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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1035117
審判番号 審判1999-14918  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-09-21 
確定日 2001-03-30 
事件の表示 平成2年特許願第302453号「有機廃水処理方法」拒絶査定に対する審判事件[平成4年6月24日出願公開、特開平4-176394]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 〔一〕 本願は、平成2年11月9日に出願された。
平成11年6月25日付けの手続補正書で補正された本願明細書の特許請求の範囲の記載は、下記のとおりである。
「(1)処理槽内にヒモ状接触材を設置し、これに凝集性及び/又は付着性を有する酵母を付着せしめてなる酵母固定化処理槽、及び、限外濾過膜を用いて廃水処理を行うこと、を特徴とする有機廃水処理方法。
(2)酵母がハンゼヌラ属及び/又はクルイベロマイセス属に属する酵母であること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
(3)限外濾過膜モジュールが、管状モジュール、中空糸モジュール、プリーツモジュール、プレートモジュール、スパイラルモジュールの少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。」
以下では、上記請求項1の構成の発明を本願発明1という。

〔二〕本願明細書の詳細な説明の項の記載
(イ)(産業上の利用分野)
「 本発明は、廃水の処理方法に関するものあり、更に詳細には、食品製造廃水等各種有機性廃水を酵母を固定化した処理槽と限外濾過膜を併用することにより迅速に且つコンパクトな装置で処理する方法に関するものである。」
(ロ)(従来の技術及び問題点)の一部
「 しかしながら、上記処理方式も未だ充分業界のニーズに応えることができず、例えば、特に難分解性の有機性廃水、あるいは排水量が多量で汚濁濃度が比較的低い廃水を工業的に大量処理するシステムとしては満足できるものではない。」
(ハ)(問題点を解決するための手段)の一部(5頁、下から5行〜6頁、1行)
「 これらの酵母は、それ自体、担体や槽壁、槽底等に対しては付着、凝集性を有しているので、両者を接触せしめるのみで酵母の固定が行われるが、必要ある場合には酵素や微生物の固定化に使用される常法を用いて、酵母の固定を更に積極的に行ってもよい。」
(ニ)(問題点を解決するための手段)の一部(13頁、1〜7行)
「 更にまた、本発明においては酵母固定化のひとつの態様として槽内に一部固定的接触材をもうけることができ、これに酵母を付着させて、槽内酵母の流失を防ぐと共に菌体濃度を高めた、高効率の酵母槽で有機廃水を処理するシステム、つまりYeast Support Bed System(YSBシステムということもある)も開発した。」
(ホ)(問題点を解決するための手段)の一部(16頁11〜末行)
「 しかしながら、更に低濃度でしかも排出量の多量な廃水(食品廃水はこのようなタイプのものが多い)については、酵母槽での滞留時間と酵母の生育に要する時間とのバランスがとれず、酵母がWash-outしてしまう場合が生じる。その結果、酵母による廃水処理の要点であるところの、108/ml以上の酵母密度の維持が困難となる。
この点に対処するため、本発明においては、限外濾過膜(以下、UF膜ということもある)処理を行う。」
(ヘ)(問題点を解決するための手段)の一部(17頁、下から4行〜18頁、8行)
「 このように本発明に係る酵母を固定化した処理槽と限外濾過膜とを併用するシステム、例えばYSB-UFシステムによれば、たとえBODが約1000〜3000ppm程度の食品廃水といった低濃度ではあるが排水量の多い廃水を処理する場合であっても、酵母がWash-outしても、これをUF膜で処理して分離することにより、これを含まない処理水が得られ、これは直ちに河川に放流することが可能である。このようなシステムの採用により、酵母を固定化した処理槽での処理の後に必須であった活性汚泥処理が必要でなくなり、廃水処理設備全体が縮小、簡素化され、コストも低減化される。」
(ト)(問題点を解決するための手段)の一部(18頁、下から3行〜19頁、5行)
「 このようなタイプのYSB-UFシステムにより、例えばBODが約2000の廃水に対し、12時間処理でBODの95%を除去できることが確認され、本発明方法によれば酵母処理のみで処理水は河川に放流できることが確認された。したがって、廃水処理には不可欠であるところの、広大な設備及びデリケートなコントロールを必要とする活性汚泥処理をカットすることがはじめて可能になったのである。」
(チ)(発明の効果)の概略
(i) 酵母のYSB付着固定性は良好で、極端な剥離は見られない。UFの濃縮液分(固形分)を酵母槽に返すことによって、酵母槽とUF装置の処理能力をバランスさせることができる。
(ii) 濾過の継続によって、UF膜の性能が低下するが、UF膜を洗浄すると、その性能を回復する。

