間ステージ186及び側板72,74と、X-Y-θステージ190の両側に平行に隔たって設けられたY軸リニアモータ84,86と、X-Y-θステージ190の並進変位および回転変位を計測する干渉計134,136,142と、X-Y-θステージ190を所望の位置へ位置決め制御するための制御指令値を生成するコンピュータ420と、X-Y-θステージ190のX速度情報に応じてY軸リニアモータ84,86への制御指令値を補正すると共に、干渉計134,136からのX-Y-θステージ190の回転変位情報を用いてY軸リニアモータ84,86への制御指令値を補正する加算回路428,430(第26図)とを有するX-Y-θステージ組立体。”
3-2.また、同刊行物2(特開平3-273607号公報、上記甲第2号証)には、
イ)「本発明は、例えば半導体露光装置、光学測定機器、精密工作機材等に使用するXYステージ等の移動テーブル装置に関する。」(第1頁右下欄第9〜11行)、
ロ)「この種の移動テーブル装置に定盤上に対抗配置した一対の固定ガイドを設け、この固定ガイドに沿って移動可能な制圧空気軸受により支持された第1の可動体(Yステージ)と第1の可動体および定盤との間を第1の可動体と直角方向に移動可能な静圧空気軸受により支持された第2の可動体(Xステージ)により構成される。」(第1頁右下欄第13〜19行)、
ハ)「第1図はXYステージの全体構成を示す。……5a,5bはYステージ駆動用リニアモータ、6はXステージ駆動用リニアモータ、……9はY軸用干渉系、10はX軸用干渉系……13a,13bはYステージ用案内固定ガイドである。Yステージ2はYステージ駆動用リニアモータ5a,5bによりY方向にのみ駆動され、Xステージ3はYステージ2に取付けられたXステージ駆動用リニアモータ6によりX方向にのみ駆動される。X,Y方向の位置はレーザ12からのレーザ光を用いて周知の方法により検出される。(第2頁右上欄第13行〜同頁左下欄第7行)、
ニ)「第3図はYステージ駆動用制御回路の例を示す。14はX軸位置検出部、15はY軸総駆動力演算部、16は駆動力分配回路、17はドライバである。」(第2頁右下欄第5〜8行)、
ホ)「第4図は、駆動力分配回路16の回路の例を示す。18a,18bは分配比率を格納するROM、19a,19bは18a,18bのROMのデータに応じて、Y軸総駆動力Fを分配するための乗算型D/A……である。……実際にステージを駆動する時に、このROMのデータによってYリニアモータ5a,5bの駆動力を制御することにより、Xステージ3がどの位置にあっても、Yステージ2を駆動した場合にXYステージ全体の重心まわりの回転モーメントを押えることができる。」(第2頁右下欄第16行〜第3頁左上欄第16行)
等の記載があり、これらの記載及び図面等を参照すると、、刊行物2には、次のものが記載されていると認める。
“XYステージを静圧空気軸受により案内する固定ガイド13a,13b、XYステージの両側に駆動源が位置するYステージ駆動用リニアモータ5a,5b、XYステージの並進変位を計測するためのレーザ12によるY軸用干渉系9及びX軸用干渉系10、XYステージを所望の位置へ位置決め制御するための制御指令値を生成するY軸総駆動力演算部15、XYステージの並進変位情報に応じてYステージ駆動用リニアモータ5a,5bの駆動源への制御指令値の分配率を決定する駆動力分配回路16を有する半導体露光装置等に使用される移動テーブル装置。”
3-3.また、同刊行物3(特開昭61-13314号公報、上記甲第3号証)には、
イ)「この種の精密XYθ移動台装置は、例えば半導体ウエハを加工したり検査したりする場合に用いられ、サブミクロンオーダーの超高精度が要求される。」(第1頁右下欄第16〜19行)、
ロ)「本発明は上述の事情に鑑みて為されたもので回動専用のステージを設けることなく、簡単な構成で超高精度の微小角度回転を駆動、制御し得る精密XYθ移動台装置を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄第11〜15行)、
ハ)「試料台1は、ガイド軸2を上下左右に4面拘束された静圧エアパッド4をもつ箱形構造で、この上に、半導体ウエハ等の試料5と、試料台1の位置及び回転変位をレーザ干渉測長する基準となる光学スコヤ6を常置している。」(第2頁右上欄第20行〜同頁左下欄第4行)、
ニ)「試料台1を往復矢印Y方向にスライドするためのガイド軸2の両端に、上下及び左右方向を拘束する静圧エアパッド13を設け、これがスライドガイド3内をエアスライドする構造となっている。」(第2頁右下欄第6〜10行)、
