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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1032252
異議申立番号 異議2000-73322  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-01 
確定日 2001-02-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第3016534号「ポリオレフィンフィルム」の請求項1の発明に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3016534号の請求項1の発明に係る特許を維持する。 
理由 1、本件発明
本件特許第3016534号の発明(平成5年12月16日出願、平成11年12月24日設定登録。)は、その特許請求の範囲請求項1に記載されたとおりの下記のものと認める。
【請求項1】下記一般式(1)で示されるアミド

(CH2CH2O)n-H
/
R-C-N (1)
‖ ?
O (CH2CH2O)n-H

(ただし、Rは炭素数5〜21のアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基、アルカトリエニル基、アルキニル基を表し、nは1〜3の整数を表す)を0.05〜2重量%含み、少なくとも片面に水性インキでグラビア印刷されてなるポリオレフィンフィルム。

2、特許異議申立ての理由の概要
(1)特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人東レ」という)は、証拠として甲第1〜5号証を提出し、本件請求項1の発明(以下、「本件発明」という)は、甲第1〜5号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、取り消されるべきものであると主張している。
(2)特許異議申立人 森田峰代(以下、「申立人森田」という)は、証拠として甲第1〜3号証を提出し、本件発明は、甲第1〜3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、取り消されるべきものであると主張している。

3、申立人が提出した甲各号証記載の発明
(1)申立人東レが提出した甲各号証記載の発明
甲第1号証:特開平4-323228号公報
a.「ポリプロピレン100重量部に、下記一般式(I)で示されるポリオキシエチレンアルキルアミン誘導体(化合物A)0.05〜0.2重量部と下記一般式(II)で示されるポリオキシエチレンアルキルアマイド誘導体(化合物B)をB/A=3.0〜20.0の重量比で配合、及びアンチブロッキング剤を0.01〜0.5重量部配合した樹脂組成物を溶融押出し、次いでポリプロピレンの融点より低い温度で延伸して成ることを特徴とするポリプロピレン延伸フィルム。
一般式(I)
(CH2CH2O)mH
/
R’N
?
(CH2CH2O)nH

(ここで、R’は炭素数12〜18の脂肪族炭化水素基、mとnは1以上の整数で、m+n=2〜6なる整数を表す)



