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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02N
管理番号 1028145
異議申立番号 異議1998-71996  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-07-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-04-27 
確定日 2000-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第2669023号「超音波モータの駆動回路」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2669023号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第2669023号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成1年1月9日に出願され、平成9年7月4日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その請求項1ないし4に係る特許について特許異議申立人キャノン株式会社より特許異議の申し立てがなされ、その指定期間内である平成11年7月28日に訂正請求(及び意見書の提出)がなされた後、訂正拒絶理由が通知され、それに対して平成12年6月1日に手続補正書(及び意見書)が提出されたものである。

【2】訂正の適否についての判断
ア.訂正請求に対する補正の適否について
1.(補正の内容)
訂正請求書の訂正事項(訂正事項一ないし八)に対し、上記手続補正書による補正の内容は、
「1全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2,3及び4を削除する。
2訂正明細書中の訂正事項について
特許請求の範囲の請求項2,3及び4を削除する。
3訂正請求書の請求の原因について (以下省略)。」
とするものである。
2.(判断)
上記補正は要するに、訂正請求書により訂正しようとした特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載のうち、請求項1はそのまま残し、請求項2ないし4を削除しようとするものであって、訂正請求書の訂正事項の削除に該当せず、実質上新たな訂正事項を追加するものであり、訂正明細書の訂正事項の内容を変更するものである。
したがって、上記手続補正書による補正は訂正明細書の要旨を変更するものと認められるので、当該補正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第131条第2項の規定に違反するものであり、採用しない。
イ.訂正の適否について
1.(訂正請求書による訂正の内容)
訂正請求書による訂正の内容は以下のとおりである。
『特許請求の範囲の減縮を目的として、
(特許明細書の)特許請求の範囲の請求項1を、
「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより、被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路において、
上記交流信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力を、上記交流信号の周波数に等しく、かつ、互いに移相の異なる複数のパルス信号を1周期として周期的に分周移相して出力する分周移相手段と、
この分周移相手段の出力を上記複数のパルス信号のそれぞれに対応する複数のスイッチング素子に供給することにより増幅して最適駆動周波数の上記交流信号を生成する電力増幅手段と、
を具備しており、上記分周移相手段が生成出力する1周期毎の各パルス信号の一部について、隣接する立ち上がりと立ち下がりとの幅、もしくは立ち下がりと立ち上がりとの幅を、該幅に対応する上記分周移相手段の分周数を上記発振手段の出力の1周期分に相当する変化量にて変化させることによって変化させ、これにより上記複数のパルス信号から生成される上記交流信号の周波数を上記超音波モータの最適駆動周波数付近で変化させる
ことを特徴とする超音波モータの駆動回路。」(以下「本件訂正発明1」という。)と訂正し、同じく請求項2を、
「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより、被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路において、
上記交流信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力を分周して1つのクロック信号を生成し、さらに該クロック信号を複数のパルス信号として分周移相して出力する分周移相手段と、
この分周移相手段の出力を増幅して上記交流信号を生成する電力増幅手段と、
を具備しており、上記分周移相手段において上記1つのクロック信号を生成する際の分周比を可変にし、上記複数のパルス信号の一部のパルス信号の周期毎に一時的に該分周比を変化させることにより、上記交流信号の周波数を変化させることを特徴とする超音波モータの駆動回路。」(同、「本件訂正発明2」という。)と訂正し、同じく請求項3を、
「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより、被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路において、
上記交流信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力をカウントして分周することにより、上記交流信号の周波数を決定する分周器と、
