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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1030641
審判番号 審判1998-11235  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-07-21 
確定日 2000-12-05 
事件の表示 平成8年特許願第259739号「腫瘍壊死因子抑制蛋白質」拒絶査定に対する審判事件[平成9年5月6日出願公開、特開平9-118631]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願は、昭和63年9月12日に出願された特願昭63-228307号(優先日:1987年9月13日)の出願を、平成8年9月30日に特許法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願としたものであって、その請求項1〜12に係る発明は、平成10年1月22日付手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項1】(a)腫瘍壊死因子(TNF)のレセプターへの結合及びTNFの細胞毒性効果を抑制することのできる;及び
(b)以下に示すアミノ酸配列
Asp-Ser-Val-Cys-Pro-Gln-GIy-Lys-Tyr-Ile-His-Pro-Gln-X-Asn-Ser(ここでXは未同定のアミノ酸残基を示す)をそのN末端にする;
という特徴を有するTNF抑制蛋白質、その機能的誘導体、あるいはその活性フラクションをコードするヌクレオチド配列からなるDNA分子。
【請求項2】ヌクレオチド配列がゲノムDNAである請求項1のDNA分子。
【請求項3】ヌクレオチド配列がcDNAである請求項1のDNA分子。
【請求項4】TNF抑制蛋白質、その機能的誘導体、あるいはその活性フラクションが、ヒトHeLa及びFSII繊維芽細胞の細胞表面レセプターへのTNF-αの結合を抑制することができる、請求項1から3のいずれかのDNA分子。
【請求項5】TNF抑制蛋白質、その機能的誘導体、あるいはその活性フラクションが、ムリンA9細胞に対するTNF-αの細胞毒性効果を抑制することができる、請求項1から3のいずれかのDNA分子。
【請求項6】請求項1から5のいずれかのDNA分子を保持し、形質転換宿主細胞中にて、該DNA分子によってコードされるTNF抑制蛋白質、その機能的誘導体、あるいはその活性フラクションを発現することのできる複製可能な発現ベクター。
【請求項7】請求項6の複製可能な発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項8】原核宿主細胞である請求項7の宿主細胞。
【請求項9】真核宿主細胞である請求項7の宿主細胞。
【請求項10】(a)、請求項7から9のいずれかの形質転換宿主細胞を適当な培養培地で培養し;次いで
(b)、TNF抑制蛋白質、その機能的誘導体、あるいはその活性フラクションを単離する;
ことを含むTNF抑制蛋白質、その機能的誘導体、あるいはその活性フラクションの製造法。
【請求項11】請求項1のDNA分子によってコードされるTNF抑制蛋白質、その機能的誘導体、あるいはその活性フラクションに対する抗体。
【請求項12】モノクローナル抗体である請求項11の抗体。」
2.これに対して、原査定の理由は、以下の理由により、明細書の記載が特許法第36条第3項又は第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないというものである。
「請求項1〜9
本願の出願当時、蛋白質をコードするDNA分子のクローニングの手法自体は周知であり、その成功例が知られていたことは認められるものの、その成否は個々の蛋白質毎に様々であったと認められる。そして、TNF抑制蛋白質についてはクローニングが容易であるとする根拠はなく、出願人が提示した参考資料1は、本願の出願後の文献であって出願当時の技術水準を示すものではないから、これをもって、TNF抑制蛋白質をコードするDNA分子のクローニングを当業者が過度の実験をすることなく行うことができたということはできない。
請求項1
段落番号16に記載されている「活性フラクション」の範囲は、前駆体、関連分子等まで含んでおり、不明瞭である。
請求項10
上記「請求項1〜9」と同様である。
・なお、上記のほか本願発明は以下のような拒絶理由を有する。
請求項1
段落番号16に記載されている「活性フラクション」の範囲は、前駆体、関連分子等まで含んでおり、これらの範囲で本願発明を当業者が容易に実施できるものということはできない。
請求項11、12
抗原が当業者が容易に実施することができない請求項1記載のDNA分子により特定されているから、本請求項に係る抗体の発明は当業者が容易に実施することができない。」
3.以下、本願明細書の記載について検討する。
(1)TNF抑制蛋白質をコードするDNA分子について
本願明細書【0001】には、本件発明は腫瘍壊死因子(TNF)のレセプターへの結合抑制能力等を有しTNFの有害な作用に対して使用するTNF抑制蛋白質等に関するものであることが記載され、この抑制蛋白質の取得材料について「本発明の抑制蛋白質はヒトの尿中に見出される。」(【0011】欄、公報第6欄33〜34行)との記載、及び「(a)TNF抑制作用は、病人と同様に健常人の尿中でも見出される。」(【0011】欄、公報第8欄4〜5行)との記載がある。
また、TNF抑制蛋白質をコードするDNA分子のクローニングについて、【0043】には、「あるいはまた、mRNAを本発明のTNF抑制蛋白質を発現する細胞から単離し、これを用いて公知の方法によりcDNAを調製することができる。」(公報第17欄7〜9行)との記載、及び「プローブとして用いるオリゴヌクレオチドを合成するために、インタクトTNF抑制蛋白質の配列分析を実施するか、あるいはそのペプチドを得そのアミノ酸配列の特徴付けを行うことができる。」(公報第17欄16行〜第18欄4行)との記載があり、【0044】には、TNF抑制蛋白質のN-末端部分の最初の16個のアミノ酸に対応するという配列が記載されている。
