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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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審判199721136 | 審決 | 特許 |
異議199773380 | 審決 | 特許 |
審判19984525 | 審決 | 特許 |
審判19975963 | 審決 | 特許 |
不服20024614 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C12P |
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管理番号 | 1035654 |
異議申立番号 | 異議1999-73120 |
総通号数 | 18 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-08-17 |
確定日 | 2001-02-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2858534号「変性タンパク質に対するモノクローナル抗体」の発明に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2858534号に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件特許第2858534号は、昭和60年10月29日に出願された特願昭60-240703号(優先権主張、1984年10月29日、1985年8月8日,1985年9月27日、米国)の一部を新たに分割した出願として、平成6年1月19日に出願されたものであって、平成10年12月4日に設定登録された後、廣田雅紀により異議申立てがなされたものである。 2.本件特許発明の要旨は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの以下のものである。 「[請求項1] 抗体結合性部位がヒトヘモグロビンのβ-サブユニツト中のグルコシル化N末端ベプチド配列に特異的に結合することを特徴とするモノクローナル抗体またはその抗体結合部位を含む断片。」 なお、請求項2以下の記載は次のとおりである。 「[請求項2]抗体結合性部位が、式 G1yco-(NH)Val-His-AA- (上式中、GIyco-(NH)Valは非酵素的にグルコシル化されたバリン残基を表わし、そしてAAは結合であるかまたは1または2以上の追加のアミノ酸残基である)のグルコシル化べプチド残基へ特異的に結合することを特徴とする請求項1記載のモノクローナル抗体またはその断片。」 [請求項3] AAがヒトヘモグロビンのβ-サブユニツトのN末端に対応する1〜1 2個のアミノ酸配列であることを特徴とする請求項2記載のモノクローナル抗体またはその断片。 [請求項4] 免疫原性担体物質に化学的に結合したグルコシル化ベプチドであって、ヒトヘモグロビンのβ-サプユニツトのN-末端に対応する少なくとも2個のアミノ酸単位をもつグルコシル化べプチドまたは前記β-サプユニツトのグルコシル化N-末端を含むヘモグロビンの変性形態もしくはその断片を含んでなる免疫原に対してマウスで誘導されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその断片。 [請求項5] 立体的に接近できるように十分に露出させることにより前記グルコシル化N-末端べプチド配列に特異的に結合する請求項1〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその断片。 [請求項6] 前記グルコシル化ベプチド配列が物理的または化学的変性または消化によって抗体に対して露出されているものである請求項5記載のモノクローナル抗体またはその断片。 [請求項7] 前記グルコシル化ベプチド配列がカオトロビツク剤と接触させることによる化学的変性で抗体に対して露出されているものである請求項5または6記載のモノクローナル抗体またはその断片。 [請求項8] カオトロピツク剤がグアニジン、尿素、チオシアン酸カリウムまたは洗剤である請求項7記載のモノクローナル抗体またはその断片。 [請求項9] 固体表面に吸着された前記グルコシル化N-末端ベブチド配列またはヘモグロビンへ特異的に結合する請求項1〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体はその断片。」 