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審決分類 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C12N
管理番号 1031941
異議申立番号 異議2000-71159  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-17 
確定日 2000-11-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2952041号「培養ダイズ細胞のAGROBACTERIUM媒介形質転換の改良法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2952041号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2952041号は、平成5年7月26日に特許出願され、平成11年7月9日に設定登録されたところ、異議申立人 柘植昌夫より異議の申立てがなされ、これを受けて平成12年6月16日付取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年10月6日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
特許権者は、平成12年10月6日付訂正請求書により、明細書の訂正を請求しているので、先ずこの訂正が認められるか否かについて検討する。
(1)訂正の内容
(a)特許請求の範囲の請求項1に記載の「下胚軸または培養子葉節由来の外植片を、」を「培養子葉節由来の外植片を、凝集現象を制限する条件下で、」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項1に記載の「Agrobacterium種細胞」を「Agrobacterium tumefaciensの細胞」と訂正する。
(c)特許請求の範囲の請求項1に記載の「Agrobacterium」を「Agrobacterium tumefaciens」と訂正する。
(d)特許請求の範囲の請求項2に記載の「Agrobacterium」を「Agrobacterium tumefaciens」と訂正する。
(e)特許請求の範囲の請求項5に記載の「以下の工程を包含する」を「該再生する工程が以下の工程を包含する」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(a)については、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「高濃度の細菌を接種しようと試みるときに直面する問題の1つは、細菌細胞の凝集の傾向であった。凝集により、植物細胞に付着するのに用いられ得る細菌数が減少した。沈降した細菌を再懸濁するとすぐに凝集が始まり、この凝集率は濃度依存性であった。これはまた、培地の機械的混合の程度にも依存した。共存培養培地(細菌が再懸濁される)の組成もまた凝集に影響し得る。・・・形質転換頻度の相当な増大は、凝集現象を制限し、その効果による接種条件を用いて達成された。第一に、接種は、混合を最少限にして、室温で高い開始濃度で行った。第二に、それらは、各外植片に対し新しく再懸濁した対数増殖期のAgrobacteriumのペレットを接種するように、バッチ式で行った。外植片は、可能な限り最も高い濃度での利用可能な細菌の存在下で(すなわち、個々の細胞数をかなり減少させる凝集をする前に)、接種物で傷つけた。第三に、接種期間は、所定のバッチの最後の外植片を傷害してから開始して30分ぐらいとした。時間をこれより長くしても形質転換頻度を増大することはなかった。」(第6欄3〜25行)と記載されているから、本件発明を「凝集現象を制限する条件下で、」実施することは明細書に記載されているということができる。さらに、上記訂正事項(a)は「下胚軸または培養子葉節由来の外植片」を「培養子葉節由来の外植片」に限定している。
そうすると、上記訂正事項(a)は、特許明細書に記載された範囲内において、請求項1を「培養子葉節由来の外植片を、凝集現象を制限する条件下で、」と限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項(b)は、「Agrobacterium種」を「Agrobacterium tumefaciensの」と限定したものであり、また、上記訂正事項(c)及び(d)は「Agrobacterium」を「Agrobacterium tumefaciens」と限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項(e)は、「ダイズ植物を再生する工程」に関する発明である請求項5において、工程a、b及びcが再生する工程に含まれることを明らかにするものであり、このことは実施例3〜8などに記載されているから、「明りょうでない記載の釈明」に該当する。
(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立て
(1)本件請求項1ないし7に係る発明
本件請求項1ないし7に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】以下の工程を包含する、遺伝子型に依存しない、トランスジエニックダイズ植物の生成方法: a.発芽させたダイズ種子の培養子葉節由来の外植片を、凝集現象を制限する条件下で、108から3×108細胞/mlの濃度のキメラ遺伝子を含むAgrobacterium tumefaciensの細胞と共に、アセトシリンゴン、α-ヒドロキシアセトシリンゴン、アセトバニロン、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、シナピン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択されるシグナル化合物の存在下で共存培養する工程; b.18〜28℃の共存培養温度を維持する工程;および c.植物培養培地pHをpH6.0未満にまで低下させることにより該Agrobacterium tumefaciensの毒性を誘導する工程。
