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審決分類 |
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 一部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1032291 |
異議申立番号 | 異議2000-72556 |
総通号数 | 17 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-06-27 |
確定日 | 2001-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2993926号「超伝導回路の実装構造」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2993926号の請求項1ないし3、5ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件発明 特許第2993926号(平成10年1月14日出願、平成11年10月22日設定登録。)の請求項1ないし3、5ないし9に係る発明は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1ないし3、5ないし9に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。 【請求項1】 外部と熱的に遮断された真空封止された系内で用いられ、該真空封止された系内の所定の圧力雰囲気によって実現される熱的雰囲気内でのみ超伝導特性を示す超伝導回路が形成された基板を所定の搭載基材に実装する超伝導回路の実装構造において、 前記超伝導回路基板が、高い導電性を有するとともに高い柔軟性を有する箔又は膜状、若しくは、バンプ状に形成した金属を介し、かつ、該金属に0.05〜5kg/cm2の圧接力を印加するように、前記搭載基材に圧接固定されていること、 前記超伝導回路は、超伝導フィルタ回路であること、 前記超伝導フィルタ回路は、前記搭載基材から前記金属を介して所定の電位が供給され、前記超伝導フィルタ回路の通過帯域外減衰量が90dB以上であること、及び 前記搭載基材に圧接固定された前記超伝導フィルタ回路の圧接固定部から真空封止された系内へのガス放出量が1×10-9Pa・m3/sec以下であること を特徴とする超伝導回路の実装構造。 【請求項2】 前記金属が、前記超伝導回路基板の所定の領域にのみ介在し、該所定の領域に対応して前記超伝導回路基板に印加される押圧力により、前記金属に前記範囲の圧接力を印加することを特徴とする請求項1記載の超伝導回路の実装構造。 【請求項3】 前記金属は、前記超伝導回路基板の縁辺領域にのみ介在し、該縁辺領域に対応して前記超伝導回路基板に押圧力が印加されることを特徴とする請求項1又は2記載の超伝導回路の実装構造。 【請求項5】 前記金属に印加される圧接力は、板状の弾性体を締め込み調整することにより前記超伝導回路基板に印加される押圧力に応じて生成されることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の超伝導回路の実装構造。 【請求項6】 前記金属は、前記超伝導回路基板を構成するグランド面上に積層して膜状に設けられていることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の超伝導回路の実装構造。 【請求項7】 前記金属は、前記超伝導回路基板が圧接固定される前記搭載基材上に積層して膜状に設けられていることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の超伝導回路の実装構造。 【請求項8】 前記金属は金であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導回路の実装構造。 【請求項9】 前記超伝導回路は、高温超伝導フィルタ回路であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超伝導回路の実装構造。 2.