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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1028092 |
異議申立番号 | 異議2000-72736 |
総通号数 | 16 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-12-06 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-07-14 |
確定日 | 2000-12-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2999344号「エチレン系樹脂組成物」の請求項1乃至7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2999344号の請求項1乃至7に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続の経緯 特許第2999344号は、平成5年特許願第126101号(平成5年5月27日出願)に係るものであり、平成11年11月5日に特許権の設定の登録がされ、平成12年1月17日に特許掲載公報が発行されたところ、名越千栄子より特許異議の申立てがされたものである。 [2]本件発明 本件特許に係る発明は、設定登録時の明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載されている事項により構成される次のとおりのものである。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 成分(A):メタロセン触媒を用いて製造された、メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分、密度が0.925g/cm3以下、Q値が3以下のエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体 85〜99重量%と、 成分(B):Si,Al,Mg,Caから選ばれた少なくとも1つの原子を含有する無機化合物 15〜1重量% からなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 【請求項2】成分(B)が、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、Al(OH)3、Mg(OH)2、Ca(OH)2、及び、ハイドロタルサイト類から選ばれた少なくとも1つの原子を含有する無機化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。 【請求項3】成分(B)が、ハイドロタルサイト類から選ばれた少なくとも1つの原子を含有する無機化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。 【請求項4】成分(B)が、下記一般式(II)で表わされる化合物又はその焼成物である、請求項1に記載の樹脂組成物。 一般式(II) M2+1-XAlx(OH)2(An-)x/n・mH2O (式中、M2+はMg、Ca及びZnよりなる群から選ばれた二価金属イオンを示し、そして、x及びmは下記条件を満足するものである。 0<x<0.5、 0≦m≦2) 【請求項5】成分(B)の平均粒径が10μm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。 【請求項6】請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物に対して、エチレン重合体(成分(c))をさらに1〜35重量%添加してなる樹脂組成物。 【請求項7】エチレン重合体(成分(c))が高圧法低密度ポリエチレンである、請求項6に記載の樹脂組成物。」 [3]特許異議の申立てに対する判断 1.特許異議の申立ての理由の概要 特許異議申立人名越千栄子は、甲第1号証(特開昭56-72035号公報)、甲第2号証(特開昭61-218646号公報)、甲第3号証(特開平1-200957号公報)、甲第4号証(特開昭63-39905号公報)、甲第5号証(「PPS REPORT」、第47号、第1〜12頁、1993年4月25日発行)及び甲第6号証(「STRUCTURE/PROPERTY RELATIONSHIPS IN EXXPOLTM POLYMERS」、第45〜66頁、1991年発行)を提示し、本件請求項1乃至7に係る発明は、甲第1乃至6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである旨主張する。 2.各証拠の記載事項 (1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、 (i)「1.ポリオレフィン系樹脂100重量部に、(A)炭酸カルシウム、(B)無水珪酸、珪酸塩化合物、硫酸カルシウムのうち1種もしくは2種以上(C)水酸化アルミニウムを(A):(B):(C)=10:3〜30:3〜30の割合でかつ(A)+(B)+(C)=5〜25重量部になるように加え混練成形してなる農業用被覆フィルム。」(特許請求の範囲)が記載され、併せて、 (ii)「本発明のポリオレフィン系樹脂には、高圧ポリエチレン、中低圧ポリエチレン、低圧ポリエチレン・・・等を挙げられる。」