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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C23C
管理番号 1031872
異議申立番号 異議2000-71795  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-02 
確定日 2000-11-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2970344号「プラズマ装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2970344号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2970344号の請求項1に係る発明についての出願は、平成5年10月19日に特許出願されたものであって、平成11年8月27日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、佐藤正より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内に平成12年9月25日付けで訂正請求書が提出されたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項aのとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1の「【請求項1】真空中で移動する導電性の基体を対向電極として、基本上に薄膜を形成する放電室を複数有するプラズマ装置において、各々の放電室に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上あることを特徴とするプラズマ装置。」を「【請求項1】真空中に配置された複数の放電室を有し、前記複数の放電室にまたがって連続した導電性の基体が対向電極として真空中で移動することにより前記基体上に少なくとも2層以上の薄膜を形成するプラズマ装置であって、前記複数の放電室は各々陽極を有し、前記陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下であることを特徴とするプラズマ装置。」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
上記訂正事項aは、(1)放電室が真空中に配置されている、(2)導電性の基体が複数の放電室にまたがって連続している、(3)プラズマ装置が導電性の基体上に少なくとも2層以上の薄膜を形成するプラズマ装置である、(4)複数の放電室が各々陽極を有している、(5)陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下である点を限定する訂正と、(6)基本上を基体上と訂正した訂正である。上記(1)〜(5)は、放電室、基体、薄膜、放電室、周波数を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、上記(1)〜(4)は図1に記載されており、上記(5)は表1の実施例の数値範囲であるから、結局、上記訂正事項aは、願書に添付した明細書に記載されている。したがって、上記訂正事項aは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、上記訂正によって別個の新たな目的及び効果をもたらすものではないから実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、上記(6)は誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
2-3.まとめ
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1号証(特開昭63-262472号公報)、甲第2号証(特開平5-90176号公報)、甲第3号証(特開昭58-182220号公報)、甲第4号証(特開平4-192414号公報)、参考資料(アステック株式会社「プラズマ用高周波電源RFシリーズ」カタログ)を提出し、請求項1に係る発明は甲第1〜4号証に記載された発明であるか、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるか、または請求項1の記載は記載不備であるから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号、第2項、特許法第36条第4〜6項の規定に違反したものであり取り消されるべきものである旨主張している。
3-1.特許法第29条第1項第3号、第2項違反の主張について
