• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1035926
異議申立番号 異議2000-71407  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-07-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-06 
確定日 2001-03-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第2959373号「基板へのスパッタ方法及びスパッタ装置」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2959373号の請求項4に係る特許を取り消す。 同請求項1、2、3、5に係る特許を維持する。 
理由 〔一〕 本件特許は、平成5年(1993)12月27日に出願され(特願平5-350881号)、平成11年7月30日に特許権設定の登録がされ(特許第2959373号。請求項数 5)、平成11年10月6日にその特許掲載公報が発行されたものである。
これに対して、平成12年4月6日付けで、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の特許請求の範囲の請求項1から同5までの各請求項に記載された構成の各発明は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許されたものであるから、本件特許は、取り消すべきであるとの特許異議の申立てがされた。
当審は、本件特許は、請求項4の発明について、取消理由を通知したが、これに対して、本件特許権者は、なんらの応答もしなかった。

〔二〕 本件特許明細書の記載
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】 基板(1)にデガス処理及びプラズマエッチング処理を施した後にスパッタ処理を行う基板へのスパッタ方法において、
前記基板を冷却することにより、前記デガス処理の終了から前記スパッタ処理の終了までの間は前記基板の温度を前記デガス処理時の前記基板の温度より低く保持することを特徴とする基板へのスパッタ方法。
【請求項2】 前記基板にプラズマエッチング処理を施しているときに前記基板を冷却する請求項1に記載の基板へのスパッタ方法。
【請求項3】 前記デガス処理、前記プラズマエッチング処理及び前記スパッタ処理の各処理間の搬送中に前記基板を冷却する請求項1または2に記載の基板へのスパッタ方法。
【請求項4】 スパッタ処理前の基板をエッチングするためのエッチング室を具備するスパッタ装置において、
前記エッチング室の基板ホールダに前記基板を冷却するための冷却機構(8)を設け、該冷却機構には前記基板と前記基板ホールダとの間にArガスを導入する手段(9)を設けたことを特徴とするスパッタ装置。
【請求項5】 デガス室(72)、エッチング室(73)及びスパッタ室(74-1、・・・)を具備するスパッタ装置において、
基板(1)を前記室間で搬送する搬送部材に前記基板を冷却する冷却機構を設け、該冷却機構はペルティエ素子に通電することにより前記基板を冷却することを特徴とするスパッタ装置。」
(ロ) 【0006】【発明が解決しようとする課題】の一部
「 このように、デガス処理を行った後のRFエッチング後においても基板からの水分放出により自然酸化層が形成される。特に、層間絶縁層として塗布絶縁層(SOG)等の吸湿性の大きいものを使用すると、水分放出量が多くなり、この結果、多層配線の第1層が酸化されて自然酸化層が形成される。この結果、スルーホール抵抗がばらついたり、あるいは大きくなるという課題がある。この場合の水分放出量はデガス処理を行わない場合に比較してわずかな量であるが、微細なスルーホールの場合には顕著な影響がある。」
(ハ)【0008】の一部(4欄19〜22行)【発明が解決しようとする課題】の一部
「また、RFプラズマエッチング工程におけるたとえばアノードカップル型RFプラズマエッチング室のアノードを液体窒素で冷却することが知られている(参照:特開平2-309632号公報)。」
(ニ)【0008】の一部(4欄31〜35行)
「しかしながら、水分は配線金属にきわめて近い層間絶縁層から放出されるので、プラズマ中の水分をアノードに吸着させても、自然酸化層の形成抑制効果はなく、また、スパッタ中については対策されていない。」
(ホ)【0010】【作用】の一部
「上述の手段によれば、エッチング処理中及びスパッタ処理中における基板からの水分の放出は抑制される。」
(ヘ)【0011】【作用】の一部
「上述の手段によれば、エッチング中の基板が直接冷却される。」
(ト) 第2図
第2図には、デガス、搬送、RFエッチング、搬送、スパッタの過程をこの順に経過する場合において、基板温度は、デガス過程で200℃に達するが、以降は200℃より低いことが示されている。
(チ) 第5図
上記第2図と同じような経過が図示されているが、デガス後の搬送時にも冷却するために、この搬送時の基板温度低下の度合いが第2図の場合よりも大きい。