【請求項2】前記共存培養がAgrobacterium tumefaciensの順次接種により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記キメラ遺伝子が種子貯蔵タンパク質遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】前記キメラ遺伝子がBertholletia excelsa由来の2S貯蔵タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】子葉節からダイズ植物を再生する工程をさらに包含する、請求項1から4に記載の方法であって、該再生する工程が以下の工程を包含する、方法: a.該節を分割する工程; b.該分割した節を、栄養培地上で力ルス組織が発達するまで培養する工程であって、該組織がシュートを含む、工程;および c.該カルスから該シュートを切り取り、そしてホルモンおよびピログルタミン酸を含有する栄養培地上で該シュートを発根させて幼植物を形成する工程。
【請求項6】前記発根培地がGamborg培地である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】前記幼植物が、土を含む培地に移され、該幼植物から完全植物が生じるまで該培地上で生育される、請求項5に記載の方法。」
(2)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人 柘植昌夫は、下記の甲第1号証及び甲第2号証を提出し、訂正前の本件請求項1〜7は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないと主張しており、具体的には、(ア)発明の詳細な説明の項においてダイズ組織での形質転換技術の構成およびその効果が具体的に記載されているAgrobacterium種細菌は、Agrobacterium tumefaciensのみであって、他の『Agrobacterium種細菌』については、本件特許発明の目的を達成できるか否かについては記載がなく、また示唆もされていない、(イ)Agrobacterium媒介形質転換した外植片から再生植物を得るための構成およびその効果が発明の詳細な説明に具体的に記載されているのは、子葉節由来の外植片についてのみであって、下胚軸由来の外植片をAgrobacterium媒介形質転換した外植片からは再生植物が得られるか否かについては何等具体的な記載がなく、また示唆もない、(ウ)特許請求の範囲に記載される『108から3×108細胞/mlの濃度の』Agrobacterium種細胞を培養子葉節由来の外植片と共に共存培養する工程を含む方法については、遺伝子型に依存せずにトランスジェニックダイズ植物を生成するという本件特許発明の目的及び効果が達成されるとは直ちには理解することができない、及び(エ)特許請求の範囲には、本件発明の目的を達成する上で必要な外植片との共存培養において必要な高濃度のAgrobacteriumを提供するための手段、具体的には凝集の問題を解決するための手段が記載されていない、というものである。

刊行物1:Plant Cell, Tissue and Organ Culture, 8, p3-15, 1987
刊行物2:BIO/TECHNOLOGY, 6, p915-922, 1988
(3)甲各号証の記載内容
上記刊行物1には、(イ)「植物を遺伝子操作するために最も広く用いられる系は、Agrobacterium tumefaciens 及びAgrobacterium rhizogenesにそれぞれ由来するTi(腫瘍誘導性)及びRi(根誘導性)プラスミドに基づく。」(第3頁下から20〜19行)との記載、
(ロ)「Agrobacterium感染に感受性の遺伝子型を同定するための試みとして、選択されたダイズ、G. soja及びG. canescens遺伝子型の温室試験が開始された。3種のAgrobacterium株が使用された:A208(ノパリン型)、A281(アグロピン型)およびC58CI(pRi8196)(Agrobacterium rhizogenes, マンノピン型)。植物は5週間後に数えられた。このスクリーンの結果を表1に示す。」(第7頁14〜18行)との記載、
(ハ)「AgrobacteriumA208株は、反応を示した全てのダイズ品種に対して試験された3個の株の中で明らかに最も病原性が強かった」(第7頁下から15〜13行)との記載、
(ニ)「Agrobacterium rhizogenes C58CI(pRi8196)株は、試験したどの遺伝子型に対しても、腫瘍または毛状根の形成を示さなかった。」(第7頁下から10〜9行)との記載、及び
(ホ)「肉眼で見える腫瘍形成のパーセントおよび腫瘍の大きさは、種と遺伝子型間で大きく異なった。感受性の遺伝子型は、オクトピン株、アグロピン株及び A. rhizogenes株と比べて、A. tumefaciens のノパリン株に対して高い反応性を示した。」(第3頁アブストラクト3〜5行)との記載がある。
上記刊行物2には、(ヘ)「この子葉の再生系は、トランスジエニックダイズ植物の生産のために優れた手段であることが証明された。シュート形成は迅速で増殖性があり、これらのシュートの大部分が可稔性の植物へと発育した。さらに、この外植片は、再生可能な組織のAgrobacterium形質転換を可能にした。ダイズの他の再生系(子葉節、初生葉および未熟胚)については、Agrobacterium媒介形質転換によりトランスジエニック植物が得られたとの報告が未だない。これらの系では、Agrobacterium形質転換が、容易には再生しない細胞を標的にしたのかもしれない。」(第919頁左欄下から14〜3行)と記載されている。
(4)そこで、本件明細書の記載について検討する。
(ア)上記(2)(ア)について検討すると、本件発明において使用する細菌は、Agrobacterium種から、Agrobacterium tumefaciensに限定されたので、細菌の種類についての異議申立人の指摘の点は解消された。
(イ)上記(2)(イ)について検討すると、本件発明において使用する外植片は、培養子葉節由来のものに限定されたので、外植片の種類に関する異議申立人の指摘の点は解消された。
