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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  F01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  F01N
管理番号 1032140
異議申立番号 異議2000-73503  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-10-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-13 
確定日 2001-01-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3023314号「流路分割パイプ、その曲げ方法及び2重管型排気パイプ」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3023314号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.請求項1ないし3に係る発明
特許第3023314号[平成8年7月22日出願(優先権主張平成8年1月24日)、平成12年1月14日設定登録。]の請求項1ないし3に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】車両エンジンの下流側に接続されるパイプと、
両端に設けたフランジ部にて前記パイプの内面に溶接され、前記パイプ内の排気ガス流路を2つ形成する仕切り板と
を備え、
前記仕切り板は、前記フランジ部が前記パイプの内面と当接する直前で所定の曲率半径をもって湾曲された湾曲部を備え、
前記湾曲部の曲率半径は、前記仕切り板の板厚以上であり、
前記フランジ部は、前記湾曲部との境界位置からオフセットした位置で前記パイプの内面とレーザ溶接されていることを特徴とする流路分割パイプ。
【請求項2】ストレート状の請求項1記載の流路分割パイプの内部に粒状物を充填した後、該流路分割パイプを所定角度に曲げることを特徴とする流路分割パイプの曲げ方法。
【請求項3】請求項1記載の流路分割パイプと、
前記流路分割パイプの外側を取り囲むように配置された外側パイプと
を備えたことを特徴とする2重管型排気パイプ。」

2.申立て理由の概要
申立人カルソニックカンセイ株式会社は、
(1)甲第1号証[特願平7-153447号(特開平9-4451号公報)]を提出し、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、
さらに、
(2)甲第2号証(特開昭59-162318号公報),甲第3号証[実願昭62-174367号(実開昭63-196425号)のマイクロフィルム],甲第4号証[実願昭58-130239号(実開昭60-37686号)のマイクロフィルム],甲第5号証(特開平5-200437号公報),及び甲第6号証[実願昭57-140865号(実開昭59-45221号)のマイクロフィルム]を提出し、請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、
特許を取り消すべき旨主張している。
(なお、申立理由(1)について、申立人の特許法第29条第1項の規定に基づく主張は、特許法第29条の2の規定に基づく主張が正しいと認められるので、上記のように記載した。)

3.甲第1ないし6号証記載の発明
(1)甲第1号証は、排気管の排気干渉防止構造に関し、排気管内に設けた仕切り板の熱変形に起因する応力緩和を図ることを目的とする。(明細書[0009]参照) その図3には、仕切り板26の両端部が折り曲げられて、排気管24の内面と当接する接触部26a,26bが形成され、この接触部で排気管に溶接(明細書[0024]参照)された構成が示され、仕切り板26は接触部26a,26bと仕切り部26cの間に所定の曲率を有する案内部26d,26eを有している。そして、明細書[0021]には、「仕切り板26の仕切り部26cに生じる熱膨張は、仕切り板26が案内部26d,26eの近傍で弾性変形することにより吸収される。また、熱膨張した仕切り板26が熱収縮する際には、仕切り板26の復元力により、熱膨張が生じる以前の状態が復元される。」旨の記載がある。図10には、排気管内部を4つの流路に分けるために、仕切り板26と同様の2枚の仕切り板40,42を設けた構成が示され、所定の曲率で曲げられた部分が案内部40d,40e、42d,42eとなっている。そして、明細書[0035]には、「仕切り板40,42は、・・・、それぞれ排気管24の内壁に接触する接触部40a,40b;42a,42b、排気管24内部を径方向に延在する仕切り部40c;42c、及びそれらの間に形成される案内部40d,40e;42d,42eを備えている。従って、仕切り板40又は42に生ずる熱膨張は、それぞれ案内部40d,40e;42d,42e近傍に生ずる弾性変形により吸収される。」旨の記載がある。さらに図7には、仕切り板32の仕切り部32cが緩やかなS字曲面を描き、排気管24の内面に当接する接触部32a,32b直前が板厚の数倍の曲率で緩やかに湾曲している構成(湾曲部)が示されている。
