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審決分類 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1035934
異議申立番号 異議2000-71357  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-03-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-04 
確定日 2001-04-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第2956903号「投影装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2956903号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯
特許第2956903号の請求項1に係る発明は、昭和63年9月19日に出願され、平成11年7月23日にその設定登録がなされ、その後、申立人 株式会社ニコンより特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年8月25日に訂正請求がなされ、訂正拒絶理由通知に対して平成12年12月19日に特許異議意見書が提出されたものである。

【2】訂正の適否についての判断
《2-1》訂正の要旨
訂正請求書にて、特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa、bのとおりである。
訂正事項a:
平成11年6月8日に提出した手続補正書により補正した特許請求の範囲の請求項1における「投影光学系により第1物体のパターンを第2物体上に投影する投影装置において、複数の部材を光軸方向に個別に移動させて前記投影光学系のレンズと前記第1物体間の間隔及び前記投影光学系のレンズ間の間隔」を特許請求の範囲の減縮を目的として、「投影光学系により第1物体のパターンを第2物体上に縮小倍率で投影する投影装置において、複数の部材を光軸方向に個別に移動させて前記投影光学系のレンズと前記第1物体間の間隔及び第2物体より第1物体に近い前記投影光学系のレンズ間の間隔」と訂正する。
訂正事項b:
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明りようでない記載の釈明を目的として、平成11年6月8日に提出した手続補正書により補正した明細書第4頁第3行目〜第9行目(特許掲載公報第3欄第2行目〜第9行目)にかけての「本発明の投影装置は、…としている。」を「本発明の投影装置は投影光学系により第1物体のパターンを第2物体上に縮小倍率で投影する投影装置において、複数の部材を光軸方向に個別に移動させて前記投影光学系のレンズと前記第1物体間の間隔及び第2物体よりも第1物体に近い前記投影光学系のレンズ間の間隔とを変えることにより該投影光学系の製造後に前記投影光学系の投影倍率と対称歪曲収差とを独立に調整可能とする調整手段を有することを特徴としている。」と訂正する。

《2-2》平成12年9月29日付けで通知した訂正拒絶理由は以下のとおりである。
『上記訂正は、訂正前の請求項1の記載における
「投影光学系により第1物体のパターンを第2物体上に投影する投影装置において、複数の部材を光軸方向に個別に移動させて前記投影光学系のレンズと前記第1物体間の間隔及び前記投影光学系のレンズ間の間隔」
を、
「投影光学系により第1物体のパターンを第2物体上に縮小倍率で投影する投影装置において、複数の部材を光軸方向に個別に移動させて前記投影光学系のレンズと前記第1物体間の間隔及び第2物体より第1物体に近い前記投影光学系のレンズ間の間隔」
と訂正する内容を含むものである。
しかし、前記訂正により加入された「第2物体より第1物体に近い前記投影光学系のレンズ間の間隔」を変える点は、特許明細書に記載されていない事項である。特許明細書には、その実施例についての説明中、間隔l1を調整することが記載されているだけである。すなわち、上記訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではない。
よって、平成6年法における改正前の特許法第126条第1項ただし書きで規定する要件に適合しないので上記訂正は認められない。』