(ウ)上記(2)(ウ)について検討すると、本件明細書には、「ダイズ細胞の形質転換の成功は、接種物における細菌の濃度にも依存する。一般に、細菌数が大きくなることにより、より多くの形質転換が達成される。」(第5欄40〜42行)と、また「本発明者らの実験は、この数が、3×108 生存細胞/mlで、あるいはそれを超える濃度で細菌を1回30分接種することにより行い得、そして3×107 細胞/mlの従来濃度(・・・)では、かなり低すぎることを示唆した。」(第5欄45〜49行)と記載されていることから、形質転換を最適に行うには、3×108 生存細胞/mlを超える濃度が好ましいが、一方、3×107 細胞/mlという従来濃度では低すぎるということであって、その間の108から3×108細胞/mlという濃度範囲においては、形質転換の成功と濃度の関係は連続的に変化していくものと考えられるから、本件発明は、たまたま、その間の濃度範囲を選んだにすぎないものであって、この濃度範囲では、形質転換が不可能であるとまでは言うことができない。
したがって、この点で本件明細書の記載が不備であるとはいえない。
(エ)本件明細書では、高濃度の菌を接種するときには、凝集の問題が生じると記載されているが(第6欄3〜5行)、特許請求の範囲において、共存培養の第一工程を「凝集現象を制限する条件下で」実施するということが明らかにされた。そして、明細書には、かかる「凝集現象を制限する条件」として、具体的には濃度(第6欄7〜8行)、機械的混合の程度(第6欄8〜9行)及び共存培養培地の組成(第6欄9〜10行)等が挙げられており、上記の「凝集現象を制限する条件」とはこれらを総称する条件であることも明らかである。
このため、この点に関する異議申立人の指摘事項も解消されたといえる。
したがって、上記訂正により、本件発明の構成及び効果に関する異議申立人主張の点は全て解消されたものと認められる。
4.むすび
以上述べたように、本件出願は、明細書に当業者が容易に実施しうる程度に本件発明の構成及び効果が記載されていると認められ、また、特許請求の範囲には本件発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されていると認められるから、本件出願が特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないということはできない。
また、他に本件特許出願に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
培養ダイズ細胞のAGROBACTERIUM媒介形質転換の改良法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】以下の工程を包含する、遺伝子型に依存しない、トランスジェニックダイズ植物の生成方法:
a. 発芽させたダイズ種子の培養子葉節由来の外植片を、凝集現象を制限する条件下で、108から3×108細胞/mlの濃度のキメラ遺伝子を含むAgrobacterium tumefaciensの細胞と共に、アセトシリンゴン、α-ヒドロキシアセトシリンゴン、アセトバニロン、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、シナピン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択されるシグナル化合物の存在下で共存培養する工程;
b. 18〜28℃の共存培養温度を維持する工程;および
c. 植物培養培地pHをpH6.0未満にまで低下させることにより該Agrobacterium tumefaciensの毒性を誘導する工程。
【請求項2】前記共存培養がAgrobacterium tumefaciensの順次接種により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記キメラ遺伝子が種子貯蔵タンパク質遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】前記キメラ遺伝子がBertholletia excelsa由来の2S貯蔵タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】子葉節からダイズ植物を再生する工程をさらに包含する、請求項1から4に記載の方法であって、該再生する工程が以下の工程を包含する、方法:
a. 該節を分割する工程;
b. 該分割した節を、栄養培地上でカルス組織が発達するまで培養する工程であって、該組織がシュートを含む、工程;および
c.該カルスから該シュートを切り取り、そしてホルモンおよびピログルタミン酸を含有する栄養培地上で該シュートを発根させて幼植物を形成する工程。
【請求項6】前記発根培地がGamborg培地である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】前記幼植物が、土を含む培地に移され、該幼植物から完全植物が生じるまで該培地上で生育される、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
発明の分野
本発明は、Agrobacterium媒介形質転換によるトランスジェニックダイズ植物の生成に関する。
発明の背景
ダイズ(Glycine max)は、世界で最も重要な作物植物の1つである。油およびタンパク質の生産のために、5000万ヘクタールを超えて生育されている1年生マメ科植物である。作物の生産価値は、200億ドルを越えると評価される。毎年、1億メートルトンを超えるダイズが生産される。マメ科植物の遺伝子転移技術の開発は、耐病性、除草剤に対する抵抗性、および栄養価を増大するように改良した新規な栽培品種の開発が容易となるため、商業的に重要である。しかし、ダイズの改良のための分子学的アプローチは、トランスジェニックダイズ植物を生成するのに利用可能な技術に制限される。
