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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41M
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41M
管理番号 1031963
異議申立番号 異議1999-74454  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-29 
確定日 2000-09-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2898219号「熱転写記録媒体」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2898219号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2898219号は、平成7年5月2日に出願され、平成11年3月12日のその特許の設定の登録がなされ、その後、藤田肇より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされその指定期間内である平成12年4月24日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の可否について
2.1 訂正事項
a.特許請求の範囲の請求項4を削除する。
b.明細書段落番号【0048】を削除する。
2.2 訂正の目的、新規事項、拡張又は変更
上記訂正a.は、明りょうでない記載の釈明を目的として請求項4を削除するものであり、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、且つ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記訂正b.は、請求項4の削除に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させ、不明りょうな記載を釈明するものであり、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、且つ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2.3 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立についての判断
3.1 申立理由の概要
申立人 藤田肇は、証拠として、甲第1号証(特開平3-224796号公報)、甲第2号証(特開平7-25173号公報)、甲第3号証(特開平3-140295号公報)及び参考資料1(「キャボットカーボンブラック一覧表 インキ用、塗料用、プラスチック用、紙用」 東京材料株式会社発行)、参考資料2(「COLOUR CARBON BLACKS」 デグサ・ジャパン株式会社発行)を提出し、訂正前の請求項1〜4に係る発明は、参考資料1、2を参照すると、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に違反して、また、甲第2及び3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
また、本件明細書の記載には不明りょうな記載があり、特許法第36条の規定を満たさない出願に対し特許されたものである、と主張する。
3.2 本件発明
上記訂正は認められるので本件請求項1〜3に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 基材シートと、該基材シート上に設けられた少なくとも一層の熱溶融性インク層とを有する熱転写記録媒体において、
上記熱溶融性インク層が、125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100g以下の吸油量を有するカーボンブラックを含有し、該カーボンブラックの比表面積が25〜300m2/gであり、該熱溶融性インク層100重量部中に該カーボンブラックが30重量部以上含有されていることを特徴とする熱転写記録媒体。
【請求項2】 上記基材シートと上記熱溶融性インク層との間に剥離層を有する、請求項1記載の熱転写記録媒体。
【請求項3】 上記剥離層が、ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスからなる群から選択される1種又は2種以上のワックス成分を含有する、請求項2記載の熱転写記録媒体。」
3.3 甲号各証の記載
甲第1号証には、「基材フイルムの一方の面に加熱により溶融する転写インキ層を有する熱転写シートにおいて、上記インキ層に含まれるカーボンブラックが100m2/g以上の比表面積と130cc/100g以下の吸油量を有することを特徴とする熱転写シート」(請求項1)に関し、「以上の如き特性を有するカーボンブラックとしては、例えば、・・・・・・キャボット社製のモーガルL・・、デグサ社製のプリンテックス・・、同85・・・・・・・・・・等の銘柄が挙げられ、いずれも市場から入手して本発明で使用することが出来る。
かかるカーボンブラックのインキ層における濃度は20乃至30重量%の範囲が好ましく、この範囲未満であると印字濃度が不足し、一方、上記範囲を超えるとインキ層の溶融粘度が高くなりすぎる。」(第3頁右上欄第19行〜左下欄第12行)と記載されている。
また、実施例4には、「カーボンブラックとして三菱化成製#900(比表面積約150m2/g、吸油量約55cc/100g)22部を使用して6g/m2の厚みのインキ層を形成し、他は実施例1と同様にして本発明の熱転写シートを作成した。」と記載されている(第4頁右下欄第17行〜第5頁左上欄第2行)。
甲第2号証には、「 基材の一方の面に熱溶融性インキ層を備え、前記基材の他方の面にはアクリル樹脂とシリコン変性アクリル樹脂とからなる背面層を備えることを特徴とする熱転写シート。」(請求項1)に関し、「熱溶融性インキ層4は、顔料とバインダーとからなり、さらに必要に応じて種々の添加剤を加えたものでもよい。顔料は、ブラック単色印字用には勿論カーボンブラックが好ましく、多色印字用には、イエロー、マゼンタ、シアン等の有彩色顔料を使用する。多色印字用の場合、例えばイエローのインキ層、マゼンタのインキ層、シアンのインキ層を面順次に形成することができる。これらの顔料の使用量は、インキ層中で約5〜70重量%を占める割合が好ましい。」(段落【0014】)と記載され、実験例のうち、段落【0029】には、カーボンブラックを45.6重量%含む熱溶融性インキの組成が記載されている。
甲第3号証には、熱転写記録媒体に関し、実施例1には、固形分40重量%のワックスエマルジョンA 100重量部にSAK Black#7360(御国色素株式会社製の商品名)50重量部、サーフロンS-141(旭硝子株式会社製の商品名)0.1重量部、イソプロパノール20重量部からなるワックスエマルジョン塗液を、予め熱溶融性層が形成されたポリエステルシートの表面に塗布、乾燥し、熱溶融性色材層を形成した感熱記録媒体が記載されている(第6頁右上欄第16行〜第7頁左上欄第12行)。
参考資料1には、キャボット社製の「モーガルL」は、粒子径24mμ、比表面積138m2/g、着色力指数112、吸油量60(粉状)、55(粒状)cc/100gであることが記載されている。
参考資料2には、デグサ社製の「プリンテックス85」は、粒子径16mμ、比表面積200m2/g、着色力120、吸油量48(粉状)、46(粒状)ml/100gであることが記載されている。
3.3 対比判断
3.3.1 特許法第29条第1項第3項違反について
3.3.1.1 本件請求項1に係る発明(以下、本件発明1という。)について
本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、
「 基材シートと、該基材シート上に設けられた熱溶融性インク層とを有する熱転写記録媒体において、
上記熱溶融性インク層が、カーボンブラックを含有する熱転写記録媒体。」である点で一致するが、次の点で異なる。
a)本件発明1が、「125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100g以下の吸油量及び比表面積が25〜300m2/gを有するカーボンブラック」を熱溶融性インク層に含有するのに対し、甲第1号証に記載の発明は「100m2/g以上の比表面積と130cc/100g以下の吸油量を有するカーボンブラックを熱溶融性インク層に含有する点。
