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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F25J
管理番号 1035743
異議申立番号 異議1999-74434  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-02-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-30 
確定日 2001-03-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第2897600号「空気分離装置及び空気分散方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2897600号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第2897600号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成5年6月28日に特許出願され、平成11年3月12日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、日本酸素株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成12年5月8日付けで訂正請求がなされたが、その後訂正拒絶理由通知がなされたものである。
2.訂正の適否
2-1.独立特許要件
(1)訂正後の請求項1に係る発明
訂正後の請求項1ないし4に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されるとおりのものであるところ、訂正後の請求項1に係る発明(以下、訂正発明1という)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】規則的な構造を有する充填物を塔内に積層した精留塔を少なくとも1塔具備した空気分離装置において、前記精留塔には、液を下方に分散落下させる液分散装置と、該液分散装置の直下に設けられた積層・規則充填物と、該積層・規則充填物の直下に設けられた流体用ノズルと、前記積層・規則充填物の高さ方向の途中であって、流体用ノズルの無い位置に設けられ、前記積層・規則充填物を前記途中の位置まで通過した液を集め下方に分散落下させる集液・液分散装置とを備えた、ことを特徴とする空気分離装置。」
(2)刊行物の記載内容
先の訂正拒絶理由通知で引用された刊行物1の記載内容は、次のとおりである。
刊行物1:米国特許第5132055号明細書(訳文)
(a)「本発明は、熱・物質交換塔、さらに詳しくは、例えば空気精留塔における、充填物塔式の熱・物質交換塔の流体分配器に関し、」(第1欄第第10〜12行)
(b)「大径の精留塔では、“交差波形”式の充填物は自己支持されない。したがって塔の各筒部分は、上方の充填物部分から流下する液体を集め、この液体を下方の充填物部分に均一に分配し、過剰な圧力損失なしに上昇ガスを良好に配分するだけでなく、その全面に上方の充填物部分を支え、下方の充填物部分に上方支持部を提供しなければならない。」(第1欄第33〜第42行)
(c)「第4図はこのような分配器を備えた空気精留塔の一部分の縮小された縮尺での縦断面の模式図である。」(第2欄第21〜23行)
(d)「第9図は第10図または第11図のIX-IX線で切った場合の水平断面図であり、本発明の別の変形である。」(第2欄第30〜32行)
(e)「分配器1は、前述の国際特許出願第89/10527号明細書に記載されたような、例えば波形交差充填物である、整列された充填物を設けた形式の熱・物質交換塔22(図4)、例えば空気精留塔に取りつけられるようになっている。この種の塔は、いくつかの筒部分23,24に分割され、各筒部分は、それぞれ充填物セクション(又はパック)25,26を備えている。」(第3欄第36〜44行)
(f)「作動中、液体は上方のパック26の全面から流下し、液体空間20及び通路21に集められ、通路は全液体空間内の液面を確実に同じ高さにする。次いで液体は、孔15の規則的な目によって下方のパック25に均一に分配される。」(第4欄第5〜10行)
(g)「したがって、ガスは、それ自身も分配器の通過時に過剰な圧力損失なしに、塔の全部分にほぼ均一に分配される。開口12が垂直壁部11に設けられているという事実により、またそれらの長方形の形状によって、これらの開口は、分配器の全面への液体の流下を妨げることなく、また壁部11を通過時の機械的慣性を大きく減少することなしに、ガスの通過時に広い場所を提供する。分配器の能力を突然に超過した場合、液面は筒部4の頂部まで上昇し、その時筒部は、下方のパックの全面に確実に液体を目に見えるように規則的に分配し、特に開口12を横切るガス流を全く乱すことがない。塔のもっとも上のパック上に設けられた分配器は、塔がその頭部の液体供給手段を直接通路21内に有するならば、半屋根13したがって開口12を取り除くことによってつくることができることは注意すべきである。」(第4欄第24〜45行)
(h)第4図には、充填物パックの間に分配器が設けられていることが図示されており、また、流体用ノズルは図示されていない。
(3)対比・判断
刊行物1には、波形交差充填物を設けた「空気精留塔」に関し、上記(g)から、この精留塔の最上部には、分配器の機能を有する液供給手段が設けられ、また、上記(e)と、(h)の第4図から、分配器(1)は、充填物パックの間の流体用ノズルの無い位置に設けられていることが明らかであり、しかも、この分配器は、上記(f)及び(g)から、集液と分配機能を有するものであるから、刊行物1には、「整列された波形交差充填物を設けた空気精留塔において、塔の最上部には分配器の機能を有する液供給手段を設け、上記充填物を高さ方向に充填物パックとして整列して設け、該充填物パックの間の流体用ノズルの無い位置に分配器を設けた空気精留塔。」という発明(以下、刊行物1発明という。)が記載されていると云える。
