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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C |
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管理番号 | 1035882 |
異議申立番号 | 異議1998-75037 |
総通号数 | 18 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1989-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-10-14 |
確定日 | 2001-03-16 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第2739713号「高強度ボルト」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2739713号の請求項1に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2739713号発明についての出願は、昭和62年8月19日になされ、平成10年1月23日に、その発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成11年8月13日に訂正請求がなされたものである。 これに対して、平成12年7月10日付けで訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もない。 2.訂正拒絶理由 訂正拒絶理由の概要は、「訂正事項には、新規事項の追加に該当するもの、実質上特許請求の範囲を拡張するものがあり、当該訂正は、特許法第120条の4第3項の規定において準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。」というものである。 そして、上記の訂正拒絶理由は妥当なものと認められるので、当該訂正は認められない。 3.特許異議申立てについての判断 (1)本件発明 本件発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「重量%で、C:0.25〜0.35%、Si:0.15%以下、Mn:0.40%以下、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:0.50〜2.00%、V:0.05〜1.50%を含み、 さらに、重量%で、0.75%を越え上限が2.00%以下とされたMoを含有し、及びFe及び不可避不純物:残り、からなることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた引張強さ140〜160kgf/mm2の高強度ボルト。」 (2)刊行物に記載された発明 当審が平成11年5月27日付けで通知した取消しの理由に引用した刊行物1(特開昭61-130456号公報)には、 「1 重量%で、C:0.30〜0.50%、Si:0.15%以下、Mn:0.40%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.10〜0.70%及びV:0.15〜0.40%を含み、残部がFe及び不可避的不純物P:0.015%以下、S:0.010%以下よりなることを特徴とする高強度ボルト。」(特許請求の範囲第1項) が記載され、また、 「本発明は、・・・高強度ボルトとして規格上必要とされる高引張強さ、特に140〜160kgf/mm2の強さ並びに0.2%耐力の点で満足でき、更には付加的に耐遅れ破壊性のみならず疲労強度などの性質も優れた新規な化学成分を有する高強度ボルトを提供することを目的とするものであり、・・・」(第2頁左下欄9〜16行) 「Cは引張強さを増すために必要な成分であり、140〜160kgf/mm2の引張強さを確保するうえで下限を0.30%とする。しかし、0.50%を超えると靱延性を劣化させると共に耐遅れ破壊性も劣化するので、上限を0.50%とする。」(第3頁右上欄末行〜左下欄4行) 「SはPと同様、粒界に偏析するとともにMnSとしても存在し、耐遅れ破壊性を劣化させるので、これも精錬技術上可能な限り低減すべきであり、0.010%以下とし、0.005%以下にするのが好ましい。」(第3頁右下欄2〜6行) 「Moは、他元素とのバランスによるが、500℃以上の焼もどし温度で140〜160kgf/mm2の引張強さを得るのに最低0.10%を必要とする。しかし、0.70%以上の量を添加してもその効果が飽和し、またMoは高価な元素でもあるので、0.70%を上限とする。 ・・・・・ Vは、炭化物を形成し、結晶粒の微細化に効果があり、その結果、耐力を上昇させ靱延性を向上させることができ、またMoと同様、高温焼もどし時に炭化物として析出し、2次硬化を示して軟化抵抗を増大させることができる。そのためには0.15%以上、好ましくは0.25%以上添加する必要がある。」(第3頁右下欄末行〜第4頁左上欄15行) 「一方、これらの特定成分組成を有する鋼の熱処理条件については、広い範囲の熱処理温度、例えば焼入れ温度が900〜980℃、焼もどし温度が500〜650℃で焼入れ・焼もどしの熱処理を行っても、ISO強度区分14.9の規格を満足し得るが、本発明に係る成分のうち、上記の好ましい範囲に限定した鋼に対し、更に熱処理条件を限定すると、特に耐遅れ破壊性の向上が顕著であることが判明した。」(第4頁右上欄8〜16行) と記載されている。 同じく引用した刊行物3(特公昭55-31167号公報)には、 「C0.20〜0.40%、Si0.20〜1.50%、Mn0.50〜2.00%、Ni0.25〜2.00%、Cr0.50〜2.00%、Mo0.80〜4.00%、Cu0.15〜1.00%より成る基本成分に、更に必要に応じV0.01〜0.20%、Nb0.01〜0.20%、Ti0.01〜0.50%、可溶性Al0.005〜0.100%、B0.01%以下の1種又は2種以上を含有せしめ、残部Fe及び不純物より成る合金鋼をA3変態点以上の温度に加熱してから急冷し、A1変態点以下の温度で焼戻することを特徴とする耐遅れ破壊性のすぐれた高張力鋼の製造方法。」(特許請求の範囲) が記載され、また、 「本発明の対象鋼を焼入焼戻処理して得られる焼戻マルテンサイト組織は焼戻中におもに粒内の転移を析出核として極めて微細に一様に析出したMo炭化物を含む組織を呈しており、強度と靱性がともに優れている。また旧オーステナイト粒界やマルテンサイトラス境界には焼戻後においても粒大なセメンタイトの粒出物は認められず粒界が安定しているのみならず、Moの2次硬化を利用できるので所定の強度に対応する焼戻温度が高温側になって内部歪の少ない組織となって、これらの作用効果により耐遅れ破壊性が著しく優れている。」(第1頁第2欄22行〜33行) 「Moは本発明における重要な成分元素であり、Moは焼戻中に微細な炭化物として粒内に析出し、強度上昇に極めて大きく寄与するとともに結晶粒界の脆化を防止し遅れ破壊強度をも顕著に上昇せしめる。又Moの2次硬化を利用できるので所定の強度を得るための焼戻温度が600℃附近と極めて高温側になり、内部歪の少ない耐遅れ破壊性の極めて良好な焼戻マルテンサイト組織が得られる。又、Moは析出によって耐遅れ破壊性を劣化させることなく焼戻マルテンサイト組織を強化するのに極めて有効であり、このような強度確保及び遅れ破壊強度の上昇のためには0.50%以上必要であり、特に0.80%以上含有するのが望ましい。」(第2頁第3欄23行〜第4欄5行) と記載されている。 同じく引用した本出願前頒布された刊行物4(「鉄鋼と合金元素(上)」昭和41年2月28日発行、第534〜538頁)には、鋼中のMoの影響に関し、 「2%Mo,0.35%C鋼および5%Mo,0.35%C鋼を種々の温度で焼もどす際の硬さ変化を比較したものが図26(a)および図26(b)である。550〜650℃において焼もどし硬さの2次的増加が明瞭に認められる。」(第537頁12〜14行) 「・・・0.5%以上のMoが存在すると顕著な2次硬化が起こり、その程度はMo量の増加に伴って大きくなる(図29(c))。・・・2次硬化過程は非常に微細なMo2Cの析出に伴って起こるが、電子顕微鏡組織中に小さな針状析出物が認められるようになる直前に2次硬さ増加は最大となり、Mo2Cが凝集、成長しはじめると急速に軟化が進行することが確認された。Mo含有量が増加するにつれてMo2C粒子の数が増加し、これが2次硬さ増加の量を増加せしめる原因である。」(第538頁4〜13行) と記載されている。 (対比・判断) 本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、 「重量%で、C:0.30〜0.35%、Si:0.15%以下、Mn:0.40%以下、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:0.50〜1.50%、V:0.15〜0.40%を含み、 さらに、所定量のMoを含有し、及びFe及び不可避不純物:残り、からなる耐遅れ破壊性に優れた引張強さ140〜160kgf/mm2の高強度ボルト。」 である点で一致し、Moの含有量が、本件発明においては、「0.75%を越え上限が2.00%以下」であるのに対して、刊行物1に記載された発明においては、「0.10〜0.70%」である点で相違する。 