以上より、本件特許の請求項1に対応させて甲第1号証に記載された構成を示すと次のようになる。
「車両エンジンの下流側に接続される排気管24と、
両端に設けた接触部26a,26b;40a,40b、42a,42b;32a,32bにて前記排気管24の内面に溶接され、前記排気管24内の排気ガス流路を2つ形成する仕切り板26;40,42;32と
を備え、
前記仕切り板26;40,42;32は、前記接触部26a,26b;40a,40b、42a,42b;32a,32bが前記排気管24の内面と当接する直前で所定の曲率半径をもって湾曲された案内部26d,26e;40d,40e、42d,42e、若しくは湾曲部(図7)を備え、
前記湾曲部(図7)の曲率半径は、前記仕切り板32(図7)の板厚以上であり、
前記接触部26a,26b;40a,40b、42a,42b;32a,32bは、前記排気管24の内面と溶接されている流路分割パイプ。」
なお、申立人は、「図4から図6には、接触部26a,26bの端縁、すなわち、案内部26d,26eから最もオフセットした部位で仕切り板が溶接されている構成が示されている。」旨主張するが、図4ないし図6を見ても、当該構成が開示されているか否かは不明である。
(2)甲第2号証は、排気消音器の製造方法に関するものであり、第1頁右下欄第5〜7行には、「各隔板と外筒との接合手段としては一部ではガス溶接やアーク溶接が用いられるが、スポット溶接による場合が多い。」と記載され、第2頁右上欄第13行〜左下欄第10行には、外筒と内部の隔板のフランジとをレーザ溶接で接合する旨、そしてとくに、レーザ溶接ではエネルギー密度を集中できるので隔板のフランジを小さくできるとの記載がある。
(3)甲第3号証は、車両の排気パイプに関し、排気干渉防止のため大きなスペースを要することなく排気流を分流可能とした構造を開示する。第11図,第12図に示された構造では、排気パイプを形成する筒体18内部を2つの流路に区分するため挿入される隔板12の両端が互いに反対方向に屈曲されて、筒体内面と接触するフランジ部121,122となっている。隔板12はそのフランジ部121,122で筒体にスポット溶接され、その溶接位置123はフランジ部の折り曲げ部からオフセットしている。(明細書第9頁第20行〜第10頁第4行参照)
以上より、本件特許の請求項1に対応させて甲第3号証に記載された構成を示すと次のようになる。
「車両エンジンの下流側に接続される筒体18と、
両端に設けたフランジ部121,122にて前記筒体18の内面に溶接され、前記筒体18内の排気ガス流路を2つ形成する隔板12と
を備え、
前記フランジ部121,122は、前記フランジ部121,122が前記筒体18の内面と当接し始める位置からオフセットした溶接部123で前記筒体18の内面とスポット溶接されている流路分割パイプ。」
なお、申立人は、「図面には積極的に湾曲部が描かれていないが、板材の隔板を屈曲してフランジ部を形成すれば、製造上、屈曲部の曲率半径が0(ゼロ)ということはあり得ず、必ず所定の曲率半径が生じる。」旨主張する。しかしながら、当該屈曲部は製造上生じる僅かなものであって、耐熱耐久性の向上を目的として湾曲部を積極的に形成する本件請求項1に係る発明とは根本的に相違する。
(4)甲第4号証は、自動車の燃料配管等に使用され、流路を弾性仕切板で区分するセパレート管に関する。その第3図〜第5図には、断面S字形の弾性仕切板4が管体1内に接合されて流路を2つに区分している。とくに第5図のものでは、弾性仕切板4の両端部のパイプとの接合面5a,5bを大きくしてパイプ内面との密着面積を大としている。(明細書第3頁第19行〜第4頁第16行参照) 弾性仕切板4の断面S字形により、その接合面直前は緩やかな湾曲部となっており、その曲率半径は弾性仕切板の数倍である。
(5)甲第5号証は、パイプの曲げ加工方法に関する。図3の(c)には加工対象例として、多穴パイプ、すなわち流路が複数に区分されているパイプが示され、明細書[0002]には、このようなパイプの曲げ加工部の断面が変形して流路断面積が減少する問題点が指摘されている。そして、その対策として、明細書[0003]には、「最も一般的な方法としては、曲げ加工部に砂を充填して曲げ加工し、曲げ加工後に砂を排出する方法がある。」と記載されている。
(6)甲第6号証は、車両用排気ガス導管に関し、2重管構造を開示している。すなわち、第3頁第9〜19行には、第3図および第4図を参照して、「第3図は、本考案に係る車輌用排気ガス導管の一実施例を示したものである。排気管5a及び5bは、それぞれ第4図に示すように断面形状を、半円扇形にした小径の扇形排気管からなるもので、この二つの扇形排気管5a,5bを二個合体させて一つの円形排気管群6を構成している。この管群6の外側に大径の円形外管7を設けて、これら円形排気管群6と円形外管7で二重の排気管Bにして先端に取り付けたフランジ8を介して図示しないエンジンのマニホールドに接続している。」