ホ)「次に、本実施例における試料台1の微小角度回転の方法について説明する。前述の通り、Y方向の直進移動のために、ガイド軸2の左右2ヶ所に1対のリニアモータ14,15が設けられている。試料台1を△θだけ微小回転する時には、左側リニアモータ14によって定められる駆動位置を基準として右側リニアモータ15によって定まる駆動位置を微小量だけ変化させる。第1図から容易に理解できるように、往復矢印X方向(図において左右方向)に設けられたガイド軸2の両端を、違った距離ずつ上下方向に移動させると、該ガイド軸2は水平面内で回動する。」(第3頁左上欄第9行〜同頁右上欄第2行)、
ヘ)「試料台1のX方向、Y方向の移動量は、レーザ発信器30からのレーザ光31を、………反射させて、干渉計33,34により得られた干渉信号をレシーバ35,36でカウントする。同様に、微小回転角Δθの測定は、レーザ光31を……干渉信号をレシーバ40でカウントすることにより、……微小回転角Δθは、……求められる。」(第3頁右上欄第11行〜同頁左下欄第5行)、
ト)「第3図は、本移動台の位置決めサーボ制御システムを示すブロック図である。各X,Y,θのレシーバ35,36,40からの干渉信号は、レーザ制御装置(総称)50内のカウンタ51,52,53にラッチされる。一方、システムコントローラ(CPU)54からは、目標値として、X,Y,θのカウント数をレジスタ55,56,57にセットしておく。なおθの目標値は、試料台1が移動する際に生ずる微小回転角をなくすようにサーボ制御するために、θカウント±許容カウント数をセットする。次に、目標値と現在値との偏差出力を比較増幅器58,59,60で得、これをD/Aコンバータ61,62,63でアナログ電圧に変換して速度指令値を得る。試料台1を駆動するリニアモータ8は……速度フィードバック値と、指令値に基づくサーボアンプ65からの出力を得て駆動される。Y1リニアモータ14も、Xリニアモータ8と同一の制御を行なう。 一方、Y2リニアモータ15は、微小回転角△θの制御を含むY方向の制御を行なうため、Y方向D/Aコンバータ62の出力から、θ方向D/Aコンバータ63の出力を差し引いた値を、差動増幅器67で得、これをY2リニアモータ15の速度指令値とする。Y2リニアモータ15は、Y1リニアモータ14と同一のF/V変換器64から得られる速度フィードバック値と、上記速度指令値とにより、サーボアンプ67を介して、出力を得る。以上のような完全閉ループ式フィードバック制御方式を用いることにより、試料5を、走行中あるいは、停止状態でX,Y,θ方向に位置制御することが可能となる。」(第3頁左下欄第14行〜第4頁左上欄第7行)
等の記載があり、これらの記載及び図面等を参照すると、刊行物3には、次のものが記載されていると認める。
“試料台1を非接触にエアパッド4,13を介して案内するガイド軸2及びスライドガイド3、試料台1の両側に駆動源が位置するY1リニアモータ14、Y2リニアモータ15、試料台1の並進変位および回転変位をレーザ光により計測する干渉信号レシーバ35,36,40、試料台を所望の位置へ位置決めするための制御指令値を生成するCPU54、レシーバ35,36,40からの試料台1の回転変位情報を用いてY軸リニアモータ14,15の制御指令値を補正するXYθ移動台。”
3-4. また、同刊行物4(特開昭61-120213号公報、上記甲第4号証)には、
「可動体を目標位置に移動するに際し、該可動体を、先ず速度重視の第1制御モードで目標位置近傍まで移動し、次いで停止位置精度重視の第2の制御モードに切換えて目標位置に位置決めするサーボ制御系を具備する位置決め制御装置。」(第1頁左下欄第5行〜同欄第9行)が記載されていると認める。
4.対比・判断
4-1.本件の請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者はともに精密位置決め装置であって、刊行物1に記載されたものの「X-Y-θステージ」、「中間ステージ及び側板」、「Y軸リニアモータ」、「干渉計」、「コンピュータ」は、本件の請求項1に係る発明の「搬送物体」、「案内手段」、「駆動手段」、「計測手段」、「制御手段」にそれぞれ相当する。