一般式(II)
(CH2CH2O)pH
/
RCON
?
(CH2CH2O)qH

(ここで、Rは炭素数9〜11の脂肪族炭化水素基、pとqは1以上の整数で、p+q=2〜6なる整数を表す)」(特許請求の範囲)
b.「プロピレン単独重合体100重量部にジエタノールラウリルアマイド(化合物B-1)を0.80重量部添加してなるシート。
帯電防止性半減期 40℃-1日(SEC) 180<、 40℃-7日(SEC) 160」(比較例2及び表-1)
甲第2号証:特開平1-287157号公報
c.「(1)結晶性ポリプロピレン系樹脂に、脂肪酸アミドを70重量%以上含有する非イオン系界面活性剤を0.05〜0.5重量%添加したことを特徴とする結晶性ポリプロピレン系樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
d.「本発明は、印刷性、特にオフセット印刷性に適し、さらには帯電防止性に優れ、ブリードの少ない成形体が得られる結晶性ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。」(第1頁左下欄12〜15行)
d.「従来、結晶性ポリプロピレン系樹脂成形体表面への印刷は、シルクスクリーン印刷やグラビア印刷などの方法が一般的に用いられている。」(第1頁左下欄17〜20行)
e.「本発明で使用する該脂肪酸アミドの具体例としては、ラウリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、カプリル酸ジエタノールアミド(中略)などをあげることができる。」(第2頁右下欄第16行〜第3頁右上欄5行)
f.「ラウリン酸ジエタノールアミド(A)の添加量0重量%の結晶性ポリプロピレンシートの印刷性◎(比較例1)、同0.1重量%添加の同シートの印刷性◎(実施例1)、同0.3重量%添加の同シートの印刷性○(実施例3)、同0.6重量%添加の同シートの印刷性××(比較例3)」(第6頁第1表)
甲第3号証:新版 プラスチックス配合剤-基礎と応用- 阿部嘉長外1名編 大成社 昭和59年1月30日初版発行
g.「脂肪アミノまたは脂肪酸アミドのエチレンオキサイド付加物 及びその構造式(例)」(第274頁 [帯電防止剤])
甲第4号証:特開平5-271595号公報
h.「【請求項1】(a)酸価80〜330(KOH mg/g)のロジン変性マレイン酸樹脂のアルカリ中和物および(b)水性バインダー樹脂を、重量比が(a)/(b)=2/98〜20/80の範囲で含有することを特徴とするプラスチックフィルム用水性印刷インキ。
【請求項2】(b)水性バインダー樹脂が、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂またはシェラック樹脂から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1記載のプラスチックフィルム用水性インキ。」(特許請求の範囲)
i.「得られた水性印刷インキの25℃における表面張力を、協和科学(株)製 KYOWACBVP SURRACE TENSIOMETER A1 により測定した。測定結果を表3に示す。 ついで、水性印刷インキを、粘度が離合社製カップNo.3で25℃にて16秒となるように水で希釈調整し、グラビア印刷機(版:電子彫刻版 250線/インチ)を用いて、表面張力38dyne/cmのコロナ放電処理延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡製 パイレンP2161 20 μ)に50m/分で印刷し、60℃の熱風で乾燥させ、得られた印刷物の平滑性、接着性および耐水性を評価した。」(段落【0020】)
甲第5号証:東洋紡パイレンフィルム-OT(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)のカタログ <発行日不明>
j.「パイレン-マルR-フィルム-OT-のスタンダ-ドタイプは、帯電防止性の有るものがP2161、無いものがP2102です。」(第3頁23〜24行)
k.「P2161(厚さ20μm)の表面抵抗率が10.7(logΩ)」(第5頁表5帯電防止タイプの物性)
(2)申立人森田が提出した甲各号証記載の発明
甲第1号証:特開平1-287157号公報
申立人東レが提出した甲第2号証と同じ
甲第2号証:特開昭58-7429号公報
l.「1.脂肪酸アミド及び帯電防止剤を含有するポリプロピレンフィルムの少なくとも片面を、酸素濃度0.2容量%未満の窒素ガス雰囲気下でコロナ放電処理した後、酸素濃度0.2〜1.0容量%の窒素ガス雰囲気下でコロナ放電処理することを特徴とするポリプロピレンフィルムの処理方法。
2.ポリプロピレンフィルムが脂肪酸アミドを0.01〜0.5重量%含有する特許請求の範囲第1項記載の方法。」(特許請求の範囲)
m.「本発明において、PPフィルムは脂肪酸アミド及び帯電防止剤を含有してなる。脂肪酸アミドは公知のものが特に制限なく使用される。例えば、オクチルアミド、ノニルアミド、デシルアミド、ウンデシルアミド、ラウリルアミド、トリデシルアミド、ミリスチルアミド、パーミチルアミド、オレイルアミド、ヘキサンシルアミド、オクタコシルアミド等が一般に使用される。該脂肪酸アミドのPPフィルム中の含有量は0.01〜0.5重量%、好ましくは0.05〜0.3重量%の範囲とすることが後述するコロナ放電処理によりPPフィルムに優れた印刷性を付与することができ好ましい。」(第2頁右上欄13行〜同頁左下欄6行)
甲第3号証:「包装技術便覧」 1067〜1070頁 日本包装技術協会編 1969.9.15 財団法人日本生産性本部発行
n.「インキ面ではいかなる印刷材料にも固着するインキが製造可能である。このような種々のグラビア印刷条件は包装印刷にとって凸版、オフセットと比較してきわめて有利である。」(第1068頁28〜30行)