b)本件発明1が「熱溶融性インク層100重量部中にカーボンブラックを30重量部以上含有する」のに対し、甲第1号証に記載の発明は「熱溶融性インク層の顔料濃度が20乃至30重量%である」点。
相違点について検討する。
a) 参考資料1及び2には、甲第1号証に例示されているカーボンブラックのうち、キャボット社製の「モーガルL」、デグサ社製の「プリンテックス85」が、本件発明1の要件である「125以下の着色力指数、5〜60ml/100g以下の吸油量及び比表面積が25〜300m2/g」を満たすカーボンブラックであることが示されている。
しかし、甲第1号証に例示されているこれらのカーボンブラックは、「N倍モード法においても、印字の濃度や解像性等が改良された熱転写シートを提供する」(第2頁右上欄第19,20行)との目的でもって選定した、「100m2/g以上の比表面積と130cc/100g以下の吸油量を有するカーボンブラック」として例示されているにすぎない。
よって、それらのカーボンブラックの中から、本件発明1の上記相違点a)に係る要件に一致した着力指数、吸油量及び比表面積を有するものを選択することは開示されておらず、本件発明の目的である「印字中の走行性が良好であり且つ低エネルギー印字においても充分な黒色度を有する転写象を得ることができる熱転写記録媒体を提供すること」(本件特許公報段落【0007】)が達成できることを甲第1号証が開示しているとはいえない。
b)甲第1号証には、カーボンブラックのインキ層における濃度は20乃至30重量%の範囲が好ましいとされていて、30重量%の1点で本件発明1と一致しているにすぎない。
そして、カーボンブラックの濃度を30重量%とすることによって他の要件と相まって、本件発明1は上記目的を達成できるのに対して甲第1号証はこのことを示唆するものではない。
したがって、上記相違点a)及びb)に係る要件は甲第1号証に記載されているとはいえないので、本件発明1が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
3.3.1.2 請求項2〜3について
請求項2及び3は、請求項1を引用しさらに限定を付すものであるから、請求項1に係る発明の項で述べたと同様の理由により、甲第1号証に記載されているものとすることはできない。
3.3.2 特許法第29条第2項違反について
3.3.2.1 請求項1に係る発明について
甲第2号証には、「カーボンブラックの含有量が約5〜70重量%の範囲に含まれる熱溶融性インク層を有する熱転写記録媒体」が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第2号証に記載の発明とを対比すると、「基材シートと、該基材シート上に設けられた熱溶融性インク層を有する熱転写記録媒体において、上記熱溶融性インク層が、カーボンブラックを30〜70重量%含有する熱転写記録媒体。」である点で一致するものの、次の点で相違する。
a)本件発明1は、「125以下の着色力指数、5〜60ml/100g以下の吸油量及び比表面積が25〜300m2/g」の範囲に含まれるカーボンブラックを熱溶融インク層に使用するのに対して甲第2号証にはこのことは何も記載されていない。
相違点について検討する。
参考例1及び2には、キャボット社製の「モガールL」及びデグサ社製の「プリンテックス85」は、本件発明1の要件である「125以下の着色力指数、5〜60ml/100g以下の吸油量及び比表面積が25〜300m2/g」を満たすことが示されているが、これらのカーボンブラックはインク、プラスチック等に使用できることが示されているにすぎず、熱転写記録媒体の熱溶融性インクに適用できることを示唆する記載は見あたらない。
本件発明1は、「印字中の走行性が良好であり且つ低エネルギー印字においても充分な黒色度を有する転写像を得ることができる熱転写記録媒体を提供すること」(段落【0007】)を目的とするものであるのに対し、甲第2号証に記載の発明は「サーマルヘッドの滑り性に優れ、かつサーマルヘッドへのカス付着が極めて少ないとともに、ロール状態においてブロッキングを生じない熱転写シートを提供すること」(段落【0006】)を目的としている。
したがって、本件発明1の目的である「低エネルギー印字においても充分な黒色度を有する転写像を得ることができる熱転写記録媒体を提供すること」及びそのための特定物性のカーボンブラックを選定することを示唆するものは甲第2号証にはない。
また、 甲第3号証には、甲第2号証と同様に「カーボンブラックの含有量が約5〜70重量%の範囲に含まれる熱溶融性インク層を有する熱転写記録媒体」が記載されているが、「表面平滑度の低い普通紙等に対しても解像力の低下をきたすことがなく、良好な転写像を形成することが可能な感熱転写記録体の提供」(第2頁左下欄第3〜6行)を目的とするものであるから、本件発明1の目的及びそのための特定物性のカーボンブラックを選定することを示唆するものはない。
したがって、本件発明1が甲第2及び3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
3.3.1.2 請求項2及び3に係る発明について
請求項2及び3に係る発明は、請求項1の発明を引用しさらに限定を付すものであるから、請求項1に係る発明で述べたと同様な理由により、甲第1〜3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
3.3.3 特許法第36条違反について
本件明細書は、平成12年4月24日付けの訂正請求によって訂正され、特許法第36条の規定を満たしていない点は解消された。
4.まとめ
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱転写記録媒体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材シートと、該基材シート上に設けられた少なくとも一層の熱溶融性インク層とを有する熱転写記録媒体において、
上記熱溶融性インク層が、125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100gの吸油量を有するカーボンブラックを含有し、該カーボンブラックの比表面積が25〜300m2/gであり、該熱溶融性インク層100重量部中に該カーボンブラックが30重量部以上含有されることを特徴とする熱転写記録媒体。
【請求項2】 上記基材シートと上記熱溶融性インク層との間に▲剥▼離層を有する、請求項1記載の熱転写記録媒体。
【請求項3】 上記▲剥▼離層が、ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスからなる群から選択される1種又は2種以上のワックス成分を含有する、請求項2記載の熱転写記録媒体。
【請求項4】 (削除)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、熱転写記録媒体に関するものであり、更に詳しくは、充分な黒色度を有する転写像が得られ、走行性の改善された熱転写記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
熱転写記録方式は、シート状の基材上に少なくとも一層の熱溶融性インク層を設けてなる熱転写記録媒体を用い、この熱転写記録媒体をその熱溶融性インク層が被転写体に接するように重ね合わせ、熱転写記録媒体の基材側より加熱ヘッドにより熱溶融性インク層を加熱溶融して被転写体上に転写像を得る記録方式である。熱転写記録方式によれば、使用する装置が低騒音であり、また、操作性及び保守性に優れ、しかも普通紙を被転写体として使用可能であるため、近年広く用いられている。
【0003】
このような熱転写記録方式を用いて、普通紙等に転写像を記録するときには、例えばサーマルヘッドを備えた熱転写プリンターが一般に用いられる。しかし、熱転写プリンターの高性能化が進むにつれ、印字に必要な熱エネルギーをできるだけ低く抑えることが望まれるようになった。この理由は、印字に必要な熱エネルギーを従来よりも低く抑えることによって、ヘッドの加熱、放冷サイクルタイムが短縮され、ヘッドの熱劣化を防止でき、特にラインプリンタについては電源小型化等が可能になる為である。また、基材の耐熱性不足も補うことができる為である。しかしながら、印字に必要な熱エネルギーを低く抑えるためにインク組成物の融点を低く設計すると、普通紙上への印字に際してワックスの低融点成分に起因する地肌汚れが発生し、転写像の定着性、堅牢性も低下する他、保存中に環境温度が上昇すると、所謂ブロッキング現象も発生するという問題が生じてきた。
