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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1031781
異議申立番号 異議2000-71251  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-27 
確定日 2000-10-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2953688号「試料の温度制御方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2953688号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2953688号の請求項1に係る発明についての出願は、昭和58年11月28日になした特許出願(特願昭58-222046号)の一部を新たな特許出願とした特願平7-50779号の一部を更に新たな特許出願とした特願平8-325078号の一部を、平成9年6月2日に新たな特許出願としたものであって、平成11年7月16日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、畠明より特許異議の申立がなされ、そして、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年8月3日に訂正請求がなされ、更に、取消理由通知がなされ、先の訂正請求が取り下げられるとともに、その指定期間内である平成12年9月12日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1 特許権者の求めている訂正
平成12年8月3日付けの訂正請求書による訂正の請求は取り下げられているので、特許権者が求めている訂正は、平成12年9月12日付け訂正請求書に記載された、以下のとおりのものである。

2-1-1 特許請求の範囲の記載に関して
訂正事項1
請求項1に記載の「・・試料配置面に試料を静電吸着・・伝熱ガス放出路から前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを排出する・・」を「・・試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着・・伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出する・・」と訂正する。

2-1-2 発明の詳細な説明の記載に関して
訂正事項2
特許明細書の段落番号【0017】に記載の「・・試料配置面に試料を静電吸着・・伝熱ガス放出路から前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを排出する・・」を「・・試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着・・伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出する・・」と訂正する。
訂正事項3
特許明細書の段落番号【0018】に記載の「・・試料配置面に試料を静電吸着・・伝熱ガス放出路から前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを排出し・・」を「・・試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着・・伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出し・・」と訂正する。

2-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許明細書の請求項1に記載された「試料配置面に試料を静電吸着」なる事項の吸着位置を、特許明細書中の段落番号【0037】に記載された「少なくとも基板の裏面の外周辺を吸着」なる技術的事項事項により限定するとともに、同特許明細書の請求項1に記載された「伝熱ガス放出路から前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを排出する」という事項を特許明細書の段落番号【0022】に記載の「下部電極20には、溝21と連通してガス供給路23aとガス排出路23bとが形成されている。」、同段落番号【0023】に記載の「・・ガス排出路23bには、導管70bの一端が連結されている。・・導管70bの他端は、真空処理室10と真空ポンプ80とを連結する排気用の導管12に合流連結されている。」及び図面の記載から明らかな、伝熱ガスを真空処理室を介さずにその外部へ吸引排出しするという技術的事項により限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項を追加せず、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項2,3は、上記の特許請求の範囲の訂正に合わせ、不明瞭となる記載を釈明するものであり、新規事項を追加せず、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3 むすび
