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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1030216
審判番号 審判1998-7467  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-03-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-05-06 
確定日 2000-10-16 
事件の表示 平成5年特許願第237489号「無機質成形体およびその製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成7年3月14日出願公開、特開平7-69692、請求項の数 3]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 〔一〕 本願は、平成5年8月27日の出願であって、平成10年6月5日付けの手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の記載は、下記のとおりである。
「【請求項1】目開き4.75mmの篩残分が40重量%以上でありかつ分枝および/または彎曲および/または折曲させることによって嵩高くせしめた木質繊維束と硬化性無機粉体との混合物を、所定形状に成形するとともに該硬化性無機粉体を硬化させたことを特徴とする無機質成形体
【請求項2】該木質繊維束の嵩比重は0.03〜0.05g/cm3の範囲である請求項1に記載の無機質成形体
【請求項3】目開き4.75mmの篩残分が40重量%以上でありかつ分枝および/または彎曲および/または折曲させることによって嵩高くせしめた木質繊維束と硬化性無機粉体との混合物を型板上に散布してマットとし、該マットを圧締して水分存在下に硬化させた後、オートクレーブ養生することを特徴とする無機質成形体の製造方法」
以下では、上記請求項1から同3までの各請求項の構成の発明を、それぞれ、その請求項番号に対応して、本願発明1から本願発明3という。

〔二〕 上記手続補正書で補正された明細書の記載
なお、以下の摘示文中の「・・・」は、転記を省略した部分である。
(イ)【0006】
「 本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、目開き4.75mmの篩残分が40重量%以上でありかつ分枝および/または彎曲および/または折曲させることによって嵩高くせしめた木質繊維束と硬化性無機粉体との混合物を、所定形状に成形するとともに該硬化性無機粉体を硬化させた無機質成形体を提供するものであり、該無機質成形体は該木質繊維束と硬化性無機粉体との混合物を型板状に散布してマットとし、該マットを圧締して水分存在下に硬化させた後、オートクレーブ養生することによって製造される。」
(ロ)【0007】〔木質繊維束〕の一部
「このような分枝および/または彎曲および/または折曲させることにより嵩高くされた木質繊維束を製造するには水酸化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム等の薬液に木材を浸漬したり、木材を蒸気で加熱したり、あるいは上記薬液浸漬と蒸気加熱とを併用したりすることによって木材中に含まれる木質単繊維のバインダーの役割をしているリグリン、ヘミセルロース、樹脂等を完全に溶解させることなく膨潤させるにとどめた上で上記バインダーを残存させつつ解繊したものであり、上記バインダーのうち特にリグニンを略完全に除去して解繊したパルプ繊維に比して径が大である。そして該木質繊維束は目開き4.75mmの篩残分が40重量%以上である。ここに目開きはJIS Z8801-1982およびASTM E11-70により規定される標準ふるいに関するものである。
該木質繊維束は上記のサイズおよび形状により嵩高くなっているが、その嵩比重は約0.03〜0.05g/cm3の範囲にある。」
(ハ)【0007】〔木質繊維束〕の一部
「該木質繊維束を分枝および/または彎曲および/または折曲させることによって嵩高くせしめるには上記バインダーの膨潤の程度および解繊の程度を調節する。解繊は例えばグラインディングディスクにより行なわれ、解繊の程度の調節は該グラインディングディスクのディスク間隙を調節することによって行われる。」