これに対する本件異議申立人の主張の概要は、本件請求項1〜9に係る発明は甲第1〜8号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、これら請求項に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるというものである。 証拠方法 甲第1号証;特開昭59-119264号公報 甲第2号証;米国特許第4478744号明細書 甲第3号証;特開昭54-145210号公報 甲第4号証;「Clic. Chem. 」27/11, P.1797-1806(1981) 甲第5号証;「Journal of Biological Chemisyry」259, P.4691-4694(1984) 甲第6号証;「Molecular Immunology 」Vol.21, No.7, P673-677(1984) 甲第7号証;「Bllod」Vol.61, P.530-539(1983) 甲第8号証;菊池浩吉等著「医科免疫学 改訂2版」1981年南江堂、第76-81頁 そこで、まず、本件発明について上記異議申立人の主張が採用できるか否かについて検討する。 甲第1号証においては、非酵素的にグリコシル化されたタンパク質およびタンパク質フラグメントの測定免疫試験について記載され、該免疫試験に使用する抗体は、アマドリ転移グルコースに免疫原性担体を共有結合せしめた免疫源を使用して得られるものである旨の記載があり、グルコシル化タンパク質及びタンパク質フラグメントの測定試験として、糖尿病診断におけるグルコシル化ヘモグロビン(HbA1c)の測定についての従来技術が紹介されている。また、上記抗体の調製法として、ラビット、ヤギ、マウス、モルモット、又はウマを免疫源で免役して抗血清を得る旨、及び体細胞融合法によりモノクローナル抗体を得ることもできる旨の記載がある。 しかし、甲第1号証において具体的に記載されている抗体は、ポリ[ 1-デオキシ-1-(N6-L-リジル )-D-フルクトース ]を免疫源としてラビットに注射して得られた抗血清であり、このものはモノクローナル抗体ではないばかりか、上記免疫源として使用したポリ[ 1-デオキシ-1-(N6-L-リジル )-D-フルクトース]のペプチド部分はリジンが連続して結合しているだけであって、しかも該リジン鎖には、アマドリ転移グルコースが多数結合している特殊なものであり、この免疫原はヒトヘモグロビンのβ-サブユニツトのグルコシル化N末端ペプチド配列部分を有していないから、当然得られる抗血清はβ-サブユニツトのグルコシル化N末端ペプチドと特異的に結合する抗体とはいえない。また、さらに上記免疫源を構成する担体として、上記ポリ[ 1-デオキシ-1-(N6-L-リジル )-D-フルクトースの作成に使用したポリリジンの他アルブミン等種々のものが例示されてはいるが、これらを用いた免疫源もヒトヘモグロビンのβ-サブユニツトのグルコシル化N末端ペプチド配列を有するもとはいえない。 そうすると、甲第1号証においては、免疫源としてヒトヘモグロビンのβ-サブユニツトのグルコシル化N末端ペプチド配列部分を有するものを使用していないから、甲第1号証における免疫源を使用して、仮にモノクローナル抗体を作成しようとしても、得られるモノクローナル抗体はβ-サブユニツトのグルコシル化N末端ペプチドと特異的に結合する抗体とはいえず、甲第1号証は本件発明のモノクローナル抗体を何ら示唆していない。 甲第2号証においては、ヒトヘモグロビンのβ-鎖のNH2末端を含有するアミノ酸の4〜10の配列を含む合成ペプチドをグリコシル化し、これをキャリアータンパクと結合せしめたものを抗原(免疫源)として、宿主動物を免疫して、HbA1cに特異的な抗体を得る旨の記載があり、この免疫源は、本件発明の抗体を作成するために抗原と一致しているが、甲第2号証において得られたものは抗血清であり、本件発明のようなモノクローナル抗体ではない。また、甲第3号証においては、ヒトヘモグロビンA0、A1aおよびA1bに対して実質上交差反応性を有しない、ヒトヘモグロビンA1cに対する抗体について記載されてはいるが、この抗体も、チエビオットヒツジにヒトヘモグロビンA1cを 免疫して得られた抗血清であって、本件発明のようなモノクローナル抗体ではない。 この相違点について、異議申立人は、甲第4号証及び甲第7号証等を挙げ、モノクローナル抗体の作成は当業者において容易にできた旨主張する。 確かに、甲第4号証においては、モノクローナル抗体がポリクローナル抗体(抗血清)に比較して、免疫診断において種々の点で有利であることが論じられており、また、甲第7号証においてもマウス細胞を用いて6種のヒトヘモグロビン鎖に特異的なモノクローナル抗体を得ており、これらの点からみれば、異議議申立人がいうように、本件優先権主張日以前においても、本件発明のような糖尿病診断に有効なモノクローナル抗体の取得についての要求は充分あり、その動機付けはあったということができる。 