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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1035656 |
異議申立番号 | 異議1999-74348 |
総通号数 | 18 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-04-06 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-11-24 |
確定日 | 2001-02-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2895589号「水系美爪料」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2895589号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2895589号の請求項1〜4に係る発明は、平成2年8月21日に特許出願され、平成11年3月5日にその特許権の設定登録がなされた。その後、特許異議申立人 菅原洋子より特許異議の申立てがなされ、当審により取消理由の通知がなされた後、その指定期間内である平成12年8月29日に特許権者より特許異議意見書が提出されたものである。 2.特許異議の申立てについての判断 (1)本件発明 本件特許の請求項1〜4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】ガラス転移温度の差が10℃以上である二種以上のアクリル系ポリマーエマルジョンを含有する水系美爪料。 【請求項2】アクリル系ポリマーエマルジョンが無乳化剤重合により得られたものである請求項第1項記載の水系美爪料。 【請求項3】二種以上のアクリル系ポリマーエマルジョンのガラス転移温度の差が20℃以上である請求項第1項または第2項記載の水系美爪料。 【請求項4】二種以上のアクリル系ポリマーエマルジョンの混合比率が、混合後のポリマーエマルジョンの見かけのガラス転移温度が10〜50℃となる比率である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の水系美爪料。」 (2)異議申立ての理由の概要 特許異議申立人 菅原 洋子は、以下の理由により、本件特許は取消すべきであると主張している。 i)本件の請求項1、3及び4に係る発明は、本願出願前の刊行物である甲第1号証および甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当し、特許を受けることができないものである。 ii)本件の請求項1〜4に係る発明は、本願出願前の刊行物である甲第1〜4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたのものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (3)証拠方法 上記主張に伴い、異議申立人が提示した証拠方法は、以下のとおりである。 ア.甲第1号証:特開昭57-56410号公報(以下、「刊行物1」という。) (記載内容) 平均粒子径が異なるポリマーマイクロエマルジョンを含有する水系美爪料が記載され、その実施例2には、酢酸ビニル-2-エチルヘキシルアクリレート(モノマー重量比75:25)共重合ポリマーエマルジョン(固形分50%)10.0重量%とチレン-メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-メタクリル酸(モノマー重量比10:40:45:5)共重合ポリマーマイクロエマルジョン(固形分30%)45重量%を配合したネイルエナメルベースコートが記載されている。 イ.甲第2号証:特開昭56-131513号公報(以下、「刊行物2」という。) (記載内容) 除去溶剤を使用することなしに爪表面より剥離できる美爪料について記載され、実施例1には 酢酸ビニル-ブチルアクリレート(モノマー重量比85:15)共重合ポリマー25.0重量%とメチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-メタクリル酸(モノマー重量比65:20:10:5)共重合物のアンモニア水中マイクロエマルジョン(固形分30%)25重量%とを配合したネイルエナメルベースコートが記載されている。