上記訂正は、特許異議の申立がなされていない請求項に係るものではなく、以上のとおり、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3 特許異議申立に対する判断
3-1 申立て理由の概要
特許異議申立人畠明は、甲第1号証として、「特開昭58一32410号公報」を提出して、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、同発明に係る特許は、拒絶査定をしなければならない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべき旨主張している。

3-2 本件の発明
本件の請求項1に係る発明は、訂正された特許請求の範囲に記載された以下の事項により特定されるものである。
【請求項1】温度制御される試料台の試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着力によって接触させて吸着保持し、前記試料台に設けられた伝熱ガス供給路からの伝熱ガスを前記試料が接触して吸着保持されたときにできる前記試料の裏面と前記試料台との間の微視的にみてわずかな隙間に供給するとともに、前記試料台に設けられた伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出することを特徴とする試料の温度制御方法。

3-3 甲第1号証の刊行物に記載された発明
甲第1号証の刊行物である「特開昭58一32410号公報」には、「ガス状減圧環境下で構造物を処理する方法及び装置」に関する発明が開示されており、第3頁右下欄第17行〜第4頁左上欄第20行には、「締付装置のこの実施態様は、実際にガス室56を主真空室14から封止し、したがってスパッタリングガスとは異なるガスを使用することができ、熱伝達は、ガス層を通じて伝導することによるものである。・・他面で、伝導ガスがスパッタリングガスと同じものである場合には、Oリングに対して封止の必要は、重要でなくなる。・・室56を通じてのガス流は、室14又は他の装置に逃出することによってそれが何処に存在するかに注目すべきであり、この場合対流は、構造物16と、ブロック32との間の熱流に寄与する。
この実施態様において、このブロツクは、供給装置60から導入管62を通じてブロックそれ自体中に形成された円形又は蛇行形のブロツク導管64に流れかつ次いで導出管66を通じて適当な水溜め又は供給装置それ自体に戻される水(ガスを使用してもよいのだけれども)により温度制御されている。」と記載され、第4頁左下欄第5行〜右下欄第6行には、「ブロツク32の中心には、ガス室56に通じる通路70が存在する。この通路は、導管72によって開閉弁74及びガス溜め76に接続している。次にガス溜め76は、可変弁80を通じてガス源82に接続している。・・ガスの熱伝導率は、その圧力によって変動するので、室56を横断する熱伝導性もガス圧によって制御される。従って、構造物の温度も室56中のガス圧によって制御される。従って、室56中のガス層により、スパッタリング処理の間にウェファー16からブロック32への熱伝達が存在するか又は場合によりブロックからウェファーへの熱伝達が存在する。処理を完結させるには、弁74を閉じ、このブロックを締付装置42から取出す。ガス室56中及び導管72中に残留するガスは、ポンプ系統26によって排気管30から排出することができる。」と記載され、第5頁左上欄第8行〜第5頁右上欄第7行には、「第2図中の多数の部材は、開示の簡易化のために省略した。この実施態様において、42Aの締付装置は、静電によるものであり、かつ金属ブロック32に接続したDC電力供給装置90を設け、こうしてブロツクと、ウェファーとの間に電位差を生ぜしめることによって達成されている。ウェファー16とブロツク32は、前記図面中のOリングに若干に似せてブロツクの外端に隣接して配置された非伝導性材料の薄い多孔質膜52Aによって分離されている。この膜の厚さ及び電位差は、第1図で記載したのと同じ方法でガス室56中に装入されたガス層の厚さを決定する。・・膜52Aは多孔質であるので、室56から真空室14へのガス流が存在する。従って、対流ならびに伝導によって熱流を生じる、ウェファーの裏側を横断するガス流が存在する。」と記載されている。
