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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B65H
管理番号 1031400
審判番号 審判1999-35421  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-08-13 
確定日 2001-01-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第1722298号発明「遊技設備」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1722298号の特許請求の範囲1に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第1722298号は、昭和58年11月15日に出願された特願昭58-215656号の一部を新たな特許出願として昭和63年5月14日に出願されたものであって、平成4年2月3日に特公平4-5619号として出願公告され、平成4年12月24日に設定登録があったところ、平成11年8月13日に株式会社エース電研より無効審判の請求がされ、その後、被請求人より答弁書、口頭審理陳述要領書(平成12年3月8日付および平成12年11月20日付)が、請求人より弁駁書が提出され、平成12年3月9日および平成12年11月20日に口頭審理を実施して理由の整理等を行った後、審理を終結したものである。

2.本件発明の要旨
本件特許第1722298号発明(以下、「本件発明」という。)の要旨は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものにあると認める。
「[構成A]:複数の遊技台Aを横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台Aの隣接間のうちの複数の特定箇所に、紙幣aを前記遊技台列前面側から受け入れてその紙面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な紙幣投入機Bが設けられているとともに、
[構成B]:前記遊技台列の背面側に、前記紙幣投入機Bの各々から送り出される紙幣aを受け取ってその紙面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、前記遊技台列に沿って当該遊技台列背面側の特定位置まで合流搬送する挟持搬送装置Dが設けられ、
[構成C]:前記挟持搬送装置Dが、その挟持搬送路に沿って駆動回動される無端回動体1と、前記無端回動体1を前記挟持搬送路に沿って架設する一対の巻掛け輪体6aと、前記一対の巻掛け輪体6a間の位置で、かつ紙幣aの搬送方向長さよりも短い間隔で、前記挟持搬送路に沿う前記無端回動体1との協同で紙幣aを挟持する挟持輪体2とを備えて構成されている遊技設備であって、
[構成D]:前記一対の巻掛け輪体6a間の位置に、前記挟持搬送路に沿う前記無端回動体1を水平方向から弾性的に挟持する一対の輪体2,6が紙幣aの搬送方向長さよりも短い間隔で設けられ、前記輪体2が前記挟持輪体2に構成されている遊戯設備。」
なお、符号[構成A]〜[構成D]は、特許明細書の発明の詳細な説明の欄の記載に倣って分説し、付した。

3.請求人及び被請求人の主張
(1)請求人の主張
請求人株式会社エース電研は、審判請求書において無効理由として4つの主張をしていたが、そのうち、3つの主張は、平成12年11月20日の口頭審理時に取り下げられた。
したがって、請求人株式会社エース電研の主張する無効理由は、概略次のとおりである。
[無効理由]
本件発明は、本件に係る出願の出願前公知の刊行物である甲第3号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、本件特許は、無効とすべきものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特公平4-5619号公報
甲第2号証:特願昭58-215656号および本件に係る出願の
出願関係書類
甲第3号証:実公昭56-30943号公報
甲第4号証:特開昭56-95079号公報
甲第5号証:特開昭53-3399号公報
甲第6号証:実公昭58-6823号公報
甲第7号証:特開昭55-30726号公報
甲第8号証:実公昭57-39391号公報
甲第9号証:ドイツ特許第2516932号公報
甲第10号証:平成9年(行ケ)第183号判決書謄本
甲第11号証:平成10年(行ケ)第275号判決書謄本
甲第12号証:平成10年(行ケ)第276号判決書謄本
甲第13号証:平成10年(行ケ)第277号判決書謄本
甲第14号証の1:平成9年審判第21135号審決書謄本
甲第14号証の2:平成10年(行ケ)第291号判決書謄本
甲第15号証の1:平成1年審判第9113号審決書謄本
甲第15号証の2:平成5年(行ケ)第22号判決書謄本
甲第16号証:平成11年(行ウ)第224号
平成11年(行ヒ)第176号決定書謄本

