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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1032243
異議申立番号 異議2000-73083  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-05-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-08-09 
確定日 2001-02-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3008125号「コンクリート、モルタル又は高分子材料の劣化防止方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3008125号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第3008125号は、平成2年10月12日に出願し、平成11年12月3日に設定登録され、平成12年2月14日に特許公報に掲載されたところ、同年8月9日に宮崎幸雄から、同年8月14日に新井照二から特許異議の申立を受けたものである。
2.本件発明
本件発明は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のものである。
[請求項1]ニッケル粉末、酸化ニッケル粉末、コバルト粉末、酸化コバルト粉末又はこれらの混合物を、コンクリート、モルタル又は高分子材料に含有させて、チオバチルス(Thiobacillus)属硫黄酸化細菌を防菌及び/又は殺菌することを特徴とするコンクリート、モルタル又は高分子材料の劣化防止方法。
3.特許異議申立人の主張
3-1.宮崎幸雄の主張
特許異議申立人宮崎幸雄は、甲第1〜6号証を提出して次の(a)の主旨の主張をしている。
(a)本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
3-2.新井照二の主張
特許異議申立人新井照二は、甲第1〜3号証を提出して次の(b)の主旨の主張をしている。
(b)本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
4.特許異議申立人の主張についての検討
4-1.上記(a)の主張について
甲第4号証(「ANTI-CORROSION」、1981年1月、第15-16頁)には、「腐蝕の微生物学-コンクリートおよび地下配管系への攻撃に関する特定の関連文献を用いての腐蝕工程における微生物類の作用のレビュー」と題したC.A.Smith博士の研究報告が掲載されており、それには、微生物腐蝕に対して材料を保護する方法は、a)被覆剤、特に耐性のある合成ポリマー類または抑制する塩類(例えば、Cu2+、Cr3+およびZn2+)を含有する塗料、等を包含すること(第15頁左欄25〜28行)や、金属、コンクリートおよび石灰石の大規模で急速な腐蝕は、チオバシラス属の一員による硫黄または硫化物の酸化によって形成される硫酸の作用により普通引き起こされること(第15頁左欄末行から同頁右欄3行)等が記載されているものの、これらは、塗料に微生物の成育を抑制する塩類(例えば、Cu2+、Cr3+およびZn2+)を含有させることが示されているに止まり、甲第4号証には、ニッケルやコバルトを含有させることは示されていないし、また、銅やクロムや亜鉛等の金属を金属粉末や酸化物粉末として含有させることも示されていない。
甲第5号証(特開昭63-294859号公報)には、「熱可塑性樹脂と、抗菌性を有する金属イオンを保持するゼオライト系粒子とを含む組成物から成る抗菌性多孔体。」(特許請求の範囲第1項)や「前記金属イオンが銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケルから成る群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の抗菌性多孔体。」(特許請求の範囲第2項)等が記載されているものの、それにおいては、銀や銅、コバルトやニッケル等の金属イオンはイオン交換物質の一種であるゼオライトに担持されているもので、甲第5号証は、ニッケルやコバルトを金属粉末あるいは酸化物粉末で含有させることを示すものではないし、また、甲第5号証に記載された発明は、その第2頁左上欄末行から同頁右上欄4行に記載されているように、上水、下水、廃水、および工業用水中の藻類、バクテリア、細菌の発生を抑制し、藻類の増殖、臭気物質による環境悪化を防止すること、あるいは生鮮野菜、鮮魚などの鮮度保持を目的とするものであって、甲第5号証には、下水処理施設等におけるコンクリート、モルタル又は高分子材料に対するチオバチルス属硫黄酸化細菌による劣化作用を防止するという本件発明の目的を示すところはない。
甲第6号証(特公昭57-3624号公報)には、「セメントを主体とする無機質成形体に、錫または鉛の粉体または細線を加えたことを特徴とする建築材。」(特許請求の範囲)が記載されているものの、使用される金属は錫や鉛で、しかも、甲第6号証に記載された発明は、建材における黒かびの発生の防止(第1頁左欄23〜25行等を参照)を目的としているにすぎない。
してみると、結局、甲第4号証には、コンクリート、モルタル又は高分子材料の劣化を防止するためにチオバチルス属硫黄酸化細菌による劣化作用を抑制することは示されているものの、その手段としてニッケルやコバルトの金属粉末や酸化物粉末やそれらの混合物をコンクリート、モルタル又は高分子材料に含有させる点が示されておらず、また、甲第5号証や甲第6号証には、チオバチルス属硫黄酸化細菌を防菌・殺菌することは記載されていないし、ニッケルやコバルトの金属粉末や酸化物粉末やそれらの混合物がチオバチルス属硫黄酸化細菌の防菌・殺菌に有効であることは示唆されていないから、甲第4〜6号証の記載を総合したところで、本件発明は、甲第4〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
