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審決分類 審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) G01P
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) G01P
管理番号 1038439
審判番号 審判1998-35338  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-01-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-07-22 
確定日 2000-12-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第2562003号発明「軸受組立体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2562003号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1,手続の経緯
本件特許第2562003号に係る発明の特許は、その出願が昭和62年5月28日を原出願日とする実願昭62-80001号を、平成6年2月18日に特願平6-21193号として特許出願に変更したものであって、平成8年9月19日付けで設定の登録があり、平成10年7月22日に無効審判の請求があり、審判請求書を被請求人に送付したところ、平成10年11月2日付けで答弁書及び訂正請求書が提出され、請求人に答弁書及び訂正請求書を送付したところ、平成11年1月14日付けで弁ぱく書が提出され、平成11年4月1日付けで訂正拒絶理由書を被請求人に通知したところ、平成11年6月21日付けで意見書及び訂正請求書の手続補正書が提出された。
2,特許無効の理由の概要
本件特許発明は、甲第1号証(実願昭60-35292号(実開昭61-152971号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(「Automotive Engineering、Annual Congress Issue」1987年2月発行、The Engineering Society For Advancing Mobility Land Sea Air and Space、「Plug into the NDH ABS Inte-」の項及び「Sensor Wheel Bearing System」の項(請求人付記(A)(B)参照)、昭和62年3月16日国立国会図書館受け入れ)、甲第3号証(実願昭58-183680号(実開昭60-92172号)のマイクロフィルム)、甲第4号証(実願昭60-167559号(実開昭62-76665号)のマイクロフィルム)及び甲第5号証(実願昭60-35293号(実開昭6I-152972号)のマイクロフィルム)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、本件特許は特許法第123条第1項第1号の規定により無効となるものである。
3,訂正請求書の補正の概要
平成11年6月21日付けでした手続補正書による訂正請求書の補正の概要は以下の通りである。
補正事項a
訂正明細書の特許請求の範囲に記載された「該センサは、前記カバーに取り付けられ、前記ナット部材の外周面と前記カバーの内周面とにより形成された半径方向の空間内に配置されており、かつ前記カバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する」を「該センサは、前記カバーの軸方向端部に取り付けられ、該端部から前記ナット部材の外周面と前記カバーの内周面とにより形成された半径方向の空間内に達する位置にまで軸方向に亙って配置されており、かつ前記センサ全体がカバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する」と訂正する。
補正事項b
訂正明細書の[0010]段落、[問題点を解決するための手段、作用]の項の15行〜18行に記載された「該センサ(70)は、前記カバー(60)に取り付けられ、前記ナット部材(50,80,96)の外周面と前記カバー(60)の内周面とにより形成された半径方向の空間内に配置されており、かつ前記カバー(60)の最大内径よりも半径方向内方に位置する」を「該センサ(70)は、前記カバー(60)の軸方向端部に取り付けられ、該端部から前記ナット部材(50,80,96)の外周面と前記カバー(60)の内周面とにより形成された半径方向の空間内に達する位置にまで軸方向に亙って配置されており、かつ前記センサ(70)全体がカバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する」と訂正する。