(2)被請求人の主張
一方、上記進歩性に関する無効理由に対する被請求人有限会社ユア開発の反論は、概略以下のとおりである。
本件発明の「構成A+B」に関し、先行する4つの無効審判事件についての平成11年11月29日付判決において東京高等裁判所が示した、甲第4号証と甲第6号証および甲第7号証との組合せにより容易に推考し得るとする旨の判断は、尊重せざるを得ないが、本件発明は「構成A+B」に「構成C+D」を採択結合した点に技術的意義があるものであり、甲第3号証ないし甲第9号証の存在が「構成A+B+C+D」により表現される技術的思想の進歩性を否定し得るものではない。
そして、被請求人は次の乙第1〜18号証を提出している。
乙第1号証:平成8年審判第19002号審決書謄本
乙第2号証:平成9年審判第20418号審決書謄本
乙第3号証:平成9年審判第20419号審決書謄本
乙第4号証:平成9年審判第21134号審決書謄本
乙第5号証:平成9年審判第21135号審決書謄本
乙第6号証:平成10年審判第35330号審決書謄本
乙第7号証:平成10年審判第35488号審決書謄本
乙第8号証:平成10年審判第35455号審決書謄本
乙第9号証:平成4年審判第6107号の異議決定書謄本
乙第10号証:平成5年(行ケ)第22号判決書謄本
乙第11号証:平成5年審判第17553号審決書謄本
乙第12号証:実公平4-451号公報
乙第13号証の1〜4:昭和62年2月20日付「遊技通信」76〜79頁
乙第14号証:実公昭55-19589号公報
乙第14号証の2:特開昭53-116939号公報
乙第14号証の3:実開昭55-25066号公報
乙第14号証の4:特開昭56-95080号公報
乙第14号証の5:実開昭55-19650号公報
乙第14号証の6:特開昭53-55250号公報
乙第14号証の7:特開昭59-186579号公報
乙第15号証:平成11年7月30日付上告受理申立て理由書
乙第16号証:実公平4-15265号公報
乙第17号証:平成11年(行ノ)第165号審決取消請求上告受理申立て事件
の上告受理申立て理由書
乙第18号証:平成12年(行ヒ)第60号審決取消請求上告受理申立て事件 の平成12年9月8日付決定書写し

4.無効理由に対する当審の判断
(1)甲号各証の記載事項
請求人が、進歩性に関する無効理由に係る証拠として提出した、甲第3号証ないし甲第9号証には、概略以下の発明が記載されているものと認める。

・甲第3号証
甲第3号証である実公昭56-30943号公報は、パチンコホールにおける自動玉売機からの硬貨回収装置に関するものであって、下記の事項が、図面とともに記載されている。
「自動玉売機は所定の硬貨投入口と、投入された硬貨が所定の硬貨であるかどうかを判別する判別装置と、判別装置が所定の硬貨であると判別すると、その判別信号或はその後の硬貨の動きによってプール部から所定数の打球を機体表面の受皿に放出する交付装置と、打球を放出させるのに関与した硬貨を貯溜して置く貯溜部とからなる自動販売機である。従ってホールでは、閉店するとパチンコ機列の所々に配置されている自動玉売機の硬貨貯溜部を開き、なかに溜っている硬貨を回収しなければならないが、自動玉売機の配置数が増す程、その回収作業に手間どる。
本考案は回収作業を容易化するために、パチンコ機列に沿って裏側に集合路を設け、そのパチンコ機列内に配置されている自動玉売機に投入され、打球を交付した硬貨は玉売機から集合路に導出し、集合路によって回収する様にしたのである。」(1頁2欄5〜21行)
「図面に付き説明すると、1はパチンコ機の列で、その列内には数台、例えば4台置きに自動玉売機2が配置されている。上記自動玉売機2は、夫々硬貨の投入口3と、放出される所定数の打球を受入れる交付皿4を機体の表面に有すると共に、裏側には投入口3に投入され、交付皿4に所定数の打球を放出させた硬貨を転動させて導出する導出樋5を有し、各導出樋5の下流側先端はパチンコ機列1に沿い、パチンコ機の裏側に傾斜させて設けた集合路6に略々直角状に接続されている。
上記集合路6も硬貨を倒さないで下流側に転動させるものであって、」
(1頁2欄22〜33行)
「そして、パチンコ機列の端部を囲う枠7内には硬貨の回収タンク8を設けて集合路6の下流端を接続し、集合路内を転動する硬貨を回収タンク8に集め、ホール閉店後など、必要に応じ解錠して枠7に設けてある扉9を開き、回収タンク8に集められている硬貨を回収する。」(2頁3欄6〜11行)
「かくして本考案によればパチンコ機列内に所々配置されているどの自動玉売機にでも投入された硬貨は、所定数の打球を客に交付した後、夫々導出樋5で導出されて詰ることなく円滑に集合路6に落下し、集合路上を転動して回収タンクに集められ、容易に回収できるのである。」(2頁4欄9〜14行)

