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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1028229
異議申立番号 異議2000-70460  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-02-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-01 
確定日 2000-11-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第2929610号「シリカ系被膜形成用塗布液の製造方法、シリカ系被膜形成用塗布液、シリカ系被膜形成方法およびシリカ系被膜」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2929610号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2929610号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成元年7月13日に出願され、平成11年5月21日にその発明についての特許の設定の登録がなされ、その特許公報が平成11年8月3日に発行されたところ、平成12年2月1日付でジェイエスアール株式会社から特許異議の申立がなされたものである。

II.申立の理由の概要
特許異議申立人ジェイエスアール株式会社(以下、「申立人」という。)は、下記の甲第1号証ないし甲第4号証を提出して、
1.本件の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に 記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものである から、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないも のであり、
2.本件明細書の発明の詳細な説明の記載はいわゆる当業者が容易に実施す ることができる程度に目的、構成及び効果が記載されておらず、また、本 件の特許請求の範囲には発明に欠くことができない事項のみが記載されて いないから、本件特許は、特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反 した特許出願に対してなされたものである、
ので、本件の請求項1ないし4に係る特許は取り消されるべきものであると主張するとともに、本件明細書の第2表に記載された実施例2は、その測定結果の内容からみて、出願当初の明細書には記載されていないものであるから、平成10年11月2日付の手続補正は構成に関わる事項を変更したものであり、明細書の要旨を変更したものであるから、特許法第40条に規定により、本件特許の出願は前記の補正を行った平成10年11月2日になされたものとみなされるべきものであると主張している。

甲第1号証:特開昭63-241076号公報
甲第2号証:特開昭64-9231号公報
甲第3号証:特開昭62-230828号公報
甲第4号証:特開昭56-38362号公報

III.当審の判断
1.本件出願日について
本件明細書の第2表に記載された「実施例2」は、溶剤として、第1表に記載された溶剤No.13の「プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGPE)」を用いたものであり、溶媒の接触角(度)は、P-SiO膜上及びTEOS-SiO膜上でそれぞれ「5」及び「6」であるとされ、最大塗布ムラ(Å)は、P-SiO膜上及びTEOS-SiO膜上で、いずれも「400」であるとされている。そして、該実施例に該当するものは、願書に最初に添付された明細書(特開平3-45510号公報参照、以下、「当初明細書」という。)に記載された「実施例9」であることは明らかである。
すなわち当初明細書には、第1表に記載された溶剤No.17の「プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGPE)」を用いた「実施例9」は、溶媒の接触角(度)は、P-SiO膜上及びTEOS-SiO膜上でそれぞれ「5」及び「6」であるとされ、最大塗布ムラ(Å)は、P-SiO膜上及びTEOS-SiO膜上で、いずれも「400」であるとされている。
よって、平成10年11月2日付の手続補正が明細書の要旨を変更したものであるとする、申立人の上記主張は採用できないものであって、前記の本件特許の出願日の認定に誤りはない。

2.36条違反について
申立人が主張する、明細書の記載が不備であるとする具体的な理由は、本件明細書に記載された「実施例9」の溶媒の接触角、最大塗布ムラ、及びゲル化日数の測定結果は、同比較例19のそれと実質的に差がない、というにある。
しかしながら、TEOS-SiO膜の最大塗布ムラ(Å)が、「実施例9」では「1000」であるのに対して、「比較例19」では「1200」であって、両者の効果は明らかに相違しており、実質的に差がないとすることはできない。
よって、本件明細書の記載が不備であるとする、申立人の上記主張は採用できない。