〔三〕 引例の記載
(1) 特開昭61-153197号公報(以下では、引例1という。)
(イ)特許請求の範囲
「(1) 食品製造廃水等を凝集性酵母により処理して、廃水中に含有される有機物を除去することを特徴とする廃水の処理方法。
(2) 凝集性酵母がハンゼヌラ・アノマラJ224(微工研菌寄第7671号)である特許請求の範囲第一項記載の廃水の処理方法。」
(ロ)(1頁、左下欄、下から8〜7行)
「 本発明は、凝集性酵母により食品等製造廃水を処理する方法に関するものである。」
(ハ)(1頁、右下欄、1〜2行)
「 酵母による廃水処理の要点は、108/ml以上の酵母密度を維持していくことである」
(ニ)(1頁、右下欄、8〜12行)
「 そこで、所望の酵母を常に安定した密度に保つ方法につき、鋭意検討した結果、廃水処理用酵母として凝集性酵母を選択して用いることにより、高い酵母密度を保持できることを見いだし、本発明を完成した。」
(ホ)(2頁、左下欄、7〜10行)
「 凝集性酵母は、菌体そのままで処理するほか、場合によっては活性炭、ガラスビーズ等の担体の表面に付着、凝集させてより効果的に廃水を処理することができる。」

(2)特開昭60-14996号公報(以下では、引例2という。)
(イ)特許請求の範囲
「(1) 食品製造等廃水を固定化酵母により処理して、廃水中に含まれる有機物を除去することを特徴とする食品製造等廃水の処理方法。
(2) 固定化酵母が、1種又は2種以上の固定化酵母の混合物である特許請求の範囲第1項記載の食品製造等廃水の処理方法。
(3) 固定化酵母が、1種又は2種以上の酵母からなる固定化酵母である特許請求の範囲第1項記載の食品製造等廃水の処理方法。
(4) 固定化に供される酵母がデンプン、タンパク質、脂肪、糖類、有機酸、アミノ酸、エチルアルコール、グリセロール、リグニン、タンニン及びペクチンから選ばれる1種又は2種以上の資化分解能を有する酵母である特許請求の範囲第1項から第3項までのいずれかに記載の食品製造等廃水の処理方法。」
(ロ)(1頁、右下欄、5〜10行)
「 発明者等は酵母による食品製造廃水の新しい処理方式を開発し、酵母処理単独あるいは酵母と活性汚泥処理を組合わせることにより高濃度、かつ、負荷変動の激しい食品製造廃水を効率的に処理できることを明らかにした。〔吉沢:農化、55、705〜711(1981)〕」
(ハ)(2頁、右上欄、下から4〜2行)
「 酵母の固定化は既知の固定化法、例えばゲル包括法、担体結合法又は架橋重合法のいずれを用いてもよい。」
(ニ)(2頁、左下欄、下から2行〜同、右上欄、5行)
「 低濃度の有機物を含む廃水の場合は固定化酵母処理のみで排水基準を下回る水質とすることができるが、高濃度の有機物を含む廃水の場合は、固定化酵母処理と活性汚泥法等の生物処理あるいは活性炭吸着等の物理化学的処理と併用することにより、それぞれ単独で処理する場合に比べて設備のための場所及び建設費等が大幅に低減できる。」