(ニ)【0008】〔硬化性無機粉体〕の一部
「 上記木質繊維束と上記硬化性無機粉体とは混合され、該混合物は乾式製造法の場合には型板上に散布させるのであるが、該混合物中に上記木質繊維束は通常5〜25重量%程度添加される。」
(ホ)【0010】〔製造方法〕の一部
「水分添加量は通常上記混合物中に30〜45重量%含まれるようにする。圧締条件は通常圧締圧10〜20kg/cm2、温度60〜80℃、時間10〜30時間程度で行われ、加熱は通常蒸気にて行われる。圧締は二つの型板間に上記マットを挟圧することによって行われるが、該型板面には所定の形状、凹凸模様等が施されてもよい。」
(ヘ)【0011】【作用】の一部
「・・・繊維束相互はある程度の距離を介して絡み合うが、該繊維束はパルプ繊維に比して寸法が可成り大であるから剛性が高くなり糸まり状に絡み合うことはなく、このようにして絡み合った繊維束相互間に該硬化性無機粉体が抱き込まれる。上記した該繊維束の剛性はこのような繊維束相互間の距離を保持しもって嵩高さを維持するのに役立つのである。
したがって本発明の無機質成形体の製造に乾式製造法を適用した場合、木質繊維束の生産や工程管理が容易になり、硬化性無機粉体と木質繊維束との混合物は機械的攪拌等によって簡単にほぐすことが可能で、混合物を型板上に均一に散布することが容易であるし、一方散布後は上記したように該木質繊維束のある程度の距離を介しての絡み合いによって硬化性無機粉体が抱き込まれ、より一層形崩れしないマットを形成することが出来る。
そして製品においてもマトリクス中で該木質繊維束は上記のように繊維束相互がある程度の距離を介して強固に絡み合うと云う特異的な補強効果により比重の小さいしたがって軽量でしかも高強度な無機質成形体を与えるのである。また本発明の無機質成形体の製造においては・・・オートクレーブ養生中に該硬化性無機粉体の硬化反応は殆ど完全に終了する。したがって製品において該硬化性無機粉体の硬化反応が進むことは殆んどなく、該硬化反応に伴う製品の寸法変化は回避される。」
(ト) 〔実施例〕の一部
【0012】の表(7頁)、【0013】の表(8頁)、【0015】の表(10頁)をまとめると、下記のとおりである。
実施例 篩残分 嵩比重 曲げ強度 比曲げ強度
No.(重量%)(g/cm3) (kgf/cm2)(曲げ強度/比重)
1 85 0.036 80 88.9
2 80 0.038 80 86.0
3 75 0.039 75 80.6
4 70 0.040 75 78.1
5 65 0.042 70 72.9
6 60 0.043 70 72.2
7 55 0.044 65 67.0
8 50 0.045 65 67.0
9 45 0.046 65 66.3
10 40 0.048 60 60.0

比較例 篩残分 嵩比重 曲げ強度 比曲げ強度
No. (重量%)(g/cm3) (kgf/cm2) (曲げ強度/比重)
1 35 0.050 50 50.0
2 30 0.052 50 47.6
3 25 0.053 45 42.9
4 20 0.055 45 40.9
5 15 0.056 40 36.4
6 10 0.058 40 34.8
(チ)【0016】
「 上記表1を参照すると、目開き4.75mmの篩残分が40重量%以上でありかつ分枝および/または彎曲および/または折曲させられた木質繊維束を用いた実施例1〜10は形成されたマットの形崩れもなく、乾式製造法にとっては上記木質繊維束は極めて有用であることが理解される。一方、目開き4.75mmの篩残分が40重量%未満の木質繊維束を用いた比較例1〜6は木質繊維束の剛性および絡み合いが充分でないからマットの強度が劣る。したがって比較例1〜6の木質繊維束を用いた場合は乾式製造法が適用しにくい。
また上記表2を参照すると、目開き4.75mmの篩残分が40重量%未満の木質繊維束を用いた成形体11〜16は比重が1以上と大きくなり、また木質繊維束の絡み合いが不足して、比曲げ強度の比較から明らかなように、本発明の成形体に比して曲げ強度が格段に低下する。」

〔三〕 特開平3-131554号公報(以下では、本件引例という。)の記載
(イ)特許請求の範囲
