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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21D
管理番号 1028055
異議申立番号 異議2000-70962  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-08-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-06 
確定日 2000-11-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第2944905号「しごき加工用ポンチ」の請求項1乃至4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2944905号の請求項1乃至4に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第2944905号は、平成7年1月31日の出願であって、平成11年6月25日にその特許権の設定の登録がなされ、その後、羽鳥義一より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知されたものである。

2 本件発明
本件特許第2944905号の請求項1乃至4に係る発明(以下「本件発明1乃至4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】缶胴体を絞り-しごき成形するためのポンチであって、超硬合金を基材とするポンチの側面の最表層に、TiN,TiCN又はTiC被覆層が形成されているしごき加工用ポンチ。
【請求項2】上記被覆層の厚みが2〜7μmである請求項1に記載のしごき加工用ポンチ。
【請求項3】上記被覆層はアークイオンプレーティング法により形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のしごき加工用ポンチ。
【請求項4】上記被覆層の平均表面粗さを0.1μm未満にしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のしごき加工用ポンチ。

3 引用刊行物
(1)刊行物1
当審が通知した取消しの理由に引用した米国特許第4095449号明細書(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
a「本発明は、押し出し工具、特に一般的なブリキ缶の缶胴を押し出し成形するために使用するパンチに関する。」(第1欄第8-10行)
b「この被覆層は、腐食や浸出から固めたカーバイドのバインダーを保護するためのバリアとして役立ち、更に押し出し加工の後に缶を簡単に抜き出すためのすばらしい滑らかさを提供することがわかった。」(第2欄第7-11)
c「窒化チタンの被覆層はCVD(化学蒸着)やスパッタリングやイオンプレーティング等の好適な一般的工程を用いてパンチボディの表面に適用される。(第2欄第37-40行)
d「窒化チタンで被覆したパンチの利点は、バインダー相の腐食や浸出の排除、腐食からの表面の保護、表面に付着する含有物に関連する問題の排除、驚くべき顕著なパンチ寿命の増加、缶の引き抜き及び押し出しの間におけるパンチと缶の間の摩擦力の削減、そしてパンチボディ強度の維持を有している。」(第2欄第63行-第3欄第2行)
e「1.チタニウム、タンタル、コロンビウム、ハフニウム及びシリコンのグループから選択された材質の窒化物で冶金学的に結合された被覆膜を備えた適切な形状の工具ボディを含み、前記被覆膜は工具ボディの表面を形成するために適用され、前記被覆膜は0.00015-0.00030インチの厚みを有してなる押し出し用工具。
2.工具ボディは固めたタングステンカーバイドで製作されている請求項1記載の工具。
3.被覆層は0.00010〜0.00030インチの厚みを有している請求項2記載の工具。
5.被覆層は窒化チタンである請求項2記載の工具。」(第4欄クレーム)
上記a乃至eの記載事項、0.00010〜0.00030インチを換算すると2.54〜7.62μmとなること、及び、成形した缶をパンチから簡単に抜き出すことができるように、タングステンカーバイド製のパンチの表面に窒化チタンの被覆層を設けるのであるから、パンチの側面に被覆層が形成されていることは、技術常識から明らかであることより、刊行物1には、タングステンカーバイド製のパンチと缶との間の摩擦力を削減して、パンチから成形した缶を簡単に抜き出すことができるものであって、本件発明1乃至3に沿って記載事項を整理した次の発明が記載されていると認められる。
(ア)缶胴を成形するためのパンチであって、タングステンカーバイド製の
パンチの側面に窒化チタンの被覆層が形成されているパンチ。
(イ)上記被覆層の厚みが2.54〜7.62μmである(ア)に記載のパ
ンチ。
(ウ)上記被覆層は、イオンプレーティング法により形成されたものである
(ア)に記載のパンチ。

(2)刊行物2
同じく引用した神戸製鋼技報,1992,Vol.42,No.1,p.57-59(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
a「このような表面硬化処理のひとつとして,アークイオンプレーティング(AIP)法による硬質皮膜形成があげられる。」(第57頁左欄第15-17行)
b「AIP法は真空アーク放電を利用して皮膜の材料を蒸気化,イオン化して基板上にTiNをはじめとする各種硬質皮膜を形成するイオンプレーティング法の一種である。」(第57頁右欄第2-5行)
c「AIP法ではイオン化率が高く,緻密で密着力に優れた被膜が容易に形成できるため,耐摩耗性の硬質皮膜コーティングに適している。このため,寿命向上効果をえる目的でハイスや超硬の工具,あるいは摺動特性の向上を目的に鉄系材料の機械部品を基板としてTiN,TiCN,Cr-Nなどの硬質皮膜を形成するプロセスとして,すでに工業的に幅広くもちいられている。」(第57頁右欄第25-31行)
上記a乃至cの記載事項より、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
イオンプレーティング法の一種であるアークイオンプレーティング法により、表面にTiNの被覆層が形成された超硬工具。
(3)刊行物3
同じく引用した塑性と加工,1978,vol.19,no.204,p.82-87(以下「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
a「最近数ミクロンのTiC層を被覆して性能を高めた超硬合金製スローアウェイチップは切削工具界では既に常識となるほど鋼や超硬合金に対するTiCコーティングは型具や工具の寿命を伸ばす表面処理として我国で着実に定着してきた.」(第82頁左欄第20-24行)
b「TiCを高度に鏡面仕上すればTiC層のはくりも少ない上に摩擦特性は一層向上する.図3はTiCコーティング後の打抜パンチの表面粗さであるが,これはTiC蒸着したままの0.4μmの粗さをダイヤモンドラッピングによって,さらに表面仕上げしたものである.必要に応じてこの程度に仕上げたものが利用される.」(第83頁左欄第13行-右欄第2行)
図3より、TiCコーテイング層の表面粗さは0.1μm程度であることが明らかである。
上記a及びbの記載事項並びに図3より明らかな事項より、刊行物3には、摩擦特性を向上することができる次の発明が記載されていると認められる。
表面に形成されるTiCコーテイング層の表面粗さが0.1μm程度である超硬合金製の型具。