この分周器のカウント数を複数のディジタル信号にて設定するカウント数設定手段と、
を具備しており、上記カウント数設定手段は、上記分周器に入力する複数のディジタル信号のうち、下位ビット側の複数のディジタル信号のみが上記超音波モータの温度又は上記超音波モータの駆動モニタ信号に基づいて可変である
ことを特徴とする超音波モータの駆動回路。」(同、「本件訂正発明3」という。)と訂正し、同じく請求項4を、
「上記カウント数設定手段は、可変なディジタル信号を最小値に設定した場合に、上記交流信号の周波数が超音波モータの共振周波数よりも低くなるように、かつ、該ディジタル信号を最大値に設定した場合に、該交流信号の周波数が超音波モータの共振周波数よりも高くなるように、上位ビット側の複数のディジタル信号が所定値に固定されている
ことを特徴とする、請求項3に記載の超音波モータの駆動回路。」(同、「本件訂正発明4」という。)と訂正する。
これに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、明細書第7頁第14行始めに記載の・・・(中略)・・・と訂正する。』
2.(独立特許要件についての判断)
a.引用刊行物
上記本件各訂正発明に対し、当審が訂正拒絶理由で通知した刊行物1{特開昭60-243704号公報(異議申立人キャノン株式会社の提出した甲第1号証)}には、自明の事項も含め以下のものが記載されているものと認める。
「電気-機械エネルギー変換手段(モータ)に指令パルス信号を印加することにより、被駆動体を駆動するアクチュエータ(サーボモータ、DCパルスモータ等)の駆動回路において、
上記指令パルス信号に比べ高い基準周波数の原振信号(パルス)を出力する発振手段(基準発振器11)と、
この発振手段の出力を、上記指令パルス信号の周波数に等しい、単一の(第1図(a),(b)等の1つのパルス列の)分周パルス信号を1周期として周期的に分周する分周カウンタ10と、
この分周カウンタの出力をD/A変換して最適駆動周波数(希望する速度を得る駆動周波数)の上記指令パルス信号を生成する駆動回路(5)と、
を具備しており、上記分周カウンタが生成出力する1周期毎の単一の分周パルス信号の一部(例えば、第1図(c)の1からPまでのパルス信号番号の内の3及び6のもの)について、隣接する立ち下がりと立ち上がりとの幅を、該幅に対応する上記分周カウンタの分周数を上記発振手段の出力の1周期分に相当する変化量にて変化させることによって変化させ、これにより上記指令パルス信号の周波数を上記アクチュエータの最適駆動周波数付近で変化させることを特徴とするアクチュエータの駆動回路。」(本件訂正発明1に対応)、及び、
「電気-機械エネルギー変換手段(モータ)に指令パルス信号を印加することにより、被駆動体を駆動するアクチュエータ(サーボモータ、DCパルスモータ等)の駆動回路において、
上記指令パルス信号に比べ高い基準周波数の原振信号(パルス)を出力する発振手段(基準発振器11)と、
この発振手段の出力を分周して単一の分周パルス信号を生成出力する分周カウンタ10と、
この分周カウンタの出力をD/A変換して上記指令パルス信号を生成する駆動回路(5)と、
を具備しており、上記分周カウンタにおいて上記単一の分周パルス信号を生成する際の分周比を可変にし、上記単一の分周パルス信号の一部(例えば、第1図(c)の1からPまでのパルス信号の内の3及び6のもの)のパルス信号の周期毎に一時的に該分周比を変化させることにより、上記指令パルス信号の周波数を変化させることを特徴とするアクチュエータの駆動回路。」(本件訂正発明2に対応)、及び、
「電気-機械エネルギー変換手段に指令パルス信号を印加することにより、被駆動体を駆動するアクチュエータの駆動回路において、
上記指令パルス信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力をカウントして分周することにより、上記指令パルス信号の周波数を決定する分周カウンタ10と、
この分周カウンタのカウント数を複数のディジタル信号にて設定するカウント数設定手段(RAM13、アドレスカウンタ14)と、
を具備しており、上記カウント数設定手段は、その複数のディジタル信号がRAM13上に記憶されている分周設定値に基づいて可変であることを特徴とするアクチュエータの駆動回路。」(本件訂正発明3及び4に対応)
同じく引用した刊行物2(特開昭63-262070号公報)及び3(特開昭63-268473号公報)には、
「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、発振手段の出力を該交流信号の周波数に等しく、かつ、互いに移相の異なる複数のパルス信号を1周期として周期的に分周移相して出力する分周移相手段と、この分周移相手段の出力を上記複数のパルス信号のそれぞれに対応する複数のスイッチング素子に供給することにより増幅して最適駆動周波数の上記交流信号を生成する電力増幅手段とを具備した」技術が記載されている。
また、同じく引用した刊行物4{特開昭63-154074号公報(同異議申立人の提出した甲第2号証)}及び5(特開昭63-174582号公報)には、
「入力信号と出力信号との位相差をモニタする信号や温度等に基づいて超音波モータを駆動する最適周波数を変化させる」技術が記載されている

b.本件訂正発明1について
・対比・判断