・甲第4号証
甲第4号証である特開昭56-95079号公報は、パチンコ機の管理制御装置に関するものであって、下記の事項が図面とともに記載されている。
「第1図及び第2図において、1は1台のパチンコ機を示し、複数台が一列に連設されていわゆるパチンコ機列を形成し、このパチンコ機列が多数遊技場内に配設されている。」(2頁上右欄3〜6行)、
「賞ボールはパチンコ機1の例えば左側に隣接された賞ボール貸機22によって遊技者に貸与される。」(2頁下右欄10〜12行)、
「賞ボール貸機22は硬貨選別機47を有し、硬貨投入口48に投入された硬貨が正規の硬貨のとき取込樋49を通じて硬貨搬送装置50に取込む。これに対して正規な硬貨ではないときは硬貨返却口51に返却する。取込樋49には通過検出器構成の硬貨検出器52が設けられ、その検出出力によって制御装置20を介して賞ボール排出装置37のパルスモータ38に投入硬貨の金額に相当する個数(例えば1個)のパルスを与えることにより、供給皿14に1個の賞ボールを供給する。硬貨搬送装置50はパチンコ機列の背面にその配列に沿って延長し、モータ55によって駆動されるベルトコンベア56を有し、各パチンコ機1ごとに設けられた賞ボール貸機22に投入された正規の硬貨をキャッシュボックス57に集めるようになされている。」(3頁下左欄3〜19行)、
「賞ボール貸機22として硬貨を使用する場合について述べたが、これに代え又はこれと共に紙幣を使用し得るようにしても良い。」(5頁上右欄17〜20行)
上記記載事項および図面の記載を参酌すれば、甲第4号証には、複数のパチンコ機を横方向に並設して構成されるパチンコ機列の2列が背中合わせに配設され、このパチンコ機列の各々に、その前面側の硬貨投入口から硬貨を上下方向に沿う姿勢で受け入れて識別する複数の賞ボール貸機が、パチンコ機列に沿う方向に設けられており、この賞ボール貸機が識別した貨幣をパチンコ機列背面側に送り出し、送り出された貨幣を当該パチンコ機列に沿って特定位置であるキャッシュボックスまで同一方向に合流搬送するための、水平な載置面を有するベルトコンベアによる搬送装置が開示されているものと認める。
そして、甲第4号証の実施例に示された硬貨投入口から硬貨搬送装置に至る取込樋の形状、硬貨選別機から硬貨返却口に至る樋の形状から見て、当該樋は硬貨の転動と落下を利用して搬送するものであって、そのままの形状では紙幣に適用することが困難なものと認められるが、甲第4号証には、前記摘記のとおり、硬貨に代えて紙幣を使用できることが明示されており、硬貨も紙幣もともに扁平な形態であって、受け入れた際に識別を必要とする通貨である点で共通するものであるから、紙幣を使用する場合に縦長の硬貨投入口の大きさを紙幣に適合させ、紙面が上下方向に沿う姿勢によりこれを受け入れて、これを送り出すように変更することは、当業者にとって設計的事項にすぎないと認められる。しかも、本件発明と同様の遊戯設備に関する甲第5号証(詳細は後述)が、「パチンコ島1において、パチンコ台の相互間に自動玉貸機が配置され、自動玉貸機は、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で前面側から受け入れて検定」するものであり、このような公知技術をも勘案すれば、紙幣がその紙面を上下方向に沿う姿勢で受け入れられて識別されることは、当業者にとって自明なことといえる。また、甲第4号証の搬送装置が、パチンコ機列前面側から受け入れられた貨幣を、パチンコ機の背面側において特定位置まで自動搬送することを目的とするものであるから、硬貨の場合と同様に、紙幣をパチンコ機背面側に送り出して搬送することも当業者に自明なものと理解され、その場合に、ベルトコンベアを含む搬送装置までの取込樋等の形状を適宜変更することも、当業者にとって容易な設計的事項であると認められる。
したがって、甲第4号証には、硬貨に代えて紙幣を使用する場合に「複数の賞ボール貸機が、紙幣投入口から紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れて、これをパチンコ機列背面側に送り出す」ことも開示されているものと認められる。