〔三〕 引例の記載
(1) 特開昭61-159572号公報(甲第1号証)(以下では、引例1という。)
(イ)特許請求の範囲
「1. 試料を保持した試料ホルダを間欠移動させ前記試料に対してエッチング処理、スパッタ処理を連続して行う装置において、前記試料ホルダに前記試料の冷却手段と加熱手段とを設けたことを特徴とする連続スパッタ装置。」
(ロ)(2頁左下欄、9行〜同右下欄、17行)
「ベーク室7には図示していないが加熱手段が有り、この加熱手段により試料23を昇温させることで試料23表面のガス出しが行われる。このようなベーク処理完了後、回転テーブル3を更に規定角度だけ回転させることで、試料23を保持した試料ホルダ4はエッチング処理室8へ移動させられる。絶縁物14、15により試料ホルダ4と絶縁された高周波導入端子13に高周波電源27よりリレー28にて高周波電力を印加すれば、接地された対向電極25と共に試料ホルダ4はカソードカップリング方式のエッチング電極を構成し試料23の表面はエッチング処理される。これにより、試料23の表面の酸化膜は除去される。なお、エッチング処理時には、冷却水パイプ24より冷却水流路35に供給され冷却水流路35を流通する冷却水により試料23は冷却される。その後、回転テーブル3を更に規定角度だけ回転させることで、試料23を保持した試料ホルダ4はスパッタ処理室9更にはスパッタ処理室10へと移動させられる。冷却水流路35への冷却水の供給は停止され、ランプヒータ16には、リレー37の閉路により導入端子30を介してヒータ電源31より電流が印加される。これによりランプヒータ16の赤外線が電極20の細孔39を通過し石英板21を透過して試料23の裏面に到達し試料23は所定温度に充分に加熱される。その後、スパッタ電源32よりマグネトロンカソード33、アノード34に直流が印加され、ターゲット38より放出されたターゲット粒子により試料23表面には膜が被着される。」

(2)特開昭62-50462号公報(甲第3号証)(以下では、引例2という。)
(イ)特許請求の範囲
「1. スパッタ物質から成るターゲットと、プラズマ形成手段と、該プラズマ中の電離イオンに作用して該ターゲットのスパッタリングに必要な電力を供給する電源を有するスパッタリング装置において、試料基板を加熱、冷却あるいは任意温度に制御可能に、該基板の固定台に加熱、冷却および温度検出手段を設けたことを特徴とするスパッタリング装置。」
(ロ)〔発明の目的〕(2頁、左上欄)
「 本発明の目的は、上記した従来技術の欠点をなくし、成膜時の基板への熱流入による素子ダメージをなくすとともに、膜の結晶制御を可能とするスパッタ装置を提供するにある。」
(ハ)〔発明の実施例〕の一部(3頁左上欄、7行〜同右上欄、6行)
「ここで、陽陰電極間に電源26により電力を印加するとスパッタリングが生じ基板32上に膜が形成される。
ところで、基板32はチャック34により基板ホルダ33上の凸形状をした絶縁物35上に押し付けられ固定されており、電源49により基板電極42と陽極48間に電力を供給するとプラズマを介して静電吸着により全面が絶縁物に吸着される。と同時に基板上に付着の膜もバイアススパッタされ膜の平坦化が行われる。この時、基板には熱流入があり、例えばAr、N2などのガス37を基板ホルダ33の微小穴36から絶縁物35・基板32の微小すきまに供給し、さらに冷却水43を流路40に流すことにより前記ガス37を介して効果的に基板32の冷却が可能となる。さらに、基板の温度を上げたい場合には冷却水さらに、基板32の温度をさらに上げたい場合には、冷却水43の供給をやめシースヒータ39を作動させることにより、同様にガス37を介して効率よく加熱することができる。」
(ニ)〔発明の効果〕(3頁左下欄)
「 以上述べたように、スパッタ装置でバイアススパッタのように基板への熱流入がある場合、基板温度を制御可能に基板ホルダを構成することにより、素子内配線や不純物ドーププロフィルの様に熱影響をうけやすい対象を保護することが可能となる。また、基板温度を最適温度に制御することにより素子寿命の低下が防げるなど素子の信頼性および性能を向上することができる。
また、通常スパッタ膜は堆積原子・分子が複雑に並んだアモルファス状態を呈しているが、基板温度制御を行うことにより、多結晶状態を形成することも可能であり、膜の結晶制御も可能となる。」

