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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F |
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管理番号 | 1031256 |
審判番号 | 審判1997-10324 |
総通号数 | 17 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-02-07 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1997-06-26 |
確定日 | 2001-01-17 |
事件の表示 | 平成 5年特許願第196734号「人工知能における学習・推論方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 2月 7日出願公開、特開平 7- 36847]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明 本願は、平成5年7月15日に出願されたものであって、その発明の要旨は、平成9年6月26日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものにあると認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。 「【請求項1】複数の入力パラメータと出力パラメータによって表される事象の観測された事実データよって構成される多次元曲面を複数の領域に分割するステップと、 その分割された各領域のワイヤリング関数を生成する領域内空間ワイヤリング関数生成ステップと、 生成されたワイヤリング関数を知識ベースとしてとして蓄積するステップとを備えた人工知能における学習方法において、 前記領域内空間ワイヤリング関数生成ステップは、 前記分割された領域群から順次一つずつ領域選定するステップと、その選定した領域に属するデータから任意の一つのデータを対象点として選定するステップと、入力パラメータの一つおよび出力パラメータの一つをそれぞれ選定し、それらのパラメータを表す軸に平行する平面であって前記対象点を含む平面をワイヤリング対象平面として設定するステップと、前記選定されたパラメータ軸以外のパラメータ軸の軸条件の合致化処理を行い、ワイヤリング対象平面内の条件合致点を抽出するステップと、抽出したデータに対する平面回帰の処理により関数式を得るステップとを有するものであり、 前記合致化処理は、ワイヤリング対象平面の入力軸以外の入力軸から1つの軸を選ぶステップと、対象点以外のデータ(選定点という)を選定するステップと、選定点とその他の点同士の距離を入力パラメータにより求めるステップと、その他の点が、選定点に対して、対象平面の反対側にあるかどうかを判定するステップと、反対側にあると判定された点の内で、距離の最も短いものを近傍点として選定するステップと、選定点(AX1,AX2,AY)と近傍点(BX1,BX2,BY)を結んだベクトルが対象平面と交わる交点α=(αX1,k,αY)を、 αXl={BXl(k-AX2)+AX1(BX2-k)}/(BX2-AX2) αY={BY(k-AX2)+AY(BX2-k)}/(BX2-AX2) の式によって求めるステップとを有することを特徴とする学習方法。」 2.引用例 これに対して、原審における拒絶の理由に引用された、第11回 日本機械学会・自動車技術会内燃機関シンポジウム講演論文集(平成5年7月12日発行) 75「人工知能を用いた新燃焼解析法に関する研究」中谷純、長沼要、近久武美、村山正 p439-444(以下、「引用例1」という。)(尚、第11回内燃機関シンポジウムは平成5年7月14日から開催され、講演論文集はシンポジウムの初日から配布されている。)には、 「4 多次元空間解析型AIの概念と構成 前章で示されたように従来型の人工知能は本目的に適していないため、新しい人工知能の製作を行なった。実験データは複数のパラメーターにより構成される実験条件とそれに対する実験結果とを座標軸として持つ多次元の空間を構成する。これを実験空間と呼ぶことにする。通常、ある実験条件に対して一つの実験結果が定まるのが普通であるから、この実験空間における実験点の集合は、多次元空間内で曲面となり、実験結果を図形として捕えることが可能となる。この曲面を表現する手法として多次元回帰法があるが、これは現実には3次元が限界であり、それ以上の高次元の任意の曲面を表現できる数学的表現手法は存在しないのが現状である。