4、対比・判断
(1)申立人東レの主張に関して
本件発明(前者)と申立人東レの提出した各甲号証記載の発明とを対比すると、前者は本件特許請求の範囲の一般式(1)で示される脂肪酸アミド(以下、「本件特定の脂肪酸アミド」という)を0.05〜2重量%含み、少なくとも片面に水性インキでグラビア印刷されてなるポリオレフィンフィルムを要件とするものであるが、申立人東レの提出した甲第1〜5号証にはかかる要件については、記載されておらず示唆する記載もない。
すなわち、甲第1号証には、特定構造のポリオキシエチレンアルキルアミン誘導体(化合物A)と「本件特定の脂肪酸アミド」をも含む特定構造のポリオキシエチレンアルキルアマイド誘導体(化合物B)とを特定重量比で配合、添加したポリプロピレンフィルムが記載されているのであって、得られたポリプロピレンフィルムの印刷性については記載されていない。
甲第1号証の比較例(bの記載参照)に、「本件特定の脂肪酸アミド」を単独で配合したポリプロピレンフィルムが記載されているけれども、このフィルムは帯電防止性に劣るものとして記載されており、その印刷性については記載されていない。
甲第2号証には、「本件特定の脂肪酸アミド」を含む脂肪酸アミドを単独で配合したポリプロピレンフィルムにつて記載されており、当該ポリプロピレンフィルムに対して「オフセット印刷」することについて記載されているけれども、「オフセット印刷」は一般的には油性インキを用いて印刷するものであるから、甲第2号証が当該ポリプロピレンフィルムに対して水性インキを用いてグラビア印刷することについて示唆するものであるとは認められない。
甲第3号証には、「本件特定の脂肪酸アミド」を含む脂肪酸アミドが帯電防止剤の1種として記載されているに過ぎない。
甲第4号証には、特定の組成を持つプラスチックフィルム用水性インキが記載されており、この水性インキを用いて、コロナ放電処理延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡製 パイレンP2161 20μ)にグラビア印刷することが記載されているが、当該東洋紡製パイレンP2161 20μというポリプロピレンフィルムが、どのようなフィルムであるかについて、申立人東レの提出した甲第5号証には、このポリプロピレンフィルムが帯電防止タイプのもので、表面抵抗率が「本件特定の脂肪酸アミド」を含むポリプロピレンフィルム程度のものであることが記載されているものの、表面抵抗率をどのようにして調節したのか、その手段(添加剤など)についてはなんら記載されていない。
しかも、甲第3号証には、「本件特定の脂肪酸アミド」以外にも多種類の化合物、例えば本件発明の比較例で用いているような界面活性剤、が帯電防止剤として記載されていることから、このフィルムがただちに「本件特定の脂肪酸アミド」を含むものであるとすることはできない。
申立人東レは、この甲第4号証に記載されている、コロナ放電処理延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡製 パイレンP2161 20μ)に代えて、甲第1号証や甲第2号証に示される本件特許発明におけるのと完全に同一の公知の帯電防止性ポリオレフィンフィルムを使用することは当業者であれば容易に想到しうる旨主張しているけれども(申立書第8頁1〜4行)、表面抵抗率が同じというだけの根拠をもって、水性インキによるグラビア印刷について示唆のない、甲第1号証や甲第2号証に記載されているポリオレフィンフィルムを、甲第4号証のポリプロピレンフィルム(東洋紡製 パイレンP2161 20μ)に代えることが当業者が容易になし得ることであるとはいえず、かかる申立人東レの主張は採用できない。
そして、前者は、特許請求の範囲記載の要件を備えることにより、「帯電防止性、水性インキの移転性、接着性をいずれも満足したグラビア印刷されたポリオレフィンフィルムを提供しうるという本件特許明細書記載の効果を奏し得ているものである。
したがって、本件発明は、申立人東レの提出した甲第1〜5号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえない。
(2)申立人森田の主張に関して
本件発明(前者)と申立人森田の提出した各甲号証記載の発明とを対比すると、前者は本件特定の脂肪酸アミドを0.05〜2重量%含み、少なくとも片面に水性インキでグラビア印刷されてなるポリオレフィンフィルムを要件とするものであるが、上記甲第1〜3号証にはかかる要件については、記載されておらず示唆する記載もない。
すなわち、甲第1号証には、「本件特定の脂肪酸アミド」を含む脂肪酸アミドを配合したポリプロピレンフィルムにつて記載されており、当該ポリプロピレンフィルムに対して「オフセット印刷」することについて記載されているけれども、前記のとおり甲第1号証が当該ポリプロピレンフィルムに対して水性インキを用いてグラビア印刷することについて示唆するものであるとは認められない。
甲第2号証には、脂肪酸アミド及び帯電防止剤を含有するポリプロピレンフィルムに対して2段階のコロナ放電処理を施して、水性インク等による印刷性の改良をする発明が記載されているけれども、この発明で用いている脂肪酸アミドとして、「本件特定の脂肪酸アミド」は記載されておらず示唆する記載もない(mの記載参照)。
甲第3号証には、グラビア印刷の一般的な技術が記載されているに過ぎない。
申立人森田は、甲第1号証(申立人東レの甲第2号証)の記載(dの記載)を根拠に「甲第1号証の出願前公知技術として、ポリプロピレン系樹脂シート(やフィルム)表面への印刷にグラビア印刷が一般的に採用されていたことを明らかにしている。」(申立書第8頁24〜28行)とした上で、「甲第1号証に開示されたオフセット印刷を当時一般的方法として採用されていたグラビア印刷に代えてみるといったことは、当業者ならずとも容易に為し得ることと言うべきである。」(申立書第9頁12〜14行)と主張しているが、甲第1号証には、グラビア印刷に「水性インク」を用いるという記載はなく、しかも、甲第1号証には、「本件特定の脂肪酸アミド」の配合量が増えるに従いポリプロピレンフィルムの印刷性が低下するデータ(fの記載参照)があることからも、申立人森田のかかる主張は採用できない。
そして、前者は、特許請求の範囲記載の要件を備えることにより、前記の本件特許明細書記載の効果を奏し得ているものである。
したがって、本件発明は、申立人森田の提出した甲第1〜3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえない。

5、むすび
上記のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1の発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1の発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-01-12 
出願番号 特願平5-317059
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡崎 美穂藤本 保  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 喜納 稔
仁木 由美子
登録日 1999-12-24 
登録番号 特許第3016534号(P3016534)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 ポリオレフィンフィルム  
代理人 伴 俊光  

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