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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01S
管理番号 1038454
審判番号 不服2000-13824  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-03-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-08-31 
確定日 2001-05-21 
事件の表示 平成 8年特許願第220857号「変調器集積半導体レーザ」拒絶査定に対する審判事件〔平成10年 3月 6日出願公開、特開平10- 65275、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1,本願発明
本願は、平成8年8月22日の出願であって、その請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】半導体レーザと光変調器とが突き合わせ結合により集積化された変調器集積半導体レーザにおいて、前記変調器の一部であって、前記突き合わせ結合部近傍のエネルギーギャップが狭くなった光吸収層に、電流を注入する手段を有することを特徴とする変調器集積半導体レーザ。」

2,引用例記載の発明
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された、この出願前頒布された刊行物1;特開平4-100291号公報(以下、「引用例1」という。)には、
「第5図は従来の外部変調器付分布帰還型レーザを説明するための断面図で、1a、1bは半導体基板、6aはレーザ領域の多重量子井戸構造、6bは変調器領域の多重量子井戸構造、7a、7bは導波層、10はクラッド層、8は回折格子、11はコンタクト層、15は保護膜、16はp電極、17はn電極、19はエッチングストップ層を表す。・・・まず、レーザ領域の多重量子井戸構造6aの積層を、MOVPE法またはMBE法で全面に成長する。その構成は、例えば次の如くである。
InGaAsP(波長1.3μm)80Å 5層
InGaAs 80Å 4層
次に、変調器領域に形成されているこの積層をエッチングにより除去し、レーザ領域をマスクして変調器領域に多重量子井戸構造6bをMOVPE法またはMBE法で成長する。その構成は、例えば次の如くである。
InGaAsP(波長1.3μm)80Å 5層
InGaAs 60Å 4層
・・・変調器領域の多重量子井戸構造6bの量子準位間のエネルギーギャップEg2はレーザ領域の多重量子井戸構造6aのエネルギーギャップEg1より大きくなっている。そして、変調器領域に電圧を印加した時、変調器領域の多重量子井戸構造6bのエネルギーギャップがレーザー領域の多重量子井戸構造6aのそれと等しくなるように調節される。ところが、レーザ領域の多重量子井戸構造6aと変調器領域の多重量子井戸構造6bは独立に形成するので、波長を合わせるために、また光結合を良くするためには、製造過程で厳密な制御が必要となり、歩留まりが落ちるという問題がある。」(2頁左下欄下から5行〜3頁左上欄18行)と記載されている。