・甲第5号証
甲第5号証の刊行物である特開昭53-3399号公報は、自動交換装置に関するものであって、下記の事項が、図面とともに記載されている。
「第1図〜第4図に示すようにパチンコ島1においてパチンコ台21,22……の相互間に自動玉貸機31,32……が配置される。各自動玉貸機31,32……はそれぞれ紙幣用自動玉貸機における鑑別機を除いた部分と硬貨用自動玉貸機とを組合せたものであり、」(2頁上左欄10〜15行)
「又各自動玉貸機31,32……には紙幣投入口111……から投入された紙幣を取込む取込み用ローラ251、261、……、この取込み用ローラ251、261……、で取込んだ紙幣を検定する検定部271……、取込み用ローラ251、261……で取込んだ紙幣をその正偽に応じて金庫241……又は紙幣投入口111……に送出する札戻し機構部281……、」(第2頁上右欄7〜14行)
「第2図は同実施例の平面図、第3図は同実施例における1台の自動玉貸機を示す正面図、第4図は上記実施例の一部を示すブロック図、」(3頁上右欄下から2行〜下左欄1行)
また、第2図には、横方向に並設されたパチンコ台列とその間に設けられた自動玉貸機が、第3図には、自動玉貸機、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れる紙幣投入口及び自動玉貸機の下部に配置された金庫が、第4図には、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れる紙幣投入口がそれぞれ図示されていることが認められる。

・甲第6号証
甲第6号証の刊行物である実公昭58-6823号公報は、紙幣の搬送装置に関するものであって、下記の事項が、図面とともに記載されている。
「本考案は紙幣の搬送装置に関する。
すなわち、送出しローラーから1枚ずつくり出される紙幣を次の搬送体に受渡す構造の搬送装置を改良したものであって、例えば紙幣払出機等の紙幣の搬送部等に用いて効果がある搬送装置を提供しようとするものである。」(1頁2欄2〜7行)
「第1図は紙幣払出機の側面図を示し、上下には4個の紙幣送出部1a,1b,1c,1dが積み重なるようにして設けられている。・・・中略・・・ケース2の一端側には紙幣3を1枚ずつ吸着して取出す吸着頭6をのぞませ、その側方から紙幣送出部の終端まで1対の送出しローラーA1,A2を複数組並設してある。」(1頁2欄9〜17行)
「各紙幣送出部に対面して上下方向にベルト形式の搬送体B1を張設するとともに、搬送体B1の上部を前記払出台8側に張出して搬送体B1全体をローラー9により支承し、搬送体B1の一方における面にはローラー10によって支承されるベルト形式の搬送体B2をそれぞれ間隔をおいて対設し、各搬送体B2の下方におけるローラー10の下方から各紙幣送出部における端部の送出しローラーA2側に向けベルト形式の搬送体B3を延出して構成する。
前記搬送体B2の下部と搬送体B3の終端部との間から紙幣3を挟扼し始めるように構成するが、その挟扼始端と前起送出しローラーA1,A2との間の間隔C内下方に前記搬送体B3を傾斜状に延出し、その間隔C内には送出しローラーA1,A2に接近する端部側が広くて前記挟扼始端側が狭くなるガイドG,GをV字状に延設し、狭くなったガイドG,Gの部分からそのまま延出するガイド部G’,G’を、対面する搬送体B1とB2にそわせて上方に延出して構成する。」(1頁2欄21行〜2頁3欄3行)
「矢印で示すように回転する送出しローラーA1,A2により挟持されて送出される紙幣3はガイドG,Gの間に送入されて搬送体B3により搬送体B2と搬送体B3との接触部間に確実に送り込まれ、次いで矢印で示すように回転するローラーにより回転させられる搬送体B1,B2の間に挟されて上方に搬送され払出台8上に送出される。」(2頁3欄10〜16行)
また、第1図には、紙幣を払出台まで合流搬送する装置が図示されていることが認められる。
そして、上記記載によれば、紙幣は、ベルト形式の搬送体B1,B2の間に弾性的に挟まれて搬送されるものと解される。
したがって、甲第6号証は、紙幣の搬送装置に関するものであって、紙幣を搬送装置に合流させ、搬送装置により弾性的に挟持し、特定位置まで合流搬送する手段を開示しているものと認められる。