しかし、本件優先権主張当時、モノクローナル抗体の作成において技術的に確立していたのはマウス免疫系であり、モノクローナル抗体を作成しようとする場合においては、このマウス免疫系の使用が通常考慮されるものといえる。そして、ヒトヘモグロビンのβ-サブユニツト中のグルコシル化N末端ベプチドの配列は、Glyco-VHLTPEEKSAVであり、マウスのそれはGlyco-VHLTDAEKAAVであることは本件優先日前からすでに知られており、両者はグルコシル化N末端から4番目までのアミノ酸シーケンスにおいて一致し、よく似た構造を有するものであるから、このようなグルコシル化N末端の構造の類似性からみれば、ヒトの上記糖部分を含んだN末端構造がマウスにとって異物と認識されない恐れがあると当業者が考えていたとしても、特段不合理ではない。 もっとも、上記N末端の5番目以降のアミノ酸配列においては、ヒトとマウスにおいて相違する部分が若干あるが、仮に、この相違部分を含むヒトのアミノ酸配列を異物としてマウスが認識したとしても、糖部分を含む構造まで異物として認識すると予測することはできない。なお、これについて異議申立人は、本件明細書の実施例においてはN末端から12個のヒトアミノ酸配列をエピトープとして用いているから、マウスとヒトのN末端配列に同じ部分があるからといって、マウスは抗体を生産しないとするのは当を得ない旨主張するが、これは本件明細書の記載をみたからこそいえることであり、本件優先権主張日以前の技術水準に基づくものではないから、妥当な主張ではない。 さらに、甲第3号証においては「ヘモグロビンA1cに対する抗体を製造するための免疫動物として、広範囲の異なった種が使用できるけれども、目下のところその代謝が天然ヘモグロビンA1cを産生しない動物、例えばネコ、ヤギ、ヒツジ等を免疫するのが好ましい。ヒツジヘモグロビンは2,3-ジホスホグリセレートと反応せず、そしてベータ鎖のN-末端グリコシル化を許容するDPGポケットの構造を欠いている。実際グリコシル化されたヘモグロビンは、ヒツジ赤血球溶血物中には検出できない。そのときヒツジは、抗原としてヒトHbA1cを明確に認識する。」と記載され、また、甲第2号証においても免疫する宿主動物について「かかる動物の代謝系で本来HbA1cを生成しない動物が好適である例えば宿主動物はヒツジが考えられる。」と記載されており、一方、上記した点からも明らかなように、マウスのヘモグロビンβ鎖はグルコシル化されるものであって、マウスは本来ヘモグロビンA1cを産生するから、甲第2、3号証の記載によれば、マウスは、免疫動物として好適なものではないとされていたといえるが、確かに、マウスによってはヒトヘモグロビンA1cに対する抗体を得るのが不可能とまでは述べられてはいない。 しかし、異議申立人も指摘する甲第3号証に対応する米国出願の手続中になされた1979年5月23日付の応答においては、「Garverアブストラクトは実際に、各種ヘモグロビンの同定を行うラジオイムノアッセイ(RIA)技術を教示しているが、RIA技術におけるウサギアンチヘモグロビン血清の使用に特に向けられている。対照的に、本発明によれば、代謝系でヘモグロビンA1cを生来生成しない動物に抗体を産生させることは、不可欠なことである(6頁最終パラグラフと、クレーム2,3,11,12,を特に参照のこと)。ヘモグロビンA1cは、ヒト、ウサギ、マウス及びイヌに生来生成されるため、精製したヘモグロビンA1cをかかる動物種に注入することにより、ヘモグロビンA1cのタンパク質部分のみに対する抗体を生成するのであって、この分子をヘモグロビンAと区別する、単糖に対する抗体を生成するのではない(2項,第2パラグラフ全体と、明細書7から8頁の第10と第11パラグラフにかけてを参照のこと)。従って、Garver特許の教示に従ってウサギにヘモグロビンA1cに対する特異的な抗体を産生することは理論的に不可能である。これは、ウサギがヘモグロビンA1cを生来生成しているからで、投与された抗原中の唯一の抗原決定因子は、タンパク質の特異的部分であってヘモグロビンA1cではなく、種決定因子部分である。即ち、各動物種のヘモグロビンA1cに対する抗体ではなく、抗原として投与されたへモグロビンの動物種に対する抗体を得られるであろう。」と記載され、この記載は、ヘモグロビンA1cを抗原として用いる場合、ヘモグロビンA1cを生来生成している動物を免役しても、ヘモグロビンA1cにおけるタンパク質の種特異部分に対するの抗体は得られるものの、目的とする糖部分を認識する抗体(上記記載においては、この抗体をヘモグロビンA1cに対する抗体としている。)は得られないことを述べているものと解される。そうすると、前記甲第3号証における前記記載においては、免疫動物としてヘモグロビンA1cを産生しない動物、例えばネコ、ヤギ、ヒツジ等を免疫するのが好ましいと記載しているが、この記載は、ヘモグロビンA1cを産生しない動物の方が、産生する動物に比べ、単に程度の問題としてより好ましいという意味ではなく、ヒトヘモグロビンA1cに対する抗体の作成においては、ヘモグロビンA1cを産生しない動物の使用が、不可欠であるとの考えに基づくものとするのが妥当である。