本件訂正発明1(前者)と刊行物1に記載された発明(後者)とを対比する。 まず、前者はその明細書にも記載されているように、基本的に「(超音波モータの駆動)周波数の分解能を著しく向上させることができる。そこで、以前には実現できなかった駆動回路のディジタル化が十分実用的なレベルで実現できるので、IC化により回路の規模の縮小が可能となる。」(本件特許明細書【発明の効果】参照。)という効果を奏するものであるのに対し、後者のものも「分周カウンタの分周設定値をパルス単位で可変にする様にし、平均的な分周周波数を細かく設定できるようにしたものである。」(刊行物1公報第4頁下段右欄第8-10行)から、本件訂正発明1と同じくモータの駆動周波数の分解能を向上させるものであり、また、分周カウンタ10等を用いた刊行物1の移動指令パルス発生装置1が、本件訂正発明1と同じく実用的なレベルでディジタル化されたものであることは当業者に自明のことである。さらに、前者の交流信号も後者の指令パルス信号も共に駆動周期信号であり、また、前者の分周移相手段も後者の分周カウンタ10も共に、少なくとも原振信号の周波数を最適の駆動周波数に分周するための分周手段であるということができる。
そして、該分周手段が生成出力するところの前者の1周期毎の複数のパルス信号は、それら全体をまとめて1群のパルス信号と見なすことができ、後者の1周期毎の単一の分周パルス信号も共に「1群のパルス信号」であるということができ、この分周手段が生成出力する1周期毎の1群のパルス信号の一部について、「(該パルス信号の)隣接する立ち上がりと立ち下がりとの幅、もしくは立ち下がりと立ち上がりとの幅を、該幅に対応する上記分周手段の分周数を上記発振手段の出力の1周期分に相当する変化量にて変化させることによって変化させる」手段(以下、便宜上この手段を「手段A」という。)を採ることにより、駆動周波数の分解能を向上させようとする点で両者は共通するものである。そうすると、結局、本件訂正発明1と上記刊行物1の発明とは、
「電気-機械エネルギー変換手段に駆動周期信号を印加することにより、被駆動体を駆動するモータの駆動回路において、
上記駆動周期信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力を、上記駆動周期信号の周波数に等しいパルス信号を1周期として周期的に分周して出力する分周手段と、
を具備しており、上記分周手段が生成出力する1周期毎の1群のパルス信号の一部について、「隣接する立ち上がりと立ち上がりとの幅(もしくは立ち上がりと立ち下がりとの幅)を、該幅に対応する上記分周手段の分周数を上記発振手段の出力の1周期分に相当する変化量にて変化させることによって変化させ」(「手段A」を採り)、これにより上記パルス信号から生成される上記駆動周期信号の周波数を上記モータの最適駆動周波数付近で変化させる
ことを特徴とするモータの駆動回路。」
であって、モータの駆動周波数の分解能を向上させ、駆動回路のディジタル化を実用的なレベルで実現したものである点で一致し、以下の点でのみ相違するものと認める。
・相違点1:
本件訂正発明1は、モータの駆動回路が電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、上記交流信号を生成するため、発振手段の周波数を上記最適駆動周波数に分周するための分周手段が分周移相手段であり、この分周移相手段により、発振手段の出力を上記交流信号の周波数に等しく、かつ、互いに移相の異なる複数のパルス信号を1周期として周期的に分周移相して出力し、この出力を上記複数のパルス信号のそれぞれに対応する複数のスイッチング素子に供給することにより増幅して最適駆動周波数の交流信号として生成する電力増幅手段とを具備するものであり、このように交流信号を発生するために分周移相手段から複数のパルス信号を発生すること伴い、(駆動周波数の分解能を向上する手段として)分周移相手段が生成出力する1周期毎の各パルス信号の一部について上記「手段A」を採るものである対し、刊行物1に記載のものは、モータの駆動回路は電気-機械エネルギー変換手段(モータ)に指令パルス信号を印加することにより被駆動体を駆動する数値制御工作機械の送り制御等に用いられるサーボモータ、DCパルスモータ等のアクチュエータの駆動回路であって、このように周期的な指令パルス信号を発生するために分周カウンタ10から単一の分周パルス信号を発生することに伴い、その分周カウンタ10が生成出力する1周期毎の単一の分周パルス信号の一部について上記「手段A」を採るものであり、本件訂正発明1が具備する上記の分周移相手段及び交流信号を生成する手段は記載されていない点。
そこで上記相違点1につき検討すると、モータの駆動回路として、本件訂正発明1のような「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、発振手段の出力を該交流信号の周波数に等しく、かつ、互いに移相の異なる複数のパルス信号を1周期として周期的に分周移相して出力する分周移相手段と、この分周移相手段の出力を上記複数のパルス信号のそれぞれに対応する複数のスイッチング素子に供給することにより増幅して最適駆動周波数の上記交流信号を生成する電力増幅手段とを具備した」技術は、例えば上記刊行物2及び3(これらの刊行物において、駆動波整形手段3及びシフトレジスタ2が本件訂正発明1の分周移相手段に相当する。)に示されているように出願前周知のものであり、被駆動体として刊行物1のアクチュエータも該周知技術における超音波モータも共に周期信号によって駆動されるモータである点で共通のものであるから、刊行物1に接した当業者であれば、超音波モータの駆動回路のディジタル化・IC化を図り、かつ、その駆動周波数の分解能を向上させるという課題を設定すること自体は容易であり、該課題を解決するために、上記刊行物1の駆動回路(5)として上記周知技術における超音波モータの駆動回路を適用することは容易になし得るところと認められる。