これら記載と図面の記載とを併せみれば、甲第1号証の刊行物には、
試料であるウエファーの台であり、温度制御されるブロック32のウエファーを配置する面にウエファーの少なくとも外周の部分を静電吸着力によって接触させて吸着保持し、前記ブロックに設けられた熱を伝達するガスを供給する通路からのガスを前記ウエファーが接触して吸着保持されたときにできる前記ウエファーの裏面と前記ブロックとの間の微視的にみてわずかな隙間である室56に供給するとともに、前記ブロックに設けられたガス放出する多孔質膜から前記室に供給された前記ガスを真空室に排出するとともに、その排出先を真空室以外の他の個所へ排出することを含むウエファーの温度制御方法
の発明が記載されるものと認める。

3-4 対比判断
訂正された本件請求項1に記載された発明と甲第1号証の刊行物に記載された発明とを比較すると、両発明は、
温度制御される試料台の試料配置面に試料の少なくとも外周部を静電吸着力によって接触させて吸着保持し、前記試料台に設けられた伝熱ガス供給路からの伝熱ガスを前記試料が接触して吸着保持されたときにできる前記試料の裏面と前記試料台との間の微視的にみてわずかな隙間に供給するとともに、前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを排出する試料の温度制御方法。
の発明である点で一致し、甲第1号証の刊行物の第1図等には、Oリングを用て主真空室14とガス室56との間を封止することことが記載されるものの、ガスを吸引排出することにより、主真空室にガスを漏れなくすることを開示または示唆するものではないので、本件請求項1に係る発明は、以下の点で、甲第1号証の刊行物のものと相違している。
本件請求項1に記載の発明では、試料の少なくとも外周辺を静電吸着し、伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出するものであるのに対して、甲第1号証の刊行物には、ウエハーの少なくとも外周辺を静電吸着するものの、伝熱ガスを吸引排出することの開示はない点。
そして、同相違点の構成を有することにより、本件請求項1の発明は、吸引排出することにより、確実に真空処理室外に伝熱ガスを排出するとともに、段落番号【0038】に記載される「・・静電吸着力の大きさは処理ガスの圧力と真空処理室内の圧力との圧力差による基板の浮上りを防止するのに必要な大きさで良く、処理ガスの圧力とプラズマの圧力との差圧を、基板の裏面と下部電極との間の熱抵抗の許す範囲で小さくすることにより静電吸着力を小さくしても基板冷却の効果が十分得られる。」
という効果を奏するものであるから、同構成の採用を設計上の事項に属するものとすることはできない。
しかも、上記相違点の構成を慣用される技術であるとする客観的証拠は何等ない。
よって、上記相違点の構成をその構成の一部とする本件請求項1に係る発明を、上記相違点の構成を開示するものではなく、それを示唆するものでもない甲第1号証の刊行物に記載された発明とすることはできないばかりではなく、甲第1号証の刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

3-5 各取消理由通知について
各取消理由は、甲第1号証のそれぞれ異なる部分を引用するものであり、上記検討のとおり、それらをもって、本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

3-6 むすび
以上説示の通り、各特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
試料の温度制御方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度制御される試料台の試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着力によって接触させて吸着保持し、前記試料台に設けられた伝熱ガス供給路からの伝熱ガスを前記試料が接触して吸着保持されたときにできる前記試料の裏面と前記試料台との間の微視的にみてわずかな隙間に供給するとともに、前記試料台に設けられた伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出することを特徴とする試料の温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料保持装置を備えた真空処理装置に係り、特に静電吸着力により基板を吸着、保持する試料保持装置を備えた真空処理装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