《2-3》上記訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものか否かの判断
訂正前の明細書において、「投影光学系のレンズ間の間隔」に関して、「8は補正手段であり、検出手段7からの出力信号に基づいてレチクル4と投影光学系5との距離(間隔)S1、及び投影光学系5を構成する各レンズのレンズ間隔のうちの少なくとも1つの間隔を変化させている。本実施例では以上のような構成により間隔S1、及び投影光学系中のレンズ間隔のうち少なくとも1つの間隔を調整することにより、他の諸収差の悪化を防止しつつ、投影光学系の歪曲誤差を良好に補正している。・・・次に本実施例における投影光学系の具体的なレンズ構成について説明する。第2図は本発明に係る投影光学系のレンズ断面図である。同図においてRは電子回路パターンが形成されているレチクル、G1〜G14は投影光学系を構成するレンズ、Wはウエハであり、投影光学系の最良像面に配置されている。S1はレチクルRと投影光学系との距離、Skは投影光学系と該投影光学系の最良像面との距離を示している。本実施例における投影光学系の数値実施例を表-1に示す。数値実施例においてRiは物体側より順に第i番目のレンズ面の曲率半径、Diは物体側より第i番目のレンズ厚及び空気間隔、Niは物体側より順に第i番目のレンズのガラスの屈折率である。表-2に表-1のレンズデータを有する投影光学系において、レチクルRと投影光学系の距離S1及び各レンズ間の空気間隔(l1〜l13)を個別に1mm変化させた場合のウエハ面上での像高10mmの位置における対称歪曲の変化量(ΔSD)と投影倍率の変化量(Δβ)及び両者の比(ΔSD/Δβ)を示す。・・・本実施例では間隔S1と間隔l1の双方を調整して主に投影倍率誤差と対称歪曲誤差を良好に補正している。今、間隔S1の変化量をΔS1、間隔l1の変化量をΔl1とすると表-2のデータより対称歪曲と投影倍率の変化量ΔSD、Δβは各々次式となる。・・・従って対称歪曲と投影倍率の各々の修正目標値が与えられるとΔl1、ΔS1は次式で与えられる。・・・但しk=(1277.8)-1 以上の値を利用して、本実施例では気圧、温度等の環境の変化等による歪曲誤差の中で最とも影響の多い投影倍率誤差及び対称歪曲誤差の双方を良好に補正している。又、間隔S1、即ち投影光学系と物体面(レチクル)の距離の変化による収差の変化は投影倍率、ピント位置等の近軸量の変化に比べて通常少なく、投影光学系内のレンズ間の空気間隔と比較しても収差量の変化量と近軸量の変化量の比・・・が小さい。・・・この為本実施例では投影倍率の補正をレチクルR(4)を動かすことにより、主に間隔S1で行い、対称歪曲誤差の補正を投影光学系内のレンズG1を動かすことにより行なうようにし、投影倍率と対称歪曲収差とを独立に調整可能としている。これにより投影倍率誤差と対称歪曲誤差を同時に良好に補正している。特に対称歪曲以外の収差の変化が少ない空気間隔を選ぶ事により、全ての光学性能を良好に維持している。」と記載されている。
しかし、上記訂正事項a,bにより、発明の構成となる「第2物体より第1物体に近い前記投影光学系のレンズ間の間隔」を変える点は、特許明細書に記載されていない事項である。確かに、訂正前の明細書には「間隔S1、及び投影光学系中のレンズ間隔のうち少なくとも1つの間隔を調整すること」及び実施例として「投影倍率の補正をレチクルR(4)を動かすことにより、主に間隔S1で行い、対称歪曲誤差の補正を投影光学系内のレンズG1を動かす(間隔l1を変化させる)ことにより行なう」ことが記載されているものの、この記載は「第2物体より第1物体に近い前記投影光学系のレンズ間の間隔」を変えることを意味するとは認められない。また、「第2物体より第1物体に近い前記投影光学系のレンズ間の間隔」を変える根拠は、訂正前の明細書に開示されていない。

《2-4》むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではない。
よって、平成6年法における改正前の特許法第126条第1項ただし書きで規定する要件に適合しないので上記訂正は認められない。

【3】特許異議の申立てについての判断
《3-1》申立ての理由の概要
申立人 株式会社ニコンは、甲第1〜2号証を提示し、本件の請求項1に係る発明は、本件発明の出願日前に公開された甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第1号の規定に違反しており、また、本件発明の出願日前に公開された甲第2号証に記載された発明より自明なので、特許法第29条第2項の規定に違反しており、さらに、特許請求の範囲が記載不備であり、特許法第36条第6項第1号の規定に違反している旨主張している。
ここで、特許法第29条第1項第1号とあるのは特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号とあるのは特許法第36条第4項第1号の誤記と認める。
そして、当審が発した取消理由通知書で示した取消理由1は、以下のとおりである。
『理由1
刊行物1: 特開昭59-94032号公報(甲第1号証)
刊行物2: 特開昭60-78416号公報(甲第2号証)
(本件発明)
本件の特許第2956903号の請求項1に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものである。(以下、本件発明という。)
(刊行物の記載)
本件発明に対し、刊行物1、2には、「特許異議申立書4.申立の理由(4)具体的理由(B)証拠の説明」に摘示された事項が記載されている。
(対比・判断)
そして本件発明と、刊行物1、2とを対比すると、「特許異議申立書4.申立の理由(4)具体的理由(C)本件発明と証拠との対比」に説示された内容は妥当なものと認められる。よって、本件発明は刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
従って、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。』