補正事項c
訂正明細書の[0011]段落の5行に記載された「一方前記センサー(70)が」を「一方前記センサー(70)全体を」と訂正する。
なお、上記アンダーラインは、手続補正書により補正された箇所を示す。
4,訂正明細書の補正についての判断
補正事項aのうち、「該センサは、前記カバーの軸方向端部に取り付けられ」の記載について検討する。
訂正明細書の当該箇所に「該センサは、前記カバーに取り付けられ」と記載していることは、上記したとおりである。
そして、訂正明細書にはセンサの取付状態について下記の記載がある。
記載A
「該センサ(70)は、前記カバー(60)に取り付けられ」([0010]段落の15行)
記載B
「このようにセンサ(70)が前記カバー(60)に取り付けられ、」([0011]段落の1行〜2行)
記載C
「カバー60は円筒部62と、その一方の開口をふさぐ底部64とから成り、・・・円筒部62の一部が半径方向外方に屈曲して屈曲部64となっており、そこにピックアップ式のセンサ70が取り付けられ、」([0015]段落の1行〜5行)
記載D
「これに対向してセンサ70がカバー60に取り付けられている。」([0021]段落の2行)
訂正明細書の上記当該箇所、記載A、記載B及び記載Dには、センサがカバーに取り付けられた点が記載されているのみで、その部位が「軸方向端部」とは記載していない。
次に記載Cについてみると、カバーは円筒部とその一方の開口をふさぐ底部から成っており、ピックアップセンサは、底部に取り付けられているのではなく、円筒部の一部が半径方向に屈曲した屈曲部に取り付けられていることが明らかである。
また、図面第1図乃至図面第3図において、センサ70がカバー60の底部を貫通するように記載されているにしても、センサ70がカバーの「軸方向端部」に取り付けられているとまで認識することができない。
よって、補正事項aにおける「該センサは、前記カバーの軸方向端部に取り付けられ」の補正は、訂正明細書又は図面の記載から直接的かつ一義的に把握することができないから、訂正明細書又は図面の記載事項の範囲内の補正とは認められず、かかる補正を含む訂正請求書の補正は、訂正請求書の要旨を変更するものであり、特許法第131条第2項の規定に違反するものであるから、これを認めることができない。
5,訂正請求書による訂正の概要
上記手続補正書による訂正請求書の補正が認められないこととなったので、平成10年11月2日付け訂正請求書に添付した訂正明細書に基づいて検討する。
訂正請求書により請求された特許明細書の訂正事項は以下の通りである。
訂正事項イ
特許明細書の特許請求の範囲の「該ナット部材の周囲を取り巻くようにして前記外輪に取り付けられたカバーと、」の記載を、「該ナット部材の周囲を取り巻くようにして前記外輪に取り付けられ、該外輪の端部開口をふさぐカバーと、」に訂正する。
訂正事項ロ
特許明細書の[0001]段落、[産業上の利用分野]の第1行の「特に外輪」を「特に内輪」と訂正する。
訂正事項ハ
特許明細書の[0010]段落、[問題点を解決するための手段、作用]の第9行〜10行の「該ナット部材(50,80,96)の周囲を取り巻くようにして前記外輪に取り付けられたカバー(60)と、」の記載を「該ナット部材(50,80,96)の周囲を取り巻くようにして前記外輪に取り付けられ、該外輪の端部開口をふさぐカバー(60)と、」と訂正する。
訂正事項ニ
特許明細書の[0015]段落の第1行〜第4行の「カバー60は円筒部62と、その一方の開口をふさぐ底部64とから成り、円筒部62の一端縁を外輪30の一端縁の内周面に係止することにより、外輪30に取り付けられている。」を、
「カバー60は円筒部62と、その一方の開口をふさぐ底部64とから成り、円筒部62の一端縁を外輪30の一端縁の内周面に係止することにより、外輪30に取り付けられ、該外輪30の端部開口をふさいでいる。」と訂正する。
なお、上記アンダーラインは訂正された箇所である。
6,訂正拒絶理由通知の概容
平成11年4月11日付けでした訂正拒絶理由通知書の理由の概要は、訂正請求により訂正された本件発明は、刊行物1(実願昭60-35292号(実開昭61-152971号)のマイクロフィルム(甲第1号証参照))及び刊行物2(「Automotive Engineering、 Annual Congress Issue」1987年2月発行、The Engineering Society For Advancing Mobility Land Sea Air and Space、「Plug into the NDH ABS Inte-」の項及び「Sensor Wheel Bearing System」の項(請求人付記(A)(B)参照)(甲第2号証参照))に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、特許法第134条第5項の規定により準用する特許法第126条第4項の規定に違反し、認容することができない、というものである。