(ア)本件請求項1に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、本件発明という)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】真空中に配置された複数の放電室を有し、前記複数の放電室にまたがって連続した導電性の基体が対向電極として真空中で移動することにより前記基体上に少なくとも2層以上の薄膜を形成するプラズマ装置であって、前記複数の放電室は各々陽極を有し、前記陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下であることを特徴とするプラズマ装置。」
(イ)甲号各証の記載内容
甲第1号証は膜形成方法に関し次の事項が記載されている。
(a)「反応室内に配された複数の放電電極に、夫々異なる周波数の電力を供給し、グロー放電を発生させて膜形成用原料ガスを分解し、上記反応室内の支持体面に膜を形成することを特徴とする膜形成方法。」(請求項1)
(b)「太陽電池を製造するに際しては、平行平板電極の一方に高周波電力を付与し、接地されている他方の平行平板電極との間にグロー放電を生起することによって、他方の平行平板電極上に配置された基板表面にアモルファスシリコン膜を形成する。また、電子写真感光体の製造方法は、・・・複数の電極の夫々に単一の電源から分岐して高周波電力を供給している。・・・こうした構成にあっては、複数の電極からの高周波どうしに干渉が生じてグロー放電が不均一となり、また、各電極に印加される高周波電力を個別に制御することができず、各電極の面積が異なると、電極の電力密度が不均一となる。従って、形成される膜の特性が劣悪化する。」(第1頁左欄第19行〜右欄第14行)
(c)「先ず、アルミニウム製の外周表面が超仕上げされた8本の円筒状支持体(3a)〜(3h)を、ターンテーブル(4)上に・・・隔てて植立した保持部材(9)に装着する。・・・反応ガスを導入して、圧力を0.5〜2Torrに保持する。・・・13.56MHzの第1高周波電源(20a)により第1放電電極(2a)と円筒状支持体(3a)〜(3h)との間に、また、400KHzの第2高周波電源(20b)により第2放電電極(2b)と円筒状支持体(3a)〜(3h)との間に、夫々20W〜2KW程度の高周波電力を付与し、プラズマを励起することによって上記反応ガスの分解を行なう。この時円筒状支持体(3a)〜(3h)はモー夕(5)の稼働によりターンテーブル(4)と共にその回転軸(6)周りに・・・公転しているのみならず、自転機構(8)の作用によって各支持体(3a)〜(3h)自身の中心周りにも自転している。」(第2頁右下欄第16行〜第3頁右上欄第6行)
(d)「なお、高周波の周波数の差は1MHz〜100GHzが好ましく、更に1KHz〜1MHzが最適である。また1Hz〜1KHzでも可能である。」(第3頁左下欄第2行〜第4行)
甲第2号証には、機能性堆積膜の連続的製造装置に関し次の事項が記載されている。
(e)「図1に示した装置を用い、本発明の方法により、以下に示す操作によって帯状基体上にn、i、pのアモルファスシリコン膜を連続的に形成した。・・・帯状ステンレス基体107を、供給室104から巻き出され、101〜103の三つの成膜室を通過して、巻き取り室105で巻き取られるようにセットした。・・・次に各室の真空チャンバーをそれぞれの排気管111,115で十分に排気した後、引続き排気しながら各成膜室へガス導入管110から、ぞれぞれの成膜ガスを導入し、圧力計116を確認しつつ排気量を調節して各成膜室を所定の圧力に調整した。・・・放電電極112からRF電力を、導波管113からマイクロ波電力を導入して各成膜室内にプラズマ放電を生起し、帯状基体を一定速度で搬送して帯状基体上にn、i、p型のアモルファスシリコン膜を連続的に形成した。各成膜室での作製条件を表2に示す。」(第6頁右欄第9〜31行)
甲第3号証には、タンデムアモルファス光起電力セルを連続的に製造する為の方法及び装置に関し次の事項が記載されている。
(f)「第2図に、夕ンデム又はカスケード型の光起電力セルを連続的に製造する、多重グロー放電チヤンバー沈積装置を、参照番号26によって模式的に示す。装置26は本発明の原理に基いて、隔離した沈積専用チヤンバーを多数有している。ここで用いる”隔離した”という言葉は、隣接の沈積チヤンバーの反応ガスが、互いに他を汚染し合うことを実質的に防止しているということを意味する。」(第15頁右上欄下から第2行〜左下欄第7行)
(g)「本装置は、連続的に供給される基板材料の沈積表面上に、p-i-n型の構成を有する、大面積、アモルフアス、光起電力重層セルを大量に作ることに用いられる。」(第15頁右下欄第2〜5行)
(h)「実施例においては基板(材料)は連続した導電性のウエブである」(第16頁左上欄第12〜13行)