《3-2》本件の発明
本件の請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「投影光学系により第1物体のパターンを第2物体上に投影する投影装置において、複数の部材を光軸方向に個別に移動させて前記投影光学系のレンズと前記第1物体間の間隔及び前記投影光学系のレンズ間の間隔とを変えることにより該投影光学系の製造後に前記投影光学系の投影倍率と対称歪曲収差とを独立に調整可能とする調整手段を有することを特徴とする投影装置。」
(以下、「本件発明」という。)

《3-3》刊行物における記載事項
[刊行物1: 特開昭59-94032号公報]
刊行物1は、投影レンズの一部を調節して倍率誤差及び歪曲収差を補正する技術に関するものである。図1及び公報全体の記載から、レチクルのパターンを投影レンズによりウェハ上へ投影する投影露光装置を開示している。
第2頁左上欄第2行目〜右上欄第19行目に「この重ね合わせ誤差の原因のうち、露光装置によって発生するものは、(1)投影倍率誤差と投影歪み、及び(2)投影像とウェハの相対的な位置ずれである。・・・従って、レチクルと投影レンズ間の距離及び投影レンズ内部の構成要素の相対位置が変化しなければ(1)の原因による誤差は一定であり、・・・さてシステマティックな誤差である(1)の誤差は、その値を測定しながら一定値以下になるように装置を調整しておけば、長い時間にわたって安定して小さい値を維持できるもので、露光装置の製造時の調整において、できるだけ小さくしておかなねばならない。・・・本発明は、これらの欠点を解決し、投影倍率や投影歪量等の光学特性の測定を容易に行ない得る測定装置を得ることを目的とする。」と記載されている。
第6頁左上欄20行目〜同頁右上欄12行目に「そして、計算された投影倍率が許容量を超えるならば、第1図に示したレチクル5と投影レンズ6の主平面6aとの間隔Lを再調整するか、又は投影レンズ6を構成する光学部品(レンズ)間の距離を再調節して焦点距離を変える。そして、再び上記の方法によって倍率を測定し、その倍率誤差が許容できる値になるまで、投影レンズ6の調整と測定を繰り返す。また、倍率誤差の計測時に投影光学系の歪曲収差も測定し、その収差も許容し得るものであることを確認する。もし、歪曲収差が許容量を越えていれば、投影レンズ6内部の光学要素の位置を調整したり、その光学要素を他のものと交換したりする。」と記載されている。
第8頁左上欄第4行目〜同頁同欄第8行目に「また、本発明は上述したような製造、サービス又はメインテナンス時に適用され得るのみでなく、投影倍率を所定量だけ微調したい場合に、露光装置の通常のオペレーションの一部に含ませることもできる。」と記載されている。

以上の記載からみて、刊行物1には、「投影レンズ6によりレチクル5のパターンをウェハ上に投影する露光装置において、レチクル5と投影レンズ6の主平面6aとの間隔Lを再調整するか、又は投影レンズ6を構成する光学部品(レンズ)間の距離を再調節して焦点距離を変え、再び上記の方法によって倍率を測定し、その倍率が許容できる値になるまで、投影レンズ6の調整(投影レンズ6内部の光学要素の位置の調整)と測定を繰り返すことにより露光装置の製造後に、前記投影レンズ6の投影倍率と投影歪み(歪曲収差)とを一定以下になるように調整することを特徴とする露光装置。」なる発明が記載されている。