そして、刊行物1のFIG26を参照すると、「駆動手段」に相当する「Y1モータ440」には、Yレジスタ422からの正入力、Xレジスタ426からの正入力、およびθレジスタからの正入力が加算回路428で加算されて制御指令値が決定され、他方同様に「駆動手段」に相当する「Y2モータ442」には、Yレジスタ422からの正入力、Xレジスタ426からの正入力、およびθレジスタからの負入力が加算回路430で加算されて制御指令値が決定されているので、加算回路428,430の機能は、「X-Y-θステージのX速度情報に応じてY軸リニアモータへの制御指令値を決定する」点で、本件請求項1に係る発明の並進変位情報に応じて「駆動手段の各駆動源への制御指令値を補正する」機能に相当するが、XレジスタおよびYレジスタからの入力が、Y1及びY2モータそれぞれに同様に入力されて、直接制御指令値を算出するから、両者間の制御指令値の比率を変更するものとはいえず、したがって、制御指令値の「分配率」を決定するものではない。また、加算回路428,430においては、さらに、θレジスタからの出力信号が、それぞれ反対符号により加算されていることから、加算回路428,430の機能は、「干渉計からのX-Y-θステージの回転変位情報(θレジスタからの出力信号)を用いてY軸リニアモータへの制御指令値を補正する」点で、本件発明の「計測手段からの搬送物体の回転変位情報を用いて駆動源への制御指令値を補正する」機能に相当するが、刊行物1に記載のものは、回転変位情報(θレジスタからの出力信号)を、制御指令値を決定する加算回路に直接加えることで補正するのであり、これは「分配率」を補正することには相当しない。
したがって、両者は、
「搬送物体を非接触に案内する案内手段と、前記搬送物体の両側に駆動源が位置する駆動手段と、前記搬送物体の並進変位および回転変位を計測する計測手段と、前記搬送物体を所望の位置へ位置決め制御するための制御指令値を生成する制御手段と、前記搬送物体の並進変位情報及び前記計測手段からの前記搬送物体の回転変位情報を用いて前記駆動手段の各駆動源への制御指令値を補正する補正手段を有する精密位置決め装置。」で一致するものの、
制御指令値を補正する補正手段が、本件請求項1に係る発明は、「前記搬送物体の並進変位情報に応じて前記駆動手段の各駆動源への制御指令値の分配率を決定する推力分配手段と、前記計測手段からの前記搬送物体の回転変位情報を用いて前記推力分配手段の分配率を補正する補正手段を有する」ものであるのに対して、刊行物1に記載のものは、Y速度変位に対して搬送物体の並進変位情報に相当するX速度変位を加算し、さらに回転変位情報に相当するθ速度変位を一方に加算し、他方に減算するものであり、並進変位情報に応じて「分配率を決定する」もの及び「分配率を補正する」ものではないから、刊行物1に記載のものは、本件請求項1に係る発明を特定する事項である「前記搬送物体の並進変位情報に応じて前記駆動手段の各駆動源への制御指令値の分配率を決定する推力分配手段と、前記計測手段からの前記搬送物体の回転変位情報を用いて前記推力分配手段の分配率を補正する補正手段を有する」構成を備えていない。
4-2. また、本件請求項1に係る発明と刊行物2に記載の発明とを対比すると、両者はともに精密位置決め装置であって、刊行物2記載の発明における「XYステージ」、「静圧空気軸受により案内する固定ガイド」、「Yステージ駆動用リニアモータ」、「レーザ」、「Y軸総駆動力演算部」、「駆動力分配回路」は、本件請求項1に係る発明の「搬送物体」、「非接触に案内する案内手段」、「駆動手段」、「計測手段」、「制御手段」、「推力分配手段」にそれぞれ相当する。
したがって、本件の請求項1に係る発明と刊行物2に記載の発明とは、
「搬送物体を非接触に案内する案内手段と、前記搬送物体の両側に駆動源が位置する駆動手段と、前記搬送物体の並進変位を計測する計測手段と、搬送物体を所望の位置へ位置決め制御するための制御指令値を生成する制御手段と、前記搬送物体の並進変位情報に応じて前記駆動手段の各駆動源への制御指令値の分配率を決定する推力分配手段とを有する精密位置決め装置。」で一致するものの、
刊行物2に記載の発明は、本件請求項1に係る発明を特定する事項である前記「前記計測手段からの前記搬送物体の回転変位情報を用いて前記推力分配手段の分配率を補正する補正手段を有する」構成を備えていない。
4-3.本件請求項1に係る発明と刊行物3に記載の発明とを対比すると、
両者はともに精密位置決め装置であって、刊行物3に記載の発明における「試料台」、「ガイド軸及びスライドガイド」、「リニアモータ」、「レシーバ」、「CPU」が、それぞれ本件請求項1に係る発明の「搬送物体」、「案内手段」、「駆動手段」、「計測手段」、「制御手段」に相当する。