申立理由の概要 特許異議申立人株式会社村田製作所は、 (1)甲第1号証:低温工学Vol.31NO.12(1996) 「小型冷凍機の移動体通信への応用」 (2)甲第2号証:特表平9-512150号公報 (3)甲第3号証:特開平6-37513号公報 (5)甲第5号証:MTT-S International Microwave Symposium High Power Superconducting Microwave Technology Workshop May 23,1994「High-Power HTS Microstrip Filters for Wireless Communication」 (6)甲第6号証:特開平6-6101号公報 (7)甲第7号証:1996年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会講演論文集1 C-88「リッジ型2重モード誘電体共振器を用いた移動体通信基地局用小型誘電体デュブレクサ」 (8)甲第8号証:信学技報Vol.97NO.20 SCE97-8,MW97‐8(1997‐04) 「移動体通信基地局用高温超伝導受信フィル夕」 (9)甲第9号証:「真空技術入門」 を提出し、 請求項1ないし3、5ないし9に係る発明は、甲第1号証〜甲第9号証に記載された内容から容易に想到できるものであって、特許法第29条第2項に該当し特許を受けられないものであると主張する。(取消理由1) 一方、 (1)ガス放出量は温度が下がると減少するものであって、温度を規定することなく「1×10-9Pa・m3/sec以下」とガス放出量を規定したところで、それにより本件発明の効果が達成されるのかどうか極めて不明である。 (2)ガス放出量は例えば超伝導回路基板と搭載基材との間に配置される金属の面積によっても変化するものであり、圧接力とガス放出量との数値的関連性は両者だけではなく、例えば面積をも考慮した上のものでないとその臨界的意義はない。 (3)ガス放出量を「〜以下」とする目的は、真空封止された系内を真空に保つということであり、その目的はある特定部分からのガス放出量だけで規定されるのではなく、排気能力(甲第1号証にもあるように、真空封止された系内ではゲッターポンプが一般的に使用される)や系内の体積、その他の部分からのガス放出量など様々な要素によって規定される。したがって、例えばゲッターボンプの排気能力を多少上げれば、「1×10-9Pa・m3/sec」以上であっても真空封止された系内を真空に保つことは可能であり、「1×10-9Pa・m3/sec以下」という数値自体に臨界的意義はない。 (4)「該金属に0.05〜5kg/cm2の圧接力を印加するように、」という構成要素について記載自体極めて不明瞭なものである。すなわち、後述する参考資料3からも明らかなように、超伝導回路基板を本件明細書の図1におけるように板バネによって固定した場合、その圧接力は言うまでもなく、板バネの直下で最大となり、そこから離れるにしたがって弱くなるというように、圧接力の強弱の分布が存在しる。つまり、請求項1に係る本件特許発明で言うところの「0.05〜5kg/cm2の圧接力」が、どの部分での圧接力かという請求項1に係る本件特許発明の外延が不明であって、その位置などを規定することなしに、本件特許発明の効果が得られるものではない。 従って、請求項1に係る本件特許発明は、その記載内容が特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないと主張する。(取消理由2) 3.取消理由2についての検討 本件特許明細書【0012】には、「超伝導状態を実現する上で実用的な圧力状態の条件として、低温保持容器内の各部品から放出されるガスの量は、各部品を構成する材料表面に吸着されたガスの放出量レベルである1×10-9Pa・m3/sec以下であることが要求される。」と記載され、ガスの放出量は、超伝導状態でのガスの放出量であると認められる。従って、温度条件がないと主張する(1)には理由がない。 そして請求項1では「前記搭載基材に圧接固定された前記超伝導フィルタ回路の圧接固定部から真空封止された系内へのガス放出量」とされており、超伝導フィルタ回路の圧接固定部から真空封止された系内へのガス放出量は、放出する量の合計量であることは明らかであり、面積条件がないと主張する(2)には理由がない。 本件特許の請求項1に係る発明は実装構造の発明、即ち、物の発明であって、製造途中や製造終了後を問わず、ガス放出量が規定された量以下である性質で規定された構造を有する実装構造であることも明確である。従って、ゲッターポンプの能力とは無関係であり、(3)には理由がない。 請求項1には、「箔又は膜状、若しくは、バンプ状に形成した金属を介し、かつ、該金属に0.05〜5kg/cm2の圧接力を印加するように、前記搭載基材に圧接固定されている」と規定されており、該金属に加わる圧接力は0.05〜5kg/cm2であり、それ以外の圧接力ではないことは明確である。従って、外延が明確でないと主張する(4)には理由がない。 してみると、取消理由2には理由がない。 なお、臨界的条件であるかどうかは、明確に記載されているかどうかを問う特許法第36条第6項第2号の要件とは関係がない。 4.引用例記載の発明 甲第1号証(低温工学Vol.31NO.12(1996)「小型冷凍機の移動体通信への応用」)の第642頁右欄第29〜39行目には「重要な小型冷凍機の周辺機器としてここでは、バキュームデュワーとHTSフィルタに信号を入出力するためのインターフェースケーブルについて簡単に説明する。