(3)特開昭59-197145号公報(甲第4号証)(以下では、引例3という。)
(イ)特許請求の範囲の第1項
「1. ほぼ完全に接近可能な面を備えている基板を処理期間中静止に保持している真空型処理チェンバ内で、該基板を個々的に加熱又は冷却するための伝熱ステーションであって;
前記基板の面と同程度の面積の表面を有し且つ前記基板の面の外形に実質的に整合する外形を有する支持手段であって、前記表面の温度を制御するための手段をも含む支持手段;並びに
前記基板の面と前記支持手段の前記表面との間を近接した所定の間隔に維持するための手段;
から成り、
前記支持手段は、前記間隔にガスを流入させるための開口手段を含み、以って前記ガスが前記基板の面と前記支持手段の前記表面との間で一方から他方へと熱を移送させ主としてガス伝導により前記基板を加熱又は冷却するようにした、
ところの伝熱ステーション。」
(ロ)(6頁左下欄、下から2行〜同右下欄、10行)
「 本発明の関連した目的は、ステップカバレージ、均一性、対称性及び均質性、汚染レベル、デブリの損害、及び再現可能性の総合的考察に関し優秀な品質の金属層を蒸着させるために用いる基板処理装置を提供するものである。
同じく本発明の目的は、改良されたステップカバレージ及び良好な均一性でウエーハを個々的に迅速にコーティングするための基板処理装置を提供することである。
さらに他の目的は、ウエーハを個々的に加熱又は冷却するための伝熱ステーションを提供することである。」
(ハ)(16頁左下欄、1〜11行)
「ヒートシンク部材119は、圧力プレート16が作動的前進位置にあるときにウエーハ15に緊密に接近し接触はしないが平坦な表面125を有している。第8図に示されるように中央パイプ126が設けられて、スパッター蒸着源の操作のために使用されるアルゴンガスの微量を、ヒートシンク119とウエーハ15との間の空間に直接に導入させることができる。アルゴンガスのそのような導入は、ウエーハ15からヒートシンク119への伝熱率を増大させることにより、冷却率を増大する。」
(ニ)(22頁右下欄、10行〜23頁左上欄、10行)
「 対照的に、本発明の装置では、ウエーハは個々的方式で操作されている。加えて、ウエーハは静止的に保たれているが、いろいろな処理ステーションにあるし、そこでは密に連結している(ロードロックステーションを除いて)。更に、ウエーハがエッジにより支持されているので、ウエーハの両面は処理するのに対して接近可能である。このような特長の1つの帰結として、各処理ステーションに個々的にウエーハの温度を制御するために92のような手段を設けることが今や可能になった。特に、本発明の温度制御は、ウエーハ加熱ステーション28及びウエーハ冷却手段118と連係して前述したガス伝熱手段により上述のように成し遂げられる。これらの手段は、前述したようなウエーハの背面の後の空間に微量のアルゴンガス(スパッタリング蒸着給源の作動に対して少なくとも必要とされるだけの分量)を導入することにより、排気環境の下でウエーハを加熱又は冷却するという問題を解決する。このようなウエーハ加熱又は冷却手段は、どこかの場所、たとえばコーティングステーションに使用することもできるだろう。」