(第3頁左上欄第10〜14行)と記載されている。 (2)甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、 (i)「1.ポリオレフィン系樹脂100重量部対して、ハイドロタルサイト類0.5〜40重量部を配合し混練成形してなる保温性農業用フィルム。 2.ハイドロタルサイト類の屈折率が1.48〜1.52である特許請求の範囲第1項記載の保温性農業用フィルム。 3.ポリオレフィン系樹脂が低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体のうち1種もしくは2種以上である特許請求の範囲第1項記載の保温性農業用フィルム。」(特許請求の範囲)が記載され、併せて、 (ii)「本発明で使用するポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(d=0.910〜0.935)、高密度ポリエチレン(d=0.935〜0.970)、線状低密度ポリエチレン(d=0.910〜0.935)、・・・が挙げられる。尚、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体であり、・・・α-オレフィンとしてはブテン、ヘキセン、オクテン、デセン等が用いられる。」(第2頁左下欄第6〜17行)と記載されている。 (3)甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、 (i)「1)オレフィン系樹脂100重量部に、1〜25重量部の下記一般式M(1-x)・Alx・(OH)2・Xx/n・mH2O ただし式中Mはアルカリ土類金属およびZnをXはn価のアニオンを示す。またx及びmは下記式の条件を満足する。 0<x<0.5 0≦m≦2 で表わされるハイドロタルサイト類化合物と0.1〜5重量部のヒンダードアミン系化合物とを配合した組成物からなる基層の片面又は両面にオレフィン系樹脂からなる被覆層を設けることを特徴とする農業用積層フィルム。 2)オレフィン系樹脂がエチレン-酢酸ビニル共重合体または密度0.935g/cm3以下の低密度ポリエチレンもしくはエチレン-α-オレフィン共重合体である特許請求の範囲第1項記載の農業用積層フィルム。 3)ハイドロタルサイト類化合物の屈折率が1.47〜1.52の範囲で、平均2次粒子径が5μm以下でBET比表面積が30m2/g以下である特許請求の範囲第1項記載の農業用積層フィルム。 4)被覆層に使用するオレフィン系樹脂の密度が0.915g/cm3以上0.935g/cm3以下、メルトインデックスが0.1g/10分以上4g/10分以下であるポリエチレンもしくはエチレン-α-オレフィン共重合体またはメルトインデックス0.1g/10分以上4g/10分以下で酢酸ビニル含有量が15重量%以下であるエチレン-酢酸ビニル共重合体である特許請求の範囲第1項記載の農業用積層フィルム。」(特許請求の範囲)が記載され、併せて、 (ii)「本発明において基層に使用されるオレフィン系樹脂としては、α-オレフィンの単独重合体、α-オレフィンを主成分とする異種単層体との共重合体であり、例えば・・・エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、・・・が挙げられる。」(第3頁左上欄第11〜19行)と記載されてている。 (4)甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、 (i)「遷移金属化合物および有機アルミニウム化合物からなる触媒の存在下エチレンと炭素数4〜20のα-オレフィンを共重合させて密度が0.86〜0.935g/cm3のエチレン共重合体を製造する方法において、遷移金属化合物が一般式(Rm-A)TiR1R2R3〔式中、Rはメチル基、Aはシクロペンタジエニル基、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基、基(Rm-A)、ハロゲンまたは水素、mは0、1または2、をそれぞれ示す〕で表わされるチタン化合物であり、有機アルミニウム化合物がアルモキサンであることを特徴とするエチレン系共重合体の製造法。」(特許請求の範囲)、 (ii)「本発明に使用される炭素数4〜20のα-オレフィンとしては、例えばブテン、ヘキセン、4-メチルペンテン-1、オクテン、デセン、・・・等があり、特に炭素数6〜20のα-オレフィンが目的とする特性を有する共重合体を得る上で好ましい。」(第3頁左下欄第13〜18行)、 (iii)「本発明の方法により得られるエチレン共重合体は、密度が0.86〜0.935g/cm3であり、・・・である。そしてこのエチレン共重合体は、ポリマーの分子量分布を示すQ値(数平均分子量:Mn、重量平均分子量:MwによりQ=Mw/Mnで定義される)が1.5〜4と狭いものである。従って、本発明の方法で得られる共重合体は、低温ヒートシール性、耐熱性、引張り強度、引裂強度等が要求されるフィルムやシート等の押出し成形物に好適なものとなる。」(第3頁右下欄第9〜末行)と記載されている。 (5)甲第5号証の記載事項 甲第5号証には、 (i)「エクソンのExxpol触媒(メタロセン触媒)により重合したポリエチレン、商品名Exactは、低温でシールすることができ、透明性と光沢が良く、耐破袋強度が高いので、パッケージの性質が大きく改良される。 