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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 H01M |
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管理番号 | 1027884 |
異議申立番号 | 異議1998-72073 |
総通号数 | 16 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-04-02 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-04-24 |
確定日 | 2000-10-20 |
異議申立件数 | 4 |
事件の表示 | 特許第2671171号「過放電過熱防止装置を有する電池」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2671171号の特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第2671171号の手続きの経緯は次のとおりである。 特許出願 昭和58年11月 1日 (実願昭58-170172の変更) 設定登録 平成 9年 7月11日 公報発行 平成 9年10月29日 特許異議申立 平成10年 4月24日 (レイケムコーポレーション 他3件) 取消理由通知 平成10年11月10日付 異議意見書及び訂正請求 平成11年 1月18日 訂正拒絶理由 平成12年 4月21日付 異議意見書 平成12年 7月 7日 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 訂正の要点は、特許請求の範囲の減縮、不明りょうな記載の釈明を目的として、特許請求の範囲の導電性ポリマー及び絶縁部材の特性に限定を加え、この訂正に整合させるために発明の詳細な説明の項を訂正するものである。 イ、訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明 1.電流を発生させるための陽極体及び陰極体と、 上記陽極体及び陰極体に接続され外部に露出することによって電流を外部に取り出す陽極端子及び陰極端子と、 上記陽極体及び陰極体を収納するとともに陽極端子及び陰極端子のうちの一方が電気的に接続している外装部材とを有する電池において、 上記外装部材は熱収縮性の絶縁部材によりその外面が覆われ、かつ、 上記外装部材に電気的に接続していない側の電極側の極体と端子との間に、温度上昇に応じて抵抗値が上昇し、温度降下に応じて抵抗値が減少する温度-抵抗値特性を有する導電性ポリマーが介装されていること を特徴とする過放電過熱防止装置を有する電池。 ウ.独立特許要件の判断 ウ-1.訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明に対し、当審が訂正拒絶理由通知において引用した文献とそれに記載の事項 ◎実願昭58-78125号の当初明細書及び図面(同マイクロフィルム参照:異議申立人レイケムコーポレーション提示の甲第1号証) 摘示1:「陰極20は、ニッケルグリッド36が圧入されているリチウム製ストリップ34である。ニッケルグリッド36の機能は、リチウムストリップ34が放電により減損されてくるときに電流コレクタとして作用する。陽極18は、カーボンモノクロライド(化学活性材料)と、(電導性のため)のカーボンと、チタニウムグリッド38へ当てられるバインダとしてのテフロン(登録商標)との混合材である。」(4ページ2行〜10行目)、 摘示2:「陰極グリッド36に接続されたタブ44はケーシング10の内面に溶接される。プラスチックワッシャ25がケーシング10内で巻体43に当接されている。ケーシング10の円筒壁に形成されたリング状の内方へ突出しているリブ46は、ワッシャ25と当接し、巻体48をケーシング10内に固定する。ワッシャ25は巻体がケーシングと電気的に短絡するのを防ぐ。キャップアセンブリ26を設定するには、初めに、周囲スカート48を有するポリプロピレン製絶縁シールワッシャ27をリブ46に当接する。接触タブ30は陽極18に接続されてワッシャ25、27を通して伸びており、チタンディスク28に溶接される。それから、ケーシング10に真空をかけ、同時に電解物24で満たす。キャップアセンブリの設定はポリマ製PTCディスク32をチタンディスク28に当接し、ニッケル端子キャップ33を該ディスク28に当接して設定することにより完了する。」(6ページ1行〜19行目)、 摘示3:「陰極20と陽極18は第2図に示すように一緒に巻かれ、巻いたものはケーシング10の中に開放端部から挿入される。ケーシング10の端部には、ポリプロピレン製絶縁ディスク16が当接されている。陰極グリッド36に接続されたタブ44はケーシング10の内面に溶接される。」(5ページ17行〜6ページ3行目)、 摘示4:「ハウジング10内で該ハウジングから電気絶縁された電極18(30)と、当該キャップアセンブリ26内において上記電極と端子キャップ33との間の導電路の一部を形成する正温度係数抵抗装置32とを有してなる電池」(実用新案登録請求の範囲:なお用語に添付の符号は詳細な説明の項から引用した。)