いくつかの重要な作物植物を包含する多くの植物は、Agrobacterium媒介遺伝子転移を用いて遺伝的に改変されている。McCormickら, (1986) Plant Cell Rep. 5, 81-84;Radkeら, (1988) Theor. Appl. Genet. 75, 685-694;Umbeckら, (1987) Bio/Technology 5, 263-266;BottemanおよびLeemans, (1988) Trend in Genetics 4, 219-222。不運にも、これらの双子葉植物種のいくつかの遺伝子型はAgrobacterium感染に感受性であっても(Facciottiら, (1985) Biotechnology 3, 241-246;OwensおよびCress (1985) Plant Physiol. 77, 87-94;Byrneら, (1987) Plant Cell Tissue and Organ Culture 8, 3-15)、形質転換にAgrobacteriumを使用することは、利用可能で有効な形質転換および再生の手順がないことにより制限される。
最近まで、ダイズはAgrobacteriumの宿主範囲外にあると考えられていた。DeCleeneおよびDeLey (1976) Bacterial Rev. 42, 389-466。最近の報告では、ダイズは、ダイズ遺伝子型およびAgrobacterium株に依存して、Agrobacteriumに対して感受性が制限されていることを示唆した。Byrneら, (1987) Plant Cell Tissue Organ Cult. 8, 3-15。たった1種のダイズのみ(Peking)が形質転換に成功しているが、この変種は市場価値がない。この形質転換可能な変種のわずかなトランスジェニックダイズ植物がAgrobacteriumと再生可能な外植片との共存培養により生成されている。Hincheeら, (1988) Bio/Technology 6, 915-922。Agrobacterium媒介法によるダイズの形質転換が市販可能になるためには、この方法は、より抜きの商業的栽培品種の直接的形質転換が可能になるようにしなければならない。
これらの問題に加えて、ダイズは再生が最も困難なGlycine種であることが知られている。外植片は根を容易に生成せず、さらにトランスジェニック材料の栽培を行うことはほとんど不可能である。このため、形質転換および再生に用いられる方法は、現在まで信頼性がなく効果がないままであった。
従って、本発明の目的は、植物細胞に感染し、その植物細胞にT-DNAを転移してそこで発現させる、Agrobacterium種の改良法を提供することである。
本発明の別の目的は、ダイズ植物細胞に感染し、この細胞を形質転換するAgrobacterium種の能力を高めるための、この種の新規な誘導培地を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、ダイズ外植片から完全植物への再生のための、新規な成長培地および方法を提供することである。
本発明のプロセスは、ダイズ組織でのAgrobacterium媒介形質転換技術およびそのトランスジェニックダイズ植物への再生において大きな改良を示す。
発明の要旨
本発明に従って、トランスジェニックダイズ植物の生成のための簡単で迅速な信頼性のあるプロセスが提供される。方法は、より抜きの商業的栽培品種を包含するすべてのダイズ変種に有効であり、今までに用いられたシステム以上に相当な改良を示す。これは、この方法が、ダイズの形質転換および再生に必要でありこれまで欠けていた要因を提供し、そして健常で可稔性のトランスジェニック植物生成を成功させるために、これらおよび他の要因を最適化するからである。
本発明は、以下の工程を包含する、遺伝子型に依存しないトランスジェニックダイズ植物の生成方法を包含する:
(a)発芽させたダイズ種子の下胚軸または培養子葉節由来の外植片を、キメラ遺伝子を含むAgrobacterium種と共に、アセトシリンゴン、α-ヒドロキシアセトシリンゴン、アセトバニロン、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、およびシナピン酸、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるシグナル化合物の存在下で共存培養する工程;
(b)28℃より低い温度での共存培養によりAgrobacteriumの毒性を誘導する工程;および
(c)植物培養培地のpHをpH6.0より低く低下させることによりAgrobacteriumの毒性を誘導する工程。
このプロセスは、ダイズ下胚軸または子葉節外植片と、目的の1つまたは複数の遺伝子を挿入されるプラスミドを有するAgrobacterium種との共存培養を包含する。ダイズ外植片は、供給植物から採取され、培養においてカルスを生成し得る一片のダイズ組織である。ダイズ下胚軸組織は、子葉の下部で根の上部のダイズ植物胚または実生の軸の部分である。子葉は胚葉であり、そして子葉節は胚軸と子葉との間の実生部であり、これは下胚軸と上胚軸との区別を植物学的に規定する(胚シュート)。
培養ダイズ細胞の形質転換にかなり影響するいくつかの要因が、本発明の達成において同定された。これらのうち最も重要なことは、共存培養の間シグナル分子の正しい使用によるAgrobacteriumの毒性(vir)遺伝子の誘導であると思われる。培養ダイズ細胞は、形質転換プロセスを開始させるのに必要なシグナル分子を有さないか、または限られた量で有する。これらの結果は、一般に、ダイズ形質転換のためのvir遺伝子の導入の重要性を認めているがこの問題を解決していない他の研究と一致する。Delzerら, (1990) Crop Sci. 30, 320-322;OwensおよびSmigocki (1988) Plant Physiol. 88, 570-573。本発明は、アセトシリンゴン(傷害を受けた植物細胞により生成されるフェノール性化合物)を用いて、vir遺伝子を誘導する。他のフェノール性化合物、α-ヒドロキシアセトシリンゴン、アセトバニロン、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、およびシナピン酸もまたvir遺伝子を誘導し、独立してまたはアセトシリンゴンと組み合わせたそれらの使用により、ダイズ形質転換の効果が改良され得る。共存培養プロセスで十分な量のシグナル分子を使用することにより、あらゆる場合において、形質転換頻度が高められた。