3.29条違反について
(1)本件発明
本件の請求項1ないし4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された以下のとおりである。
「【請求項1】一般式(I)
R´4-nSi(OR)n ・・・(I)
(式中、R´は炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基、Rは炭素数1〜3のアルキル基、nは2〜4の整数を意味する)で表わされるアルコキシシラン化合物の少なくとも2種を、水と触媒の存在下で、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル及びジエチレングリコールジブチルエーテルからなる群から選ばれる有機溶剤中で加水分解することを特徴とするシリカ系被膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項2】請求項1記載の製造方法によって得られるシリカ系被膜形成用塗布液。
【請求項3】請求項1記載のシリカ系被膜形成用塗布液を基板上に塗布し、50〜250℃で乾燥した後、窒素雰囲気下300〜600℃で加熱硬化することを特徴とするシリカ系被膜形成方法。
【請求項4】請求項3記載の被膜形成方法によって得られるシリカ系被膜。」

(2)甲号各証に記載された発明
甲第1号証:
(ア)「一般式
R´4-nSi(OR)n
(式中のR´は炭素数1〜3のアルキル基又はフエニル基、Rは炭素数1 〜3のアルキル基、nは2〜4の整数である)で表わされるアルコキシシ ラン化合物の中から選ばれた少なくとも2種を有機溶媒中に溶かし、水を 加えて触媒の不存在下に加水分解して成るシリ力系被膜形成用塗布液。」 (特許請求の範囲)
(イ)「本発明は、半導体基板、ガラス板、金属板、セラミックス板などの基 板上にシリカ系被膜を形成させるための塗布液に関するものである。」
(第1頁左下欄末行〜右下欄第3行)
(ウ)「得られる塗布液は適度の粘性を有し、1回の塗布で1μm又はそれ以 上の膜厚を与えることができる上に、クラックの発生がなく、かつ基板と の密着性に優れた均一で平坦なシリカ系被膜を形成することができる。」 (第3頁左上欄第9〜13行)
(エ)「アルコキシシラン混合物中のSi(OR)4 の量が多くなると形成さ れる被膜は厚膜とならず、また被膜にクラックが生じやすくなるため好ま しくない。一方、R´Si(OR)3 やR´2Si(OR)2が多くなると 耐熱性、耐湿性に優れた被膜を得ることができず、実用上好ましくない。
」(第3頁右上欄第1〜6行)
(オ)「この際に使用する有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアル コール、・・・のような一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレ ングリコール、・・・のような多価アルコール、エチレングリコールモノ メチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、・・・、プロ ピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピ ルエーテルのようなエーテル類、酢酸、プロピオン酸のような脂肪酸など を挙げることができるが、これらの中で一価アルコール、多価アルコール 及びエーテル類が好適である。」(第3頁右上欄下から第7行〜左下欄第 8行)
(カ)「前記一般式(1)で表わされる化合物を単独で加水分解したものを混 合して得られる溶液を、シリカ系被膜形成用塗布液として被膜を形成した 場合には、該被膜は白濁しやすい上、むらを生じるため好ましくない。」 (第3頁左下欄下から第2行〜右下欄第3行)
(キ)「また、本発明塗布液の調整の際の加水分解は、触媒の不存在下で行わ れることを特徴とし、従来慣用的に使用されている加水分解触媒を用いる ことなく、水のみによって行うことが必要である。」(第3頁右下欄第4 〜7行)
(ク)「本発明塗布液は、例えば半導体基板、・・・のような基板上に、スピ ンナー法、・・・などで塗布し、250〜500℃程度の温度で熱処理す ることにより、耐熱性、耐湿性の優れた平滑で均一なシリカ系被膜を形成 させることができる。」(第4頁左上欄第7〜13行)
と記載され、
(コ)用いられている有機溶剤が、実施例1、4では「エチレングリコールモ ノブチルエーテル」、実施例3、5では「n-ブチルアルコール」、実施 例6では「プロピレングリコールモノメチルエーテル」、実施例7では 「プロピルアルコール」、実施例8では「エチレングリコールモノメチル エーテル」であることが、そして、
(サ)実施例2には、モノメチルトリメトキシシラン136g(1モル)とテ トラメトキシシラン304g(2モル)を混合し、プロピレングリコール モノn-プロピルエーテル278gに加えかきまぜ、次に純水198g(
11モル)をゆっくり滴下させたのち、約6時間かきまぜ、その後室温で 5日間静置させて得られる溶液を塗布液(固形分濃度20重量%)として 、実施例1と同様な操作により(すなわち、塗布液をシリコンウエーハ上 に回転塗布し、450℃で30分熱処理したところ)、厚膜1.0μmの クラックやピンホールのない均一な塗膜が得られたこと、
(シ)実施例4には、シリコンウエハ上にSiO2 被膜を形成し、ホトリソグ ラフィー法により該SiO2 被膜をパターニングすることで、シリコンウ エハー上に0.7μmの段差を有する基板を作成し、この基板上に実施例 1で調製した塗布液、すなわち、エチレングリコールモノn-ブチルエー テルを用いた塗布液を塗布したところ、その塗膜は段差を完全に埋めその 表面は平坦化されていたこと、
がそれぞれ記載されている。