(i)「繰り出し方向付けチヤンバー42の直上に位置し、物理的に接触してクリーニングチヤンバー46が設けられている」(第16頁左下欄第2〜4行)
(j)「実施例においてはラジオ周波数電力源92b〜92hとチューナー90b〜90nは、約13(13.56)メガヘルツの周波数の電力を沈積チヤンバー中のカソード88b〜88hに供給し、チューナー90aと電力源92aは、約10kHzのパワーをクリーニングチヤンバー46内の力ソード88aに供給する。」(第29頁右下欄第12〜18行)
(k)「・・・必要な真空圧力まで装置26を吸引する」(第38頁右上欄第1〜2行)
甲第4号証には、非単結晶半導体薄膜の形成方法に関し次の事項が記載されている。
(l)「本発明においては、可撓性基板を移動させて非単結晶半導体薄膜を形成できる構造を有する装置、例えば、ロール・ツー・ロール方式を採用した連続プラズマCVD装置において、」(第2頁右下欄第15行〜第18行)
(m)「本発明の成膜方法を実現するための構造を有した非単結晶半導体薄膜の成膜装置の一例を第5図に示す。・・・第5図において、可撓性長尺基板506として、厚さ0.2mmのステンレス板を用いた。501,502及び503は成膜容器であるが、・・・可撓性長尺基板506とRF印加電極510、511及び512との間を通って不図示の真空排気ポンプ及び不図示のコンダクタンス調整バルブにつながった排気管513、514および515から排気される。各成膜容器はガス・ゲート522〜525によって互いに分離され、このガス・ゲートによりある成膜容器内の成膜ガスが他の成膜容器内に侵入するのが防止される。同図において、成膜容器501ではn型半導体薄膜層402を、成膜容器502ではi型半導体薄膜層403を、成膜容器503においてp型半導体層404をそれぞれ成膜させた。」(第5頁右上欄第12行〜左下欄第18行)
(n)「成膜容器内圧力は1Torr」(第5頁右下欄第3表)
(ウ)対比・判断
甲第1号証には、上記(a)〜(d)の記載から「減圧排気された反応室内に配された複数の放電電極に、夫々異なる周波数の電力を供給し、グロー放電を発生させて膜形成用原料ガスを分解し、上記反応室内の支持体面に膜を形成することを特徴とする膜形成方法。」が記載されていると云える(以下、甲1発明という)。
本件発明と甲1発明を対比すると、甲1発明の「反応室」は本件発明の「放電室」に相当するが、両者は、本件発明では、陽極毎の複数の放電室を有しているのに対して、甲1発明では、複数の放電電極を有する一つの反応室である点、また、本件発明の基体が複数の放電室にまたがって連続した導電性の基体であるのに対して、甲1発明では、その点が記載されていない点、また本件発明では少なくとも2層以上の薄膜を形成しているのに対し、甲1発明ではその点が記載されていない点で相違している。
したがって、本件発明は甲第1号証に記載された発明であるとは云えない。
次に、甲第2号証には、上記(e)の記載から、「真空中で移動する帯状ステンレス基体上にプラズマ放電により薄膜を形成する成膜室を複数有する機能性堆積膜の連続的製造装置において、一つの成膜室には放電電極からRF電力を、他の成膜室には導波管からマイクロ波電力を導入してそれぞれプラズマ放電を生起させる機能性堆積膜の連続的製造装置。」が記載されていると云える(以下、甲2発明という)。
本件発明と甲2発明を対比すると、甲2発明の「成膜室」、「帯状ステンレス基体」、「放電電極」は、本件発明の「放電室」、「導電性の基体」、「陽極」に相当するが、両者は、本件発明では各放電室は陽極を有しているのに対し、甲2発明では、成膜室にマイクロ波電力を導入する場合は成膜室に「陽極」が存在しない点、また、本件発明では、陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下であるのに対して、甲2発明では、RF電力とマイクロ波電力に使用される交流電圧の周波数の差は5kHzよりはるかに大きい点(特許異議申立人の提出した参考資料によればRF電力の周波数は13.56MHzであり、また一般にマイクロ波は1000MHz〜1000kMHzであるから周波数差は5kHzよりはるかに大きい)で相違している。
したがって、本件発明は甲第2号証に記載された発明であるとは云えない。
次に、甲第3号証には、上記(f)〜(k)の記載から、甲第3号証には「真空中で移動する導電性のウエブを対向電極として、ウエブ上に薄膜を沈積させるアモルファス光起電力セルの連続的製造装置において、クリーニングチャンバーには10kHzの電力を、沈積チャンバーには13.56メガヘルツの電力を供給するアモルファス光起電力セルの連続的製造装置。」が記載されていると云える(以下、甲3発明という)。