(3)特開昭64-2567号公報(以下では、引例3という。)
(イ)特許請求の範囲
「(1) 槽体内で微生物担体を用いて生物反応を行う流動床型生物反応装置において、該槽体内に分離膜を、上下方向にかつこの分離膜の透過液を槽体外へ取出可能に設けると共に、該槽体内の分離膜の下方に液の吹込手段を設けたことを特徴とする生物反応装置。」
(2) 分離膜は中空糸膜、キャピラリー膜又はチューブラー膜であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の生物反応装置。
(3) 前記液は、槽体上部より抜き出して再循環させた循環液及び/又は原水であることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項に記載の生物反応装置。」
(ロ)〔従来の技術及び先行技術〕の一部(1頁、右下欄6〜17行)
「 生物処理装置と膜分離装置とを組み合わせた生物反応装置が廃水処理装置の分野などにおいて用いられている。例えば、生物処理装置からの生物処理液を膜分離処理し、この濃縮液を生物処理装置に返送するようにしたものが、また生物処理後の処理液を膜分離し、処理水の水質向上を図るようにしたものが用いられている。
このような膜分離手段と生物反応手段とを組み合わせた装置によれば、菌体を確実に分離し、反応槽内の菌体濃度を高めて、単位反応槽容積あたりの生産処理効率を高めることができ、高度な廃水処理等の生物処理を行える。」
(ハ)〔従来の技術及び先行技術〕の一部(2頁、左上欄5〜末行)
「 本出願人は、このような問題を解決するものとして、密閉式の生物反応槽体内に分離膜を装入設置すると共に、この分離膜透過液を槽体外への取出可能とし、槽体内の圧力を利用して液の膜透過を行わせるよう構成した生物反応装置(特開昭61-249599号。以下、「先願I」という。」及び、流動層型反応装置の槽体内の流動層形成部の下方に分離膜を設置すると共に、流動層処理水を槽体の上部から取り出して槽体下部へ循環して膜透過液を生産水として槽体外へ取り出すようにした生物反応装置(特願昭61-2652号。以下、「先願II」という。)を提案した。上記先願I及びIIによれば、槽体内に分離膜が設置されているので、膜分離用動力装置を別途に設けることが不要で、しかも装置全体のコンパクト化を図ることが可能とされる。」
(ニ)〔問題点を解決するための手段〕の一部(2頁、左下欄、8〜15行)
「 即ち、本発明者らは、前記先願I〜III、特に先願IIIに基き、分離膜の膜面の汚染をより効果的に防止し、これにより、透過速度の向上、省エネルギー化を図る方法について検討した結果、生物反応装置内に液を吹き込むと反応槽内に流動層が形成され、流動担体が絶えず膜面に衝突し、膜汚染を有効に防止することを知見し、本発明を完成させた。」
(ホ)〔実施例〕の一部(4頁、左上欄、17行〜同、右上欄、9行)
「 この分離膜の種類としては、逆浸透膜、限外濾過膜、精密濾過膜等、特に限定されることなく各種のものを用いることができ、反応の種類に応じて選定される。例えば廃水処理に用いる場合には、孔径0.5〜0.05μm程度の精密濾過膜を、また高度な廃水処理を行なう場合には分画分子量が2000000〜1000程度の限外濾過膜を用いることができる。また有機酸発酵やアルコール発酵等を行う場合は、生成した有機酸、アルコールが透過する特性の精密濾過膜、限外濾過膜を用いることができる。」

(4)実公昭54-8607号公報(以下では、引例4という。)
(イ)実用新案登録請求の範囲
「 枠体に張設した紐状体の任意の個処に多数の放射状の針状体の集合による微生物繁殖用針状集合部を略等間隔に設け、該紐状体の羅列又は構成よりなる汚水処理における改良付着材。」
(ロ)(2欄21〜30行)
「該針状集合部3を任意の個処に多数設けた紐状体2を第3図の如く羅列するか又は第4図の如く格子状に夫々枠体4に張設して汚水処理の付着材として使用する。該付着材は、汚水中において、汚水との接触面積の大である前記針状集合部3を中心として、汚水浄化に貢献する微生物である汚泥が繁殖し、而も従来の竹枝又は紐状体の如く、汚泥が剥離し易いものとは違って遙かに付着度が高く、従って汚水浄化度は従来法よりも大である。」

(5)特公昭58-57239号公報(以下では、引例5という。)
(イ)特許請求の範囲
「1 好気的条件で有機物除去と硝化がなされ上端から処理液の一部が排出される接触酸化塔と、この接触酸化塔の一側に接して併設され下端に連通路を残して仕切板で流入側と流出側に区分され流入側に前記接触酸化塔の上端から硝化液が溢流導入されるとともに原汚水が供給され嫌気的条件で脱窒がなされる脱窒素塔と、この脱窒素塔の上端近くに設けられ流出側から溢流した脱窒液をうける循環桝と、この循環桝より下方に導出され上端に空気吸込エゼクタが連通され途中に循環ポンプが挿入され前記接触酸化塔の下底に連通され脱窒素塔から脱窒液を接触酸化塔へ送液する循環管路と、前記接触酸化塔並びに脱窒素塔中の垂直方向に多数条張設され多数のループ状繊維を有する紐状接触材とより成ることを特徴とする汚水の処理装置。」
(ロ)(3欄9〜15行)
「 又前記接触酸化塔1と脱窒素塔5には第3図に示すように織物状芯18よりループ状の繊維19を枝状に張り出した紐状接触材20が多数本垂直に張設されている。塔1,5内の上下にはその巾方向を等分するように適当間隔で固定桟21,21が架設され、この上下の固定桟21,21に紐状接触材20の両端が取付けられている。」
(ハ)(4欄15〜23行)
「 又接触酸化塔1と脱窒素塔5に夫々垂直に張設された多数の紐状接触材20は、全周に突起したループ状繊維19に多量の微生物が汚泥と共に附着して柔軟なロープ状の汚泥柱となって林立し、この汚泥柱の間隙を被処理水が下部から上部へ、上部から下部へと適度な速度で循環し被処理水中の好気性嫌気性の両基質は夫々の塔1,5内の好気性、嫌気性汚泥柱と緻密に接触反応して除去される。」