また、統計手法である多変量解析は、現在のところ、線形な関係が対象であり、非線形な関係を対象とするまでにはいたっていない。 そこで、多次元曲面を表現するための新しい手法について考案した。これは、1変数以外の実験条件を一定とした断面により形成される曲線を求め、それを曲面を形成するワイヤーフレームとする概念であって、多次元CADともいえる手法である。この断面形状を求めるため、3次元曲面に対するサッカーボールのように多次元空間曲面を小さな平面タイル(多次元パッチ)で分割表現し、その内部では線形的に断面を求めるものとした。そして、最終的な断面形状として表現される1変数と出力との2次元上の曲面関係を関数回帰して、データベース化し、学習するのである。図6はこの概念を示したものであり、放射状の座標が空間中の任意の点に関する実験条件である。出力値はそれぞれの条件図形に対応していると考えると良い。本手法は、この放射線状の座標上で1変数づつ固定値とした際の投射影を近傍の2点から線形的に求め、順次同様な手法で変数の次数を下げていくのである。具体的な手法は以下に示す通りである。 4.1 学習方法 本方式における学習とは、与えられた実験点から実験曲面を解析し、それを関数知識のデータベースとして蓄積することである。まず、空間内から学習点に対応したパッチを選定する。その対象パッチの中の一つの実験点を仮にA(selected)点とし、この点を通る1変数に対するワイヤーフレームを形成することを考える。即ち、一つの実験条件パラメーター成分Xi平面上にパッチ内の他のデータを投影し、実験結果成分Yjの関数を求めるものとする。 これは、Xi以外のすべての変数をA点の条件に一致するように投影することである。例えば、任意の実験点BのXk(kはiと異なる)成分を点AのXk成分と一致させることを考える。このB点とXk平面について反対にあり、B点に空間的に最も近い点Cを選び、線分BCと平面の交点をαとする。このαは、B点のXk成分をA点のそれと一致させた投影点となる。パッチ内のすべての点について同様な操作を行なうと、点AのXk成分に投影した実験点の群が造成される。これで一つの実験条件をすべての点に関して合わせることができたわけであり、同様な投影を順次A点の他の成分について行なっていくと、最終的には点Aを通るXi方向への投射影がXi-Yj平面上に出来上がる。投射影が出来上がったら、次にこれらを平面上で曲線回帰して点Aを通るXi方向のワイヤーフレームが形成されることになる。以上の操作を、空間内のすべての点について行なうと、それらを通る多方向のワイヤーフレームが出来上がり学習が完了する。 学習が進み、パッチの中にある程度の数の実験点が蓄積されたり、あるいは均質と仮定できない部分がパッチの中に出てきたりしたときには、パッチをさらに細かいものに分割する。また逆に、少々の変動はあるが、基本的に均質に推移すると考えられる領域はできるだけ統合していく。このようにして、パッチの最適化を行ない、システムの実行速度を最適化させるとともに、実験空間の本質的な理解を深めていく。」(引用例1の第442頁左欄第25行目〜第443頁左欄第10行目)と記載され、図6には概念図が示されている。 これらの記載からみて引用例1には次のことが記載されているものと認められる。 「実験データは複数のパラメーターにより構成される実験条件とそれに対する実験結果とを座標軸として持つ多次元の空間を構成し、これを実験空間と呼び、この実験空間における実験点の集合は、多次元空間内で曲面となり、実験結果を図形として捕えることが可能であり、この曲面を表現する手法として、 1変数以外のの実験条件を一定とした断面により形成される曲線を求め、それを曲面を形成するワイヤーフレームとする概念であって、 この断面形状を求めるため、3次元曲面に対するサッカーボールのように多次元空間曲面を小さな平面タイル(多次元パッチ)で分割表現し、その内部では線形的に断面を求め、そして、最終的な断面形状として表現される1変数と出力との2次元上の曲面関係を関数回帰して、ワイヤーフレームを形成し、データベース化し、学習するものにおいて、 (図6はこの概念を示したものであり、放射状の座標が空間中の任意の点に関する実験条件である。出力値はそれぞれの条件図形に対応していると考えると良い。本手法は、この放射線状の座標上で1変数ずつ固定値とした際の投射影を近傍の2点から線形的に求め、順次同様な手法で変数の次数を下げていく。) 