本件発明と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「沈積チャンバー」は、本件発明の「放電室」に相当するが、甲3発明の「クリーニングチャンバー」は、文言どおりクリーニングで沈積しないから、両者は、本件発明では、陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下であるのに対して、甲3発明では、沈積チャンバーの陽極に印加する交流電圧の周波数は13.56メガヘルツで一定である点で相違している。なお、沈積しないクリーニングチャンバーと沈積チャンバーとの陽極に印加する交流電圧の周波数の差をみても5kHzよりはるかに大きい。
したがって、本件発明は甲第3号証に記載された発明であるとは云えない。
甲第4号証には、上記(l)〜(n)の記載から「成膜容器がRF印加電極を有するロール・ツー・ロール方式を採用した連続プラズマCVD装置。」が記載されていると云える(以下、甲4発明という)。
本件発明と甲4発明とを対比すると、甲4発明では成膜容器がRF印加電極を有するから、両者は、本件発明では、陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下であるのに対して、甲4発明の成膜容器の陽極に印加する交流電圧の周波数はRFで一定である点で相違している。
したがって、本件発明は甲第4号証に記載された発明であるとは云えない。
ところで、本件発明は、少なくとも2層以上の多層薄膜を形成するプラズマ装置において「放電室内のプラズマに印加される電圧は陽極印加電圧と基体の電位の差となり、第一の陽極印加波形と第二の陽極印加波形の周波数と位相によってビートが生じ、実際にプラズマに印加される電圧は印加電圧とは大きな違いを生じる。特に第一と第二の電源の周波数が近い場合はビートの周期が長くなり実効印加電圧が低くなると放電が不安定になったり、放電が止まったりして、成膜された薄膜の特性が劣化したりばらつきを生じる」(本件特許公報第2頁第3欄第22〜29行)という従来技術における課題を解決しようとすることを目的とするものであって、その課題を「複数の放電室は各々陽極を有し、前記陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下である」ことにより解決するものである。
ここで甲第1号証には、複数の電極からの高周波どうしに干渉が生ずる旨の記載があるが、これはあくまで一つの反応室に複数の放電電極を有する場合である。してみると、少なくとも2層以上の多層薄膜を形成するために各々陽極を有する複数の放電室を使用する場合に、上記の課題が甲第1号証に示唆されているとは云えない。
さらに、甲第1号証には「陽極に印加する交流電圧の周波数の差」を特定の「50Hz以上5kHz以下である」ことに選択することを示唆する記載もない。
また甲第2〜4号証には、「陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下である」点については何も記載されていないし、示唆もされていない。
本件発明は、上記解決手段の構成を具備することにより、明細書記載の「それぞれの放電電圧のビートによるプラズマの不安定が解消され、安定で均一な膜を提供する」という効果を奏する。
したがって、本件発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
3-2.特許法第36条第4〜6項違反の主張について
特許異議申立人は、(1)プラズマが完全に分離された放電室を複数有する場合には、プラズマが不安定になる本件発明の課題が生じないので、請求項1の記載は効果を奏さない部分をも含むものである、(2)高周波電力を用いた場合、50Hzは誤差範囲内であって制御不能な領域であるから、請求項1の記載は効果を奏さない部分をも含むものである、(3)周波数差が大きくなった場合、請求項1の記載は効果を奏さない部分をも含むものである旨の主張をしている。
そこで検討すると、上記訂正の結果、「真空中に配置された複数の放電室」となり、ガスゲートで完全に分離された放電室は含まなくなったので、(1)の主張は採用することができない。次に(2)の主張については、本件特許明細書において、20050Hz以内の周波数の高周波電力では制御可能であることが実施例で示されており、高周波電力を用いた場合、50Hzは誤差範囲内であって制御不能という立証もないので、請求項1の記載をもって記載不備であるとまでは云えない。また、(3)の主張については、上記訂正の結果、周波数差の上限が定まったことにより採用することができない。