、 摘示5:「正温度係数装置としての、ポリマ製正温度係数抵抗ディスク32」(3ページ18行〜20行)及び「ポリマ製PTC抵抗ディスク32は、低抵抗導電性ポリマにより作られたディスク40と、該ディスク40の両側で電極として作用する2つのディスク41、42とを有している。PTC抵抗ディスクは、電流によってその内部又は外部で一定のしきい値内の温度に加熱されると、抵抗が急激に増大し(以下において、この現象を“スイッチング“と称する)、その後、通過する電流を低い値に減少する。電流を減少することにより、電池内での過度の熱及び圧力増大による当該電池の爆発や漏れを防ぐ。冷却に基づき、PTC抵抗ディスクは低抵抗状態に戻る。」(4ページ18行〜5ページ9行)、 摘示6:「過度の温度や過度の放電からそのような電池を保護することに関する。」(1ページ14〜16行目)、及び、「この電池は(1)それに接続される他の電気部品へ損害を与えないという点及び(2)電池自体に対する障害を作らないという点についての要件に合い真に安全である。」(8ページ7〜10行目)、 が記載され、そして、該電池の断面図、巻体の斜視図、組立手順を示す分解斜視図が各Fig.1,2,3に示されている。 (以下、上記引用例を先願明細書という。) ウ-2.当審の判断 ウ-2-1 訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明(以下、これを、本件発明という。)と先願明細書に記載された発明とを対比する。 本件発明を分節すれば次の構成A〜Eである。 A.電流を発生させるための陽極体及び陰極体と、 B.上記陽極体及び陰極体に接続され外部に露出することによって電流を外部に取り出す陽極端子及び陰極端子と、 C.上記陽極体及び陰極体を収納するとともに陽極端子及び陰極端子のうちの一方が電気的に接続している外装部材とを有する電池において、 D.上記外装部材は熱収縮性の絶縁部材によりその外面が覆われ、かつ、 E.上記外装部材に電気的に接続していない側の電極側の極体と端子との間に、温度上昇に応じて抵抗値が上昇し、温度降下に応じて抵抗値が減少する温度-抵抗値特性を有する導電性ポリマーが介装されていることを特徴とする過放電過熱防止装置を有する電池。 他方、先願明細書に記載の電池は、摘示1〜4の構成を有しており、上記摘示1は本件発明の構成Aに、摘示2は同構成Bに、摘示3は同構成Cに、摘示4は同構成Eにそれぞれ対応する。 そして、先願明細書で使用するポリマ製PTC抵抗導電性ポリマーディスク32は、摘示5に示されるように、温度上昇に応じて抵抗値が上昇し、温度降下に応じて抵抗値が減少する温度-抵抗値特性を持つから、これは本件発明で規定する導電性ポリマーと同じであり、それを電池に配置することによる作用効果は摘示6に示されているように、過度の温度や過度の放電から電池を保護し、それに接続される他の電気部品へ損害を与えないことであるから、本件発明でいう過放電過熱防止装置を有する電池に相当する。 そこで、先願明細書に添付の図面Fig.1〜3を参照して、上記摘示1〜4の先願明細書に記載の用語を括弧を用いて本件発明の構成に当てはめると、次のようになる。 A:電流を発生させるための陽極体(陽極18)及び陰極体(陰極20)と、 B:上記陽極体(陽極18)及び陰極体(陰極20)に接続され外部に露出することによって電流を外部に取り出す陽極端子(ニッケル端子キャップ33)及び陰極端子(ケーシング10の端部12)と、 C:上記陽極体(陽極18)及び陰極体(陰極20)を収納するとともに陽極端子(ニッケル端子キャップ33)及び陰極端子(ケーシング10の端部12)のうちの一方(ケーシング10)が電気的に接続している外装部材(ケーシング10)とを有する電池において、 E:上記外装部材(ケーシング10)に電気的に接続していない側の電極側の極体(陽極18、30)と端子(ニッケル端子キャップ33)との間に、温度上昇に応じて抵抗値が上昇し、温度降下に応じて抵抗値が減少する温度-抵抗値特性を有する導電性ポリマー(正温度係数抵抗装置としてのポリマ製PTC抵抗ディスク32)が介装されている過放電加熱防止装置を有する電池。 してみれば、先願明細書には、本件発明の構成A〜Eのうち、A、B、C及びEが記載されているものと認められる。 しかしながら、本件発明では、Dの「上記外装部材は熱収縮性の絶縁部材によりその外面が覆われている」構成を有しているのに対し、先願明細書には、この構成が記載されていない点で一応相違する。 ウ-2-2 以下、この相違点について検討する。 電極間の短絡を防止するためと明記はされていないが、異議申立人レイケムコーポレーション提示の甲6,7号証及び同東芝電池株式会社提示の甲第2,3,4号証に示されるように、熱収縮性絶縁部材で電池の外面を覆うことは普通に行われていることであり、また、この点に関し、特許権者自身も、本件特許の原出願である実用新案登録出願の当初明細書で、「電池は通常その外装缶に商品名等を印刷したラベルを巻き、更に熱収縮性のある塩化ビニルパイプで外装してあるので、本実施例では陰極を覆うように設置した導電性ポリマー部材(2)の周囲を塩化ビニルパイプ(3)で包むようにしてある。」(第7頁)と述べるように、電池は通常その外装缶に商品名等を印刷したラベルを巻き、更に熱収縮性のある塩化ビニルパイプで外装されるものであると認識しているから、「電池の外装部材外面を熱収縮性絶縁性を有する材料で覆う」点は、本件出願当時慣用手段であると認められる。 