しかるところ、本件訂正発明1において、上記「手段A」が採られるパルス信号は分周移相手段が生成出力する1周期毎の各パルス信号の一部についてであるが、本件図面の第1,2,7ないし10図、及び本件特許明細書の例えば「このクロックパルスCLK1は分周器2によって第3図に示されているクロックパルスCLK2に変換される。・・(中略)・・これにより周期がプリセット値×(CLK1の周期)であるクロックパルスCLK2を出力するようになっている。上記クロックパルスCLK2はリングカウンタで構成されている1/4分周・移相器3で1/4分周される。」(本件特許公報第3頁コラム6第27-39行)、「今、温度がT1からT2に上昇したとすると・・(中略)・・そのため、クロックパルスCLK2の周期はクロックパルスCLK1の1周期分だけ長くなり、結局それを1/4分周した交流電圧V0の周波数f0はf1からf2への低い方へΔfだけ変化する。」(同、第4頁コラム7第16-23行)等の記載によれば、実際には分周器2のプリセット値を変えることによって、単一の信号であるクロックパルスCLK2の一部のパルスについてその周期を発振器1のクロックパルスPLK1の1周期分だけ変化させることに基づいて、結果として分周・移相器3が生成出力する各パルス信号の一部について上記「手段A」が採られることとなるものと解される。
そうすると、駆動周波数の分解能を向上させる手段として、本質的に分周手段がその内部で生成出力する単一のパルス信号の一部について上記「手段A」を採る点で本件訂正発明1と刊行物1のものは一致しており、刊行物1の駆動回路(5)として上記周知技術における駆動回路、即ち分周移相手段{駆動波整形手段3、シフトレジスタ2及び交流信号出力回路(刊行物2では7A,7B、刊行物3では10)により構成される。}を適用した場合には、刊行物1の分周カウンタ10により分周され上記「手段A」が採られた単一の分周パルス信号が、上記周知技術の駆動回路である駆動波整形手段3及びシフトレジスタ2に入力されることとなるものであるから、そのシフトレジスタ2が生成出力する1周期毎の各信号Q1〜Q4の一部について上記「手段A」を採ること、即ち、本件訂正発明1のような「分周移相手段が生成出力する1周期毎の各パルス信号の一部について、隣接する立ち上がりと立ち下がり(もしくは立ち下がりと立ち上がり)との幅を、該幅に対応する上記分周移相手段の分周数を上記発振手段の出力の1周期分に相当する変化量にて変化させることによって変化させる」構成は、当業者であれば当然もしくは容易に得られる構成にすぎないものというべきであり、上記の適用により奏する作用効果も、当業者が十分予測できる範囲のものである。
したがって、本件訂正発明1の上記相違点1は、当業者が適宜容易に想到し得た程度のものであり、格別なものとは認められない。
{刊行物1の駆動回路(5)に上記周知技術における分周移相手段を適用し、そのシフトレジスタ2が生成出力する1周期毎の各信号Q1〜Q4の「一部」について上記手段Aを採ることは、その分周移相手段が例えば上記周知技術のように発振器1の周波数を1/4分周するものである場合には、上記刊行物1の分周パルスの補正パターンとして、例えば第1図(c)のパターンのものにおいて、分周設定値をn+1とする(即ち、周期の異なる)パルス番号を、パルス番号4,8,・・等の「3つ」置きの間隔で特定したパターンを選択する等の手段により、当業者が設計的事項として適宜容易になし得るところと解される。
なお、特許権者は、平成12年6月1日付け特許異議意見書において、例えば「刊行物1には、1分周パルス毎にその周期を可変設定するために・・(中略)・・基準周波数f0の分周数をnからn+1に変更するだけであり、結果的に当該パルスの周期の変化は基準周波数の1周期分のみです。」(同意見書第2頁第27行-第3頁第7行)、「ここで、刊行物2に開示された超音波モータの駆動回路に対し・・(中略)・・つまり、本件訂正発明1は、1周期分のみ変化させるのではなく、1周期分ずつ、例えば16通に設定できることが、その特徴といえます。」と主張しているが、本件訂正発明1はその請求項1に「・・もしくは立ち下がりと立ち上がりとの幅を、該幅に対応する上記分周移相手段の分周数を上記発振手段の出力の1周期分に相当する変化量にて変化させることによって変化させ」と記載されているとおり、分周移相されたパルス信号の周期の変化として、基準周波数(発振手段の出力)の「1周期分に相当する変化量」で変化させるものである。これに対して、刊行物1に記載のものも、その実施例として少なくとも(特許権者が述べるとおり)分周パルスの周期の変化として基準周波数の1周期分のみが記載されており、該刊行物1に記載された「1周期分のみの変化量」も、本件訂正発明1にいう「1周期分に相当する変化量」に該当することは明らかなことである。
したがって、特許権者の当該主張は何ら本件特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、採用できない。}

c.本件訂正発明2について
・対比・判断
本件訂正発明2(前者)と上記刊行物1に記載の発明(後者)とを対比すると、前者のクロック信号も後者の分周パルス信号も共にパルス信号であり、また、前者の分周移相手段が生成出力する複数のパルス信号も後者の分周カウンタが出力する単一の分周パルス信号も共に分周手段が出力する1群のパルス信号であって、該パルス信号の周期毎に一時的に分周比を変化させることにより駆動周波数の分解能を向上させようとする点で両者は共通するものである。
そうすると、結局、両者は、
「電気-機械エネルギー変換手段に駆動周期信号を印加することにより、被駆動体を駆動するモータの駆動回路において、
上記駆動周期信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力を分周して1群のパルス信号を生成出力する分周手段と、
を具備しており、上記分周手段において上記1群のパルス信号を生成する際の分周比を可変にし、上記1群のパルス信号の一部のパルス信号の周期毎に一時的に該分周比を変化させることにより、上記駆動周期信号の周波数を変化させることを特徴とするモータの駆動回路。」
である点で一致し、以下の点(相違点2)でのみ相違するものと認める。
・相違点2:
本件訂正発明2は、モータの駆動回路が、電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、上記交流信号を生成するため、発振手段の出力を分周して生成された1つのクロック信号を複数のパルス信号として分周移相する分周移相手段と、この分周移相手段の出力を増幅して該交流信号を生成する電力増幅手段とを具備しており、上記分周移相手段が出力する複数のパルス信号の一部のパルス信号の周期毎に一時的に分周比を変化させることにより、交流信号の周波数を変化させるのに対し、刊行物1のものでは、モータの駆動回路が電気-機械エネルギー変換手段(モータ)に指令パルス信号を印加することにより被駆動体を駆動する数値制御工作機械の送り制御等に用いられるサーボモータ、DCパルスモータ等のアクチュエータの駆動回路であって、このように周期的な指令パルス信号を発生するために分周カウンタ10から単一の分周パルス信号を発生することに伴い上記分周カウンタにおいて上記単一の分周パルス信号を生成する際の分周比を可変にし、上記単一の分周パルス信号の一部(例えば、第1図(c)の1からPまでのパルス信号の内の3及び6のもの)のパルス信号の周期毎に一時的に該分周比を変化させることにより、上記指令パルス信号の周波数を変化させるものであり、本件訂正発明2が具備する上記の分周移相手段及び交流信号を生成する手段は記載されていない点。
そこで、上記相違点2につき検討するに、モータの駆動回路において、本件訂正発明2のような「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、1つのクロック信号を複数のパルス信号として分周移相して出力する分周移相手段と、この分周移相手段の出力を増幅する電力増幅手段とにより上記交流信号を生成する」技術は、例えば上記刊行物2及び3に示されているように出願前周知のものであり、被駆動体として刊行物1のアクチュエータも該周知技術における超音波モータも共に周期信号によって駆動されるモータである点で共通のものであるから、当業者であれば、上記刊行物1の駆動回路(5)として上記周知技術における超音波モータの駆動回路を適用することは容易になし得るところと認められる。そして、駆動周波数の分解能を向上させる手段として、本質的に分周手段がその内部で生成出力する単一のパルス信号の一部について該パルス信号の周期毎に一時的に分周比を変化させる手段を採る点で、本件訂正発明2と刊行物1のものは一致しており、結局、前記相違点1についての判断において述べたところと同じく、刊行物1の駆動回路(5)として上記周知技術における駆動回路(分周移相手段)を適用して本件訂正発明2の上記相違点2を想到することも、当業者であれば適宜容易になし得た程度のものであり、また、それにより格別の作用効果を奏するものとも認められない。

d.本件訂正発明3及び4について
・対比・判断
(1)まず、本件訂正発明3と上記刊行物1の発明とを対比すると、両者は、「電気-機械エネルギー変換手段に駆動周期信号を印加することにより、被駆動体を駆動するモータの駆動回路において、
上記駆動周期信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力をカウントして分周することにより、上記駆動周期信号の周波数を決定する分周器と、
この分周器のカウント数を複数のディジタル信号にて設定するカウント数設定手段と、
を具備しており、上記カウント数設定手段は、その複数ディジタル信号が可変であることを特徴とするモータの駆動回路。」
である点で一致し、以下の点(相違点3、4)でのみ相違するものと認める。
・相違点3:
本件訂正発明3は、モータの駆動回路が、電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、分周器は(発振手段の出力をカウントして分周することにより)上記交流信号の周波数を決定するのに対し、刊行物1のものでは、モータの駆動回路が電気-機械エネルギー変換手段(モータ)に指令パルス信号を印加することにより被駆動体を駆動する数値制御工作機械の送り制御等に用いられるサーボモータ、DCパルスモータ等のアクチュエータの駆動回路であって、分周器(分周カウンタ10)は上記指令パルス信号の周波数を決定する点。
・相違点4:
本件訂正発明3では、分周器のカウント数設定手段は分周器に入力する複数のディジタル信号のうち、下位ビット側の複数のディジタル信号のみが上記超音波モータの温度又は上記超音波モータの駆動モニタ信号に基づいて可変であるのに対し、刊行物1のものでは、分周器のカウント数設定手段はその複数ディジタル信号がRAM上に記憶されている分周設定値に基づいて可変である点。
そこで、まず上記相違点3について検討すると、本件訂正発明3のような「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路」自体は、例えば上記刊行物2及び3に示されているように出願前周知のものであり、また、被駆動体として刊行物1のアクチュエータも該周知の超音波モータも共にパルス信号によって駆動されるモータである点で共通のものであるから、当業者であれば、刊行物1の駆動回路(5)として上記周知の超音波モータの駆動回路を適用することは容易であり、その適用により刊行物1の分周カウンタ10は自動的に(超音波モータに印加される)交流信号の周波数を決定するものとなるから、上記本件訂正発明3の相違点3を想到することは容易になし得る程度のものである。
次に、上記相違点4につき検討するに、一般に超音波モータを駆動する場合において、その最適駆動周波数は電気-機械エネルギー変換素子(圧電体)への入力信号と出力信号との位相差や、その温度等により変化するものであり、該位相差をモニタする信号や温度等に基づいて超音波モータを駆動する最適周波数を変化させることは、例えば上記刊行物4及び5に示されているように出願前きわめて周知の技術であるから、上記周知の超音波モータの駆動回路を刊行物1の駆動回路に適用した場合に、分周手段に入力する複数のディジタル信号を超音波モータの温度又は駆動モニタ信号に基づいて可変とすることは当業者であれば適宜容易になし得ることである。なお、分周手段の複数のディジタル信号のうち、下位ビット側の複数のディジタル信号のみを可変にするようなことは、当業者が適宜容易に採用することのできる設計的事項にすぎない。