[刊行物2:特開昭60-78416号公報]
刊行物2は、図面及び公報全体の記載から、レチクルパターンを投影レンズによりウエハ上へ投影する投影光学装置を開示している。
第2頁左上欄第16行目〜同頁同欄第20行目に、「本発明の目的は、投影レンズの倍率や結像面等の光学諸性能の微調整が容易に可能な投影光学装置を提供することにあり、さらには、倍率や結像面等の光学諸性能の微調整が容易に可能な投影光学装置を提供することにあり、さらには、倍率や結像面、或いは収差等の光学諸性能を独立に補正し得る投影光学装置を提供することにある。」と記載されている。
第2頁右上欄第1行目〜第3頁右下欄第16行目には、投影レンズの空気室の気圧を調節して倍率及び像面変動を補正する方法が具体的に開示されている。これに続いて、第3頁右下欄第17行目〜第4頁左上欄第6行目に、「そして、倍率及び結像面に加えて、他の光学性能、例えば、球面収差、コマ収差、像面湾曲或は歪曲収差をも同時に補正するためには、上記のごとき結合された空気室及び第4の空気室に加えて、さらに別途に圧力制御し得る空気室を設けることとすればよい。すなわち、光学諸性能のうち3つの性能を同時に補正するためには、3個の互いに独立した圧力制御空間を設ければよい。そして、一般には、補正しようとする光学諸性能の数に等しい数の圧力制御空間を独立に設ければよい。」と記載されている。
第7頁左上欄第11行目〜同頁同欄第17行目に、「上述のごとく、投影光学系の光路中に独立に気圧を制御できる空間が少くとも2ケ以上存在すれば、投影倍率と結像面位置の両方の変化を制御できる。この時、投影レンズ中のレンズエレメントを光軸方向に動かしたり、レチクルと投影レンズの間隔を変化させたりする手法を援用すれば気圧を制御する空間は必ずしも2ケ以上必要としない。」と記載されている。

《3-4》対比
本件発明と刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比する。
引用発明における
(1)「投影レンズ6」、
(2)「レチクル5」、
(3)「ウェハ」、
(4) 「露光装置」及び
(5) 「光学部品(レンズ)」
は、本件発明の
(1)「投影光学系」、
(2)「第1物体」、
(3)「第2物体」、
(4) 「投影装置」及び
(5) 「レンズ」
に相当する。
そして、引用発明において「レチクル5と投影レンズ6の主平面6aとの間隔Lを再調整するか、又は投影レンズ6を構成する光学部品(レンズ)間の距離を再調節して焦点距離を変え、再び上記の方法によって倍率を測定し、その倍率が許容できる値になるまで、投影レンズ6の調整(投影レンズ6内部の光学要素の位置の調整)と測定を繰り返す」ことは、複数の部材を光軸方向に個別に移動させること、投影レンズ6のレンズとレチクル5間の間隔を変えること、及び投影レンズ6を構成するレンズ間の間隔を変えることを意味している。
してみると、両者は「投影光学系により第1物体のパターンを第2物体上に投影する投影装置において、複数の部材を光軸方向に個別に移動させて前記投影光学系のレンズと前記第1物体間の間隔及び前記投影光学系のレンズ間の間隔とを変えることにより該投影光学系の製造後に前記投影光学系の投影倍率と歪曲収差とを調整可能とする調整手段を有することを特徴とする投影装置。」の点で一致し、以下の[相違点1]及び[相違点2]の点で相違する。

[相違点1]
調整の対象が、本件発明では、投影倍率と対象歪曲収差であるのに対して、引用発明では、投影倍率と投影歪みすなわち歪曲収差である点。
[相違点2]
本件発明は、調整の対象(投影倍率と対称歪曲収差)を独立に調整可能であるのに対して、引用発明では、調整の対象(投影倍率と投影歪み(歪曲収差))を独立に調整可能であるとは明示していない点。

《3-5》判断
[相違点1]について:
通常の投影光学系の製造上の目標がそうであるように、系を構成するレンズが系の光軸を中心として回転対称であれば、歪曲収差は対称性のものなることは当業者に明らかである。従って、引用発明における調整の対象である「投影歪み(歪曲収差)」を対称歪曲収差に限定することは当業者が容易に想到できた事項である。また、対称歪曲収差に限定することによる格別の技術的意義も認められない。