(6)実公平1-33199号公報(以下では、引例6という。)
(イ)実用新案登録請求の範囲
「 筒状に編まれた紐部と、この紐部の全長に亘って張り出す無数のループ部と、前記筒状紐部内に位置して紐部に対して接着剤によって固着される芯部とから成ることを特徴とする水処理用接触材。」
(ロ)(1欄8〜9行)
「 本考案は曝気槽内や河川中に張設されて使用される水処理用接触材に関するものである。」
(ハ)(1欄26行〜2欄5行)
「又後者、即ち特開昭51-128835号公報に記載された帯状の紐体を接触材として用いる場合は、素材に微細な繊維を使用しているため生物膜の付着効率が高く、更に紐体は柔軟性を有しているため曝気槽内の循環水流によって振動し、閉塞することもない」

(7)実公平1-35279号公報(以下では、引例7という。)
(イ)実用新案登録請求の範囲
「(1) 組紐を構成する素線の一部を多数のループ形状に形成した組み紐コードからなる汚水処理用接触材において、上記ループを組紐コードの長手方向及び周囲方向に異なる大きさの形状に多数形成したことを特徴とする汚水処理のための組紐コードから成る接触材。
(2) ループを形成するための素線に、熱収縮率の異なった2種以上の繊維を用い、各繊維を熱固定させることにより、ループを異なる大きさの形状に形成してなる実用新案登録請求の範囲第(1)項記載の接触材。」
(ロ)(3欄31〜34行)
「 このような熱収縮率の異なる繊維としては、ポリ塩化ビニル系とポリ塩化ビニリデン系もしくはポリプロピレン系とポリ塩化ビニリデン系の組合せを例示し得る。」
(ハ)(3欄36行〜4欄5行)
「 本考案は、叙上のとおり、組紐コードの長手方向及び周囲方向方向に、大きさの異なる形状のループが多数入り混じって形成されているので、下記に示すように、従来の均一の大きさのループを多数形成させた接触材に比べて、汚水処理に際しての活性微生物及び汚泥の付着が一そう良好であり、したがって、汚水の浄化効果も一段と向上させ得る。」

(8)特開昭51-128835号公報
(イ)特許請求の範囲の第1項
「(1) 輪状又は針状体が表面に密生した帯状紐体を、芯体の周辺部に前記紐体の裏面が前記芯体と密接し且つ順次螺旋状に密接して並ぶ如くに巻き付けたことを特徴とする汚水処理に於ける接触材の製造方法。」
(ロ)(2頁、左上欄末行〜同、右上欄6行)
「 従来、種々の汚水処理用接触材が使用されているが、何れも汚水の速度に対して十分固定することが困難であり、而も汚水処理に寄与する微生物の付着増殖に対して適した構造のものがなく、単に枠体に接触材として紐を張る方法等に於いては流速により揺動が激しく微生物が離脱し且つ紐自体が切断する等の恐れがあった。」
ただし、引例8は、引例6に引用されているので、念のために引用した。

〔四〕 判断
(1) 引例発明の認定
引例1には、下記構成の発明が記載されていると認められる。なお、引例1に記載されている食品製造廃水は有機廃水の一種であると認められる。
「 処理槽内で、担体に付着させた凝集性酵母を用いる、有機廃水処理方法」
以下では、上記構成の発明を本件引例発明という。

(2) 本願発明1と本件引例発明との相違点の認定
(イ) 本願発明1は、「処理槽内にヒモ状接触材を設置し、これに凝集性を有する酵母を付着」させた「酵母固定化処理槽」を用いるのに対して、本件引例発明は、処理槽内で担体に付着させた凝集性酵母によって処理するものの、「ヒモ状接触材」を設置し、これに凝集性酵母を付着させることはしていない。
以下では、この相違点を相違点1という。
(ロ) 本願発明1では、限外濾過膜を用いるが、本件引例発明では、限外濾過膜を用いていない。
以下では、この相違点を相違点2という。