共存培養の温度が別の重要な要因であることが見出された。ダイズ細胞培養の通常の温度(26〜28℃)は、有効な形質転換には不適切である。温度をより低くすることにより、より有効な形質転換が行われる。28℃で観察された阻害は、より高い温度の細菌の過増殖およびその結果生じる植物細胞の生存の低下から生じるようではなかった。これは、硫酸カナマイシンを培地から除去したとき、両温度で共存培養した外植片は大きなカルスを生成したからである。共存培養中の培地pHもまた、形質転換率に影響する。低pH(pH 5.5)に緩衝化するような処理により高い効果が確実となる。理論により制限されることを意図しないが、これらの改良効果はシグナル分子反応作用に関連すると思われる。vir遺伝子誘導は温度およびpHに依存し、最適条件は約20℃およびpH 5.5であることが知られている。Alt-Moerleら, (1988) Mol. Gen. Genet. 213, 1-8。
ダイズ細胞の形質転換の成功はまた、接種物における細菌の濃度にも依存する。一般に、細菌数が大きくなることにより、より多くの形質転換が達成される。飽和濃度の細菌が存在し得るが、ここではダイズ細胞ではさらなる形質転換は生じず、この数は非常に大きいと思われる。本発明者らの実験は、この数が、3×108生存細胞/mlで、あるいはそれを超える濃度で細菌を1回30分接種することにより行い得、そして3×107細胞/mlの従来濃度(Deblaereら, (1987) Meth. Enzymology 153, 277-293)では、かなり低すぎることを示唆した。
しかし、本発明者らの実験では、真の接種飽和条件は特定され得なかった。連続接種により形質転換可能なダイズ細胞は、接種が非常に高い細菌濃度で行われるときであっても標的されることがないことが示された。高濃度の細菌を接種しようと試みるときに直面する問題の1つは、細菌細胞の凝集の傾向であった。凝集により、植物細胞に付着するのに用いられ得る細菌数が減少した。沈降した細菌を再懸濁するとすぐに凝集が始まり、この凝集率は濃度依存性であった。これはまた、培地の機械的混合の程度にも依存した。共存培養培地(細菌が再懸濁される)の組成もまた凝集に影響し得る。従って、植物細胞の急速な分裂の誘導およびAgrobacterium vir遺伝子の高レベル誘導に適切な完全植物細胞培地のみがこのプロセスにおいて用いられた。
形質転換頻度の相当な増大は、凝集現象を制限し、その効果による接種条件を用いて達成された。第一に、接種は、混合を最小限にして、室温で高い開始濃度で行った。第二に、それらは、各外植片に対し新しく再懸濁した対数増殖期のAgrobacteriumのペレットを接種するように、バッチ式で行った。外植片は、可能な限り最も高い濃度での利用可能な細菌の存在下で(すなわち、個々の細胞数をかなり減少させる凝集をする前に)、接種物で傷つけた。
第三に、接種期間は、所定のバッチの最後の外植片を傷害してから開始して30分ぐらいとした。時間をこれより長くしても形質転換頻度を増大することはなかった。連続接種により、頻度を適度に増大させた。この増大は、おそらく植物細胞を形質転換するのに利用可能な細菌の数の増加によると思われた。これらの実験から、ダイズ細胞は、高濃度のAgrobacteriumに長期間さらされることに耐え得ることが明らかである。
vir遺伝子誘導を確実にする条件を用い、必要な高濃度のAgrobacteriumを提供することにより、本発明者らは、初めて高頻度のダイズ形質転換を一貫して達成することができた。本発明の方法により、いくつかの異なるAgrobacterium株でこれらの頻度を得、そしてこの方法は、Agrobacterium感染に対するダイズ変種の本来の感受性により最低限の影響を受けるのみである。
形質転換後、外植片は、液体逆選択培地で培養され、次いで固形の選択培地に移される。このプロセスは、gusのようなトランスジェニックマーカーによる同定に関して、当該分野で記載されるように繰り返される。McCabeら, (1988) Bio/Technology 6, 922-926。シュートは、トランスジェニック外植片で公知の方法により誘導される。Wrightら, (1986) Plant Cell Reports 5, 150-154;Barwaleら, (1986) Planta 167, 473-481。シュートを切り取り、そしてピログルタミン酸をホルモン富化成長培地に加えることにより、根が容易に誘導される。これは、根はダイズ組織からまれにしか誘導されず、従ってホルモンフリー培地でのみ誘導されるという報告に反する。完全な成熟再生植物は、土壌での温室栽培に移された後に生成される。
発明の詳細な説明
本発明者らは、gus遺伝子を有するAgrobacterium tumefaciensとの共存培養後、ダイズ下胚軸細胞においてEscherichia coliからβ-グルクロニダーゼ(gus)遺伝子を発現させた。キメラのgusおよびネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子を有するバイナリープラスミドを中に含んでいる無害化したAgrobacterium株が、DNA転移のためのベクターであった。共存培養後、表1に挙げた市販栽培品種由来のダイズ下胚軸外植片を、100μg/ml硫酸カナマイシンを含有するカルス誘導培地(Hincheeら, (1988) Bio/Technology 6, 915-922)で培養した。形質転換は、下胚軸外植片がgus活性に対して組織化学的にアッセイされたときに、共存培養後3週間に評価づけされた。形質転換は、解剖顕微鏡(倍率10×)を用いて可視化された。これらの形質転換は、染色植物細胞のセクター(sector)として現れた。gus遺伝子のダイズ染色体への安定した組み込みは、染色セクター内の子孫の細胞集団における遺伝子活性の保持により示唆された。複数の別個の事象がいくつかの外植片で検出され得た。これらは、gus遺伝子を発現しない細胞により至る所で飛び出した。移植片の組は共に接種され、共存培養され、選択され、そして組織化学的にアッセイされた。各組は独立した実験単位であり、遺伝的差異(種子ロット内の)、外植片の配置(幼植物内の)、および外植片の大きさによる変化を補うのに十分な外植片数である。処理は、その中の外植片で検出された事象の総数を記録することにより評価された。この方法を用いて、持続した分裂が可能な形質転換細胞のみが評価された。この測定値は、バックグラウンドgus活性およびあらゆる残留細菌混入とも明らかに区別された。