甲第2号証:
(ス)「アルコキシシランを水と触媒及び必要に応じて溶剤の存在下に加水分 解縮重合してシロキサン系ポリマーを製造する方法において、アルコキシ シランとして、・・・テトラアルコキシシラン、・・・トリアルコキシシ ラン及び・・・ジアルコキシシランを用いて縮重合し、次いで生成するア ルコール及び必要に応じて加えた溶剤を60℃以下で溜去することにより 三次元化することを特徴とする絶縁膜形成用シロキサン系ポリマーの製造 方法」(第2頁左上欄第5〜17行照)
(セ)「解決すべき問題点は、少なくとも500℃において安定で、且つ微細 パターン間の溝を充分に埋めることができ、サブストレートとの密着性が 良好で、平坦化を行うことが出来るクラック発生のない絶縁膜形成用シロ キサン系ポリマーの製造方法を提供するものである。」(第2頁右上欄第 10〜16行)。
(ソ)「触媒としては酸又はアルカリ触媒が使用される。酸触媒の代表的なも のは塩酸、硝酸、酢酸等である。」
(タ)「溶剤を使用する場合、溶剤としては、メタノール・・・等のアルコー ル類、メチルエチルケトン、・・・等のケトン類、酢酸メチル、・・・等 のエステル類、エチレングリコール、・・・、プロピレングリコールモノ メチルエーテル等の多価アルコール及びそのエーテル類等のいずれでもよ い。」(第3頁右下欄下から第7行〜第4頁左上欄第3行)
と記載されている。

甲第3号証:
「テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン又はアリールトリアルコキシおよびジアルキルジアルコキシシラン又はジアリールジアルコキシシランの3種のアルコキシシランを加水分解縮重合せしめたシロキサン系ポリマーから得られる半導体用絶縁膜」に関し、
(チ)「解決すべき問題点は、少なくとも500℃において安定で、かつ微細 パタン間の溝を充分に埋めることができ、サブストレートとの密着性が良 好でかつ平坦化を行うことの出来るクラック発生のない塗布膜形成用シロ キサンポリマーからなる半導体用絶縁膜を提供することにある。」(第3 頁左上欄末行〜右上欄第6行)
(ツ)「アルコキシシランの縮重合反応は、一般的には酸触媒又はアルカリ触 媒と水の存在下で行われる。酸触媒で代表的なものは塩酸、硝酸、硫酸、 酢酸等である。」(第5頁左下欄第13〜16行)
(テ)「かかる重合は回分式でも連続式でもよい。、また、溶剤を使用しない 無溶剤重合でもよく溶剤を使用した溶液重合でもよい。溶剤としてはメタ ノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、メチルエチル ケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン等の 芳香族類のいずれでもよく、これらは、そのまま希釈剤(有機溶剤)の一 部又は全部をなす。」(第6頁左上欄第1〜9行)
と載されており、
(ト)実施例1には、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン 、テトラエトキシシラン及びイソプロパノールをフラスコに入れ、0.1 N-HCl水溶液と純水の混合物を投入し、反応させて、プレボリマ一を 得、このシロキサンプレボリマーをの40%含むイソプロパノール溶液を 塗布液として、シリコーンウエハー上にスピンコートして塗膜を形成し、 N2:02=80:20の容積比のガス雰囲気下で100℃で10分加熱後 、更に450℃で30分間べ一キングし、半導体用絶縁膜を得たこと、
が記載されている。