試料を真空処理、例えば、プラズマを利用して処理(以下、プラズマ処理と略)する装置、例えば、ドライエッチング装置の重要な用途の一つに半導体集積回路等の微小固体素子の製造における微細パターンの形成がある。この微細パターンの形成は、通常、試料である半導体基板(以下、基板と略)の上に塗布したレジストと呼ばれる高分子材料に紫外線を露光,現像して描いたパターンをマスクとしてドライエッチングにより基板に転写することで行われている。
【0003】
このような基板のドライエッチング時には、プラズマとの化学反応熱やプラズマ中のイオンまたは電子などの衝撃入射エネルギによりマスク及び基板が加熱される。従って、十分な放熱が得られない場合、即ち、基板の温度が良好に制御されない場合は、マスクが変形,変質し正しいパターンが形成されなくなったり、ドライエッチング後の基板からのマスクの除去が困難となってしまうといった不都合を生じる。そこで、これら不都合を排除するため、次のような技術が従来より種々慣用・提案されている。以下、これら従来の技術について説明する。
【0004】
従来技術の第1例としては、例えば、特公昭56-53853号公報に示されているように、高周波電源の出力が印加される試料台を水冷し、該試料台上に被加工物質を誘電体膜を介して載置し、試料台に直流電圧を印加することでプラズマを介して誘電体膜に電位差を与え、これにより生じる静電吸着力によって被加工物質を試料台に吸着させ、被加工物質と試料台との間の熱抵抗を減少させて被加工物質を効果的に冷却するものがある。
【0005】
従来技術の第2例としては、例えば、特開昭57-145321号公報に示されているように、ウェーハの裏面より気体ガスを吹き付けて、ウェーハを気体ガスにより直接冷却するものがある。
【0006】
従来技術の第3例としては、例えば、E.J.Egerton他,Solid State Technology,Vol.25,No.8,P84〜87(1982-8)に示されているように、水冷された試料台である電極と該電極に載置され機械的クランプ手段で外周辺を電極に押圧されて固定された基板との間に、圧力が6Torr程度のGHeを流通させて、電極と基板との間の熱抵抗を減少させ、これにより基板を効果的に冷却するものがある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記これらの従来技術は、試料の効果的な冷却、及び基板裏面に流すガスのプロセスに与える影響等の点において、充分配慮されておらず、以下のような問題があった。
【0008】
上記第1の従来技術では、上記のように行っても、まだ、被加工物質と試料台との間の接触部分は少なく、微視的にみればわずかな隙間を有している。また、この隙間には、プロセスガスが入り込み、このガスは、熱抵抗となる。一般のドライエッチング装置では、通常0.1Torr程度のプロセスガス圧によって被加工物質をエッチング処理しており、被加工物質と誘電体膜との間の隙間はプロセスガスの平均自由行路長より小さくなるため、静電吸着力による隙間の減少は、熱抵抗の点からはほとんど変わらず、接触面積が増加した分だけ効果が上がることになる。したがって、被加工物質と試料台との間の熱抵抗を減少させ被加工物質をより効果的に冷却するためには、大きな静電吸着力を必要とする。このため、このような技術では、次のような問題があった。
【0009】
(1)被加工物質が試料台から離脱しにくくなるため、エッチング処理が終了した被加工物質の搬送に時間を要したり、被加工物質をいためたりする。
【0010】
(2)大きな静電吸着力を生じるためには、誘電体膜と被加工物質との間に大きな電位差を与える必要があるが、しかし、この電位差が大きくなれば、被加工物質、すなわち、基板内の素子に対するダメージが大きくなるため、歩留まりが悪くなり、集積回路の集積度が高まるにつれて要求が高まっている薄いゲート膜の微細加工では、更に歩留まりが悪くなる。
【0011】
上記第2の従来技術では、ヘリウムガス(以下、GHeと略)のように熱伝導性の優れた気体ガスを用いることで、ウェーハの冷却効率を向上させることができる。しかしながら、このような技術では、次のような問題があった。
【0012】
(1)気体ガスがウェーハの冷却面側にとどまらずエッチング室内に多量に流れ込むため、GHeのように不活性ガスでもプロセスに与える影響は大きく、したがって、すべてのプロセスに使用することができない。