[相違点2]について:
引用発明は、調整の対象(投影倍率と投影歪み(歪曲収差))を独立に調整可能であるとは明示していないが、レチクル5と投影レンズ6の主平面6aとの間隔Lを再調整するか又は投影レンズ6を構成する光学部品(レンズ)間の距離を再調節して焦点距離を変え、再び上記の方法によって倍率を測定し、その倍率が許容できる値になるまで、投影レンズ6の調整(投影レンズ6内部の光学要素の位置の調整)と測定を繰り返すことにより露光装置の製造後に、前記投影レンズ6の投影倍率と投影歪み(歪曲収差)とを一定以下になるように調整する。してみると、引用発明においても、投影レンズ6の投影倍率と歪曲収差との目標値を与えてレチクル5と投影レンズ6の主平面6aとの間隔Lを再調整するか、又は投影レンズ6を構成する光学部品(レンズ)間の距離を再調節する操作と、測定の操作とを繰り返して投影倍率と歪曲収差との目標値を達成しているものと推測される。しかし、この推測は当業者の推測であって、刊行物1には、投影倍率と歪曲収差との目標値を独立に与えてそれらの目標値が実現可能であることまでは記載されていない。
そこで、引用発明と同じ技術分野に属し、投影光学系の光学性能の調整のための技術を開示する刊行物2を検討するに、そこには、「倍率及び像面に加えて、他の光学性能、例えば、球面収差、コマ収差、像面湾曲或いは歪曲収差をも同時に補正するためには、上記のごとき結合された空気室及び第4の空気室に加えて、さらに別途に圧力制御し得る空気室を設けることとすればよい。すなわち、光学諸性能のうち3つの性能を同時に補正するためには、3個の互いに独立した圧力制御空間を設ければよい。そして、一般には、補正しようとする光学諸性能の数に等しい数の圧力制御空間を独立に設ければよい。」と記載され、「投影光学系の光路中に独立に気圧を制御できる空間が少なくとも2ケ以上存在すれば、投影倍率と結像面位置の両方の変化を制御できる。この時、投影レンズ中のレンズエレメントを光軸方向に動かしたり、レチクルと投影レンズの間隔を変化させたりする手法を援用すれば気圧制御する空間は必ずしも2ケ以上必要としない。」と記載されている。してみると刊行物2は倍率及び像面に加えて、他の光学性能、例えば、球面収差、コマ収差、像面湾曲或いは歪曲収差をも同時に補正するために、光学諸性能のうち複数の性能を同時に補正するためには、補正の対象と同じ数の互いに独立した制御部を設ければよく、制御部としては圧力制御空間、光軸方向に移動する投影レンズ中のレンズエレメント、レチクルと投影レンズの間隔を選択できることを教示している。
従って、引用発明において、調整の対象(投影倍率と投影歪み(歪曲収差))を独立に調整可能とするため、調整のための制御部として調整の対象の数に等しい制御部を設けて、これら制御部を調整手段とすることは当業者が容易に想到できた事項である。なお、前述したように、調整手段とする制御部は、引用発明においては本件発明と同様に、レチクル5と投影レンズ6の主平面6aとの間隔L、投影レンズ6を構成する光学部品(レンズ)間の距離とすることが示されている。
以上のことから、引用発明の調整の対象である投影倍率と歪曲収差とを独立に調整可能とすることは当業者が容易に想到できた事項である。

また、本件発明の[相違点1]及び[相違点2]の構成によりもたらされる効果は、刊行物1、2の記載から予測される範囲のものである。
よって、本件発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

《3-6》むすび
以上のとおり、本件の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-02-16 
出願番号 特願昭63-234096
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (G02B)
P 1 651・ 841- ZB (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 瀬川 勝久後藤 亮治  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 高橋 三成
辻 徹二
登録日 1999-07-23 
登録番号 特許第2956903号(P2956903)
権利者 キヤノン株式会社
発明の名称 投影装置  
代理人 高梨 幸雄  
代理人 渡辺 隆男  

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