さらに、【0045】には、適当なペプチド断片の配列が決定された場合における対応するヌクレオチド配列の同定及びそのプローブとしての使用に関する、本願優先権主張日当時における公知技術を引用した説明がされており、また、【0046】には、TNF抑制蛋白質の断片をコードすることのできる適当なオリゴヌクレオチドが同定された場合に、これをプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことによるcDNA配列等の同定についての本願優先権主張日当時の公知技術に基く説明がされている。
しかしながら、本願明細書には、本件発明のDNA分子を実際に取得するための手段、例えば、TNF抑制蛋白質をコードするDNAを高濃度に含有するライブラリーの調製又は取得については具体的には何も記載されておらず、本件発明のDNA分子は本願の優先権主張当時には、具体的には特定されていないものである。
この点について、本願出願人は、本願のペプチド及びクローニングに関する記載、及び上記公知あるいは周知技術を参酌すれば、TNF抑制蛋白質をコードするDNA分子のクローニングについては、本願明細書には当業者が容易に実施できる程度に十分に記載されていると述べ、かかる主張の根拠として、文献 Nophar et al.,EMBO Journal,Vol.9,NO.10,pp.3269‐3278,1990を提出して、同文献には、本願明細書に記載されたと同じプローブを用い、本願明細書に記載された方法と同様にしてクローニングを行うことによって、実際にTNF抑制蛋白質をコードするDNA分子のクローニングが実現したと主張している。
そこで、この点について検討すると、本願出願人の指摘する本願明細書の上記記載は、単に本願出願当時の一般的方法を述べた程度のものであり、本願明細書においては、上記したように、「『TNF抑制蛋白質産生細胞』からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを調製する。」(公報第16欄第24〜25行)とか、「mRNAを本発明の『TNF抑制蛋白質を発現する細胞』から単離し、これを用いて公知の方法によりcDNAを調整することができる。」(公報第17欄第7〜9行)等の如く極めて漠然と記載するのみで、『TNF抑制蛋白質を発現する細胞』がどの細胞であるかは、具体的に記載されていない。
本願発明において、TNF抑制蛋白質を取得できたのは、ヒト尿からであって、ヒト尿が体全体の代謝・排泄物や分解物等様々な物質が混入するものであることを考慮すれば、ヒト尿に存在するからといって、どの細胞で産生された物質であるかは依然として不明であるばかりか、取得されたTNF抑制蛋白質がさらに大きな蛋白の分解物であるのか、複数の物質の結合体であるのかも不明である。即ち、尿中で取得され、N-末端が請求項1に記載されたアミノ酸配列に対応する5’-末端部を有し、「TNF抑制蛋白質」を正確にコードするmRNAを産生する細胞が存在するか否かすら不明といえるであろう。そうであるから、本願明細書の記載からは、「TNF抑制蛋白質」をコードするmRNAを十分な量で産生している細胞が特定できず、当業者がTNF抑制蛋白質をコードするDNA分子のクローニングを容易になし得るとはいえない。
なお、本願出願人が提示した上記文献は、本願出願の優先日から2年半も経過した後の1990年4月になって受理されたものであり、このように本願優先日から長い年月を要した後に刊行されたという事実は、本願明細書の記載にも拘わらず、TNF抑制蛋白質をコードするDNA分子の特定が如何に困難であったかということを示唆するものと言えよう。
したがって、本願明細書には、TNF抑制蛋白質をコードするDNA分子が当業者が容易に実施し得る程度に記載されているものと認めることはできない。
(2)DNA分子を含む発現べクター、該発現ベクターで形質転換された宿主細胞、並びに該形質転換宿主細胞を用いたTNF抑制蛋白質の製造法について
本願明細書には、TNF抑制蛋白質をコードするDNA分子が当業者が容易に実施し得る程度に記載されていないことは上記したとおりであり、このDNA分子を用いる発現ベクター、このベクターにより形質転換された宿主細胞等が、本願明細書に当業者が容易に実施できる程度に記載されていないことはいうまでもないことである。
(3)TNF抑制蛋白質に対する抗体について
本願明細書の【0040】には抗体の調製法について、【0041】にはTNF抑制蛋白質産生細胞のアッセイについて、及び【0055】にはモノクローナルの調製について、それぞれ記載されている。
しかしながら、これらの記載はいずれも、本願優先権主張当時に知られていた、一般的な技術について説明する記載であり、本願明細書においてはTNF抑制蛋白質に対するモノクローナル抗体等は現実には得られていない。
そして、上記したとおり、本願明細書には、TNF抑制蛋白質をコードするDNA分子が当業者が容易に実施し得る程度に記載されていないから、本願明細書にTNF抑制蛋白質に対するモノクローナル抗体についてまで当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。
4.したがって、本願明細書の記載は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていないので、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-06-08 
結審通知日 2000-06-20 
審決日 2000-07-03 
出願番号 特願平8-259739
審決分類 P 1 8・ 531- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鵜飼 健高堀 栄二  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 佐伯 裕子
藤田 節
発明の名称 腫瘍壊死因子抑制蛋白質  
代理人 浅村 肇  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 浅村 皓  

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