また、甲第2号証においても、上記合成されたヒトヘモグロビンA1cのグルコシル化N末端配列を免疫する場合の宿主動物について、甲第3号証と同様な記載があり、この記載も上記応答と同様な考えに基づくものと解され、このような考えは、かなり一般的なものであったということができる。一方、マウスはヘモグロビンA1cを産生する動物であるから、上記考えにしたがえば、ヒトヘモグロビンA1cあるいはそのグルコシル化N末端配列をマウスに免役しても、抗体産生細胞を得ることはできず、モノクローナル抗体は得られないとの推論になるはずであるから、本件優先権主張日以前、本件発明のようなヒトヘモグロビンのβ-サブユニツトのグルコシル化N末端ペプチドと特異的に結合するモノクローナル抗体を得るのは少なくとも困難とされていたとしても妥当でないとはいえない。 さらに、モノクローナル抗体は、1975年におけるケラー及びミルスタインのハイブリドーマ技術の確立以来、抗血清等に比べて病気の診断等に非常に有効なものとして盛んに研究が進められてきたものであり、この点については甲第4号証においても明かである。一方、上記したように、ヒトヘモグロビンA1cに対する抗体を糖尿病診断に用いる試みは、例えば甲第3号証にみられるように遅くとも1978年当時から研究が進めれていたものであって、上記したように本件発明のようなヒトヘモグロビンのβ-サブユニツトのグルコシル化N末端ペプチドと特異的に結合するモノクローナル抗体は、その取得が待望されていたものであることは疑い得ない。それにも関わらず、本件優先権主張日(1985年)まで、該モノクローナル抗体が得られなかったことは、本件発明のモノクローナル抗体を得ることが困難であったことを伺わせるものである。また、本件異議申立人は、本件優先権主張日直後において、参考資料1(特公平7-20437号公報)及び2(ドイツ特許公開第3439610号明細書)に示される本件発明と同様なモノクローナル抗体に関する発明は相次いで出願されたことは、本件発明のようなモノクローナル抗体を作成しようとする契機が高まっていたことを示すものであり、動機付けを妨げる事由が存在しなかったことを物語る旨主張するが、上記したように本件発明のようなモノクローナル抗体についての要求自体は、本件優先権主張日のかなり以前からあったのであって、本件優先権主張日になって、急にこの要求が高まり、その結果得られたものとはいえない。しかも、上記参考資料1、2における発明は、特許出願されたものであり、この点からみると、かえって、参考資料1、2の出願人も、本件発明のようなモノクローナル抗体についての発明がいわゆる進歩性を有するものとしてとらえていたともいえるものである。 次に、甲第5、6及び8号証の記載は、タンパク質のマスクされた部分を変成剤により表面に露出すると、抗体との結合性あるいは抗原性を発揮するようになることを示すのみで、これら甲各号証は、本件発明のモノクローナル抗体について何ら示唆するものではない。 したがって、以上の点を総合的にみると、本件発明のモノクローナル抗体は、本件優先権主張日以前においては、その取得が困難であったとするのが妥当であり、本件発明は甲第1〜8号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものとすることはできないから、本件異議申立人の主張は採用できない。 なお、本件請求項2〜9は、本件発明をさらに限定したものであり、本件発明の構成を全て含むから、これら請求項に記載された事項も甲第1〜8号証に記載された発明から当業者が容易に想到できたものとはいえない。 3.以上のとおりであるから、本件異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明に係る特許は取消すことはできない。 また、他に本件特許を取消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-02-02 |
出願番号 | 特願平6-18988 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C12P)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 平田 和男、柏崎 康司、大久保 元浩 |
特許庁審判長 |
吉村 康男 |
特許庁審判官 |
宮本 和子 深津 弘 |
登録日 | 1998-12-04 |
登録番号 | 特許第2858534号(P2858534) |
権利者 | バイエル・コーポレーション |
発明の名称 | 変性タンパク質に対するモノクローナル抗体 |
代理人 | 小田島 平吉 |