してみれば、特許権者は、本件特許明細書において、本件発明は、所定の特性を持つ導電性ポリマーの配置構造に加え、外装部材を熱収縮性の絶縁部材により覆うことで電極間の短絡などが起きにくい構造を付加して、二重の安全構造とすることで事故の発生確率を更に減らせると述べ、後者の構造が、あたかも本件発明の課題解決の2本柱の1つのような記述となっているが、これは単なる表現の仕方であって、上記のように後者のDの構成である缶外装を絶縁性を有する材料で覆うことは慣用手段であり、これから導き出される電極間の短絡防止の効果は、前者の温度-抵抗値特性を有する導電性ポリマーを所定配置することから導き出される作用効果と何ら関係なく、該慣用手段から予測される自明の効果にすぎない。 この点について更に述べると、先願明細書に記載されている発明以外に何ら新しい発明を開示しないものにあらためて特許権という独占権を付与することは、新しい発明の公開の代償として発明を保護する特許制度の趣旨からみて妥当でないという特許法第29条の2の立法の精神に基づくと、先願明細書に本件発明と同一表現で記載されていなくても、当業者が先願明細書に本件と同一の技術思想が記載してあると認識できるような発明、即ち、先願出願時に当業者の技術常識ないし慣用技術をもってすれば、先願明細書に記載の発明と実質的に同一と認められる発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるとするのが相当である。 しかして、通常の使用態様における電池が備えるべき品質や使い勝手を考慮すれば、上記の慣用的に行われている、「絶縁性を有する部材による外装部材の被覆」は当然に短絡防止の機能及び効果をも有しているものと解するのが自然であるから、本件のような所定の特性を持つ導電性ポリマーの配置構造に要点があり、外装部材を熱収縮性絶縁部材により覆うことが慣用的に行われている電池の場合には、この慣用手段の構成の有無により、発明が異なるものではない。 ウ-2-3 したがって、訂正後の本件発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明は、特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 エ.むすび したがって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第3項で準用する同第126条第4項の規定に違反するので、当該訂正請求は認めない。 3.特許異議の申立てについての判断 3-1.異議申立人レイケムコーポレーションの主張 本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。 3-2.特許明細書に記載の発明 特許異議が申立てられた発明は、訂正請求前の特許明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「電流を発生させるための陽極体及び陰極体と、 上記陽極体及び陰極体に接続され外部に露出することによって電流を外部に取り出す陽極端子及び陰極端子と、 上記陽極体及び陰極体を収納するとともに陽極端子及び陰極端子のうちの一方が電気的に接続している外装部材とを有する電池において、 上記外装部材は絶縁部材によりその外面が覆われ、かつ、 上記外装部材に電気的に接続していない側の電極側の極体と端子との間に、温度上昇に応じて抵抗値が上昇する導電性ポリマーが介装されていることを特徴とする過放電過熱防止装置を有する電池。」 3-3.取消理由通知の引用例に記載の事項 上記2,ウー1、に記載のとおりである。 3-4.判断の内容 該訂正請求前の発明は、訂正請求明細書に記載の発明(上記2,イ、参照)のように導電性ポリマー及び絶縁部材の規定がなされていないから、訂正請求明細書に記載の発明より上位概念で記載された発明である。 そして、訂正請求明細書に記載の発明が上記のように先願明細書に記載された発明と同一と判断される以上、訂正請求前の当該発明は、上記と同様の理由によって、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない発明である。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲に記載された発明の特許は、特許法第113条第1項第2号に該当する。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-08-29 |
出願番号 | 特願平3-171082 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
Z
(H01M)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 瀧 廣往、市田 智恵美、三宅 正之、前田 仁志 |
特許庁審判長 |
小野 秀幸 |
特許庁審判官 |
能美 知康 刑部 俊 |
登録日 | 1997-07-11 |
登録番号 | 特許第2671171号(P2671171) |
権利者 | ミノルタ株式会社 |
発明の名称 | 過放電過熱防止装置を有する電池 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 須山 佐一 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 貞重 和生 |