与えられた実験点から実験曲面を解析し、それを関数知識のデータベースとして蓄積することであり、 まず、空間内から学習点に対応したパッチを選定し、 その対象パッチの中の一つの実験点を仮にA(selected)点とし、この点を通る1変数に対するワイヤーフレームを形成することを考え、 即ち、一つの実験条件パラメーター成分Xi平面上にパッチ内の他のデータを投影し、実験結果成分Yjの関数を求める、 これは、Xi以外のすべての変数をA点の条件に一致するように投影することであり、 例えば、任意の実験点BのXk(kはiと異なる)成分を点AのXk成分と一致させることを考え、 このB点とXk平面について反対にあり、B点に空間的に最も近い点Cを選び、線分BCと平面の交点をαとし、 このαは、B点のXk成分をA点のそれと一致させた投影点とし、 パッチ内のすべての点について同様な操作を行い、点AのXk成分に投影した実験点の群を造成させ、 これで一つの実験条件をすべての点に関して合わせ、同様な投影を順次A点の他の成分について行い、最終的には点Aを通るXi方向への投射影をXi-Yj平面上に作成し、 投射影が出来上がったら、次にこれらを平面上で曲線回帰して点Aを通るXi方向のワイヤーフレームを形成させる、 以上の操作を、空間内のすべての点について行い、それらを通る多方向のワイヤーフレームが出来上がり学習が完了することを特徴とする学習方法。」 3.対比 そこで、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と、引用例1に記載された発明とを対比すると、 具体的な手法を、段階に分けてステップ的に表現することは単なる表現上の問題にすぎず、また、本願明細書の発明の詳細な説明の【0021】段落に、「その領域分割部12により分割された各領域のワイヤーフレームを生成する領域内空間ワイヤリング関数生成部13と、生成されたワイヤーフレームをワイヤリング関数として蓄積するワイヤリング関数データベース14とを備えている。」と記載されており、本願発明では、ワイヤーフレームもワイヤリング関数も同義であるから、引用例1の「実験データは複数のパラメーターにより構成される実験条件とそれに対する実験結果とを座標軸として持つ多次元の空間を構成し、これを実験空間と呼び、この実験空間における実験点の集合は、多次元空間内で曲面となり、実験結果を図形として捕えることが可能であり、この曲面を表現する手法として、 1変数以外のの実験条件を一定とした断面により形成される曲線を求め、それを曲面を形成するワイヤーフレームとする概念であって、 この断面形状を求めるため、3次元曲面に対するサッカーボールのように多次元空間曲面を小さな平面タイル(多次元パッチ)で分割表現し、その内部では線形的に断面を求め、そして、最終的な断面形状として表現される1変数と出力との2次元上の曲面関係を関数回帰して、ワイヤーフレームを形成し、データベース化し、学習するものにおいて、」は、本願発明の「複数の入力パラメータと出力パラメータによって表される事象の観測された事実データよって構成される多次元曲面を複数の領域に分割するステップと、 その分割された各領域のワイヤリング関数を生成する領域内空間ワイヤリング関数生成ステップと、 生成されたワイヤリング関数を知識ベースとしてとして蓄積するステップとを備えた人工知能における学習方法において、」に相当するものと認められ、 引用例1の「空間内から学習点に対応したパッチを選定する」は、本願発明の「分割された領域群から順次一つずつ領域選定するステップ」に相当するものと認められ、 引用例1の「その対象パッチの中の一つの実験点を仮にA(selected)点とし」は、それぞれ本願発明の「その選定した領域に属するデータから任意の一つのデータを対象点として選定するステップ」に相当するものと認められ、 引用例1の「この点を通る1変数に対するワイヤーフレームを形成することを考える。即ち、一つの実験条件パラメーター成分Xi平面上にパッチ内の他のデータを投影し、実験結果成分Yiの関数を求めるものとする。」