ところで、特許異議申立人宮崎幸雄は、特許異議申立書において、甲第3号証(「化学と生物」、Vol.38,No.5(438号)、(株)学会出版センター、2000年5月25日発行、第330-333頁)の「コンクリートを喰い宅地を荒らすバクテリア」と題した山中健生の技術解説記事を指摘して、甲第1号証(本件出願についての査定不服審判の審判請求書および平成10年8月20日付審判請求理由補充書)において、本件特許の出願人は、「下水処理場等においてコンクリート表面は、pH9以上のアルカリ性に維持され、コンクリートに含有されたニッケル粉末、コバルト粉末等が大量の下水によって溶出するような酸性域にはならない」旨の誤った主張をしており、本件特許は、下水処理施設におけるコンクリート腐蝕の現象に関して事実に反する誤った主張が本件出願の審判審理において受け入れて進歩性ありとされたものであり、この点からして、本件特許は瑕疵があるから取り消されるべきであるなどと主張(特許異議申立書第12頁17行から第15頁8行)している。
しかしながら、審判請求理由補充書の記載内容の誤り自体が、本件特許の取消理由になるものではない。また、甲第3号証には、「いずれにしても、コンクリート表面ないしはその被膜水中で、最初に生育を始める硫黄酸化細菌は、生育pHが4〜8ないし5〜10のもので、続いて生育pHが1〜5といった好酸性硫黄酸化細菌が増殖すると考えられる。」(第331頁右欄14〜18行)等と記載されているが、甲第3号証は、本件特許の出願から10年も後に発行されたものであるから、甲第3号証の記述は、本件発明の進歩性を否定する根拠になり得るものではない。
なお、前記審判請求理由補充書には、「本願発明において、含有されたニケッル粉末等がイオン化しないのは、・・・コンクリートやモルタルに起因するアルカリ性が維持され、通常pH9以上であるためであり、更に、下水処理場等において、チオバチラス属細菌と接触した場合にも、下水における大量の水によって、pHが、ニッケル粉末やコバルト粉末が溶出するような酸性域となることは通常ないからである。」(前記審判請求理由補充書第7頁10〜16行)等と述べているに止まり、特許異議申立人が指摘しているような「下水処理場等においてコンクリート表面はpH9以上のアルカリ性に維持される」等という主張はしていない。
また、甲第2号証は、本件特許に係る出願の審査における特許査定以前に行われた拒絶査定謄本の写しにすぎず、上記判断を左右するものではない。
したがって、上記(a)の主張は理由がない。
4-2.上記(b)の主張について
甲第1号証(特開昭54-96120号公報)には、「平均粒径が1.0μ以下にて300メッシュ篩にてふるい落される金属銅又は銅ニッケル合金粉末1〜10重量%を含むポリエチレン又はポリプロピレンの如き熱可塑性樹脂である組成物を使用し、これを押出機で加熱溶融して押出し成形し、冷却延伸して紡糸又は成形することを特徴とする防菌防ばい性フィラメント、テープ、又はフィルムの製造法。」(特許請求の範囲)が記載されているが、それは、金属銅又は銅ニッケル合金粉末を使用するもので、本件発明でいう「ニッケル粉末、酸化ニッケル粉末、コバルト粉末、酸化コバルト粉末又はこれらの混合物」を使用するものではないし、また、甲第1号証には、「この発明にて製造されたモノフィラメントを材料として製綱又は製網されたロープ又は網を海水中に浸漬した場合、本発明のモノフィラメント中に分散混練されている金属銅又は銅ニッケル合金の粉末は、海水中にてイオン化し、その防菌作用によりバクテリヤの生育を阻止し、青ミドロの如き藻類を死滅させる殺菌作用を有するものである。」(第1頁右下欄9〜14行)、「また、漁業以外の用途としては、防菌性の靴中敷、衛生シーツ、防ばい用包装フィルム、又は野外にて使用するネット類、等に応用して用いられる。」(第2頁左上欄18〜20行)と記載されているものの、甲第1号証には、チオバチルス属硫黄酸化細菌の防菌・殺菌について示すところはない。
甲第2号証(特開昭62-148664号公報)には、「プラスチック類またはゴム類の表面に金属を被覆して得られる金属被覆プラスチック類またはゴム類と細菌類を含む飲食類とを接触させることにより、金属被覆プラスチック類の表面に細菌類の付着および増殖を防止することを特徴とする細菌類の付着および増殖の防止方法。」(特許請求の範囲第1項)および「金属被覆プラスチック類またはゴム類の金属が金、銀、ニッケル、コバルト、銅、スズ、亜鉛、クロム、パラジウムの群より選ばれたる少なくとも一種であるところの特許請求の範囲第1項に記載の細菌類の付着および増殖の防止方法。」(特許請求の範囲第2項)が記載されているものの、それは、プラスチックやゴムの表面に金、銀、ニッケル、コバルト等の金属を被覆するもので、本件発明のように、ニッケルやコバルトの金属粉末あるいは酸化物粉末を高分子材料等に含有させるものではないし、また、それは、飲食類と接触するプラスチックやゴムの表面に金、銀、ニッケル、コバルト等の金属を被覆して、その表面に細菌類が付着し増殖するのを阻止し、食中毒を防止する方法([従来の技術]及び[従来技術の問題点]の欄、実施例1〜4を参照)にすぎず、甲第2号証にも、
チオバチルス属硫黄酸化細菌の防菌・殺菌について示すところはない。
そして、甲第3号証(堀口博著、「防菌防黴の化学」、三共出版(株)、昭和57年1月10日発行、p.46-47)には、金属・金属塩の殺菌作用、滅藻作用等についてが記載されているものの、それにもチオバチルス属硫黄酸化細菌の防菌・殺菌について示すところはない。
してみると、結局、甲第1〜3号証には、ニッケルやコバルトの金属粉末や酸化物粉末によって、チオバチルス属硫黄酸化細菌を防菌・殺菌できることを示唆する記載はないのであるから、甲第1〜3号証の記載を総合したところで、本件発明は、甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
したがって、上記(b)の主張も理由がない。
5.結び
以上のとおりであるから、本件特許は、特許異議の申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。
また、他に、本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-01-22 
出願番号 特願平2-272296
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 徳永 英男  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 1999-12-03 
登録番号 特許第3008125号(P3008125)
権利者 株式会社間組
発明の名称 コンクリート、モルタル又は高分子材料の劣化防止方法  
代理人 酒井 一  
代理人 塩澤 寿夫  

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