「1.分枝および/または弯曲および/または折曲させることによって嵩高くせしめた木質繊維束と硬化性無機粉体との混合物を、所定形状に成形するとともに該硬化性無機粉体を硬化させたことを特徴とする無機質成形体。
2.該木質繊維束は径が0.1〜2.0mm、長さが2〜35mmの範囲である特許請求の範囲1に記載の無機質成形体。
3.該木質繊維束の嵩比重は0.03〜0.05g/cm3の範囲である特許請求の範囲1に記載の無機質成形体。
4.分枝および/または弯曲および/または折曲させることによって嵩高くせしめた木質繊維束と硬化性無機粉体との混合物を型板上に散布してマットとし、該マットを圧締して水分存在下に硬化させた後、オートクレーブ養生することを特徴とする無機質成形体の製造方法。」
(ロ)〔発明が解決しようとする課題〕の一部(1頁右下欄、末行〜2頁左上欄、4行)
「 しかしながら補強材として木片を用いた場合、木片相互の絡み合いは殆んど期待出来ず、そのために補強効果が充分でなく、そのために成形の際の圧締力を高くして製品の密度を大きくしないと充分な強度が得られない。」
(ハ)〔発明が解決しようとする課題〕の一部(2頁左上欄、11〜13行)
「 補強材として木片よりも形状的にみて絡み易いパルプ繊維を混合した無機質成形体も提供されている」。
(ニ)〔課題を解決するための手段〕の一部(2頁左下欄、13〜15行)
「 本発明は補強材として木質繊維束を用いることを特徴とするものである。そして、本発明においては該木質繊維束は木質単繊維の集束体であり、」
(ホ)〔課題を解決するための手段〕の一部(2頁左下欄、下から2行〜同右下欄、10行)
「・・・により嵩高くされた木質繊維束を製造するには苛性ソーダ、・・・等の薬液に木材を浸漬したり、木材を蒸気で加熱したり、・・・することによって木材中に含まれる木質単繊維のバインダーの役割をしているリグニン、ヘミセルロース、樹脂等を完全に溶解させることなく膨潤させるにとどめた上で上記バインダーを残存させつヽ解繊したものであり、上記バインダーのうち特にリグニンを略完全に除去して解繊したパルプ繊維に比して径が大である。そして該木質繊維束の径は約0.1〜2.0mmの範囲にあり、長さは約2〜35mmの範囲、望ましくは10〜30mmの範囲にある。」
(ヘ)〔課題を解決するための手段〕の一部(2頁右下欄、13〜17行)
「 なお木質繊維束が分枝している場合には分枝前の木質繊維束を仮定してその径が約0.1〜2.0mmの範囲にあり、また木質繊維束が弯曲および/または折曲している場合は長さは末端間距離ではなく木質繊維束の実長を指すものとする。」
(ト)〔課題を解決するための手段〕の一部(2頁右下欄、下から3行〜3頁左上欄、4行)
「 該木質繊維束は上記のサイズ及び形状により嵩高くなっているが、その嵩比重は約0.03〜0.05g/cm3の範囲にある。ここに嵩比重は繊維束は上記のように繊維束相互がある程度の距離を介して強固に絡み合うと云う特異的な補強効果により比重の小さいしたがって軽量でしかも高強度な無機質成形体を与えるのである。」
(チ) 本件引例の実施例1〜10(実施例)及び比較例1〜8のを嵩比重が大から小になるように順に列記すると下記のようになる。
ただし、本願明細書の実施例及び比較例のデータも付記した。
(実施例)欄の「引実」の記号を付した番号のものは、本件引例の実施例の値であり、「引比」の記号を付したものは本件引例の比較例の値である。また、同欄の「本比」の記号を付したものは、本願明細書の比較例の値を付記したものであり、(本願7)は、本願明細書の実施例7の値を付記したものである。
嵩比重値に「*」印を付したものは、本件引例の嵩比重値が本願発明の嵩比重(実施例)と共通していることを示す。この嵩比重の値が共通している場合については、篩残分(目開き4.75mmの篩)の欄に、本願明細書の実施例及び比較例の値を付記した(なお、この篩残分の値に**印を付記してある。本件引例には、篩残分の記載はない。)。
当審注。 本件引例の実施例及び比較例の嵩比重と本願明細書の実施例の嵩比重の値が共通している場合には、同一行に本件引例の実施例及び比較例の嵩比重と本願明細書の実施例の篩残分が記載されているが、これは、本件引例の木質繊維束が本願明細書に記載された木質繊維束(目開き4.75mmの篩)の篩残分の値を有していると、ここで認定したことを意味してはいない。