【0013】
上記第3の従来技術では、基板の外周辺をクランプによって固定しても、GHeの真空処理室内への流出は避けられず、したがって上記した第2の従来技術での問題点と同様の問題を有し、更に次のような問題をも有している。
【0014】
(1)機械的クランプ手段により基板の外周辺を押圧して、基板を電極に固定するため、基板は、流通するGHeのガス圧により周辺支持状態で中高で凸状に変形する。このため、基板の裏面と電極との間の隙間量が大きくなり、これに伴って基板と電極との熱伝導特性が悪化する。このため、基板の冷却を充分効果的に行うことができない。
【0015】
(2)電極に基板の外周辺を押圧して固定する機械的クランプ手段が設けられているため、基板内の素子製作面積が減少すると共に、プラズマの均一性が阻害され、また、機械的クランプ手段の動作時に、機械的クランプ手段に付着した反応生成物が機械的クランプ手段から脱落して、塵挨の発生する危険性があり、更に、基板搬送が極めて複雑となり、その結果、装置が大型化すると共に信頼性が低下する。
【0016】
本発明の目的は、試料台に静電吸着され真空処理される試料の温度制御方法として、静電吸着力を増大させることなく伝熱効果を向上させて試料の温度を効果的に制御することができる試料の温度制御方法を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、温度制御される試料台の試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着力によって接触させて吸着保持し、前記試料台に設けられた伝熱ガス供給路からの伝熱ガスを前記試料が接触して吸着保持されたときにできる前記試料の裏面と前記試料台との間の微視的にみてわずかな隙間に供給するとともに、前記試料台に設けられた伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、試料がその少なくとも外周辺で試料台に静電吸着されて試料配置面に接触して保持され、試料と試料台との間の微視的にみてわずか隙間に伝熱ガス供給路を介して伝熱ガスを供給するとともに、伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出し、試料裏面の伝熱ガス圧を制御することで、試料の温度を効果的に制御することができる。すなわち、本発明によれば、試料を試料台に静電吸着力のみで吸着保持する方法に比べて、試料と試料台との間の接触部分の微視的にみたわずかな隙間に伝熱ガスが満たされるので、大きな静電吸着力を必要とせずに、熱抵抗を減少させることができる。また、試料と試料台間の熱抵抗を考えた場合、試料と試料台が接触する部分の熱抵抗は、試料と試料台の間の空間に伝熱ガスが存在する場合の熱抵抗よりも小さくなる。従って、試料と試料台の間に伝熱ガスのみが存在する場合に比べても、熱抵抗を減少させることができる。また、試料裏面と試料台との間の微視的にみてわずかな隙間の伝熱ガスの圧力が制御できる。よって、本発明によれば、試料の温度を効果的に制御することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
試料を真空処理、例えば、プラズマ処理する装置としては、ドライエッチング装置,プラズマCVD装置,スパッタ装置等があるが、ここでは、ドライエッチング装置を例にとり本発明の実施例を説明する。
【0020】
以下、本発明の一実施例を図1ないし図3により説明する。
【0021】
図1にドライエッチング装置の概略構成を示す。真空処理室10の、この場合、底壁には、絶縁体11を介して試料台である下部電極20が電気絶縁されて気密に設けられている。真空処理室10には、放電空間30を有し下部電極20と上下方向に対向して上部電極40が内設されている。
【0022】
試料である基板50の裏面に対応する下部電極20の表面には、この場合、基板50の裏面の周辺側に対応して絶縁物60が埋設されている。絶縁物60の内側の下部電極20には、伝熱ガスの供給路を形成する溝21が形成されている。溝21は基板50が載置されていない場合、放電空間30と連通する。また、絶縁物60には、溝21につながるガス分散用の溝(図示省略)が形成されている。下部電極20には、溝21と連通してガス供給路23aとガス排出路23bとが形成されている。また、下部電極20内には、冷媒流路22が形成されている。下部電極20には、冷媒流路22と連通して冷媒供給路24aと冷媒排出路24bとが形成されている。
【0023】