バキュームデュワーはフィルタを真空断熱するために重要な機器であるが、真空を保つためメカニカルな真空ポンプを持ったシステムではシステムの持つ付加価値が大幅に低下する。要求としては5年以上の信頼性確保があげられるが、技術的にはバキュームデュワー材料の選定とゲッターポンプを内蔵するだけで真空が保てるかが焦点となる。」と記載されている。 甲第2号証(特表平9-512150号公報)には、ケースにフィルターサブアセンブリを搭載したHTSフィルターにおいて、HTSフィルターが適正に作動するように、金又は銀からなる金属ラップアラウンド接点を用いて、フィルターサブアセンブリの接地面をケースに対して電気的に良好に連結させる構造が示されている。 甲第3号証(特開平6-37513号公報)には、超伝導体を用いたマイクロ波フィル夕において、その接地導体における超伝導体薄膜上にAu薄膜を形成する構造が示されている。 甲第5号証(MTT-Sinternational Microwave Symposium High Power superconducting Microwave Technology Workshop May 23,1994 「High‐Power HTS Microstrip Filters for Wireless Communication」)の写真には、高温超伝導体からなるフィルタが搭載基材に、ねじ止めされた板もばねにより固定された構造が示されている。 甲第6号証(特開平6-6101号公報)には、高温超伝導体からなるフィルタが搭載基材に、ねじ止めされた板ばねにより固定された構造が示されている。 甲第7号証(1996年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会講演論文集I C-88「リッジ型2重モード誘電体共振器を用いた移動体通信基地局用小型誘電体デュプレクサ」)の図2には、基地局用デュプレクサのTXフィルタにおいて通過帯域外減衰量が91dBであることが示されている。 甲第8号証(信学技報Vol.97NO.20 SCE97‐8,MW97‐8(1997‐04)「移動体通信基地局用高温超伝導受信フィルタ」)の図7には、9段チェビシェフ型HTSフィルタの通過帯域特性において、高域側で減衰量が90dB以上となる箇所が存在することが示されている。 甲第9号証(「真空技術入門」)には、真空技術に関するごく一般的な知識として、i)真空容器内に吸着された気体分子の放出を抑えないといけないこと、ii)温度が下がると放出される気体分子の数が減少すること、iii)時間の経過とともにガス(気体分子)放出速度が低下することが示されている。 5.特許発明と証拠との対比 しかしながら、甲第1号証〜甲第9号証のいずれにも「該金属に0.05〜5kg/cm2の圧接力を印加するように」すること、「前記搭載基材に圧接固定された前記超伝導フィルタ回路の圧接固定部から真空封止された系内へのガス放出量が1×10-9Pa・m3/sec以下」とすることが示されていない。本件特許請求項1に係る発明は、この構成により真空封止された密封容器内において、超伝導回路基板と搭載基材間の導電性を向上させるとともに、密封容器内でのガスの放出を抑制するという効果を奏する。 従って、請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第9号証に記載された発明のいずれとも同一でなく、また、それらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。よって取消理由1には理由がない。 また、請求項2、3、5ないし9に係る発明は、請求項1を引用した従属形式であり、請求項1に対して取消理由1は理由がないので、請求項2、3、5ないし9に係る特許についても取消理由1は理由がない。 4.まとめ 特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、また、他に取り消すべき理由がないので、特許の請求項1ないし3、5ないし9に係る特許は維持する。 |
異議決定日 | 2000-12-14 |
出願番号 | 特願平10-5685 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(H01L)
P 1 652・ 537- Y (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 菅野 智子 |
特許庁審判長 |
張谷 雅人 |
特許庁審判官 |
浅野 清 橋本 武 |
登録日 | 1999-10-22 |
登録番号 | 特許第2993926号(P2993926) |
権利者 | 株式会社移動体通信先端技術研究所 |
発明の名称 | 超伝導回路の実装構造 |
代理人 | 有我 軍一郎 |