シグナル分子。表1は、8つの異なるダイズ変種の下胚軸外植片を、アセトシリンゴン(100μM)の存在下および不在下で、接種し(30分)そして共存培養した(3日)実験の結果を示す。接種物は、最終濃度3×108生存細胞/mlで、アセトシリンゴンを添加してまたは添加しないで、10mM MESでpH 5.5に緩衝化した液体植物細胞培地中に、対数期Agrobacteriumを再懸濁することにより調製された。外植片は、接種物中で調製され、そこに30分間保持され、次いで3日間共存培養のために寒天固形化培地に移された。共存培養は22℃で行った。共存培養後、外植片は洗浄され、形質転換植物細胞の選択およびAgrobacteriaの逆選択のために抗生物質(カナマイシン)を含有する固形培地に移された。継代培養は28℃であった。形質転換セクターは、アセトシリンゴンが接種培地および共存培養培地に添加されたときにのみ生成された。形質転換セクターは、すべての変種で生成された。各変種(48外植片)で生成された形質転換セクターの平均数は、107であった。形質転換セクター数は、最低44(Cartter変種)から最高153(9391変種)までの範囲であった。継代実験では、少数の形質転換セクターが、アセトシリンゴンを経験しなかった外植片で生成されたが、このような事象の頻度は低すぎて実際に測定することはできなかった。
一晩細菌培養および植物培地を用いる細菌プレ培養期にアセトシリンゴンを含めても、形質転換頻度は増大しなかった。単糖類グルコースが接種培地および共存培養培地に取り入れられたとき、同様の結果が得られた(データ示さず)。すべての継代実験は、接種培地および共存培養培地に100μMでアセトシリンゴンを含んで行った。

温度。表2は、共通ペトリ皿に接種される下胚軸外植片を無作為に2組に分けた実験の結果を示す。この組(各24外植片)を、固形培地上で異なる温度(22℃および28℃)で、3日間共存培養した。共存培養後、すべての外植片を28℃で培養した。12回の別個の接種は、9341変種を用いて、3×108生存細胞/mlのAgrobacteriumで30分間行われた。22℃で共存培養した24個の外植片で生成された形質転換セクターの平均数は109であった。28℃形質転換セクターの平均数は1.4であった。この実験において、低温での共存培養から生じる形質転換頻度の増大は、約80倍である。すべての継代共存培養は22℃で行った。

pH。表3は、外植片を異なるpHレベル(5.5、5.75、および6.0)で接種し共存培養した実験の結果を示す。14回の別個の接種は、各pHで行われた。培地を10μM MESで緩衝化してpHの安定を確実にした。次いで共存培養が、同様に緩衝化した固形化培地で3日間行われた。pH6.0で24外植片で生成された形質転換セクターの平均数は、pH 5.5(286)またはpH 5.75(288)のいずれかで生成されたよりも有意に低かった(203)。これは、公表された結果では、アセトシリンゴンを用いたときに、Glycine maxにおいてpHの表示効果が全く示されなかったことに反する。Godwinら, (1991) Plant Cell Rep. 9, 671-675。すべての継代接種および共存培養は、pH 5.5に調整され、10μM MESで緩衝化された培地で行った。

接種物における生存細菌濃度。表4は、外植片に異なる濃度の細菌を接種した2つの実験の結果を示す。これらの実験に関し、対数期の一晩細菌培養物を沈降し、次いで適切な濃度への順次希釈により再懸濁した。各実験において、3つの別個の細菌希釈系列を共通一晩培養から調製した。前述の実験におけるように、48個の外植片を各接種物において調製し、そこで30分間保持し、固形培地で3日間共存培養した。48個の外植片の各接種に対して生成された形質転換セクターの総数を記録した。最初の3つの接種濃度:3×107、108、および3×108細胞/mlについて、より多くの形質転換セクターが、より多い細菌により生成された。これは、両実験およびすべての希釈系列に関していえる。

より高い接種濃度(109細胞/ml)では、形質転換頻度の増大は検出されなかった。この濃度で生成されたセクターの平均数は、それ以下の濃度の平均数と有意に違わなかった。従って、投与量/反応プロフィールは、細菌数が制限される濃度から細菌が飽和である濃度まで、3×108細胞/mlで変化する。
所定の濃度で生成される形質転換体の絶対数は、実験間でかなり変化する。各実験においてプラトーが見かけ上達成されるので、Agrobacteriaの数よりもむしろその状態が限定要因となるようである。異なるダイズ外植片調製物が形質転換の能力により変化したことも考えられる。第三に考えられることは、接種の真の長さが実験間で変化していることである。これはありそうにないことであるが、実験は、所定の濃度を飽和させるのに十分な接種期間を規定して行った。30分の期間は、最大数の事象を生じるように決定され、さらに時間を加えても何の効果も生じなかった(データ示さず)。
連続接種。Agrobacteriaをダイズ細胞に感染させる試みにおいて、48個のダイズ下胚軸外植片(9341変種)の組を、5×108生存細胞/mlで細菌を30分間、1回または2回接種した実験を行った。すべての外植片は3日間共存培養した。結果は表5に示す。形質転換セクターの平均数は、2回処理(315)の方が1回処理(286)よりも有意に高かった。連続接種により、さらに形質転換は生じ得ないようである。形質転換可能なダイズ細胞プールの真の飽和は1回接種により達成され、そして生存細菌数は、接種が非常に高濃度でなされたときであっても制限されたままである。しかし、形質転換に至る連合の大部分は、最初の30分接種で生じている。

感受性および耐性ダイズ遺伝子型。表1に示した結果は、試験したすべてのダイズ変種は、本発明の方法を用いてAgrobacteriumにより形質転換され得ることを示した。Agrobacterium媒介形質転換に対するダイズ変種の相対的感受性を決定するために、推定耐性変種(Corsoy 79およびCentury)の交雑組み合わせ検定を、感受性パートナーとしてPeking変種を用いて行った。接種は、異なる変種の外植片が共通の接種物において調製され得るように、ステンレスメッシュ分離器(0.5mm孔)を有するペトリ皿で行った。「耐性」変種の24個の外植片を、等しい数の「感受性」外植片を含む各12個の別個のペトリ皿中で調製した。結果は表6に示す。変種Pekingは、変種Centuryの約2倍の頻度および変種Corsoy 79の約3倍の頻度で形質転換された。変種に依存する感受性がこれらの実験により確認されているが、その程度(2〜3倍)は小さいので、多様なダイズ生殖質の形質転換にAgrobacteriumを用いることに関して重大な示唆を与えるほどではない。