7,訂正に対する当審の判断
7-1,本件発明
本件訂正請求により、本件発明は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載された下記の事項を要旨とするものと認める。
「軸受組立体において、車体に取り付けられる外輪と、車輪が取り付けられる円筒状のハブと、該ハブの周囲に設けられた内輪と、該外輪と該内輪との間に配置され、該外輪に対して該内輪を回転自在に支持する複数の転動部材と、前記内輪を前記ハブに固定して一体的に回転するように、前記ハブに螺合されるナット部材と、該ナット部材の周囲を取り巻くようにして前記外輪に取り付けられ、該外輪の端部開口をふさぐカバーと、該ハブと一体的に回転するパルサーと、該パルサーに近接配置され、該パルサーの回転数を検出するためのセンサーとからなり、該センサは、前記カバーに取り付けられ、前記ナット部材の外周面と前記カバーの内周面とにより形成された半径方向の空間内に配置されており、かつ前記カバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する軸受組立体。」
7-2,刊行物の記載事項
上記訂正拒絶理由通知書において引用した刊行物1(実願昭60-35292号(実開昭61-152971号)のマイクロフィルム(甲第1号証))及び刊行物2(「Automotive Engineering、Annual Congress Issue」1987年2月発行、The Engineering Society For Advancing Mobility Land Sea Air and Space、「Plug into the NDH ABS Inte-」の項及び「Sensor Wheel Bearing System」の項(請求人付記(A)(B)参照)(甲第2号証))には、それぞれ下記の事項が記載されている。
刊行物1について
「しかしながら、この従来装置においては、センサロータの形状が大きくかつその構造が複雑であるため、製造コストが高くかつ取付けスペースが大きいという問題点があった。この考案は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、形状が小さくかつ構造が簡単で、製造コストが安く取付けスペースの小さい車輪回転速度検出装置のセンサロータを提供することを目的とするものである。」(第2頁16行〜第3頁4行)
「このアクスルハウジング4にベアリング5を介して車軸6が装着され、車軸6の先端に形成されたねじ部6aにナットをも兼ねるセンサロータ7がねじ込まれて、ベアリング5と車軸6とが締付け固定され、さらに、車軸6にブレーキディスク8及び車輪(図示しない)が固定される。9はキャップである。センサロータ7は、ナット部7aとワッシャ部7bとを一体に成形したものであり、さらに、ワッシャ部7bの外周上に、好ましくは等間隔で多数の溝を形成して、凹凸7cを形成する。そして、車軸6のねじ部6aにねじ込まれたセンサロータ7に近接した位置で、アクスルハウジング4にピックアップセンサ10が固定され、ピックアップセンサ10の感知部11がセンサロータ7のワッシャ部7bの外周上に形成された凹凸7cに臨むように配置される。この車輪回転速度検出装置のセンサロータの作用を説明すると、アクスルハウジング4にベアリング5を介して車軸6を装着し、車軸6のねじ部6aにセンサロータ7をねじ込むことにより、アクスルハウジング4に対して車輪とともに車軸6が回転自在に固定されるとともに、センサロータ7も車軸とともに回転する。車両の走行とともに車輪が回転し、車軸6及びセンサロータ7が回転すると、アクスルハウジング4に固定されたピックアップセンサ10の感知部11によって、センサロータ7のワッシャ部7b外周上の凹凸7cが電磁誘導的に感知され、ピックアップセンサ10から車輪の回転速度に応じた周波数のパルス信号が得られる。」(第4頁10行〜第5頁末行)
そして、図面第1図、第2図を参照すると、ベアリング5は、アクスルハウジング4に取り付けられた外輪と車軸6に固定された内輪との間に複数の転動部材を介しており、キャップ9はアクスルハウジング4の開口部を覆っている。
そして、ピックアップセンサ10がセンサロータ7とアクスルハウジング4の内周面とにより形成された空間内に配置されていることも、自明である。
以上を整理すると、刊行物1には下記の事項が記載されている。