甲第4号証:
(ナ)「ハロゲン化シラン又はアルコキシシランとカルボン酸又は水とを有機 溶媒中、触媒の存在下で反応させ、次いでこの反応混合物をイオン交換樹 脂で処理することを特徴とする高純度シリ力系被膜形成用塗布液の製造方 法。」(特許請求の範囲の第1項)
(ニ)「反応溶媒として用いる有機溶剤の例には、メチルアルコール、・・・ のようなアルコール類、アセトン、・・・のようなケトン類、酢酸メチル 、 ・・・のようなエステル類、エチレングリコール、グリセリン、・・ ・、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエ チルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコ ールのような多価アルコール及びそのエステル類などがある。」(第3頁 左上欄第3〜14行)
(ヌ)「ハロゲン化シラン又はアルコキシシランと水又はカルボン酸との反応 に用いる触媒としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、クロ ルスルホン酸等のような無機酸、・・・酸化ホウ素、五酸化リン、三酸化 ヒ素のような酸化物などをあげることができる。」(第3頁左上欄下から 第2行〜右上欄第12行)
と記載されている。

(3)対比・判断
(i)請求項1に係る発明について
本件の請求項1に係る発明は、「一般式(I)(式及びその説明に関する記載を省略する。)で表わされるアルコキシシラン化合物の少なくとも2種を、水と触媒の存在下で、有機溶剤中で加水分解するシリカ系被膜形成用塗布液の製造方法」において、有機溶剤として「エチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル及びジエチレングリコールジブチルエーテルからなる群から選ばれる」ものを用いるものであって、これらの有機溶剤を特定することにより、「パターン上での塗布ムラが低減され、シリカ系被膜による平坦化ができ、歩留まりが向上する。また得られるシリカ系被膜の平坦性が良好なために、このシリカ系膜形成用塗布液を用いてシリカ系被膜を形成したデバイス等の信頼性が向上する」という明細書記載(特許公報第11欄下から第3行〜第12欄末行参照)の作用・効果を奏するものである。そして、この点については、本件明細書に記載された実施例及び比較例の記載から明らかである。すなわち、本件明細書には、実施例及び比較例として、パターンとして段差1μmのTEG(TEST ELEMENT GROUP)を用い、表面にP-SiO膜またはTEOS-SiO膜を形成したパターン上に各塗布液を塗布して加熱硬化し、その最大塗布ムラを測定した結果、実施例1乃至10ではいずれも最大塗布ムラ(Å)が「1000」以下であるのに対し、比較例1乃至19では、それが「1200〜7000」の間にあるか、あるいは「ハジキ」が生じていることが記載されている。
これに対し、甲第1号証ないし甲第4号証のいずれにも、特定の溶剤を選択することを示唆する記載はなく、本件の請求項1に係る発明の有機溶剤を特定したことによる、「パターン上での塗布ムラが低減される」という効果については、これらの号証の記載からは当業者といえども予期し得ないものである。
すなわち、甲号各証のうち、本件請求項1に係る発明と同様に、「一般式(I)(式及びその説明に関する記載を省略する。)で表わされるアルコキシシラン化合物の少なくとも2種を、水と触媒の存在下で、有機溶剤中で加水分解するシリカ系被膜形成用塗布液の製造方法」が記載されているのは、甲第2号証及び甲第3号証であるが、上記摘記事項(タ)及び(テ)から明らかなように、これらの号証には、有機溶剤については、アルコール類、ケトン類、エステル類、多価アルコール類及び多価アルコールのエーテル類のいずれでもよいとするだけで、特定の有機溶剤が好ましいことを示唆する記載はない。また、目的・課題についても「平坦化を行うことができる」というだけで、「パターン上での塗布ムラを低減する」という点については、何ら示唆する記載もない。