また、当審の取消理由通知の理由2(1)で指摘した「請求項1の記載が第1の放電室と第2の放電室における基体が別々の場合を含む」という取消理由は、上記訂正の結果、基体は「複数の放電室にまたがって連続した」となったので解消された。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、平成6年改正法附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プラズマ装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 真空中に配置された複数の放電室を有し、前記複数の放電室にまたがって連続した導電性の基体が対向電極として真空中で移動することにより前記基体上に少なくとも2層以上の薄膜を形成するプラズマ装置であって、前記複数の放電室は各々陽極を有し、前記陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下であることを特徴とするプラズマ装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、真空中において基体上に薄膜を形成するプラズマ装置に関し、特に多層薄膜の形成に優れたプラズマ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、真空を利用したプラズマ装置は半導体分野や記録メディアの分野でそれぞれ高集積化、高密度化を目的として広く用いられている。これらの装置では一般に、真空槽内に放電室と基体(基体ホルダに取り付けられ固定されている場合や基体搬送系の働きで移動する場合などがある)を有しており、これによりプラズマ化した材料を基体表面に付着させ、薄膜形成や保護膜形成に利用している。さらに薄膜を多層化しそれぞれの層に機能分担させ総合的な薄膜の高性能化を図る取り組みがなされている。
【0003】
以下に従来のプラズマ装置について説明する。
図1はプラズマ装置の概略を示す図である。図1において、1は基体、2は巻だし軸、3は巻き取り軸、4は第一の放電室、8は第二の放電室、5、9は陽極、6、10は交流電源、7、11はモノマーガス供給パイプ、12は真空槽、である。
【0004】
以上のように構成されたプラズマ装置について、以下その動作について説明する。まず、基体1を巻だし軸2に取り付け巻き取り軸3に巻き回し、真空槽12を真空ポンプ(図示せず)で10-5torr程度まで排気する。次にモノマーガスを供給パイプ7を通して第一の放電室4に供給し、交流電源6により陽極5に電圧を印加して基体1との間にグロー放電を生じさせ放電室内をプラズマ状態にすることにより、モノマーガスは基体上に第一の重合膜として堆積する。同様に第二の放電室8にもモノマーガスを供給パイプ11を通じ供給し電圧を印加することにより基体上に第二の重合膜として堆積する。基体1を巻きだし軸2から巻き取り軸3に順次巻き取ることにより連続的にそれぞれ機能の異なる薄膜を多層形成することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記の従来の構成では、対向電極として導電性の基体1を使用しているためにグロー放電電流は基体1を流れアースに落ち、このときオームの法則により電圧効果が生じ基体1の放電室に対向する位置の電位がアース電位より上昇する。すなわち基体1の電位はアース電位で一定ではなく第一の放電電流と第二の放電電流によって生じる電圧降下の合成された交流電位を持っていることになる。つまり放電室内のプラズマに印加される電圧は陽極印加電圧と基体の電位の差となり、第一の陽極印加波形と第二の陽極印加波形の周波数と位相によってビートが生じ、実際にプラズマに印加される電圧は印加電圧とは大きな違いを生じる。特に第一と第二の電源の周波数が近い場合はビートの周期が長くなり実効印加電圧が低くなると放電が不安定になったり、放電が止まったりして、成膜された薄膜の特性が劣化したりばらつきを生じるという問題点を有していた。
【0006】
本発明は上記従来の問題点を解決するもので、安定で均一な膜を提供するとともに、効率的に多層薄膜を成膜できるプラズマ装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明のプラズマ装置は、第一の放電室の陽極に印加する電源の周波数に対して、第二の放電室の陽極に印加する電源の周波数は50Hz以上異なっている構成を有している。
【0008】
【作用】
この構成によって、第一と第二の電源の周波数のビート周波数は、50Hz以上となり常に安定な放電が得られる。
【0009】
【実施例】
以下本発明の一実施例について、金属磁性薄膜を真空蒸着法によって形成した磁気テープの保護膜をプラズマCVD法によって形成する場合を例にとって説明する。
【0010】