・甲第7号証
甲第7号証の刊行物である特開昭55-30726号公報は、現金一括処理システムに関するものであり、「現金は共通の出金ベルト31と個別ベルト32,33,34にはさまれ送られ」(2頁上右欄14〜15行)の記載および第1図からみて、紙幣を共通の出金ベルト31と個別ベルト32,33,34により上下方向に沿う姿勢で挟みつつ送る点の構成が開示されているものと認める。

・甲第8号証
甲第8号証の刊行物である実公昭57-39391号公報は、紙葉、カードおよび類似物、特に紙幣を個別化して送り出す装置に関するものであって、下記の事項が、図面とともに記載されている。
「本考案は、紙葉、カードおよび類似物、特に紙幣を個別化して送り出す装置であって、これらの紙葉が少なくとも1つの引出しローラによりその貯蔵集積部から引取られ、それらの送りと引渡しを行う送りローラを介して紙葉給付部に供給され、かつこの場合送り道程において2重の紙葉或るいは多重の紙葉の塊状態での送りを阻止する個別化ローラを有する個別化装置が設けられている、上記装置に関する。」(1頁2欄20〜28行)
「第6図による実施形の場合、それぞれ例えば貯蔵集積部1、移送ローラ4、引出しローラおよび引渡しローラ18,28、個別化ローラ8、制動ローラ13等から成る上記の様式の多数の装置が、個々の装置の紙葉給付部33が開口している捕集路34に沿って設けられている。この捕集路34内で紙葉3は押圧要素および案内要素42,43によって案内される。符号44で捕集路34内における紙葉3の移送のための駆動モータ45で駆動される移送ベルトを示した。紙葉3は回転点47を中心にして旋回可能な中間載置板46上に載置され、そこから集積体として給付仕切間48内に或るいはレジエクト仕切間49内に載置される。」(5頁10欄25〜38行)
そして、6図には、各貯蔵集積部から送り出された紙葉3をそのままの姿勢で引渡しローラ18,28および紙葉給付部33を介して捕集路34に渡し、搬送する装置が示されており、捕集路34に沿って配置された移送ベルト(符号なし)は、両端の輪体(符号なし)に巻掛けられ、搬送路34に沿って駆動回動される無端回動体として図示されている。そして、巻掛用の輪体に間に複数配置された押圧要素42と案内要素43は、移送ベルト上の紙葉3を弾性的に挟持し案内する一対の挟持輪体を構成し、各挟持輪体間の距離は、図示された紙葉3の搬送方向の長さより短い間隔で配置されているものと解される。
したがって、甲第8号証には、紙幣を含む紙葉を搬送する装置であって、貯蔵集積部から送り出された姿勢のままで搬送するものであり、挟持搬送路に沿う無端回動体と、無端回動体を捕集路に沿って架設する一対の巻掛け輪体と、紙葉の搬送方向の長さよりも短い間隔で複数個配置され、無端回動体と協同して紙葉を弾性的に挟持する挟持輪体とからなる搬送装置が開示されているものと認められる。