上記相違点について検討する。 本件明細書には、Moの添加理由について、「Moは鋼の焼入れ性の向上に寄与すると共に、結晶粒の微細化及びオーステナイト粒界の強度向上に寄与する元素であり、更に、焼戻しにより十分な2次硬化を得ることを可能とする元素である。引張強さ140〜160kgf/mm2の高強度で且つ耐遅れ破壊性にも優れた高強度ボルトを得るためには、上述したように約600℃の焼戻温度でMo炭化物を析出させ、十分なる二次硬化を生じさせる必要がある。しかるに、Moの添加量が少ない場合は、Cは主としてセメンタイトFe3Cの供給源となり、Mo2C等のMo炭化物を微細析出させるのが困難となる。また、量産性を考慮した場合、可能な限り短時間で焼戻処理を施し、母相中からMo炭化物を十分に且つ効率良く微細析出させる必要がある。すなわち、量産性を考慮した場合、CがFeと反応してセメンタイトFe3Cを生成するのを極力阻止し、全てのCがMo炭化物生成の供給源となるようにするのが望ましく、そのためには0.75%以上のMoを添加する必要がある。よって、Moの添加量の下限を0.75%とした。」(本件特許公報第4欄38行〜第5欄5行)と記載されている。 これに対して、刊行物1には、Mo添加量の上限について「0.70%以上の量を添加してもその効果が飽和し、またMoは高価な元素でもあるので、0.70%を上限とする。」(第4頁左上欄3〜5行)と記載されており、「500℃以上の焼もどし温度で140〜160kgf/mm2の引張強さを得る」ために、0.70%を越えるMoを添加することを積極的に排除するものではなく、また、「Moと同様、高温焼もどし時に炭化物として析出し、2次硬化を示して軟化抵抗を増大させることができる。」という記載があるから、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、高温焼もどし時にMo炭化物を析出させ、2次硬化を生じさせる点でも、相違するものではない。 また、刊行物3には、高張力鋼にMoを0.80%以上含有させて、焼戻中に微細な炭化物として粒内に析出させ、強度上昇を図り、結晶粒界の脆化を防止し、遅れ破壊強度を上昇させることが記載されており、刊行物4には、2%Mo,0.35%C鋼は、550〜650℃において焼もどし硬さの2次的増加が認められ、0.5%以上のMoが存在すると顕著な2次硬化が起こり、その程度はMoの量の増加に伴って大きくなることが記載されているから、引張強さ140〜160kgf/mm2の高強度で且つ耐遅れ破壊性にも優れた高強度ボルトを得るために、刊行物1に記載された高強度ボルトのMoの含有量を0.75%を越える量とすることは、刊行物3及び4の記載を参照すれば、当業者が容易に想到し得るものと認める。 さらに、刊行物3には、「本発明の対象鋼を焼入焼戻処理して得られる焼戻マルテンサイト組織は焼戻中におもに粒内の転移を析出核として極めて微細に一様に析出したMo炭化物を含む組織を呈しており、強度と靱性がともに優れている。また旧オーステナイト粒界やマルテンサイトラス境界には焼戻後においても粒大なセメンタイトの粒出物は認められず・・・」と記載されており、0.80%以上の(0.75%を越える)Moを含有させれば、CがFeと反応してセメンタイトFe3Cを生成するのを極力阻止し、CをMo炭化物生成の供給源とすることができることは、該記載に基づいて予測可能であるから、本件発明の上記知見も格別なものとはいえない。 4.むすび 以上のとおり、本件発明は、刊行物1、3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 したがって、本件発明の特許は特許法第113条第1項第2号に該当するので、取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-01-25 |
出願番号 | 特願昭62-207324 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(C22C)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 小柳 健悟、三崎 仁 |
特許庁審判長 |
松本 悟 |
特許庁審判官 |
三浦 均 刑部 俊 |
登録日 | 1998-01-23 |
登録番号 | 特許第2739713号(P2739713) |
権利者 | 本田技研工業株式会社 |
発明の名称 | 高強度ボルト |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 川和 高穂 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 渡部 敏彦 |