【0004】
これらの問題を解決するために従来は、熱溶融性インク層の結合剤への樹脂成分の導入(特開昭54-87234号公報、同54-163044号公報、同56-98269号公報、同62-130887号公報)、或いは、ワックスインクヘの樹脂系オーバーコート層の塗布(特開昭61-242893号公報)等で対処したきたが、複合化された要求をバランスよく満たす程のものは得られていなかった。
【0005】
また、上記基材の厚みを小さくして、熱の伝達を高めることによって低エネルギー印字を達成する試みもあるが、転写像の黒色度が低下するといった問題や、インクリボンの走行性が不安定になるといった問題等があった。
【0006】
更に、そのような厚みの小さい熱転写記録媒体からなるインクリボンを用いたインクリボンカセットにおいては、インクリボンの走行性を安定させ、印字品質を高めるために、インクリボンの走行を補助する駆動ローラを用いる必要があり、その結果、構成部品数が多くなり、製造コストが高くなるという欠点があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、印字中の走行性が良好であり且つ低エネルギー印字においても充分な黒色度を有する転写像を得ることができる熱転写記録媒体を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、駆動ローラを有しないインクリボンカセットに装着した場合でも、安定走行が可能で、高印字品質を達成し得る熱転写記録媒体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明者らは、鋭意研究した結果、熱溶融性インク層中に含有せしめる着色剤の物性値を制御することで、低エネルギー印字においても充分な黒色度を有する転写像を得ることができ、しかも、インクリボンの走行性の改善された熱転写記録媒体が得られることを知見した。
【0010】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、基材シートと、該基材シート上に設けられた少なくとも一層の熱溶融性インク層とを有する熱転写記録媒体において、
上記熱溶融性インク層が、125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100gの吸油量を有するカーボンブラックを含有し、該カーボンブラックの比表面積が25〜300m2/gであり、該熱溶融性インク層100重量部中に該カーボンブラックが30重量部以上含有されることを特徴とする熱転写記録媒体を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0011】
本発明は、熱転写記録媒体における熱溶融性インク層中に、着色剤として特定の物性値を有するカーボンブラックを含有せしめる点に主たる特徴がある。即ち、本発明の熱転写記録媒体は、熱溶融性インク層が、125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100gの吸油量を有するカーボンブラックを含有し、該カーボンブラックの比表面積が25〜300m2/gであり、該熱溶融性インク層100重量部中に該カーボンブラックが30重量部以上含有されることによって、低エネルギー印字においても充分な黒色度を有する転写像を得ることができ、しかも、走行性の向上も図られる。
本発明の熱転写記録媒体は、インクリボンの形態として使用されることが特に有用である。
【0012】
以下、本発明の熱転写記録媒体について詳細に説明する。
【0013】
上述の通り、本発明の熱転写記録媒体は、熱溶融性インク層に、125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100gの吸油量を有するカーボンブラックを含有せしめたものであり、該カーボンブラックの比表面積が25〜300m2/gであり、該熱溶融性インク層100重量部中に該カーボンブラックが30重量部以上含有されるものである。先ず、上記熱溶融性インク層に含有されるカーボンブラックについて説明する。
【0014】
上記カーボンブラックは、本発明の熱転写記録媒体において着色剤として使用されるものであり、その着色力指数が125以下、吸油量が5〜60ml/100g、及び比表面積が25〜300m2/gであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、熱分解法や不完全燃焼法などで得られるファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック及びチャンネルブラック等種々のカーボンブラックや導電性カーボンブラック等を使用することができる。上記カーボンブラックは、その着色力指数が125以下である。該着色力指数が125を超えると良好な分散性を有するインク塗料が得られなかったり、転写像の解像度が低下したり、走行性が悪化する。なお、上記着色力指数とは、標準ブラックの着色力を100としたときの条件下、ASTM N-440にて測定した値である。上記着色力指数は、10〜120であることが好ましく、30〜100であることが更に好ましい。
【0015】
【0016】
また、上記カーボンブラックは、その比表面積が25〜300m2/gである。該比表面積が25m2/gに満たないとインク塗料中における分散性が悪くなったり、黒色度が低下したり、黒ベタ被覆時のボイド増加の原因となり、300m2/gを超えるとインク塗料が増粘したり、転写像の解像度が低下したり、走行性が悪化したりする。なお、上記比表面積は、窒素吸着(BET)法にて測定した値である。上記比表面積は、30〜250m2/gであることが好ましく、40〜150m2/gであることが更に好ましい。
【0017】
【0018】
また、上記カーボンブラックは、その吸油量が5〜60ml/100gである。該吸油量が60ml/100gを超えるとインク塗料が増粘したり、転写像の解像度が低下したり、走行性が悪化したりする。なお、上記吸油量は、DBP(ジブチルフタレート法)(ASTM D2414-65T)にて測定した値である。上記吸油量は、10〜60ml/100gであることが好ましい。
【0019】
このように、本発明の熱転写記録媒体においては、上記カーボンブラックが、125以下の着色力指数、5〜60ml/100gの吸油量、及び25〜300m2/gの比表面積を有するが、これに加えて、その粒子径及び見掛け密度が下記の範囲にあることも好ましい。
即ち、上記カーボンブラックは、その粒子径が10〜80nmであることが好ましい。上記粒子径が10nmに満たないとインク塗料が増粘したり、転写像の解像度が低下したり、走行性が悪化する場合があり、80nmを超えるとインク塗料の分散性が悪くなったり、黒色度が低下したり、黒ベタ被覆時のボイド増加の原因になる場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。なお、上記粒子径とは、上記カーボンブラックの一次粒子径をいい、例えば、電子顕微鏡等によって測定することができる。上記粒子径は、20〜50nmであることが更に好ましく、20〜30nmであることが一層好ましい。
【0020】
更に、上記カーボンブラックは、その見掛け密度が200〜400g/cm3であることが好ましい。上記見掛け密度が200g/cm3に満たないとインク塗料の分散性が悪くなったり、黒色度が低下したり、黒ベタ被覆時のボイド増加の原因になる場合があり、400g/cm3を超えるとインク塗料が増粘したり、転写像の解像度が低下したり、走行性が悪化する場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。なお、上記見掛け密度は、例えば、一定容量の容器内に上記カーボンブラックを充▲填▼した時の重量から測定することができる。上記見掛け密度は、200〜350g/cm3であることが更に好ましく、250〜350g/cm3であることが一層好ましい。
【0021】
上記カーボンブラックは、上記熱溶融性インク層100重量部中に30重量部以上含有される。上記カーボンブラックの含有量が30重量部に満たないと黒色度が低下したり、走行性が悪化する。上記カーボンブラックの含有量は、30〜80重量部であることが好ましく、40〜60重量部であることが更に好ましい。
【0022】