(実施例) 嵩比重 平均径 平均長さ 篩残分
(g/cm3) (mm) (mm) (重量%)
本比6 0.058 10
本比5 0.056 15
本比4 0.055 20
本比3 0.053 25
本比2 0.052 30
本比1 0.050 35
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
引比1 *0.050 0.06 20 **35
引比2 0.049 0.08 20
引実1 *0.048 0.10 20 **40
引実2 *0.046 0.50 20 **45
引比5 0.046 0.80 6
引実6 *0.045 0.80 10 **50
引比6 0.045 0.80 8
(本願7 0.044 55)
引実7 *0.043 0.80 15 **60
引実3 *0.042 1.00 20 **65
引実8 *0.042 0.80 20 **65
引実9 *0.040 0.80 25 **70
引実4 *0.039 1.50 20 **75
引実10 *0.038 0.80 30 **80
引比7 0.038 0.80 32
引実5 *0.036 2.00 20 **85
引比8 0.036 0.80 34
引比3 0.033 2.20 20
引比4 0.030 2.40 20
(リ)〔実施例〕の一部(4頁左下欄、3〜10行)
「 上記混合物に水を添加して含水率40重量%とした上で下型板上に散布して厚さ55mmのマットとし、該マット上に上型板を当接して圧力10Kg/cm2、温度70℃にて25時間圧締硬化を行なう。得られた成形体は厚さ15mmの板状体であり、該成形体はその後オートクレーブ中にて圧力15Kg/cm2、温度165℃にて7時間養生される。
このようにして成形体1〜10を得る。」
(ヌ) 本件引例の実施例1〜10及び比較例1〜8の木質繊維束の嵩比重が大きくなる順に、本件引例の5頁の第2表(無機質成形体)の比重及び曲げ強度を列記すると、下記のとおりである。
ただし、下表中の「引実」、「引比」、「本比」及び「本願」、並びに「*」及び「**」の記号について、上記(チ)と同一である。また、比重及び曲げ強度の欄(列)中の、()内に付記した値は、本件引例の木質繊維束の嵩比重と本願発明の実施例の嵩比重の値が共通な場合について、本願発明の実施例の比重及び曲げ強度の値を付記したものである。この点については、上記(チ)の当審注と同様である。
成形体 嵩比重 比重 曲げ強度 篩残分
(g/cm3)(g/cm3)(Kgf/cm2)(重量%)
本比16 0.058 1.15 40 10
本比15 0.056 1.10 40 15
本比14 0.055 1.10 45 20
本比13 0.053 1.05 45 25
本比12 0.052 1.05 50 30
本比11 0.050 1.00 50 35
引比11 0.050 1.10 80
引比12 0.049 1.05 80
引実1 *0.048 1.00(1.00) 80(60) **40
引実2 *0.046 0.98(0.98) 75(65) **45
引比15 0.046 0.97 50
引実6 *0.045 0.97(0.97) 65(65) **50
引比16 0.045 0.97 55
(本願7 0.044 0.97(0.97) (65) **55)
引実7 *0.043 0.97(0.97) 65(70) **60
引実3 *0.042 0.96(0.96) 70(70) **65
引実8 *0.042 0.97 70 **65
引実9 *0.040 0.96(0.96) 75(75) **70
引実4 *0.039 0.93(0.93) 65(75) **75
引実10 *0.038 0.96(0.93) 80(80) **80
引比17 0.038 0.96 55
引実5 *0.036 0.90(0.90) 60(80) **85
引比18 0.036 0.96 50
引比13 0.033 0.85 45
引比14 0.030 0.80 40
(ル)〔実施例〕の一部(5頁右上欄、下から9行〜同左下欄、9行)