一方、刊行物3に記載の発明において、並進変位情報に相当するX軸方向の位置は、X軸リニアモータへの指令値を算出するために検出されており、Y軸リニアモータへの制御指令値を決定するものではない。さらに、刊行物3に記載の発明は、回転変位情報を検出してY軸リニアモータの推力を補正するものであるが、制御指令値を分配するものではなく、当然分配率を補正する構成を備えるものではない。
したがって、本件請求項1に係る発明と刊行物3に記載の発明とは、
「搬送物体を非接触に案内する案内手段と、前記搬送物体の両側に駆動源が位置する駆動手段と、前記搬送物体の並進変位および回転変位を計測する計測手段と、前記搬送物体を所望の位置へ位置決め制御するための制御指令値を生成する制御手段、前記計測手段からの搬送物体の回転変位情報を用いて前記制御指令値を補正する補正手段とを有する精密位置決め装置。」で一致するものの、
刊行物3に記載の発明は、本件請求項1に係る発明を特定する事項である「前記搬送物体の並進変位情報に応じて前記駆動手段の各駆動源への制御指令値の分配率を決定する推力分配手段と、前記計測手段からの前記搬送物体の回転変位情報を用いて前記推力分配手段の分配率を補正する補正手段を有する」構成を備えていない。
4-4.以上のとおり、刊行物1〜3に記載された発明は、いずれも、本件請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項である「搬送物体の回転変位情報を用いて推力分配手段の分配率を補正する補正手段を有する」構成を備えておらず、この点は、刊行物4にも記載されていない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1〜4に記載された発明とすることはできない。
4-5.また、上記刊行物2に、搬送物体の並進変位情報に応じて駆動手段の各駆動源への制御指令値の分配率を決定する推力分配手段を有する点が記載され、上記刊行物1及び3に、回転変位情報に基づいて制御指令値を補正する補正手段を有する点が記載されていると認められるが、刊行物1又は3に記載されたものと刊行物2に記載されたものを寄せ集めることにより、搬送物体の並進変位情報に応じて決定された分配率によって、駆動手段の各駆動源への制御指令値を補正し、さらにこの補正後の制御指令値を、搬送物体の回転変位情報に基づいてさらに補正する構成が得られるとしても、刊行物1又は3に記載されたものは制御指令値に補正値を直接加算して補正するものであるから、上記「搬送物体の回転変位情報を用いて前記推力分配手段の分配率を補正する」ことを当業者が容易に想到し得るとすることはできない。
4-6.そして、本件請求項1に係る発明は、前記「前記搬送物体の並進変位情報に応じて前記駆動手段の各駆動源への制御指令値の分配率を決定する推力分配手段と、前記計測手段からの前記搬送物体の回転変位情報を用いて前記推力分配手段の分配率を補正する補正手段を有する」構成により、制御指令値における補正値の割合は、制御指令値の大小によって異なることはなく、補正された分配率に基づく各駆動手段への入力信号は、制御指令値に比例する信号となり、制御指令値の大小の如何にかかわらず、制御指令値に比例する信号を各駆動手段に入力できるという作用効果を生じるものと認める。
したがって、本件の請求項1に係る発明は、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4-7.本件請求項2〜4に係る発明は、その発明を特定する事項として、本件請求項1に係る発明を特定する事項を悉く含むものであるから、本件請求項1に係る発明と同様の理由により、上記刊行物1〜4に記載された発明とすることも、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-10-30 
出願番号 特願平4-310282
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀧内 健夫  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 鈴木 久雄
鈴木 法明
登録日 1999-02-12 
登録番号 特許第2887033号(P2887033)
権利者 キヤノン株式会社
発明の名称 精密位置決め装置  
代理人 内尾 裕一  
代理人 西山 恵三  
代理人 渡辺 隆男  

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