・甲第9号証
甲第9号証の刊行物であるドイツ特許第2516932号公報は、用紙の搬送装置に関するものであって、下記の事項が、図面とともに開示されている。
「各用紙貯蔵棚4の開口端には、用紙9aを案内して垂直方向に整列するロール対19、22へ進めるため支持板25に固定した唇状端27を含むガイドプレート26を設けてある(図5)。上方ロール19はこれを下方の固設ロールと圧接状態に保持するようにばね23によって偏倚させられる一対の駆動素子によって支持されている。装置の一端には垂直方向に整列して常時互いに圧接状態にある一対のロール28、29を設けてある。
各ロール対の上方ロール19に沿って複数のエンドレスベルト24を案内する。図示実施例の場合、比較的狭い3本のベルト24を互いに間隔を置いて上方ロール19で案内する。ベルト24は搬送装置に沿って個々の用紙を移動させる連続支持面として機能し、装置端部において整理台18上に積み上げる。整理台18は止め具17と支柱15を介して装置端に固定され、支柱15は止め具を介して装置端側のフレーム素子11に取付けられている。
ガイドプレート26は各用紙貯蔵棚の奥行いっぱいにまたがって各積層体の一番上の用紙を正しく案内し、対応のロール対19、22に到達させるように傾斜させる。図2及び5に示す構成では、用紙がロール対19、22の間に捕捉され、右から左へ移動し、各用紙が次の用紙上をこれとオーバーラップして移動する。従って、用紙は用紙貯蔵棚における個々の積層体の位置によって与えられる正しい順序で搬送装置14の端部31から出る。適正な用紙貯蔵棚に積層体を配置することで、搬送装置14から出る個々の用紙順序が決定される。」(2頁3欄52行〜4欄24行、請求人が提出した訳文参照)
そして、上記記載および図2および図5によれば、ロール29、30はエンドレスベルト24を巻掛ける輪体であり、当該輪体の間に複数配置されたロール対19,22はエンドレスベルトと協同して用紙を弾性的に挟持搬送する輪体であると認められる。そして、各ロール対19,22の間隔は用紙の搬送方向の長さより短いものとして図示されており、貯蔵棚より送り出された用紙9aは、その姿勢を保った状態でエンドレスベルト24とロール対19,22に挟持搬送されるものと解される。
したがって、甲第9号証には、用紙の搬送装置であって、貯蔵棚から送り出された姿勢のままで用紙を搬送するものであり、挟持搬送路に沿う無端回動体と、無端回動体を搬送路に沿って架設する一対の巻掛け輪体と、用紙の搬送方向の長さよりも短い間隔で複数個配置され、無端回動体と協同して紙葉を弾性的に挟持する挟持輪体とからなる搬送装置が開示されているものと認められる。

(2)本件発明と甲第4号証記載の発明との対比
甲第4号証に記載された発明は上記(1)で認定したとおりであるから、本件発明と甲第4号証に記載された発明とを対比すると、甲第4号証の「パチンコ機」、「賞ボール貸機」及び「ベルトコンベア」を有する「搬送装置」は、本件発明の「遊技台」、「紙幣投入機」及び「搬送装置」にそれぞれ相当し、本件発明の用語に倣うと、両者は、「複数の遊技台を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に、紙幣を前記遊技台列前面側から受け入れてその紙面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な紙幣投入機が設けられている遊技設備」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本件発明が、遊技台列の背面側に、紙幣投入機の各々から送り出される紙幣を受け取ってその紙面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、当該遊技台列に沿って当該遊技台列背面側の特定位置まで合流搬送する搬送装置が設けられているのに対し、甲第4号証では、紙幣投入機から送り出される紙幣を遊技台列に沿って合流搬送する搬送装置は設けられているものの、当該搬送装置が挟持搬送装置ではなく、紙幣投入機から送り出され、案内され、特定位置まで合流搬送される紙幣の紙面が、上下方向に沿う姿勢であることの開示がないこと。

