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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1027933
異議申立番号 異議2000-72587  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-03-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-06-27 
確定日 2000-11-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第2995308号「硬化性組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2995308号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第2995308号の発明についての出願は、平成3年9月9日に特許出願され、平成11年10月29日にその特許の設定登録がなされ、その後旭硝子株式会社より特許異議の申立てがなされたものであり、請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された下記事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(A)重合主鎖が本質的に、


で示される繰り返し単位からなり、水酸基または加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基を少なくとも1個有するオキシプロピレン重合体であって、重量平均分子量(Mw1)と数平均分子量(Mn1)の比(Mw1/Mn1)が1.6を超えるオキシプロピレン重合体、及び(B)重合主鎖が本質的に、


で示される繰り返し単位からなり、水酸基または加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基を少なくとも1個有するオキシプロピレン重合体であって、重量平均分子量(Mw2)と数平均分子量(Mn2)の比(Mw2/Mn2)が1.6以下であり、かつ数平均分子量(Mn2)が前記(A)のオキシプロピレン重合体の数平均分子量(Mn1)より小さくない(Mn2≧Mn1)オキシプロピレン重合体を含有する硬化性組成物。
【請求項2】(A)成分の重量部/((A)成分の重量部+(B)成分の重量部)が0.05〜0.95である請求項1に記載の硬化性組成物。」

2.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人旭硝子株式会社は下記の甲第1〜7号証を提出して、本件発明の特許は、次の理由(i)及び(ii)により取り消されるべきものである旨主張している。
(i)「本件発明1及び2は、甲第1〜7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」
(ii)「本件明細書の特許請求の範囲には、本件発明の効果に対応する要件のみが記載されているものとは認められないから、本件発明1及び2の特許は、特許法第36条第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである。」

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開平3-72527号公報
甲第2号証:「接着」Vol.32 No.4(1988),p5〜10,「新しい無溶剤常温硬化型ゴム系接着剤」諌山克彦
甲第3号証:「日本接着協会誌」Vol.19 No.6(1983),p32〜39
甲第4号証の1:特願平4-114319号の審査過程における平成10年11月16日付け拒絶理由通知書の写し
甲第4号証の2:同平成11年2月15日付け手続補正書の写し
甲第4号証の3:同平成11年2月15日付け意見書の写し
甲第4号証の4:同平成11年2月23日付け手続補足書及び参考資料1〜3の写し
甲第5号証:特開平4-89861号公報
甲第6号証:古川淳二著「高分子物性」,化学同人,(1986.2.10),p38〜39
甲第7号証:田中英明作成「実験報告書」

3.甲各号証に記載された事項
甲第1号証には、特許請求の範囲の請求項4に、
「複合金属シアン化物錯体触媒の存在下イニシエーターに炭素数3以上のモノエポキサイドを開環付加重合させ、つづいて分子末端の水酸基を不飽和基に変換し、さらに不飽和基に加水分解性基を有するヒドロシリコン化合物を反応させることを特徴とする、加水分解性シリル基末端ポリアルキレンオキシドの製造法。」と記載されており、「実施例1」には、「得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量並びに分子量分布をGPCにて分析した結果、数平均分子量は12,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.10であった。得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシド100重量部に硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート1重量部を混合し、この組成物を大気に暴露し大気中の水分により硬化させた。」(第6頁右上欄第3〜12行)と記載されている。
甲第2号証には、「新しいタイプの液状ゴム〔メチルジメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド,商品名「カネカMSポリマー」,鐘淵化学工業(株)〕」(第6頁左欄表下第2〜4行)と記載されており、「MSポリマー20A」が7,500の数平均分子量を有すること(第6頁表3「MSポリマー20A」の行)が記載されている。
甲第3号証には、「ポリプロピレンオキシド主鎖の末端にメチルジメトキシシリル官能基を有するテレケリック液状ポリマー(商品名「カネカMSポリマー(R)」,鐘淵化学工業(株))」(第32頁左欄第18〜20行)の製造法について、「2.1 液状ポリマーの製造法 図1に製造法の概略を示す。(1)分子量ジャンプ反応工程,(2)末端へのアリル基導入工程,(3)脱塩精製工程及び(4)末端へのメチルジメトキシシリル基導入工程の4つの基本工程よりなっている。主原料としてポリプロピレングリコール(PPG)が使用される。」(第32頁右欄第19〜25行)と記載されている。
甲第4号証の1〜4には、特願平4-114319号の審査過程における拒絶理由通知書及びそれに対する手続補正書、意見書及び手続補足書の内容が記載されており、甲第4号証の3には、同出願の出願人である鐘淵化学工業株式会社(本件の特許権者)が、「カネカMSポリマー20Aは分子量8500〜9000、Mw/Mn=1.7である」旨述べていることが記載されている。
甲第5号証(特願平4-114319号の審査過程における拒絶理由通知書(甲第4号証の1)中で引用された文献)には、その第1表に掲げられた「シリルエーテル基末端ポリエーテル」が「鐘淵化学工業社製、カネカMSポリマー20A」であること(第5頁表下第1行)が記載されている。
甲第6号証には、「溶液の粘度はポリマーの分子量の0.5〜1乗に比例することは前に述べたが、ポリマーメルトの粘度の分子量依存性は更に高く、3.4乗に比例する。また、分子量の限界があり、5000〜1万くらいを境にしてそれ以下では分子量の1〜2乗に比例する。」(第38頁第1〜4行)と記載されている。
甲第7号証には、「本件特許発明(特許2995308号)の効果について検証する」(「2.本実験の目的」の項)として、「本件特許公報記載の4種類のポリマーの代わりに、分子量分布(Mw/Mn)が異なる下記表1のポリマーA、B、Cを用いて実験を行った」(「4.実験(実験方法)の項)とし、その結果が表2に示されている。