よって、刊行物1の駆動回路に前記周知の超音波モータの駆動回路を(上記周知技術を考慮しつつ)適用して上記本件訂正発明3を想到することは、当業者であれば適宜容易になし得た程度のものである。
(2)本件訂正発明4と上記刊行物4の発明とを対比すると、両者は、上記(1)で示した一致点と同じ点で一致し、同じく上記(1)で示した相違点3及び4に加え、下記の点(相違点5)で相違するものと認める。
・相違点5:
本件訂正発明4では、(分周器の)カウント数設定手段は、可変なディジタル信号を最小値に設定した場合に、上記交流信号の周波数が超音波モータの共振周波数よりも低くなるように、かつ、該ディジタル信号を最大値に設定した場合に、該交流信号の周波数が超音波モータの共振周波数よりも高くなるように、上位ビット側の複数のディジタル信号が所定値に固定されているのに対し、刊行物1のものではかかる事項は記載されていない点。
上記相違点5につき検討するに、超音波モータの駆動周波数を可変設定する場合に、その設定値幅を上記本件訂正発明4の相違点5のように設定するようなことは当業者において適宜採用することのできる設計的事項にすぎず、それによる格別の作用効果も認められない。よって、刊行物1に記載の駆動回路に前記周知の超音波モータの駆動回路を(上記周知技術を考慮しつつ)適用して上記本件訂正発明4を想到することも、当業者であれば容易になし得た程度のものである。

e.まとめ
したがって、訂正明細書の請求項1ないし4に係る各発明は、上記刊行物1に記載された発明、及び刊行物2ないし5に記載された各周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項で準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

【3】特許異議申し立てについて
ア.本件請求項1ないし4に係る発明
本件特許第2669023号の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」・・「本件発明4」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより、被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路において、
上記交流信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力を複数のパルス信号として分周移相して出力する分周移相手段と、
この分周移相手段の出力を増幅して上記交流信号を生成する電力増幅手段と、
を具備しており、上記パルス信号の少なくとも1つの、隣接する立ち上がりと立ち下がりとの幅、もしくは立ち下がりと立ち上がりとの幅を、該幅に対応する上記分周移相手段の分周数を上記発振手段の出力もしくは該出力を分周した出力の1周期分に相当する変化量にて上記パルス信号の1周期中で周期的に変化させることによって変化させ、これにより上記複数のパルス信号における周波数を変化させることを特徴とする超音波モータの駆動回路。
【請求項2】電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより、被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路において、
上記交流信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力を複数のパルス信号として分周移相して出力する分周移相手段と、
この分周移相手段の出力を増幅して上記交流信号を生成する電力増幅手段と、
を具備しており、上記分周移相手段の分周比を可変にし、一定の周期毎に一時的に該分周比を変化させることにより、上記交流信号の周波数を変化させることを特徴とする超音波モータの駆動回路。
【請求項3】電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより、被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路において、
上記交流信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力をカウントして分周する分周器と、
この分周器のカウント数を複数のディジタル信号にて設定するカウント数設定手段と、
を具備しており、上記カウント数設定手段は、上記分周器に入力する複数のディジタル信号のうち、下位ビット側の一部のディジタル信号のみが可変であることを特徴とする超音波モータの駆動回路。
【請求項4】上記カウント数設定手段は、可変なディジタル信号を最小値に設定した場合に、上記交流信号の周波数が超音波モータの共振周波数よりも低くなるように、かつ、該ディジタル信号を最大値に設定した場合に、該交流信号の周波数が超音波モータの共振周波数よりも高くなるように、上位ビット側の固定されたディジタル信号が設定されていることを特徴とする、請求項3に記載の超音波モータの駆動回路。
イ.29条2項違反について
当審が取消理由通知で示した刊行物1ないし3には、前記【2】イ.2.aに記載したとおりのものが示されている。