Agrobacterium株。2つの互いの無害化されたAgrobacterium株と、オクトパイン(octopine)株であるLBA4404とを、ダイズ下胚軸細胞の形質転換を媒介する能力について比較した;それらは、L,L-スクシナモパイン(succinamopine)株EHA 101およびノパリン(nopaline)株C58-pz707であった。表7は、これらの各株の濃度を増大させて、Williams 82の下胚軸外植片への接種に用いる実験の結果を示す。48個の外植片を各濃度の各株に接種した。LBA4404をコントロールとして3×108生存細胞/mlで含有させた。両方の株で形質転換セクターが生じた。両方の場合において、形質転換頻度は、接種物における細菌濃度に依存し、細菌数が多いほど形質転換は多く生じた。試験したレベルでは、形質転換において、どちらもLBA4404と比較して相当な変化はみられなかった。

以下の実施例は、本発明に従って種々の適用を説明するが、決して本発明の範囲を限定する意図はない。
実施例1
ダイズ(Glycine max)種子(Pioneeer変種 9341)は、鐘状ガラス容器中で放出された塩素ガスに曝すことにより表面を滅菌した。ガスを、3・5mlの塩酸(34〜37% w/w)を100mlの次亜塩素酸ナトリウム(5.25% w/w)に加えることにより作製した。約1立方フィートの容量のコンテナ中で16〜20時間曝した。表面滅菌した種子を、室温でペトリ皿中に保存した。種子は、植物成長調節剤を含まないGamborgに従う1/10強度の寒天固形化培地[最小有機物を含むB5基本培地、Sigma Chemical Co., カタログ番号G5893、0.32 gm/L;ショ糖0.2% w/vおよび2-[N-モルホリノ]エタンスルホン酸(MES)、3.0mM]のプレートに置き、28℃で昼の長さを16時間にして、約20μEm2S1の弱い白色蛍光照明をあてて培養することにより、発芽させた。3、4日後、種子を共存培養用に調製し得た。種子の外皮を取り除き、伸長している幼根を子葉の下部3〜4mmで取り除いた。いくつかのペトリ皿のそれぞれにつき10個の得られた種子を保持した。
実施例2
1.0μg/mlのテトラサイクリンを含む最小A培地で対数期へと増殖した、バイナリープラスミド p12GUSBN17(DP1816)またはp12-4X(DP1813) を有するAgrobacterium tumefaciens LBA 4404株の終夜培養物をプールし、550nmでの吸光度測定を行った。かなりの容量の培養物を、沈澱して1.0×1010細胞と2.0×1010細胞との間の細胞が各管に集められるように、15mlの円錐形遠沈管に入れた。ここで、O.D.550 1.0=1.4×109細胞/mlである。沈澱は6000gで10分間の遠心により得た。遠心後、上清をデカントし、接種物が必要になるまで(しかし1時間は超えない)管を室温で保持した。
実施例3
接種を、各プレートの種子を新たに再懸濁したAgrobacteriumのペレットで処理するようなバッチで行った。ペレットを20mlの接種培地中に一度に再懸濁した。接種培地は、B5塩(G5893)、3.2gm/L;ショ糖2.0% w/v;6-ベンジルアミノプリン(BAP)、44μM;インドール酪酸(IBA)、0.5μM;アセトシリンゴン(AS)、100μMからなり、10mMのMESでpH5.5に緩衝化した。再懸濁はボルテックスにより行った。次いで接種物を、調製した種子を含むペトリ皿に注ぎ、子葉節を外科用メスで浸軟させた。これは、2つの子葉全体を保護する茎頂(shoot apex)を通り、経線部分で半分に種子を分けることにより行った。次いで2つの半分の茎頂は、外科用メスでそれらを取り除くことによりそれぞれの子葉を分解した。次いで子葉節を、外科用メスで対称な尖にそって切れ目を繰り返し付けることにより浸軟した。外植片から軸外側をまったく切断しないように気を付ける。20個の外植片をざっと5分間で調製し、次いで室温で30分間撹拌せずにインキュベートした。追加のプレートをこの間に調製した。外植片を0.2% w/vのGelrite (Merck & Co., Inc.)で固形化させた同じ培地のプレートに移して30分後に、この外植片を軸方向側を上にして培地の表面層に埋め、22℃で3日間、約20μEm2S1の弱い白色蛍光下で培養した。
実施例4
3日後に、外植片を液体逆選択培地に移した。逆選択培地は、B5塩(G5893)、3.2gm/L;ショ糖、2.0% w/v;BAP、5.0μM;IBA、0.5μM;バンコマイシン、200μg/ml;セフォタキシム、500μg/mlからなり、3mMのMESでpH5.7に緩衝化した。10個の外植片を各ペトリ皿中で、一定のゆっくりした旋回撹拌しながら室温で4日間洗浄した。逆選択培地は4回交換した。
実施例5
次いで外植片を寒天固形化選択培地に取り出した。選択培地は、B5塩(G5893)、3.2gm/L;ショ糖2.0% w/v;BAP、5.0μM;IBA、0.5μM;硫酸カナマイシン、50μg/ml;バンコマイシン、100μg/ml;セフォタキシム、30μg/ml;チメンチン(timentin)、30μg/mlからなり、3.0mMのMESでpH5.7に緩衝化した。選択培地を0.3% w/vのSeaKemアガロースで固形化した。外植片を軸方向を下にして培地に埋め、28℃で昼の長さを16時間にして60〜80μEm2S1の弱い白色蛍光照明をあてて培養した。
実施例6
2週間後、外植片を再び旋回シェーカー上で液体培地で洗浄した。今回は、洗浄を50μg/m1の硫酸カナマイシンを含む逆選択培地中で終夜で行った。次の日、外植片を寒天固形化選択培地に取り出した。再びそれらを培地中に軸方向を下に埋めた。培養をもう2週間、前のように行った。
実施例7