ガス供給路23aには、ガス源(図示省略)に連結された導管70aが連結され、ガス排出路23bには、導管70bの一端が連結されている。導管70aには、マスフローコントローラ(以下、MFCと略)71が設けられ、導管70bには調整バルブ72が設けられている。導管70bの他端は、真空処理室10と真空ポンプ80とを連結する排気用の導管12に合流連結されている。冷媒供給路24aには、冷媒源(図示省略)に連結された導管90aが連結され、冷媒排出路24bには、冷媒排出用の導管90bが連結されている。
【0024】
下部電極20には、マッチングボックス100を介して高周波電源101が接続されると共に、高周波遮断回路102を介して直流電源103が接続されている。なお、真空処理室10,高周波電源101および直流電源103はそれぞれ接地されている。
【0025】
また、上部電極40には、放電空間30に開口する処理ガス放出孔(図示省略)と該処理ガス放出孔に連通する処理ガス流路(図示省略)とが形成されている。処理ガス流路には、処理ガス供給装置(図示省略)に連結された導管(図示省略)が連結されている。
【0026】
次に、図1の下部電極20の詳細構造例を図2,図3により説明する。
【0027】
図2,図3で、図1に示したガス供給路23aは、この場合、導管25aで形成され、導管25aは、この場合、下部電極20の基板載置位置中心を軸心として上下動可能に設けられている。導管25aの外側には、図1に示したガス排出路23bを形成して導管25bが配設されている。導管25bの外側には、図1に示した冷媒供給路24aを形成して導管25cが配設されている。導管25cの外側には、図1に示した冷媒排出路24bを形成して導管25dが配設されている。導管25bの上端は電極上板26につながり、導管25dの上端は電極上板26の下方の電極上板受27につながっている。導管25bの上端部には、電極上板26と電極上板受27と導管25bとで空室28が形成されている。空室28には分割板29が冷媒流路22を形成して内設され、導管25cの上端は分割板29につながっている。
【0028】
基板(図示省略)が載置される電極上板26の表面には、この場合、放射状の伝熱ガス分散用の溝21aと円周状の伝熱ガス分散用の溝21bとが複数条形成されている。伝熱ガス分散用の溝21a,21bは、導管25a,25bと連結している。また、基板が載置される電極上板26の表面には、絶縁物60が設けられている。この場合は、絶縁膜がコーティングされている。
【0029】
なお、図2,図3で、110は基板が載置されない部分の電極上板26の表面を保護する電極カバーで、111は下部電極20の電極上板26の表面以外を保護する絶縁カバー、112はシールド板である。また、導管25aの上端には、電極上板26への基板の載置時並びに電極上板26からの基板の離脱時に基板を裏面側から支持するピン113が、この場合、120度間隔で3本配設されている。
【0030】
また、溝21a,21bの深さは、基板吸着時の基板の裏面と溝21a,21bの底面との間の隙間(以下、溝部隙間と略)が伝熱ガスの平均自由行路長以上になれば、伝熱ガスの伝熱効果が低下するようになるため、該溝部隙間が、好ましくは、伝熱ガスの平均自由行路長以下となるように溝21a,21bの深さを選定するのが良い。
【0031】
また、基板の裏面で絶縁膜に静電吸着される部分(以下、吸着部と略)の面積は、伝熱ガスのガス圧と真空処理室10の圧力との差圧による基板の下部電極20からの浮上りを防止するために、伝熱ガスのガス圧と真空処理室10の圧力との差圧により決まる必要静電吸着力により選定する。例えば、伝熱ガスの圧力が1Torrで真空処理室10の圧力が0.1Torrの場合、基板の下部電極20からの浮上りを防止するための必要静電吸着力は約1.3g/cm2であり、従って、これより吸着部の面積は、基板の裏面面積の約1/5に選定される。
【0032】
上記のように構成された図1乃至図3のドライエッチング装置で、基板50は、公知の搬送装置(図示省略)により真空処理室10に搬入された後に、その裏面外周辺部を絶縁物60と対応させて下部電極20に載置される。下部電極20への基板50の載置完了後、処理ガス供給装置から導管を経てガス流通路に供給された処理ガスは、ガス流通路を流通した後に上部電極40のガス放出孔より放電空間30に放出される。真空処理室10内の圧力調整後、下部電極20には高周波電源101より高周波電力が印加され、下部電極20と上部電極40との間にグロー放電が生じる。このグロー放電により放電空間30にある処理ガスはプラズマ化され、このプラズマにより基板50のエッチング処理が開始される。
【0033】