は、本願発明の「入力パラメータの一つおよび出力パラメータの一つをそれぞれ選定し、それらのパラメータを表す軸に平行する平面であって前記対象点を含む平面をワイヤリング対象平面として設定するステップ」に相当するものと認められ、 引用例1の「Xi以外のすべての変数をA点の条件に一致するように投影する」は、本願発明の「選定されたパラメータ軸以外のパラメータ軸の軸条件の合致化処理を行い、ワイヤリング対象平面内の条件合致点を抽出するステップ」に相当するものと認められ、 引用例1の「投影影が出来上がったら、次にこれらを平面上で曲線回帰して点Aを通るXi方向のワイヤーフレームが形成される」は、本願発明の「抽出したデータに対する平面回帰の処理により関数式を得るステップとを有する」に相当するものと認められ、 引用例1の「実験点B」、「B点に空間的に最も近い点C」は、それぞれ本願発明の「対象点」、「近傍点」に相当するものと認められるから、 両者は 「複数の入力パラメータと出力パラメータによって表される事象の観測された事実データよって構成される多次元曲面を複数の領域に分割するステップと、 その分割された各領域のワイヤリング関数を生成する領域内空間ワイヤリング関数生成ステップと、 生成されたワイヤリング関数を知識ベースとしてとして蓄積するステップとを備えた人工知能における学習方法において、 前記領域内空間ワイヤリング関数生成ステップは、 前記分割された領域群から順次一つずつ領域選定するステップと、その選定した領域に属するデータから任意の一つのデータを対象点として選定するステップと、入力パラメータの一つおよび出力パラメータの一つをそれぞれ選定し、それらのパラメータを表す軸に平行する平面であって前記対象点を含む平面をワイヤリング対象平面として設定するステップと、前記選定されたパラメータ軸以外のパラメータ軸の軸条件の合致化処理を行い、ワイヤリング対象平面内の条件合致点を抽出するステップと、抽出したデータに対する平面回帰の処理により関数式を得るステップとを有するものであり、 前記合致化処理は、 選定点と近傍点と、選定点と近傍点を結んだベクトルが対象平面と交わる交点αを求める処理 を有することを特徴とする学習方法。」である点において一致し、次の点で相違している。 (相違点) 合致化処理が、本願発明のものは、ワイヤリング対象平面の入力軸以外の入力軸から1つの軸を選ぶステップと、対象点以外のデータ(選定点という)を選定するステップと、選定点とその他の点同士の距離を入力パラメータにより求めるステップと、その他の点が、選定点に対して、対象平面の反対側にあるかどうかを判定するステップと、反対側にあると判定された点の内で、距離の最も短いものを近傍点として選定するステップと、選定点(AX1,AX2,AY)と近傍点(BX1,BX2,BY)を結んだベクトルが対象平面と交わる交点α=(αX1,k,αY)を、 αXl={BXl(k-AX2)+AX1(BX2-k)}/(BX2-AX2) αY={BY(k-AX2)+AY(BX2-k)}/(BX2-AX2) の式によって求めるステップとを有するのに対して、 引用例1の発明は、「任意の実験点BのXk(kはiと異なる)成分を点AのXk成分と一致させることを考える。このB点とXk平面について反対にあり、B点に空間的に最も近い点Cを選び、線分BCと平面の交点をαとする。このαは、B点のXk成分をA点のそれと一致させた投影点となる。パッチ内のすべての点について同様な操作を行うと、点AのXk成分に投影した実験点の群が造成される。これで一つの実験条件をすべての点に関して合わせることができたわけであり、同様な投影を順次A点の他の成分について行っていくと、最終的には点Aを通るXi方向への投射影がXi-Yj平面上に出来上がる。」と記載されているだけで、処理がステップ的に記載されておらず、また、交点αを求める式が明記されていない点で相違する。 4.当審の判断 上記相違点を検討すると、 上記引用例1の処理を、本願発明のようにステップに分けて段階的に行うことは当業者が容易に推考することができることであり、また、選定点と近傍点とを結んだベクトルが対象平面と交わる交点αを求める式も、引用例1においてそれぞれの点の座標と、平面とを決めることにより当業者が容易に考えられるものである。したがって、本願発明は引用例1のものより当業者が容易に発明することができたものである。 そして、本願発明は、前記引用例1に記載された発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。 5.むすび 従って、本願請求項1に係る発明は、前記引用例1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2000-10-17 |
結審通知日 | 2000-10-27 |
審決日 | 2000-11-08 |
出願番号 | 特願平5-196734 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石井 茂和 |
特許庁審判長 |
小川 謙 |
特許庁審判官 |
菅原 道晴 江頭 信彦 |
発明の名称 | 人工知能における学習・推論方法 |
代理人 | 岩上 昇一 |
代理人 | 岩上 昇一 |