1.本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載の発明とを対比すると、本件発明1のパルス信号と同じく刊行物1の単一の分周パルス信号も、例えば第1図(c)のパルス列のうちの(1つの)番号3のパルス信号について着目すると、そのパルス信号の1周期中で(パルス番号3,6・・と2つ置きに)周期的に分周設定値をnからn+1に変化させるものと解される。そして、分周手段が生成出力する1周期毎の1群のパルス信号の少なくとも1つについて、「(該パルス信号の)隣接する立ち上がりと立ち下がりとの幅、もしくは立ち下がりと立ち上がりとの幅を、該幅に対応する上記分周手段の分周数を上記発振手段の出力の1周期分に相当する変化量にて上記パルス信号の1周期中で周期的に変化させることによって変化させる」手段(以下、便宜上この手段を「手段B」という。)を採ることにより、駆動周波数の分解能を向上させようとする点で両者は共通するものと認められるから、結局、両者は、
「電気-機械エネルギー変換手段に駆動周期信号を印加することにより、被駆動体を駆動するモータの駆動回路において、
上記駆動周期信号に比べ高い周波数の原振信号を出力する発振手段と、
この発振手段の出力を1群のパルス信号として分周して出力する分周手段と、
を具備しており、上記1群のパルス信号の少なくとも1つについて、「隣接する立ち上がりと立ち上がりとの幅(もしくは立ち上がりと立ち下がりとの幅)を、該幅に対応する上記分周手段の分周数を上記発振手段の出力の1周期分に相当する変化量にて上記パルス信号の1周期中で周期的に変化させることによって変化させ」(「手段B」を採り)、これにより上記1群のパルス信号における周波数を変化させることを特徴とするモータの駆動回路。」
であって、モータの駆動周波数の分解能を向上させ、駆動回路のディジタル化を実用的なレベルで実現したものである点で一致し、以下の点でのみ相違するものと認める。
・相違点1’:
本件発明1は、モータの駆動回路が、電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であり、上記交流信号を生成するため、発振手段の出力を分周するための分周手段が分周移相手段であって、この分周移相手段により、発振手段の出力を複数のパルス信号として分周移相して出力し、この出力を増幅して上記交流信号を生成する電力増幅手段とを具備するものであり、このように交流信号を発生するために分周移相手段から複数のパルス信号を発生すること伴い、(駆動周波数の分解能を向上する手段として)分周移相手段が生成出力するパルス信号の少なくとも1つについて上記「手段B」を採るのに対し、刊行物1に記載のものは、指令パルス信号を発生するモータの駆動回路は電気-機械エネルギー変換手段(モータ)に指令パルス信号を印加することにより被駆動体を駆動する数値制御工作機械の送り制御等に用いられるサーボモータ、DCパルスモータ等のアクチュエータの駆動回路であって、このように周期的な指令パルス信号を発生するために分周カウンタ10から単一の分周パルス信号を発生することに伴い、その分周カウンタ10が生成出力する単一の分周パルスの少なくとも1つについて上記「手段B」を採るものであり、本件発明1が具備する上記の分周移相手段及び交流信号を生成する手段は記載されていない点。
そこで上記相違点1’につき検討するに、モータの駆動回路において、本件発明1のような「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、発振手段の出力を複数のパルス信号として分周移相して出力する分周移相手段と、この分周移相手段の出力を増幅して上記交流信号を生成する電力増幅手段とを具備した」技術は、例えば上記刊行物2及び3に示されているように出願前周知のものであり、被駆動体として刊行物1のアクチュエータも該周知技術における超音波モータも共に周期信号によって駆動されるモータである点で共通のものであるから、当業者であれば、上記刊行物1の駆動回路(5)として上記周知技術における超音波モータの駆動回路を適用することは容易になし得るところと認められる。そして、駆動周波数の分解能を向上させる手段として、本質的に分周手段がその内部で生成出力する単一のパルス信号の一部について上記「手段B」を採る点で本件発明1と刊行物1のものは一致しており、刊行物1の駆動回路(5)として上記周知技術における駆動回路(分周移相手段)を適用した場合には、刊行物1の分周カウンタ10により分周され上記「手段B」が採られた単一の分周パルス信号が、上記周知技術の駆動回路である駆動波整形手段3及びシフトレジスタ2に入力されることとなるものであるから、そのシフトレジスタ2が生成出力する1周期毎の各信号Q1〜Q4の一部について上記「手段B」を採ること、即ち、本件発明1の上記相違点1’を想到することは、当業者であれば適宜容易になし得る程度のことであり、上記の適用により奏する作用効果も、当業者が十分予測できる範囲のものにすぎない。

2.本件発明2について
本件発明2と刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は、以下の点(相違点2’)においてのみ相違し、その余の点で一致するものと認める。(一致点は省略する。)
・相違点2’:
本件発明2は、モータの駆動回路が、電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、上記交流信号を生成するため、発振手段の出力を複数のパルス信号として分周移相する分周移相手段と、この分周移相手段の出力を増幅して該交流信号を生成する電力増幅手段とを具備しており、上記分周移相手段の分周比を可変にし、一定の周期毎に一時的に該分周比を変化させることにより、上記交流信号の周波数を変化させるのに対し、刊行物1のものでは、モータの駆動回路が電気-機械エネルギー変換手段(モータ)に指令パルス信号を印加することにより被駆動体を駆動する数値制御工作機械の送り制御等に用いられるサーボモータ、DCパルスモータ等のアクチュエータの駆動回路であって、このように周期的な指令パルス信号を発生するために分周カウンタ10から単一の分周パルス信号を発生することに伴い上記分周カウンタ10において上記単一の分周パルス信号を生成する際の分周比を可変にし、上記1つの分周パルス信号の一部(例えば、第1図(c)の1からPまでのパルス信号の内の3及び6のもの)のパルス信号の周期毎に一時的に該分周比を変化させることにより、上記指令パルス信号の周波数を変化させるものであり、本件発明2が具備する上記の分周移相手段及び交流信号を生成する手段は記載されていない点。