4.特許異議申立の理由についての判断
(i)特許法第29条第2項違反について
本件発明1と甲第1号証の記載事項とを以下に対比する。
上記のように甲第1号証には「複合金属シアン化物錯体触媒の存在下イニシエーターに炭素数3以上のモノエポキサイドを開環付加重合させ、つづいて分子末端の水酸基を不飽和基に変換し、さらに不飽和基に加水分解性基を有するヒドロシリコン化合物を反応させることを特徴とする、加水分解性シリル基末端ポリアルキレンオキシド」が記載されており、その実施例には、上記加水分解性シリル基末端ポリアルキレンオキシドとして、数平均分子量12,000、分子量分布(Mw/Mn)1.10の硬化性重合体が示されている。
そうすると、甲第1号証に記載された重合体は、分子量分布(Mw/Mn)において本件発明1の組成物の(B)成分と重複するオキシプロピレン重合体であり、これらは「加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基を少なくとも1個有する」点でも一致するが、本件発明1の構成要件である、
(イ)「(A)重合主鎖が本質的に、


で示される繰り返し単位からなり、水酸基または加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基を少なくとも1個有するオキシプロピレン重合体であって、重量平均分子量(Mw1)と数平均分子量(Mn1)の比(Mw1/Mn1)が1.6を超えるオキシプロピレン重合体」と(B)成分とを含む硬化性組成物である点、及び
(ロ)硬化性組成物の(B)成分の「数平均分子量(Mn2)が前記(A)のオキシプロピレン重合体の数平均分子量(Mn1)より小さくない(Mn2≧Mn1)」点
について、同号証には記載されていない点でこれらの発明は相違している。
これらの相違点の内、(イ)の点について検討すると、甲第2号証には、メチルジメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド(商品名「カネカMSポリマー」)の「MSポリマー20A」が7,500の数平均分子量を有することが記載されており、甲第3号証には「カネカMSポリマー(R)」が、ポリプロピレンオキシド主鎖の末端にメチルジメトキシシリル官能基を有するポリマーであることが記載され、甲第4号証の3には、特願平4-114319号の出願人である鐘淵化学工業株式会社(本件の特許権者)が同特許出願の審査過程における意見書中で「カネカMSポリマー20AのMw/Mnは1.7である」旨述べていることが記載されているところから、甲第2号証には、本件発明1における(A)成分に相当するオキシプロピレン重合体が実質的に記載されているものと認められるが、甲第1号証及び甲第2,3号証のいずれにも、これらにそれぞれ記載された上記オキシプロピレン重合体から組成物を形成することについては記載されていない。
特許異議申立人はこの点について、甲第6号証を引用して、「これより分子量の相違する2種のポリマーを混合して粘度を調節することは自明の手段に過ぎないものと認められる。」(特許異議申立書第11頁第18〜20行)及び「重合体組成物の調製において、特性の異なる成分を配合して特性の改善をはかることは周知の手段であるところ、特に粘度に関しては分子量依存性が知られているから、上記のオキシプロピレン重合体(A)及び(B)のように分子量の異なるものを混合して粘度を調節することは当業者が容易に想到し得ることである。」(同書第12頁第10〜14行)と主張している。しかしながら、甲第6号証に記載されているのは「ポリマー粘度の分子量依存性」にとどまるものであって、同号証には、分子量分布(Mw/Mn)の異なる重合体同士を混合することにより粘度を調整し得ることまで開示されてはおらず、他の甲各号証にも、この点が公知であると認めるべき根拠は見いだせない。
また、このように、特許異議申立人が提出した甲各号証には甲第1、2号証にそれぞれ記載された上記オキシプロピレン重合体から組成物を形成すること自体が記載されておらず、本件発明1の上記(ロ)の構成、即ち、硬化性組成物の(B)成分の「数平均分子量(Mn2)が前記(A)のオキシプロピレン重合体の数平均分子量(Mn1)より小さくない(Mn2≧Mn1)」点については、もとより記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、(イ)及び(ロ)の点により、高いポリマー粘度を低粘度側に効率よく調節し得るという本件特許明細書に記載の作用効果を生ずるものと認められる。
なお、特許異議申立人が、「本件特許発明の効果について検証する。」として提出した甲第7号証実験報告書は、本件特許明細書に記載された実施例を追試したものではなく、独自に「ポリマーA,B,C」を用いて実験したものとされているが、これらのポリマーがどのように製造されたものであるのか記載されておらず、その結果について信を置き難い。
したがって、本件発明1は、甲第4,5及び7号証を参酌しても、甲第1〜3及び6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また、本件発明2についてみると、同発明は、本件発明1において更に技術的限定を付加したものであるから、上記と同様に、甲第4,5及び7号証を参酌しても、甲第1〜3及び6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(ii)特許法第36条第5項及び第6項違反について
特許異議申立人は、「本件明細書の特許請求の範囲には、本件発明の効果に対応する要件のみが記載されているものとは認められない」旨主張しているが、上記のように、特許請求の範囲に記載された発明の構成により本件特許明細書に記載の作用効果を生ずるものと認められるので、特許請求の範囲には、発明の効果に対応した構成が記載されているものというべきである。
したがって、本件発明1及び2の特許が、特許法第36条第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない出願についてされたものであるとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-10-12 
出願番号 特願平3-228102
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 534- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 中島 次一
佐野 整博
登録日 1999-10-29 
登録番号 特許第2995308号(P2995308)
権利者 鐘淵化学工業株式会社
発明の名称 硬化性組成物  
代理人 安西 篤夫  
代理人 内田 明  
代理人 萩原 亮一  

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