の記載がある。

4.対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
(1-1)申立理由(1)について
本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証に記載の「排気管24」,「接触部26a,26b;40a,40b、42a,42b;32a,32b」,「仕切り板26;40,42;32」,「案内部26d,26e;40d,40e、42d,42e、若しくは湾曲部(図7)」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「パイプ」,「フランジ部」,「仕切り板」,「湾曲部」に相当する。
したがって、両者は、
「車両エンジンの下流側に接続されるパイプと、
両端に設けたフランジ部にて前記パイプの内面に溶接され、前記パイプ内の排気ガス流路を2つ形成する仕切り板と
を備え、
前記仕切り板は、前記フランジ部が前記パイプの内面と当接する直前で所定の曲率半径をもって湾曲された湾曲部を備え、
前記湾曲部の曲率半径は、前記仕切り板の板厚以上であり、
前記フランジ部は、前記パイプの内面と溶接されている流路分割パイプ。」
の点で一致するものの、甲第1号証に記載の発明は、本件請求項1に係る発明を特定する事項である「前記フランジ部は、前記湾曲部との境界位置からオフセットした位置で前記パイプの内面とレーザ溶接されている」事項を備えていない。
そして、当該事項により、本件請求項1に係る発明は、「湾曲部のみならずフランジ部もオフセットした分だけ伸縮可能となるため、より伸縮幅が大きくなり、耐久性が一層向上する。レーザ溶接によりビードを細くすることができるため、この流路分割パイプを曲げるときに溶接した部分が破損しにくい。」という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
なお、申立人は、「甲第1号証では、上位概念の溶接の語により、レーザ溶接をはじめ、何れの溶接法でも任意に選択可能としているものである。」旨主張する。しかしながら、本件請求項1に係る発明は、レーザ溶接を選択することにより、「ビードを細くすることができるため、この流路分割パイプを曲げるときに溶接した部分が破損しにくい。」という顕著な効果を奏するものであるから、当該主張は採用しない。
(1-2)申立理由(2)について
本件請求項1に係る発明と甲第2ないし6号証に記載の発明とを対比すると、甲第2ないし6号証のいずれにも、本件請求項1に係る発明を特定する事項である「車両エンジンの下流側に接続される流路分割パイプにおいて、前記仕切り板は、前記フランジ部が前記パイプの内面と当接する直前で所定の曲率半径をもって湾曲された湾曲部を備え、前記湾曲部の曲率半径は、前記仕切り板の板厚以上である」事項を備えていない。
そして、当該事項により本件請求項1に係る発明は、「湾曲部の存在により耐熱耐久性が向上する。」という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、甲第2ないし6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、甲第4号証には、「弾性仕切板4の断面S字形により、その接合面直前は緩やかな湾曲部となっており、その曲率半径は弾性仕切板の数倍である」構成が記載されるものの、当該構成は、自動車の燃料配管等に使用されるセパレート管に適用されるものであるから、本件請求項1に係る発明のように湾曲部を形成することで分割パイプの耐熱耐久性を向上するという課題がそもそも存在し得ない。したがって、甲第4号証に記載の前記構成を甲第3号証に記載の発明に適用すること自体当業者にとって容易に想到し得るものとは認められない。
(2)請求項2および3に係る発明について
本件請求項2および3に係る発明は、本件請求項1に係る発明を特定する事項を全て含み、さらに他の特定する事項を付加したものに相当するから、上記(1-2)で説示したと同様の理由により、甲第2ないし6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-12-21 
出願番号 特願平8-192305
審決分類 P 1 651・ 161- Y (F01N)
P 1 651・ 121- Y (F01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 正浩  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 飯塚 直樹
栗田 雅弘
登録日 2000-01-14 
登録番号 特許第3023314号(P3023314)
権利者 フタバ産業株式会社
発明の名称 流路分割パイプ、その曲げ方法及び2重管型排気パイプ  
代理人 足立 勉  
代理人 菊谷 公男  
代理人 田中 敏博  

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