(4) 特開平4-116828号公報(甲第2号証。以下では、引例4という。)
(イ) 特許請求の範囲
「1.半導体装置の配線膜形成装置において、ウエハ上に第1層の配線膜を成膜する手段と、上記ウエハを上記第1層配線膜材の再結晶温度より高い温度に保温する手段とよりなる主工程手段を備え、上記主工程手段内の各処理を真空雰囲気内で連続して行うようにしたことを特徴とする配線膜形成装置。
2. (省略)
3. (省略)
4. 請求項1ないし3において、上記ウエハの表面を洗浄するためのスパッタリング手段と半導体ウエハを冷却する冷却ステージとよりなる前工程手段を備え、上記前工程手段と上記主工程手段が行う各処理を真空雰囲気内で連続して行うようにしたことを特徴とする配線膜形成装置。
5.〜14. (省略)」
なお、上記中、(省略)とは、当審が摘記を省略したことを示す。
(ロ) 7頁、右下欄末行〜8頁、右上欄3行
「 これに対して本発明ではウエハ温度を予め150℃に冷却するので、アルミニウム原子がビアホール41内に均一に付着し、同図(b)に示すようにビアホール41内のアルミニウム膜が連続的に成長する。このため断線も発生しない。
第8図(a)は上記第1図の本発明装置により150℃にてアルミニウムの第1層膜を1000Å成膜し、次いでウエハ温度を350℃に上げて第2層膜を成膜した際のビアホール部断面図である。
この断面形状は第7図と同様であるので、ビアホール部におけるアルミニウム膜の付き廻り性の良さは基本的にウエハ温度を150℃に設定したことに起因していることになる。この温度は必ずしも上記150℃に限定されるものではなく、アルミニウム膜が島状に附着しない範囲であればよい。しかしながら、第1図のスパッタエッチング室111における処理による温度上昇を上記温度範囲内に冷却するためには冷却ステージ200が必要であり、さらに第1スパッタ成膜室201においてウエハを上記温度に保持するために温度制御手段が必要となるものである。」

〔四〕 決定理由
(1) 請求項1から請求項3まで、及び請求項5の発明について
A. 請求項1から請求項3までの各請求項の発明について
以下、上記各発明を単に本件特許発明という。
(イ) 引例1には、連続スパッタ装置に関して、加熱してガス出しし、エッチング室に移動して、冷却しながらエッチングし、さらに、加熱しながらスパッタリングして成膜する方法が記載されている。
(ロ) 引例2には、スパッタリング装置に関して、熱流入対策として、また、膜質制御のために、冷却することが記載されている。
(ハ) 引例3には、蒸着装置に関して、膜質制御ののために、冷却することが記載されている。
(ニ) 引例4には、配線膜形成装置に関して、冷却しながらスパッタリングすることが記載されている。
(ホ) 以上(イ)〜(ニ)によれば、冷却しながらエッチングあるいはスパッタリングすることが記載され、その際、冷却温度は、膜質制御等のために制御されていると認められるものの、引例1から引例4のいずれにも、本件特許発明の特徴である、「デガス処理の終了から前記スパッタ処理の終了までの間」、一貫して基板が冷却され、しかも、その際、基板温度を「デガス処理時の前記基板の温度より低く保持する」ことを示唆する記載があるとは認められない。
そして、本件特許発明は、上記冷却によって、「エッチング処理中及びスパッタ処理中における基板からの水分の放出」を制御することができ、その結果、所期のスルーホール抵抗を形成できるなどの予想外の効果を奏したものと認められる。

B. 請求項5の発明について
引例1から引例4までの各引例には、基板ホルダー(可動のものを含む)に冷却手段を設けることが記載されているが、いずれも気体又は液体の冷媒によるものであって、いずれの引例にも、基板搬送部材にペルチエ素子を含む冷却機構を設け、通電できるようにすることを示唆する記載はない。
ペルチエ効果を利用した冷却法はよく知られているが、スパッタ装置の冷却手段としてペルチエ素子を付属させることがただちに容易にできることであるとはいえず、また、上記(1)(ホ)に指摘したような効果をも奏することができることは必ずしも予想できるとはいえない。
C. そうすると、本件特許の請求項1から請求項3までの発明及び同請求項5の発明は、引例1から引例4までの各引例に記載された各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また、他に、本件特許発明について、本件特許を取り消すべき理由を発見しない。

(2) 請求項4の発明について
平成12年7月21日付けの当審の取消理由通知書(平成12年8月4日、発送)に記載した理由によって、上記発明は、引例1から引例3までの各引例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明である。
そうすると、本件特許は、請求項4の発明について、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許されたものであり、取り消すべきものである。

(3) よって、平成7年政令第205号第4条第2項の規定に従い、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-02-07 
出願番号 特願平5-350881
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (C23C)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 城所 宏山田 靖  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 唐戸 光雄
西村 和美
登録日 1999-07-30 
登録番号 特許第2959373号(P2959373)
権利者 日本電気株式会社
発明の名称 基板へのスパッタ方法及びスパッタ装置  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