「車体にアクスルハウジング4を介し取り付けられる外輪と、車輪が取り付けられる車軸6と、車軸6の周囲に設けられた内輪と、該外輪と内輪との間に配置され、該外輪に対して該内輪を回転自在に支持する複数の転動部材と、前記内輪を前記車軸6に固定して一体的に回転するように、前記車軸6に螺合され、ナットを兼ねるセンサロータと、アクスルハウジングの開口部を覆うキャップ9と、車軸6と一体に回転するセンサロータの凹凸7cと、凹凸7cに臨むように配置され、回転数を検出するためのピックアップセンサ10の感知部11とからなり、ピックアップセンサ10は、アクスルハウジング4に固定され、センサロータ7の外周面とアクスルハウジングの内周面とにより形成された半径方向の空間に配置されている車輪回転速度検出装置。」
刊行物2について
「NDH装置の利点。この新しいNDHのABS一体センサー車輪軸受け装置が、現在、利用できるようになった。駆動輪用軸受装置のためのものと、被駆動輪用軸受装置のためのものとが有る。この新しいNDHのABS一体センサー車輪軸受装置は、車輪の速度検知技術にいくつかの重要な利点を与えるものである。」(A)頁(請求人付記)
「利点#2:信頼性
被駆動装置の場合、センサーは密封された保護包囲部材の内側に取付けられる。この装置は、軸受の寿命の間、クリーンなままであって取付けが狂うことが全くなくて、傑出した信頼性を与える。駆動装置の場合には、この一体センサーは、設計上の要求に応じて、内部または外部に取付けられる。
利点#3:大きさと重量の減少
このNDHのABS一体センサー車輪軸受装置は、当社のセンサーのない一体車輪軸受装置と実質的に同じスペースを占め、そして、重量は、従来のセンサーが取付けられた軸受装置よりも著しく小さい。
利点#4:取付けの容易さ
このNDHのABS一体センサー車輪軸受装置は、あなたのABS装置に全くうまく嵌まり込む。較正や調整を必要としない。これより簡単なものが有るだろうか。
利点#5:コスト効果このNDHのABS一体センサー車輪軸受アッセンブリ全体のコストは、別の外側センサーを持った軸受装置のコストと競争できる。」(B)頁(請求人付記)
そして、(A)頁の図によれば、NDHシステムにおいて、フランジを有する環状突起にカバー8が取り付けられ、カバー8の偏心した軸方向に黒い矩形状の部品があり、その部品のプラグに向けてコードの端子を向けている点が記載されている。
(B)頁の「利点#2」下の図面にはカバー8の左上方向にリング11が記載され、該リング11にはその軸方向端面に沿って凹凸が形成されている。
次に(B)頁の「利点#4」下の図面によれば、リング11の凹凸に面する部分に、矩形状の部品とともに突起が記載されており、上記リング11がパルサーに相当し、矩形状の部品の突起がセンサーに相当することは自明である。
そして上記(A)頁の図面及び「利点#2」下の図面を参照した上で「利点#4」下の図面をみれば、センサーがパルサーの端面とカバー内周面とにより形成された空間に配置され、かつカバーの最大内径よりも半径方向内方に位置すること、及び、外輪と、内輪3の端部に接して車軸2に環状の溝が形成され、該溝に設置される環状の部材6と、該環状の部材及びリング11を囲むようにして外輪に取り付けられ該外輪の端部開口をふさぐカバーが存在することは明らかである。
また、内輪3の端部に接して車軸2に環状の溝が形成され、該溝に環状の部材6が認められるが、該部材の技術的意義については、請求人が弁ぱく書において引用した実開昭61-113103号公報(参考文献1)の第6図、実開昭59-179106号公報(参考文献2)の止め輪33、特開昭49-88201号公報(参考文献3)のストップリング、特開昭57-80904号公報(参考文献4)のリング35、特開昭61-96218号公報(参考文献5)の板ばね5の記載からみて、前記環状の部材6は車軸2に固定され、内輪3を車軸に固定して一体的に固定する機能を有するものと認める。 (ただし、部材に付された番号は、請求人の付記による。)
以上を整理すると、刊行物2には下記の事項が記載されている。
「車体に取り付けられた外輪と、内輪3を車軸2に固定して一体的に回転するように、車軸に固定される環状の部材と、該環状の部材及びパルサーを囲むようにして外輪に取り付けられ、該外輪の端部開口をふさぐカバーと、ハブと一体的に回転するパルサーと、パルサーに近接配置され、該パルサーの回転数を検出するためのセンサーとからなり、該センサは、前記カバーに取り付けられ、パルサーの端面と前記カバーの内周面とにより形成された空間内に配置されており、かつ前記カバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する軸受組立体。」
7-3,本件発明と刊行物1記載の発明との対比
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1の「車輪回転速度検出装置」が軸受組立体であることは明らかである。