上記熱溶融性インク層には、必要に応じて、例えば、多色印刷の目的で、上記カーボンブラックに加えて他の着色剤を含有せしめてもよい。そのような他の着色剤としては、オイルブラック、黒鉛等の黒色系染顔料;C.I.ピグメント・イエロー1、同3、同74、同97、同98等のアセト酢酸アリールアミド系モノアゾ黄顔料(ファストイエロー);C.I.ピグメント・イエロー12、同13、同14等のアセト酢酸アリールアミド系ビスアゾ黄顔料;C.I.ソルベント・イエロー19、同77、同79、C.I.ディスパーズ・イエロー164等の黄染料;C.I.ピグメント・レッド8、同49:1、同53:1、同57:1、同81、同122、同5等の赤顔料;C.I.ソルベント・レッド52、同58、同8等の赤色系染料;C.I.ピグメント・ブルー15:3等の銅フタロシアニン及びその誘導体、変性体等染顔料などが使用でき、また有色もしくは無色の昇華性染料、従来印刷インク、その他の着色用途で周知の染顔料が使用出来る。これら染顔料は単独でも2種以上を混合して用いてもよい。勿論、体質顔料や白色顔料と混合し、色調を調整してもよい。上記他の着色剤は、上記カーボンブラック100重量部に対して、0〜20重量部使用することが好ましい。更にまた、結合剤に対する分散性を改善するために着色剤表面を界面活性剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、高分子材料で処理したり、高分子系染料や高分子グラフト顔料を用いてもよい。
【0023】
次に、上記カーボンブラックが含有される上記熱溶融性インク層について説明する。
上記熱溶融性インク層は、上記カーボンブラックと結合剤とを含有し、加熱によって軟化・溶融して、被転写体へ移行するものであり、後述する基材シート上に少なくとも一層設けられる。
【0024】
また、上記結合剤としては、熱溶融性インク層に通常用いられている物質を特に制限なく使用することができるが、100℃における溶融粘度が2,500〜200,000cPの結合剤を用いることが望ましい。上記結合剤は、上記カーボンブラック100重量部に対して、100〜900重量部配合することが好ましい。
【0025】
上記結合剤として特に好ましいものは、高級脂肪酸多価アルコールエステルのイソシアネート重合物である。就中、100℃における溶融粘度が2,500〜50,000cP(特に4,000〜20,000cP)のものが好ましい。上記溶融粘度が2,500cP未満であると、ワックス同様、凝集力が弱く、均一な転写像の形成が困難になる場合があり、50,000cPを超えると、インクの切れが悪く、解像度の悪い転写像になるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0026】
上記高級脂肪酸多価アルコールエステルのイソシアネート重合物は、高級脂肪酸と多価アルコールとのエステル化物にイソシアネート化合物を付加反応して得られる。
【0027】
上記高級脂肪酸多価アルコールエステルを得るための高級脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、脂環式脂肪酸、含酸素脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸等を使用することができ、これらの脂肪酸中の炭素数は、2〜60であり、好ましくは5〜50であり、特に好ましくは10〜40である。本発明においては、特に融点が20℃以上で炭素数が10〜40の脂肪酸が好適に使用でき、例えばカプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、べヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸;アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、カプロレイン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、イワシ酸、ニシン酸、プロピオール酸、ステアロール酸などの不飽和脂肪酸;イソバレリアン酸などの枝分かれ脂肪酸、マルバリン酸、ステルクリン酸、ヒドノカルビン酸、ショールム-グリン酸、ゴルリン酸などの脂環式脂肪酸;サビニン酸、イプロール酸、ヤラピノール酸、ユニペリン酸、リシノール酸、セレブロン酸などの含酸素脂肪酸、12-ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸;を使用することができる。なかでも羊の皮脂腺より分泌されるラノリンをケン価分解して得られるラノリン脂肪酸を用いた場合が最も有効である。これらの脂肪酸は単独で用いても、又は2種以上併用してもよい。
【0028】
上記高級脂肪酸多価アルコールエステルを得るための多価アルコールとしては、飽和脂肪族ポリオール、不飽和脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、含酸素脂肪族ポリオール等を使用することができ、これらのポリオール中の炭素数は、1〜50であり、好ましくは1〜20であり、特に好ましくは2〜10である。本発明においては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキシレンジオール、オクチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,3-ブチレングリコール、グリセリンモノアリル、〔4-(ヒドロキシエトキシ)フェノール〕プロパン、ソルビトール、ソルビット、ネオペンチルグリコール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビスフェノール、水添ビスフェノール、ビスフェノールグリコールエーテル、各種エポキシ基含有化合物(例えば、トリグリシジルイソシアヌレート)等が用いられる。これら多価アルコールも単独で用いても、又は2種以上併用しても良い。
【0029】
上記高級脂肪酸多価アルコールエステルに付加させるイソシアネート化合物としては、モノイソシアネート、ジイソシアネート、トリイソシアネート等を使用することができ、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、n-プロピルイソシアネート、n-ブチルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等のモノイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トランスビニレンジイソシアネート、N,N’(4,4’-ジメチル-3,3’-ジフェニルジイソシアネート)ウレジオン、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート等のジイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(4-フェニルイソシアネートチオホスフェート)4,4’,4”-トリメチル-3,3’,3”-トリイソシアネート-2,4,6-トリフェニルシアヌレート等のトリイソシアネート;の各イソシアネートを用いることができる。特にジイソシアネート、トリイソシアネートが好適であり、更に芳香族系が好ましい。これらのイソシアネート化合物も、単独で用いても、又は2種以上併用しても良い。
【0030】
前記高級脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応は従来公知の如何なる方法によっても実施することができる。エステル化度は特に限定されない。また、前記の方法に従って調製された高級脂肪酸多価アルコールエステルと、前記イソシアネート化合物との付加反応は、従来公知の方法に従い、実施することができる。イソシアネート化合物の付加モル数は特に限定されないが、高級脂肪酸多価アルコールエステル1モル当たり、0.1〜5モル程度が好ましい。なお、上記高級脂肪酸多価アルコールエステルのイソシアネート付加物は市販品を用いることもでき、例えば吉川製油(株)製ラノックスFPK-210等が使用可能である。
【0031】