[相違点2]
本件発明においては、「挟持搬送装置が、その挟持搬送路に沿って駆動回動される無端回動体と、当該無端回動体を当該挟持搬送路に沿って架設する一対の巻掛け輪体と、当該一対の巻掛け輪体間の位置で、かつ紙幣の搬送方向長さよりも短い間隔で、当該挟持搬送路に沿う当該無端回動体との協同で紙幣を挟持する挟持輪体とを備えて構成されている遊技設備であって、当該一対の巻掛け輪体間の位置に、当該挟持搬送路に沿う当該無端回動体を水平方向から弾性的に挟持する一対の輪体が紙幣の搬送方向長さよりも短い間隔で設けられ、当該輪体が当該挟持輪体に構成されているもの」であるのに対し、甲第4号証には、そのような構成の開示がないこと。

(3)上記相違点に対する当審の判断
(i)相違点1について
まず、搬送手段が挟持搬送装置でないことについて検討するに、前示のとおり、甲第6号証は、紙幣の搬送装置に関するものであって、紙幣を搬送装置に合流させ、搬送装置により挟持して搬送する手段を開示しており、甲第7号証にも、紙幣を搬送するための挟持搬送装置が開示されているものと認められるから、紙幣の搬送装置として挟持搬送装置を用いることは周知の技術であるといえる。
そして、甲第6号証の挟持搬送装置がその実施例に示された紙幣払出機に限定されるものとも認められず、紙幣を案内する必要のあるその他の装置一般に広く適用できるものであると解される。また、パチンコホール等の遊技設備と銀行等の紙幣払出機は、ともに紙幣を含む現金を取り扱うことで共通し、紙幣を搬送する場合の機能、作用としては同様のことが要請されるものであるから、甲第6、7号証に開示された紙幣搬送装置を甲第4号証の搬送装置として採用することに困難性があるとは認められない。
また、合流搬送される紙幣の紙面が上下方向に沿う姿勢であることの開示がないことについて検討すると、甲第4号証に記載された発明が、遊技台列前面側の縦長の投入口において、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れ、これを遊技台列背面側に送り出すことを実質的に開示するものであり、また、甲第6号証の紙幣の挟持搬送装置が、紙幣の上方向への搬送に限定されず水平方向にも適用できるものである以上、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れた後、水平方向に転回させることなく、更にそのままの姿勢で挟持搬送することは、極めて自然な技術事項であると認められる。しかも、前示のとおり、甲第7号証には、紙幣を搬送するための搬送装置において、上下方向に沿う姿勢で紙幣を挟持搬送することが開示されているのであり、このような公知技術をも勘案すれば、甲第4号証において、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れて識別した後、紙幣投入口から当該搬送装置に至る搬送手段及び当該搬送装置の合流部に案内する手段として、甲第6号証に開示された、紙幣の両面を挟持して送り出し、送り出される紙幣をガイドと搬送体で受け取って搬送体の間に挟持し、特定位置まで合流搬送する挟持搬送装置を適用し、その間、上下方向に沿う姿勢で紙幣を挟持搬送することは、当業者であれば容易になし得ることとするのが相当である。
したがって、相違点1に係る構成は、甲第6、7号証の記載から当業者が容易に想到し得るものである。