そして、刊行物1の「車軸6」、「ナットを兼ねるセンサロータ」、「キャップ9」、「センサロ一夕の凹凸7c」及び「ピックアップセンサ10」は、本件発明の「ハブ」、「ナット部材」、「カバー」、「パルサー」及び「センサ」に相当するから、本件発明は刊行物1に記載の発明と下記のとおりの一致点及び相違点を有する。
一致点
軸受組立体において、車体側に取り付けられる外輪と、車輪が取り付けられる円筒状のハブと、該ハブの周囲に設けられた内輪と、該外輪と内輪との間に配置され、該外輪に対して該内輪を回転自在に支持する複数の転動部材と、前記内輪をハブに固定して一体的に回転するように、前記ハブに螺合されるナット部材と、外輪の端部開口側をふさぐカバーと、該ハブと一体的に回転するパルサーと、該パルサーに近接配置され、該パルサーの回転数を検出するためのセンサーとからなる軸受組立体。
相違点1
本件発明は、外輪が車体に取り付けられ、カバーがナット部材の周囲を取り巻くようにして前記外輪に取り付けられ、該外輪の端部開口をふさぐのに対し、刊行物1記載の発明は、外輪がアクスルハウジングを介し車体に取り付けられ、キャップ9がアクスルハウジングの開口部を覆う点。
相違点2
本件発明は、「センサは、カバーに取り付けられ、ナット部材の外周面と前記カバーの内周面とにより形成された半径方向の空間内に配置されており、かつ前記カバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する」ものであるのに対し、刊行物1に記載のセンサは、アクスルハウジングに固定され、センサロータの外周面とアクスルハウジングの内周面とにより形成された半径方向の空間に配置されている点。
7-4,相違点の判断
(1)相違点1について
刊行物2には「車体に取り付ける外輪と、環状の部材及びパルサーを囲むようにして外輪に取り付けられ、該外輪の端部開口をふさぐカバーを有する軸受組立体。」が記載されている。
そして、刊行物2の環状の部材及びパルサーは、刊行物1のセンサロータと機能からみて共通するものであるから、刊行物1のキャップを、刊行物2のカバーの如くセンサロータの周囲を取り巻くようにして外輪に取り付け、外輪の端部開口をふさぐようにし、本件発明の如くすることは、刊行物1に記載の発明に刊行物2に記載の発明を適用することにより、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
(2)相違点2について
刊行物2には「センサは、カバーに取り付けられ、パルサーの端面と前記カバーの内周面とにより形成された空間内に配置されており、かつ前記カバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する」点が記載されている。
センサのカバー内の空間的配置が、本件発明は「ナット部材の外周面とカバーの内周面とにより形成された半径方向の空間」としているのに対し、刊行物2に記載のセンサは「パルサーの端面とカバーの内周面とにより形成された空間」となっている。
しかしながら、刊行物1及び刊行物2に記載の発明は、いずれも装置のコンパクト化を技術的課題とするものであって、しかも刊行物1に記載のピックアップセンサ10はアクスルハウジング4とセンサロータ7の間の半径方向空間に配置されていることが明らかである。
かかる空間的配置が刊行物1に記載されている以上、刊行物2のセンサのカバー内の空間的配置を車軸方向から半径方向にし本件発明の如くすることは、刊行物1に記載の発明に刊行物2に記載のセンサを適用するに際し、当業者が適宜なしうる設計的事項に過ぎない。
よって、相違点2は、刊行物1に記載の発明に刊行物2を適用するに際し、上記設計的事項を勘案することにより、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
そして、本件発明の作用効果は、刊行物1及び刊行物2の記載事項に基いて当業者が予測しうる程度のものにすぎない。
7-5,本件訂正についての結論
以上検討したとおり、本件発明は、刊行物1及び刊行物2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、その特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、特許法第134条第5項の規定により準用する特許法第126条第4項の規定に違反し、認容することができない。
8,無効理由の検討
8-1,本件発明
上記訂正請求書による上記訂正が認容されなかったため、本件発明は、特許明細書又は図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された下記の事項を要旨とするものと認める。