4 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「缶胴」が本件発明1の「缶胴体」に相当し、以下同様に、「タングステンカーバイド製のパンチ」が「超硬合金を基材とするポンチ」に相当している。
また、刊行物1に記載された発明のパンチの側面に形成された被覆層は、窒化チタンの被覆層だけであるので、窒化チタンの被覆層は、パンチの側面の最表層に形成されていると表現できるものである。
以上のとおりであるので、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、
「缶胴体を成形するためのポンチであって、超硬合金を基材とするポンチの側面の最表層に、TiN被覆層が形成されているポンチ。」
である点で一致し、
本件発明1では、ポンチが絞り-しごき成形するためのしごき加工用ポンチであるのに対し、刊行物1に記載された発明では、そのようなものではない点で相違している。
上記相違している点について検討すると、缶胴体を絞り-しごき成形するためのものであって、成形後に缶が抜き取られるしごき加工用ポンチは、例示するまでもなく本件出願前周知である。
そして、この周知なしごき加工用ポンチと刊行物1に記載された発明のポンチとは、缶胴体を成形するものであって、成形後に缶が抜き取られるポンチであることで共通するので、刊行物1に記載された発明のポンチを絞り-しごき成形するためのしごき加工用ポンチとして用いることは、容易に推考できたものである。
また、本件発明1の効果は、刊行物1に記載された発明及び上記周知な技術から予測しうる程度のものである。
(2)本件発明2について
本件発明2が引用している本件発明1の容易推考性については、上記4(1)で既に判断しているので、ここでは、本件発明2で限定された事項と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
被覆層の厚みが、本件発明2では2〜7μmであり、刊行物1に記載された発明では2.54〜7.62μmであるので、両者は、被覆層の厚みが2.54〜7μmの範囲で一致するから、本件発明2で限定された事項は、刊行物1に記載されていることになる。
以上のとおりであるので、本件発明2は、刊行物1に記載された発明及び上記周知な技術に基づいて容易に推考できたものであり、本件発明2の効果は、刊行物1に記載された発明及び上記周知な技術から予測しうる程度のものである。
(3)本件発明3について
本件発明3が引用している本件発明1の容易推考性については、上記4(1)で既に判断しているので、ここでは、本件発明3で限定された事項と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
被覆層の形成法が、本件発明3では、アークイオンプレーティング法であるの対し、刊行物1に記載された発明では、イオンプレーティング法ある点で相違している。
上記相違している点について検討すると、刊行物2には、上記3(2)のとおりのイオンプレーティング法の一種であるアークイオンプレーティング法により、表面にTiNの被覆層が形成された超硬工具の発明が記載されているので、刊行物1に記載された発明のイオンプレーティング法として、そのイオンプレーティング法の一種である刊行物2に記載されたアークイオンプレーティング法を採用することは、容易に推考できたものである。
以上のとおりであるので、本件発明3は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知な技術に基づいて容易に推考できたものであり、本件発明3の効果は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知な技術から予測しうる程度のものである。
(4)本件発明4について
本件発明4が引用している本件発明1の容易推考性については、上記4(1)で既に判断しているので、ここでは、本件発明4で限定された事項と刊行物1に記載された発明とを対比・判断する。
本件発明4では、被覆層の平均表面粗さが0.1μm未満であるの対し、刊行物1に記載された発明では、そのようなものではない点で相違している。
上記相違している点について検討すると、刊行物3には、上記3(3)のとおりの発明が記載されている。
刊行物3に記載された発明は、被覆層がTiCであり、上記4(1)で対比・判断した本件発明1のTiNの被覆層と異なっているが、TiCの被覆層及びTiNの被覆層は、例示するまでもなく本件出願前周知であるので、刊行物3に記載された発明の摩擦特性を向上するためにTiCの被覆層の表面粗さを0.1μm程度とした点を参考にして、同じく摩擦特性を向上するために本件発明4のTiNの被覆層の表面を平滑に仕上げることは、容易に推考できることであり、そして、被覆層の表面の粗さをどの程度とするかは設計的事項であって、平均表面粗さを0.1μm未満することが格別に困難であるとは認められない。
以上のとおりであるので、本件発明4は、刊行物1及び3に記載された発明並びに上記周知な技術に基づいて容易に推考できたものであり、本件発明4の効果は、刊行物1及び3に記載された発明並びに上記周知な技術から予測しうる程度のものである。

5 むすび
以上のとおり、本件請求項1乃至4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-09-29 
出願番号 特願平7-36246
審決分類 P 1 651・ 121- Z (B21D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 川端 修福島 和幸  
特許庁審判長 小池 正利
特許庁審判官 宮崎 侑久
中村 達之
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2944905号(P2944905)
権利者 東洋鋼鈑株式会社
発明の名称 しごき加工用ポンチ  
代理人 太田 明男  

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