また、実施例5には 酢酸ビニル-ブチルアクリレート-2-エチルヘキシルアクリレート(モノマー重量比85:10:5)共重合ポリマーエマルジョン(固形分50%)20.0重量%とメチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-メククリル酸(モノマー重量比65:20:10:5)共重合物のアンモニア水中マイクロエマルジョン(固形分30%)46重量%とを配合した濁赤色系ネイルエナメルが記載され、実施例6には、酢酸ビニル-2-エチルへキシルアクリレート(モノマー重量比90:10)共重合ポリマーエマルジョン(固形分50%)18.0重量%とメチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-2-エチルへキシルアクリレート-メタクリル酸(モノマー重量比60:10:10:6:5)共合物のマイクロエマルジョン48重量%を配合したパール系ネイルエナメルが記載されている。 ウ.甲第3号証:特開昭54-28836号公報(以下、「刊行物3という。」 (記載内容) アクリル系ポリマーエマルジョン(水性乳濁液状ポリマー)を塗膜形成剤として配合した美爪料が記載され、ポリマーはガラス転移温度Tgが約10〜30℃であるものが好ましいこと、このポリマーはバルク、溶液、懸濁液、又は乳化重合のような多くの方法で製造されること、及び乳化重合は分散相として水か有機溶媒中で行うことができることが記載されている。また、実施例においては、種々のアクリル系ポリマーエマルジョン及びそれらを配合した爪塗装用組成物が数多く示され、実施例26には、実施例2で製造した乳化ポリマー(メタクリル酸メチル47.0g、アクリル酸2‐エチルへキシル4 6.0 g、アクリル酸2.0 g 、トリメタクリル酸1,1,1-トリメチロールプロパン5.0gを乳化重合させた共重合体乳濁液)を配合した爪塗膜物が記載されている。 エ.甲第4号証:米国特許第4,649,045号明細書(以下、「刊行物4」という。) (記載内容) 40〜60%の第1の共重合体溶液と60〜40%の第2の共重合体溶液の混合物からなる熱可塑性樹脂溶剤溶液のコーティング組成物であって、それぞれの共重合体は芳香族系モノエチレン性モノマー(スチレンなど)約40〜80%と炭素数1〜18のアルカノールのモノエチレン性エステル(アクリル酸エチルなど)約5〜40%と、モノエチレン性カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(アクリル酸2-ヒドロキシエチルなど)約0.5〜15%と、モノエチレン性カルボン酸(アクリル酸など)0.5〜8%との共重合体からなリ、且つ第1の溶液の共重合体のガラス転移温度が40〜70℃の範囲内になり、また第2の溶液の共重合体のガラス転移温度が-10〜+10℃の範囲内になるように各共重合体の成分割合を調整して共重合させたものであるコーティング組成物が記載されている(クレーム1、第10欄19〜41行)。また、このコーティング組成物を含むネイルポリッシュが記載されている(クレーム23、第12欄37〜38行)。 (3)対比・判断 異議申立ての理由i)について 異議申立人は、上記刊行物1の実施例2として記載されたネイルエナメルベースコートに配合されている酢酸ビニル-2-エチルヘキシルアクリレート(モノマー重量比75:25)共重合ポリマーエマルジョンと、スチレン-メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-メタクリル酸(モノマー重量比10:40:45:5)共重合物のマイクロエマルジョンについて、各共重合物のガラス転移温度(以下、Tgという。)を本件特許明細書記載の手法によって算出し、その結果、当該実施例の組成物に含まれる上記2種の共重合ポリマーエマルジョンのTgの差が22.5℃であると主張している。異議申立人は、加えて、本件特許明細書には、アクリル系ポリマーエマルジョンについて、「高Tgポリマーエマルジョン及び低Tgエマルジョンは、それぞれ、アクリル酸系若しくはメタクリル酸系のモノマーの単独又は共重合により得られるポリマーエマルジョンであり、必要に応じて、アクリル酸系若しくはメタクリル酸系モノマーと共重合可能なビニル系モノマーを加えることもできる。」と記載され(本件特許公報第3欄第45〜50行)、この共重合可能なビニル系モノマーの例として、酢酸ビニル、スチレンが挙げられている(本件特許公報第4欄第13〜21行)ことを根拠に、上記刊行物1に実施例2として記載の各重合物エマルジョンは、本件発明でいうアクリル系ポリマーエマルジョンに包含されると主張している。 