「 上記第1表を参照すると、平均径0.1〜2.0mm、長さ10〜30mmの範囲にありかつ分枝および/または弯曲および/または折曲させられた木質繊維束を用いた実施例1〜10は混合物がほぐれ易く散布作業性が容易であるし形成されたマットの形崩れもなく、乾式製造法にとっては上記木質繊維束は極めて有用であることが理解される。一方平均径が0.1mm以下の木質繊維束を用いた比較例1および比較例2、あるいは平均長さ30mm以上の木質繊維束を用いた比較例7および8は木質繊維束の絡み合いが糸まり状になり易く、したがって散布作業性に問題を生ずる。また平均径が2.0mm以上の木質繊維束を用いた比較例3および4あるいは平均長さが10mm以下の木質繊維束を用いた比較例5および6は木質繊維束の絡み合いが充分でないからマットの強度が劣る。したがって比較例1〜8の木質繊維束を用いた場合は乾式製造法が適用しにくい。」

〔四〕 判断
(1) 引例発明の認定
引例の特許請求の範囲の請求項3の構成は、同請求項1を引用しない形式で表現すると、下記のとおりであると認められる。
「 嵩比重は0.03〜0.05g/cm3の範囲でありかつ分枝および/または弯曲および/または折曲させることによって嵩高くせしめた木質繊維束と硬化性無機粉体との混合物を、所定形状に成形するとともに該硬化性無機粉体を硬化させたことを特徴とする無機質成形体。」
以下では、上記構成の発明を本件引例発明という。
(2) 相違点の認定
本願発明1と本件引例発明とを比較すると、本願発明1では、その木質繊維束が「目開き4.75mmの篩残分が40重量%以上」(以下では、本願発明1の篩特性という。)であるとされているのに対して、本件引例発明では、その木質繊維束の篩特性ではなく、その木質繊維束が「嵩比重は0.03〜0.05g/cm3の範囲」(以下では、本件引例発明の嵩比重特性という。)であるとされている点で相違していると認められる。
そして、他に相違点はないと認められる。
(3) 相違点の検討
(イ) 本件引例の記載を検討すると、本件引例発明の嵩比重特性によって望ましい木質繊維束を規定しているのは、必要な木質繊維束のからみあいを確保することを目的としていると認められる{上記〔三〕(ロ)から同(ニ)まで及び同(ト)参照}。本願発明が木質繊維束を篩特性によって規定しているのも、同一の目的からであると認められる。
(ロ) ところで、本願発明1の木質繊維束も引例発明の木質繊維束も、薬液に木材を浸漬したり、木材を蒸気で加熱したり、又は両処理を併用したりして、木材中に含まれる木質単繊維のバインダー等を完全に溶解させることなく、膨潤させるにとどめ、バインダーを残存させ、グラインディングディスクで解繊したものであり、バインダーのうち特にリグニンを略完全に除去して解繊したパルプ繊維に比して径が大であるとされている{上記〔二〕(ロ)及び同(ハ)と上記〔三〕(ホ)とを参照}から、本願発明1と本件引例発明とで、その木質繊維束又はその原料の製造方法に格別の相違は認められない。
(ハ) また、本願発明1では、「繊維束相互はある程度の距離を介して絡み合うが、該繊維束はパルプ繊維に比して寸法が可成り大であるから剛性が高くなり糸まり状に絡み合うことはなく、このようにして絡み合った繊維束はこのような繊維束相互間の距離を保持しもって嵩高さを維持するのに役立つのである」とされている{上記〔二〕(ヘ)参照}ところ、本件引例発明では、「そして製品においてもマトリックス中で該木質繊維束は上記のように繊維束相互がある程度の距離を介して強固に絡み合うと云う特異的な補強効果により比重の小さいしたがって軽量でしかも高強度な無機質成形体を与えるのであ」り{上記〔三〕(ト)参照}、また、「平均径が0.1mm以下の木質繊維束を用いた比較例1および比較例2、あるいは平均長さ30mm以上の木質繊維束を用いた比較例7および8は木質繊維束の絡み合いが糸まり状になり易く、したがって散布作業性に問題を生ずる。また平均径が2.0mm以上の木質繊維束を用いた比較例3および4あるいは平均長さが10mm以下の木質繊維束を用いた比較例5および6は木質繊維束の絡み合いが充分でないからマットの強度が劣る」ともされている{上記〔三〕(ル)参照}から、本願発明1の篩特性によって規定される木質繊維束のからみあい構造は、本件引例発明の木質繊維束と同様であると認められる。