同じく、刊行物2;特開平5-291695号公報(以下「引用例2」という。)には、
「【0002】
【従来の技術】半導体レーザ、光変調器、光スイッチ、光検出器、光増幅器等の半導体光機能素子を同一半導体基板上に集積化する方法として、図1に示すように、有機金属気相成長による選択成長を用いて異なる井戸幅の多重量子井戸構造1、2を一括形成することにより基板面内でのバンドギャップエネルギーを位置的に制御する方法が提案されている。この集積法によれば素子結合部3がテーパー状であるため光散乱が全く起こらず、集積素子間の高い光結合効率が期待できる。しかしこの場合、マスク形状を最適化した場合においても最終的に素子間には成長材料の基板上拡散長(30〜50μm)程度のバンドギャップエネルギーの遷移領域が残留する。遷移領域での光吸収は無視できない程大きく、このため光集積素子の光出力低下等素子性能が大きく劣化する。・・・
【0005】
・・・パターニング幅に応じて成長層厚、組成の異なった混晶半導体層6、7が自動的に形成される。図で混晶半導体層6のバンドギャップエネルギーは混晶半導体層7よりも小さくなるように設計されている。図3Bは本構造の光軸方向の断面図である。混晶半導体層6、7は同一の結晶成長で形成されているため2領域の結合は滑らかであり、従来の再成長集積素子に比べ結合部での光散乱が損失が著しく低減される。しかし、混晶半導体層6、7の間にはバンドギャップエネルギーが漸次的に変化する遷移領域8が同時に形成される。図4Aは低バンドギャップエネルギーである混晶半導体層6を発光素子、高バンドギャップエネルギーである混晶半導体層7を受動素子とした場合である。前述したようにこの場合、遷移領域8での光吸収が大きく光出力の低下等、素子特性が大きく劣化する。そこで、遷移領域8の上部に電極9を新たに形成してこの部分に電流注入することにより光利得を発生しこの光吸収を補償することができる。・・・
【0007】実施例1
図6において、n-InP基板12上に半導体基板が露出した領域(目開き領域)が光導波路方向に、回折格子13が形成されている領域と形成されていない領域とで異なっているようなSiO2、SiNX等の絶縁物からなるパターニングマスク14を形成する。次に、このパターニング基板上に・・・四元導波路層15、・・・四元活性層16、およびp-InPクラッド層17を順次、有機金属気相成長法で結晶成長する。この際、目開き領域に成長される四元結晶の組成はパターニングマスクの目開き領域長によって変化する。図4から2領域の目開き長を制御する公知の方法から利得ピーク波長をそれぞれ1.55μm、1.42μmに設定する。本構造を、それぞれ分布帰還型レーザ、光変調器として用いる。このようにして各半導体層を形成した後、更に埋込構造、電流狭窄構造を公知の方法により形成し、さらにレーザ電極18、変調器電極19、下部電極20を通常の蒸着法等により設ける。この際、レーザ電極18はレーザ、変調器間の遷移領域21にまで延長して形成することによりレーザ駆動時に遷移領域にも電流を注入し光学利得を発生することにより光吸収を補償することが出来る。これにより極めて容易に高出力化が図れるだけでなく、発振モードの安定化や光電流発生による高速応答特性の劣化を低減することが出来る。」と記載されている。
上記によれば、引用例2には、レーザと光変調器間のバンドギャップエネルギー遷移領域による、無視できない程大きい光吸収を補償し、光集積素子の光出力低下等素子性能が大きく劣化するのを防止することを目的とした、
「分布帰還型レーザと光変調器を一括形成し、それらの素子結合部をテーパー状に集積化した半導体光集積素子において、前記レーザ、光変調器間のバンドギャップエネルギーが漸次的に変化する遷移領域に電流を注入するレーザ電極を有する半導体光集積素子」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

3,当審の判断
そこで、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明2とを対比すると、両者の目的が共通し、引用発明2の「分布帰還型レーザ」、「半導体光集積素子」、「遷移領域」、「電流を注入するレーザ電極」は、本願発明の「半導体レーザ」、「変調器集積半導体レーザ」、「半導体レーザと光変調器結合部近傍」、「電流を注入する手段」に相当する。
したがって、両者は、
「半導体レーザと光変調器とが集積化された変調器集積半導体レーザにおいて、前記半導体レーザと光変調器結合部近傍に、電流を注入する手段を有する変調器集積半導体レーザ。」の発明で一致し、下記の点で相違する。
相違点:本願発明は、半導体レーザと光変調器とが突き合わせ結合により集積化され、電流を注入する部分を、前記変調器の一部であって、突き合わせ結合部近傍のエネルギーギャップが狭くなった光吸収層としているのに対し、引用発明2では、半導体レーザと光変調器とが一括形成され、それらの素子結合部がテーパー状に集積化され、電流を注入する部分を、活性層におけるバンドギャップエネルギーが漸次的に変化する遷移領域としている点。
上記相違点につき検討する。
引用例1には、レーザ領域と変調器領域とが突き合わせ結合により集積化された外部変調器付分布帰還型レーザが記載されている。そして、引用例1の第5図には、変調器領域の一部であって、突き合わせ結合部近傍の多重量子井戸が盛り上がったものが図示されているが、明細書にはこの点に関する具体的な説明はなく、まして、前記突き合わせ結合部近傍の多重量子井戸層で光吸収が大きくなるのを解決しようという課題は全く記載されていない。しかも、この種の半導体レーザと光変調器とが突き合わせ結合により集積化された変調器集積半導体レーザにおいて、上記課題が周知であったとすべき証拠もない。
また、引用例2の課題が、前掲の【0002】に記載されているように、分布帰還型レーザと光変調器との素子結合部をテーパー状に集積化したことにより生じたものであるとすれば、引用例2の技術を引用例1に適用することは容易とはいえず、上記相違点の本願発明の構成に想到することは困難である。

4,むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2001-04-19 
出願番号 特願平8-220857
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉山 輝和金高 敏康  
特許庁審判長 青山 待子
特許庁審判官 東森 秀朋
町田 光信
発明の名称 変調器集積半導体レーザ  
代理人 澤井 敬史  

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