(ii)相違点2について
甲第8、9号証には、前示のとおり、挟持搬送路に沿う無端回動体と、無端回動体を捕集路に沿って架設する一対の巻掛け輪体と、紙葉の搬送方向の長さよりも短い間隔で複数個配置され、無端回動体と協同して紙葉を弾性的に挟持する挟持輪体とからなる搬送装置が開示されていると認められるのであり、しかも甲第8号証が搬送対象とする紙葉に紙幣が含まれることは明らかなのであるから、そのような搬送技術を甲第4号証の搬送装置に適用することが当業者にとって困難であるとはいえない。
そして、前示のとおり、甲第4号証に記載された発明が、遊技台列前面側の縦長の投入口において、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れ、これを遊技台列背面側に送り出すことを実質的に開示するものであり、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れた後、水平方向に転回させることなく、更にそのままの姿勢で挟持搬送することが、極めて自然な技術事項であると認められる以上、その搬送方向に沿って各挟持輪体対を配置した場合、当該挟持輪体が無端回動体を水平方向から弾性的に挟持することになることは当然である。しかも、前示のように、甲第8号証の挟持輪体も、垂直方向に搬送するものではあるが、上下方向に沿う姿勢で挟持しており、水平方向から弾性的に挟持するものであり、甲第8、9号証の搬送装置がともに紙葉を受け入れた姿勢のままで搬送するものであることを考慮すれば、紙幣を上下方向に沿う姿勢で挟持搬送するための挟持輪体を水平方向から弾性的に挟持する配置とすることが当業者にとって格別困難なことではない。
被請求人は、甲第8号証記載のものは、垂直方向の捕集路に沿って配置されたものであるから、挟持部分では吊り下げる形で落下しないように挟持搬送しているものにすぎず、横方向に搬送する場合の作用まで開示するものではない旨主張する。
しかしながら、甲第8号証のものも、垂直方向ではあるが、挟持輪体対にて水平方向から弾性的に挟持搬送するものであって、横方向に搬送する場合に適用した場合も同様に水平方向から弾性的に挟持できるものと解され、横方向への搬送に適用できないとする根拠もない。
したがって、相違点2に係る構成は、甲第8、9号証の記載から当業者が容易に想到し得るものである。

(iii)構成の組合せについて
被請求人は、本件発明は「構成C」および「構成D」を採用する点、「構成A+B」に「構成C+D」を採択結合した点に技術的意義がある旨主張する。
本件特許明細書には、「Cの構成により、例えば左右二つの無端印刷体の間に紙幣を挟持して搬送する場合に予想される、両無端回動体の回動速度差に起用する紙幣の皺寄りや搬送姿勢の乱れを防止して、挟持搬送路の片側に設けた無端回動体の駆動回動で紙幣を挟持輪体に受渡しながら円滑に搬送でき」、「Dの構成により、一対の輪体による弾性的な挟持力で紙幣を挟持できるから、例えば一対の巻掛け輪体に亘って無端回動体を架設するとともに、この一対の巻掛け輪体間の位置で当該無端回動体との協同で紙幣を挟持する挟持輪体を無端回動体に与えた張力と挟持輪体の付勢力との協同で紙幣を挟持するものに比べて、無端回動体に大きな張力を与えることなく紙幣を確実に挟持して搬送できる」(本件特許公報3頁5欄5〜22行)と説明されているが、そのような作用は、甲第8、9号証の記載から当業者が容易に予測できることであり、また、「紙幣投入機に投入された紙幣を遊技者の邪魔にならず能率良く回収でき」、しかも、「円滑に搬送して確実に回収できるものでありながら」、「搬送位置の設置スペースが小さく」、更に、「無端回動体に大きな張力を与えることなく紙幣を確実に挟持できるから、無端回動体の経年劣化が少なく、紙幣を長期に亘って円滑に搬送して回収できる利点がある」と記載される本件発明の効果(本件特許公報3頁5欄24〜35行)にも、上記甲号各証の記載から当業者が予測し得るもの以上に格別のものがあるとは認められない。
してみると、構成C、Dおよび「構成A+B」に「構成C+D」を採択結合した点に格別の技術的意義があるものと認めることができない。
なお、被請求人が提出した乙号各証は、上記認定を覆す根拠となるものではない。

(4)むすび
したがって、本件発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証、甲第5号証ないし甲第9号証から開示される技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるのが相当である。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2000-12-06 
出願番号 特願昭63-117804
審決分類 P 1 112・ 121- Z (B65H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西野 健二柳 五三  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 佐藤 雪枝
船越 巧子
登録日 1992-12-24 
登録番号 特許第1722298号(P1722298)
発明の名称 遊技設備  
復代理人 柏原 健次  
代理人 北村 修一郎  
代理人 永井 義久  

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