また、甲第4号証には、アルコキシシラン化合物の少なくとも2種を用いる点について記載がなく、また、有機溶剤の例示(摘記事項(ニ)参照)には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等の多価アルコールのエーテル類が記載されているが、本件の請求項1に係る発明において特定する有機溶剤についての記載はない。
さらに、甲第1号証に記載された発明は、上記摘記事項(ア)、(キ)から明らかなように、触媒の不存在下で加水分解することを要件としており、触媒を用いる本件の請求項1に係る発明とは、その点で相違しており、かつ、上記摘記事項(オ)から明らかなように、有機溶剤については、「一価アルコール、多価アルコール及びエーテル類が好適である。」というだけで、本件の請求項1に係る発明における有機溶剤を特定する記載はない。申立人が指摘するように、甲第1号証の実施例2には、本件の請求項1に係る発明で特定する有機溶剤の1つである「プロピレングリコールモノプロピルエーテル」を用いることが記載されてはいるものの、他の実施例、すなわち、実施例1、4では「エチレングリコールモノブチルエーテル」が、実施例3、5では「n-ブチルアルコール」が、実施例6では「プロピレングリコールモノメチルエーテル」が、実施例7では「プロピルアルコール」が、実施例8では「エチレングリコールモノメチルエーテル」がそれぞれ用いられており、実施例2以外は、いずれも、本件の請求項1に係る発明において特定する有機溶剤が用いられてはいない。
してみれば、甲第2号証ないし4号証に記載されているように触媒を用いることが当該技術分野において周知であっても、「触媒不存在下」であることを要件としている甲第1号証記載の発明において、触媒を用いるようにすると同時に、有機溶剤について、数多くの実施例の中から実施例2に記載された「プロピレングリコールモノプロピルエーテル」を特定することが容易であるとすることはできない。
さらに、効果について検討するに、甲第1号証に記載された実施例のうち、段差のある基板上(すなわち、パターン上)に塗布した例は、実施例4だけであって、他の実施例はシリコーンウエハー上あるいはガラス基板上に直接塗布されている。そして、該実施例4で用いられている「エチレングリコールモノブチルエーテル」は、本件明細書における比較例9で用いられている有機溶剤である。
してみれば、甲第1号証に記載された発明において、有機溶剤として「プロピレングリコールモノプロピルエーテル」を選択することにより、「パターン上での塗布ムラを低減する」という効果が得られるということは、当業者といえども、甲第1号証の記載からは到底予期し得ないものである。
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る発明が、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(ii)請求項2ないし4に係る発明について
請求項2ないし4に係る発明は、請求項1を引用する形式、或いはさらにそれを引用する形式で記載されており、いずれも請求項1に記載された要件に加えて、更に別の要件を付加するものであるから、前項に述べたように、請求項1に係る発明が、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、請求項2ないし4に係る発明も、同じ理由により、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし4に係る特許は、特許異議申立の主張および提出された証拠方法によっては、取消すことはできない。 また、他に本件の請求項1ないし4に係る特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-11-09 
出願番号 特願平1-181318
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 1999-05-21 
登録番号 特許第2929610号(P2929610)
権利者 日立化成工業株式会社
発明の名称 シリカ系被膜形成用塗布液の製造方法、シリカ系被膜形成用塗布液、シリカ系被膜形成方法およびシリカ系被膜  
代理人 若林 邦彦  
代理人 岩見谷 周志  

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