Exactには多くの種類があり、用途に応じて分子量、比重、メルトインデックス、エチレンとの共重合モノマー(プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン)などを自由に選ぶことができる。」(第7頁左欄図7下第1〜8行)、 (ii)「従来のチグラー触媒で製造されるLLDPEやVLDPEと比較して、メタロセン触媒で製造されるLLDPEやVLDPEは衝撃強度が高い。これは包装袋のシーラントとして使用したときに高い落下破袋強度が得られることを示している。」(第8頁右欄図13下第2〜6行)と記載されている。 (6)甲第6号証の記載事項 甲第6号証には、 (i)「EXXPOLTM」と称されるポリオレフィンは、狭いMWD(Mw/Mn=2.0)を有すること(第46頁第2段落)、狭いMWDとCD (distribution of comonomer)を有するEXXPOLTMは、高い靱性と剛性と共に低いヒートシール開始温度、低いヘキサン抽出率、低いヘイズ値を有すること(第50頁「結論」の項)が記載され、さらに、 (ii)チグラー触媒により製造されたポリオレフィンとEXXPOLTMに関し、ヒートシール開始温度、ヘキサン抽出率、ヘイズ、分子量分布等を示す記載がある(第51〜66頁)。 3.対比・判断 (1)本件請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)について 本件発明1と甲第1乃至3号証に記載の発明を対比すると、両発明は、エチレン共重合体とSi,Al,Mg,Caから選ばれた少なくとも1つの原子を含有する無機化合物からなる農業フィルム用樹脂組成物といえる点において一致し、エチレン共重合体と無機化合物の配合割合の点でも重複し、甲第2号証及び甲第3号証には、エチレン共重合体として、本件発明1で規定する0.925g/cm3以下の密度を有するエチレンと炭素数6以上のα-オレフィンとの共重合体が記載され、さらに、甲第3号証に記載のエチレン共重合体は、そのメルトフローレート(MFR)についても、本件発明1と重複するものと認められる。 一方、本件発明1では、エチレン共重合体がメタロセン触媒を用いて製造されたものであり、そのQ値が3以下であるのに対し、甲第1乃至3号証には、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレン共重合体は記載されておらず(相違点1)、エチレン共重合体のQ値が3以下であることも記載されていない(相違点2)点において、両発明は相違するものと認められる。 そこで、これらの相違点について検討する。 まず、相違点1について検討する。 甲第4号証には、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレンと炭素数6以上のα-オレフィンとの共重合体が記載され、さらに、該共重合体が低温ヒートシール性、耐熱性、引張り強度、引裂強度等が要求されるフィルムやシートに好適であることが記載されているが、該共重合体を農業フィルムに用いることについては記載も示唆もない。なお、農業フィルムにおいてとりわけ低温ヒートシール性や耐熱性が要求されるとは認められないから、上記「低温ヒートシール性、耐熱性、引張り強度、引裂強度等が要求されるフィルムやシートに好適である」旨の記載が、農業フィルムを示唆するものとは認められない。 また、甲第5号証及び甲第6号証には、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレン共重合体は、分子量分布が狭く、低いシール開始温度を有し、透明性、落下破袋強度、靱性、剛性などの性質に優れることが記載乃至示唆されるのみであり、該エチレン共重合体を農業フィルムに用いることを示唆する記載は認められない。 以上のとおりであるから、甲第1乃至3号証に記載の農業フィルム用樹脂組成物において、これらに記載のエチレン共重合体に代えて、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレン共重合体を用いることは、甲第4乃至6号証の記載からは容易に想到し得ないというべきである。 よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1が、甲第1乃至6号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)本件請求項2乃至7に係る発明について 本件請求項2乃至7に係る発明は、いずれも、本件発明1の構成を技術的に限定するものであるから、本件発明1が上記のとおりである以上、本件請求項2乃至7に係る発明についても、甲第1乃至6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 [4]まとめ 上記のとおり、特許異議申立人名越千栄子の特許異議申立理由によっては、本件請求項1乃至7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-11-10 |
出願番号 | 特願平5-126101 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤本 保 |
特許庁審判長 |
柿崎 良男 |
特許庁審判官 |
船岡 嘉彦 關 政立 |
登録日 | 1999-11-05 |
登録番号 | 特許第2999344号(P2999344) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | エチレン系樹脂組成物 |