上記高級脂肪酸多価アルコールエステルのイソシアネート重合物は、他の結合剤、就中エチレン-酢酸ビニル共重合体と共に用いられることが特に好ましい。上記エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、メルトフローレートが5〜2000dg/min(特に5〜1000dg/min)のものが特に好ましい。上記メルトフローレートが5dg/min未満であるとインクの切れが悪く、解像度の悪い転写像になる場合があり、2000dg/minを超えるとインクの流れなどを起こし、正常均一な熱転写記録ができない場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0032】
上記エチレン-酢酸ビニル系樹脂は、上記高級脂肪酸多価アルコールエステルのイソシアネート重合物100重量部に対して、5〜900重量部配合することが好ましい。上記配合量が5重量部未満の場合には、地汚れ等の問題が生じる場合があり、900重量部を超えると転写像が耐磨耗性に欠けるほか、感度が低下し、高速印字の際の解像度の低下を来す場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0033】
また、上記熱溶融性インク層には必要に応じて、他の結合剤を添加してもよい。添加する結合剤としては、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、ビニル安息香酸、ビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、アミノスチレン等のスチレン、その誘導体及び置換体の単独重合体及び共重合体を用いることができる。更に、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート及びヒドロキシメタクリレート等のメタクリル酸エステル及びメタクリル酸;メチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸エステル及びアクリル酸;ブタジエン及びイソプレン等のジエン類;アクリロニトリル、ビニルエーテル類、マレイン酸及びマレイン酸エステル類、無水マレイン酸、ケイ皮酸並びに塩化ビニル等のビニル系単量体;の単独あるいは他の単量体との共重合体も用いることができる。勿論、前記ビニル系ポリマーの場合はジビニルベンゼン等の多官能単量体を用いて架橋ポリマーとして使用してもよい。更にまた、ポリカーボネート、ポリエステル、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、フェノール樹脂、テンペン樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、アルキド樹脂、ケトン樹脂及びセルロース誘導体等を用いてもよい。これらのポリマーもしくはオリゴマーを共重合体の形で使用する場合、その共重合体はランダム共重合体の他、要求用途に合わせて、交互共重合体、ブロック共重合体及び相互貫入型共重合体等の共重合様式を適宜選択して用いることができる。また、2種以上のポリマーやオリゴマーを混合して用いる場合には、溶融混合、溶液混合及びエマルジョン混合等の機械的混合の他、ポリマーやオリゴマー成分の重合時に共存重合や多段重合法等で混合してもよい。上記他の結合剤は、上記カーボンブラック100重量部に対して100重量部まで配合することが好ましい。
【0034】
更に、必要に応じて従来の熱転写記録媒体における熱溶融性物質で用いたようなワックス類、オイル類、(液体)可塑剤類、又は樹脂を、上記熱溶融性インク層に添加してもよい。また、この他、エチレン、プロピレン等のオレフィン系単独重合体もしくは共重合体、有機酸グラフトオレフィン系共重合体、塩素化パラフィン、低分子ウレタン化合物、常温で固体の可塑剤、界面活性剤等の帯電制御及び/もしくは防止剤、導電化剤、酸化防止剤、熱伝導率向上剤、磁性体、強誘導体、防腐剤、香料、ブロッキング防止剤、補強充▲填▼剤、離型剤、発泡剤、昇華性物質、赤外線吸収剤等を上記熱溶融性インク層中又はこれ以外の層中に添加してもよい。
【0035】
上記熱溶融性インク層の厚さに特に制限はないが、0.1〜10μm程度が好ましく、0.1μm以上5.0μm未満であることが更に好ましい。
【0036】
次に、上記熱溶融性インク層が設けられる基材シートについて説明する。
上記基材シートの材質としては、耐熱強度を有し、寸法安定性及び表面平滑性の高いものが好ましい。更に詳しくは、従来から熱転写記録媒体の基材シートに主として使われているコンデンサ紙、グラシン紙及び合成紙等の紙類やポリエチレンテレフタレートの他に、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミド及びポリアミド等の樹脂フィルムの薄膜シートやフィルム類が用いられる。上記基材シートの厚さに特に制限はないが、約0.5〜20μmの範囲が好ましく、0.5μm以上3.0μm未満の範囲が更に好ましい。
【0037】
本発明の熱転写記録媒体は、上記基材シートと上記熱溶融性インク層との間に▲剥▼離層を有することが好ましい。かかる▲剥▼離層は、上記熱溶融性インク層の▲剥▼離性を向上せしめる。その結果、転写感度が向上し、しかも、インクリボンの走行性も一層改善される。
【0038】
上記▲剥▼離層は、ワックス成分を含有する。かかるワックス成分としては、▲剥▼離性を有するものであれば、その種類に特に制限はない。例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、米糠ロウ、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、セラックワックス、モンタンワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド及び高級アルコール等を用いることができる。上記ワックス成分は、単独で用いても、又は2種以上併用してもよい。特に、上記▲剥▼離層が、ポリエチレンワックス及びパラフィンワックスから成る群から選択される1種又は2種以上のワックス成分を含有することが好ましい。就中、低エネルギー印字中のインクリボンの走行性に鑑みポリエチレンワックスを用いることが望ましい。
【0039】
上記ポリエチレンワックスとしては、例えば、エチレンの重合により製造されたもの、一般成形用ポリエチレンを熱分解により低分子量化する方法により得られたもの、一般成形用ポリエチレンを製造する際に副生する低分子量ポリエチレンを分離精製して得られたもの、一般成形用ポリエチレンを酸化して得られたもの等が挙げられる。就中、粒径分布を狭い範囲に調整できるという点で、ラジカル触媒による高温高圧下で重合する方法またはチーグラ触媒により低圧で重合する方法等により得られたものが好ましい。
【0040】
上記ポリエチレンワックスとして市販品も用いることができ、そのような市販品としては、三井ハイワックス(三井石油化学工業)、A-ワックス(BASF社)、AC-ポリエチレン(アライド・シグナル社)、エポーレン(イーストマン・ケミカル社)、ヘキストワックス(ヘキスト社)、サンワックス(三洋化成工業)、バレコワックス(バレコ社)及びサゾールワックス(サゾール社)、ポリワックス(東洋ペトロライト社)などが挙げられる。
【0041】
また、上記ワックス成分は、100℃における溶融粘度が15cP未満であることが好ましい。100℃における溶融粘度が15cP以上だと、印字中の▲剥▼離力の増加により熱転写記録媒体の走行性が低下する場合があるからである。なお、上記ワックス成分の溶融粘度は一般にその分子量及び密度に依存する。上記ワックス成分の溶融粘度は、更に好ましくは12cP未満であり、一層好ましくは7cP未満である。
【0042】
就中、上記▲剥▼離層に含有されるワックス成分は、100℃における溶融粘度が15cP未満であることに加えて、ASTM D-3104に基づく滴点が100℃以下であることが好ましい。滴点が100℃より高いと、低エネルギー印字中の▲剥▼離力の増加によりインクリボンの走行性に影響を及ぼすこともあり得る。上記滴点は、98℃以下であることが更に好ましい。
【0043】
また、上記▲剥▼離層には、上記▲剥▼離層の塗膜強度や柔軟性を向上させるために、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、ポリエチレン、石油樹脂等の樹脂類を添加してもよい。これら樹脂類は単独で用いても、又は2種以上併用してもよい。
【0044】
上記▲剥▼離層に含有される、上記ワックス成分及び上記樹脂類の配合割合に特に制限はないが、一般的な範囲としての上記ワックス成分の配合割合は、上記▲剥▼離層中、好ましくは1〜100重量%、更に好ましくは20〜99重量%であり、上記樹脂類の配合割合は、上記▲剥▼離層中、好ましくは0〜50重量%、更に好ましくは1〜20重量%である。