「軸受組立体において、車体に取り付けられる外輪と、車輪が取り付けられる円筒状のハブと、該ハブの周囲に設けられた内輪と、該外輪と該内輪との間に配置され、該外輪に対して該内輪を回転自在に支持する複数の転動部材と、前記内輪を前記ハブに固定して一体的に回転するように、前記ハブに螺合されるナット部材と、該ナット部材の周囲を取り巻くようにして前記外輪に取り付けられたカバーと、該ハブと一体的に回転するパルサーと、該パルサーに近接配置され、該パルサーの回転数を検出するためのセンサーとからなり、該センサは、前記カバーに取り付けられ、前記ナット部材の外周面と前記カバーの内周面とにより形成された半径方向の空間内に配置されており、かつ前記カバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する軸受組立体。」
8-2,無効理由に対する当審の判断
本件発明は、上記訂正明細書に係る発明のうちカバーについて「該外輪の端部開口をふさぐ」の構成を削除したものに相当する。
そして、上記「7,訂正に対する当審の判断」で証拠として用いた刊行物1及び刊行物2は、請求人が無効理由で引用した甲第1号証及び甲第2号証と同じである。
上記7,訂正に対する当審の判断における刊行物1及び刊行物2を甲第1号証及び甲第2号証と読み替えた上で「7-1,刊行物の記載事項」に基づき検討するに、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と下記の一致点及び相違点を有する。
一致点
軸受組立体において、車体側に取り付けられる外輪と、車輪が取り付けられる円筒状のハブと、該ハブの周囲に設けられた内輪と、該外輪と内輪との間に配置され、該外輪に対して該内輪を回転自在に支持する複数の転動部材と、前記内輪をハブに固定して一体的に回転するように、前記ハブに螺合されるナット部材と、カバーと、該ハブと一体的に回転するパルサーと、該パルサーに近接配置され、該パルサーの回転数を検出するためのセンサーとからなる軸受組立体。
相違点1
本件発明は、外輪が車体に取り付けられ、カバーがナット部材の周囲を取り巻くようにして外輪に取り付けられるのに対し、甲第1号証に記載の発明は、外輪がアクスルハウジングを介し車体に取り付けられ、キャップ9がアクスルハウジングの開口部を覆う点。
相違点2
本件発明は、「センサは、カバーに取り付けられ、ナット部材の外周面と前記カバーの内周面とにより形成された半径方向の空間内に配置されており、かつ前記カバーの最大内径よりも半径方向内方に位置する」ものであるのに対し、甲第1号証に記載のセンサは、アクスルハウジングに固定され、センサロータの外周面とアクスルハウジングの内周面とにより形成された半径方向の空間に配置されている点。
相違点の判断
(1)相違点1について
甲第2号証には「車体に取り付ける外輪と、環状の部材及びパルサーを囲むようにして外輪に取り付けられたカバーを有する軸受組立体。」が記載されている。
そして、甲第2号証の環状の部材及びパルサーは、甲第1号証のセンサロータと機能からみて共通するものであるから、甲第1号証のキャップを、甲第2号証のカバーの如くセンサロータの周囲を取り巻くようにして外輪に取り付け、本件発明の如くすることは、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証に記載の発明を適用することにより、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
(2)相違点2について
上記相違点2は、上記「7-3,本件発明と刊行物1記載の発明との対比」における相違点2と同じであるから、上記「7-4,相違点の判断」の「(2)相違点2について」と同じ理由により、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
そして、本件発明の作用効果は、甲第1号証及び甲第2号証の記載事項に基いて当業者が予測しうる程度のものにすぎない。
よって、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
8-3,むすび
したがって、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-07-14 
結審通知日 1999-07-27 
審決日 1999-08-06 
出願番号 特願平6-21193
審決分類 P 1 112・ 856- ZB (G01P)
P 1 112・ 121- ZB (G01P)
最終処分 成立  
特許庁審判長 高瀬 浩一
特許庁審判官 森 雅之
島田 信一
登録日 1996-09-19 
登録番号 特許第2562003号(P2562003)
発明の名称 軸受組立体  
代理人 小山 欽造  
代理人 小山 武男  
代理人 山崎 宏  
代理人 青山 葆  

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