図2は金属薄膜テープの断面図であり、13はポリエステルフィルムなどの高分子フィルムやアルミニューム薄膜などの非磁性金属薄膜からなる基板である。14は強磁性金属薄膜からなる磁気記録層でコバルト、ニッケル、鉄またはそれらを主成分とする合金を電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの真空蒸着法によって、基板13の上に形成されている。15a、15bはプラズマCVD法によって形成された硬質炭素膜からなる保護膜層で、16はカルボン酸やフッ素系潤滑剤からなる潤滑剤層、17はバックコート層でポリウレタンなどの樹脂中にカーボンブラックなどの充填剤を分散させた塗膜からなっている。保護膜層15a、15bはそれぞれ金属薄膜、潤滑剤と密着性のよい性質になるよう適宜原料ガスが選択される。
【0011】
本実施例では第一の放電室では、メタンガスとアルゴンガスを等量放電室に供給し放電室内の真空度を0.1Torrに保ち、陽極には交流電圧を実効値で650V印加して保護膜を約5nm形成し、さらに第二の放電室では、メタンガスとアルゴンガスをそれぞれ3:7の割合で放電室に供給し放電室内の真空度を0.3Torrに保ち、陽極には交流電圧を実効値で900V印加して保護膜を約10nm形成した。それぞれの電源の周波数を変えて保護膜を形成し磁気テープを作製した。保護膜の出来映えは磁気テープをVTRで繰り返し走行し、その出力変化を調べ評価した。
【0012】
その結果を(表1)に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
繰り返し耐久性は、23℃15%の環境で200パス繰り返し走行を行い、初期出力と200パス後の出力を比較した。試料はそれぞれの実験水準でテープ原反の長手方向で50巻について測定した。
【0015】
(表1)から明らかなように、本発明によって形成された保護膜を有する磁気テープは、繰り返し走行後の出力低下が少ない値を示している。しかしながら、電源周波数が近い時は、出力低下の大きいものがありばらつきが大きくなっている。
【0016】
なお、本実施例ではプラズマに電圧を印加する電源として交流電源を使用したが公知の直流バイアスを付加した交流電源でもよい。
【0017】
また本実施例では、金属テープの保護膜用のプラズマ装置について説明したが導電性の基体を対向電極とするプラズマ装置においても同様の作用効果を有するものである。
【0018】
【発明の効果】
以上のように、本発明のプラズマ装置によれば、それぞれの放電電圧のビートによるプラズマの不安定が解消され、安定で均一な膜を提供するとともに、効率的に多層薄膜を成膜できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のプラズマ装置の概略図
【図2】
本発明の実施例で作製した磁気テープの断面図
【符号の説明】
1 基体
2 巻きだし軸
3 巻き取り軸
4 第一の放電室
8 第二の放電室
5、9 陽極
6、10 交流電源
7、11 モノマーガス供給パイプ
12 真空槽
13 基板
14 金属磁性薄膜層
15a、15b 保護膜層
16 潤滑剤層
17 バックコート層
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2970344号発明の明細書を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち、
(1)訂正事項a
請求項1の「【請求項1】真空中で移動する導電性の基体を対向電極として、基本上に薄膜を形成する放電室を複数有するプラズマ装置において、各々の放電室に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上あることを特徴とするプラズマ装置。」を「【請求項1】真空中に配置された複数の放電室を有し、前記複数の放電室にまたがって連続した導電性の基体が対向電極として真空中で移動することにより前記基体上に少なくとも2層以上の薄膜を形成するプラズマ装置であって、前記複数の放電室は各々陽極を有し、前記陽極に印加する交流電圧の周波数の差が50Hz以上5kHz以下であることを特徴とするプラズマ装置。」と訂正する。
異議決定日 2000-10-24 
出願番号 特願平5-260824
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C23C)
P 1 651・ 534- YA (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮澤 尚之  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1999-08-27 
登録番号 特許第2970344号(P2970344)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 プラズマ装置  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  

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