しかしながら、刊行物1に記載の美爪料は、粒子径が異なる2種のポリマーエマルジョンを混合して使用するものであるが、そのうちの1種としてアクリル系ポリマーマイクロエマルジョンが、他の1種として酢酸ビニル系ポリマーエマルジョンが挙げられ(請求項2、3)、さらに、刊行物1の実施例2においては、上記2種の共重合ポリマーエマルジョン等の配合原料が記載された欄に引き続いて、「製法」として、「アクリル系ポリマーマイクロエマルジョンに増粘剤を入れ撹拌分散を充分に行う。その後酢ビ系ポリマーエマルジョン...を配合し撹拌混合する。」と記載されている。ここに記載された「酢ビ系ポリマーエマルジョン」すなわち酢酸ビニル系ポリマーエマルジョンに該当するものは、上記実施例2の組成物に配合された2種のポリマーエマルジョンのうち、構成モノマーとして酢酸ビニルを有する酢酸ビニル-2-エチルヘキシルアクリレート(モノマー重量比75:25)共重合ポリマーエマルジョンしかあり得ない。そうすると、結局、上記刊行物1実施例2に記載の組成物には、アクリル系ポリマーエマルジョンと酢酸ビニル系ポリマーエマルジョンが配合されているのであり、刊行物1においては、上記実施例2中の酢酸ビニル-2-エチルヘキシルアクリレート(モノマー重量比75:25)共重合ポリマーエマルジョンが、アクリル系ポリマーエマルジョンではなく、酢酸ビニル系ポリマーエマルジョンに属するものと認識されていたことは明らかである。加えて、上記刊行物1実施例2中の酢酸ビニル-2-エチルヘキシルアクリレート(モノマー重量比75:25)共重合ポリマーエマルジョンは、酢酸ビニルと2-エチルヘキシルアクリレートとのモノマー重量比が75:25であり、そのモノマー重量比からみれば明らかに酢酸ビニルを主体とするものであって、このような共重合物ポリマーエマルジョンは、技術常識からみて、酢酸ビニル系ポリマーエマルジョンと通常いうべきものであり、アクリル系ポリマーエマルジョンとはいわない。そして、本件特許明細書においては、確かに、異議申立人が指摘するように、アクリル系ポリマーエマルジョンのモノマー成分として酢酸ビニル、スチレン等を加えることができると記載されてはいるが、これらの共重合モノマー成分が加えられたとしても、本件発明のアクリル系ポリマーエマルジョンが、技術常識を超えて、刊行物1に記載されているような酢酸ビニル系ポリマーエマルジョンと通常いわれるようなものまで包含していると解することはできない。 したがって、以上の点からみると、本件請求項1に係る発明の美爪料は、アクリル系ポリマーエマルジョンを二種以上含有するものであるのに対し、上記刊行物1実施例2に記載の組成物は、アクリル系ポリマーエマルジョンを一種しか含有していないから、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1に記載されたものと同一ではない。 異議申立人は、本件請求項1の美爪料と上記刊行物1の実施例2に記載のものと同一性についての主張と同様の論理で、本件請求項1に係る発明の美爪料と、刊行物2の実施例1,5,6に記載されたものとが同一であるとも主張しているが、上記刊行物2に記載の美爪料は、その特許請求の範囲の記載からも明らかなように、酢酸ビニル系ポリマーエマルジョンとアクリル系ポリマーエマルジョンとを混合したものである。そして、同刊行物に実施例1,5、6として記載された各組成物に配合された二種のポリマーエマルジョンのうち一方は、それぞれ、a)酢酸ビニルと2-エチルヘキシルアクリレートとのモノマー重量比が85:15の共重合物、b)酢酸ビニル、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートのモノマー重量比が各々85:10:5の共重合物、c)酢酸ビニルと2-エチルヘキシルアクリレートとのモノマー重量比が90:10の共重合物であって、モノマー重量比からみても、これらはいずれも酢酸ビニル系ポリマーエマルジョンであって、アクリル系ポリマーエマルジョンではないといわざるを得ない。してみれば、上記刊行物2の実施例1、5、6に記載された各組成物も、アクリル系ポリマーエマルジョンを1種しか含有していないから、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物2に記載されたものとも同一ではない。 また、本件請求項3および4に係る発明は、請求項1に係る発明にさらなる技術的事項による限定を付したものであるから、これら発明も当然に上記刊行物1、2に記載されたものと同一ではないというべきである。 