そこで、訂正発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「液供給手段」、「整列された波形交差充填物」及び「分配器」は、訂正発明1の「液分散装置」、「積層・規則充填物」及び「集液・液分散装置」にそれぞれ相当するから、両者は、「規則的な構造を有する充填物を塔内に積層した精留塔を具備した空気分離装置において、前記精留塔には液を分散落下させる液分散装置と、該液分散装置の直下に設けられた積層・規則充填物と、前記積層・規則充填物の高さ方向の途中であって、流体用ノズルの無い位置に設けられ、前記積層・規則充填物を前記途中の位置まで通過した液を集め下方に分散落下させる集液・液分散装置とを備えた、ことを特徴とする空気分離装置。」で一致し、次の点で一応相違していると云える。
相違点:訂正発明1では、流体用ノズルが積層・規則充填物の直下に設けられているのに対して、刊行物1発明では、流体用ノズルが設けられているか明らかにされていない点
次に、この相違点について検討すると、空気分離装置の精留塔においては、精留塔内や他の塔との気液の還流等のために、流体用ノズルが設けられているとするのが技術常識であり、これを刊行物1発明の積層・規則充填物の直下に設けることは必要に応じて当業者が容易になし得ることである。
なお、特許権者は、平成12年11月27日付け特許異議意見書において、刊行物1の第9図の分配器は、外部流通孔(流体用ノズルに相当)のある位置に設けられており、しかもこの分配器は第4図の分配器1と置換されうるものであるから、第4図の分配器1も外部流通孔のある位置に設けられていると解するのが当然であると主張しているが、第9図の図説である上記(d)によれば、第9図の例は、本発明の分配器の他の変形例というだけのものである。そして、第4図を第9図のとおりに解し、第9図に外部流通孔が存在するから第4図の分配器も外部流通孔のある位置に設けられると解するに足る根拠は見当たらないから、特許権者の上記主張は採用することができない。
また、特許権者は、上記特許異議意見書において、刊行物1の分配器は、上記(e)によれば、WO89-10527に開示の精留塔に用いることを意図したものであり、しかも該精留塔においては分配器の配置位置に外部流通孔が存在するから、刊行物1の分配器も外部流通孔のある位置に設けられているとも主張しているが、刊行物1の分配器をWO89-10527に記載されたとおりに解する根拠はなく、また上記WO89-10527には、分配器自体について何ら記載されていないから、特許権者の上記主張も採用することができない。
したがって、訂正発明1は、上記刊行物1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
2-2.まとめ
以上のとおり、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
3.特許異議申立てについて
(1)本件発明1ないし4について
特許権者の上記訂正を認めることができないので、本件請求項1ないし4に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1ないし4」という)。
「【請求項1】規則的な構造を有する充填物を塔内に積層した精留塔を少なくとも1塔具備した空気分離装置において、前記精留塔には、液を下方に分散落下させる液分散装置と、該液分散装置の直下に設けられた積層・規則充填物と、該積層・規則充填物の直下に設けられた流体用ノズルと、前記積層・規則充填物の高さ方向の途中に設けられ通過する液を集め下方に分散落下させる集液・液分散装置とを備えた、ことを特徴とする空気分離装置。
【請求項2】規則的な構造を有する充填物を塔内に積層した精留塔を少なくとも1塔具備した空気分離装置において、前記精留塔には、液を下方に分散落下させる液分散装置と、該液分散装置の直下に設けられた積層・規則充填物と、該積層・規則充填物の直下に設けられた流体用ノズルと、前記積層・規則充填物の高さ方向の途中に設けられ通過する液を集め下方に分散落下させる集液・液分散装置とを備え、前記集液・液分散装置は、前記積層・規則充填物の高さが0.5m以上10mの範囲毎に少なくとも1個所設けられていることを特徴とする空気分離装置。
【請求項3】規則的な構造を有する充填物を塔内に積層した精留塔を少なくとも1塔具備した空気分離装置において、前記精留塔には、液を下方に分散落下させる液分散装置と、該液分散装置の直下に設けられた積層・規則充填物と、該積層・規則充填物の直下に設けられた流体用ノズルが配置され、前記積層・規則充填物の高さ方向の途中の異なる位置において、通過する液を集め下方に分散落下させる集液・液分散装置がそれぞれ設けられ、集液・液分散を繰り返すことを特徴とする空気分離装置。
【請求項4】規則的な構造を有する充填物を塔内に積層した精留塔を少なくとも1塔具備した空気分離装置において、前記精留塔には、液を下方に分散落下させる液分散装置と、該液分散装置の直下に設けられた積層・規則充填物と、該積層・規則充填物の直下に設けられた流体用ノズルが配置され、前記積層・規則充填物の高さ方向の途中の異なる位置であって該積層・規則充填物の高さが0.5m以上10mの範囲毎に少なくとも1個所、通過する液を集め下方に分散落下させる集液・液分散装置がそれぞれ設けられ、集液・液分散を繰り返すことを特徴とする空気分離装置。」
(2)引用例の記載内容
先の取消理由通知に引用された刊行物1の米国特許第5132055号明細書(以下、引用例1という)及び刊行物4の「分離技術 蒸留・晶析・吸着」分離技術懇話会発行 第22巻第4号 第8〜14頁(平成4年8月20日)(以下、引用例2という)の記載内容は、次のとおりである。