【0045】
上記▲剥▼離層の厚さには特に制限はないが、一般に0.1μm以上5.0μm未満であることが好ましく、特に0.1以上3.0μm未満であることが好ましい。▲剥▼離層の厚さがこの範囲であれば、▲剥▼離力の低下により、転写感度が向上するからである。
【0046】
なお、上記▲剥▼離層の厚さを0.1μm以上3.0μm未満とし且つ上記基材シートの厚さを通常よりも薄い0.5μm以上3.0μm未満とすると、一層充分な黒色度を有する転写像が得られ、しかも、走行安定性が一層向上するので好ましい。
【0047】
特に、上記▲剥▼離層の厚さを0.1μm以上5.0μm未満とし、上記基材シートの厚さを通常よりも薄い0.5μm以上3.0μm未満とし且つ上記熱溶融性インク層の厚さを通常よりも薄い0.1μm以上5.0μm未満とすると、更に一層充分な黒色度を有する転写像が得られ、しかも、走行安定性が更に一層向上するので特に好ましい。就中、後述するインクリボンカセットにおいて、インクリボンとして本発明の熱転写記録媒体を用い、該インクリボンを高速走行させる場合に有効である。
【0048】
(削除)
【0049】
また、本発明の熱転写記録媒体においては、上記基材シートの面のうち、上記熱溶融性インク層が設けられる面とは反対の面上に、耐熱性や走行性を更に向上せしめるためのバックコート層を設けてもよい。かかるバックコート層は、熱転写の熱源としてサーマルヘッドを用いた場合に特に有利である。
【0050】
上記バックコート層は、一般にニトロセルロース系、シリコーン系やフッ素系の化合物から成る。好ましくは、上記バックコート層は、アミノシリコーンレジン(例えば、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部にアミノ基導入せしめたシリコーンオイル)と多官能イソシアネート(例えば、TDI)との反応生成物又はシリコーン-ブチラール樹脂から成る。上記バックコート層の厚さは一般に0.01〜0.5μmであることが好ましいが、かかる範囲に限定されない。
【0051】
また、本発明の熱転写記録媒体においては、上塗層や通電発熱用抵抗層等を設けてもよい。
【0052】
次に、本発明の熱転写記録媒体の好ましい製造方法について説明する。
【0053】
本発明の熱転写記録媒体を製造するには、まず、上記基材シート上に、必要に応じて、上記ワックス成分等を塗布して▲剥▼離層を形成する。
【0054】
上記ワックス成分等を上記基材シート上に塗布する方法に特に制限はないが、例えば、ワイヤーコーターによって塗布する方法が挙げられる。
【0055】
次いで、基材シート上又は▲剥▼離層が形成された基材シート上に熱溶融性インク塗料を塗布して、熱溶融性インク層を形成する。
【0056】
上記熱溶融性インク塗料の調製は、上記結合剤を溶解又は安定に分散し得る溶媒若しくは分散媒中で溶液又は分散エマルジョンとし、ボールミル、サンドミル、アトライター、ダイノミル、3本ロール等の混合分散機により行うことができる。また、上記カーボンブラックの分散を上記の方法で行った後、微粒子を添加しホモミキサー、ディスパー、デッゾルバー等により攪拌混合してもよい。更に、溶媒等を用いることなく、3本ロール、ニーダー、サンドミル、アトライター等で溶融混合してもよい。
【0057】
このようにして調製された熱溶融性インク塗料は、上記基材シート上又は上記▲剥▼離層を形成した基材シート上にグラビアコーター、ワイヤーバー等を用いて溶液又は溶融コート法で塗布、印刷される。また、上記熱溶融性インク塗料をスプレードライ法により粉砕化し、その後、静電コート法等によって上記基材シート上又は上記▲剥▼離層上に粉体コートしてもよい。この場合、粉体コート後更に必要に応じて、加熱、加圧、溶剤処理等を行い、上記熱溶融性インク塗料を上記基材シート上又は上記▲剥▼離層上に定着して用いてもよい。
【0058】
次に、本発明の熱転写記録媒体を具備するインクリボンカセットについて図面を参照しつつ説明する。ここで、図1は、駆動ローラが配設されていないインクリボンカセットの一態様を示し、上ハーフを省略して下ハーフの内面をみた平面図であり、図2は、駆動ローラが配設されたインクリボンカセットの一態様を示し、上ハーフを省略して下ハーフの内面をみた平面図である。
【0059】
まず、図1に示す、駆動ローラが配設されていないインクリボンカセットについて説明する。図1に示すインクリボンカセットは、インクリボンとして本発明の熱転写記録媒体を具備し、駆動ローラが配設されていないことを特徴とするものである。一般に、インクリボンの厚さが通常よりも薄い場合には、インクリボンの走行性を安定化させるために、インクリボンの走行を補助する駆動ローラがインクリボンカセットに配設されるが、上記構成を有する本発明の熱転写記録媒体をインクリボンとして用いる場合には、上記駆動ローラを用いないインクリボンカセットにおいてもインクリボンの走行性は十分に安定しており、しかも、充分な黒色度を有する転写像が得られる。
【0060】
図1に示すインクリボンカセットは、上ハーフ及び下ハーフからなるカセット本体内に、インクリボンが巻回された一対の巻取ハブ、供給ハブを収納し、上記インクリボンを上記カセット内に配設された複数本のガイドローラ又はガイドピンを介して張設し、且つカセットの前端部に、印字ヘッド挿入用凹部を設けたものである。そして、上記インクリボンカセットには、上記インクリボンの走行を補助するための駆動ローラは配設されていない。更に、上記インクリボンとして、本発明の熱転写記録媒体が用いられている。
【0061】
即ち、図1に示すインクリボンカセットは、上ハーフ(図示せず)11及び下ハーフ12からなるカセット本体内に、インクリボン2が巻回された一対の巻取りハブ31、供給ハブ32を収納し、上記カセット本体の前端部に、外部に導出された上記インクリボン2を走行させるヘッド部4を有し、且つ上記インクリボン2の走行を案内する5個のガイドローラ65、66、67、68、69が配設されている。ガイドローラ65、66、67、68、69は、上記インクリボンの巻き込み等を防止する点からプラスチック製であることが好ましい。
【0062】
以上のように構成された図1に示すインクリボンカセット1においては、その使用時に上記インクリボン2は、図1に示す如く、上記供給ハブ32から上記ガイドローラ65の方向に引き出され上記ガイドローラ65によって反転された後、上記ガイドローラ66及び67を介して上記ヘッド部4へ導出され、該ヘッド部4を走行して上記ガイドローラ68を介してカセット本体内へ戻され、上記ガイドローラ69によって反転されて上記巻取ハブ31に巻き取られるように、その走行経路が形成される。なお、上記インクリボンカセット1は、反転使用可能なものである。
【0063】
次に、図2に示す、駆動ローラが配設されたインクリボンカセットについて説明する。なお、図2に関する説明において、図1と同じ点については特に詳述しないが、図1に関して詳述した説明が適宜適用される。また、図2において、図1と同じ部材については同じ符号を付した。
【0064】
図2に示すインクリボンカセットは、インクリボンとして本発明の熱転写記録媒体を具備し、駆動ローラを配設していることを特徴とするものである。図1に関して説明した通り、インクリボンとして本発明の熱転写記録媒体を具備するインクリボンカセットにおいては、インクリボンの走行を補助する駆動ローラを用いなくてもインクリボンの安定走行が十分に可能であるが、上記駆動ローラを用いるとインクリボンの走行がより一層安定化される。
【0065】
図2に示すインクリボンカセット1は、上ハーフ(図示せず)11及び下ハーフ12からなるカセット本体内に、インクリボン2が巻回された一対の巻取ハブ31、供給ハブ32を収納し、上記カセット本体の前端部に、外部に導出された上記インクリボン2を走行させるヘッド部4を有し、該ヘッド部4と上記巻取ハブ31との間に、上記巻取ハブ31に巻取られる上記インクリボン2の走行を補助する駆動ローラ51が配設され、且つ上記インクリボン2の走行を案内する4個のガイドローラ61、62、63、64が配設されており、該ガイドローラのうちの一個である上記ガイドローラ61は、上記駆動ローラ51と上記巻取ハブ31との間で上記駆動ローラ51の近傍に配設されており、且つ上記ガイドローラ61は、上記インクリボン2を、上記駆動ローラ51の表面の半周面以上と接触させた後上記駆動ローラ51との接触面の反対側と接触させて上記巻取ハブ31に案内するように配設されている。
【0066】