異議申立の理由ii)について 上記刊行物1および2には、上記したように、水系美爪料にアクリル系ポリマーを配合することは記載されているものの、二種以上のアクリル系ポリマーエマルジョンを合わせて配合する点、および、これらアクリル系ポリマーエマルジョンとして、ガラス転移温度の差が10℃以上であるものを選択することについては、記載されてはいない。 また、上記刊行物3には、水系美爪料に配合するコポリマーエマルジョンを構成するモノマー含量を調整して、Tgを-10〜30℃、好ましくは10〜30℃に調整することにより、美爪料として望ましい性質を有する塗膜形成剤とすることができる旨記載されているが、上記刊行物3に記載されているのは、モノマーを混合して共重合させて得られた、特定範囲のTgを有する単一のポリマーを美爪料に配合することである。したがって、同刊行物中には、本件請求項1に係る発明の美爪料のように、二種類のポリマーを混合することも、また、混合するこれらポリマーとして、ガラス転移温度の差が10℃以上のアクリル系ポリマーエマルジョンを採用することも記載されておらず、また、そのような配合を示唆する記載も見あたらない。 一方、上記刊行物4に記載の発明は、異議申立人が指摘しているように、Tgが40〜70℃の比較的高いTgを有するコポリマーと、-10〜+10℃の比較的低いTgを有するコポリマーとを混合して、塗膜形成剤としたものであり、これにより、強靱で堅く、耐久性のある塗膜を得るという効果を有するものである。そして、上記刊行物4においては、上記二種以上のコポリマーを美爪料の一種であるネイルポリッシュに配合して、優れた性質の美爪料とすることも記載されている。しかしながら、上記刊行物4の第1欄第48〜52行には、同刊行物に記載された組成物は、「本発明は、少なくとも二種以上の溶液状のポリマーを配合した溶液状塗膜形成組成物である」と記載されており、さらに、第4欄第3〜17行に、「ネイルポリッシュに適する揮発性の有機溶媒はn-ブチル酢酸、エチル酢酸、n-プロピル酢酸単独や、トルエンのような芳香族系溶媒、メチルエチルケトンのようなケトン系溶媒、イソプロピルアルコールのようなアルコール系溶媒との混合物である。」と記載されているように、刊行物4に記載の美爪料は有機溶剤系のものであり、本件発明のような水系のものではない。 また、刊行物4の美爪料中の上記2種のコポリマーは、芳香族モノエチレン性モノマーに対して、炭素数1〜18のアルカノールのモノエチレン性エステル、モノエチレン性カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、及びモノエチレン性カルボン酸の成分割合を変えて共重合させ、その各々を製造するものであり、具体的には、芳香族モノエチレン性モノマーとしてスチレン等が記載され、炭素数1〜18のアルカノールのモノエチレン性エステル、モノエチレン性カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、及びモノエチレン性カルボン酸としてはいずれもアクリル系モノマーが記載されている。さらに、刊行物4には、芳香族モノエチレン性モノマーは約40〜80%であり、炭素数1〜18のアルカノールのモノエチレン性エステル、モノエチレン性カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、及びモノエチレン性カルボン酸はそれぞれ約5〜40%、約0.5〜15%及び約0.5〜8%である旨記載されている(特許請求の範囲)ことから、当該刊行物に記載のものに配合されるコポリマーとしては、アクリル系モノマーの合計が50%を超える場合も含まれ、上記2種のコポリマーとして、アクリル系モノマーを主体とするコポリマーを得ることもその概念上は可能ではある。しかし、実施例1の試験結果をみると、Tgが40〜70℃の高Tgコポリマーとして、そのモノマー割合とTgとが具体的に記載されたものは、スチレン72.5%、2-エチルへキシルアクリレート7.5%、2-ヒドロキシエチルアクリレート5.0%、及びアクリル酸5.0%を含むコポリマーA(Tg55℃)と、スチレン75.4%、2-エチルへキシルアクリレート4.6%、2-ヒドロキシエチルアクリレート5.0%、及びアクリル酸5.0%を含むコポリマーC(Tg63℃)のみであって、実際には、上記Tgが40〜70℃のコポリマーは、アクリル系モノマーを主体とするものでは得られていない。