1カ月後選択培地上で、形質転換組織は、バックグラウンドの退色したあまり健常ではない組織に対して緑色セクターの再生組織として認められるようになった。緑色セクターのない外植片を放棄し、緑色セクターのある外植片を伸長培地(elongation medium)に移した。伸長培地は、B5塩(G5893)、3.2gm/L;ショ糖、2.0% w/v;IBA、3.3μM;ジベレリン酸、1.7μM;バンコマイシン、100μg/ml;セフォタキシン、30μg/ml;およびチメンチン、30μg/mlからなり、3.0mMのMESでpH5.7に緩衝化した。伸長培地は、0.2% w/vのgelriteで固形化した。それらは、軸方向を上にして埋め、前のように培養した。培養を、この培地で2週間おきに新鮮なプレートに移して継続した。シュートが0.5cmの長さになった場合、それを根元で切除し、13×100mmの試験管中の発根培地に置いた。発根培地は、B5塩(G5893)、3.2gm/L;ショ糖15gm/L;ニコチン酸、20μM;ピログルタミン酸(PGA)、900mg/L、およびIBA、10μMからなっていた。それは、3.0mMのMESでpH5.7に緩衝化し、0.2% w/vのGelriteで固形化した。10日後、シュートをIBAまたはPGAを含まない同培地に移した。シュートを発根させ、前と同じ環境条件下でこれらの管内に保持した。
実施例8
根系がうまく樹立した場合、幼植物をプラントコン(plant con)(ICN Biomedicals, Inc.,カタログ番号26-720&1-02)の中の滅菌した混合土に移した。温度、日長、および光強度は前のまま維持した。これらの条件下で、再生植物は、育ちが良く(小さいが)ほとんど正常の植物となった。それらの根系が再びうまく樹立された場合、プラントコンのコーナーを切り落とし、植物を環境チャンバーまたは温室で徐々に寒気に慣らした。最終的に、それらは混合土に鉢上げし、温室で成熟して種子を生じるまで生育させた。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)特許請求の範囲に「【請求項1】以下の工程を包含する、遺伝子型に依存しない、トランスジエニックダイズ植物の生成方法: a.発芽させたダイズ種子の下胚軸または培養子葉節由来の外植片を、108から3×108細胞/mlの濃度のキメラ遺伝子を含むAgrobacterium種細胞と共に、アセトシリンゴン、α-ヒドロキシアセトシリンゴン、アセトバニロン、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、シナビン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択されるシグナル化合物の存在下で共存培養する工程; b.18〜28℃の共存培養温度を維持する工程;および c.植物培養培地pHをpH6.0未満にまで低下させることにより該Agrobacteriumの毒性を誘導する工程。」とあるを、
「【請求項1】以下の工程を包含する、遺伝子型に依存しない、トランスジエニックダイズ植物の生成方法: a.発芽させたダイズ種子の培養子葉節由来の外植片を、凝集現象を制限する条件下で、108から3×108細胞/mlの濃度のキメラ遺伝子を含むAgrobacterium tumefaCiensの細胞と共に、アセトシリンゴン、α-ヒドロキシアセトシリンゴン、アセトバニロン、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、シナビン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択されるシグナル化合物の存在下で共存培養する工程; b.18〜28℃の共存培養温度を維持する工程;および c.植物培養培地pHをpH6.0未満にまで低下させることにより該Agrobacterium tumefaciensの毒性を誘導する工程。」と訂正する。
(2)特許請求の範囲に「【請求項2】前記共存培養がAgrobacteriumの順次接種により行われる、請求項1に記載の方法。」とあるを、
「【請求項2】前記共存培養がAgrobacterium tumefaciensの順次接種により行われる、請求項1に記載の方法。」と訂正する。
(3)特許請求の範囲に「【【請求項5】子葉節からダイズ植物を再生する工程をさらに包含する、請求項1から4に記載の方法であって、以下の工程を包含する,方法: a.該節を分割する工程; b.該分割した節を、栄泰培地上で力ルス組織が発達するまで培養する工程であって、該組織がシュートを含む、工程;および c.該力ルスから該シュートを切り取り、そしてホルモンおよびピログルタミン酸を含有する栄養培地上で該シュートを発根させて幼植物を形成する工程。」とあるを、
「【請求項5】子葉節からダイズ植物を再生する工程をさらに包含する、請求項1から4に記載の方法であって、該再生する工程が以下の工程を包含する,方法: a.該節を分割する工程; b.該分割した節を、栄泰培地上で力ルス組織が発達するまで培養する工程であって、該組織がシュートを含む、工程;および c.該カルスから該シュートを切り取り、そしてホルモンおよびピログルタミン酸を含有する栄養培地上で該シュートを発根させて幼植物を形成する工程。」と訂正する。
異議決定日 2000-11-02 
出願番号 特願平6-504746
審決分類 P 1 651・ 532- YA (C12N)
P 1 651・ 531- YA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 真由美深草 亜子  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 佐伯 裕子
田村 明照
登録日 1999-07-09 
登録番号 特許第2952041号(P2952041)
権利者 パイオニア ハイ-ブレッド インターナショナル,インコーポレイテッド
発明の名称 培養ダイズ細胞のAGROBACTERIUM媒介形質転換の改良法  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  

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