また、これと共に下部電極20には、直流電源103より直流電圧が印加される。基板50のプラズマによるエッチング処理の開始により、このプラズマ処理プロセスによって生じるセルフバイアス電圧と直流電源103によって下部電極20に印加される直流電圧とにより、基板50は下部電極20に静電吸着されて固定される。その後、溝21a、21bには、ガス源よりMFC71及びガス供給路23aを順次介して伝熱ガス、例えば、処理ガスが供給される。このとき、処理ガスは、MFC71と調整バルブ72との操作によりガス量を制御、すなわち、基板裏面のガス量、言い替えれば、ガス圧を制御される。これにより、冷煤流路22を流通する冷煤、例えば、水や低温液化ガス等で冷却されている下部電極20と基板50との熱抵抗は減少させられ、基板50は効果的に冷却される。
【0034】
その後、エッチングの終了に近づくと、溝21a,21bへの処理ガスの供給は停止され、エッチングの終了に伴って、放電空間30への処理ガスの供給と、下部電極20への直流電圧および高周波電力の印加が停止される。その後、引続き基板50に生じている静電吸着力は解除、この場合、電気的に接地されたピン113が基板50に当接することによって静電気の除去が行われ、ピン113の作動により基板50は下部電極20上より除去される。その後、基板50は、公知の搬送装置により真空処理室10外へ搬出される。また、静電気の除去については、直流電圧の印加を停止した後に、高周波電力の印加を停止することによっても行うことができる。
【0035】
以上、本実施例によれば、次のような効果が得られる。
【0036】
(1)基板の裏面の外周辺だけでなくその裏面の他の部分も使用して基板を下部電極に固定できるため、伝熱ガスである処理ガスのガス圧による基板の変形を防止でき、下部電極に固定された基板の裏面と下部電極との間の隙間量の増大を抑制できる。従って、基板と下部電極との間の熱伝導特性の悪化を防止でき、基板を効率的に冷却できる。
【0037】
(2)少なくとも基板の裏面の外周辺を吸着しているので、伝熱ガスである処理ガスは吸着部で真空処理室内への流出を抑制させるため、処理ガスのプロセスに与える影響は少なくなり、全てのプロセスに使用することができる。
【0038】
(3)静電吸着によって基板と下部電極との接触面積を増加させて熱抵抗を減少させる従来の技術と比較すると、本実施例では、静電吸着力の大きさは処理ガスの圧力と真空処理室内の圧力との圧力差による基板の浮上りを防止するのに必要な大きさで良く、処理ガスの圧力とプラズマの圧力との差圧を、基板の裏面と下部電極との間の熱抵抗の許す範囲で小さくすることにより静電吸着力を小さくしても基板冷却の効果が十分得られる。
【0039】
(4)静電吸着力が小さいため、基板の下部電力からの離脱が容易となり、エッチング処理が終了した基板の搬送時間を短縮できると共に、基板の損傷を防止できる。
【0040】
(5)静電吸着力が小さくてよいため、基板に与えられる電位差は小さく基板内の素子に対するダメージを小さくできる。したがって、薄いゲート膜の微細加工でも歩留まりを悪化させる心配がない。
【0041】
(6)基板を機械的クランプ手段によらず静電吸着力によって下部電極に固定しているため、基板内の素子製作面積の減少を防止できると共に、プラズマの均一性を良好に保持でき、また、下部電極への基板の載置時並びに下部電極からの基板の除去時に塵埃が発生する危険性がなく、更に、基板搬送を容易化でき、その結果、装置の大型化を抑制できると共に信頼性を向上できる。
【0042】
図4は、本発明を実施したドライエッチング装置の他の例を示すもので、真空処理室10の頂壁と上部電極40には、真空処理室10外部と放電空間30とを連通して光路120が形成されている。光路120の真空処理室10外部側には、透光窓121が気密に設けられている。透光窓121と対応する真空処理室10外部には、温度計測手段、例えば、赤外線温度計122が設けられている。赤外線温度計122の出力はアンプ123を介してプロセス制御用コンピュータ124に入力され、プロセス制御用コンピュータ124により演算された指令信号がMFC71に入力されるようになっている。なお、その他、図1と同一装置等は、同一符号で示し説明を省略する。
【0043】
本実施例によれば、更に次のような効果が得られる。
【0044】
(1)基板の温度を計測しながら処理ガスの供給量を調整、すなわち、GHeを供給するMFCをプロセス制御コンピュータと結合し、あらかじめ求めた基板の温度とGHeの供給量との間の関係からGHeの供給量を制御することにより基板の温度を一定の温度に保持できる。このような制御は、Al-Cu-Si材のドライエッチングの際に特に有効であり、ホトレジストがダメージを受けない範囲の高い温度に制御して被エッチング材の残渣を減少させることができる。
【0045】