そこで、上記相違点2’につき検討するに、モータの駆動回路において、本件発明2のような「電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより、被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、発振手段の出力を複数のパルス信号として分周移相して出力する分周移相手段と、この分周移相手段の出力を増幅する電力増幅手段とにより上記交流信号を生成する」技術は、例えば上記刊行物2及び3に示されているように出願前周知のものであり、被駆動体として刊行物1のアクチュエータも該周知技術における超音波モータも共に周期信号によって駆動されるモータである点で共通のものであるから、当業者であれば、上記刊行物1の駆動回路(5)として上記周知技術における超音波モータの駆動回路を適用することは容易になし得るところと認められる。そして、駆動周波数の分解能を向上させる手段として、本質的に分周手段がその内部で生成出力する単一のパルス信号の一部について該パルス信号の周期毎に一時的に分周比を変化させる手段を採る点で、本件発明2と刊行物1のものは一致しており、結局、刊行物1の駆動回路(5)として上記周知技術における駆動回路(分周移相手段)を適用して本件発明2の上記相違点2’を想到することも、当業者であれば適宜容易になし得た程度のものであり、また、それにより格別の作用効果を奏するものとも認められない。
3.本件発明3及び4について
本件発明3と刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は、以下の点(相違点3’)においてのみ相違し、その余の点で一致するものと認める。
・相違点3’:
本件発明3は、モータの駆動回路が、電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路であって、分周器のカウント数設定手段は分周器に入力する複数のディジタル信号のうち、下位ビット側の一部のディジタル信号のみが可変であるのに対し、刊行物1のものでは、モータの駆動回路が電気-機械エネルギー変換手段(モータ)に指令パルス信号を印加することにより被駆動体を駆動する数値制御工作機械の送り制御等に用いられるサーボモータ、DCパルスモータ等のアクチュエータの駆動回路であって、分周器のカウント数設定手段はその複数ディジタル信号がRAM上に記憶されている分周設定値に基づいて可変である点。
上記相違点3’につき検討するに、本件発明3のような電気-機械エネルギー変換素子に交流信号を印加することにより被駆動体を駆動する超音波モータの駆動回路自体は、例えば上記刊行物2及び3に示されているように出願前周知のものであり、また、被駆動体として刊行物1のアクチュエータも該周知の超音波モータも共にパルス信号によって駆動されるモータである点で共通のものであるから、当業者であれば、刊行物1の駆動回路(5)として上記周知の超音波モータの駆動回路を適用することは容易である。また、本件発明3のように分周器に入力する複数のディジタル信号のうち、下位ビット側の一部のディジタル信号のみ可変とするようなことは、分周器の設定カウント数を可変とする場合に当業者が適宜容易に採りうる設計的事項にすぎない。
よって、上記本件発明3の相違点3’を想到することは当業者が容易になし得た程度のものである。
また、本件発明4と刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は、上記相違点3’に加え、実質的に前記【2】イ.2.dに示した本件訂正発明4と刊行物1に記載の発明との対比における相違点5と同じ点において相違するのみである。したがって、その判断についてもそれぞれ上記相違点3’及び前記相違点5についての判断と同じであるから、それらの内容をここに引用する。よって、本件発明4の上記各相違点を想到することも当業者が容易になし得た程度のものである。

【4】むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし4に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明と前記周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、該請求項1ないし4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件請求項1ないし4に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、平成6年改正法附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-10-17 
出願番号 特願平1-2625
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (H02N)
最終処分 取消  
前審関与審査官 丸山 英行  
特許庁審判長 祖父江 栄一
特許庁審判官 西川 一
岩本 正義
登録日 1997-07-04 
登録番号 特許第2669023号(P2669023)
権利者 オリンパス光学工業株式会社
発明の名称 超音波モータの駆動回路  
代理人 伊藤 進  
代理人 渡部 敏彦  

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