引用例1: 上記2-1.(2)で摘示したとおり。
引用例2:
(イ)「1972年に住友重機械工業はスイスのスルザー社より規則充填物の技術を導入し、住友/スルザーパッキングの名称の金網製の規則充填物を日本国内で販売開始した。1976年には薄板製の規則充填物である、住友/メラパックが開発販売された。」(第8頁左欄第12〜16行)
(ロ)「このようにして完成されたスルザーパッキングは軽水と重水の分離に成功し、アイソトープの分離に応用された。化学工業分野への応用はその後であり、弊社が技術導入したのも化学分野適用後である。」(第8頁右欄第28行〜第9頁左欄第1行)
(ハ)「実験はトランス/シスデカリン及びクロロ/エチルベンゼン系の全還流操作条件で・・・実験され、・・・実測データが得られた。」(第10頁第31〜34行)
(ニ)「連続充填高さの限界 図12はメラパック250Yについて、連続充填高さとNTSMの関係の実測値を整備して示している。メラパックは、充填方法によらず一定の充填密度が保て、液の流れも万遍に広がる構造を有しているので、性能劣化が発生する連続充填高さの限界値は大きい。この限度は液分散器の精度や、NTSMの設計的な余裕のとりかたにも依存する。図の下に記述している数値は各タイプにおける概略の限界値を示している。この数値を越える場合、液の再分散器を取り付けて計画をすべきである。」(第13頁右欄第9行〜第14頁左欄第6行)
(ホ)「最大連続充填高さの目安 住友/メラパック 250Y 8〜9m、350Y 7〜8m、500Y 4〜5m、住友/スルザーパッキング BX 3.5〜4m、CY 2〜2.5m」(第13頁図12説明)
(3)対比・判断
(3-1)本件発明1について
本件発明1は、上記訂正発明1の限定条件がないものであるから、上記2-1.(3)で述べたと同じ理由で、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2)本件発明2について
引用例2によれば、規則充填物については、一般に、その最大連続充填高さの限界値が2〜9mであること、また、限界値以上の場合には液の再分散器を取り付けるべきであることが知られているから、空気分離装置の積層・規則充填物を使用した精留塔において、「積層・規則充填物の高さが0.5m以上10mの範囲毎に」という充填高さの限界値を設定することは当業者が適宜なしうる設計的事項である。
なお、特許権者は、平成12年11月27日付け特許異議意見書において、限界値の存在自体は類推できても、石油化学系の精留塔と空気精留系の精留塔とは技術的に異なるから、石油化学系の精留塔でのデータから空気精留系における限界値を類推することは不可能である旨主張している。
しかしながら、蒸留という点からみて、石油化学系と空気精留系とでは、その技術内容に大差があるとは云えないし、また、上記(ロ)や先の取消理由で引用した刊行物2、3(欧州特許出願公開第491591号明細書、「REFRIGERATION SCIENCE AND TECHNOLOGY Meeting of Commission A3-I.I.R.1973」INTERNATIONAL INSTITUTE OF REFRIGERATION発行 第17〜27頁(1973))から明らかな如く、積層・規則充填物は気液向流や分散を促進する手段として、石油化学系や空気精留系の分野で共に広く利用されてきているものであるから、石油化学系の分野でのデータを参考として空気精留系のデータを類推することは当業者がむしろ普通に行う設計的事項であると云うべきである。
したがって、特許権者の上記主張は採用することができない。
以上のとおり、本件発明2も、上記引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-3)本件発明3について
規則充填物については、上記(3-2)で述べたように、その充填高さに限界値があることが知られており、精留塔の高さが充填高さの限界値より高い場合には、集液・液分散装置を異なる位置に複数設けることはむしろ当然のことであるから、複数の集液・液分散装置を設けることも当業者が適宜なしうる設計的事項である。
したがって、本件発明3も、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-4)本件発明4に係る発明について
本件発明4は、本件発明1ないし3の構成要件を合わせ備えるものであるから、上記(3-1)ないし(3-3)で述べたと同じ理由で、本件発明4も、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4.むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1ないし4に係る発明の特許は、拒絶をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-01-26 
出願番号 特願平5-157315
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (F25J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中村 泰三  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 1999-03-12 
登録番号 特許第2897600号(P2897600)
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 空気分離装置及び空気分散方法  
代理人 竹ノ内 勝  
代理人 高田 幸彦  
代理人 木戸 伝一郎  
代理人 木戸 一彦  

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