(3) 相違点についての判断
(イ) 相違点1について
本願発明1で用いる「ヒモ状接触材」は、引例1には、担体として例示されてはいない。
しかしながら、「ヒモ状接触材」は、微生物による有機廃水処理における周知慣用の微生物付着用担体であると認められる(必要ならば、引例4から引例8までの各引例を参照)。そして、引例1によれば、凝集性酵母がガラスビーズ等に付着することが記載されているのであるから、凝集性酵母は、通常は、ガラスビーズ等だけではなく、「ヒモ状接触材」にも付着すると推測するのが当業者の技術常識であると認められる。
そうすると、周知慣用の「ヒモ状接触材」に凝集性酵母を付着させる程度のことは、当業者が容易にできることにすぎないと認められる。
なお、本件審判請求人は、非凝集性酵母が「ヒモ状接触材」に付着しないという事実をあげて、「凝集性及び/又は付着性の酵母」が「ヒモ状接触材」に付着するのは予想外のことであると主張しているが、非凝集性酵母が「ヒモ状接触材」付着するのであればともかく、上記主張事実によって、凝集性酵母が「ヒモ状接触材」に付着することが予想外とするとすることはできない。
また、「ヒモ状接触材」を用いることによって、予想外の効果を奏したものとも認められない。
(ロ) 相違点2について
(i) 引例1には、凝集性酵母による有機廃水処理装置に限外濾過膜を付設することを示唆する記載は認められないが、「酵母による廃水処理の要点は、108/ml以上の酵母密度を維持していくことである」と記載されている{上記〔三〕(1)(ハ)}。そして、凝集性酵母を「ヒモ状接触材」に付着させるとはいえ、凝集性酵母がすべて「ヒモ状接触材」に付着しているとは認められず、処理済み有機性廃水中には存在しないとは認められない{本願明細書でも、酵母が槽壁や槽底等にも付着、凝集している可能性がある。この点については、上記〔二〕(ハ)及び同(ニ)参照}から、処理済み有機性廃水中の酵母を分離し、酵母を含有する廃水を河川等に排出しないようにすることは、当業者ならば、容易に想到することであると認められる。
(ii) しかるに、引例3によれば、「生物反応装置と膜分離装置とを組み合わせた生物反応装置が廃水処理装置の分野」では、「生物処理装置からの生物処理液を膜分離処理し、この濃縮液を生物処理装置に返送するようにしたもの」や、「生物処理後の処理液を膜分離し、処理水の水質向上を図るようにしたもの」が用いられており、これによって、「菌体を確実に分離し、反応槽内の菌体濃度を高めて、単位反応槽容積あたりの生産処理効率を高めることができ、高度な廃水処理等の生物処理を行える」とされていたことが認められる{上記〔三〕(3)(ロ)及び同(ハ)参照}。また、引例3には、分離膜として、逆浸透膜、限外濾過膜、精密濾過膜等が例示され、反応種類に応じて選定されることも記載されている〔なお、限外濾過膜は、通常の濾紙等の濾過膜を透過するコロイド粒子を分離するために、必要に応じて目の細かさをコントロールして、使用できるものとして、周知慣用である。化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典 3」(縮刷版第1刷、1963年、共立出版株式会社発行)、423頁の「限外濾過」の項を参照〕。
(iii) また、凝集性酵母を用いる有機廃水処理系では、限外濾過装置を用いることができないとするに足る、なんらかの特別の事情があるものとは認められない。
なお、本件審判請求人は、本件審判請求書で、引例3には、UF膜による「酵母の分離」に関する記載はないと主張しているが、引例3の記載は、UF膜によっては酵母を分離できないとしているわけでもないから、この主張によって、上記の判断が適切でないとすることはできない。
(iv) そうすると、凝集性酵母による有機廃水処理装置に限外濾過装置を付設する程度のことは、当業者ならば、容易にできることであると認められる。
(v) そして、「BODが約1000〜3000ppm程度の食品廃水といった低濃度ではあるが排水量の多い廃水を処理する場合であっても、酵母がWash-outしても、これをUF膜で処理して分離することにより、これを含まない処理水が得られ、これは直ちに河川に放流する」ことができ、「活性汚泥処理が必要でなくなり、廃水処理設備全体が縮小、簡素化され、コストも低減化され」{上記〔二〕(ヘ)参照}、また、濾過の継続によって性能が低下したUF膜を洗浄することによって、UF膜の性能を回復することができるにしても、凝集性酵母の付着性及び限外濾過の一般的性質からみて予想外のことではなく、本願発明1は、当業者が予想することができない顕著な効果を奏したものとは認められない。
(ハ) 以上によれば、本願発明1は、当業者が容易に発明をすることができた発明と認められるから、特許法第29条第2項の規定によって、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-12-20 
結審通知日 2001-01-12 
審決日 2001-02-08 
出願番号 特願平2-302453
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 目代 博茂  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 新居田 知生
唐戸 光雄
発明の名称 有機廃水処理方法  
代理人 戸田 親男  

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