また、上記コポリマーを構成するモノマーのうち、2-エチルへキシルアクリレートは、上記炭素数1〜18のアルカノールのモノエチレン性エステルとして使用されたものであり、該モノマーはコポリマーのTgを低下させるものである旨刊行物4に記載されているから(第2欄第49〜51行)、該モノマーの使用量の多いものは、刊行物4に記載の組成物に配合する2種のコポリマーのうち、低Tgのコポリマーを得るためのものであると解すべきである。そして、スチレン60.6%、2-エチルへキシルアクリレート18.4%、2-ヒドロキシエチルアクリレート5.0%、及びアクリル酸5.0%を含むコポリマーDのTgは27.5℃であり、コポリマーのTgを低下させる2-エチルへキシルアクリレートの割合が18.4%の場合においてすでにTgが27.5℃にまで低下するということ、および、刊行物4に記載の各コポリマーにおいて、2-エチルへキシルアクリレートなどの炭素数1〜18のアルカノールのモノエチレン性エステルの他に使用されるアクリル系モノマーであるモノエチレン性カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルおよびエチレン性モノカルボン酸の含有量は、それぞれ15%以下、8%以下であること(特許請求の範囲1)を併せて考慮すれば、刊行物4に記載のものにおいて、アクリル系モノマーを主体にする場合、上記Tgが40〜70℃のコポリマーは実際には得られないとするのが相当である。 してみると、Tgが40〜70℃のコポリマーと-10〜+10℃のコポリマーとを使用する刊行物4に記載の発明は、2種のアクリル系ポリマーを使用するものではないものとせざるを得ず、さらに2種のアクリル系ポリマーを使用する点については、上記刊行物1〜3にも記載がないものであるから、刊行物1〜4の発明を組み合わせても、本件発明の構成は導き出せない。 しかも、本件発明の2種のアクリル系ポリマーエマルジョンは、Tgの差が10℃以上あるものであり、このような2種のポリマーエマルジョンを使用することにより、良好な光沢、耐水性、密着性、塗膜強度を有する美爪料を提供し得るという効果を奏するものである。一方、上記刊行物1〜4のうち、コポリマー混合物中の各コポリマーのTgと塗膜強度等の関係について言及しているのは、刊行物4のみであるが、前記したように、刊行物4に記載の美爪料は溶剤系のものであり、刊行物4においては、本件発明のような水系エマルジョンからなる美爪料の光沢、耐水性、密着性、塗膜強度の向上についての示唆は全くない。また、溶剤中と水性エマルジョン中とにおけるポリマーの存在状態は全く異なるものであり、これにより形成される塗膜の状態も大きく影響されるから、刊行物4におけるような溶剤系の美爪料において優れた性能を有するポリマーであったとしても、そのまま水性エマルジョン系の美爪料にも好適であるとは直ちにはいえず、刊行物4における2種のTgが異なる上記コポリマーを刊行物1〜3に記載されたような水性エマルジョンに使用した場合の効果は予想できないとするほかなく、まして、2種のアクリル系ポリマーを使用する本件発明の構成に基づく効果は当業者においても予測できないとするのが妥当である。 したがって、以上の点からみると、本件発明は当業者において容易に発明できたものとすることはできない。 また、本件請求項2〜4に係る発明は本件発明をさらに限定したものであるから、これら請求項に係る発明も当然当業者において容易に発明できたものではない。 3.むすび 以上のように、本件請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明と同一ではないから特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当せず、また、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、特許法第29条第2項の規定にも該当しない。また、他に本件請求項1〜4に係る発明の特許を取消すべき理由を発見しない。 よって、上記結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-02-02 |
出願番号 | 特願平2-218241 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 冨永 保 |
特許庁審判長 |
吉村 康男 |
特許庁審判官 |
深津 弘 谷口 浩行 |
登録日 | 1999-03-05 |
登録番号 | 特許第2895589号(P2895589) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | 水系美爪料 |
代理人 | 小野 信夫 |