(2)プラズマの圧力が高い場合には、エッチング速度が基板の温度上昇に伴って増加するプロセスもあり、このような場合には、基板の温度があらかじめ設定した一定温度を超えた場合に、GHeを流して冷却効果を上げホトレジストのダメージを防止しながらエッチング時間の短縮を図ることができる。
【0046】
以上説明した実施例では、基板の吸着に静電吸着力を用いているが、プラズマガスの圧力が高いプロセスにおいては真空吸着力を用いることも可能である。また、絶縁物下面に正極と負極とを交互に並べて配置し静電吸着力を基板に付与するようにしても良い。また、下地の材料が露出し始めてから更にオーバーエッチングを行うような場合は、下地の材料が露出し始めた時点でGHeの供給を停止し下部電極に直流電圧を逆印加するようにする。このようにすれば、エッチング終了時点での基板に残留する静電力を更に減少させることができるため、基板搬出時に基板を損傷させることがなく、基板搬出に要する時間を短縮することができる。但し、この場合は、エッチング中の基板の温度をオーバーエッチング時の温度上昇分だけ下げておくよう制御してやる必要がある。また、伝熱ガスとしてGHeの他に水素ガス,ネオンガス等の熱伝導性の良いガスを用いても良い。
【0047】
なお、本発明は、その他の冷却される基板台に配置保持されて真空処理される試料の温度を制御するのに同様の効果を有する。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、試料台に静電吸着され真空処理される試料の温度制御方法として、静電吸着力を増大させることなく伝熱効果を向上させて試料の温度を効果的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明を実施したドライエッチング装置の一例を示す構成図。
【図2】
図1の下部電極の詳細平面図。
【図3】
図2のA-A視断面図。
【図4】
本発明を実施したドライエッチング装置の他の例を示す構成図。
【符号の説明】
10…真空処理室、20…下部電極、21a…放射状分散溝、21b…円周状分散溝、22…冷媒流路、23a…ガス供給路、24a…冷媒供給路、50…基板。
 
訂正の要旨 1 特許請求の範囲の記載に関して
訂正事項1
請求項1に記載の「・・試料配置面に試料を静電吸着・・伝熱ガス放出路から前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを排出する・・」を「・・試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着・・伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出する・・」と訂正する。
2 発明の詳細な説明の記載に関して
訂正事項2
特許明細書の段落番号【0017】に記載の「・・試料配置面に試料を静電吸着・・伝熱ガス放出路から前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを排出する・・」を「・・試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着・・伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出する・・」と訂正する。
訂正事項3
特許明細書の段落番号【0018】に記載の「・・試料配置面に試料を静電吸着・・伝熱ガス放出路から前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを排出し・・」を「・・試料配置面に試料の少なくとも外周辺を静電吸着・・伝熱ガス放出路から真空処理室を介さずにその外部へ前記微視的にみてわずかな隙間に供給された前記伝熱ガスを吸引排出し・・」と訂正する。
異議決定日 2000-10-02 
出願番号 特願平9-143757
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 雅夫永田 雅博豊永 茂弘小林 明瀧内 健夫  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 大島 祥吾
井口 嘉和
登録日 1999-07-16 
登録番号 特許第2953688号(P2953688)
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 試料の温度制御方法  
代理人 竹ノ内 勝  
代理人 竹ノ内 勝  
代理人 高田 幸彦  
代理人 高田 幸彦  

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