上記インクリボンカセット1においては、上記駆動ローラ52が上記ヘッド部4と上記供給ハブ32との間に上記駆動ローラ51と同様に配設されており、且つ上記ガイドローラ64が上記駆動ローラ52と上記供給ハブ32との間で上記駆動ローラ52の近傍に配設されている。
【0067】
また、上記駆動ローラ51は、図2に示す如く、上記ヘッド部4に対して上記巻取ハブ31側の前端部の隅部近傍に設けられており、上記上ハーフ11及び上記下ハーフ12に設けられた支持孔に回動自在に嵌挿されており、上記インクリボンカセット1の使用時に、駆動源(図示せず)に接続されて駆動し、上記巻取ハブ31に巻取られる上記インクリボン2の走行を補助するようになっている。
【0068】
そして、上記駆動ローラ51が上述の如く機能するようにインクリボンカセット1が使用される際、上記供給ハブ32側の上記駆動ローラ52は、駆動源に接続されず、上記インクリボン2にテンションを付与するテンション付与ローラとして機能し、上記供給ハブ32からの上記インクリボン2の引出しテンションの安定化を図っている。上記駆動ローラ51、52のローラ面51a、52aは、上記インクリボン2の巻き込み等を防止する点から、ゴム製ではなくプラスチック製であることが好ましい。
【0069】
上記ガイドローラ61、62、63、64は、図2に示す如く、上記ガイドローラ61が上記巻取ハブ31と上記駆動ローラ51との間に、上記ガイドローラ62及び63が上記駆動ローラ51、52との間に、また上記ガイドローラ64が上記供給ハブ32と上記駆動ローラ52との間にそれぞれ位置して、上記上ハーフ11及び上記下ハーフ12の内側面に設けられた支持ピン7、7にそれぞれ回動自在に嵌挿されており、上記インクリボン2を上記供給ハブ32から上記ヘッド部4を走行して上記巻取ハブ31へと案内するようになっている。
【0070】
以上のように構成された図2に示すインクリボンカセット1においても、上記駆動ローラ51及び52を用いることを除いては図1に示すインクリボンカセットと略同様の走行経路が形成される。また、図2に示すインクリボンカセットは、図1に示すインクリボンカセットと同様に反転使用可能なものであり、反転使用時には、上記駆動ローラ52が巻取り側に位置して上記駆動源に接続されて上記駆動ローラ51と同様に機能し、また上記駆動ローラ51が供給側に位置してテンション付与ローラとして上記駆動ローラ52と同様に機能し、更に、上記ローラ面52aが上記ローラ面51aと同様に作用する。
【0071】
図1及び図2に示すインクリボンカセットにおいて好ましくは、上記インクリボン2と上記ガイドローラ65〜69のローラ面65a〜69aとの摩擦係数(μ)又は上記インクリボン2と上記駆動ローラ51、52のローラ面51a、52aとの摩擦係数(μ)が0.1〜1.4である。摩擦係数(μ)を上記範囲内とすることによって、インクリボンの走行中にインクリボンが上記ガイドローラや駆動ローラに巻き込まれることが一層少なくなり、上記巻取ハブに一層円滑に巻き取られる。上記摩擦係数(μ)が0.1未満であると、上記ガイドローラや駆動ローラのローラ面でインクリボンが滑り、駆動力が低下し、1.4を超えると、インクリボンに皺等の変形が生じたり、インクリボンが上記ガイドローラや駆動ローラに巻き込まれることがあるので、上記範囲内とすることが好ましい。上記摩擦係数(μ)の更に好ましい範囲は0.1〜1.2である。
【0072】
また、図1及び図2に示すインクリボンカセットにおいて好ましくは、上記ガイドローラ65〜69のローラ面65a〜69a又は上記駆動ローラ51、52のローラ面51a、52aのショアーA硬度が55〜98である。ショアーA硬度を上記範囲内とすることによって、インクリボンと上記ガイドローラや駆動ローラのローラ面との付着がなくなり、インクリボンの走行安定性が一層向上する。上記ショアーA硬度が55未満であると、インクリボンと上記ガイドローラや駆動ローラのローラ面との付着が生じインクリボンの走行安定性が低下し、98を超えるとインクリボンが上滑りし易くなるので、上記範囲内とすることが好ましい。上記ショアーA硬度の更に好ましい範囲は80〜98である。なお、ショアーA硬度は、例えば、TEC LOCK社製のショアー硬度計(TYPE A)により測定することができる。
【0073】
また、図2に示すインクリボンカセットにおいて好ましくは、上記インクリボン2の上記駆動ローラ51、52への巻き付け角θが0〜270°である。巻き付け角θを上記範囲内とすることによって、インクリボンの走行中に、該インクリボンが上記駆動ローラ等に巻き込まれることなく、上記ガイドローラに案内されて上記巻取ハブに一層円滑に巻き取られる。上記巻き付け角θが270°を超えると、インクリボンが上記駆動ローラに巻き込まれて走行不可能になるおそれがあるので、上記範囲内とすることが好ましい。上記巻き付け角θの更に好ましい範囲は5〜225°である。
【0074】
更に、図1に示すインクリボンカセットにおいては、イ)プラスチック製ガイドローラを用いる要件、ロ)上記インクリボンと上記ガイドローラのローラ面との摩擦係数(μ)が0.1〜1.4である要件、及びハ)上記ガイドローラのローラ面のショアーA硬度が55〜98である要件のうちの任意の2つの要件を具備することも好ましく、更に好ましくは上記イ)〜ハ)の要件すべてを具備する。
【0075】
更に、図2に示すインクリボンカセットにおいては、ニ)プラスチック製駆動ローラを用いる要件、ホ)上記インクリボンと上記駆動ローラのローラ面との摩擦係数(μ)が0.1〜1.4である要件、へ)上記駆動ローラのローラ面のショアーA硬度が55〜98である要件、及びト)上記インクリボンの上記駆動ローラヘの巻き付け角θが0〜270°である要件のうちの任意の2つの要件を具備することも好ましく、更に好ましくは上記ニ)〜ト)の要件うちの任意の3つの要件を具備し、特に好ましくは、上記ニ)〜ト)の要件すべてを具備する。
【0076】
また、更に、図1及び図2に示すインクリボンカセットにおいては、インクリボンとして、本発明の熱転写記録媒体を用い且つ該熱転写記録媒体における上記基材シートの厚さを通常よりも薄い0.5μm以上3.0μm未満とし且つ上記▲剥▼離層の厚さを0.1μm以上3.0μm未満とすることが主にインクリボンの走行性の点で効果的であり、上記熱溶融性インク層の厚さを通常よりも薄い0.1μm以上5.0μm未満とし、上記基材シートの厚さを通常よりも薄い0.5μm以上3.0μm未満とし且つ上記▲剥▼離層の厚さを0.1μm以上5.0μm未満とすることが特に効果的である。
【0077】
【実施例】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されない。なお、以下の説明において、特に示さない限り、部は重量部を意味する。
【0078】
〔実施例1〕
パラフィンワックス(HNP-10;日本精▲蝋▼製、100℃における溶融粘度;8cP、ASTM D-3104に基づく滴点;75℃)95部と、エチレン-酢酸ビニル共重合体5部とをボールミルを用いてトルエン溶剤中に分散して▲剥▼離層用塗料を調製した。そして、この▲剥▼離層用塗料を、ワイヤーバーコーターを用いて、シリコーン系バックコートを塗布した厚さ2.5μmのPETフィルム(基材シート)上に塗布し、厚さ1.0μmの▲剥▼離層を設けた。
【0079】
次に、下記の配合物をトルエン溶剤中に固形分20wt%にて仕込み、ボールミルにて20時間分散して熱溶融性インクを調製した。そして、得られた熱溶融性インクを上記▲剥▼離層の上にワイヤーバーコーターを用いて塗工し、乾燥させて固形分のみとし、厚さ2μmの熱溶融性インク層を有する目的の熱転写記録媒体を得た。
【0080】
・カーボンブラック 40部
(デグザ製;Printex-95、着色力指数;117、比表面積;250m2/g、吸油量;52ml/100g、粒子径;15nm、見掛け密度;300g/cm3)
・エチレン酢酸ビニル共重合体EV260(5dg/min) 30部
・ラノリン脂肪酸多価アルコールエステルのイソシアネート重合物(100℃における溶融粘度:5000cP) 30部
・トルエン(溶剤) 400部
【0081】
このようにして得られた熱転写記録媒体を幅12.7mmにスリットして、インクリボンを得た。このインクリボンを図1に示すインクリボンカセットに組み込んだ。なお、このインクリボンカセットにはプラスチック製ガイドローラが配設されている。そして、上記インクリボンと上記ガイドローラのローラ面との摩擦係数(μ)は0.15であり、上記ガイドローラのローラ面のショアーA硬度は70であった。