(ニ) また、上記〔三〕(ヌ)によれば、本願発明1及び本件引例発明の無機質成形体の曲げ強度及び比重は格別相違しておらず、したがって、その比曲げ強度も格別相違しているとは認められない。
(ホ) 以上、上記(ロ)から(ニ)までに指摘した事実によれば、一般的にみて、本願発明1の木質繊維束が本件引例発明の木質繊維束とは格別異なる木質繊維束であるとは到底認められず、したがって、本願発明1の無機質成形体は、本件引例発明の無機質成形体に比して格別優れていることもないと認められる。
なお、本願発明1の無機質成形体の比曲げ強度{上記〔二〕(ト)及び(チ)参照}に優れているとされているが、これは、あくまで、本願明細書記載の比較例に対するものにすぎず、本件引例発明の無機質成形体に対しても、比曲げ強度が優れていることを意味しているとは認められない。
(ヘ) ところで、本願発明1の篩特性の概念と本件引例発明の嵩比重特性の概念とは、その概念内容を異にしているからといって、それらの特性値を有する木質繊維束自体、したがって、ただちに、この木質繊維束を使用した無機質成形体が異なっていることにはならないと認められる。
(ト) また、技術常識上、一般的にいって、木質繊維束を篩にかけた場合には、木質繊維束の隙間にはいりこんでいるが、木質繊維束にからみつくなどしていない比較的小さな独立的な成分は、からみあっている木質繊維成分から離脱して、篩を通過し、その分だけ木質繊維束の重量は減少するが、木質繊維束のみかけの体積はあまり変化しないから、木質繊維束を篩にかけた場合に篩残分の割合が多いほど、木質繊維束中に上記の独立的な成分が少なく含有されていることになり、その結果、木質繊維の嵩比重は相対的に小さくなるという一般的関係があることは、自明であると認められる。
なお、上記の技術常識は、木質繊維束の篩残分が多いほど、木質繊維束の嵩比重が低くなっている本願明細書の記載{上記〔二〕(ト)参照}と一致している。
(チ) 以上(ヘ)及び(ト)によれば、当業者ならば、技術常識上、木質繊維束の篩特性は、木質繊維束の嵩比重と一定の対応関係にあることを、容易に推測できると認められる。
(リ) そうすると、本件引例発明によれば、木質繊維束の嵩比重が0.03〜0.05g/cm3の範囲にあることが望ましいとされているのであるから、できるだけその嵩比重になるような篩特性を決定することは、当業者ならば容易にできることであると認められる。また、この際、篩の目開きが4.75mmで、篩残分が40重量%以上である本願発明の篩特性の数値条件自体は、本件引例に記載されている本件引例発明の木質繊維束の形状を考慮して、当業者が必要に応じてできるものと認められる。
かつ、本願発明が特定の目開き値の篩を使用したことによって、本願発明が予想外の効果を奏したものとも認められない。
(ヌ) したがって、本願発明1は、本件引例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であると認められるから、特許法第29条第2項の規定によって、特許を受けることができない。
(ル) 本願発明2は、本願発明1の構成にさらに嵩比重の要件を付加したものであるが、その嵩比重は、0.03〜0.05g/cm3にあるとされているのであるから、本願発明1について述べた理由がそのままあてはまると認められる。
(ヲ) 本願発明3についても、その製造手段は、本件引例発明の無機質成形体{上記〔三〕(リ)参照}の製造手段と同一であると認められる。
(ワ) したがって、本願発明2及び本願発明3もまた、当業者が容易に発明をすることができた発明であると認められ、特許法第29条第2項の規定によって、いずれも特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-07-21 
結審通知日 2000-08-04 
審決日 2000-08-21 
出願番号 特願平5-237489
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大工原 大二  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 唐戸 光雄
能美 知康
発明の名称 無機質成形体およびその製造方法  
代理人 宇佐見 忠男  

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