このインクリボンカセットをシリアル型感熱転写プリンタ(松下電器産業(株)製、FW-U1P95 360DPI)によって普通紙(BEKK平滑度160秒)の上に印字を行い、転写像の黒色度を測定した。印字エネルギーと黒色度の関係を調べる為に、濃度調整レバーを操作して印加電圧を30.0〜36.5Vの間で変化させ、転写像の黒色度をマクベス濃度計(RD514型)で測定した。その結果、濃度1.2の転写像を得るのに必要な印加電圧は30.5Vであった。印字に際して地肌汚れは全く認められなかった。また、上記インクリボンの走行性は良好であった。
【0082】
〔実施例2〕
低分子ポリエチレンワックス(ポリワックス655;東洋ペトロライト製、100℃における溶融粘度;6cP、ASTM D-3104に基づく滴点;87℃)95部と、エチレン-酢酸ビニル共重合体5部とから形成される▲剥▼離層を用い、カーボンブラックとして下記のものを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、熱転写記録媒体を作製した。
・カーボンブラック(デグザ製;Printex-85、着色力指数;120、比表面積;200m2/g、吸油量;48ml/100g、粒子径;16nm、見掛け密度;300g/cm3)
このようにして得られた熱転写記録媒体を幅12.7mmにスリットして、インクリボンを得た。このインクリボンを図2に示すインクリボンカセットに組み込んだ。なお、このインクリボンカセットにはプラスチック製駆動ローラが配設されている。そして、上記インクリボンと上記駆動ローラのローラ面との摩擦係数(μ)は0.15であり、上記駆動ローラのローラ面のショアーA硬度は70であり、そして、上記インクリボンの上記駆動ローラヘの巻き付け角θは170°であった。
上記インクリボンカセットについて実施例1と同様の印字を試みた。転写像の黒色度をマクベス濃度計(RD514型)で測定した結果、濃度1.2の転写像を得るのに必要な印加電圧は31.0Vであった。また、インクリボンの走行性は良好であった。
【0083】
〔実施例3〕
キャンデリラワックス(特製特号;野田ワックス製、100℃における溶融粘度;14cP、ASTM D-3104に基づく滴点;72℃)95部と、エチレン-酢酸ビニル共重合体5部とから形成される▲剥▼離層を用い、カーボンブラックとして下記のものを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、熱転写記録媒体及びインクリボンカセットを作製し、印字を試みた。転写像の黒色度をマクベス濃度計(RD514型)で測定した結果、濃度1.2の転写像を得るのに必要な印加電圧は31.5Vであった。また、インクリボンの走行性は良好であった。
・カーボンブラック(三菱化学製;OIL 9B、着色力指数;108、比表面積;60m2/g、吸油量;54ml/100g、粒子径;40nm、見掛け密度;350g/cm3)
【0084】
〔比較例1〕
パラフィンワックス(HNP-10;日本精▲蝋▼製、100℃における溶融粘度;8cP、ASTM D-3104に基づく滴点;75℃)95部と、エチレン-酢酸ビニル共重合体5部とから形成される▲剥▼離層(厚さ1μm)を用い、上記PETフィルム(基材シート)の厚さを2μmとし、上記熱溶融性インク層の厚さを2μmとし、カーボンブラックとして下記のものを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、熱転写記録媒体及びインクリボンカセットを作製し、印字を試みた。転写像の黒色度をマクベス濃度計(RD514型)で測定した結果、濃度1.2の転写像を得るのに必要な印加電圧は36.5Vであった。また、インクリボンの走行性は、特に印字開始直後において不安定であった。
・カーボンブラック(キャボット製;MONARCH-1000;着色力指数;140、比表面積;343m2/g、吸油量;105ml/100g、粒子径;16nm、見掛け密度;175g/cm3)
【0085】
上記の結果から明らかな通り、熱溶融性インク層に125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100gの吸油量を有するカーボンブラックを含有させた実施例1〜3の熱転写記録媒体においては、転写像の黒色度が向上した。しかも、インクリボンの走行性は良好であった。また、基材シートと熱溶融性インク層との間に▲剥▼離層を設け、該▲剥▼離層に含有せしめるワックス成分の100℃における溶融粘度を15cP未満とすることにより、インクリボンの走行性が一層向上した。更に、上記ワックス成分の滴点を100℃以下にすることにより、インクリボンの走行性が更に一層向上した。
【0086】
これに対して、カーボンブラックの着色力指数が125を超える比較例1の熱転写記録媒体では、転写像の黒色度は高くない。更に、インクリボンの走行性は、特に印字開始直後において不安定であった。
【0087】
このように、本発明の熱転写記録媒体においては、熱溶融性インク層に含有されるカーボンブラックが125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100gの吸油量を有することによって充分な黒色度の転写像が得られ、印字品質が改善されることが分かった。しかも、インクリボンの走行性、特に低エネルギー印字における走行性が改善された。
【0088】
なお、上記実施例においては、被転写体として普通紙を用いた場合の効果を示したが、普通紙以外の被転写体、例えば、印刷用のネガ画像の作製やOHPシートの作製に用いられる透明シートを使用した場合にも、上記実施例と同様の効果が奏される。
【0089】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、上記熱溶融性インク層に125以下の着色力指数を有し且つ5〜60ml/100gの吸油量を有するカーボンブラックを含有させることにより、低エネルギー印字においても充分な黒色度を有する転写像が得られ、しかも、インクリボンの走行性の改善された熱転写記録媒体が得られる。
【0090】
また、上記▲剥▼離層を設けることにより、▲剥▼離性が改善され、走行性、特に、低エネルギー印字における走行性の一層向上した熱転写記録媒体が得られる。
【0091】
更に、本発明の熱転写記録媒体の基材シート、熱溶融性インク層及び▲剥▼離層の厚さを通常の場合よりも薄くすることによって、インクリボンカセット1巻当たりの印字数・量を増加させることができ、経済性が向上する。特に、駆動ローラを用いなくとも、インクリボンの安定走行が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の熱転写記録媒体を具備し、駆動ローラが配設されていないインクリボンカセットの一態様を示すものであり、上ハーフを省略して下ハーフの内面をみた平面図である。
【図2】
本発明の熱転写記録媒体を具備し、駆動ローラが配設されているインクリボンカセットの一態様を示すものであり、上ハーフを省略して下ハーフの内面をみた平面図である。
【符号の説明】
1 インクリボンカセット
2 インクリボン
4 ヘッド部
11 上ハーフ
12 下ハーフ
31 巻取ハブ
32 供給ハブ
51、52 駆動ローラ
61、62、63、64 ガイドローラ
65、66、67、68、69 ガイドローラ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2898219号の明細書を次のとおり訂正する。
A.特許請求の範囲の請求項4を不明りょうな記載の釈明を目的として削除する。
B.明細書段落番号【0048】の全文を、不明りょうな記載の釈明を目的として削除する。
異議決定日 2000-08-24 
出願番号 特願平7-108783
審決分類 P 1 651・ 537- YA (B41M)
P 1 651・ 113- YA (B41M)
P 1 651・ 121- YA (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 勲野田 定文  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 六車 江一
植野 浩志
登録日 1999-03-12 
登録番号 特許第2898219号(P2898219)
権利者 フジコピアン株式会社
発明の名称 熱転写記録媒体  
代理人 羽鳥 修  
代理人 羽鳥 修  

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